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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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筋痛も自己治癒能力で改善 自己治癒能力を邪魔しない生活

口腔顔面痛、顎関節症でもっとも多い病態は筋痛です。アゴの筋痛は肩こりの延長のようなもので、肩こりがそうである様に慢性的な症状である反面、自然に収まる症状でもあります。重いものを持ったり、不自然な姿勢を強いたりすると肩こりが強くなるように、アゴの筋の凝りも何かに集中したときにかみしめたり、片方だけで咬んだりしていると筋が鍛えられて大きくなり、そこに何か筋緊張の原因が加わる事により筋が収縮し過ぎて凝りができて筋痛が発症します。
肩こりがひどいからと言って不安になるひとはいません、熟睡出来て、日中も過度に緊張しない、そして肩を動かしたり、ストレッチすることにより自然に収まってきます。アゴの筋痛も、アゴを強ばらせない、固いものを食べないなど、アゴに負担を掛けないようにしていれば自然に収まってきて、病院に行く必要なんてありません。
人間には本来、自己治癒能力があって、健康な身体では一週間もすると傷が治っていくように、身体の不具合の多くが収まっていきます。ところが、かつては「規則正しい生活」と言われていた“健康3原則”(調和のとれた食事、適度な運動、十分な休養・睡眠)から外れた生活をしていると、自己治癒能力が下がってしまい、例えば傷の治りが遅くなるように、肩こりなども治りにくくなってしまいます。アゴの筋痛も同様です。
健康の3原則から外れた生活をすると、いろいろな病気になってしまいます、いわゆる生活習慣病です。6大生活習慣病とは、肝硬変、糖尿病、高血圧性疾患、慢性腎不全、急性心筋梗塞、脳卒中が挙げられています。健康の近年、睡眠と生活習慣病との関係が指摘されていて、睡眠不足が、肥満、高血圧、循環器疾患、メタボリックシンドロームを発症させる危険性を高めると言われています。
痛みの研究でも、最近、慢性疼痛と睡眠障害の関連が注目されています。熟睡出来ない、途中覚醒が多い、早朝に覚醒してしまうなどの状況では、痛みの感じ方が強くなると言われています。痛み治療の一つとして睡眠改善が必要ですが、睡眠が悪い人の多くは単純にストレスが多いだけではなく、その元になる生活全般に色々と問題があることが多く、その改善は簡単ではありません。
私の診療では、毎回、睡眠状況はどうですかと聞くことにしています、アゴの痛み、歯ぎしりしている事やくいしばっていることが睡眠と関連していることを知ってもらうためです。そして、アゴのことから、自分の睡眠状況を改善する糸口を見つけてもらい、健康原則に沿った生活をおくってもらいたいと思っています。
 
2024年03月31日 21:21

トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて

抗うつ薬
トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて
トリプタノールは世界的に神経障害性疼痛治療法標準薬として長らく使われて来ましたが製造元の不祥事による生産力低下のために出荷量が半減されていて、我々のような小さなクリニックでは入手出来なくなっています、また、処方箋を出しても市中の薬局で薬が受け取れなくなっています。
世界中の神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインの第一選択薬として三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドが挙げられています。この2つの薬は作用機序が全く異なっていて、1)三環系抗うつ薬は下行疼痛抑制系を賦活化して痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています、一方、2)Caチャネルα2δリガンドは1次ニューロンの末端の電位依存性Caチャネルに作用してCa++イオンの流入を抑制することにより、シナップスへの興奮性伝達物質遊離を抑制し痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています。
三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドの鎮痛効果を同一人あるいはグループで比較した研究はないことからどちらがより有効かは明らかではありませんが、作用機序が全く異なることから、患者個人個人によって効果が異なる可能性が高いです。従って、どちらの薬を最初に処方するべきかの明確な指標はありません。
どちらを最初に処方するべきかについては、まず、第一選択薬のなかで使い慣れた薬を選択して処方し、その薬の効果が不十分、あるいは副作用が強い場合は他の第一選択薬に変更するか、副作用の出ない量まで減量して他の第一選択薬と併用する方法が勧められています。
中枢感作に関してはより上位の中枢に作用する三環系抗うつ薬が有効だろうと思っています、また、中枢感作による慢性筋痛に対しても三環系抗うつ薬が適応だろうと思います。
トリプタノールの出荷量半減の話に戻り、トリプタノールあるいはそのゼネリックであるアミトリプチリンが入手出来ない場合、同じ三環系抗うつ薬のなかでトフラニール(イミプラミン、神経障害性疼痛に保険適応外使用が認められている)、アナフラニール(クロミプラミン、保険適応無し)に切り替えることが勧められています。薬理学的には3つの薬に基本的効果(セロトニン再吸収抑制、ノルアドレナリン再吸収抑制)にはほとんど差は無く、同等の効果があると言われています。トリプタノールの副作用と言われる、眠気、口渇、便秘には少し差があるようです。具体的な処方としては、副作用の発現を避けるために、トリプタノールの服用を開始した時と同様に5mgから開始し、漸増する事を勧めています。

