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タイトルサンプル

口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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口腔顔面痛治療の基本姿勢

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口腔顔面痛、顎関節症の治療では正確な診断が基本です。

まず、患者さんの痛みを知るために「痛みの構造化問診表」を書いてもらい、必要十分な時間をかけた医療面接で痛みのポイントを探り、臨床診断推論を進めます。次に口腔内、顔面の感覚検査と筋触診、脳神経診査を行って、鑑別診断を想起しながらさらに詳しい検査を行い、最終診断します。  当院の口腔顔面痛、顎関節症治療は、国際的に認知されている最新の治療ガイドラインに基づき行うことを原則とし、さらに患者さんに最善の治療法を実施しています。ガイドラインに沿って口腔顔面痛、顎関節症の治療を行うと、ほとんどは1-2ヶ月で問題のない程度に改善します。ただし、痛みは慢性化すると病態が複雑化し、さらに治療期間を引き延ばしてしまう場合もあります。少しでも気になる症状があれば、できるだけ早い時点での受診をお勧めします。

症例紹介
一般歯科医師、口腔顔面痛専門医を目指す方々向けに書いてあり、患者さんには少しむずかしいと思います。  当クリニックの治療の概要をみてください。

口腔顔面痛、非歯原性歯痛症例

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当クリニックで治療した典型的な口腔顔面痛症例
患者さんの多くは痛みの発症から長い時間が経過して、慢性化しています。慢性化により病態も患者さんの痛みの捉え方も複雑化しています。  診療の第一歩は痛み病態と患者さんの痛み理解を交通整理して、解決の糸口を見つけることです。

症例1 診断に窮した非典型的歯原性歯痛症例

歯が痛い、でもその歯には異常は無いと言われた インレーを外してみたが中は悪くないと、しかし、その後痛みはどんどんひどくなる。

主訴:左側下顎歯の痛み30歳女性
現病歴

3ヶ月前から週末、仕事が休みの日に左側下顎、顔面頬部、側頭部にジチリチリした痛みを感じるようになった。左側下顎臼歯部には10年以上前に充填したインレーが入っていたので、そこが原因かと思って近歯科受診し、左側下顎の痛みを訴え診査を受けた。診査の結果、インレーの脱離はなく、二次カリエスなし、破折、充填物脱離なし、歯肉の炎症なし、冷温刺激痛なし、打診痛無し、レントゲン的に異常なし、電気歯髄診断+反応、これらの所見から、歯には明らかな異常は認められないことから経過観察を勧められた。その後も同様な症状が続くため一月の間に数回受診し、診査を受けた。一ヶ月後に、痛みがひどくなるのではという不安感が増して再受診し、インレーを外して内部を診査することを依頼した。局所麻酔下にインレー除去し処置を受けた。遠心部の窩洞は深く、深い虫歯にインレー充填したものであり、二次カリエスがあったが神経には異常がない、深い部分に神経を保護する材料を詰めて、充填したと説明を受けた。
治療後数日間、左側下顎、顔面頬部、側頭部にジリジリ、ジンジン、ねじられるような痛み生じ、鎮痛薬を服用した。その後、症状は軽くなり、以前からあった持続的な痛みと、2週間に1-2回、1-3日持続する激痛が生ずる様になった。数回主治医を受診したが、いずれも激痛は無いときであり、診査の結果、冷温刺激痛無し、打診痛無し、電気歯髄診断+反応で、異常所見なく、歯原性は否定されていた。肩こりがあり、強くなると歯痛も感じていて、しばしばマッサージを受けていた、主治医にこのことを話したところ、かみしめによる過剰負担の可能性があるとのことであった。症状が改善しないために、3ヶ月後に当クリニック受診した。

現症

受診した時には激痛はない状況で、左側下顎、顔面頬部、側頭部にジリジリ、ジンジン、ねじられるような弱い痛みを訴えていた。

診査結果

歯、口腔内検査で明らかな異常なく、パノラマレントゲンにても明らかな異常は認められなかった。また、左側下顎7は遠心部に深い充填物による不透過像が認められるが近遠心の髄角が明確に映っていた。これらの所見から前医同様に歯原性は否定的であった。
三叉神経感覚検査:左側下顎歯肉にParesthesiaを認めた。(Paresthesiaとは自発性の,あるいは誘発されて生じる不快な異常感覚。ミラーで歯肉をさすって、健常部と比較してどうかと聞き、嫌な感じがあるかどうか聞く)

咀嚼筋検査

左側咬筋に筋・筋膜疼痛が認められ、圧痛診査により左側下顎大臼歯部にジリジリとした関連痛が認められた、また、左側胸鎖乳突筋にも筋・筋膜疼痛が認められ、咬筋と同様に左側下顎大臼歯部に関連痛が認められた。これらの関連痛は何時もの痛みであることが確認された。

一次診断

左側下顎歯肉Paresthesiaは筋・筋膜疼痛の関連痛感受部位に生ずる所見として矛盾が無い事、激痛という点は筋・筋膜疼痛の診断に異和感があるが、非歯原性歯痛、左側咬筋、胸鎖乳突筋の筋・筋膜疼痛による歯痛と診断した。

治療

筋・筋膜疼痛治療のセルフケアとして、かみしめの自覚と中止、患側咀嚼を避ける、積極的に頸部ストレッチと開口ストレッチを指導した。激痛再発の恐れがあったために、一週間後に予約した。

再来時までの経過

筋・筋膜疼痛治療の為のセルフケアを続けていたら、数日で持続性のジリジリ、ジンジンとした痛みが改善した、しかし、来院2日前に以前と同様の激痛が生じ、1日間持続したとのことであった。

再来時所見

初診時に認められた左側咬筋圧痛は改善し筋・筋膜疼痛からの関連痛は消失していた。発作間隔、持続時間等随伴症状から三叉神経痛、三叉神経・自律神経性頭痛等は否定される。口腔内感覚検査の結果、左側下顎歯肉に再現性のある異和感が残存することが認められた。左側上下顎全歯の打診、冷温刺激を行った結果、いずれの歯にも明らかな反応は無いが、左側下顎7のみに打診後に歯肉と同様な異和感を訴えた。電気歯髄診断を行ったところ、前回は正常反応であったにも関わらず、今回はFull出力でも反応無しであった。

最終診断

これらの所見から、激痛は左側下顎7の慢性不可逆性歯髄炎から歯髄壊死に進行したことによる痛みと推定した。

処置

歯髄の状況を確認するために無麻酔下に充填物除去した。遠心部は裏装剤が深い部分まで充填されていて、除去したところで遠心髄角が露出していて、直接覆髄を行ったと推定された。同部から髄腔に穿孔したところ歯冠部歯髄は既に壊死していて空隙になっていた、遠心根管にも知覚はなくなっていた。近心は厚い象牙質の下に髄角があり、近心根管の根尖付近に知覚が認められ、局所麻酔をして根管処置を行った。髄腔、根管には腐敗臭はなく、出血もなかった。この処置の後、激痛および左側下顎、顔面頬部、側頭部にジリジリ、ジンジン、ねじられるような弱い痛みなど全ての症状が消失した。

