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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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痛覚変調性疼痛治療-患者さんを支えること

2024年はNociplasticPain(2017)、痛覚変調性疼痛(2021)とはどんなものなのかと痛み関連の人達の関心を集めました。
今年はもっと具体的な話しが出てくるでしょう。期待します。
昨年は関心が高まった結果、まるで新しい痛みが見つかったように、しかしながら、心因性疼痛(国際疼痛学会では正式用語ではないらしい)が消えて、それに代わるわけではないと言われるが、途中経過として様々な用語(心因性疼痛から始まり、非器質的疼痛、中枢神経機能障害性疼痛など、精神科領域では身体表現性障害(疼痛障害))で呼ばれてきた痛みに中枢感作を主たるメカニズムとする正式名称が与えられたと言うことだと思っている。中枢感作は痛み神経系に使われる用語なので、痛覚変調性疼痛診断の際に検討される併発疾患である光過敏、音過敏、睡眠障害、匂い過敏、夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題などは中枢感作とは言えないが、痛み系の中枢感作の他に脳機能全体が変調した状態と捉えるべき。問題は何故侵害受容系が変化してしまい、他の脳機能全般を巻き込むまでになるのかのメカニズム解明と現実的にはどのように治療するかである。
Kosecの最新論文(The concept of nociplastic pain—where to from here? PAIN 165 (2024) S50–S57)によると、薬物療法は神経障害性疼痛の薬物療法と類似している、ということで目新しいものは無く、トリプタノール、プレガバリンの投与とともに、TopDown発生因子の精神心理的ストレスが疑われるときはBiopsychosocialモデルとして心身医学的対応をすることに尽きる。認知的共感を目的とした傾聴で支えてあげることに尽きる
Biopsychosocialモデルとして心身医学的対応には各自の心身医学的対応トレーニングの程度により支えのレベルが異なるが、まずはこのような考え方を持つことが大事と思っている。患者さんを支えることにより自然治癒能力が発揮されて、良い方向に向かってくれる。下手な治療で邪魔してはいけない。


 
2025年01月07日 10:17

口腔顔面痛雑感 




痛み治療では上記の神経系の病態だけではなく、患者さんの心への対応が必要です。患者さんに何故こんな風に痛くなったのかというメカニズムを探して説明する前に、応急処置が必要です。「傾聴、受容して、患者さんの状況について共通認識を持つ」、そして、多くの患者さんが痛みとともに大きな不安感を抱えていることも把握し不安を和らげることが必要です。これが従来からの当クリニックの基本的二本立て対応です。
口腔顔面痛、顎関節症の患者さんを診ていてあらためて思うこと 多くの症状はセルフリミッティングで自然に治ります。ところが、大きなストレス、患者さん自身の間違った解釈による、感情変化、間違った行動などにより、直るべきものが直っていないことがあります。このような患者さんでは解釈モデルを正しい方向にすり合わせて正しい知識を持ってもらい、余計な不安、怒りを静めるなどして、自然治癒能力を高める手助けするのが我々の治療です。ところが、治すべき治療であるはずが余計なこと、例えば咬合治療です、患者自身の自力治癒能力を邪魔するような治療をしていることがあります。感覚に鋭敏な方がストレス等で不安感が高まって、かみ合わせが気になる、自称顎関節症の専門家を受診、咬合調整、咬合再構成、矯正治療等がはじまった、ところが、このような感覚鋭敏の方は変化を受け入れられません、そのため何時まで経っても受け入れられるかみ合わせは無いのです。本当は余計な治療を始めなければ良かったのですが、今の泥沼状況から救い出すには、顎関節症についての正しい説明をして、患者さんの解釈モデルを少しずつすり合わせることにより患者さんとの信頼感を構築し、片手だけのつながりでも、それを頼りに患者自身に這い上がってもらうことです。
まだまだ、口腔顔面痛、顎関節症の標準的治療が行われていないことに苛立ちます。学会活動、マスコミを通じた広報、まだまだですね。