追記:アナフラニールに処方してしばらく経過し、患者さんの反応を少し聞くことが出来ました。アナフラニールの眠気はトリプタノールに比べて弱いようです。便秘、口渇は同等か少ないようです。
現在、痛みの世界ではPain(痛み)+Insomnia(不眠)を会わせてPainsomniaという用語が使われています。慢性疼痛では、痛みと不眠の悪循環が形成され、自力改善が困難になっています。
睡眠不足や不眠によって、日中に眠くなります。これは覚醒度がさがるためです。この覚醒度が低下すると痛みを強く感じやすくなり、そしてその疼痛反応の亢進は眠気をとることで回復できることが動物実験で判っています。
睡眠不足による眠気そのものではなく、覚醒度が下がる事により痛みが強く感じるということで、慢性痛の患者さんの多くが夕方に痛みが強くなるのは、この覚醒度の影響ではないかと思います。 
ここに来て、心配なことが一つ、最近、筑波大学の柳沢先生が発見した覚醒度の関わるオレキシンの拮抗薬として、睡眠導入剤としてディエビゴ、ベルソラムが使われていますが、覚醒度をさげることにより、痛みが強くならないかという心配です。これは何かの機会に確認したいと思います。
2023年12月17日 21:35

特発性(Idiopathic)-2 患者個々の様々な症状を言い表した言葉

特発性(Idiopathic)-2 患者個々の様々な症状を言い表した言葉
 
さて、前号に引き続き特発性(idiopathic)の話です。
idiopathicの訳が特発性となり、それが原因不明と理解されているが、私はどうも納得出来ないでいた。そこに痛覚変調性疼痛という概念ができあがり、その繋がりが思い浮かんでいる。
痛覚変調性疼痛は侵害受容系の中枢感作により末梢には明確な原因が無いままに痛みが生じている状況である。痛覚変調性疼痛の診断基準では、1a)慢性である、1b)局所性、多巣性、1c)侵害受容性疼痛ではない、1d)神経障害性疼痛ではないを満たし、4) 誘発性疼痛過敏現象として痛みのある部位で臨床的に下記の症状が誘発されること、以下のいずれかが誘発される。静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 そして、上記のいずれかの評価後に残遺症状が残る(残感覚)こと。この診断基準4)はまさに侵害受容系の中枢感作の結果としての症状である
痛覚変調性疼痛の可能性を高める診断基準として2)(省略)、3)併存疾患として以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題、が含まれている。
脳機能変調の元で侵害受容系が中枢感作されて変調したものが痛覚変調性疼痛であり、同様に脳機能変調によって様々な脳の働き、神経系が変化する可能性があり、人に寄って変調する神経系が違えば、人それぞれに様々な症状を呈することとなる。上記の診断基準3)に従い、音覚変調、光感覚変調、におい感覚変調等が単独、併発して現れる可能性があり、その他に、途中覚醒の睡眠障害、 疲労感の高まり、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題が単独、併発して現れる可能性がある。また、症状によってはこれまで自律神経障害と言われていた症状も自室神経系の脳機能変調が生じた結果とも言えるのではないかと考えている。
一般的に病気は共通症状がはっきりしていて、その症状によって診断する事になるが、脳機能変調による病気の症状は個々によりまちまちとなってしまうために、診断が困難となる。「症状は個々によりまちまち」という部分を捉えた言葉が特発性(Idiopathic)なのではないかと思っている。患者さんによって症状がまちまちで捉えどころが無い、共通症状が原因のはっきりしないと言う特発性(Idiopathic)な集団があり、痛みの場合にはその多くが痛覚変調性疼痛であり、その他にも病名のはっきりしない、自律神経失調などの多くの病気が含まれるのだろうと思う。
特発性は原因不明ではなく、各自に特有の原因、発症メカニズムがあって発症と言う意味、痛覚変調性疼痛はその一つのメカニズムだろうと思う。
2023年11月05日 10:54