本症例において推定される痛みの病態 診断

慢性不可逆性歯髄炎

  1. カリエス処置前のジンジンとした痛みは筋・筋膜疼痛による関連痛か二次カリエスによる慢性歯髄炎の痛みであった可能性が考えられる。
  2. 前医でインレー除去、カリエス処置後の激痛は、二次カリエス除去による刺激か同部への覆髄、裏装処置による刺激により、歯髄炎が継発したことによると思われる。また、慢性筋・筋膜疼痛により中枢感作が生じていたこと、および痛みが消えない事による今後の症状への不安により、痛みの感度が高くなっていたためによると考えられる。
  3. カリエス処置後の左側下顎、顔面頬部、側頭部に感じられたジリジリ、ジンジン、ねじられるような弱い痛みは慢性不可逆性歯髄炎による関連痛の可能性高い。
カリエス処置前の症状は筋・筋膜疼痛によるものか、二次カリエスによるものか不明であるが、カリエス処置後の激痛は切削の刺激、あるいは充填物の刺激等により生じた歯髄炎による可能性が高い。開放した齲窩を通じて大量の細菌感染による典型的な歯髄炎とは異なり、閉鎖状態での不可逆性歯髄炎は緩除に慢性経過することが多く、その間に神経炎による多彩な症状を呈する。
大臼歯に閉鎖状態で不可逆性歯髄炎が生ずると、炎症と壊死が歯冠部歯髄から根管部歯髄へと徐々に生じ、強い炎症による痛みのピークが複数回に生ずる。炎症が根尖に達し、根尖孔外に炎症が生ずるまで打診痛は生じない。また、レントゲン的に異常像を呈するには数ヶ月かかる。歯冠部歯髄がなくても根管歯髄の上部が生きている場合には電気歯髄診断に反応する。強い炎症の後の壊死状態では、局所刺激に反応しない。弱い炎症が局所刺激を繰り返すと反応して症状が出てくることがあり、一端生ずると刺激後も暫く続くことがある。これは診断に重要な所見である。

症例2  歯痛で来院した時には痛かった歯は既に抜歯されていて、抜歯窩は完全に治っていた。でも、歯の痛みが続いていた。歯原性を疑う所見は何も無く、非歯原性歯痛しか考えられない例であるが、患者の歯痛の訴えに非歯原性歯痛の概念がなければ、歯痛は歯からとして歯の治療に進んでしまうことがある。

主訴:右下の3本の歯が痛い 63歳女性
現病歴

2年前から右下臼歯部に持続性の鈍痛があり、数軒の歯科を受診して治療を受けた。時期は不明であるが、最初に右側下顎7の抜髄、根管治療完了したが痛みが続き、抜歯した。同様に右側下顎6.5の順で抜髄、抜歯を繰り返し、現在は右下765が欠損している。しかし、欠損部の歯が痛い感じが続いている。

口腔内所見

上顎無歯顎、総義歯を数回作ったが、右側下顎の痛みがあるために装着していない。

下顎残存歯

右側下顎4-左側下顎3 765I4567欠損 局部義歯が数個作ったが痛みの為の装着していない。
上下顎の歯肉に発赤、腫脹などの異常所見認めず。

レントゲン所見

上下顎骨および、下顎残存歯の歯周、根尖部に異常所見認めず。

心理テスト

明らかな異常は認められない。

CBT要素分析

歯が原因で痛みが生じているという考えが捨てきれない。これまでの歯科治療に対していくらか不満があるが、強い怒りは無い。しかし、今後に対して大きな不安がある。痛みが強くなると、口内炎の薬を付けたり、何か新たな病気が起こっているのではないか心配で、診てもらいたいと言う気持ちが抑えられない。

予備診断

痛みを自覚する右側下顎765は既に抜歯して欠損している。レントゲンでは歯槽固線の不透過像が認められ、抜歯後少ししか経過していないことが判る。他も異常所見はなく、歯原性では無いと診断した。

診査
感覚検査

口腔内及び顔面の触覚、痛覚とも左右差無く、明らかな異常は認められず。

12脳神経検査

省略、必要に応じて実施する予定。

咀嚼筋検査

右側咬筋に肥大、一部に硬結が触知され、同部に強い圧痛が認められた。関連痛の有無診査のために、指先に少し加圧して円を描くように動かしたところ、足をバタつかせて痛みを訴え、同時に主訴の歯痛の再現を訴えた。また、右側胸鎖乳突筋にも肥大、硬結、圧痛が認められ、関連痛として右側下顎部歯痛が生じた。

診断

右側咬筋 筋筋膜疼痛の関連痛としての歯痛

治療

筋・筋膜疼痛改善目的 負荷軽減:日常生活で肩が持ち上がっていないか、かみしめていないか肩を上げ下げ 舌で口蓋を舐める患側で咀嚼しない 積極的治療:左右頚部四カ所 開口ストレッチ徐々に30秒

経過

2週後再診時、自発痛を感じなくなる時間が多くなって来たとのこと。咬筋、胸鎖乳突筋の筋触診により圧痛は改善し、咬筋にのみ軽度の関連痛が誘発された。筋ストレッチ等の継続を指導した。
4週後再診時、自発痛はほぼ無くなったとの事であった。咬筋、胸鎖乳突筋の関連痛は誘発されなかった。現在、筋ストレッチ等の継続を指導し、経過観察中である。

本症例の理解  

患者が痛みを訴える右側下顎は765が欠損していて、43は健全歯で痛みを生ずる可能性はない。さらに、上顎は無歯顎であり、患者の訴える歯痛は歯原性ではないことは明らかであった。
上顎はかなり以前から無歯顎で総義歯を装着していた。下顎は左側が臼歯部欠損して局部床義歯を作成したが、右側は欠損が無く、右側のみで咀嚼が出来るため、左側の義歯は装着していなかったとのことであった。2年前に右側下顎に咀嚼時痛が生じ始め、次第に持続性に増悪していった。最初に主治医を受診し、その後、数軒の歯科にて一年半の間に抜髄、抜歯を繰り返していた。
来院時には、上顎が無歯顎で、下顎は左右とも臼歯部欠損していて、義歯を装着していなかった。
筋触診によって、右側咬筋が肥大、硬結が認められ、圧迫により主訴に一致する歯痛が再現された。このような状況から、咬筋の筋・筋膜疼痛による非歯原性歯痛の診断は容易であった。
右側咬筋の筋・筋膜疼痛の原因は、永年の右側偏咀嚼とかみしめる癖が合わさって負荷が掛かり肥大していた、この状況に何らかの発症因子が加わり、筋・筋膜疼痛を生じたと推定される。
来院時には右側下顎に歯痛が持続するために、上下顎とも義歯を装着せず食事していたとのことであった。右側咬筋には負荷は掛からないはずであるが症状は改善しなかった。筋・筋膜疼痛は一端発症すると、末梢、中枢において悪循環となり、発症のきっかけとなった咀嚼負荷をかけないだけでは改善しなかったと推定される。

症例3  上顎の義歯が合わないから痛みが出るのだろうと、数個作ったがどうしても痛い、口の中も痛いし、外の頬の部分も痛い。義歯を入れていなくても痛みがでる。

主訴:左側上顎歯肉が痛い 70歳女性
現病歴

3年前から左側上顎臼歯部に持続性の鈍痛があり、義歯が合わないからだろうと思い、数軒の歯科を受診して義歯を作り直してもらった。左側上顎の歯肉に当たることが原因ではないかということで、義歯後縁部を短くしてもらったことがある。痛みは安静時にも持続的にあり、食事のあとに痛みが強くなったり、夕方に痛みが強くなったりする状況が続いていた。現在、義歯を調整してくれている歯科医師が義歯を外していても痛みが続くということに疑問を持って、当クリニックを紹介した。 痛みの構造化問診:左側上顎と頬部に持続性のジリジリした痛みがある。起床後、しばらくすると痛みを感じる。午後から夕方に強くなる。食事中は余り気にならないが、食後にジンワリした痛みも加わる。入浴中はいくらか軽くなるが、痛みは消えない。就寝後に痛みで途中覚醒することはない。  

本症例での構造化問診結果
  1. 経過:3年前から
  2. 部位:左側上顎結節部、頬部
  3. 性状:鈍痛
  4. 強度:気にならない程度から中等度まで ここ数日の痛み平均VAS60
  5. 持続時間:ほぼ一日
  6. 頻度:ほぼ一日
  7. 時間的変化:食後、夕方に強い痛
  8. 誘発因子、悪化因子:義歯を入れると痛い、食後に痛み
  9. 改善因子:入浴すると痛みが和らぐ
  10. 随伴症状、関連症状:痛くなるときは肩こり、頸のこりが強い
  11. 疼痛時行動:首を回したり、マッサージしてもらう
口腔内所見