9月の米国タフツ大学の口腔顔面痛Webinarで歯内療法後の不快症状が何で起こるのかという話しがありました。原因として、不確実な歯内療法があるでしょうがそれはちゃんとした治療をすれば治ること。ちゃんとした歯内療法にも関わらず半年経過しても不快症状が続く場合があるという話しは以前からありました。その原因が歯内療法、特に抜髄以前の痛みの持続期間と関係あるという話し、以前から、抜髄前に3ヶ月以上痛み期間が有意な原因と言われていましたが何故かは言及されていませんでした。タフツ大のWebinarでは、抜髄前の歯髄痛により痛み信号が末梢神経、中枢神経と伝わり、三叉神経細胞体等の要所を興奮させてしまい、中枢感作につながるという話しでした。知覚過敏も同様、痛み信号全て脳に伝わって感じられること、状況に寄っては神経系を荒らして興奮させてしまい、長く続くと歯の問題ではなく神経障害性疼痛と同様になるということが再認識されました。

痛覚変調性疼痛の理解が深まり、現状で何をすべきかが少しずつ見えてきました。特効薬はなく、特別の治療法もありません。使い古された言葉ながら、患者さんに寄り添って、支えていくことがもっと効果があるようです。
慢性疼痛は人間の生存の為に警告信号としての痛み信号が高まったままに維持された状況、そして、痛みだけではなく、その他の感覚や自律神経系も変調しているので、言わば、脳機能変調というのが私の理解です。
2024年12月30日 10:32

口腔顔面痛を正しく診断 TMD+痛覚変調性疼痛典型例

皆さん一年間おつかれさまでした。私は金曜日に仕事を終えて解放されています。生来の貧乏性の故、のんびりしながらも次に何を勉強しなければと記憶に残った資料を探しています。
今はっきりしていることは、私の口腔顔面痛臨床は二本立てです。
一つは、口腔顔面痛を正しく診断する事です。
最終週にその必要性を強く印象づけられる初診2例と再診1例ありました。順に紹介します。
症例1:35歳男性スイス人(8年前に日本に一年間滞在したことがあり、日本語日常会話可能)
主訴:2ヶ月前から顔面、頭部、頸部全体が痛い、胸部も痛い
約10年前から顎の具合が悪く、開口障害を数度経験し、顎関節脱臼もの経験もある。スイス、フランスで複数の歯科を受診し、咬合治療、スプリント治療の経験あり。数年前から前歯部開口となり、矯正治療、顎矯正治療を勧められたこともある。
三ヶ月前に来日、睡眠障害、不安感が強く、夜中に痛みが強くなることがある。
心理テスト:HADs(不安14点、うつ13点)、PCS(反芻15点、無力感16点、拡大視8点)
睡眠障害診査:入眠困難、熟眠障害、途中覚醒4-5回、起床時疲労感+
光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘(過敏性腸症候群)
局所診査:
  1. 歯原性、非歯原性の診査:口腔内異常なし、歯原性を否定
  2. 感覚検査:口腔内感覚障害無し、顔面全体にallodyniaが認められる。
  3. 脳神経検査:上記顔面全体のallodynia以外、異常認められず。
  4. 筋触診:右側咬筋肥大+ 硬結+ 圧痛+関連痛無し、右側側頭筋肥大+ 硬結+ 圧痛+ 関連痛なし、右側後頸部圧痛++、右側胸鎖乳突筋硬結+ 圧痛+。
  5. 顎関節診査:ROM54mm、右側下顎頭滑走制限 顎関節痛誘発試験:牽引痛++、圧迫痛なし、 左側下顎頭滑走制限なし 顎関節痛誘発試験:牽引痛なし、圧迫痛なし 左右茎状突起腫大++ 圧痛+  左側下顎頭の可動性は大きい、全身Hypermobilityあり
  6. 咬合状態:前歯部開口、上下顎前歯部切端に咬耗あり、タッピング位では左右大臼歯(678)でBiteしている、小臼歯から前方は離解
臨床診断:右側顎関節疼痛障害-体質的な全身関節のHypermobilityがある状況で、Grinding(左右茎状突起腫大、圧痛)が加わり、咀嚼側顎関節に前方滑膜炎が生じている)
既往歴として、これらの原因に寄って、非復位性円板転位によると思われる開口障害を経験、前歯部開口もHypermobility、Grindingによって進行性(特発性)下顎頭吸収(Progressive (Idiopathic)Condylar Resorption:PCR、ICR)が生じた結果と思われる。
患側、咀嚼側の右側咬筋に軽度の肥大、硬結が認められるが圧痛は強くなく、慢性筋痛によく診られる鈍麻は認められない。
頬部、側頭部皮膚にallodyniaが生じていることから中枢感作が生じていることが考えられ、その原因は不安感、うつ状況、破滅的思考があり、睡眠障害が強い事と思われる。また、現症として認められた光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘(過敏性腸症候群)と合わせて考えると痛覚変調性疼痛と診断出来る。
考察:従来の歯科的捉え方では、右側顎関節痛障害という局所的な単純病態ながら、Biopsychosocialモデルとして捉えると、Bio(関節痛、皮膚allodynia、光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘)、Psycho(不安感、うつ状況、破滅的思考、睡眠障害)、Social(異国、家族と離別)となり、全身的疾患として捉えるべきである事がわかった。

