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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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オンラインで神経障害性疼痛の診査の試み

口腔顔面痛オンライン相談の現状 患者さんの状況をどの程度収集できるか
口腔顔面痛診療は日本全国何処でも受けられるわけではなく、専門医の診療をうけられるのは主に歯学部病院のある地域に限られています。
そこで、数年前から口腔顔面痛のオンライン相談を受けています。診療ではなく相談としているのは、一度も対面診療せずにオンラインだけでは正しい診断、治療に制限があるからです。それではオンラインでどんな事をしているのか。なるべく自分の通常の対面での診療と同じ事をしようと思っています。オンラインでは相手の表情を観ながらの会話で医療面接は通常通りできます。痛みの構造化問診を順に行い、痛みの経過、現在の痛みの状況がある程度把握できます。口腔顔面痛の臨床診断推論の始まりは、歯原性疼痛の除外診断です。これはオンライン相談以前に数軒の歯科医院、病院歯科などを受診していて歯科的な診査を受けていて異常がないとのお墨付きです。たまには、見逃されていることもありますが、歯原性疼痛はいずれ顕在化して、診断されます。
医療面接を進めていくと、口腔顔面痛の疫学的疾患頻度と長年の診療経験からいくつかの代表的な痛み疾患が浮いてきます。多いのは筋・筋膜性疼痛と神経障害性疼痛です。ところがここで制限があって先に進めません、筋・筋膜性疼痛診断のための筋圧痛が出来ません、神経障害性疼痛診断のための感覚検査が出来ません。何かの代替え法で乗り越えられないか、いろいろ考えてみました。

比較的簡単にクリア出来そうなのは神経障害性疼痛診断のための感覚検査です。オンライン相談受付の際に感覚検査のために、綿棒、爪楊枝、小さなスプーン、保冷剤、お塩を用意してもらいます。
オンラインでの感覚検査 スマホで相談者は自分の口腔内を観ながら進めます。
  1. 触覚検査として、小さなスプーンで上下顎左右の頬側歯肉をゆっくり、なでてもらいます。同じ場所を数回なでるようにスリスリしてもらいます。最初は主訴の部位を意識せず、右大臼歯部から前歯部、左側大臼歯部と進み、次に逆回りします。どこか、変な感じ、嫌な感じ、痛いところはないか、何らかの違いが認められた部位は繰り返し念入りになでてもらい、反対側、前後と比較してもらいます。念のために対顎を調べた後に、もう一度調べてもらいます。繰り返しの診査で主訴の部位に何らか一定の感覚障害が認められたら、神経障害性疼痛の可能性ありです。診査した後に何らかの感覚が残っていないかどうかも聞きます。スプーンだと周囲に当たって、何処でも痛いと言う場合には綿棒で少し強めになでてもらいます。
  2. 次に、痛覚検査として爪楊枝で上下顎左右の頬側歯肉をチクチクしてもらいます。どこか、特に痛いところがないか、最初に健常部をチクチクして、次に主訴の部位を調べて、痛みは同じか強くないかどうかを調べてもらいます。他の部位よりも痛みが強い部位が認められたら、左右の比較、前後の比較を行い、対顎を調べて、少し時間をおいた後にもう一度診査を行ってもらいます。診査した後に刺激感覚が残らないかどうかも聞きます。
  3.  神経障害性疼痛の多くの場合、触覚異常が認められた部位に痛覚異常も認められ、刺激後の残感覚も認められます。
  4. 追加の検査として、保冷剤で冷やしておいた水を含ませた綿棒を用いて、冷感覚テストを行います。この場合、口唇、頬粘膜に触れないようにしてください、スプーンは全部冷えて何処が当たって冷たい感覚か判らなくなるので用いません。最初に、触覚、痛覚テストで異常が認められた部位の反対側頬側歯肉に冷やした綿棒をペタッと当てます。何秒で冷たさを感じるか、正常でも数秒から秒と幅があります。感じたらそのまましばらく当てたままにして痛みが誘発されないかどうか聞きます。次に異常が認められた部位にもう本の冷たい綿棒を当てます、何秒で感じるか、そのまま当てて痛みが誘発されないかどうかを聞きます。場合によっては異常部位では冷たい綿棒を当てた瞬間に冷たさを感じ、当てているとじわーっと痛さが出てきたと訴えることがあります。
    味覚検査を含めた舌の感覚検査:
     https://wajima-ofp.com/blog_articles/1755522283.html
ここまでのオンライン相談での医療医面接、相談者自身でも感覚検査もどきで神経障害性疼痛の診査が行うことが出来ます。
 