上顎:無歯顎、総義歯を数個作ったが、左側上顎後縁部に痛みがあるために食事時以外は装着していない。
下顎:76421I1267欠損 53 345根面板装着、オーバーフルデンチャーを上顎義歯とともに数個作ったが上顎の痛みの為に上顎同様に食事の際のみ装着。
上下顎の歯肉に発赤、腫脹などの異常所見認めず。

レントゲン所見

上下顎骨および、下顎残存歯の歯周、根尖部に異常所見認めず。

心理テスト

明らかな異常は認められない。

CBT要素分析

義歯が合わないから痛みが出るという考えが修正できず、当クリニックでも「良い義歯を作ってください」と話している。これまでの義歯に対しては自分の顎が悪いからだと自責の念が強い。自営業を数十年続けてきて、5年前に閉店して好きな旅行に行けると思っていたのに、痛みのために何処にも出かけられないと絶望感がある。

予備診断

左側上顎の痛みは義歯を装着していない時にも感じられるということ、同部歯肉粘膜、左側下顎の歯肉粘膜にも異常は認められない。レントゲンでも上顎歯槽骨、下顎骨、残存している左側下顎345に異常所見は認められない。これらの所見から、歯原性では無いと診断した。

感覚検査

顔面 左側三叉神経第二、三枝に触覚鈍麻が認められた。痛覚検査では異常なし。

口腔内

左側上顎結節部に触覚過敏、Allodyniaおよび痛覚過敏が認められた。

12脳検査

異常認められず。

咀嚼筋検査

左側咬筋 肥大+、硬結+、圧痛+が認められた。硬結部を指先で円を描くように加圧したところ、左側上顎部に関連痛が誘発され、いつもの主訴の痛みであることが確認された。左側側頭筋、左側胸鎖乳突筋、僧帽筋にも圧痛が認められた。右側には筋圧痛が認められなかった。

診断
  1. 左側咬筋 筋筋膜疼痛の関連痛としての歯肉痛
  2. 左側三叉神経第二枝 神経障害性疼痛(有痛性三叉神経ニューロパチー)
    診査結果から上記の2つの診断をつけた。左側上顎結節部に認められたAllodyniaは神経障害性疼痛による症状の可能性と左側咬筋 筋・筋膜疼痛により生じている可能性があると判断した。
本症例での非歯原性歯痛診査
  1. 疼痛感受歯の視診、打診による異常の有無
    あり→歯原性、上顎洞性    無↓
  2. 周囲歯肉、粘膜の感覚異常(過敏、鈍麻)の有無
    疼痛部に触覚過敏、痛覚過敏あり →神経障害性の可能性あり
  3. 咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋の圧痛の有無
    咬筋からの関連痛あり →筋・筋膜痛性の可能性あり
  4. 神経血管性頭痛(片頭痛、群発頭痛)発作と一致
    あり →神経・血管性     無↓
  5. 心臓性(狭心症、心筋梗塞):所見無し
  6. 心因性:所見無し
  7. 特発性:所見無し
  8. その他:所見無し
治療

筋・筋膜疼痛と神経障害性疼痛の診断が重複した場合には筋・筋膜痛の治療を優先させて実施し、筋・筋膜疼痛症状が改善した後に神経障害性疼痛について再評価することとした。

左側咬筋の筋・筋膜疼痛の治療
負荷軽減

日常生活で肩が持ち上がっていないか、かみしめていないか肩を上げ下げ 舌で口蓋を舐める、患側で咀嚼しない 

積極的筋ストレッチ

左右頚部の筋ストレッチ30秒以上、3横指開口ストレッチ30秒以上 一日5回程度

治療経過の概要

数週で左側咬筋の筋・筋膜疼痛は改善し、関連痛が生じなくなったが、自覚的に痛みは余り改善しなかったとのことであった。また、左側上顎結節部のallodyniaは変化なく、診査時の擦過が刺激になり自発痛が増悪する状況が続いた。

再評価

筋・筋膜疼痛の関連痛が消失したが、持続的な痛みが続き、左側上顎結節部のallodyniaも持続することから、現在の痛みは神経障害性疼痛であると診断した。

治療経過の概要

神経障害性疼痛治療としてプレガバリンを100mgまで漸増し、さらに上顎義歯をステントして内面に局所麻酔薬を貼付して治療した。自覚的持続痛が感じられなくなった時点でプレガバリンを漸減して服薬中止し、ステントによる局所療法を継続している。
 

症例の理解

患者が痛みを訴える左側上顎は無歯顎であり、詳細な診査によって歯原性ではないと診断した。痛み発症の原因は明らかでないが、左側咬筋に筋・筋膜疼痛と左側上顎結節部にallodynia(痛くない刺激で痛みがでる:擦っただけで痛い)が認められたので、筋・筋膜疼痛と神経障害性疼痛と診断した。治療により筋・筋膜疼痛は改善したが、自覚症状とallodyniaが残ったことから、改めて神経障害性疼痛と診断しその治療を行った。当初認められた痛み全般が改善したことから、筋・筋膜疼痛と神経障害性疼痛が併発していたと考えられる。本症例の様にいくつかの病態が併発していることは稀ではなく、多くの症例で筋・筋膜疼痛が併発していることが多い。

症例4 上顎左右に痛みが生じ、抜髄、根管治療受けたが改善せず、原因不明と言われた

主訴、左右側上顎小臼歯部に持続性の鈍痛  35歳、女性 歯科衛生士

2年前に右側上顎5に痛みを感じて抜髄、根管充填後、痛み改善。経過観察中に左側上顎小臼歯部に痛みが生じて、左側上顎4の再根管治療を行うも、痛み改善せず。右側上顎5部にも再度、痛みが生ずるようになり、両側上顎小臼歯部に痛みが続いている。複数の歯科医院で原因不明の診断、歯科大学病院で非歯原性歯痛の可能性あると言われたが治療は受けられなかった。また、顔面にも痛みがあるので医科大学病院を受診したが、原因不明と言われた。現在勤務する歯科医院の院長と相談し、当科を受診した。 

本症例での構造化問診結果

  1. 経過:2年前から
  2. 部位:右側上顎5、左側上顎4 日により、一日の中でも左右移動
  3. 性状:右側鈍痛、うんざりするような 左側ぴりぴりと鈍痛
  4. 強度:気にならない程度から中等度まで ここ数日の痛み平均VAS50
  5. 持続時間:ほぼ一日
  6. 頻度:ほぼ一日
  7. 時間的変化:起床時、仕事の後、夕方に強い
  8. 誘発因子、悪化因子:仕事した後に痛みを強く感じる
  9. 改善因子:温めたり、入浴すると痛みが和らぐ
  10. 随伴症状、関連症状:頭痛、肩こり、頸のこりが強い
  11. 疼痛時行動: 温めたり、さすったり、押したり、 マッサージしてもらう
検査所見
口腔内所見

全顎にう蝕、充填物脱落等は認めず、痛みを訴える左右上顎小臼歯部に打診痛など異常を認めず、また、歯肉に発赤、腫脹などの異常所見も認めず。

レントゲン所見

上下顎骨および、残存歯の歯槽骨、根尖部に異常所見認めず。

心理テスト

HADs-不安がやや高値、PCS-反芻、無力感、拡大視やや高値が認められた。

CBT要素分析

複数の医療機関を受診したが原因不明であることに不安感が募っている。仕事中、家族との生活のなかでは痛みを感じない時間があるが、一人での時間などに痛みが強くなり、抜歯して欲しいと勤務先以外の歯科を受診してしまう程に焦燥感が強まっている。

