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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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案内:顎関節症/口腔顔面痛診査法実技指導セミナー

案内:顎関節症/口腔顔面痛を正しく診断するための診査法実技指導セミナー
目的:顎関節症/口腔顔面痛の診断に必要な診査法を実技指導する。
本セミナー開催に当たっての和嶋の考えを記事にしてある。 https://wajima-ofp.com/blog_articles/1743771572.html
構成:1)オンラインでの診査実技の解説(Googlemeet)
2)対面での、少人数、診査法実技指導(会場:元赤坂デンタルクリニック)
3)クリニックでの診療見学(東京、元赤坂デンタルクリニック、札幌、風の杜歯科)
診査法実技指導項目:1)顎関節痛の診査、2)筋・筋膜性疼痛の診査、3)口腔内、顔面の感覚検査、4)12脳神経検査
セミナー開始予定日:2025年5月12日on-line
募集人数:五名限定
受講者に求める事:顎関節症/口腔顔面痛の診査技術の指導であるため、ある程度の基本的知識を持っていること、口腔顔面痛の臨床経験は問わない。
受講料:七万円(申し込み者に振込先を連絡)
応募締め切り:4月25日
応募方法:メール申しこみ、記載事項(氏名、所属、年齢、出身大学、メールアドレス)
申し込み先メールアドレス:wajima.ofp@gmail.com
セミナー予定日時(on-lineは原則第2月曜日20時始まり2時間、対面は10時-16時、診療見学10時-17時適宜)、形式:1)5月12日月曜日:on-line、2)6月9日月曜日:on-line、3)7月14日月曜日:on-line、4)8月31日日曜日:対面、5)9月8日月曜日:on-line、6)日程応相談:診療見学
その他の受講希望者への要望:1)現在、月例で行われている3つの口腔顔面痛関連オンラインセミナー(村岡先生主催慶應OFPオープンセミナー、坂本先生主催OFP-webセミナー、和嶋主催口腔顔面痛オンラインセミナー)を受講することを勧める。 2)本セミナー受講後に日本口腔顔面痛学会主催の口腔顔面痛臨床推論実習セミナーの受講を勧める。
セミナー内容等、受講に当たっての質問は wajima.ofp@gmail.com宛てに送ってください。
 
2025年04月06日 14:26

顎関節症/口腔顔面痛診査法実技指導セミナー企画の経緯

顎関節症/口腔顔面痛を正しく診断するための診査法実技指導セミナー企画の経緯
ここ数年、構想を練っていた口腔顔面痛診療に興味を持つ方々への診査法実技指導有料セミナーを開催する事を決断しました。概要は、前もってオンラインでビデオ等での指導を行った後に、クリニックに集まってもらい実技指導を行う。後日、クリニックに来てもらい和嶋の患者診療の実際を見学してもらう。期日、費用等の詳細は後述します。
  1. 個人で診査法実技指導有料セミナーを企画するに至ったきっかけ
顎関節症、口腔顔面痛に関するセミナーが日本顎関節学会、日本口腔顔面痛学会で行われている。ところが、私のクリニックを受診する患者さんの多くはいくつかの専門医療機関で治療を受けているが正しく診断されないために改善せずに来院する。一番の理由は正しい診査法が実施されていない為である。
学会と協働して必要なセミナーを行えば良いとも考えられるが、正しく伝えるには、私が米国のOrofacial painの先達から直接教わった診査法をHandsonで、私が受講者に触って、直接診査をして伝える必要がある。それには少人数でしかできない。
  1. 診査法実技指導有料セミナーではどのようなことをするのか
主目的の診査法実技指導のために、少人数の受講者に私のクリニックに集まってもらい、丸一日かけて実技指導を行う。和嶋による受講者診査とその後の受講者間での相互診査実習を行ってもらう。当日の診査法実技の理解のために、前もって数回On-lineにてビデオ等により説明する。診査法実技指導を受けてもらった後に、クリニックに来ていただき、和嶋の日常の顎関節症/口腔顔面痛患者診察を見学してもらう。また、希望者には札幌、風の杜歯科での和嶋の診療を見学もしてもらう。札幌での診療見学の特徴は一日で多数の多様な病態、症状の患者さんの診療を見学できることである。
診査法実技指導項目:1)顎関節痛の診査、2)筋・筋膜性疼痛の診査、3)口腔内、顔面の感覚検査、4)12脳神経検査
  1. 何故、今まで診査法実技指導有料セミナーの開催をためらっていたか
実技指導は対面でしかできない、和嶋が受講者全員に直接指導するには少人数でしかできない、お互いに真剣に指導する、学ぶ時間を共有したい。このような構想でのセミナーを和嶋がやって良いのかとずーっと長い間、思案していた。前述したように患者さんが正統な診査を受けていないために正しい診断に至らず症状が改善していない状況を診る度にもうやらなければと思っていた。日本口腔顔面痛学会創設メンバーの多くは第一線から離れ、臨床を続けている和嶋がやらないと正統な顎関節症/口腔顔面痛の診査、治療の伝承が出来なくなるとの危惧も感じて決断するに至った。
 