 
2024年12月30日 10:27

抜髄か経過観察か 早期の判断が求められる

気がつくと10月中旬、来週は札幌出張。この時期は冬に向かう札幌と東京の気温差が大きい時期です。春にはまだ冬の札幌と春半ばの東京とで気温差が大きい時期があります。
先週来、頭の中で興奮状態にあるのは歯内療法後の不快症状についてのびっくりの情報です。
この10月9日のタフツ大学Interdisciplinary Pain and Headache Roundsで歯内療法専門家のJennifer Gibbsの講演を聴きました。痛み研究で有名なテキサス大学Kenneth M. Hargreavesの大学院を卒業した人でENDO専門家で歯髄の痛みのメカニズムを神経生理、免疫学的に研究している人です。
1.知覚過敏は中枢感作によるものだろうと言っていました。象牙細管の動水力学性は歯の表面から象牙細管への刺激の伝導の話しであった、過敏反応は歯髄中の軸索反応連鎖の結果の知覚神経の過敏、反応性亢進が生じているということです。
2.歯内療法後、半年経過して痛み不快症状が残る患者の比率が5%位あって、その中で非歯原性歯痛であるものが3%位というNixdorfの有名な論文(2010)を紹介していました。そして、抜髄後の痛み、不快症状の誘因は術前三ヶ月以上続いた痛み、術中の痛みと言って、中枢感作が起こっているからだと結論していました。
歯内療法後の不快症状、痛みの原因が3ヶ月以上の術前痛という話しは、2005年Polycarpouの論文に書かれていてびっくりした内容と同じです。この論文の結論には、歯内療法成功後の持続的疼痛に関連する重要な危険因子として、1)術前の患歯部位からの疼痛が少なくとも3ヵ月以上持続していたこと、2)過去の慢性疼痛経験または口腔顔面領域の疼痛治療歴があること、および3)女性であることが挙げられていました。Polycarpou N, Ng YL, Canavan D, Moles DR, Gulabivala K. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. Int Endod J. 2005;38(3):169-178. doi:10.1111/j.1365-2591.2004.00923.x
当時、これらの危険因子がどのような意味合いを持つのか全く判りませんでしたが、今現在になって、私の解釈では、術前痛と術中痛は最近のnociplastic painの発生メカニズムと挙げられているBottom UP(術前痛による持続的痛み刺激、結果として中枢感作)、Top Down(術中痛による不安感、恐怖感による扁桃体刺激による中枢感作)に該当すると考えられ痛覚変調性疼痛つまり中枢感作が生じているということになります。
歯髄の反応、しみる、痛いは歯髄の中だけで起こっているのではなく、当然中枢神経系の伝わって感じられることは理解出来ることです。ところが、歯髄の反応としてのしみる、痛いは神経系を通り過ぎているだけではなく、単純に言うならば神経系の要所、要所を荒らしてしまう、その結果、過敏になってしまい、中枢感作につながるのです。
知覚過敏、歯内療法後不快症状の原因が中枢感作と言うことで、3ヶ月以上の当該歯の痛みが危険因子であるとすると、症状があるのに3ヶ月以上経過観察すると言うことはあってはならないことになります。あらゆる診査をして、早期に抜髄するか経過観察するか決断が必要と言うことです。
 
