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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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傾聴、受容、共感の共感について 医療者は共感力が必要

1.傾聴、受容、共感の共感について  医療の場では、共感では無く、患者さんの病気の情報共有という言葉が適していると思っています。
医療面接の基本として傾聴、受容、共感が挙げられます。傾聴、受容は判りやすいのですが、共感とはどんなことなのか。どうしても感情的な共有なのかと考えがちですが、同情(Sympathy)と共感(Empathy)、この2つの用語は、しばしば同じ意味で使用されますが、両者には重要な違いがあります。共感という日本語の語感で同情に引っ張られる傾向があります。
一般的には、共感(Empathy)には主に3つのタイプがあります。
1)感情的共感:このタイプの共感では、人が他者の感情を共有できるだけでなく、他者をより深く理解することができます。情動的共感とも呼ばれ、感情的共感を得ることで、他者との真の信頼関係が築けるようになります。
2)認知的共感:このタイプの共感は、他者の考え方や感じ方を理解する能力を指します。認知的共感は感情的共感とは異なり、感情移入を必要とせず、他者がそのように考えたり感じたりする理由に重点を置きます。
3)同情的共感:このタイプの共感では、人が他者の感情的な痛みを共有します。

医学用語としては2)認知的共感がいちばん近いと思います。
empathyは患者の内的経験や考え,不安を(感じるというより)理解し,その理解を患者と分かち合い意思疎通できる能力です。このため,empathyの向上は医療者の成長,望ましい治療アウトカムにつながると考えられています。このことが,empathyはより良い医療の提供のために不可欠とされる理由です。
極端なはなし、傾聴、受容、共感のなかで、傾聴、受容は共感のための準備行動とも言えるのかと思います。
2.共感力とは
医学部研修医の時点での志望診療科によって共感力が異なるかについて調査した論文や診療科により共感力が強いか弱いかについての調査論文が出されました。米国では以前に医学部学生の共感力について入学後の縦断的調査があり、入学時には共感力が高いが三年生時には下がるという論文が出されています。
口腔顔面痛の臨床にはまさに共感力の向上が医療者の成長,望ましい治療アウトカムにつながると考えられ、調査してみたいと考えていました。
セミナー中に大塚先生にお願いして実施を検討し始めました。皆さんの協力をおねがしいます。
次の課題は医療従事者の共感力をどうやって高めるかです。
 
12月口腔顔面痛オンラインセミナーではいろいろな話題がありました。
3.トリプタノール出荷調整による問題 他の三環系抗うつ薬への切り替え
痛みに対する三環系抗うつ薬とプレガバリンの作用機序は異なるので、神経障害性疼痛では三環系抗うつ薬からプレガバリンに代えられても、慢性筋痛、痛覚変調性疼痛ではプレガバリンの有効性は示されていないので、三環系抗うつ薬からプレガバリンに切り替えるわけにはいかず、トリプタノール以外の三環系抗うつ薬に切り替えざるを得ない。
他の三環系抗うつ薬に切り替えるには具体的にどのような飲み方を指導すれば良いのか、その前に、他の三環系抗うつ薬はトリプタノールと同様に神経障害性疼痛に有用なのか。
イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)とも神経障害性疼痛に有効という論文がありますが、なぜ神経障害性疼痛に関してトリプタノールとノリトレンの論文だけが多く、トフラニール、アナフラニールの論文は少ないのか、有効性低いからなのかという疑問が残ります。他のブログも参照してください。
 
供覧した症例 まさにRedFlag 左側頬部のしびれの主訴からFacial-onset sensory and motor neuropathy 非常に珍しい疾患であるだけで無く、Facial-onset 顔面発症という点、口腔顔面痛として受診する可能性があり、そこで見逃したら早期発見の機会を逃してしまいます。おそらく秋の日本口腔顔面痛学会で発表されるでしょうから、そこで確認してください。
 
2023年12月18日 14:33

トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて

抗うつ薬
トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて
トリプタノールは世界的に神経障害性疼痛治療法標準薬として長らく使われて来ましたが製造元の不祥事による生産力低下のために出荷量が半減されていて、我々のような小さなクリニックでは入手出来なくなっています、また、処方箋を出しても市中の薬局で薬が受け取れなくなっています。
世界中の神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインの第一選択薬として三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドが挙げられています。この2つの薬は作用機序が全く異なっていて、1)三環系抗うつ薬は下行疼痛抑制系を賦活化して痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています、一方、2)Caチャネルα2δリガンドは1次ニューロンの末端の電位依存性Caチャネルに作用してCa++イオンの流入を抑制することにより、シナップスへの興奮性伝達物質遊離を抑制し痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています。
三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドの鎮痛効果を同一人あるいはグループで比較した研究はないことからどちらがより有効かは明らかではありませんが、作用機序が全く異なることから、患者個人個人によって効果が異なる可能性が高いです。従って、どちらの薬を最初に処方するべきかの明確な指標はありません。
どちらを最初に処方するべきかについては、まず、第一選択薬のなかで使い慣れた薬を選択して処方し、その薬の効果が不十分、あるいは副作用が強い場合は他の第一選択薬に変更するか、副作用の出ない量まで減量して他の第一選択薬と併用する方法が勧められています。
中枢感作に関してはより上位の中枢に作用する三環系抗うつ薬が有効だろうと思っています、また、中枢感作による慢性筋痛に対しても三環系抗うつ薬が適応だろうと思います。
トリプタノールの出荷量半減の話に戻り、トリプタノールあるいはそのゼネリックであるアミトリプチリンが入手出来ない場合、同じ三環系抗うつ薬のなかでトフラニール(イミプラミン、神経障害性疼痛に保険適応外使用が認められている)、アナフラニール(クロミプラミン、保険適応無し)に切り替えることが勧められています。薬理学的には3つの薬に基本的効果(セロトニン再吸収抑制、ノルアドレナリン再吸収抑制)にはほとんど差は無く、同等の効果があると言われています。トリプタノールの副作用と言われる、眠気、口渇、便秘には少し差があるようです。具体的な処方としては、副作用の発現を避けるために、トリプタノールの服用を開始した時と同様に5mgから開始し、漸増する事を勧めています。

追記:アナフラニールに処方してしばらく経過し、患者さんの反応を少し聞くことが出来ました。アナフラニールの眠気はトリプタノールに比べて弱いようです。便秘、口渇は同等か少ないようです。
現在、痛みの世界ではPain(痛み)+Insomnia(不眠)を会わせてPainsomniaという用語が使われています。慢性疼痛では、痛みと不眠の悪循環が形成され、自力改善が困難になっています。
睡眠不足や不眠によって、日中に眠くなります。これは覚醒度がさがるためです。この覚醒度が低下すると痛みを強く感じやすくなり、そしてその疼痛反応の亢進は眠気をとることで回復できることが動物実験で判っています。
睡眠不足による眠気そのものではなく、覚醒度が下がる事により痛みが強く感じるということで、慢性痛の患者さんの多くが夕方に痛みが強くなるのは、この覚醒度の影響ではないかと思います。 
ここに来て、心配なことが一つ、最近、筑波大学の柳沢先生が発見した覚醒度の関わるオレキシンの拮抗薬として、睡眠導入剤としてディエビゴ、ベルソラムが使われていますが、覚醒度をさげることにより、痛みが強くならないかという心配です。これは何かの機会に確認したいと思います。
2023年12月17日 21:35