歯科にも慢性痛がある、誰が診るのか

歯科における痛み治療は、歯髄炎、歯周炎、歯冠周囲炎など細菌感染による急性痛の治療がほとんどです。一方、臨床を行っている多くの人は、原因不明の慢性的な痛みが存在することに気づいています。一般医科の状況をみても慢性痛で通院している人が多いことが判ります。例えば、整形外科です、かつては老人クラブと揶揄される状況で、腰痛、頸、肩こりを抱えた人が朝から整形外科に通院しています。この腰痛、頸、肩のこりは治るのでしょうか。かつて、整形外科では積極的に手術をしていた時代がありましたが、最近は骨の異常か脊柱管の神経が圧迫されていなければ手術の適応にはなりません。慢性痛に対して手術をしても効果が無いことが判って来たからです。従来、世界的に一般医科、歯科に関わらず、慢性痛という概念はなく、どんどん侵襲的な治療をすれば治るだろうという考えで治療を進めていました。
慢性痛で苦しんでいる患者さんは多く、慢性痛への対応の必要性が高まり、WHOが作る国際疾病分類(ICD11)に慢性痛が含まれる事になりました。
国際疾病分類第11版(ICD-11)について解説します。
参考引用文献:森脇 克行, 大下 恭子, 堤 保夫 ICD-11時代のペインクリニック―国際疼痛学会(IASP)慢性疼痛分類に学ぶ 日本ペインクリニック学会誌 28 巻 (2021) 6 号
2022年1月1日に国際疾病分類第11版(ICD-11)が発効されました。ICD-11には,はじめて慢性疼痛の分類コードが加えられる.この分類コードは国際疼痛学会(IASP)のタスクフォースによって開発された慢性疼痛の体系的な分類に基づいている.分類の特徴は慢性疼痛を3カ月以上持続または再発する痛みと定義した上で,慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛に分けたことである.
慢性二次性疼痛は診断で明らかにされている基礎疾患や組織障害による二次的な疼痛であるのに対して、慢性一次性疼痛には基礎疾患や組織障害が明らかでない線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群などの慢性疼痛症候群が含まれる.
慢性1次性疼痛
慢性一次性疼痛のカテゴリーに含まれる代表的な慢性疼痛症候群には,線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群(CRPS)1型がある.“非特異的”慢性腰痛や,過敏性腸症候群,膀胱痛症候群などのいわゆる“機能的”内臓性疼痛障害も慢性一次性疼痛に含まれる.これらの疼痛をもつ患者では,組織障害や炎症などによる二次的な侵害受容器の活性化や神経障害が認められないにもかかわらず,痛みに対する過敏性が存在する.従来,これらの慢性疼痛症候群に対して“非特異的疼痛”,“機能性疼痛”,“身体表現性疼痛”などの用語が用いられてきたが,IASPワーキンググループはこれらの曖昧な用語の使用を避け,慢性一次性疼痛という新しい疼痛カテゴリーを導入した.慢性一次性疼痛は,不安,怒り/欲求不満または気分の落ち込みなどの著しい感情的苦痛や,日常生活活動への障害や社会的役割への参加の減少などの機能障害を伴う,1つまたは複数の解剖学的領域の3カ月以上持続または再発する痛みと定義される.慢性一次性疼痛には生物学的,心理学的,社会的要因が複雑に絡み合っていると考えられている.
慢性一次性疼痛の一部はnociplastic painである可能性が示唆されている.Nociplastic painは新しい疼痛概念で,2016年にKosekらによって提案され,IASPの痛み用語として採用されている.その定義は「末梢侵害受容器の活性化を引き起こす実際のまたはその恐れのある組織損傷の明白な証拠,または痛みを引き起こす体性感覚系の疾患または病変の証拠がないにもかかわらず,侵害受容の変化によって生じる痛み」である.

