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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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痛覚変調性疼痛治療-患者さんを支えること

2024年はNociplasticPain(2017)、痛覚変調性疼痛(2021)とはどんなものなのかと痛み関連の人達の関心を集めました。
今年はもっと具体的な話しが出てくるでしょう。期待します。
昨年は関心が高まった結果、まるで新しい痛みが見つかったように、しかしながら、心因性疼痛(国際疼痛学会では正式用語ではないらしい)が消えて、それに代わるわけではないと言われるが、途中経過として様々な用語(心因性疼痛から始まり、非器質的疼痛、中枢神経機能障害性疼痛など、精神科領域では身体表現性障害(疼痛障害))で呼ばれてきた痛みに中枢感作を主たるメカニズムとする正式名称が与えられたと言うことだと思っている。中枢感作は痛み神経系に使われる用語なので、痛覚変調性疼痛診断の際に検討される併発疾患である光過敏、音過敏、睡眠障害、匂い過敏、夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題などは中枢感作とは言えないが、痛み系の中枢感作の他に脳機能全体が変調した状態と捉えるべき。問題は何故侵害受容系が変化してしまい、他の脳機能全般を巻き込むまでになるのかのメカニズム解明と現実的にはどのように治療するかである。
Kosecの最新論文(The concept of nociplastic pain—where to from here? PAIN 165 (2024) S50–S57)によると、薬物療法は神経障害性疼痛の薬物療法と類似している、ということで目新しいものは無く、トリプタノール、プレガバリンの投与とともに、TopDown発生因子の精神心理的ストレスが疑われるときはBiopsychosocialモデルとして心身医学的対応をすることに尽きる。認知的共感を目的とした傾聴で支えてあげることに尽きる
Biopsychosocialモデルとして心身医学的対応には各自の心身医学的対応トレーニングの程度により支えのレベルが異なるが、まずはこのような考え方を持つことが大事と思っている。患者さんを支えることにより自然治癒能力が発揮されて、良い方向に向かってくれる。下手な治療で邪魔してはいけない。


 
2025年01月07日 10:17

口腔顔面痛雑感 




痛み治療では上記の神経系の病態だけではなく、患者さんの心への対応が必要です。患者さんに何故こんな風に痛くなったのかというメカニズムを探して説明する前に、応急処置が必要です。「傾聴、受容して、患者さんの状況について共通認識を持つ」、そして、多くの患者さんが痛みとともに大きな不安感を抱えていることも把握し不安を和らげることが必要です。これが従来からの当クリニックの基本的二本立て対応です。
口腔顔面痛、顎関節症の患者さんを診ていてあらためて思うこと 多くの症状はセルフリミッティングで自然に治ります。ところが、大きなストレス、患者さん自身の間違った解釈による、感情変化、間違った行動などにより、直るべきものが直っていないことがあります。このような患者さんでは解釈モデルを正しい方向にすり合わせて正しい知識を持ってもらい、余計な不安、怒りを静めるなどして、自然治癒能力を高める手助けするのが我々の治療です。ところが、治すべき治療であるはずが余計なこと、例えば咬合治療です、患者自身の自力治癒能力を邪魔するような治療をしていることがあります。感覚に鋭敏な方がストレス等で不安感が高まって、かみ合わせが気になる、自称顎関節症の専門家を受診、咬合調整、咬合再構成、矯正治療等がはじまった、ところが、このような感覚鋭敏の方は変化を受け入れられません、そのため何時まで経っても受け入れられるかみ合わせは無いのです。本当は余計な治療を始めなければ良かったのですが、今の泥沼状況から救い出すには、顎関節症についての正しい説明をして、患者さんの解釈モデルを少しずつすり合わせることにより患者さんとの信頼感を構築し、片手だけのつながりでも、それを頼りに患者自身に這い上がってもらうことです。
まだまだ、口腔顔面痛、顎関節症の標準的治療が行われていないことに苛立ちます。学会活動、マスコミを通じた広報、まだまだですね。