2025年08月18日 18:37

私の口腔顔面痛診療の現状と展望

私の現状と今後の展望
以前、クリニックでの口腔顔面痛診療は75歳を一区切りと書いたことがあります。現在(2025/08)、73歳、11月には74歳です、何を根拠に75歳と書いたのは定かではありませんが、後期高齢者が知力、体力を保って第一線で仕事出来るかという不安があったからだと思います。自分の診療が患者さんのためにならないならば、すぐに止めるべきと思っています。
コロナ前にAAOPで私よりも15歳年上のUCLAのRobert Merill先生に会ったときに、口腔顔面痛は臨床例の蓄積が大事で、それも何時でも引き出せるように整理して置かなければならないと言われました。大学止めてからが本番だよ、私の域に達するには15年必要だね、頑張れと言われました。残念ながらMerill先生はコロナの間に逝かれてしまいました、残念です。
知り合いが、臨床医の賞味期限は何時かという文を書いていて、それに寄ると診療、特に診断で感が働かなくなった時と言っていました。私は自分の診療において必要があって臨床診断推論を勉強して、自分の診療に取り入れています。若い頃は多くの症例を経験して、それを仮説演繹法で診断する。思いつく病気に加えて、keyになる症状、現症からPC検索して、知らなかった病気も含めて仮説を立てて、その真偽を診査、検査で確認する、最後に残った仮説が最終診断となる。このような論理的思考過程を繰り返す事により、一つ一つの症例が自分の臨床診断推論の良きデータとして蓄積されて行く、次に同じ様な症例に遭遇したときには診ただけで診断出来るということとなる、これが仮説演繹法の対極にあるパターン認識法である。今の私の診療における診断法に戻ると、ほとんどがパターン認識法で診断出来ています、時々、経過が長く、症状が重複しているなど複雑な症例では指導医の様に仮説演繹法が登場してきます。そこでは今まで経験した症例を総動員して可能性のある仮説を立てて、臨床診断推論を勧めていきます。良いエサを食べた鯛は美味いというのと同じでしょう。
このようにこの症例はパターン認識法で正しく診断出来るか、仮説演繹法に登場願うかの判断が出来るのが前述の「臨床医の賞味期限―診療、特に診断で感が働く」ということなのだと思います。
この基準によると私の診療期限はもう少し伸びそうです。
 
2025年08月18日 11:21

口腔顔面痛はまだ歯科で広まっていない

口腔顔面痛診療は日本全国何処でも受けられるわけではなく、専門医の診療をうけられるのは主に歯学部病院のある地域に限られています。
地域の何軒かの歯科を受診したが原因不明と言われた、治療を受けたが改善しない、あるいは、大学に行き、ペインクリニックに依頼されたが改善しないといった憂う状況にあることを聞きます。このような状況は日本に限ったことではなく世界中にみられるようです。正式に口腔顔面痛専門医が承認されている米国においても、ニューヨーク州、カリフォルニア州には多数の専門医がいるが、一人も専門医の居ない州があります。
イタリアから興味深い論文が出ています。「歯科医師は外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーを認識しているか?ウェブベースの疫学調査」という論文です。外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーとはどんなことか、外傷とはここでは抜髄、抜歯、切開などの歯科処置を指しています。有痛性三叉神経ニューロパチーとは三叉神経の神経障害性疼痛を指しています。従って、何らかの歯科処置によって神経が傷害されて術後に痛みが続いている状況ということになります。
この論文の要点をまとめます。
  1. 歯科医師の30%は外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーという用語を知らなかった。
  2. 歯科医師の70%は、臨床において、このような痛みを疑う患者を診たことがあった。その内訳は、根管治療後(60%)、抜歯後(43%)、原因不明(37%)、その他の歯科治療後(21%)であった。
  3. 外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーを疑った3分の1の患者だけ専門医に紹介された。
  4. 結局、ほとんどの患者は疼痛に対して、抜髄、抜歯、切開などの誤った、無意味な、不可逆的な治療を受けていた。
     結論として、不適切な診断と治療の遅れが慢性痛を生ずる可能性があります。さらに、広い知識の不足は、医療制度と患者の双方に、障害による大きな社会経済的損失をもたらしました。
これはイタリアの状況ですが、我が国と大差ないと思います。
 