2.2.4  慢性二次性頭痛および口腔顔面痛 
急性,慢性の頭痛と口腔顔面の疼痛は世界人口の4分の1以上の人々の生活の質を著しく低下させているが,その診療は医科と歯科の複数の領域が担っている.ICD-11分類のために,IASPの専門グループ,国際頭痛学会(HIS),歯科領域学会などの関連学会とWHOが協力して慢性頭痛および口腔顔面痛の分類が行われた.この部位の慢性疼痛の時間的な診断基準は「3カ月間に少なくとも50%の日に発生し1日2時間以上持続する頭痛または口腔顔面痛」である.この領域の慢性疼痛も一次性と二次性の疼痛に分けられる.一次性の痛みには,上述(2.1.2.3項)したように慢性片頭痛,慢性緊張型頭痛や痛みを伴う顎関節症,非定型顔面痛などが含まれる.これに対して,慢性二次性頭痛または口腔顔面痛は,痛みを生じる局所性または全身性疾患,外傷,感染症などの科学的に因果関係が明白な原因が存在する場合の痛みで痛みの原因によって11に細分類される.
口腔顔面痛領域の慢性痛は誰が対応するべきか
慢性一次性、二次性頭痛または口腔顔面痛の中で口腔顔面痛への対応は口腔顔面痛専門医が担う事になるであろう。従来から、歯や歯周組織の急性痛は一般歯科あるいは歯内療法科、歯周病科、あるいは口腔外科で対応してきたが、慢性痛、特に慢性一次性疼痛への対応は急性痛への対応と全く異なるものである。局所の感染状況、炎症症状に注目して、その除去、改善を目的に治療してきた急性痛治療に対して、慢性痛治療は大きく異なって、局所症状に対応するだけではなく、Biopshychosocialといった考え方で、患者に全人的対応をすることが求められる。このような対応が出来るのは口腔顔面痛専門医のみであるし、口腔顔面痛専門医知識、治療法の更なる向上が望まれる。


 

2023年10月09日 16:09

口腔顔面痛診査法の客観性を高めるために

今年の夏の暑さは異例だったそうです。2023年夏(6月1日~8月24日)の日本の平均気温の基準値からプラス1.78度高かったそうで、夏の気温としては統計を開始した1898年以降の126年間で最も高かったそうです。9月を含めても同様の傾向になるでしょう。暑いのが好きなのとクリニックは涼しいので問題なし、ところが夜の暑さは耐えられませんでした。
このように暑かった今年の夏、患者さんの予約が少なかったこともあり、ゆっくりさせてもらい、診療改善のための年初来の課題解決に取り組みました。 口腔顔面痛診療を名人芸ではなく、客観性の高い診査法にして、誰もが同じ結果が得られるようにすることを目指しています。

1. 自律神経活動測定:指尖容積脈波を計測して、自律神経活動を調べる。痛みの患者さんは自律神経機能が変化している事があり、痛みに影響している可能性がある。慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項    どのタイミングで測定するのが良いか、初診と症状変化時

2. 開口抵抗力測定: オリジナルのアゴのこわばりの具合を測ろうという考えを具現化した開口抵抗力測定器を用いて、患者さんのアゴのこわばり度を測定する、その程度は筋緊張、筋拘縮など筋障害の程度を反映していると考えている。これも慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項 単純に開口抵抗力を計るだけで無く、ストレッチをどれくらいすると筋収縮力が低下するか、患者さんがセルフケアをしてくれた効果を痛みの自覚症状に加えて客観的評価にも使えそう。初診時に測定し、診断結果との関連性を検討する。

3. 疼痛電気閾値測定:神経障害性疼痛患者さんのAllodynia部位の閾値測定、allodyniaは機械的動的刺激による痛みと規定されているが、刺激手法はまちまち、感じ方もいろいろで再現性が低い、そこで、電気刺激に対する反応として調べようという目的。既存の機械、電極からスタート。電極の改良が必要、電気なのでプラスマイナスの二つの端子が必要、でも、口腔内のallodynia部分に二つ置くのは無理、更にallodyniaの部分を刺激するといたくて、電気刺激か機械刺激による痛みか判別不能になる、等のいろいろな障害があり、改良に改良を重ねて、これで使えるかなと言う電極に達しました。 新しい電極で測定開始、スムーズに出来るかどうか。 

4. 患者さんとの医療面接を音声入力文字起こしシステム:痛み診療では患者さんの痛みの自覚症状を如何に文字化して客観的に評価するかが重要です。そのため、毎回の診察では10分程度いろいろな質問しながら経過を伺います。この内容をカルテにまとめるのが大変です。Googleドキュメントに音声入力があるのを見つけてのとりあえず音声入力文字化して、カルテに貼り付けていました。7月に慶應医学部の学生さん達が起業して、音声入力文字化、カルテ記載用に要約までしてくれるシステム開発(medimo)、それを試用させてもらっています。初診時の患者さんには構造化問診していくと、項目に沿ってやりとりを要約してくれる。再診時には自覚症状変化を上手く要約してくれる。医学用語、歯科用語の誤文字化をどうやって少なくするかが課題。
2023年09月06日 18:20