9月の米国タフツ大学の口腔顔面痛Webinarで歯内療法後の不快症状が何で起こるのかという話しがありました。原因として、不確実な歯内療法があるでしょうがそれはちゃんとした治療をすれば治ること。ちゃんとした歯内療法にも関わらず半年経過しても不快症状が続く場合があるという話しは以前からありました。その原因が歯内療法、特に抜髄以前の痛みの持続期間と関係あるという話し、以前から、抜髄前に3ヶ月以上痛み期間が有意な原因と言われていましたが何故かは言及されていませんでした。タフツ大のWebinarでは、抜髄前の歯髄痛により痛み信号が末梢神経、中枢神経と伝わり、三叉神経細胞体等の要所を興奮させてしまい、中枢感作につながるという話しでした。知覚過敏も同様、痛み信号全て脳に伝わって感じられること、状況に寄っては神経系を荒らして興奮させてしまい、長く続くと歯の問題ではなく神経障害性疼痛と同様になるということが再認識されました。

痛覚変調性疼痛の理解が深まり、現状で何をすべきかが少しずつ見えてきました。特効薬はなく、特別の治療法もありません。使い古された言葉ながら、患者さんに寄り添って、支えていくことがもっと効果があるようです。
慢性疼痛は人間の生存の為に警告信号としての痛み信号が高まったままに維持された状況、そして、痛みだけではなく、その他の感覚や自律神経系も変調しているので、言わば、脳機能変調というのが私の理解です。
2024年12月30日 10:32

口腔顔面痛を正しく診断 TMD+痛覚変調性疼痛典型例

皆さん一年間おつかれさまでした。私は金曜日に仕事を終えて解放されています。生来の貧乏性の故、のんびりしながらも次に何を勉強しなければと記憶に残った資料を探しています。
今はっきりしていることは、私の口腔顔面痛臨床は二本立てです。
一つは、口腔顔面痛を正しく診断する事です。
最終週にその必要性を強く印象づけられる初診2例と再診1例ありました。順に紹介します。
症例1:35歳男性スイス人(8年前に日本に一年間滞在したことがあり、日本語日常会話可能)
主訴:2ヶ月前から顔面、頭部、頸部全体が痛い、胸部も痛い
約10年前から顎の具合が悪く、開口障害を数度経験し、顎関節脱臼もの経験もある。スイス、フランスで複数の歯科を受診し、咬合治療、スプリント治療の経験あり。数年前から前歯部開口となり、矯正治療、顎矯正治療を勧められたこともある。
三ヶ月前に来日、睡眠障害、不安感が強く、夜中に痛みが強くなることがある。
心理テスト:HADs(不安14点、うつ13点)、PCS(反芻15点、無力感16点、拡大視8点)
睡眠障害診査:入眠困難、熟眠障害、途中覚醒4-5回、起床時疲労感+
光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘(過敏性腸症候群)
局所診査:
  1. 歯原性、非歯原性の診査:口腔内異常なし、歯原性を否定
  2. 感覚検査:口腔内感覚障害無し、顔面全体にallodyniaが認められる。
  3. 脳神経検査:上記顔面全体のallodynia以外、異常認められず。
  4. 筋触診:右側咬筋肥大+ 硬結+ 圧痛+関連痛無し、右側側頭筋肥大+ 硬結+ 圧痛+ 関連痛なし、右側後頸部圧痛++、右側胸鎖乳突筋硬結+ 圧痛+。
  5. 顎関節診査:ROM54mm、右側下顎頭滑走制限 顎関節痛誘発試験:牽引痛++、圧迫痛なし、 左側下顎頭滑走制限なし 顎関節痛誘発試験:牽引痛なし、圧迫痛なし 左右茎状突起腫大++ 圧痛+  左側下顎頭の可動性は大きい、全身Hypermobilityあり
  6. 咬合状態:前歯部開口、上下顎前歯部切端に咬耗あり、タッピング位では左右大臼歯(678)でBiteしている、小臼歯から前方は離解
臨床診断:右側顎関節疼痛障害-体質的な全身関節のHypermobilityがある状況で、Grinding(左右茎状突起腫大、圧痛)が加わり、咀嚼側顎関節に前方滑膜炎が生じている)
既往歴として、これらの原因に寄って、非復位性円板転位によると思われる開口障害を経験、前歯部開口もHypermobility、Grindingによって進行性(特発性)下顎頭吸収(Progressive (Idiopathic)Condylar Resorption:PCR、ICR)が生じた結果と思われる。
患側、咀嚼側の右側咬筋に軽度の肥大、硬結が認められるが圧痛は強くなく、慢性筋痛によく診られる鈍麻は認められない。
頬部、側頭部皮膚にallodyniaが生じていることから中枢感作が生じていることが考えられ、その原因は不安感、うつ状況、破滅的思考があり、睡眠障害が強い事と思われる。また、現症として認められた光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘(過敏性腸症候群)と合わせて考えると痛覚変調性疼痛と診断出来る。
考察:従来の歯科的捉え方では、右側顎関節痛障害という局所的な単純病態ながら、Biopsychosocialモデルとして捉えると、Bio(関節痛、皮膚allodynia、光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘)、Psycho(不安感、うつ状況、破滅的思考、睡眠障害)、Social(異国、家族と離別)となり、全身的疾患として捉えるべきである事がわかった。