特発性(Idiopathic)-2 患者個々の様々な症状を言い表した言葉

特発性(Idiopathic)-2 患者個々の様々な症状を言い表した言葉
 
さて、前号に引き続き特発性(idiopathic)の話です。
idiopathicの訳が特発性となり、それが原因不明と理解されているが、私はどうも納得出来ないでいた。そこに痛覚変調性疼痛という概念ができあがり、その繋がりが思い浮かんでいる。
痛覚変調性疼痛は侵害受容系の中枢感作により末梢には明確な原因が無いままに痛みが生じている状況である。痛覚変調性疼痛の診断基準では、1a)慢性である、1b)局所性、多巣性、1c)侵害受容性疼痛ではない、1d)神経障害性疼痛ではないを満たし、4) 誘発性疼痛過敏現象として痛みのある部位で臨床的に下記の症状が誘発されること、以下のいずれかが誘発される。静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 そして、上記のいずれかの評価後に残遺症状が残る(残感覚)こと。この診断基準4)はまさに侵害受容系の中枢感作の結果としての症状である
痛覚変調性疼痛の可能性を高める診断基準として2)(省略)、3)併存疾患として以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題、が含まれている。
脳機能変調の元で侵害受容系が中枢感作されて変調したものが痛覚変調性疼痛であり、同様に脳機能変調によって様々な脳の働き、神経系が変化する可能性があり、人に寄って変調する神経系が違えば、人それぞれに様々な症状を呈することとなる。上記の診断基準3)に従い、音覚変調、光感覚変調、におい感覚変調等が単独、併発して現れる可能性があり、その他に、途中覚醒の睡眠障害、 疲労感の高まり、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題が単独、併発して現れる可能性がある。また、症状によってはこれまで自律神経障害と言われていた症状も自室神経系の脳機能変調が生じた結果とも言えるのではないかと考えている。
一般的に病気は共通症状がはっきりしていて、その症状によって診断する事になるが、脳機能変調による病気の症状は個々によりまちまちとなってしまうために、診断が困難となる。「症状は個々によりまちまち」という部分を捉えた言葉が特発性(Idiopathic)なのではないかと思っている。患者さんによって症状がまちまちで捉えどころが無い、共通症状が原因のはっきりしないと言う特発性(Idiopathic)な集団があり、痛みの場合にはその多くが痛覚変調性疼痛であり、その他にも病名のはっきりしない、自律神経失調などの多くの病気が含まれるのだろうと思う。
特発性は原因不明ではなく、各自に特有の原因、発症メカニズムがあって発症と言う意味、痛覚変調性疼痛はその一つのメカニズムだろうと思う。
2023年11月05日 10:54

特発性-1原因不明の意味に使われるが本当は

特発性は原因不明の意味に使われるが本当は各自に特有の原因と言う意味
 
病気は原因が、その時代で原因が判明しているものと、判明していないものに分類される。この原因不明を表す用語が非常に混乱を招いてきた。特発性を原因不明とすることに非常に不満を感じ、今に至っている。
WHOの最新の病気分類であるICD-11では原因不明を一次性、原因が判っているものを二次性と統一した。
国際頭痛分類(ICHD3)もICD-11の一次性、二次性に従って分類されているが、三叉神経痛の分類はこの原則が適用されていない。かつて、三叉神経痛は真性(原因不明)、仮性(症候性)と分類されていた時期があり、真性、仮性がどの様な状況を意味するのか非常に混乱していた。現在の三叉神経痛の分類は1)典型的三叉神経痛(血管の圧迫による、かつての真性に該当)、2)二次性(血管以外の組織等による圧迫、かつての症候性に該当)、3)特発性(原因不明、かつての真性に該当)となっている。1)典型的三叉神経痛は血管の圧迫により神経に形態的変形が生じている場合であるので、単純に分類すると二次性であるが、血管による圧迫は三叉神経痛の典型的原因と言うことで、二次性とは別な分類になっている。他にこのような例外的な分類があるかどうか知らない。
さて、本論のidiopathicの訳が特発性となり、それが原因不明と理解されているが、私はどうも納得出来ないでいた。そこに痛覚変調性疼痛という概念ができあがり、その繋がりが思い浮かんでいる。
Idiopathicの語源は、ギリシャ語で「自分の」「私的な」を意味し、idioイディオと、病気の影響を暗示する -pathic の結合形である。その他のIdioの結合形のidiographicとは、「具体的、個別的、または独特なものに関する、またはそれを扱う」を意味し、idiolectとは「人生の特定の時期におけるある個人の言語または会話パターン」を意味する、idiotypeは「抗原特異性を与える抗体の分子構造とコンフォメーション」を意味するなどの用語がある。より一般的な慣用語はidiosyncrasy(特異性)であり、最も一般的なのは、人の行動や考え方が普通でないこと、あるいは何かの普通でない部分や特徴を指す。
このようにIdiopathicという用語から特発性は出てくるが、原因不明という意味は出てこなく、意訳過ぎると思われる。
少なくとも、特発性=原因不明ではないと思う。

 
2023年11月04日 15:49

11月18日アジア口腔顔面痛学会シンポジュウム

11月18日アジア口腔顔面痛学会で、2020年に米国科学アカデミーから発行されたTMD完全勧告レポート(TMDレポート)を取り上げて、シンポジュウムを企画しました。
企画の意図は壮大で、TMDレポー発行の目的を勝手に解釈し、今後のOFP発展の目的も設定して、それに向かって若手を向かわせようというものです。私には先頭に立って牽引するほどのエネルギーはありませんので、後方支援か後方から叱咤激励をしようと思っています。
シンポジュウムの発表者に以下の様なメールを送り、当日まで議論を重ね、準備していこうと思っています。

今後のOFPの目標の一つは、WHOが発行したICD-11に包含された慢性痛の一つである、chronic Headache and Orofacial painにしっかりと対応できるOrofacial pain専門医を育成していくことだと確信しています。
今回のシンポジュウムがその工程のスタートポイントになることを希望しています。
シンポジュウムの前半の企画意図は、NASEM TMDレポート11の改善勧告の学会の解説と発行の背景説明です。
NASEM TMDレポート発行の目的を推定するに、私は2つのポイントがあると思っています。
一つはselfLimitingではない慢性化するTMDへの対応体制を整えなければならない事です。
それには関連医科領域との連携が必須です。 関連医科領域との対等な連携にはOFP領域のレベルアップも必要です。

もう一つのポイントは、AADR2010statementで多くのTMDはselfLimitingであるので、まずPhase1として可逆的な治療から始めるべきである。
そして、症状改善したらPhase2の不可逆的治療をしないこととされた。
しかし、最近ではでこの原則がないがしろにされる傾向にあり、Phase1で症状が消失したら、次のステップとして全例Phase2治療を実施するという流れが正当化されてしまっている。
最近ではOFPの発展により、TMDの筋痛、関節痛の治療も進歩し、不可逆的治療は必要なくなっています。
シンポジュウムの後半では、各国のTMD研究、治療の現状と改善点を提示してもらい、慢性化TMD、OFPへの対応体系構築に向けての方策を皆さんで議論したいと思っています。
2023年10月29日 11:32