2025年08月02日 21:47

顎関節症、口腔顔面痛における基本診査の重要性

診査の重要性
日本の口腔顔面痛臨床で一番気になっている事は基本的診査法が普及していないことです。
当クリニックでは初診の患者さんに、顎関節症の顎関節診査、神経障害性疼痛の感覚検査、筋・筋膜性疼痛の筋触診、そして、12脳神経診査と診査を進めていきます。これらの診査で何らかの異常が認められ、それを元に臨床診断推論を駆使して診断し治療法を決めて患者さんに説明します。
最初に患者さんが言うことは、「このような診査を受けたのは初めてだ」。
当クリニックを受診する患者さんのほとんどの患者さんは既に複数の歯科医院、病院、大学等で診査、治療を受けています。既に何らかの診断の元に治療を受けている患者さん達です。どのような診査をし、どのような根拠を元に診断し、治療法を決定しているのか、これが私の一番の憤りです。
このような現状が気になり、口腔顔面痛を基本的に研修する機会の無かった方々を対象に、診査法の実技指導を目的としたセミナーを実施中です。基本的知識、手技の説明は前もって数回のオンラインで説明し、対面ではHandsonで診査法の指導を行います。
診査法指導で一番難しいのは筋・筋膜性疼痛の元である、索状硬結、トリガーポイントの触診法です。これに関しては複数回のHandson指導が必要だと思っています。
基本的診査無しに、病気の診断は出来ません。頭でっかちの治療では患者さんは治りません。
 
2025年08月02日 10:49

感覚は双方向という話し、痛みは感覚か解釈か、と言う話

感覚は双方向という話しと痛みは感覚か解釈か、と言う話
以前、加藤総夫先生の講演で視覚、聴覚は双方向だという話しとデモを見せてもらったことがあります。漠然と見えているモノと意図的に見ようとした時、探そうとしたときの異なって見える、同様に聞こえている音を意図的に聞こうとしたときに聞こえる音が違って聞こえると言う話しだったと思います。味覚も同様だと思います、何気なく食べている料理のなかで、この味は?と意識するといろいろな味がはっきり感じられます。その結果、美味しく感じるかどうかは保証しませんが。
普段、舌が特別の敏感だとは感じられませんが、触覚、痛覚、冷温覚とも非常に敏感な組織です。歯の鋭縁や凹凸、咬頭の凸凹、充填物の段差など、また、口蓋皺襞の凸凹、舌乳頭のザラザラなど、それまで何も気にならなかったモノが、いったん気になり出すと、如何にも探しているように全て異常と感じてしまいます。
感覚が双方向と言っても、感覚を伝える神経線維を伝わる信号は全て末梢から中枢に向かい、信号が逆行して探す訳ではありません。中枢に向かう信号の中から目的とする信号を脳が選別し、拡大して捉えることにより脳から末梢の感覚器に探しに行っているように感じられるのだと思います。要するに、求心性に脳に伝わった感覚を脳が解釈しているとも言えます。
我々は診査で口腔内を診るときに、見慣れた口腔内で間違い探しのように、異常な所見がないかどうかを探します。異常所見には違和感で判別できます。
患者さんが何らかのきっかけで口腔内を見ると、見慣れないモノがいっぱいあります。よくある例が口蓋隆起です、ある日突然、上顎がヒリヒリ、よく観たら大きな出っ張りがある、気になってしまいどうしようも無い。昨日までは何もなく突然に出来た(本当は偶然見つけた)ので、きっとアゴのガンに違いないと訴えます。確かに大きな口蓋隆起で、よく今日まで気にならずに過ごしてきたモノだと思える位の大きさです。ところが、全く気にならずに今日まで過ごしてきたのです。このように大きな凸凹があっても、舌にとっては慣れ親しんだ凹凸だったのですが、いったん気になると、歯が出っ張っている、かみ合わせが悪いからだと異常として捉えてしまいます。
同様にいっぱい毛が生えている、それが一様ではない。これはガンではないか、そう思ったら舌に痛みも感じると受診する人もいます。舌に毛が無かったら、まるで因幡の白ウサギのように、しみて、しみて大変ですよ、舌を守るために毛が生えているのですよと正常な舌の写真(本当は私の舌をべーっと見せたいが)を見せて説明したら、納得できて帰りには痛みも消えていました。
痛みは本来、身体を傷害から守るための警告信号で、生きるために必要な事です。急性の痛みのほとんどは原因を取り除けば痛みが消えます。問題は慢性化した痛みです、慢性化した痛みは痛みの原因とは離れたところで続いています、まるで、ハシゴを外されたよう。その理由の一つが、長い間、痛みが続くと痛み神経系が刺激されて過敏な状態になってしまい、原因が無くなっても過敏な状態は続きます。そして、気になって何時も痛みを探しています。このような状況の慢性痛の患者さんへの説明によく使うフレーズを紹介します。試験勉強の為に毎日復習していると試験で満点、ところが、復習しないと良い点数がとれない、試験のためには復習が効果的だが、気にして痛みを探し続けると記憶を呼び戻すことになり最悪です。それではどうすれば良いか、気にしないようにしても気になってしまいます、止めることは出来ないのです。意識を他に向けることです、痛みの復習では無く、他の楽しいことを考える、痛いところを使った動作をする、これにより意識が他に向いて、痛みが感じなくなります。これがマインドフルネスです。
 