2024年10月14日 18:39

痛覚変調性疼痛の発症様式に二つのタイプ。

痛覚変調性疼痛の発症様式として二つのタイプが提案されています。
痛覚変調性疼痛の病態生理として、上行性の疼痛情報の増幅状態と下行性の抑制性疼痛制御の停止とさらには賦活化が含まれています。これらのプロセスは中枢神経の様々な部位、レベルで生じていると考えられています。
痛覚変調性疼痛の発症、継続状況に2つの大まかなサブタイプ、「ボトムアップ型」と「トップダウン型」が存在し、それらは異なる神経生物学的特徴と治療反応性を示すと仮定されています。私はこの「トップダウン型」という「ボトムアップ型」と対をなすように作られた用語に違和感があります。ダウンとすると末梢まで降りてくるのかというと、そうではなくあくまでも中枢神経系での出来事であるため、私は敢えて「トップ型」としようと思います。
ボトムアップ型痛覚変調性疼痛の概念は、末梢からの侵害刺激が長く続いたり、広範囲から生じたりすることにより、その侵害刺激により中枢感作が生じ、生体防御の合目的的に痛覚変調性疼痛が生ずると言うことです。そのため、侵害刺激が除去されると、これらのプロセスは自動的に最終的に正常化する可能性が高いです。これとは対照的に、トップ型の痛覚変調性疼痛は、侵害刺激の入力とは無関係に中枢神経系における疼痛処理の増大が起こり、それが維持されることを示唆しています。それではどのような事でトップ型痛覚変調性疼痛は生ずるのでしょうか。最も多い要因はストレス、恐怖などの心理社会的因子だろうと思っています。
痛覚変調性疼痛という用語が発表された直後は「心因性疼痛」,「心理社会的疼痛」が痛覚変調性疼痛に変わったのかという疑問がありましたが、これは明確に否定されています。ところで、不安、恐怖、情動ストレス等は関係ないのかというと、そうではなく、ストレスなどの『心理社会的因子』によって生じることは十分ありうることだと言われていて、『心理社会的因子が中枢神経系の可塑的変化を引き起こすことによって痛覚変調性疼痛が生じている』というケースが多く診られると思います。
 
2024年09月30日 20:53

痛覚変調性疼痛とはどのようなものか-かなり身近なものです-

痛みの臨床推論」の編集作業が終わったのが8月初旬、35度越えの猛暑日が毎日続いて居た頃から約2ヶ月、頭の中ですっきりしないことは、2017年国際疼痛学会で第3の痛みのメカニズムとして提案されたNociplastic Pain(2021年日本語訳が痛覚変調性疼痛)がどのようなものなのかでした。いくつかの日本、海外からの論文を読んでも、痛覚変調性疼痛はこのようなもので、臨床ではこのように関連しているんだという、私の知りたいことにダイレクトに答えてくれるものはまだありません。それでも頭の中に断片的な知識が溜まりましたので、何とかつなげて自分なりの痛覚変調性疼痛の理解に努めてきました。
今現在の痛覚変調性疼痛の私の理解は、人間の生存を脅かす様々な刺激、侵害刺激に加えて精神的な脅威、危機感等に対して生体防御のために過敏になり、反応性を亢進した結果なのだろと思っています。
つねると痛いという侵害受容性疼痛による痛み、神経が壊れた結果として起こる神経障害性疼痛は「痛みはなんらかの器質的な異常の結果として起こる」という従来の理解はそのまま正しいが、そのような「ここの神経に異常があるから痛いんだ」という「痛み」とは違った痛みの様です。侵害受容性疼痛も神経障害性疼痛もその痛みは身体保護のための合目的的現象であるが、痛覚変調性疼痛は痛み信号に精神的要因が加わって生ずる、他の二つの痛みメカニズムとはレベルの異なる警告信号のようです。当然のように侵害受容性疼痛にも神経障害性疼痛にも痛覚変調性疼痛が重複して、二つの痛みを変調させているようです。
例えば、歯が痛くて歯科に行ったが原因不明だと言われた、何が原因なんだろうと考えると痛みが気になってしょうがいない、時間とともに痛みが強くなったような気がするし、気分的に耐えられなくなってきた、このような状況も不安感により痛覚変調性疼痛がベースに生じて痛みの状況が変化してしまったのだと思います。つまり、苦痛(痛み、苦しみ)の感じ方が変調してしまうのです。生来、心配性のひとは何倍も変調し感覚ボリュウムがマックスまで上がっているでしょう。私のこのような雑な理解ですが、臨床的実感があると感じてくれる方もいるでしょうし、患者さんの中にも私のこの痛みも痛覚変調性疼痛が関連しているかもしれないと思う方がいると思います。
そこまで判ったら、次はどうすれば、治るのか改善するのかが問題です。残念ながらこれに対する臨床的な答えは余りはっきりしません。痛覚変調性疼痛に関する基礎的研究、病態の研究は進んでいますが、治療法に関してはこれだという答えを書いた論文は見当たりません。 私の印象では薬物療法よりも非薬物療法が第一選択で、基本的には患者さんの痛み、苦しみに寄り添い、傾聴、受容、そして、状況を共通認識することが必要なのだと思います。
 