予備診断
左右上下顎全歯に打診痛無く、歯肉粘膜にも異常は認められない。レントゲンでも異常所見は認められず、これらの所見から、歯原性では無いと診断した。

本症例での非歯原性歯痛診査
  1. 疼痛感受歯の視診、打診による異常の有無
    あり →歯原性、上顎洞性    無↓
  2. 周囲歯肉、粘膜の感覚異常(過敏、鈍麻)の有無
    左側上顎小臼歯部歯肉に痛覚過敏あり表3 →神経障害性の可能性あり
  3. 咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋の圧痛の有無
    左右側咬筋、右側咬筋からの関連痛あり表4 →筋・筋膜痛性の可能性あり
  4. 神経血管性頭痛(片頭痛、群発頭痛)発作と一致
    あり →神経・血管性       無↓
  5. 心臓性(狭心症、心筋梗塞):所見無し
  6. 心因性:所見無し
  7. 特発性:所見無し
  8. その他:所見無し
診断
  1. 左側三叉神経第二枝 神経障害性疼痛(有痛性三叉神経ニューロパチー)
  2. 左側咬筋 筋・筋膜痛の関連痛としての歯痛
  3. 右側咬筋 筋・筋膜痛の関連痛としての歯痛
診査結果から上記の3つの病態を診断した。左側上顎小臼歯部の痛みは、神経障害性疼痛による歯肉の痛覚過敏症状と左側咬筋 筋・筋膜痛の重複した症状と診断した。右側上顎小臼歯部の痛みは咬筋、側頭筋の筋・筋膜痛による関連痛による症状と診断した。
治療

筋・筋膜痛と神経障害性疼痛が重複しているので、病態重複時の治療原則に従い、筋・筋膜痛の治療を優先させて実施し、筋症状改善後に再評価して次の治療を検討することとした。
治療経過:左右側咬筋の筋・筋膜痛に対して、セルフケアを中心とした理学療法を行った結果、約一ヶ月後、右側上顎小臼歯部の痛みは改善し、左側上顎小臼歯部には持続痛が続いていた。左右側咬筋の筋触診の結果、筋・筋膜痛は改善し、関連痛が生じなかった。左側上顎小臼歯部には痛覚過敏(Hyperalgesia)が認められた。病態の再評価結果をもとに、左右側筋・筋膜痛の治療を継続しつつ、左側上顎神経障害性疼痛の治療として薬物療法を開始した。

症例の理解

本症例は片側に筋・筋膜痛と神経障害性疼痛が重複し、他側には筋・筋膜痛があるという複雑な症例であった。同側に筋・筋膜痛と神経障害性疼痛を重複していたり、非歯原性歯痛の原疾患が重複している症例は珍しくない。非歯原性歯痛では片側例が多いが、筋緊張が強い場合には両側に筋・筋膜痛が生じても不思議はない。さらに、何らかの痛みが慢性的に続くと筋・筋膜痛が二次的に発症する事があり、結果的に元疾患と筋・筋膜痛が重複することになる。

筋・筋膜痛と神経障害性疼痛が重複した場合、それぞれの痛みが生じているはずであるが、自覚症状として痛みの分別は出来ない。また、神経障害性疼痛の治療を先行させ、奏功したとしても筋・筋膜痛の痛みにマスクされて自覚症状の改善が得られない。本症例の様に、筋・筋膜痛は治療への反応性が高く、比較的短期間で症状が変化、改善する。したがって、筋・筋膜痛の治療を優先させ、症状改善後に再評価して、神経障害性疼痛の治療を検討するべきである。

症例5 食事の際に激痛 歯がわるいと思って抜髄してもらった、それでも痛いので抜歯した。そこにはブリッジを入れたが、それでも痛みがでる、かみ合わせが悪いのか

主訴:食事の際の下顎右側大臼歯部の痛み 55歳女性
5年位前に食事の際に歯痛が生じて、近医を受診。原因不明で経過観察と言われた。数年して、激痛が再発したことから積極的な治療を希望し、抜髄を受けた。痛みは改善せず、我慢しているうちに改善した。今年正月過ぎに痛みが再発し、再度受診した。抜髄しても痛みが出るとのことで抜歯となった。同部にブリッジを装着したが、右側で咀嚼しないようにしているが食事の際の痛みは変わらず生じている。ブリッジのかみ合わせが悪いから痛みが出るのではと訴えたが、問題ないと言われた。専門的な治療を希望して来院した。
 
医療面接
  • 何処が痛いですか。
  • 下顎右側の奥歯、ブリッジの部分の抜いた歯が痛いです
 
  • 激痛との事ですが、どんな痛みですか、ドックン、ドックン脈打つ感じですか。
  • 脈打つ感じではなく、ガーーんとした痛みです。
 
  • 強さはどれくらいですか、「VASで示してもらう」
  • 「VAS100」です。一瞬ですが、強い痛みです。
 
  • 一瞬とのことですが、何秒くらいですか。
  • 一秒もないくらいです。
 
  • 痛みは出るのはどういうときですか。
  • 食事の時です、一瞬、ご飯食べるのを止めてしまいます。
 
  • 食事を止めてしまうほどとのことですが、食事の時に毎回出るのですか。
  • そうです、朝、昼、晩と出ます、そのほかにしゃべったときも。
 
  • 食事時は最初ですか、途中ですか。
  • 食べようとしたときです。
 
  • 食事の最初に出て、一回の食事中に何回も出ますか。
  • 食事に最初に一回だけです。
 
  • 食事の他に、会話の時も出るとのことですが、洗顔、歯磨きの時にも出ませんか。
  • 朝の洗顔の時に、右側をこすると出ます。歯ブラシは当てないようにしています。
 
  • 何年か前に最初に歯が痛くなってから、ずーっと痛かったのですか、自然に治まった期間もあるのですか
  • 自然に治まって、半年、1年間痛くないこともありました。Br入れてからまた痛くなったのでかみ合わせが悪いのだと思います。
診断:三叉神経痛による歯痛
本症例の理解

抜髄、抜歯後も痛みが生ずる事から、患者はBrのかみ合わせが悪いから痛みが出るのではないかと訴えていた、何とか自分の知識で自分の痛みの解決法を探したいと混乱している症例である。話の内容から非歯原性歯痛を疑って問診を開始した。VAS100の激痛が一瞬生ずる、それが食事の際に生ずることから、三叉神経痛を疑って攻めの問診を続けた。食事の最初か途中か、食後かを確認し、食事中に何回も出るかどうかから不応期の有無を確認、食事の他に会話、洗顔、歯ブラシなどが誘発因子になることを確認し、さらに自然に治まることから寛解期がある事も確認して、三叉神経痛の診断に至った。
三叉神経痛は血管の圧迫によりものがほとんどであるが、脳腫瘍等により生ずる場合もあるので、必ず原因を確認しながら治療するべきである。

本症例の治療経過

MRIの結果、腫瘍等の異常は認められず、血管による三叉神経の圧迫、変形が認められ、典型的三叉神経痛と確定診断した。患者には病態の説明、微小血管減圧術が根本的治療であること、その他の治療法も説明して、標準的治療法である薬物療法を開始することを説明する。カルバマゼピン1日量100mg就寝前服用から開始し、翌日には改善が認められた。食事の最初に弱い発作が認められたことから150mgに増量した時点で発作痛が消失した。一日量150mgを2ヶ月継続した後に一週間毎に50mgずつ漸減し、服薬を中止した。なお、カルバマゼピンの処方に際して、投与前と投与後2週間後、1ヶ月後、3か月後に副作用検査の目的で血液検査を行っている。服薬中止になった後、患者には再燃の可能性が高いこと、再燃の際は必ず再診することを説明する。

三叉神経痛による歯痛の特徴

特徴は三叉神経の神経分布に沿って数秒から数十秒の電気が走ったような痛み(発作性電撃痛)が生じることである。触れると痛みが生じる部分(トリガーゾーン)があり、洗顔や会話、食事、歯みがきなどで痛みが誘発される。くしゃみや咳、あくびなどで痛みが発症することもある。