2025年04月24日 14:24

案内:顎関節症/口腔顔面痛診査法実技指導セミナー

案内:顎関節症/口腔顔面痛を正しく診断するための診査法実技指導セミナー
目的:顎関節症/口腔顔面痛の診断に必要な診査法を実技指導する。
本セミナー開催に当たっての和嶋の考えを記事にしてある。 https://wajima-ofp.com/blog_articles/1743771572.html
構成:1)オンラインでの診査実技の解説(Googlemeet)
2)対面での、少人数、診査法実技指導(会場:元赤坂デンタルクリニック)
3)クリニックでの診療見学(東京、元赤坂デンタルクリニック、札幌、風の杜歯科)
診査法実技指導項目:1)顎関節痛の診査、2)筋・筋膜性疼痛の診査、3)口腔内、顔面の感覚検査、4)12脳神経検査
セミナー開始予定日:2025年5月12日on-line
募集人数:五名限定
受講者に求める事:顎関節症/口腔顔面痛の診査技術の指導であるため、ある程度の基本的知識を持っていること、口腔顔面痛の臨床経験は問わない。
受講料:七万円(申し込み者に振込先を連絡)
応募締め切り:4月25日
応募方法:メール申しこみ、記載事項(氏名、所属、年齢、出身大学、メールアドレス)
申し込み先メールアドレス:wajima.ofp@gmail.com
セミナー予定日時(on-lineは原則第2月曜日20時始まり2時間、対面は10時-16時、診療見学10時-17時適宜)、形式:1)5月12日月曜日:on-line、2)6月9日月曜日:on-line、3)7月14日月曜日:on-line、4)8月31日日曜日:対面、5)9月8日月曜日:on-line、6)日程応相談:診療見学
その他の受講希望者への要望:1)現在、月例で行われている3つの口腔顔面痛関連オンラインセミナー(村岡先生主催慶應OFPオープンセミナー、坂本先生主催OFP-webセミナー、和嶋主催口腔顔面痛オンラインセミナー)を受講することを勧める。 2)本セミナー受講後に日本口腔顔面痛学会主催の口腔顔面痛臨床推論実習セミナーの受講を勧める。
セミナー内容等、受講に当たっての質問は wajima.ofp@gmail.com宛てに送ってください。
 