 
2024年12月30日 10:27

歯痛診断の直感力を養う

今週末、2024年12月1日に開催される第29回日本口腔顔面痛学会学術大会 で入門講座3「一般歯科臨床で役に立つ歯痛診断」として講演します。
本入門講座の目的は、日常臨床で歯痛を確実に診断出来る様になるために、直感的に行っているパターン認識法を可視化して 診断精度を上げる手順を学習してもらうことです。
そして、私が伝えたいことをもっと判りやすく言うと、歯痛診断の直感力を養う方法です。臨床で役に立つ鋭い(高精度)直感力を養う方法を提案します。例えば、美味しい魚を養殖するにはエサが良くなければならない、なぜならば、エビを食っている天然の鯛は格別の味だからです。
歯痛診断直感力では、エサは症例パターンです、そのエサ(症例パターン)は自分で自分用に集めなければなりません、他人のエサ(症例パターン)は口には合わないからです、役に立たないのです。それでは、自分のエサ(症例パターン)はどうやって集めるか、その方法は臨床の場で鈍い精度の低い直感力で診断エラーし、仮説演繹法で正しい診断に行き着き、そしてその過程を省察(振り返り)することにより集めるのです。
上手くいった症例からは美味いエサ(症例パターン)は集められず、失敗例からこそ集められます。
直感、パターン認識法による診断エラーから仮説演繹法でリカバーした後に、何故、診断エラーしたのか、パターン認識法の過程を振り返る。これによって、自分だけの美味いエサ(症例パターン)を蓄積することができます。
 