筋・筋膜疼痛で生ずる口腔内、顔面の感覚変化 敏感、鈍麻

筋・筋膜疼痛で生ずる口腔内、顔面の感覚変化 敏感、鈍麻
 
筋・筋膜疼痛の典型的な症状は異所性疼痛としての関連痛です。これについては、何回も書いてきました。痛みの原因が無い歯に痛みを感じる、そして、その歯の周囲の歯肉に感覚異常が生じることがあります。歯肉が敏感になります、場合によっては歯根膜の感覚も敏感になるので打診痛があったり、指や舌で圧すと違和感が出たりすることもあります。このような症状を専門的には、Paresthesia(パレシテジア:自発性または誘発性に生じる「異常感覚、錯感覚、変な感じ 」)、Dysesthesia(ディセステジア:自発性または誘発性に生じる「不快な異常感覚、嫌な感じ」)、そしてallodynia(アロディニア:通常では疼痛をもたらさない痛覚閾値以下の弱い刺激によっても痛みが感じられる感覚異常)と言います。これらの異常感覚は神経障害性疼痛でも生じますから、allodyniaがあると、それは神経障害性疼痛ですと診断されていることもあります。
口腔歯肉、粘膜のallodyniaが神経障害性疼痛によるものか、筋・筋膜疼痛によるかの鑑別診断については別稿で書きます。

筋・筋膜疼痛で関連痛が生じている歯の周りの歯肉、粘膜は敏感になっていると書きましたが、筋肉の上の皮膚は敏感ではなく鈍麻になっています。
触覚が鈍麻になり、腫れぼったい感じと言う患者さんもいます、痛覚も鈍麻になっていて、爪楊枝でチクチクしても皮膚が厚くなって余り感じないと言うことがあります。このように、関連痛のある歯とその周囲の歯肉は敏感になる一方、当該筋肉を被う皮膚は鈍麻になることがあります。感覚検査を行うと、まず触覚試験で正常側は普通に触っている感じ、一方患側は余り感じない、皮膚が厚ぼったくて、触った感じが直接伝わらないと言った感じ、そして、痛覚検査で爪楊枝でチクチク、正常側はチクチク痛く感じますが、患側は余りいたくない、左右同じ位の力で触っていますかと聞かれるほど鈍麻になっています。
関連痛部分の歯、歯根膜や歯肉は筋肉の痛さを錯覚して感じているので敏感になる、一方、皮膚は筋痛に対する中枢性の抑制効果により全般的に感覚鈍麻になるのだろうと思います。これによって筋痛のある筋肉には痛みを感ぜず、関連痛のある部分は痛みを含めて全般的に敏感になっているということだと思います。

ところが、皮膚の鈍麻が敏感になることがあります、筋触診をすると少し圧しただけで痛くて顔をそむける位になることがあります、その場合には皮膚の触覚検査も痛覚検査も鈍麻では無く敏感になります。もはや中枢性の抑制機構は働かず、逆に中枢感作されている状態です。この場合、当該の筋だけでは無く、咀嚼筋、頸部筋の全部が敏感になり、肩、腕の筋肉も敏感に圧痛が感じられる事があります。何が原因で筋圧痛閾値が下がり、鈍麻だった皮膚が敏感になるのか、そのメカニズムは不明ですが、これが慢性的に続いている場合には痛覚変調性疼痛とも言えます。

痛覚変調性疼痛診断基準  確認項目1ab,c,dと4を満たすとグレード診断:痛覚変調性疼痛の可能性があるPossible
確認項目1a. 痛みは、 慢性的(3ヶ月以上)、
確認項目1b. 局所的(不連続的ではなく)多巣性、あるいは 広範囲に分布 
確認項目1c.. 侵害受容性疼痛の否定
確認項目1d.. 神経障害性疼痛の否定
確認項目4. 痛みのある部位に以下のいずれかの誘発性疼痛過敏現象が臨床的に誘発されること。
静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残遺症状が残ること。