歯科にも慢性痛がある、誰が診るのか

歯科における痛み治療は、歯髄炎、歯周炎、歯冠周囲炎など細菌感染による急性痛の治療がほとんどです。一方、臨床を行っている多くの人は、原因不明の慢性的な痛みが存在することに気づいています。一般医科の状況をみても慢性痛で通院している人が多いことが判ります。例えば、整形外科です、かつては老人クラブと揶揄される状況で、腰痛、頸、肩こりを抱えた人が朝から整形外科に通院しています。この腰痛、頸、肩のこりは治るのでしょうか。かつて、整形外科では積極的に手術をしていた時代がありましたが、最近は骨の異常か脊柱管の神経が圧迫されていなければ手術の適応にはなりません。慢性痛に対して手術をしても効果が無いことが判って来たからです。従来、世界的に一般医科、歯科に関わらず、慢性痛という概念はなく、どんどん侵襲的な治療をすれば治るだろうという考えで治療を進めていました。
慢性痛で苦しんでいる患者さんは多く、慢性痛への対応の必要性が高まり、WHOが作る国際疾病分類(ICD11)に慢性痛が含まれる事になりました。
国際疾病分類第11版(ICD-11)について解説します。
参考引用文献:森脇 克行, 大下 恭子, 堤 保夫 ICD-11時代のペインクリニック―国際疼痛学会(IASP)慢性疼痛分類に学ぶ 日本ペインクリニック学会誌 28 巻 (2021) 6 号
2022年1月1日に国際疾病分類第11版(ICD-11)が発効されました。ICD-11には,はじめて慢性疼痛の分類コードが加えられる.この分類コードは国際疼痛学会(IASP)のタスクフォースによって開発された慢性疼痛の体系的な分類に基づいている.分類の特徴は慢性疼痛を3カ月以上持続または再発する痛みと定義した上で,慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛に分けたことである.
慢性二次性疼痛は診断で明らかにされている基礎疾患や組織障害による二次的な疼痛であるのに対して、慢性一次性疼痛には基礎疾患や組織障害が明らかでない線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群などの慢性疼痛症候群が含まれる.
慢性1次性疼痛
慢性一次性疼痛のカテゴリーに含まれる代表的な慢性疼痛症候群には,線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群(CRPS)1型がある.“非特異的”慢性腰痛や,過敏性腸症候群,膀胱痛症候群などのいわゆる“機能的”内臓性疼痛障害も慢性一次性疼痛に含まれる.これらの疼痛をもつ患者では,組織障害や炎症などによる二次的な侵害受容器の活性化や神経障害が認められないにもかかわらず,痛みに対する過敏性が存在する.従来,これらの慢性疼痛症候群に対して“非特異的疼痛”,“機能性疼痛”,“身体表現性疼痛”などの用語が用いられてきたが,IASPワーキンググループはこれらの曖昧な用語の使用を避け,慢性一次性疼痛という新しい疼痛カテゴリーを導入した.慢性一次性疼痛は,不安,怒り/欲求不満または気分の落ち込みなどの著しい感情的苦痛や,日常生活活動への障害や社会的役割への参加の減少などの機能障害を伴う,1つまたは複数の解剖学的領域の3カ月以上持続または再発する痛みと定義される.慢性一次性疼痛には生物学的,心理学的,社会的要因が複雑に絡み合っていると考えられている.
慢性一次性疼痛の一部はnociplastic painである可能性が示唆されている.Nociplastic painは新しい疼痛概念で,2016年にKosekらによって提案され,IASPの痛み用語として採用されている.その定義は「末梢侵害受容器の活性化を引き起こす実際のまたはその恐れのある組織損傷の明白な証拠,または痛みを引き起こす体性感覚系の疾患または病変の証拠がないにもかかわらず,侵害受容の変化によって生じる痛み」である.

2.2.4  慢性二次性頭痛および口腔顔面痛 
急性,慢性の頭痛と口腔顔面の疼痛は世界人口の4分の1以上の人々の生活の質を著しく低下させているが,その診療は医科と歯科の複数の領域が担っている.ICD-11分類のために,IASPの専門グループ,国際頭痛学会(HIS),歯科領域学会などの関連学会とWHOが協力して慢性頭痛および口腔顔面痛の分類が行われた.この部位の慢性疼痛の時間的な診断基準は「3カ月間に少なくとも50%の日に発生し1日2時間以上持続する頭痛または口腔顔面痛」である.この領域の慢性疼痛も一次性と二次性の疼痛に分けられる.一次性の痛みには,上述(2.1.2.3項)したように慢性片頭痛,慢性緊張型頭痛や痛みを伴う顎関節症,非定型顔面痛などが含まれる.これに対して,慢性二次性頭痛または口腔顔面痛は,痛みを生じる局所性または全身性疾患,外傷,感染症などの科学的に因果関係が明白な原因が存在する場合の痛みで痛みの原因によって11に細分類される.
口腔顔面痛領域の慢性痛は誰が対応するべきか
慢性一次性、二次性頭痛または口腔顔面痛の中で口腔顔面痛への対応は口腔顔面痛専門医が担う事になるであろう。従来から、歯や歯周組織の急性痛は一般歯科あるいは歯内療法科、歯周病科、あるいは口腔外科で対応してきたが、慢性痛、特に慢性一次性疼痛への対応は急性痛への対応と全く異なるものである。局所の感染状況、炎症症状に注目して、その除去、改善を目的に治療してきた急性痛治療に対して、慢性痛治療は大きく異なって、局所症状に対応するだけではなく、Biopshychosocialといった考え方で、患者に全人的対応をすることが求められる。このような対応が出来るのは口腔顔面痛専門医のみであるし、口腔顔面痛専門医知識、治療法の更なる向上が望まれる。


 

2023年10月09日 16:09

TMDの改善勧告レポート2

NASEM Study Reportと言われるTMDの改善勧告レポートには11個の改善勧告が挙げられている。

1-4)最初の4つの勧告は、国家研究コンソーシアムの設立、基礎研究とトランスレーショナル研究、公衆衛生研究、疾病負担の優先順位の設定、臨床研究の強化に焦点を当てている。4つの優先事項すべてが、患者中心のケアを改善するための基礎となる。これを受けて, NIHと国立歯科・頭蓋顔面研究所 (NIDCR) は, NASEM報告書と勧告をレビューし,この分野の研究努力をより良く支援するNIHの戦略を開発するために,顎関節症疾患多重協議ワーキンググループを設立した。 このグループの作業は進行中です。
MDEpiNet 患者主導円卓会議は、NASEM報告書と一致する研究計画を策定した。患者主導のイニシアティブで, TMJ協会(TMJA)のメンバーは顎関節 (TMJ) 研究のための追加資金を求めている。
 
5.6)勧告事項5および6は、疾患リスク評価および層別化の改善、診断、ならびに臨床診療ガイドラインおよびケアの測定基準の普及を通じて、TMD患者に対するケアの質を改善することを目的としている。
FDAおよびMDEpiNet Initiativeの現在の焦点は、Coordinated Registry Network (CRN) です。このネットワークは、連携した複数の登録データから患者の健康状態とケアに関する現実世界のエビデンスデータを収集し、医療に関する意思決定や承認された機器やその他の治療法の市販後モニタリングに使用します。TMJインプラントを受けた患者のニーズを促進するものとして、TMJAはTMJ患者主導円卓会議 (RT) を設立しました。
これは、連邦政府、科学者、臨床医、歯科医、アドボケート (支援者) 、製造業者などによる、患者を中心とした官民初の共同研究です。Coordinated Registry Network (CRN)の一部となるTMDの患者主導登録は、様々なTMD治療のリスク評価を決定するために使用される大規模なデータセットを提供し、TMD障害に苦しむ患者のケアのための臨床ガイドラインを確立することによって、勧告事項5および6に関わっている。
 