  1. 発作性の電気が走ったような痛み(発作性電撃痛)
  2. 痛みの持続時間は数秒から数十秒
  3. 洗顔、会話、食事、歯みがき、くしゃみ、咳などで痛みが誘発される
  4. 触れると痛みが誘発される部位がある
  5. 通常、片側性の痛みである。
  6. 発症は50歳以上が多い。

症例6 ここ数年、秋頃になると夜中にひどい歯痛が生ずる、ベッドの上でのたうち回るほど、痛い歯は抜髄してもらったが、また、同じ痛みが出て来た。

主訴:上顎大臼歯部の激痛 35歳

ここ数年、秋頃になると歯痛が生ずる。特に、夜中に激痛で目が覚める。発症した頃に数回歯科を受診したが、痛みを感じる左側上顎の歯には異常がなく、原因不明だと言われていた。
昨年、別な歯科を受診して、前医と同様に上顎左側の歯には異常は無いと言われたが、頼み込んで抜髄をしてもらった。抜髄後も数週間痛みが続いてたが、暫くして治まった。
今年になってまた、同様の激痛が生ずるようになったので専門的な診査を希望して来院した。

医療面接

最初は症状把握のオープンクエスチョン、答えからいくつかの鑑別診断を想起して、途中から確認の為の 攻めの問診(クローズドクエスチョン)を進める。 

  • 左側上顎の奥歯が痛い様ですが、そこだけですか
  • 痛いときは、そこと顔全体、眼の奥に激痛です。
 
  • 激痛との事ですが、どんな痛みですか、ドックン、ドックン脈打つ感じですか。
  • 脈打つ感じではなく、ガーーんとした痛みです。
 
  • 強さはどれくらいですか、「VASで示してもらう」
  • 「VAS100」です。痛い時は何もできない位です。
 
  • 一回の痛みはどれ位続きますか。
  • 一時間くらい続きます。
 
  • 治まった後に歯に触ったり、食事して刺激すると痛みが出ますか
  • 全然痛くない、激痛が治まると、後は全然痛くない。
 
  • いつ痛くなりますか、何かきっかけはありますか
  • きっかけはありません、日中にも起こるが、夜中に痛みで目が覚めるのが困っています。
 
  • 夜中に激痛で目が覚めて、1時間くらい続くのですか
  • そうです、ベッドの上でバタバタすることがあります。
 
  • 激痛でじっとしてられないということですか。
  • 痛くて、じっとしていられないので、布団の上でバタバタすることがあります。
 
  • 歯痛の他に顔全体、眼の奥に激痛とのことですが、頭は痛くなりませんか。
  • 歯が痛い側の、顔全体、目の奥からこめかみの辺りが痛くなります。
 
  • 痛いときに鼻がつまったり、鼻水が出たり、目が充血、涙が出たりしませんか。
  • 鼻水がでます。また、涙も出て、ぐしゃぐしゃになります。治まって鏡を見ると充血しています。
 
  • 毎日痛みが出ますか。
  • ほぼ毎日です。一日に数回起こることもあります。
 
  • アルコール飲むと痛みが起こりませんか。
  • 最初の頃、アルコールを飲んだ日は決まって寝付いて間もないか、朝方に痛みが起こったので、今は飲まないようにしています。
 
  • 今まで、一端痛みが出始めると何ヶ月くらい続きますか。
  • ここ数年この時期になると1~2ヶ月は歯痛が続きます。
 
  • その間はお酒を飲めないのですね。
  • 飲むと必ず、夜中に痛くなるので、我慢します。
診断:群発頭痛による歯痛の疑い
本症例の理解

抜髄後にいったん治まった歯痛が再発したこと、激痛である事から、非歯原性歯痛の可能性も念頭に、歯痛一般の問診から始めた。そこで得られた情報の中からkeywordを探し、いくつかの鑑別診断を想起する。本症例では、「夜中に起きる」、1時間位じっとしていられない程度、VAS100の痛みが続き、治まると歯には全く症状がなくなることから群発頭痛を疑って、攻めの問診を始めた。歯痛と共に目の痛み、側頭部痛が生ずるかどうか、群発頭痛の特徴である自律神経症状があるかどうかを確認し、頻度、持続時間、頭痛期間、アルコールによる誘発などを確認して、診断に至った。群発頭痛は特徴的な症状を示すので診断しやすいように思えるが、歯科を受診する際は頭痛やその他の症状については全く訴えずに、上顎大臼歯部の激痛を訴えるのみで、歯にはいかなる誘発痛も認められない状況である。診断の手がかりは歯痛が生じているときの状況をいかに聞き出すかである。
患者は歯痛の他に眼痛など症状があるにも関わらず歯科を受診するのは、歯痛が原因でその他の症状が生ずるのだろうと思っているからである。したがって、歯科受診した時は歯痛以外の症状は全く訴えないことが多く、医療面接でkeywordを感知して攻めの問診が必要である。

本症例の治療経過

頭痛を専門とする神経内科医に紹介した。各種の専門的診査の結果群発頭痛である事が確定し、予防治療と頓挫療法が行われた。予防薬として、神経細胞膜の安定化作用のあるベラパミル塩酸塩(ワソラン錠360mg/日)が毎日服用に処方された。また、頭痛発作時の頓挫薬としてスマトリプタンの在宅自己注射を行うことが指導されて処方を受けた。また、高濃度の酸素を7L/分、フェイスマスクを用い15分間吸入する方法があることを説明された。約二ヶ月の群発期が経過して頭痛発作が全くなくなったので、治療をいったん中止した。半年-1年で再発する可能性があることが説明され、再発の際は直ぐに再受診するように指導を受けた。

顎関節症症例

典型的な顎関節症患者さんからの質問と答え

質問1:口を開けたり閉じたりするときに、耳の前あたりで「カックン」という音がします。
最初はあまり気にしていなかったのですが、最近は食べ物を噛むときに軽い痛みを感じるようになり、食事を終えるころにはあごがかなり疲れてしまいます。なんらかの治療を受けたほうがよいのでしょうか。

25歳/女性/会社員

 

あごの関節やその周辺の筋肉に障害が起こり、「あごを動かすと痛い」「食べ物をかんだり長くしゃべるとあごが疲れる」「口を開くとカックンと音がする」「口が開きにくい」などの症状が起こる病気を顎関節症といいます。以前は、かみ合わせが悪いことが原因といわれていましたが、現在では、日常生活の中で無意識のうちにあごに負担をかける動作をしていることが主な原因であるといわれ、「気がつくと歯をくいしばっている」「歯ぎしりをする」「食べ物を決まった側でかむ」などに注意が必要です。
 質問者の症状は顎関節症の典型的な症状で、顎の開閉口で「かっくん」という音は関節円板の転位よるもので若年者によく診られる症状です。
音だけであれば治療の必要はありません。 開閉口時に痛みを伴う場合や噛むときに痛みが生ずる場合には治療が必要になります。関節痛の最大の原因は睡眠中の歯ぎしりです。
食事の後にアゴの疲れを感じるのはアゴを動かす咀嚼筋の症状です。日中、何かに集中している時や睡眠中にかみしめていたり、片側だけで咀嚼していたりすることによって筋肉に負担をかけていることが原因になります。
痛みなどの症状があったら、我慢しないでかかりつけの歯科医に相談しましょう。そのうえで、自分自身で病気を理解し、修正していくセルフケアを行うことが最も重要です。これは、再発予防にも役立ちます。
 関節が痛む場合は「硬いものを食べない」「痛む側でかまない」「口を大きく開けない」などに注意しましょう。また、歯ぎしりによる関節痛に対してはマウスピースで治療します。筋肉に問題があるときには、指3本を縦に口の中に入れて30秒間筋肉を伸ばす、咬筋のストレッチングを行います。また、かみしめなどのくせを改善するためには、「口の中をなめるように舌を動かす」「肩を上げ下げしたり回したりする」などの新たな動きを追加して、元からのくせを中断させる方法が有効です。
このようなセルフケアによって、多くの場合症状は1か月から半年ほどで改善します。