2025年04月06日 14:26

顎関節症/口腔顔面痛診査法実技指導セミナー企画の経緯

顎関節症/口腔顔面痛を正しく診断するための診査法実技指導セミナー企画の経緯
ここ数年、構想を練っていた口腔顔面痛診療に興味を持つ方々への診査法実技指導有料セミナーを開催する事を決断しました。概要は、前もってオンラインでビデオ等での指導を行った後に、クリニックに集まってもらい実技指導を行う。後日、クリニックに来てもらい和嶋の患者診療の実際を見学してもらう。期日、費用等の詳細は後述します。
  1. 個人で診査法実技指導有料セミナーを企画するに至ったきっかけ
顎関節症、口腔顔面痛に関するセミナーが日本顎関節学会、日本口腔顔面痛学会で行われている。ところが、私のクリニックを受診する患者さんの多くはいくつかの専門医療機関で治療を受けているが正しく診断されないために改善せずに来院する。一番の理由は正しい診査法が実施されていない為である。
学会と協働して必要なセミナーを行えば良いとも考えられるが、正しく伝えるには、私が米国のOrofacial painの先達から直接教わった診査法をHandsonで、私が受講者に触って、直接診査をして伝える必要がある。それには少人数でしかできない。
  1. 診査法実技指導有料セミナーではどのようなことをするのか
主目的の診査法実技指導のために、少人数の受講者に私のクリニックに集まってもらい、丸一日かけて実技指導を行う。和嶋による受講者診査とその後の受講者間での相互診査実習を行ってもらう。当日の診査法実技の理解のために、前もって数回On-lineにてビデオ等により説明する。診査法実技指導を受けてもらった後に、クリニックに来ていただき、和嶋の日常の顎関節症/口腔顔面痛患者診察を見学してもらう。また、希望者には札幌、風の杜歯科での和嶋の診療を見学もしてもらう。札幌での診療見学の特徴は一日で多数の多様な病態、症状の患者さんの診療を見学できることである。
診査法実技指導項目:1)顎関節痛の診査、2)筋・筋膜性疼痛の診査、3)口腔内、顔面の感覚検査、4)12脳神経検査
  1. 何故、今まで診査法実技指導有料セミナーの開催をためらっていたか
実技指導は対面でしかできない、和嶋が受講者全員に直接指導するには少人数でしかできない、お互いに真剣に指導する、学ぶ時間を共有したい。このような構想でのセミナーを和嶋がやって良いのかとずーっと長い間、思案していた。前述したように患者さんが正統な診査を受けていないために正しい診断に至らず症状が改善していない状況を診る度にもうやらなければと思っていた。日本口腔顔面痛学会創設メンバーの多くは第一線から離れ、臨床を続けている和嶋がやらないと正統な顎関節症/口腔顔面痛の診査、治療の伝承が出来なくなるとの危惧も感じて決断するに至った。
 
2025年04月04日 21:59

動機づけ面接創始者による腕利き心理療法士のスキル

昨日3月24日月曜日に、動機づけ面接の創始者であるMiller博士の講演会に行ってきました。経歴に70年間の心理療法研究と書かれていますから90歳を超えていると思われます。年齢からか、経験深い心理療法士だからか、穏やかな説得力のある話し方でした。
 