 
2023年06月07日 15:12

中枢性関与が強い筋・筋膜疼痛の治療 トリプタノール

中枢性関与が強くなっている筋・筋膜疼痛の治療
筋・筋膜疼痛の治療において、トリガーポイントインジェクションよりもトリガーポイントプレッシャーリリースが重要である事を書きました。
本稿では、私が行っている標準的な筋・筋膜疼痛法を示し、それに反応しない場合に何を考えるかを解説します。考えられることは、1)セルフケアが不十分、2)トリガーポイントプレッシャーリリースを加えれば改善する、3)末梢性から中枢性の状況になっている、の3つの状況です。
他の原稿と重複しますがまず基本的な事を書きます
初診時セルフケア指導:負荷軽減法:日常生活で肩が持ち上がっていないか、かみしめていないか、防止策として、気がついたら肩を上げ下げ、 舌で口蓋を舐める、 患側で咀嚼しない 
セルフケアとしての積極的治療:左右頚部四カ所(後頸部筋群と胸鎖乳突筋)、 開口ストレッチアシストブロックを用いた開口ストレッチ、各々30秒/回、3回朝昼晩/日、これを毎日実施する。
上記のセルフケア指導だけで2-3週で初期の痛みがかなり改善します。改善した場合には更なるオフイス治療は加えずに、セルフケアの補強のみを続けて行くことが多いです。
セルフケアが不十分の場合にはセルフケアの重要性と有効性を説明して、やってもらうように指導します。また、セルフケアを熱心続けているがなかなか痛みが改善しない場合で、末梢のトリガーポイントの原因が大きいと判断された場合にはまず、超音波を併用したトリガーポイントプレッシャーリリースを行います。これは他稿で詳しく書きました。
一方、患部の筋全体、あるいは筋の範囲を超えて圧痛閾値が下がって、過敏になっている場合には末梢性に中枢性が加わっていると考えて、セルフケアのストレッチの程度を下げて、中枢に対する治療をします。
ここで疑問は「患部の筋全体、あるいは筋の範囲を超えて圧痛閾値が下がって、過敏になっている」、このような状況は痛みの発生メカニズムではどの分類になるのか、1)侵害受容性疼痛、2)神経障害性疼痛、3)痛覚変調性疼痛のどれに該当するのか。限りなく、3)痛覚変調性疼痛に近いと思っていて、痛覚変調性疼痛の診断基準に照らし合わせると三ヶ月以上を満たしていれば、痛覚過敏症状を満たしているのでpossible of nociplastic pain(痛覚変調性疼痛の可能性あり)と診断されます。
この場合の私の治療法はアミトリプチリン(トリプタノール)の投与です。トリプタノールの投与はまず各患者の至適用量を探すことから始めます、最少用量から始めて少量ずつ漸増し、眠気、口渇、便秘などの即時発現する作用を目当てに至適用量を決めます。至適用量が決まったら、その用量で1-2ヶ月投与を継続します。頻脈や心電図でQT短縮などの以上が生ずる事があるので開始前、30mg、50mg、あるいは至適用量投与の段階で心電図を採ることが必須です。
至適用量で2-4週間経過したところで、緩除に効果が発現してきます。痛みを止めるためですが、NSAIDs、アセトアミノフェン、テグレトールのような即時効果は期待出来ません。
 
2023年05月29日 19:08

毎晩、ひとり反省会  私と患者さんの合い言葉

毎晩、ひとり反省会 
筋痛はストレス、不安、怒りなどの心理精神的要因が関わっていることが多いと言われています。確かに私の患者さんのほとんどがそのように思えます。ところが、元気はつらつ、ニコニコいい顔、何でも笑い飛ばしている、このような人達が筋痛がひどい、起床時にかみ締めている感じがする、といった事を訴えます。そこで、睡眠障害について、寝付きはどうか、熟睡出来るか、途中覚醒は何回、早朝覚醒はないかなどと聞いていくと、どれも該当することが多いです。こんなに元気そうなのに何でと思うのですが、実はこの人達は日常生活のいろいろな出来事での心のもやもや、ぐるぐると再生される後悔、ふとした瞬間にふくらむ焦りや不安、やり場のないイライラなど、我慢や不満、焦りや不安が複雑に絡み合って「しんどい」ができあがってしまっているそうです。『あなたの「しんどい」をほぐす本』(KADOKAWA)私が日頃思っていたことがこの本にそのまま書かれていたので紹介しました。そして、この人達がしている事が、ひとり反省会です。初診の患者さんでこの人はと思う人に、余計な説明なしに、寝る前にひとり反省会していませんかと聞くと、素直に毎晩しています、と答えてくれます。このような患者さんにはすっと理解出来る言葉のようで、私と患者さんとの言葉かと思っていたら、この本にも出ていました。ひとり反省会で悩むのは、あなたは「こんなに落ち込むほど一生懸命頑張ったのです。そんな自分の良さを認めて、褒めてあげてください。」と書かれています。
先日、ラジオで腰痛が心因性であるという話しがあり、昔買って読んだ本を思い出してwajima図書室を探してもらいました。サーノ博士のヒーリング・バックペイン: 腰痛・肩こりの原因と治療– 1999と『腰痛は<怒り>である』2000を見つけて、もう一度読み直しています。20年以上を経て、心因性疼痛から痛覚変調性疼痛に代わるなど、最近の中枢神経系の関与等が判って来たことで、これらの本に書かれていたことが当たり前のことになっています。患者さん、病気をしっかり診ている人たちは詳しいメカニズムは別にして、なぜこの患者さんにこの症状が現れるのか大方予想が出来るのだと言う事を再確認しました。