2024年09月30日 16:14

慈恵医大加藤先生痛覚変調性疼痛講演会参加記事 

今週赤坂麻布歯科医師会の学術講演会で慈恵医大の加藤先生が講演されました。一般歯科開業医対象ということで多少話しを判りやすく話されたようですが、しっかり最新脳科学を解説してくれました。私は歯科医師会会員ではありませんが、外部参加も受け付けると言う事で参加させてもらいました。
これまで加藤先生の話を何回か聞いたことと、今回の話は痛覚変調性疼痛だけで無く、周辺の知識も総合して話してくれるので、痛覚変調性疼痛の事が判りやすかったです。
最後に侵害受容主義から脳中心主義とまとめていました。加藤先生は脳機能の変化により様々な内部出力が生ずるとまとめていました。私の理解は脳機能全体に変調が生じ、痛みに関しては痛覚変調性疼痛という表現形で、感覚系では音過敏、光過敏、匂い過敏など、その他にも様々な表現形として症状が現れている、例えば自律神経失調、精神科からみると以前の身体表現性障害、疼痛障害、今の身体症状症もそうだろうと思います。
表現形が痛覚変調性疼痛と出るか、身体症状症と出るかの違いや、その誘因が何である、末梢からの慢性的な痛み刺激とか、精神的ストレスとかによって、薬物療法が効いたり、共感や認知療法など心身医学的対応が有効であったりするのかと思っています。いずれにしても、何らかの痛みがある状況で、痛みのボリュウムが上がって、通常よりも強く感じられているのが痛覚変調性疼痛だろうと思っています。
 
痛みの伝導路に関して、脊髄後角/三叉神経脊髄路核から視床への投射と教科書に書かれてきたが、三叉神経では95%が腕傍核へ直接投射され、視床への5%のみだそうです。腕傍核からは扁桃体に投射される、ということでこの扁桃体の機能が非常に重要視されている。精神的ストレス、情動変化はこの扁桃体に影響するといわれていて、三叉神経からの侵害刺激もこの扁桃体に投影されると言う事でその重要性が注目される。扁桃体を動物実験で刺激することにより足まで広範囲に痛覚過敏が生ずることが示されている。
数年前に、三叉神経の侵害刺激が腕傍核に投影されることが判り、脊髄神経からの中枢への投影経路が異なるの痛みの性質が異なるのではないかという論文がありました。三叉神経での95%対5%と脊髄神経での比率は異なるのかどうか、そしてその結果として痛みの性質が異なるのかどうか、扁桃体への投影が多いことにより、情動変化を起こしやすいのかどうかは解説していませんでした。どなたか詳しい方はお知らせください。
 
現在の神経障害性疼痛の薬物療法のターゲットは、脊髄後角/三叉神経脊髄路核での下行抑制系の作用、一次Nシナプス前膜からの興奮性伝達物質の放出調整であるが、プレガバリンは扁桃体でCGRP抑制を示して中枢感作を止めるということで、痛覚変調性疼痛にも神経障害性疼痛にも作用している可能性があると思いました。
 
ここからは和嶋の私見です。
筋・筋膜性疼痛の関連痛も脊髄後角/三叉神経脊髄路核の中枢感作で論じられていますが、もっと上位の可能性があるなと思いました。
片頭痛は中枢神経系にGeneratorがあると言われるが、痛みの本態は脳硬膜下での三叉神経血管説で言われるメカニズム、筋・筋膜性疼痛も末梢の筋肉中のトリガーポイントからの痛み、ところが片頭痛は全身にallodyniaを生じ、筋・筋膜性疼痛は関連痛が生ずる時点で少なくとも三叉神経脊髄路核で変化が起こっていて、両者とも中枢感作が生じていると考えられる。筋・筋膜性疼痛はトリガーポイント治療、片頭痛はトリプタンやCGRP製剤で末梢入力を減らすことをしている、それが奏功して痛みが収まることがあるが、痛みが完全には収まらないこともある。片頭痛でCGRPが無効な場合は中枢感作が生じているというBursteinの昔の研究があるが、片頭痛の時点で中枢感作が起こっているので、中枢感作がある、なしの問題では無く、末梢からの刺激減少によって収まる中枢感作なのか収まらない中枢感作なのかという事だと思います。そして、収まらない場合が痛覚変調性疼痛が起こっていると言うのかと思っています。
 