症状がなくても、歯を食いしばったり肩をこわばらせたりするくせがある人は、あごの関節や筋肉に異常がないか調べてみましょう。口を開け閉めして、耳の前側にある顎関節に痛みや音がないかチェックします。また、あごの関節の少し下にある咬筋(こうきん)が大きくなっていたり、片側だけ厚みがある場合には、歯ぎしりや食いしばりなどで負担がかかっている可能性があります。顎関節に異常があったり、噛むための筋肉に障害がある場合、口を開きにくくなったり、痛みを感じたりする原因となります。 

セルフケアで症状改善

痛みなどの症状があったら、我慢しないでかかりつけの歯科医に相談しましょう。そのうえで、自分自身で病気を理解し、修正していくセルフケアを行うことが最も重要です。これは、再発予防にも役立ちます。
 関節が痛む場合は「硬いものを食べない」「痛む側でかまない」「口を大きく開けない」などに注意しましょう。痛みが治まれば普通の食生活ができます。筋肉に問題があるときには、指3本を縦に口の中に入れて30秒間筋肉を伸ばす、咬筋のストレッチングを行います。また、食いしばりなどのくせを改善するためには、「口の中をなめるように舌を動かす」「肩を上げ下げしたり回したりする」などの新たな動きを追加して、元からのくせを中断させる方法が有効です。
このようなセルフケアによって、多くの場合症状は1か月から半年ほどで改善します。改善しない場合は、必要ならば専門医を紹介されることもあります。

質問2:顎に違和感があります。若いときに顎が外れたことがあります。それ以来、口を大きく開け、そのあとに口を閉じる動作のときに、顎の関節がゴキゴキと鳴るようになりました。また、少し長くものをかんでいると、顎の疲れを感じます。顎の関節に異常が起きているのでしょうか。治療を受けたほうがよいでしょうか。

60 歳代・男性


質問者が訴えている、若いときに顎が外れて以来、口を開け閉めするときにゴキゴキ鳴る、また、現在、少し長くかんでいると顎が疲れるという症状を合わせて考えると、顎関節症だと思います。
若いときに顎が外れたというエピソードは本当の顎関節脱臼であった可能性と、関節円板転位によるクリック症状であった可能性もあります。顎を開け閉めしたときに生ずる音には二種類あります。最も多いのが、ズレている関節円板が戻ったり、またズレたりする事により、口を開けたとき、閉じたときのどちらか、あるいは両方で生ずる、指を鳴らすようなカックンというはっきりしたクリック音です。もう一つの音は下顎窩、下顎頭あるいは、その間に介在する関節円板に凸凹が生じ、そこに関節を押しつけあう力が強くなり、摩擦力が強まって生ずるゴリゴリ、ザラザラ、ガリガリというクレピタスと呼ばれる軋轢音です。この患者さんのゴキゴキという音は後者のクレピタスに該当すると思えます。
病気の進行は、カックンというクリック音がする状態が悪化すると、ズレている関節円板が障害になり、関節の炎症も加わって関節が上手く動かなくなり開口障害が生じます。口が上手く開かない状況が数ヶ月続いた後に、炎症の改善にともない次第に関節の前方への動きが大きくなります。その結果、開閉口時に下顎の前後運動によりゴキゴキ、ゴリゴリといった音が生ずるようになります。ただし、多くの患者さんはカクンで止まっています。
質問者のもう一つの症状である、少し長くかんでいると顎が疲れるという症状は咀嚼筋の症状で、くいしばり等で咀嚼筋に過剰な負荷が掛かることにより、安静時には症状が無いが、咀嚼などで負荷が増すことにより生じます。今ある筋症状の原因は今現在、筋に負荷がかかっていることで、以前のあごが外れるとか、ゴリゴリの雑音が原因ではありません。逆に、このように筋緊張が強い場合には上記の様に関節を押しつけ合う力が強まって、ゴリゴリ、ゴキゴキといった雑音が生じ易くなります。
従って、今現在、かみしめ等のアゴに余計な力をかけていることが筋肉、関節の症状を作り出していると推定されます。顎関節症専門医を受診して、現在の症状を確認してもらう事、原因となっているかみしめを止める方法等の指導を受けるのが望ましいと思います。

質問3:あごやこめかみに鈍い痛みが続いています。歯科でスプリントを淹れてもらい、朝起きたときには少し軽くなっていますが夕方に強くなり、頭痛も感じます。以前に歯科治療で長く開いた後にあごがガクガクして、大きく開けられなくなり、それ以来、あごの具合が悪い状態が続いているような気がします。以前から内科で自律神経失調症と言われて体調が悪くなることがあります。どうすればあごやこめかみの痛みが治るでしょうか。

55歳 女性

質問者は、現在、こめかみの痛みで頭痛、下顎の頬の筋の鈍い痛みがあり、さらに、以前に歯科治療中に顎がガクガクした、口を大きく開けられない、等の症状がありましたので、顎関節症の全ての症状をもっているようです。
顎関節症患者の多くは質問者の様に、多くの症状を併発しています。それは症状を生じさせる原因が共通するからです。現在、顎関節症の第一の原因はくいしばり、歯ぎしりなど顎にとっては非機能的な動作をすることで顎関節、咀嚼筋に負担がかかりすぎることであるとされています。夜間就寝中のはぎしり、くいしばりが強い場合には起床時に症状が強く、日中のくいしばりが強い場合には午後から夕方にかけて症状が強くなっていきます。
顎関節症の発症は、この質問者のように歯科治療がきっかけになることが多いようです。はぎしり、くいしばりにより顎関節症が発症するほどではないがある程度に負荷が掛かっている状態の人が、歯科治療により長時間開口していると、さらに筋の負荷が高まったり、関節への負荷が加わったりして、限界を越えて関節痛、筋痛が発症します。また、質問者の既往歴にある自律神経失調症が顎関節症と関連することがあります。自律神経失調症は正しい病名ではありませんが、自律神経が関わる様々な生体調整が正常になされていないことを指し、交感神経過緊張により筋緊張が生じたり、睡眠障害により睡眠中のくいしばりによって筋緊張が高まっていることがあります。
治療にあたっては、専門医による原因と症状の見極めが必要です。ご本人の下顎の頬の筋肉が痛いという自覚症状ですが、多くの場合、自覚症状から関節痛、筋痛の鑑別は困難です。また、症状は、朝は比較的軽いとのことで睡眠障害によるくいしばりは症状を増悪させる程には強くないか、また、スプリントが何らかの効果を出している可能性が推測されます。しかし、質問者の経過は良くないことから何らかの原因が続いていることが考えられます。
顎関節症治療の原則は、
1)関節痛に対しては側方ガイド付きスプリントを睡眠中装着し歯ぎしりによる顎関節への負荷を減らすこと、痛みを出さないように顎運動を控える安静と非ステロイド性消炎薬の処方、
2)筋痛に対しては睡眠中のくいしばりを改善する目的に睡眠障害の改善を計ること、患側で咬まない、かみしめをしないなどの負荷軽減と積極的筋ストレッチを行うことです。

質問4:一年前に顎の関節が痛み、ペインクリニックで3回ほど注射をしてもらい治まりました。しかし、その後も時々軽い痛みがあり、大きく開けられないため握り寿司は二つに分けないと食べられません。大さじもつかえません。よる、横になるとアゴが重く、口を開けると異和感があります。朝目が覚めて、初めて口を開けるときに大きな音がし、強い痛みが出ます。歯科を受診したところマウスピースを進められましたが、眠りが悪く睡眠導入剤を使っているので使用をためらっています。口腔外科では手術を勧められましたが、やはり手術をしないと治らないでしょうか。