追記 HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン/Highly Sensitive Person)と言う言葉もあります。この人達も一人反省会の会員です。
HSPは、米国の心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念で、神経が細やかで感受性が強い性質を生まれ持った人のことです。全人口の15~20%、約5人に1人はHSPと考えられています。

HSPには、特徴的な4つの性質「DOES(ダズ)」があります。

「いろいろなことが気になって落ち着かない」「ちょっとしたことで落ち込みやすい」と感じることはありませんか。それは、あなたが「HSP」だからかもしれません。HSPとは、視覚や聴覚などの感覚が敏感で、刺激を受けやすいという特性を生まれつき持っている人のこと。   他の人が気づかないような音や光、匂いなど、些細な刺激にすぐ気づく

HSPの人は、感覚的な刺激に対して無意識的・反射的に対応する脳の部位、「扁桃体」の機能が過剰に働きがちで、HSPではない人と比べて刺激に強く反応し、不安や恐怖を感じやすいことが分かっています。相手の気持ちを察知して行動したり、物事を深く探究できる半面、ささいなことで動揺したり、ストレスをためてしまうこともあります。


参照 https://kenko.sawai.co.jp/mental-care/202103.html#:~:text=HSP%EF%BC%88%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%B3,%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82
 
2023年03月25日 12:31

ハワイから非歯原性歯痛の患者さん来院

先日、ハワイ在住の日本人の方が10年来の非歯原性歯痛で来院されました。
経過を聞くと歯痛で抜髄が始まりで、かなりの歯科を受診して根管治療を数回受けたそうです。最後に日本人のENDO専門医に紹介され、歯原性では無いとの診断、ハワイには口腔顔面痛専門医はいないので米国本土か日本に行ったらどうかとアドバイスされたそうです。今回帰省する機会があり、ENDO専門医に相談したところ、私を薦められ受診したという次第でした。
これまでも、ハワイ在住の数人の日本人から非歯原性歯痛についてメールでの相談があり、ハワイの歯科事情、口腔顔面痛事情を知っていました。米国も日本も、世界の多くの国々で、簡単に口腔顔面痛の診断治療が受けられない状況にあります。せめて、歯原性か歯原性でないかの判断、そして、非歯原性歯痛だとして、筋触診で筋筋膜疼痛の可能性はないか、ここまで診査ができれば多くの患者さんが救われます。
今回ハワイから来院した患者さんは、側頭筋、咬筋、胸鎖乳突筋、後頸部の筋から歯への関連痛がありましたから筋筋膜疼痛だと思います、10年以上経過しているために、歯痛部の歯肉にはAllodyniaも認められ、感作が生じていると思われます。
筋骨格系の痛覚変調性疼痛診断に照らすと、かなりの部分で該当する項目があり、筋筋膜疼痛に痛覚変調性疼痛が合併していると診断できます。
この患者さんはハワイに一台しかない経頭蓋磁気治療を受けていて、歯痛は治らなかったがうつが軽くなったそうです、また、処方されている薬が米国らしかったです、モルフィン、トピラマート(強い片頭痛発作があった)、プロザック(SSRI、抗不安薬として)、頓服にオキシコドンが処方されていました。
私のアドバイスはまずは筋痛へのセルフケアです、腹式呼吸しながらの頸部、咀嚼筋のストレッチ、開口ストレッチアシストブロックも渡しました。全身の随意的最大緊張からの弛緩 など
薬としては痛覚変調性疼痛への対処としてトリプタノールを勧め、漸増服用法のパンフレットを渡して、ハワイのPainmanagementに相談する様に伝えました。