今後、どのような状況を痛覚変調性疼痛と診断するのか、具体的な症例呈示してデスカッションが出来れば、これが痛覚変調性疼痛ということが具体的に理解出来るようになるだろうとおもいます。
 
2024年09月07日 21:33

歯痛でも中枢神経系が関与

慢性痛の基準である3ヶ月以上症状が続いている、これは一般歯科では多くないですが、TMD、口腔顔面痛では珍しくないことです。
従来の痛み治療は急性痛を前提としていて、特に歯科ではイケイケで痛いところに原因があるからそれに向かって進むというものでした、ところが慢性痛は違います。例外的に原因、病態が診断されていなかったために症状が続いているという例もあります。これは本来の慢性痛ではありません。
慢性痛例で思い知らされることは、歯が痛い、と言う症例に確実に局所麻酔をして、局所の感覚は消えたにもかかわらず、感じていた痛みの周辺部の痛みは消えたが中心部にジワーとして痛みが残っているという現象、要するに中枢要因が関連しているということです。一本の歯の痛みでもこのような事が観られ、歯の痛みが中枢神経系とつながり、痛みを感じる中枢が何らか変化している、末梢に向けて治療するだけでは直らないんだと改めて思い知らされることがあります。
典型例は、咬筋の筋・筋膜疼痛で下顎大臼歯部に持続痛がでて、歯科で抜髄、根管処置終了後も痛みは治らない、その後に当院受診。 抜髄歯には持続痛と打診痛があり、歯肉にはallodynia、咬筋のトリガーポイントを圧すと痛みが再現、FamiliarPainです。そこで当該歯に診断的局所麻酔、オトガイが鈍麻している程麻酔は効いていて打診痛が消えるが、持続痛は50%減のみで50%は残っている。このような症例では最初からトリプタノール、プレガバリン等で薬物療法を併用することもあります。筋・筋膜疼痛として治療して、持続痛、歯肉のallodyniaは消失したが打診痛は消えない例が一番難治です。上記のトリプタノール、プレガバリンの内服にはステントを使った局所外用薬物療法を併用します。総力戦ですが、難治です。これが一番大変な症例です。
出来れば抜髄等せずに、頑固な歯の痛みで来院してもらっていれば筋・筋膜疼痛の治療ですっきり治り、歯の打診痛で患者さんも私も苦しむ事が無かったのにと、思ってしまいます。
 
2024年04月29日 15:39

筋痛も自己治癒能力で改善 自己治癒能力を邪魔しない生活

口腔顔面痛、顎関節症でもっとも多い病態は筋痛です。アゴの筋痛は肩こりの延長のようなもので、肩こりがそうである様に慢性的な症状である反面、自然に収まる症状でもあります。重いものを持ったり、不自然な姿勢を強いたりすると肩こりが強くなるように、アゴの筋の凝りも何かに集中したときにかみしめたり、片方だけで咬んだりしていると筋が鍛えられて大きくなり、そこに何か筋緊張の原因が加わる事により筋が収縮し過ぎて凝りができて筋痛が発症します。
肩こりがひどいからと言って不安になるひとはいません、熟睡出来て、日中も過度に緊張しない、そして肩を動かしたり、ストレッチすることにより自然に収まってきます。アゴの筋痛も、アゴを強ばらせない、固いものを食べないなど、アゴに負担を掛けないようにしていれば自然に収まってきて、病院に行く必要なんてありません。
人間には本来、自己治癒能力があって、健康な身体では一週間もすると傷が治っていくように、身体の不具合の多くが収まっていきます。ところが、かつては「規則正しい生活」と言われていた“健康3原則”(調和のとれた食事、適度な運動、十分な休養・睡眠)から外れた生活をしていると、自己治癒能力が下がってしまい、例えば傷の治りが遅くなるように、肩こりなども治りにくくなってしまいます。アゴの筋痛も同様です。
健康の3原則から外れた生活をすると、いろいろな病気になってしまいます、いわゆる生活習慣病です。6大生活習慣病とは、肝硬変、糖尿病、高血圧性疾患、慢性腎不全、急性心筋梗塞、脳卒中が挙げられています。健康の近年、睡眠と生活習慣病との関係が指摘されていて、睡眠不足が、肥満、高血圧、循環器疾患、メタボリックシンドロームを発症させる危険性を高めると言われています。
痛みの研究でも、最近、慢性疼痛と睡眠障害の関連が注目されています。熟睡出来ない、途中覚醒が多い、早朝に覚醒してしまうなどの状況では、痛みの感じ方が強くなると言われています。痛み治療の一つとして睡眠改善が必要ですが、睡眠が悪い人の多くは単純にストレスが多いだけではなく、その元になる生活全般に色々と問題があることが多く、その改善は簡単ではありません。
私の診療では、毎回、睡眠状況はどうですかと聞くことにしています、アゴの痛み、歯ぎしりしている事やくいしばっていることが睡眠と関連していることを知ってもらうためです。そして、アゴのことから、自分の睡眠状況を改善する糸口を見つけてもらい、健康原則に沿った生活をおくってもらいたいと思っています。
 