75歳女性

ペインクリニック科にて顎関節への注射を受け改善した後にも症状があり、朝、起床後の最初の開口で大きな音がして強い痛みがあるとのこと、原因は就寝中に歯ぎしり、くいしばりで強い力が加わることだと思います。睡眠が浅い場合には特にくいしばりが強くなります。くいしばりによって咀嚼筋が緊張し、顎関節では下顎頭が関節窩に押しつけられた状態になり、口を開けようとすると緊張していた筋が伸びない、圧迫されていた関節部分の滑りが悪くなって動かない、あるいは音がするなどの症状が生じます。また、歯ぎしりをしていると顎関節は会話、食事の際の動きを遙か超えて、関節を後方に強く押しつける、前方に強く引っ張り出すなど大きな動きをしていて、関節に炎症を引き起こします。
質問者の症状に戻って、痛みが出る、アゴがだるい、握り寿司を二つにして食べる、大さじが使えないなどを合わせて考えると、顎関節と咀嚼筋の両方に症状があると思われます。両方に問題がある場合は最初に顎関節の痛みを治療します。顎関節痛は基本的に歯ぎしりによる炎症ですから、歯ぎしり対策のスプリントを使ってもらいます。また、痛い側で咬まないようにしてもらいます。食事に支障がある程の痛みの場合には消炎鎮痛薬を服用してもらいます。以上の治療により関節の痛みが消えるはずです。しかし、睡眠中の歯ぎしり、くいしばりが強くなるのはストレス等による睡眠障害が関連する事があり、睡眠障害の原因について確認する必要もあります。また、睡眠障害があるとスプリントが気になって装着できないこともあります。
アゴを動かしても痛くない状況になったところで、咀嚼筋の治療を始めます。咀嚼筋の治療は第一に日中に持続的緊張させない、つまり、アゴが強ばっていないか気をつける、また、痛い側では咀嚼しない事は関節痛と共通です。次に積極的に1時間に一回、30秒の3横指開口ストレッチを行い、緊張した咀嚼筋を伸展させます。以上の治療により関節症状、筋症状が改善するはずです。
顎関節症では手術の必要性はほとんどありませんが、睡眠障害と併せて心理精神的な原因が関与している場合もあり、専門医による診察が望ましいと思います。

質問5:口を開けるときにアゴの関節がガクガクします。最近は、あくびをしたときや食べ物を咬むときに痛みが出るようになりました。普段から歯をかみしめる癖があるようですが、治療を受けた方が良いでしょうか。自分で出来る改善方法があれば教えてください。

30歳女性


口を開けたときに音がする、あくびと咬んだ際に痛みが出る事から顎関節症と思われます。顎関節症にはいくつかのタイプがあり、それぞれで治療法が異なります。アゴを動かして痛い場合には、関節の痛みと筋肉の痛みが考えられます。関節の痛み、筋肉の痛みの原因は就寝中に歯ぎしり、くいしばり、日中のかみしめで強い力が加わることです。睡眠が浅い場合のくいしばりや日中のかみしめによって咀嚼筋が緊張し、口を開けようとすると緊張した筋が伸ばされて痛い、開かないなどの症状が出ます、また、顎関節では下顎頭が関節窩に押しつけられ、痛い、圧迫部分の滑りが悪くなって開かない、あるいは音がするなどの症状が生じます。また、就寝中の歯ぎしりによって、関節を後方、前方に強く押しつけるなど大きな力がかかり、関節に炎症を引き起こします。
治療法は関節痛、筋痛で異なり、顎関節の痛みを最初に治療します。顎関節痛は基本的に歯ぎしりによる炎症ですから、歯ぎしり対策のスプリントが必要です。また、痛い側で咬まないようにします。食事に支障がある程に痛い場合は消炎鎮痛薬を服用してもらいます。以上の治療により関節の痛みが消えるはずです。
睡眠中の歯ぎしり、くいしばりは睡眠障害により強くなることがあり、睡眠障害の原因について確認する必要があります。また、睡眠障害があるとスプリントが気になって装着できないこともあります。
アゴを左右に動かしても痛くない状況になったところで、咀嚼筋の治療を始めます。咀嚼筋の治療は負担を減らすために、第一に日中にかみしめない、痛い側では咀嚼しないようにします。次に積極的に1時間に一回、30秒間、指三本縦に入れて開口ストレッチを行います。緊張した筋をストレッチしたときに痛みはありますが止めれば痛みは消えます。このように、関節痛、筋痛を区別して、それぞれに対して治療を行います。
近くに相談できる専門医がいない、今、治療を受けているが別な医師から意見を聞きたい場合などに、インターネットを介して専門医と対面型でより具体的な健康相談を行うことが出来きるようになっています 

当クリニックで治療した典型的顎関節症例

症例1 主訴:あごのだるさとこわばり

Aさん21歳女性、入社一年目
Aさんは社会人一年目、入社してすぐの研修から、職場に配属になり、見るもの、聞くこと全て初めてのことで、慣れない生活をおくっていました。職場に就いて一ヶ月くらい経った頃から、起床時にあごのこわばりを感じるようになりました。朝食、昼食には支障なく、日中は気になりませんでした。ところが、夕方になるとあごのだるさが気になるようになり、夕食時には口があまり大きく開かなくなりました。食べているとあごのだるさが強くなり、食事を続けられなくなることもあるので、不安になって来院したとの事でした。
診査結果:Aさんの開口量は28mm、指二本入るのがやっとでした。少し力を入れて開けても33mmしか開かず、左側の頬にある咬筋に強い緊張が生じます。こめかみの筋肉(側頭筋)や首の筋肉にも強い緊張がありました。下顎を前に出してもらうと、関節は痛みなく、普通通りに動いています。このことから、Aさんは筋肉の緊張のため、あごがだるくなったり、口が開かなくなったり、食事中にだるさが強くなって食事を続けられなくなるようになっていたと診断できました。
起床時にあごのこわばりを感じていることから、睡眠について尋ねました。職場についてから、精神的緊張からか、この一ヶ月は熟睡できず、起床時にはあごのこわばりだけでなく、肩こりも強く、固まった状態で起床するとの事で、寝る前よりも朝が疲れているとのことでした。睡眠が浅く緊張状態で寝ているのだと思います。
また、夕方にこわばりが強くなることから、「日中、仕事中に歯をくいしばっていませんか」と尋ねたところ、「そういえば、あごにも肩にも力が入っている感じがする」との答えでした。休みの日はどうですかと聞くと、熟睡して寝坊し、買い物に出掛けたりして快調だとのこと。社会人一年目で緊張と慣れない仕事、毎日のPC作業などでストレスが生じ、日中に緊張に加えて、睡眠が悪くなり、かみしめていたようです。
指導内容: あごの症状がこのような精神的、肉体的緊張によって生じたことを説明し、社会人としてすぐに仕事のストレスを無くすことはできませんが、症状を改善させるためには直接の原因になっている肩を持ち上げ、かみしめていることを少しでも減らすことを指導しました。
具体的には、1)こわばっている側で食事しないこと、2)仕事中、肩が持ち上がり、かみしめていないか、出来れば一時間に一回確かめてみる。3)かみしめている、あるいは、こわばっていることに気づいたら、舌で上顎を数回舐めてみる、あごがリラックスできます。そして可能ならば、4)その際に口をなるべく大きく数回開けてみる。どちらかの頬に突っ張りを感じたら、突っ張っている部分をストレッチするようにもっと大きく開けてみる。ストレッチは30秒以上することが原則です、30秒のストレッチを補助するためのブロックを用意してあります。
また、家庭では次のようなセルフケアをするように指導しました。1)帰宅して、あごのこわばりが強いようなら、蒸しタオルで10-15分くらい温湿布をして、その後に30秒開口ストレッチをする。2)就寝前に入浴し、気分転換してリラックスする。身体を温めて、開口ストレッチを行う。
治療経過: 2週間後に再来した時は自力で35mmまで開口できるようになっていました。その後もセルフケアを続けてもらい、初診から4週後には、「仕事中に時々、かみしめている事があるが、以前の様に夕方になってあごがだるくなることはなく、だるくて食事を中断するようなことはなくなりました」と明るい表情で語ってくれました。
 