2025年04月04日 21:59

神経障害性疼痛に二次的に筋・筋膜疼痛発症

神経障害性疼痛に二次的に筋・筋膜疼痛発症例
初診時に主訴の疼痛部にallodynia、hyperalgesiaなどの感覚障害があり、慢性的に経過している場合は同側の咬筋に筋・筋膜性疼痛が認められる場合が多い。咬筋の圧痛誘発により関連痛として主訴の疼痛が再現される事が多い。このような場合には神経障害性疼痛を念頭におきながら、筋・筋膜性疼痛の治療を優先させる。ストレッチ、随意運動によりかみしめ中断などの行動変容を含むセルフマネージメンを指導する。約一ヶ月で筋症状が改善し、持続性の鈍痛が消失する場合もある。しかし、もう一つのピリピリ、ヒリヒリ、むずがゆい感じなどの症状は改善せず、まだ痛いですという訴えになる。
そこでもう一度、感覚検査を行う。結果は初診時よりもはっきりした感覚異常が認められる。ああ、やっぱり神経障害性疼痛が元にあったのだと認識せられる。神経障害性疼痛が発症した後に、痛みの為に筋緊張が生じて筋・筋膜性疼痛となった。筋・筋膜性疼痛の痛みが前面に出て、如何にも筋・筋膜性疼痛が原発の様に思える。でも、違っていた。
初診時に筋・筋膜性疼痛の筋触診を行わず、筋触診障害から神経障害性疼痛と診断して薬物療法を行っても、一ヶ月たっても全く効果無く、診断に混乱することになるであろう。
口腔顔面痛の診査として、初診時、再診時に筋触診、感覚検査を繰り替えることが重要であると何時も再認識させられる。
 
2025年02月21日 18:35

温度刺激により増悪する神経障害性疼痛 感覚検査の重要性

私の口腔顔面痛診査は主訴にかかわらず全例に網羅的に診査を行っています。ここでは2.感覚検査が非常に有意義だった神経障害性疼痛症例を紹介するとともに、局所麻酔薬、神経刺激物質を用いた外用薬治療を紹介します。

症例3:33歳女性
主訴:右下76歯間部歯肉が熱いモノ、甘いものがしみて、食事を何回も中断する。VAS50
現病歴:10ヶ月前に下顎右側4根管治療終了後、下顎右側6に痛みが生じた。深い虫歯があるということで抜髄処置、根管処置終了し支台築造したがしみるのが止まらない。甘いモノ、熱いモノがしみて食事を中断してしまう。原因不明と言う事で、下顎右側埋伏智歯が原因の可能性があるとのことで抜歯したが、症状変わらず、下顎右側7の近心にカリエスがあるからそれが原因ではないかとも言われた。下顎右側7は生活歯で冷水痛無しであった
心理テスト:心理テスト:HADs(不安10点、うつ9点)、PCS(反芻18点、無力感15点、拡大視6点)
睡眠障害診査:入眠障害、途中覚醒あり
既往歴:無し、内服薬無し
局所診査:
1.     歯原性、非歯原性の診査:デンタル、パノラマレントゲン下顎右側6根尖透過像無し、打診痛なし、治療経過などから歯原性を否定。

2.     感覚検査:下顎右側6頬側歯肉触覚Dysesthesia、痛覚hyperalgesia、冷感覚低下、温感覚過敏、残感覚あり。甘み刺激過敏、残感覚あり。オトガイ部の感覚異常なし、舌の感覚左右差無し、味覚異常なし。顔面感覚異常なし