2024年11月25日 21:05

アジア口腔顔面痛学会 オンライン参加

先週末、台湾でアジア口腔顔面痛学会が開催されました。私は台湾で美味しい中華を食べようと木曜日に出発予定でしたが、台風が台湾直撃で台湾全土がTypoonHolidayということで予定の飛行機が欠航になってしまいました。学会はHybridになり、飛行機の振り替え、ホテルの予約のし直し等を交渉しているうちに面倒になり学会参加だけならオンラインでいいや、台湾行きを止めました。聞きたいプログラムをオンラインで聞きました。
KeynoteSpeakerはシドニー大学からシンガポール大学歯学部長に招聘されたChris Peck教授でした。講演内容は慢性疼痛、BiopsychosocialモデルとしてTMD、口腔顔面痛を捉えるべきであり、どのようにそのマネージメントを構築していくべきかという内容でした。
急性痛としてのTMD、口腔顔面痛をどうするかは依然として日常臨床の重要な仕事ではなるが、学会等の展望としてはもっと先を見なければなりません。そのモデルがChris Peck教授の講演だったと思います。
オンラインで参加して、発表の指導者は顔見知りなので同時進行でコメント欄でやりとりしていました。
そこで、各国の指導者の進めるべき方向性として私が提案したのは、TMD、口腔顔面痛の中で慢性疼痛を今後の対応疾患として、Biopsychosocial modelとして、特にpsychologicalマネージメントを具体化させるべきである。既に各国とも、慢性TMD、口腔顔面痛の心理的評価は研究されていて、神経質、破局的思考(catastrophizing)、うつ傾向にあること等が把握されています。今回もインドネシアから心理的要因による筋痛の身体化障害(ICD-10では身体化障害は器質異常なし、DSM5身体症状症ではなく中枢感作が本態というつもりのようらしいので用語が違うと思います)として発表されていました。
東南アジア各国に共通した背景として、心理士さんが医科領域においても慢性疼痛に関与していないために、基本的トレーニングを受けていいない医師、歯科医師がその面のマナージメントも担わなければならい状況にあるという事です。将来的解決策は心理士さんに慢性疼痛マネージメントを研修してもらい、参画してもらうことでしょう。これについては奈良学園大学の柴田先生が中心になって研修コンテンツが作成中のようで、完成が待たれます。
アジア各国のこの方面に興味のある人達に呼びかけて、具体的マネージメント案を検討しようかと思います。最初は慢性筋痛の対応です。
原因診査、判明した原因への認知行動療法的に宿題としてセルフケアしてもらう。また、筋痛の一般的対症療法を、これまた認知行動療法的に宿題としてセルフケアしてもらう。ここでも問題になるのは神経質、破局的思考(catastrophizing)、うつ傾向ある人達にどう対応するかです。この点に関して、専門家を交えて、早急にデスカッションが必要です。
 
アジア各国へのもう一つの提案は、若手のトレーニングとして臨床診断推論ワークショップの開催です。日本では日本口腔顔面痛学会企画で、ベーシックセミナー、そして、臨床推論実習セミナーが行われています。この企画をアジア各国に提案したいと思っています。
 
2024年11月04日 22:45

抜髄か経過観察か 早期の判断が求められる

気がつくと10月中旬、来週は札幌出張。この時期は冬に向かう札幌と東京の気温差が大きい時期です。春にはまだ冬の札幌と春半ばの東京とで気温差が大きい時期があります。
先週来、頭の中で興奮状態にあるのは歯内療法後の不快症状についてのびっくりの情報です。
この10月9日のタフツ大学Interdisciplinary Pain and Headache Roundsで歯内療法専門家のJennifer Gibbsの講演を聴きました。痛み研究で有名なテキサス大学Kenneth M. Hargreavesの大学院を卒業した人でENDO専門家で歯髄の痛みのメカニズムを神経生理、免疫学的に研究している人です。
1.知覚過敏は中枢感作によるものだろうと言っていました。象牙細管の動水力学性は歯の表面から象牙細管への刺激の伝導の話しであった、過敏反応は歯髄中の軸索反応連鎖の結果の知覚神経の過敏、反応性亢進が生じているということです。
2.歯内療法後、半年経過して痛み不快症状が残る患者の比率が5%位あって、その中で非歯原性歯痛であるものが3%位というNixdorfの有名な論文(2010)を紹介していました。そして、抜髄後の痛み、不快症状の誘因は術前三ヶ月以上続いた痛み、術中の痛みと言って、中枢感作が起こっているからだと結論していました。
歯内療法後の不快症状、痛みの原因が3ヶ月以上の術前痛という話しは、2005年Polycarpouの論文に書かれていてびっくりした内容と同じです。この論文の結論には、歯内療法成功後の持続的疼痛に関連する重要な危険因子として、1)術前の患歯部位からの疼痛が少なくとも3ヵ月以上持続していたこと、2)過去の慢性疼痛経験または口腔顔面領域の疼痛治療歴があること、および3)女性であることが挙げられていました。Polycarpou N, Ng YL, Canavan D, Moles DR, Gulabivala K. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. Int Endod J. 2005;38(3):169-178. doi:10.1111/j.1365-2591.2004.00923.x
当時、これらの危険因子がどのような意味合いを持つのか全く判りませんでしたが、今現在になって、私の解釈では、術前痛と術中痛は最近のnociplastic painの発生メカニズムと挙げられているBottom UP(術前痛による持続的痛み刺激、結果として中枢感作)、Top Down(術中痛による不安感、恐怖感による扁桃体刺激による中枢感作)に該当すると考えられ痛覚変調性疼痛つまり中枢感作が生じているということになります。
歯髄の反応、しみる、痛いは歯髄の中だけで起こっているのではなく、当然中枢神経系の伝わって感じられることは理解出来ることです。ところが、歯髄の反応としてのしみる、痛いは神経系を通り過ぎているだけではなく、単純に言うならば神経系の要所、要所を荒らしてしまう、その結果、過敏になってしまい、中枢感作につながるのです。
知覚過敏、歯内療法後不快症状の原因が中枢感作と言うことで、3ヶ月以上の当該歯の痛みが危険因子であるとすると、症状があるのに3ヶ月以上経過観察すると言うことはあってはならないことになります。あらゆる診査をして、早期に抜髄するか経過観察するか決断が必要と言うことです。
 