症例2 主訴:開口時の音と左側あごの痛み

Bさん16歳女性 高校生
高校生のBさんは数ヶ月前から、起床時と食事時に左のあごに音がすることに気づいていました。痛みはなく、日常生活では支障がなかったので気にしていませんでした。1週間前、朝フランスパンを食べた後、左あごに痛みが生じました。その日の昼食時には痛くて、大きく開けることができなくなりました。数日して、あくびはできるようになったが、少し開くとカクッと音がし、痛みも出ます。また、大きく開けたり、固いものを咬んだりすると痛みが出ます。一番痛いのは毎朝、起床時の口を開けたときにガクンと言う音がするときです。なかなか痛みがとれないので来院したとのことでした。
診査結果: Bさんの最大開口量は35mmで音がして痛いが開けられる状態でした。下顎を前に引くと、左の関節に痛みが出ました。左の咬筋はこわばりがあり、肥大しています。また、犬歯にすり減りがはっきり見えます。
Bさんは以前から顎の音がしていたということで、関節円板という関節の間にあるクッションのようなものがズレていて、開け閉めの際にズレた円板が移動するときに音がしていたと思われます。音に加えて痛みも出るようになったのは、フランスパンを咬んだときに関節円板の位置が安定しない状態で関節に強い力がかかったことですが、関節の音に加えてと関節痛が治らない主な原因は就寝中の歯ぎしりと考えられます。口を開け閉めすると音が出る人は多数いますが、音だけであれば治療の必要はありません。しかし、音とともに痛みが出る場合には治療が必要です。
顎関節症によるアゴの痛みには関節痛と咀嚼筋痛があり、Bさんのように開口時に音と共に痛みが出る場合には関節痛の可能性が高いです。関節痛はギックッとした痛みで、痛みが出ると一瞬それ以上は顎を動かせないくらいです。
指導及び治療: 現在の顎の状況について判りやすく説明し、基本治療として顎関節に炎症が起こっていますから顎を安静にする、負担をかけない事を指導しました。具体的には痛い程大きく開けない、痛い側で咬まない、固いものを避けるなどです。痛みの為の食事に支障が出るようであれば、消炎鎮痛薬を飲んでもらいます。治療として、歯ぎしり対策を施したスプリントを就寝時に使うことを勧めました。このような治療により、ズレた関節円板は元の位置に戻る事はありませんが、敢えて戻さなくても症状は次第に消えてきます。
治療経過: 一週間後の再来では痛みも音も変わっていませんでした。スプリントを装着し、歯ぎしり対策の調整をしました。初診から三週間後、自力最大開口は42mmになっていて、口を開けたときに音と共に痛みが出ますがかなり軽くなりました。また、起床時の強い痛みはずいぶん軽くなったと事でした。スプリントを観察すると、歯ぎしりによって削れたあとがはっきり見えました。そのまま使ってもらい、初診から5週後、口を開けた時の痛み、起床時の痛みはなくなりました。音はかなり小さくなり、日常生活では気にならない程度だとのことでした。スプリントはそのまま継続してつかってもらいました。初診から2か月後、Bさんの関節の痛みはすっかり消えていました。「時々、硬いものを咬んだときに音がしますがそれ以外は痛みも音も気にならなくなりました。」との事でした。スプリントは歯ぎしりによる再発予防のために使い続けることとして、定期的に診察を続けることにします。

症例3 主訴:開口障害、開口時左側頬部痛み

Cさん32歳女性 主婦

商社に勤める夫の海外赴任伴い、米国で生活しているCさんは、4,5年前から関節に音が生じ、何回かあごの痛みや口が開かなくなることがあり、食事の際に不自由を感じたことがあったそうです。その時は特に治療を受けなかったがいつの間にか症状は消えていたそうです。しかし、3ヶ月前に再び音がするようになり、気にはなったものの、治療を受けることが出来ず、そのままにしていたそうです。1ヶ月前のある朝、突然、口が開かなくなってしまいました。口を閉じているときは特に痛みはないが、口を開けようとすると左の頬につっぱり感と痛みが生じ、開くことが出来ませんでした。
以前、友人が顎関節症になり、「いろいろな治療を受けてもなかなか治らず、苦しんだという」話をしていたことを思いだし、不安が募りました。そこで、浦和に住んでいる母親の病気見舞いをかねて、一時帰国し、来院されました。
診査結果: 触診すると、左側の顎関節の動きが制限され、また、左側の咬筋が特に大きく、緊張がみられ、押すと強い痛みがありました。開口してもらうと、自力では28mmしか開かず、強制的に開口させても32mmです。あごの不具合の他に、起床時に、背中、肩、首のこりがあり、後頭部から全体的に締め付けられるような頭痛もあるそうです。
Cさんに生活状況を尋ねると、慣れない海外で不安を感じること、周囲に友人や知人も少ないことなどから、常に緊張した生活を送っていることが判りました。少し神経質な性格のCさんは母親が病気で入院したことで不安が増し、ここ数ヶ月はよく眠れない日々が続いていたそうです。
 あごの周りの筋肉や首と肩の筋肉に緊張があり、首の筋肉の一部を押すといつも感じている頭痛が再現されたことから、筋・筋膜疼痛が生じていると診断しました。
また、このような痛みが起床時に強い事から、就寝中にくいしばっている事が疑われました。4-5年前に症状が出たときの様子をうかがったところ、結婚の時期でいろいろと大変だっと言うことでした。高校生の頃から、何かいつもと違った出来事があると眠れなくなり、体調を崩すことがあったとの事でした。神経質な性格のため、ちょっとしたことでも精神的ストレスが起こりやすく、睡眠障害が生じ、くいしばりが強くなって筋緊張が生ずるという図式が当てはまります。
指導と治療内容: Cさんには神経質な性格、海外生活、お母様の病気による精神的ストレス、日中の緊張と睡眠障害、くいしばりによって筋緊張が生じて開口障害が起こっていることを説明しました。そして、具体的に「あごに余計な力が入らないようにすること、そのためには具合の悪い左では食事をしないこと。無意識に肩に力を入れて持ちあげ、その時にあごにも力が入り、かみしめている可能性があるので、気がついたら肩を上下させてみる、あるいは、舌で上顎を数回舐めてみる、あごがリラックスできます。そして、口をなるべく大きく数回開けてみる。どちらかの頬に突っ張りを感じたら、突っ張っている部分をストレッチするようにもっと大きく開けてみること」を指導しました。これで筋肉の緊張がかなり緩和するはずです。
治療経過: 1週間後、再診されたCさんは初診時よりも5mmも開口量が増していました。Cさんは帰国して、慣れ親しんだご実家で生活できたこと、お母様の病状が悪くないことも判って、安心されたようでした。30秒開口ストレッチによって咬筋の緊張が改善してきましたから、更に緊張を改善するために超音波療法も併用することとしました。二日に一回通院してもらい、約5分間、咬筋と肩首の僧帽筋に超音波を当てました。超音波は深部の筋を温め、細かくマッサージする作用があります。また、肩の筋肉に対する積極的なストレッチも指導しました。セルフケアを継続することの重要性を説明し、これまで以上に実践してもらうこととしました。次第に筋肉の症状は改善し、帰国して一ヶ月後には口に指三本を縦にそろえて入れられまでに回復しました。米国に戻るにあたって、もう一度、神経質な性格の人がストレスが増えると、睡眠障害が生じ筋緊張により口が開かなくなりやすいことを説明して、一日に数回、指を三本縦にそろえて口の中に入れて、30秒ストレッチをする、首のストレッチをすることなどを再確認しました。そして、もしも具合が悪くなったら、何時でもインターネントを介した相談が出来ることを説明しました。