7)勧告7では、TMDの予防的治療と評価、治療、管理へのアクセスの改善に焦点が当てられている。これらの勧告は、他の勧告の結果が出るまで、より長期的な方法で対処される。
 
8-10)勧告8-10では、TMD患者の治療の改善が中心となっており、 「TMDおよび口腔顔面疼痛治療の中核拠点施設」 (勧告8) 、専門的学校教育の改善 (勧告9) 、医療提供者に対する専門的生涯教育の拡大 (勧告10) を提案している。歯科教育を改善するために, TMJAと米国口腔顔面疼痛学会 (AAOP) は, TMJが歯科大学教育カリキュラムに含まれなければならないと歯科認定委員会 (CODA) に勧告した。この勧告は承認され、2022年に実施される予定であり、その結果、TMJAとAAOPはTMDの博士課程前期課程のカリキュラム概要を作成している。
これとは別に, TMJAはTMDケアの専門家間モデルに関するワーキンググループを設立した。このグループは、医学、歯学、看護、理学療法、心理カウンセリング、およびその他の関連する医療分野にわたる専門家を含むTMDケアの新しい集学的モデルを開発する方法を模索しています。
 
11)勧告11は、TMDについての患者教育と認知、および疾患の悪評を減らすことに取り組んでいる。NASEMは、TMJAおよびTMJ患者主導円卓会議のメンバーが、米国医師会 (AMA) 教育グループ、米国歯科教育協会 (ADEA) 、およびNIDCRコミュニケーション健康教育室と協力して、NASEM報告書に要約されているように、この障害に関する現在の理解に基づいてTMDの教材を開発することを提言している。
これらの資料には、質の高い治療の受診方法、不評を減らすためにTMDの管理とケアの多くの側面を取り上げるパンフレット、ビデオ、バーチャル教育ワークショップが含まれます。
 
上述の行動は、TMDの研究、治療、教育に向けて切望されていたパラダイムシフトを実施するための主要な取り組みの第一歩にすぎない。
NASEM報告書とその勧告は, TMDの21世紀の科学に基づく研究と治療を前進させるための生物医学研究と医療コミュニティへの直接の呼びかけである。
 
この新たな研究結果は、TMDに関して、現在の歯、咬合に焦点を当てた治療は、より広範な医学界の専門家を巻き込んだ集学的で専門家間のチームアプローチに向けて調整されなければならないことを強く示唆している。治療は患者中心かつエビデンスに基づくものでなければならない、また、必要に応じて、インプラント装置の使用に際しては、市販前の厳正な評価と市販後調査を実施すること。
疾患治療の新しいモデルおよび新しい研究仮説は,これらの状態に対する科学的および臨床的アプローチに革命を起こすために絶対に必要である。TMDポートフォリオに現在含まれていない研究の専門知識は、専門家間ケア、臨床ガイドライン、疾患および治療のリスク評価の基礎となる新たな情報を明らかにするために不可欠である。これらの新しい概念を備えた医療提供者の集学的チームは, TMD患者の健康と生活を改善できる専門的で,患者中心で,思いやりのある方法で, TMDを診断し,治療し,管理することができる。
 
 
2023年10月09日 16:01

TMDの改善勧告レポート 1

来る11月開催される日本口腔顔面痛学会と共にAAOT(Asian academy of Orofacial Pain and TMDが開催される。
小生はその中でNASEM Study Reportと言われるTMDの改善勧告レポートに関するシンポジュウムの企画運営を依頼された。
企画者のねらいを含めて、TMDの改善勧告レポートの概要を紹介する。

Consensus Study Report on TMD by the National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM) -Recommendations for TMD research and treatment-
 TMDのトピックスとして、2020年3月、米国学術機関の統合団体である「全米アカデミーズ」を構成する全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM))から顎関節症(TMD)の研究、治療等全ての面における改善勧告レポートが刊行されたことが挙げられる。本レポートは米国のみならず世界中の今後のTMDの教育、研究、臨床に大きく影響しパラダイムシフトを引き起こす可能性のある。
*NASEM Study Report とは
2020年3月、「全米アカデミーズ」を構成する全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM))が現状の顎関節症(TMD)に関する生物医学研究、専門教育/訓練、および患者ケアのあらゆる分野において完全に改善しなければならないとする勧告レポート(NASEM Study Report)を発刊した。
本レポートは、TMDの治療の改善と新たな研究方針に取り組むために「顎関節疾患:研究とケアのための優先事項 (2020)」委員会によって作成されものである。最近の研究によるとTMDは複雑な多系統障害であり、TMD研究と治療は患者中心の、関連専門領域の集学的アプローチの必要性を指摘している。そして、従来の歯科中心で行われていた研究と治療は、新たな研究により得られた科学的知見と整合するように近代化されなければならないと勧告している。
本レポートは、TMDの研究、治療、訓練、教育に関する11個の改善点を含んでいて、各分野における現状の問題点と改善機会に対処するための短期的、中長期的な提言をしている。全般として、現在の歯、咬合に焦点を当てた機械論的、技術論的なTMD治療からBiopshychosocialに基づいた、より広範な医学関連専門領域の集学的チームアプローチに向けて調整されなければならないことを強く示唆している。これらの改善は、TMDの研究、治療、教育に向けて切望されていたパラダイムシフトを実施するための主要な取り組みの第一歩であり、本リポートは、TMDの21世紀の科学に基づく研究と治療を前進させるための生物医学研究と医療社会への直接の呼びかけである。
*本レポート発行の背景
歴史的に、米国において、これまでにTMDの研究臨床の改善のために声明(statement)が数回出されていて、現在のTMDに大きな影響を与えている。
1996年4月にNIH主催によりTMDの治療に関する世界初のテクノロジーアセスメントが開催され、声明が出された。
2010 年3月に米国歯科研究学会(American Academyof Dental Research: AADR)がTMD の正しい理解の普及を図るため,TMD基本声明を発表した。この声明で強調されていたのは以下の3項目であった。1)診断は診断機器でなく、問診による病歴聴取と身体的な検査によって行う、画像検査は必要に応じて行う。 2)治療については、「正当化できる特定の証拠がないかぎりは,顎関節症患者の治療の第一選択は,保存的で可逆的かつ証拠に基づく治療法とすることが強く薦められる」 3)診断と治療は、Biopshychosocialを基に行う。 
これらのステートメントはその後10年あまり経て、理論的にはTMD治療の基本として理解されているが、他方、一般臨床の場では形骸化されてしまい、相変わらず、技術論的、機械論的TMD治療が根強く行われているようである。例えば、免罪符的に最初にPhase1治療を行えすれば、続くPhase2治療は不可逆的治療であっても許容されると考えている臨床家が多い様である。
このような好ましくない状況が依然として続いているために、更なる改善を目的に本レポートが発行された。
 