2024年10月14日 18:39

金子一芳先生を偲んで

10月6日は火曜会の金子一芳先生の追悼講演会と偲ぶ会でした。
皆さんのお話を伺うと私の知っていた金子先生のイメージを遥かに超えるスケールの大きな方だったことが語られていました。ああ、その歳になっても金子先生の様には出来ないなーと思わされてしまいました。
 私が金子先生と知り合ったのは1990年代前半でした。当時火曜会に在籍していた岡先生から、山形である講演会に金子先生が招かれ、もう一人米国からTMDを専門とする人も招かれていて、帰りに火曜会で講演することになっているので来てみないかという誘いでした。当時、米国の先生の話を聞く機会がありませんでしたので飛びつきました。全日、熱海に集合し歓迎会があり、そのまま真鶴の金子先生の別荘に行って夜遅くまでいろいろな質問をしました。その先生が当時のAmerican academy of craniomanidibular disorders を取り仕切っていたUniversity of California SanFrancisco(UCSF)のCharles McNeill先生だったのです。翌日は東京駅の近くの会議室でTMD講演会でした。その時に次回米国の学会に参加する際にUCSFのクリニックに見学させてもらう事をお願いしました。翌年から米国の学会に参加する際はサンフランシスコに途中下車して外来を数日見学させてもらいました。外来でのTMD治療は日本の治療とは全く違うもので、特に筋触診が新鮮でした。その後、コロナでいけなくなるまで、毎年見学させてもらいました。
 この見学が元となって、私のTMD治療、そして口腔顔面痛治療が出来上がりました、かつて、顎関節症の症型分類があり、4型.3型.1型.2型の除外単独診断が行われていた時代は多くの統計発表では最も多い症型は4型か3型でした。ところが慶應の発表は除外単独診断を無視して、患者の主訴の病態に該当する症型を調べていたのでⅠ型かⅡ型が最も多い結果でした。
 このような流れが2000年の口腔顔面痛懇談会の発足の元となり、今現在の日本口腔顔面痛学会につながっています。
と言うことで、金子先生との出会いがなければ私の歯科医師人生は全く変わっていたと考えられるし、日本の口腔顔面痛も変わっていたと思われます。
改めて金子一芳先生の導きに感謝するともに、目標に頑張らねばと思いました。
 