事前公開の【講演概要】
どのような治療法が提供されても、クライアント(患者)の結果は、それを提供するセラピスト(治療者)によって大きく異なります。セラピスト(治療者)が全員同じ治療マニュアルに従っていても、セラピスト(治療者)毎に治療効果が異なります。それはなぜか、70年間の心理療法研究に基づいて、ミラー教授はクライアントがより良い治療結果が生ずるセラピスト(治療者)の8つの特徴を説明します。これらは性格特性ではなく、専門家育成の専門的なトレーニングに含めるべき、学習可能な臨床スキルです。
講演で述べられたこと
動機づけ面接の創始者の話であったが、動機づけ面接の話しは無かった、効果が高い治療者に備わった8つのスキルについての解説であった。
どの精神療法が他よりもすぐれているといえるか、それは言えない。精神療法の違いにより治療効果に差が出ない、これは、治療者毎に治療効果に差が出るが、平均するとどれも変わらなくなる。しかし、どの治療法も治療者毎に治療効果に差があるのは明らかで、適切なセルフケアの解説本を渡して実施してもらった場合よりも治療効果が低い場合、あるいは治療にも関わらず悪化する場合もある。差が出る理由は各治療者の8つのスキルの善し悪しによる。
講演で述べられていた8つのスキルを効果順に並べる、
1,正確な共感  2,肯定的な関心を向ける 3,真正性/自己一致(患者体験と治療者の体験)  4,受容  5,治療目標を定める、フォーカスする  6,希望を持ち、持たせる  7、解決志向を呼び起こす、 8,情報提供、助言をする
単純には傾聴、受容、共感を如何にレベル高く行うかという事だと思います。基本的な事ながら傾聴、受容、共感がうまく出来なければ、どんな精神療法を行っても治療効果はあがらないということ
8つのスキルの多くは動機づけ面接の基本技法と重複していて、動機づけ面接は行動変容をはじめ、心身医学的対応の基本として利用価値が高いという話しであった。
動機づけ面接学会での招聘講演で来日され記念として下記の本が出帆されます。この本に講演内容が詳記されているそうです。
腕利きの心理療法家 クライエントのアウトカムを改善する効果的な臨床スキル 単行本(ソフトカバー) – 2025/3/27発売予定 ウイリアム・R・ミラー (著), テレサ・B・モイヤーズ (著), 原井 宏明 (翻訳), & 1 その他
本書の宣伝文句
腕利きの心理療法家を、本書では「効果的なセラピスト」と呼ぶ。治療効果をもたらすことのできる心理療法家とはどのような人なのか。どんな特性や技能を備えていて、どのようなカウンセリングや心理療法をしているのか。患者・クライエントとの対話が単なるおしゃべりになってしまったり、行き詰まったりしていたら、そこから脱するために必要不可欠な要素を本書の中から見つけることができるだろう。「援助関係」「治療スキル」「学習、研修、臨床科学」の三部構成で、特にさまざまな治療スキルについて重点的に解説。本書で学んで実践し、効果的なセラピストを目指そう!
 
 
 
2025年03月25日 19:23

神経障害性疼痛に二次的に筋・筋膜疼痛発症

神経障害性疼痛に二次的に筋・筋膜疼痛発症例
初診時に主訴の疼痛部にallodynia、hyperalgesiaなどの感覚障害があり、慢性的に経過している場合は同側の咬筋に筋・筋膜性疼痛が認められる場合が多い。咬筋の圧痛誘発により関連痛として主訴の疼痛が再現される事が多い。このような場合には神経障害性疼痛を念頭におきながら、筋・筋膜性疼痛の治療を優先させる。ストレッチ、随意運動によりかみしめ中断などの行動変容を含むセルフマネージメンを指導する。約一ヶ月で筋症状が改善し、持続性の鈍痛が消失する場合もある。しかし、もう一つのピリピリ、ヒリヒリ、むずがゆい感じなどの症状は改善せず、まだ痛いですという訴えになる。
そこでもう一度、感覚検査を行う。結果は初診時よりもはっきりした感覚異常が認められる。ああ、やっぱり神経障害性疼痛が元にあったのだと認識せられる。神経障害性疼痛が発症した後に、痛みの為に筋緊張が生じて筋・筋膜性疼痛となった。筋・筋膜性疼痛の痛みが前面に出て、如何にも筋・筋膜性疼痛が原発の様に思える。でも、違っていた。
初診時に筋・筋膜性疼痛の筋触診を行わず、筋触診障害から神経障害性疼痛と診断して薬物療法を行っても、一ヶ月たっても全く効果無く、診断に混乱することになるであろう。
口腔顔面痛の診査として、初診時、再診時に筋触診、感覚検査を繰り替えることが重要であると何時も再認識させられる。
 