2023年10月09日 15:48

口腔顔面痛診査法の客観性を高めるために

今年の夏の暑さは異例だったそうです。2023年夏(6月1日~8月24日)の日本の平均気温の基準値からプラス1.78度高かったそうで、夏の気温としては統計を開始した1898年以降の126年間で最も高かったそうです。9月を含めても同様の傾向になるでしょう。暑いのが好きなのとクリニックは涼しいので問題なし、ところが夜の暑さは耐えられませんでした。
このように暑かった今年の夏、患者さんの予約が少なかったこともあり、ゆっくりさせてもらい、診療改善のための年初来の課題解決に取り組みました。 口腔顔面痛診療を名人芸ではなく、客観性の高い診査法にして、誰もが同じ結果が得られるようにすることを目指しています。

1. 自律神経活動測定:指尖容積脈波を計測して、自律神経活動を調べる。痛みの患者さんは自律神経機能が変化している事があり、痛みに影響している可能性がある。慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項    どのタイミングで測定するのが良いか、初診と症状変化時

2. 開口抵抗力測定: オリジナルのアゴのこわばりの具合を測ろうという考えを具現化した開口抵抗力測定器を用いて、患者さんのアゴのこわばり度を測定する、その程度は筋緊張、筋拘縮など筋障害の程度を反映していると考えている。これも慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項 単純に開口抵抗力を計るだけで無く、ストレッチをどれくらいすると筋収縮力が低下するか、患者さんがセルフケアをしてくれた効果を痛みの自覚症状に加えて客観的評価にも使えそう。初診時に測定し、診断結果との関連性を検討する。

3. 疼痛電気閾値測定:神経障害性疼痛患者さんのAllodynia部位の閾値測定、allodyniaは機械的動的刺激による痛みと規定されているが、刺激手法はまちまち、感じ方もいろいろで再現性が低い、そこで、電気刺激に対する反応として調べようという目的。既存の機械、電極からスタート。電極の改良が必要、電気なのでプラスマイナスの二つの端子が必要、でも、口腔内のallodynia部分に二つ置くのは無理、更にallodyniaの部分を刺激するといたくて、電気刺激か機械刺激による痛みか判別不能になる、等のいろいろな障害があり、改良に改良を重ねて、これで使えるかなと言う電極に達しました。 新しい電極で測定開始、スムーズに出来るかどうか。 

4. 患者さんとの医療面接を音声入力文字起こしシステム:痛み診療では患者さんの痛みの自覚症状を如何に文字化して客観的に評価するかが重要です。そのため、毎回の診察では10分程度いろいろな質問しながら経過を伺います。この内容をカルテにまとめるのが大変です。Googleドキュメントに音声入力があるのを見つけてのとりあえず音声入力文字化して、カルテに貼り付けていました。7月に慶應医学部の学生さん達が起業して、音声入力文字化、カルテ記載用に要約までしてくれるシステム開発(medimo)、それを試用させてもらっています。初診時の患者さんには構造化問診していくと、項目に沿ってやりとりを要約してくれる。再診時には自覚症状変化を上手く要約してくれる。医学用語、歯科用語の誤文字化をどうやって少なくするかが課題。
2023年09月06日 18:20

現在、歯科医師に求められる標準的痛み管理

Medscape という医学情報WebサイトにPain Management in Dentistry (Updated: Dec 12, 2022)として 掲載されている、現在一般歯科医師に求められる標準的痛み管理についての全訳を掲載しました。
口腔顔面痛を専門とする歯科医師向けでは無く、一般歯科医師向けの情報です。歯科治療において、痛み管理に関して必要な事項が解説されていて、非常に参考になると思います。
originalでは文献番号にカーソルを置くと、文献情報が出てきます。 ここにoriginal WebSite情報を載せます、参照してください。
https://emedicine.medscape.com/article/2066114-overview#showall

概要
歯科治療における疼痛管理には、麻酔薬の投与や処置後の疼痛管理、疼痛診断、顔面や頭部に疼痛を引き起こす口腔疾患の治療戦略、特殊な集団における疼痛管理など、多くの処置上の問題が含まれる。
本稿では、痛みの定義とメカニズム、急性痛と慢性痛について概説し、麻酔薬投与と歯科処置後の痛みのコントロールに関する管理戦略に焦点を当てる。

痛みの定義
国際疼痛学会(IASP)は、痛みを「実際の、または潜在的な組織損傷に関連した、あるいはそのような損傷の観点から説明される、不快な感覚的・感情的経験」と定義している。[1]
IASPが発表した分類には、アロディニア、鎮痛、感覚鈍麻、カウザルギー、中枢性疼痛、感覚異常、痛覚過敏、知覚過敏、痛覚低下など、多くの具体的な疼痛用語が含まれている。
これらの用語の重要な点は、末梢および中枢の活動を含む神経機能全般に関する感覚体験を記述していることであり、痛みの処理に関与する神経現象の複雑さを強調していることである。
これらの用語は、顔面や頭部領域の痛みを管理する歯科医が遭遇する多くの痛みの問題に当てはめることができる。 

痛みのメカニズムに関する最新の知識 、
痛みの神経生理学を完全に理解するためには、末梢性と中枢性の痛みのメカニズムについて書かれた数多くの文献を参照されたい。[1, 2, 3]
顔面痛の治療に携わる臨床医にとって、中枢神経系と末梢神経系に疼痛処理に関連する可塑性PLASTICITYがかなり存在することを理解することは重要である。

痛みの調節は侵害受容経路に沿った複数のレベルで起こり、中枢だけでなく末梢でも多くのメカニズムが前駆侵害受容活性と抗侵害受容活性の両方に寄与している。[4]  
したがって、疼痛の管理は、末梢病態や末梢神経機能に関連した治療だけでなく、2次および3次ニューロンにおけるシナプス神経伝達の影響、神経の興奮や抑制性神経活動の低下に関連したシナプス変化、神経伝達物質や他の内因性疼痛軽減物質(例えば、エンドルフィン)の作用、自律神経系の活動、疼痛伝達に関連した潜在的な中枢構造変化の改善を目的とした適切な介入も含まれる。[5]  

急性痛と慢性痛 
急性痛と慢性痛の根底にあるメカニズムは、神経生理学的にかなり異なっている。痛みの持続(3ヵ月以上)は、末梢神経系と中枢神経系の機能に複数の変化を引き起こすため、心理学的・行動学的側面と相まって、痛みの介入をより複雑で困難なものにする。[6]  

正常な患者における麻酔薬の投与や術後の疼痛管理は、末梢および中枢の神経生理学的可塑的変化の影響を受けにくい。しかし、慢性的な非顔面痛の既往歴のある患者や恐怖心の強い患者では、脳神経生理状態が変化して痛みを知覚しやすくなることがある。
不安や恐怖は、下垂体-副腎軸を活性化し、痛みの経験を増大させることが知られている。 したがって、効果的な疼痛コントロールには、患者の情動状態とストレスレベルの評価と管理が含まれるべきである。
複数の慢性疼痛問題を抱える患者は、痛みの無い患者と比べて、歯科治療に対する反応が異なることがある。

処置時の疼痛
急性痛は、麻酔注射、修復治療、歯周治療、インプラント埋入、抜歯などの歯科処置に伴う。
麻酔注射に伴う痛みは、笑気ガスのような揮発性薬剤や静脈内薬剤の併用、局所麻酔薬の事前塗布、薬剤の徐放を含む適切な注射手技、適切な針のサイズの選択、麻酔薬の種類の選択などによって調節することができる。