2024年10月07日 20:43

関連学会の先生方へ新刊「痛みの臨床推論」の勧め

このたび『“痛み”の臨床推論 診断過程を可視化するための教科書』と題した書籍を刊行させていただきました。
臨床の場でいかなる症状の患者を診る際にも、無意識のうちに、患者から特徴的な症状パターンを捉えて、瞬間的に「ひらめき」に似た形で今はどのような状況にあるか、次に何をすべきかを考えている、このような思考プロセスがパターン認識法と呼ばれる典型的な臨床推論です。経験を積んだ先生は正確、迅速に診断が出来、非常に効率的です。しかし、経験の少ない先生では診断の正確性が下がります。また、この方法は各自の頭の中で行われているために、自分自身でも検証することが出来ない、また、教育する事が出来ないといった弱点があります。
本書ではパターン認識法、仮説演繹法の診断過程を可視化する事を試みました。これにより、自分の診断を検証する、上級医に検証してもらう、また、診断過程を共有することが出来る利点が生まれます。最終的には診断の正確性を高めることに寄与できると思っています。本書の第3章に書かれた痛みの症例診断では、パターン認識法での診断エラー、次に仮説演繹法での正しい診断を得て、パターン認識法での診断エラーを省察して次の診断に活用するという手法を解説してあります。口腔顔面痛の臨床において複雑な症状の中から正しい診断をつきとめるために臨床の場での必要性から生まれたものです。
歯学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に、歯科では初めて「臨床推論」が加えられました。目的として書かれていることは、臨床の場において「問題の同定から治療やマネジメントに至るプロセスを論理的に思考する事」であり、本書はここで述べられている論理的思考プロセスを臨床術式として具現化したものとなっています。
毎日の臨床に可視化された論理的診断法を取り入れていただきたいと思います。
 
 
2024年10月05日 09:31

慈恵医大加藤先生痛覚変調性疼痛講演会参加記事 

今週赤坂麻布歯科医師会の学術講演会で慈恵医大の加藤先生が講演されました。一般歯科開業医対象ということで多少話しを判りやすく話されたようですが、しっかり最新脳科学を解説してくれました。私は歯科医師会会員ではありませんが、外部参加も受け付けると言う事で参加させてもらいました。
これまで加藤先生の話を何回か聞いたことと、今回の話は痛覚変調性疼痛だけで無く、周辺の知識も総合して話してくれるので、痛覚変調性疼痛の事が判りやすかったです。
最後に侵害受容主義から脳中心主義とまとめていました。加藤先生は脳機能の変化により様々な内部出力が生ずるとまとめていました。私の理解は脳機能全体に変調が生じ、痛みに関しては痛覚変調性疼痛という表現形で、感覚系では音過敏、光過敏、匂い過敏など、その他にも様々な表現形として症状が現れている、例えば自律神経失調、精神科からみると以前の身体表現性障害、疼痛障害、今の身体症状症もそうだろうと思います。
表現形が痛覚変調性疼痛と出るか、身体症状症と出るかの違いや、その誘因が何である、末梢からの慢性的な痛み刺激とか、精神的ストレスとかによって、薬物療法が効いたり、共感や認知療法など心身医学的対応が有効であったりするのかと思っています。いずれにしても、何らかの痛みがある状況で、痛みのボリュウムが上がって、通常よりも強く感じられているのが痛覚変調性疼痛だろうと思っています。
 
痛みの伝導路に関して、脊髄後角/三叉神経脊髄路核から視床への投射と教科書に書かれてきたが、三叉神経では95%が腕傍核へ直接投射され、視床への5%のみだそうです。腕傍核からは扁桃体に投射される、ということでこの扁桃体の機能が非常に重要視されている。精神的ストレス、情動変化はこの扁桃体に影響するといわれていて、三叉神経からの侵害刺激もこの扁桃体に投影されると言う事でその重要性が注目される。扁桃体を動物実験で刺激することにより足まで広範囲に痛覚過敏が生ずることが示されている。
数年前に、三叉神経の侵害刺激が腕傍核に投影されることが判り、脊髄神経からの中枢への投影経路が異なるの痛みの性質が異なるのではないかという論文がありました。三叉神経での95%対5%と脊髄神経での比率は異なるのかどうか、そしてその結果として痛みの性質が異なるのかどうか、扁桃体への投影が多いことにより、情動変化を起こしやすいのかどうかは解説していませんでした。どなたか詳しい方はお知らせください。
 
現在の神経障害性疼痛の薬物療法のターゲットは、脊髄後角/三叉神経脊髄路核での下行抑制系の作用、一次Nシナプス前膜からの興奮性伝達物質の放出調整であるが、プレガバリンは扁桃体でCGRP抑制を示して中枢感作を止めるということで、痛覚変調性疼痛にも神経障害性疼痛にも作用している可能性があると思いました。
 
