診査結果
歯、口腔内検査で明らかな異常なく、パノラマレントゲンにても明らかな異常は認められなかった。また、左側下顎7は遠心部に深い充填物による不透過像が認められるが近遠心の髄角が明確に映っていた。これらの所見から前医同様に歯原性は否定的であった。
三叉神経感覚検査:左側下顎歯肉にParesthesiaを認めた。(Paresthesiaとは自発性の,あるいは誘発されて生じる不快な異常感覚。ミラーで歯肉をさすって、健常部と比較してどうかと聞き、嫌な感じがあるかどうか聞く)
咀嚼筋検査
左側咬筋に筋・筋膜疼痛が認められ、圧痛診査により左側下顎大臼歯部にジリジリとした関連痛が認められた、また、左側胸鎖乳突筋にも筋・筋膜疼痛が認められ、咬筋と同様に左側下顎大臼歯部に関連痛が認められた。これらの関連痛は何時もの痛みであることが確認された。
一次診断
左側下顎歯肉Paresthesiaは筋・筋膜疼痛の関連痛感受部位に生ずる所見として矛盾が無い事、激痛という点は筋・筋膜疼痛の診断に異和感があるが、非歯原性歯痛、左側咬筋、胸鎖乳突筋の筋・筋膜疼痛による歯痛と診断した。
治療
筋・筋膜疼痛治療のセルフケアとして、かみしめの自覚と中止、患側咀嚼を避ける、積極的に頸部ストレッチと開口ストレッチを指導した。激痛再発の恐れがあったために、一週間後に予約した。
再来時までの経過
筋・筋膜疼痛治療の為のセルフケアを続けていたら、数日で持続性のジリジリ、ジンジンとした痛みが改善した、しかし、来院2日前に以前と同様の激痛が生じ、1日間持続したとのことであった。
再来時所見
初診時に認められた左側咬筋圧痛は改善し筋・筋膜疼痛からの関連痛は消失していた。発作間隔、持続時間等随伴症状から三叉神経痛、三叉神経・自律神経性頭痛等は否定される。口腔内感覚検査の結果、左側下顎歯肉に再現性のある異和感が残存することが認められた。左側上下顎全歯の打診、冷温刺激を行った結果、いずれの歯にも明らかな反応は無いが、左側下顎7のみに打診後に歯肉と同様な異和感を訴えた。電気歯髄診断を行ったところ、前回は正常反応であったにも関わらず、今回はFull出力でも反応無しであった。
最終診断
これらの所見から、激痛は左側下顎7の慢性不可逆性歯髄炎から歯髄壊死に進行したことによる痛みと推定した。
処置
歯髄の状況を確認するために無麻酔下に充填物除去した。遠心部は裏装剤が深い部分まで充填されていて、除去したところで遠心髄角が露出していて、直接覆髄を行ったと推定された。同部から髄腔に穿孔したところ歯冠部歯髄は既に壊死していて空隙になっていた、遠心根管にも知覚はなくなっていた。近心は厚い象牙質の下に髄角があり、近心根管の根尖付近に知覚が認められ、局所麻酔をして根管処置を行った。髄腔、根管には腐敗臭はなく、出血もなかった。この処置の後、激痛および左側下顎、顔面頬部、側頭部にジリジリ、ジンジン、ねじられるような弱い痛みなど全ての症状が消失した。