注射時の痛みは、注射前に、臨床医の患者に対する忍耐強さ、穏やかな患者管理、保証、および減感作療法、催眠療法、リラクセーション・トレーニング、その他の行動テクニックによって患者をうまく管理出来ると、軽減または除去することができる。


表面麻酔
多くの局所用製剤は調合により入手可能であり、また市販されている。最終的な局所製剤は、粘膜により深く浸透する可能性がある一方で、頻脈などの全身作用を伴う可能性があるため、配合にはリスクが伴う。[7, 8] 注射による疼痛を抑制する局所麻酔薬の有効性は、その吸収と薬物の物理的性質に依存する。例えば、局所麻酔薬が粘膜に十分な時間付着するのに十分な粘性がない場合、注射針の刺入による痛みの抑制に役立たないことがある。 注射による疼痛コントロールに最適な製剤は、ゲル状またはペースト状の局所麻酔薬である。これには粘性のリドカインやベンゾカインを軟膏状にした製品がある。後者には7.5%から20%の麻酔薬が含まれる。リドカイン製剤は約3分で表面組織の鈍麻させる。また、ベンゾカインと組み合わせて麻酔スプレーとして使用するテトラカインという外用薬は、1分以内に急速にしびれを生じさせる。綿棒にスプレーして特定の注射部位に塗布すれば、全身への広がりや副作用の可能性を減らすことができる。 注射針を刺すときの痛みは、組織に刺入する直前に注射器のプランジャーを作動させることによっても取り除くことができる。その他のテクニックとしては、唇や頬を指でつまむ、注射中にこれらの構造を保持する、挿入前に組織をストレッチする、などがある。いずれも患者の注意をそらす効果があり、後者は針が粘膜を貫通する実際のポイントを臨床医がよりよく視覚化することも可能にする。瘢痕により肥厚した組織は、針の刺入圧力のコントロールが困難であるため避けるべきである。
針の追加刺入に伴う痛みは、追加刺入の前に麻酔薬をゆっくり注入することにより避けられる。下顎ブロックの場合は、その部位の解剖学的構造を理解し、針を刺入し、注入する時に、内側翼突筋と下歯槽神経を避ける。また、上顎の場合は、針が骨膜に直接接触しないようにすることで痛みを出さなくて済む。[9] 

注入技術については、いくつかの興味深い進歩がみられる。例えば、ノードソンマイクロメディックス社は、Artiste Assisted Injection Systemと呼ばれる麻酔薬注入率の向上をうたった製品を発表した。臨床医は、歯科用シリンジに接続されたハンドピースを介してCO 2を駆動するために足圧を使用します。圧力の正確な制御は、基本的に操作者がダイヤルで行うことができる。[10] 
注射による痛みをコントロールするためのもうひとつの新機軸は、最近特許を取得した、痛みのゲートコントロール理論に基づいた装置である。この理論では、振動(その他の刺激としては、冷たさ、熱、摩擦、圧力など)による大径線維の刺激が、痛みの伝達に関与する神経ゲートを閉じる役割を果たすことを示唆している。マイクロバイブレーターと呼ばれるこの装置は、標準的な歯科用注射器に装着することで、超高周波・超低高度刺激を与えることができ、痛みを軽減すると言われている。[11]

局所麻酔
処置時の痛みをコントロールする局所麻酔薬の有効性は、注射の精度、注射する組織の相対的な酸性度、注射する麻酔薬の種類、注射部位の骨密度、神経の解剖学的構造、患者の相対的なストレスレベルなどの要因に左右される。
下顎の麻酔は上顎の麻酔よりも効果が低いことが知られているが、これは主に神経解剖学的構造と骨密度の違いによるものである。
標準的な下顎神経ブロックは有効でない場合があり、口底部に舌側注射を行うか(下顎第一大臼歯後方を神経支配する可能性のある顎舌骨筋神経の知覚枝を遮断するため)、あるいは第一大臼歯の近心根部の頬側に浸潤を行う必要がある。また、前歯を全体の麻酔には切歯浸潤を行うことも必要である。
下顎神経ブロックの有効性を向上させる試みとして、Gow-Gates下顎神経ブロックとAkinosi-Vazirani閉口下顎神経ブロックという2つの注入法が提唱されている。[12] いずれも、標準的な下歯槽神経ブロックに失敗した既往歴のある患者に推奨される。Gow-Gates法では、三叉神経の下顎神経が卵円孔から出て、下方に走向し下顎頭頸部に近づいたところを、患者の口を完全に開け下顎頭頸部刺入して局所麻酔薬を投与する。一方、Akinosi-Vazirani法では、患者の口を閉じ、翼突下顎隙を満たすように麻酔薬を投与する。
下顎神経の疼痛管理という観点から3つの術式を実際に比較した研究は少なく、少なくとも1つの発表された研究では、3つの術式間に有意差は存在しない可能性が示唆されている。[13] 臨床的に重要であると思われる研究として、Gow-Gates法およびVazirani-Akinosi法は、標準的な下歯槽神経ブロックよりも統計的に歯髄の麻酔発現が遅かったという報告がある。しかし、別の研究結果では、歯髄炎の症例では、Gow-Gates法が他の術式よりも麻酔効果に優れている可能性が示唆されている。[14] 
アルチカインの登場を除き、過去20年間、処置時の疼痛コントロールに使用することが推奨されている麻酔薬にはほとんど変化がなかった。 アルチカインは、チオフェン環をもつアミドである(ベンゼン環に対して)。半減期は20分で、血液中で速やかに加水分解されるため、全身中毒のリスクは他の歯科用麻酔薬よりも低いと思われる。繰り返し注射が必要な場合に有効である。この麻酔薬は当初2000年にFDAによって承認され、2010年10月に米国でアルチカイン(Articadent)が発売された。
この麻酔薬は、ブロック注射または浸潤麻酔とも、従来の麻酔薬よりも処置時の痛みコントロールに優れていることが多くの研究で示唆されている [15, 16, 17] が、少なくとも1件のシステマティックレビューでは、この麻酔薬の優位性を示すエビデンスには一貫性がなく、質も限定的であることが示唆されている。[18]
対照的に、別のメタアナリシスでは、第一大臼歯部の麻酔に優れた有効性が示唆されている。[19] 主に症例報告と歯科治療でこの麻酔薬を使用した304人のレビューに基づくアルチカインの副作用には、下顎神経損傷(17人)、知覚低下(51人)、疼痛(44人)、耳鳴り(2人)などがある。[20, 21] 
また、不可逆性歯髄炎の患者の下歯槽神経ブロックの前にロルノキシカムとジクロフェナクカリウムの内服薬を術前に投与した研究が最近発表され、処置時の疼痛コントロールが改善される可能性がある。この二重盲検無作為化比較臨床試験には14人の患者が参加した。その結果、ロルノキシカム(ジクロフェナクカリウムは含まない)の前投与は、プラセボと比較して下歯槽神経ブロックの有効性を有意に改善することが明らかになり [22] 、この非ステロイド性抗炎症薬の前投与が不可逆性歯髄炎患者の良好な麻酔の確立に有用であることが示唆された。