ここからは和嶋の私見です。
筋・筋膜性疼痛の関連痛も脊髄後角/三叉神経脊髄路核の中枢感作で論じられていますが、もっと上位の可能性があるなと思いました。
片頭痛は中枢神経系にGeneratorがあると言われるが、痛みの本態は脳硬膜下での三叉神経血管説で言われるメカニズム、筋・筋膜性疼痛も末梢の筋肉中のトリガーポイントからの痛み、ところが片頭痛は全身にallodyniaを生じ、筋・筋膜性疼痛は関連痛が生ずる時点で少なくとも三叉神経脊髄路核で変化が起こっていて、両者とも中枢感作が生じていると考えられる。筋・筋膜性疼痛はトリガーポイント治療、片頭痛はトリプタンやCGRP製剤で末梢入力を減らすことをしている、それが奏功して痛みが収まることがあるが、痛みが完全には収まらないこともある。片頭痛でCGRPが無効な場合は中枢感作が生じているというBursteinの昔の研究があるが、片頭痛の時点で中枢感作が起こっているので、中枢感作がある、なしの問題では無く、末梢からの刺激減少によって収まる中枢感作なのか収まらない中枢感作なのかという事だと思います。そして、収まらない場合が痛覚変調性疼痛が起こっていると言うのかと思っています。
 
今後、どのような状況を痛覚変調性疼痛と診断するのか、具体的な症例呈示してデスカッションが出来れば、これが痛覚変調性疼痛ということが具体的に理解出来るようになるだろうとおもいます。
 
2024年09月07日 21:33

海外からの患者さん 感覚検査、筋触診されていない

最近海外からの患者さんがポツポツ、全員当院のホームpageを観てきてくれます。最近のPCシステムの進歩により、pageが簡単に翻訳出来る様になったり、書類にスマホをかざすと翻訳できたりと非常に便利になっているのですね。
その中で気になる患者さんを紹介します。根管治療で後の痛みが生じ、抜歯したが痛みが収まらず、アミトリプチリン、プレガバリンが処方され、上限まで増量した効果が出ないという訴えでした。通常通り、OFPの網羅的診査を行います、歯原性-異常なし、感覚検査-触覚診査、痛覚検査 異常なし、12脳神経検査-異常なし、筋触診-咬筋、後頸部の筋に強い圧痛、関連痛あり。
歯原性、神経障害性疼痛、は否定され、咬筋に筋・筋膜性疼痛による歯痛が当てはまる。極々一般的なOFP症例です。そこで、口腔内、痛い部位の感覚検査を受けた事があるかと聞くといろいろ検査は受けたがこのような簡単な検査は受けた事が無いとの返事、次に咬筋を触診して、タウトバンドがゴリゴリしながら、この痛いところを触られた事があるかと質問、自分では時々痛いところに触っているが診査では触られた事がないとのことでした。
6月にフィリピン、インドネシアに行った時には感じた事ように、OFPの網羅的診査をパッケージにして、通常の診査で診断が出来ない患者さんに必ず実施するように、日本は元より、海外にも勧めていきたいと思います。
日本でも下顎智歯抜歯やインプラントによる下歯槽神経損傷による外傷後神経障害性疼痛が問題になっています、東南アジアのインプラント熱も高まっています。その中で、歯科医師が起こしてしまった口腔内の問題は歯科医師しか診断出来ず網羅的診査は必須と思います。
また、根管治療の際に開口保持するために筋緊張が高まり、筋障害の素因がある場合には筋・筋膜性疼痛となり、歯の痛みなのか、開口保持による筋・筋膜性疼痛なのか判らなくなり、改善しないために抜歯となったが、痛みだけ残っているという症例も診られます。根管治療後、アゴが疲れませんか、治療の後に痛みがひどくなりませんかと質問し、あるとの答えがあったら、筋触診してみましょう。
口腔内の感覚検査、咀嚼筋の筋触診、難しいことではありません、一度、日本口腔顔面痛学会のハンズオンセミナー等を受講してみてください。
 
2024年08月17日 10:54