2024年03月31日 21:21

トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて

抗うつ薬
トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて
トリプタノールは世界的に神経障害性疼痛治療法標準薬として長らく使われて来ましたが製造元の不祥事による生産力低下のために出荷量が半減されていて、我々のような小さなクリニックでは入手出来なくなっています、また、処方箋を出しても市中の薬局で薬が受け取れなくなっています。
世界中の神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインの第一選択薬として三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドが挙げられています。この2つの薬は作用機序が全く異なっていて、1)三環系抗うつ薬は下行疼痛抑制系を賦活化して痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています、一方、2)Caチャネルα2δリガンドは1次ニューロンの末端の電位依存性Caチャネルに作用してCa++イオンの流入を抑制することにより、シナップスへの興奮性伝達物質遊離を抑制し痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています。
三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドの鎮痛効果を同一人あるいはグループで比較した研究はないことからどちらがより有効かは明らかではありませんが、作用機序が全く異なることから、患者個人個人によって効果が異なる可能性が高いです。従って、どちらの薬を最初に処方するべきかの明確な指標はありません。
どちらを最初に処方するべきかについては、まず、第一選択薬のなかで使い慣れた薬を選択して処方し、その薬の効果が不十分、あるいは副作用が強い場合は他の第一選択薬に変更するか、副作用の出ない量まで減量して他の第一選択薬と併用する方法が勧められています。
中枢感作に関してはより上位の中枢に作用する三環系抗うつ薬が有効だろうと思っています、また、中枢感作による慢性筋痛に対しても三環系抗うつ薬が適応だろうと思います。
トリプタノールの出荷量半減の話に戻り、トリプタノールあるいはそのゼネリックであるアミトリプチリンが入手出来ない場合、同じ三環系抗うつ薬のなかでトフラニール(イミプラミン、神経障害性疼痛に保険適応外使用が認められている)、アナフラニール(クロミプラミン、保険適応無し)に切り替えることが勧められています。薬理学的には3つの薬に基本的効果(セロトニン再吸収抑制、ノルアドレナリン再吸収抑制)にはほとんど差は無く、同等の効果があると言われています。トリプタノールの副作用と言われる、眠気、口渇、便秘には少し差があるようです。具体的な処方としては、副作用の発現を避けるために、トリプタノールの服用を開始した時と同様に5mgから開始し、漸増する事を勧めています。

追記:アナフラニールに処方してしばらく経過し、患者さんの反応を少し聞くことが出来ました。アナフラニールの眠気はトリプタノールに比べて弱いようです。便秘、口渇は同等か少ないようです。
現在、痛みの世界ではPain(痛み)+Insomnia(不眠)を会わせてPainsomniaという用語が使われています。慢性疼痛では、痛みと不眠の悪循環が形成され、自力改善が困難になっています。
睡眠不足や不眠によって、日中に眠くなります。これは覚醒度がさがるためです。この覚醒度が低下すると痛みを強く感じやすくなり、そしてその疼痛反応の亢進は眠気をとることで回復できることが動物実験で判っています。
睡眠不足による眠気そのものではなく、覚醒度が下がる事により痛みが強く感じるということで、慢性痛の患者さんの多くが夕方に痛みが強くなるのは、この覚醒度の影響ではないかと思います。 
ここに来て、心配なことが一つ、最近、筑波大学の柳沢先生が発見した覚醒度の関わるオレキシンの拮抗薬として、睡眠導入剤としてディエビゴ、ベルソラムが使われていますが、覚醒度をさげることにより、痛みが強くならないかという心配です。これは何かの機会に確認したいと思います。
2023年12月17日 21:35

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