行動管理
注射針や歯科治療全般に対する恐怖感は一般的である。[23] 歯科治療に対する不安には、以前に歯科治療で痛い思いをした記憶、条件付け、痛みの予期、その他の心理学的因子など、数多くの因子が関連している。
これらすべてが疼痛体験に影響を及ぼす可能性がある。[24, 25] 歯科不安を軽減することにより、個人の疼痛閾値を大幅に低下させることができる。[26] 不安を管理するための簡単な行動戦略は、小児と成人では異なるが、一般的には、温かく思いやりのある臨床環境の提供、安心させる、慌てない臨床の雰囲気、ゆっくりとした導入、および予想される処置の刺激的で無い説明などが含まれる;小児の場合は、必要に応じて保護者が手を添えて参加することも有効である。
さらに、心地よい周囲の香りや音楽が歯科恐怖症を変えるという証拠も存在する。[27, 28] 恐怖を軽減し不安を軽減する

その他の介入としては、気晴らし、脱感作、メンタルイメージングを用いたリラクゼーショントレーニングなどが、一般的に疼痛患者の管理に用いられるものがある。 限られた研究では、バイオフィードバックが歯科治療に対する不安を軽減し、疼痛体験を改善するのに役立つことも示唆されている。[29] 鍼治療もまた、行動管理戦略として考慮されることがある。鍼治療は、不安および処置時痛の軽減に有効であることが研究で示唆されているからである。[30]
歯科処置に伴う顔面痛を軽減するための上記の行動戦略を支持する臨床試験は、患者をランダム化した限られた数しか存在しない。また、ホメオパシー、自然療法、カイロプラクティック、マッサージ、瞑想、またはハーブ療法など、麻酔薬投与時または歯科治療時の介入としても考慮されうる戦略については、ランダム化臨床試験が存在しない。
Alshatratらによるランダム化比較研究では、痛みを伴う歯科処置を受けた5~12歳の小児を対象に、没入型バーチャルリアリティ(VR)が痛覚に及ぼす影響を評価した。
局所麻酔を必要とする処置を受けた患者は、VRによる気晴らし法によって痛みの強さに関するすべての主観的および行動的尺度において有意な軽減を報告した。[31]

処置後の疼痛管理
現在のところ、歯科治療後の疼痛管理に特化したガイドラインは発表されていない。最良の治療法は、症例報告、ランダム化比較試験、および専門家の意見に基づいている。重要であると思われるのは、米国疾病予防管理センター(CDC)が、疼痛管理にオピオイドを使用する臨床医に対する最新のガイダンスを発表したことである: CDC Clinical Practice Guideline for Prescribing Opioids for Pain - United States, 2022 (2022 Clinical Practice Guidelines)」である。[32, 33]
ガイドラインに記載されているように、このガイドラインの使用は任意であり、緩和ケアには適用されないが、慢性的な顔面痛を治療する歯科医師にとって、この情報は意思決定に役立つ可能性がある。
現在の臨床では、処置後の疼痛を治療するために、単剤または複数の鎮痛薬を組み合わせて使用している。[34] おそらく、複数の薬物を併用することで、潜在的な有害事象を最小限に抑えながら有効性を向上させることができる。しかし、Barkinが示唆したように [35] 、現在処方されている薬剤の最も有効な用量の組み合わせを定義する作業が必要である。
これらの薬剤には、アセトアミノフェン、アスピリン、NSAIDsが含まれる。[36] サルファアレルギーのない消化管障害や腎障害のある患者には、CelebrexなどのCox-2阻害薬を処方して、潜在的な副作用を軽減することができる。処置後の中等度の疼痛には、アセトアミノフェンまたはNSAIDと弱オピオイド薬配合薬またはトラマドールの処方が必要な場合がある。
35件のコクランレビューでは、歯科治療後に使用される薬物の鎮痛効果を評価するランダム化試験が発表されている。[37] 最新の系統的レビューでは、口腔手術後の中等度から重度の疼痛を有する成人の急性疼痛が取り上げられており、単剤の単回投与療法が処方されている。[37]
イブプロフェン400mg、ジクロフェナク50mg、エトリコキシブ120mg、コデイン60mg+パラセタモール1000mg、セレコキシブ400mg、ナプロキセン500/550mgなど、多くの薬物/用量の組み合わせが、処置後の疼痛を50%以上軽減することが判明した。
作用時間が最も長かった(8時間以上)のは、エトリコキシブ120mg、ジフルニサル500mg、オキシコドン10mg+パラセタモール650mg、ナプロキセン500/550mg、セレコキシブ400mgであった。
この研究の著者は、アセメタシン(NSAID)、メロキシカム、ナブメトン、ネフォパム、スリンダク、テノキシカム、チアプロフェン酸などの多くの単剤投与については、レビューは存在するが試験データはなく、デキシブプロフェン、デキストロプロポキシフェン130mg、ジフルニサル125mg、エトリコキシブ60mg、フェンブフェン(英国)、インドメタシンに関するデータは不十分であると指摘している。
著者らは、有害事象はアスピリンとオピオイドに関連していることを指摘している。処置後の疼痛に対して服用される市販薬は、いずれも患者が誤用する可能性がある。意図的でないアセトアミノフェンの過量投与に関する研究では、フランスのファーマコビジランス・データベースに9ヵ月間照会して収集されたデータから、13人の患者が軽度の特異的でない臨床症状を有し、10人中4人に肝酵素活性の異常が認められた。アセトアミノフェンの投与量の中央値は、24時間当たり137mg/kgであった。[38]
オピオイドもまた、誤用の可能性がある鎮痛薬の一種である。米国の即時放出型オピオイドの約12%を歯科医師が処方していて、これはおそらく処置後の疼痛のためであろう。[39] 乱用の可能性は、処方量の制限、患者教育、薬物乱用のモニタリング、乱用が疑われる場合の適切な紹介などにより、最小限に抑えることができる。

Pergolizziらによるレビューでは、口腔外科手術後の疼痛治療に用いられるオピオイド療法の投与期間が必要以上に長くなることがあることが示されている。術後の歯の痛みは、中等度から重度になることがあるが、通常は抜歯後1~2日で消失する。[ 40 ]
Tannerらは、術後疼痛をコントロールするために子どもに鎮痛薬を投与する際に、親が市販の液体経口鎮痛薬の用量を正確に測定しているかを調査した。合計120組の親子が参加した。親は、透明な印のついた薬用カップ、印刷された印のついた薬用カップ、円筒形の計量スプーン、経口注射器を用いて5ミリリットルの液体を計量するよう指示された。保護者が最も頻繁に使用した計量器具は薬コップであり、他の計量器具を使用した場合よりも薬コップを使用した場合の方が投与ミスが多かった。研究者らは、歯科医は、正確な測定装置、体重に基づく投与、および薬物投与表の正しい解釈について保護者を教育することによって、小児患者の疼痛管理を改善することができると結論づけた。[ 41 ]
副作用は、術後の疼痛に通常処方される鎮痛薬のいずれでも生ずる可能性があり、治療を担当する臨床医は、文献に記録されているこれらの薬物相互作用やその他の薬物相互作用に注意すべきである。腎不全 [ 42 ]や肝硬変などの様々な病状を有する患者、特に飲酒を伴う患者への処方には特に注意が必要である。[アスピリンの短期使用は、重篤な消化管異常を引き起こさないことが示されている[ 43 ]が、この鎮痛薬はプラセボと比較して消化不良のリスクと関連している[ 44 ]。
NSAIDsの長期使用は、胃と腎臓の両方の問題と関連しており、血小板合成に影響を与える可能性がある。したがって、NSAIDsは、既知の腎症、消化管粘膜のびらん性または潰瘍性疾患、抗凝固療法中または出血性疾患のある患者、以前に処方されたNSAIDsに不耐性またはアレルギーのある患者には禁忌である。[ 45 ]
SSRIと非ステロイド性抗炎症薬との相互作用の可能性は、短期間の処置後の使用であっても考慮すべきである。[ 45 ]
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であるケトロラク・トロメタミン(KT)と粘膜に貼付する粘着フィルムとの組み合わせにより、抜歯後の疼痛を軽減する効果が実証された新しい製品がある。このような使用は、経口または舌下投与による薬物送達の限界を克服する可能性がある。[ 46 ]