最後の観てもらった日本人ENDO専門医がなぜ私を推薦したのか不思議でした、日本の大学卒業して米国で専門医資格を取ったならば、私を知っている可能性はあるかと思いながら、フルネームが書かれていたので調べたらUniversity of North Carolina at Chapel Hill 卒業でそこでENDOレジデント研修
ここまで観たときに、私の鹿児島の同級生の高校の同級生が同姓で、学生時代に会った事があり、卒業後米国に渡り、University of North Carolina at Chapel Hillの生化学の教授をしていること、その教授の奥さんが私の大学の先輩で、ENDOの教室にいて、かなり昔にメールで近況を連絡したこと等を思い出しました。鹿児島の同級生に連絡して確認したところ息子さんがハワイで開業しているということで、どうも深い繋がりがあったようです。
その息子さんが私をどうやって知ったのかはまだ不明  連絡して診察結果を送ろうと思っています。

 
2023年03月19日 10:52

痛覚変調性疼痛の診断基準を元にして中枢感作との関連を考える

痛覚変調性疼痛診断法
中枢感作とは
国際疼痛学会の現在の中枢感作の定義に従えば、中枢感作とは「正常または閾値以下の求心性入力に対して、中枢神経系の侵害受容ニューロンが増加した反応性」という意味になるはずです。つまり、中枢感作とは侵害受容性疼痛に関連する現象の変化のメカニズムとして用いるべきと言われています。
 
痛覚変調性疼痛のなかの中枢感作の位置付け
痛覚変調性疼痛発症への中枢感作の関与する部分を具体的にあげるならば、痛覚変調性疼痛の診断基準の「2. 痛みのある部位に疼痛過敏の既往がある。以下のいずれか1つ。触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感」である。ここであげられている「触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感」は侵害受容性の変化で、過敏になったのは中枢感作によると考えられます。
また、「4. 誘発性疼痛過敏現象は、痛みのある部位で臨床的に誘発されることがある。
以下のいずれかである。静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残遺症状が残ること」、誘発性疼痛過敏症状はまさに侵害受容性疼痛の変化であり、中枢感作が関与すると考えられます。
他方、「3. 併存疾患がある。以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題」、は侵害受容性神経系に関連して生ずる現象ではないので中枢感作の結果とは言えないということになります。
痛覚変調性疼痛の発症メカニズムを分析する
上記したように痛覚変調性疼痛は診断基準の2、4で侵害受容神経系が中枢感作により生ずる変化であるが、「3. 併存疾患がある」に含まれる症状は中枢感作以外のメカニズムにより生ずるものであり、痛覚変調性疼痛の発症には侵害受容性神経系への中枢感作だけではなく、もっと広く神経系が変化した結果であると考えねばなりません。
 
中枢感作プラスアルファのメカニズム
この詳しいメカニズムは不明で、とりあえず、脳機能変調とでも名付けておきます。
この先のメカニズムを考えるに当たって、中枢感作症候群とでも呼ばれる症状群を調べてみました。
中枢感作症候群(central sensitivity syndrome)とは
中枢感作症候群とは、中枢感作の症状を持つと「推定される」非器質性疾患(例:線維筋痛症や/慢性疲労)の包括的な用語として提案されたものです。
しかし、冒頭に書いた国際疼痛学会の中枢感作の定義から明らかに逸脱していますから中枢感作の症状とは言えません。
 
中枢感作症候群調査票(Central Sensitivity Syndrome Inventory)CSI
「中枢感作症候群(central sensitivity syndrome (CSS)に関連することが多い主要な身体的・感情的な訴えを評価するために」開発された質問票で、世界中で広く使われています。
この中枢感作症候群調査票で評価される「推定の」中枢感作の症状には、睡眠障害、集中力低下、光やにおいへの過敏性、ストレスなどが含まれます。 これらの症状は侵害受容性ではないので明らかに中枢感作ではありません。   
 
中枢感作症候群調査票を利用した論文を読むと、論理の飛躍があり、中枢感作症候群を調査したはずなのに、論文の結論等で中枢感作を評価したことになっています。
1)中枢感作が、非侵害受容系における反応の亢進を説明するために用いられている(例:音、光、におい)。
2)中枢感作があると中枢感作症候群調査票で高得点となり、中枢感作症候群調査票で高得点であれば中枢感作であると解釈されるという論理の飛躍があります。
 
このような中枢感作症候群調査票を用いた研究には科学的論理の逸脱があるのですが、中枢感作症候群を中枢感作とは別物、中枢感作プラスアルファのメカニズムにより生じた症状と考えれば、ここから何か手がかりが得られそうかなという気がしています。
今のところ、泥沼なのか、金の山かは皆目見当がつきません。
 
 
2023年02月28日 16:52

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