2025年02月21日 18:35

TMD治療のための10の重要なポイント

IADR(国際歯科研究学会)のINfORM(The International Network for Orofacial pain and Related disorders Methodology) (INfORM)グループは、優れたTMD治療のための10の重要なポイントを提案します。これは、TMD管理と患者のニーズに関する現在の標準的なケアの要約を表しています:    赤文字は和嶋の追加です
2010年AADR(米国歯科研究学会)から出された、「顎関節症の声明」では自然経過が良いことから顎関節症はセルフリミッティングと言われていました、今回の論文ではセルフリミッティングという言葉が消えて、逆に慢性化という用語が加えられました。
また、複雑な症例は口腔顔面痛専門医に紹介すべきと明記されました。 ちなみに、米国では顎関節症は口腔顔面痛の一部であり、顎関節症専門医制度はなく口腔顔面痛専門医が顎関節症専門医も兼ねています。
  1. TMD を管理するには、患者中心の意思決定と患者の関与および視点が重要であり、病歴聴取から検査、診断、そして治療へと続くプロセスです。症状を制御および管理し、個人の日常生活への影響を軽減する方法を学ぶことに重点を置く必要があります。
  2. TMD は、口腔顔面痛や筋骨格系に起因する機能障害などの兆候や症状を引き起こす一連の疾患群です。
  3. TMD の病因は生物心理社会的であり、かつ多因子性です。  昔は咬合異常、かみ合わせが原因と言われていたが、かみ合わせの異常は否定され、それを修正するという咬合治療も否定されています。生物心理社会的:精神心理因子、社会的因子が重要視されています。
  4. TMD の診断は、研修を受けた診査者が患者の視点に基づいて、標準化され検証された病歴聴取と臨床評価に基づいて行われる。 診査法はちゃんとしたトレーニングを受けること、触診法などはハンズオンセミナーで研修を受けるべきです。
  5. 画像診断は特定の症例で有用であることが証明されているが、標準化された病歴聴取、臨床診査に代わるものではない。軟部組織の場合はMRI、骨の場合はCBCTが現在の標準検査法です。画像診断は、診断または治療に明らかな影響を与える可能性がある場合にのみ実施する必要があります。画像診断のタイミングは重要であり、コスト、利点、リスクのバランスも重要です。
  6. 通常の標準治療を超えた治療や器具を使用する前に、根拠となるエビデンスを慎重に検討する必要がある。この分野の新規開発に関する知識は最新の状態にしておく必要がある。現在、チェアーサイドで筋電図活動測定、顎運動計測や体の揺れを評価したりする技術機器の有効性は支持されていない。 特殊な器具でTMDのより優れた診断が出来るという学術的根拠はないと言われている。
  7. TMD 治療は、痛みの影響を軽減し、機能制限を減らすことを目標とすべきある。治療結果は、悪化の軽減、悪化の管理方法に関する教育の必要性の減少、生活のQOL向上との関連で評価する必要がある。
  8. TMD 治療は、主に、サポートされた自己管理の奨励と、原因となる習癖、姿勢等の行動変容や理学療法などの保存的アプローチに基づく必要がある。 自己管理をサポートする第 2 選択の治療には、暫間的、間歇的、および期間限定の口腔装置の使用が含まれる。外科的介入が必要とされるのは、ごくまれで、非常に限られたケースのみである。治療法の第一のサポートされた自己管理の奨励とは(ここが生物心理社会的のなかで特に、精神心理因子、社会的因子に対して共通認識を持つこと)のこと、原因となる習癖、姿勢等の行動変容は(原文では認知行動療法と書かれていますが、精神療法の認知行動療法とは異なりますので、行動変容と改変しています)の事です。
  9. 不可逆的な咬合治療や咬合または下顎頭の位置の調整は、TMD のほとんどの治療には適応されない。例外となるのは、高い充填物や冠を装着した直後に TMD 症状が現れる場合や下顎頭の疾患により咬合位がゆっくりと進行する場合である。かみ合わせを変える咬合治療は否定されています。
  10. 予後が不確実な複雑な臨床像、例えば、広範な疼痛や併存疾患、中枢性感作の要素、長期間持続する疼痛、過去に治療に失敗した既往歴がある場合などは、顎関節症や非顎関節痛の慢性化を疑うべきである。従って、適切な専門医(口腔顔面痛専門医)への紹介が推奨される。すべての国に口腔顔面痛専門医がいるわけではないため、地域に適切な紹介先を探すべきである。 顎関節症の中には(例えば、広範な疼痛や併存疾患、中枢性感作の要素、長期間持続する疼痛、過去に治療に失敗した既往歴がある場合)などの症状、経過を伴っている場合があり、それは普通の顎関節症ではなく、慢性化する症例があるために、早期に口腔顔面痛専門医に紹介すべきと書かれています。
2025年02月05日 16:54