妊娠中の患者への処方に関する歯科医師の態度に関する最近の研究では、妊娠中の患者にどのような薬剤を処方することが許容されるかについてコンセンサスが得られていないことが示唆されている。さらに、調査対象となった歯科医師の多くは、この患者集団に対する薬物処方ガイドラインに従っていないようであった。CDAは、妊娠中の患者の治療に関するガイドラインを発表しており、オンラインで閲覧することができる。[47 ] 一般に、妊娠中の女性患者に対するイブプロフェン、コデイン、ヒドロコドン、オキシコドン、プロポキシフェンの処方については、医師への相談が推奨されている。アスピリンとイブプロフェンは妊娠中は避けるべきである。アセトアミノフェンは妊娠中いつでも処方できる。ペニシリン、エリスロマイシン(エストレート型を除く)、セファロスポリンは妊娠中でも服用できるが、テトラサイクリンとクリンダマイシンは避けるべきである。鎮静催眠薬の処方も避けるべきである。[ 48 ]

多くの研究から、いくつかの術前および術中の処置要因が、歯科治療後の痛みの経験に影響を及ぼす可能性が示唆されている。術前の抜歯、口腔衛生、および抜歯後の喫煙の影響を評価する50人の患者を対象とした研究では、術前の口腔衛生状態が悪い(すなわち、ブラッシングの頻度が低いことで定義される)、術後の喫煙は、口腔衛生状態が良く、喫煙しなかった患者よりも有意に痛みが強かった。[ 49 ]
外科手術の時間の長さも、患者の術後の疼痛知覚に影響を与えるようである。[50]  術前の疼痛は、歯内療法後の持続的な疼痛とも相関している。その他の要因としては、性別が女性であること、下顎大臼歯または上顎小臼歯を含む治療であることなどが挙げられる。[51]  その他の歯内療法後の疼痛体験に影響を及ぼす可能性のあるもうひとつの因子は、歯髄を鈍麻させるために使用されるテクニックと関連しているようである。最近の研究では、ニッケルチタン(NiTi)ロータリーパスファイルを使用した歯内療法では、ステンレススチール製のKファイルを使用した場合と比較して、処置後の疼痛が有意に少ないことが明らかになった。[52]
歯髄の活力を維持して処置後の疼痛を予防するために使用される修復ケアおよび材料に関して、最近のコクラン系統的レビューで、最も一般的に使用されている材料を調査した4件のランダム化比較試験がある。検討された介入は、Ledermix、グリチルレチン酸/抗生物質ミックス、酸化亜鉛オイゲノール、水酸化カルシウム、Cavitec、Life、Dycal、硝酸カリウム、ジメチルイソソルビド、ポリカルボキシレートセメントなどであった。歯髄直接覆髄処置後の臨床症状を有意に減少させた唯一のセメントは、硝酸カリウム/ポリカルボキシレートセメントまたはポリカルボキシレートセメント単独使用であった。[53]

修復治療や歯周外科治療では、治療後の歯肉退縮により歯の知覚過敏が生じることがある。このような象牙質知覚過敏は、象牙質内の周囲に広がる象牙細管が露出し、様々な刺激に反応して含まれる機械受容器を介して活性化することによって引き起こされる。痛みは一般的に鋭く、持続時間は短いが、持続することもある。露出した象牙質をコーティング、栓塞、封鎖することで、細管の脱感作を確立することができる。市販されている材料には、フッ化物またはアルギニン、炭酸カルシウムおよびフッ化物をモノフルオロリン酸塩として配合した歯磨剤 [54] 、酢酸ストロンチウムペースト [55] 、およびフッ化物洗口剤がある。いずれも、処置後の歯質知覚過敏の管理に有用であるようである。

Samieiradらによる研究では、76人の患者を対象に、歯科インプラント手術後の抗炎症作用と鎮痛作用が、カフェインを含む鎮痛剤とコデインを含む鎮痛剤の比較された。この研究では、コデイン含有鎮痛薬はカフェイン含有鎮痛薬よりも術後疼痛の軽減に有効であったが、カフェイン含有鎮痛薬はコデイン含有鎮痛薬よりも術後腫脹の軽減に有意に有効であったと報告している。この研究では、カフェインを含む鎮痛薬は、術後の疼痛と腫脹の両方を軽減するのに有効であり、許容出来ると結論づけている。[56]

慢性術後痛
抜歯や歯周治療の後に痛みが持続する場合、感染の可能性があり、歯内療法を行った場合には、診断不明や、非定型的な痛みや神経障害性の痛みが生じている可能性が示唆される。
最近の系統的レビューとメタアナリシスによると、根管治療後に生ずる持続性の慢性非歯原性疼痛は、まったく珍しいものではないことが示唆されている。[57]
感染を伴う症例では、疼痛管理に抗生物質の投与を含める必要がある。
慢性の非定型疼痛または神経障害性疼痛の管理には、疼痛専門医またはペインクリニックへの紹介が必須である。
しかし、処置後の慢性疼痛を管理する最初のステップは、包括的な鑑別診断を再確立するために、疼痛の症状と検査所見を再診査することである。

歯に限局した持続的な痛みは、歯周病変の継続によって引き起こされることもあるが、頭蓋内、血管/筋膜、神経原性、顎関節、耳、眼、鼻、副鼻腔、リンパ節、唾液腺などの病変 [58] や、未治療の冠血管攣縮や難治性狭心症などの病態によって引き起こされることもある。[59]
非定型顔面痛または原因不明の非定型歯痛(persistent facial pain of unknown etiology [PFPUE])の管理は、知識のある歯科医師であれば、多剤併用薬物療法、認知行動療法、および慢性疼痛の治療に有用なその他の非侵襲的治療によって行うことができる。
NSAIDSと三環系抗うつ薬または抗不安薬の併用は、PFPUEの治療に有用である。[抗痙攣薬やオピオイドの投薬も、症例によっては有用であることが示唆されている。[61]
PFPUE の複雑な性質を考慮すると、心理的サポートを含む集学的管理も行うべきである。
このような問題のある患者の管理は、高度な訓練を受けた歯科医師のみが行うべきである。

歯科的知覚過敏は、修復治療後に持続することがある。このような場合、露出したセメント質をフッ化物や塩化ストロンチウムを含む脱感作剤で治療したり、レジンを局所的に塗布したりすることができる。
2023年08月05日 21:06