3.     脳神経検査:上記三叉神経右側第3枝温感覚過敏以外異常認められず。

4.     筋触診:左右咬筋、側頭筋に筋肥大、硬結、圧痛なし

5.     顎関節診査:ROM42mm、左右側下顎頭滑走正常 牽引、圧迫誘発テスト痛みなし 

6.     咬合状態:明らかな異常なし

7.     診断的局所麻酔:頬粘膜浸潤麻酔により温熱感覚異常消失。

臨床診断:下顎右側6部歯肉神経障害性疼痛(温熱、甘味刺激にのみ感作)、原因不明、オトガイ部の感覚異常がないことから下歯槽神経の全体のニューロパチーは否定的、舌の感覚(三叉神経、舌咽神経)、味覚(顔面神経、舌咽神経)は正常であるのでラムゼーハントは否定、歯肉の外傷の記憶はなし。 
患者への説明:歯原性の可能性は低いのでこれ以上カリエスの治療等はしないこと、歯肉に熱刺激をしたら、食事中の熱刺激による痛みと同様の痛みが再現されたことから、熱受容体が関連する神経障害性疼痛の可能性が高いことを説明した。いつもの痛み(Familiar pain主訴)が再現されたこと、病名の詳しい事は理解出来ないが、ほぼ納得出来ることから提示した治療が受け入れられた。
診断的治療:頬粘膜への診断的局所麻酔により温熱、甘味刺激による誘発痛を止めることができたので、末梢性と判断して局所療法を行うこととした。就寝時に2%リドカイン軟膏を患部に塗布してステントを装着して覆う。
1ヶ月後、オンライン再診、VAS50 熱いモノでの食事中断は変わらず、甘味の刺激は軽減しているとのことであった。局所療法の継続を指示。
3ヶ月後再診:VAS40 熱い食べ物で食事中断することはなくなった。敢えて熱いモノを下顎右側6部に付けて反応を確認してみると、痛みは弱くなっている。 感覚検査:下顎右側6部触覚Dysesthesia 痛覚hyperalgesia 冷感覚低下 温感覚過敏 残感覚なし。舌の感覚、味覚異常なし、左右差無し。
処置:就寝中ステントを用いた2%リドカイン軟膏塗布は有効と判断し、2%リドカイン軟膏に加えて、TRPV1(熱感受受容体)を積極的に刺激する暴露療法を意図して一味唐辛子を混ぜて塗布することを指導した。

考察:本症例は主訴として右下76歯間部歯肉が熱いモノ、甘いものがしみて、食事中に何回も食事中断する、と言うことから神経障害性疼痛が疑われた。私の口腔顔面痛診査は主訴にかかわらず全例に網羅的に診査1-7を行っています。ここでは2.感覚検査を紹介します。
この患者さんで有意義だったのは2、感覚検査です。基本的に左右同部位の比較をします。口腔内の感覚検査は触覚はミラーの縁と充填器の丸い部分で歯肉粘膜を擦過します。基本はMechanical Dynamic Hyperalgesia動的機械的刺激です、綿棒では刺激が弱く反応が出ないことがあるので、ミラーの縁と充填器の丸い部分で診査しています。痛覚検査はピンセットの先端です。探針は刺さってしまうので使いません。冷感覚は水を含ませた綿棒に冷却スプレーを掛けて氷を作って診査します。温感覚の検査は長年試行錯誤していましたが、今は温度調整の出来るワックスペンを43度に固定して適用しています。もう一つ、趣味というか研究と言うか、電気刺激閾値も調べています。
口腔内は部位により触覚、痛覚、冷感覚、温感覚の閾値が大きく異なり、舌はどの刺激にも敏感です。ところが、歯肉は触覚、痛覚は敏感ですが、冷感覚、温感覚は非常に鈍感です。神経障害性疼痛例では触覚、痛覚の感覚異常に加えて、鈍感であるはずの冷感覚、温感覚も敏感になっている事があります。必ず検査すべきです。感覚異常が認められた場合には後に残る残感覚の有無も確認します。臨床的印象としては自発痛があると残感覚があることが多く、感覚異常があっても残感覚がない場合には自発痛はないように思っています。また、自発痛が消えても、刺激による感覚異常は残ることが多く、感覚異常がなくなることは珍しいです。
経過中に一番変化するのは触覚異常で、最初にallodyniaだったものが、治療によってDysesthesia、Paresthesiaに変化することがあります。一方、前記のように自発痛は消えてもallodyniaが残ることもあります。再診毎に自発痛のVASを毎回記録していて、その変化と感覚検査の結果を照らし合わせています。
治療に関して:診断的局所麻酔で全ての症状が消えて、末梢性100%と判断された場合には、夜間就寝中にステントを用いて2%リドカイン軟膏を貼付しています。温感覚過敏の場合にはTRPV1刺激としてカプサイシン(一味唐辛子、コチジャン、豆板醤、タバスコ)、冷感覚過敏にはTRPM8刺激としてミント(ハッカ油)を追加しています。TRPV1とTRPM8はどちらを刺激しても相互刺激作用があることが判っていて、さらに最近になりヒノキチオールがTRPV1、TRPM8の両方を刺激することが判ったので、ヒノキチオール含有する歯磨きペーストを混ぜる事もあります。口腔内外用薬の使用は全て処方医の責任の元で行ってください。
米国のGaryHeirが局所外用薬についてまとめた論文(Use of compounded topical medications for treatment of orofacial pain: a narrative review J Oral Maxillofac Anesth 2022;1:27 https://dx.doi.org/10.21037/joma-22-10)に帯状疱疹に認可されている外用薬製剤(Lidocaine ointment (5%)、Lidocaine patch (5%)、Capsaicin (0.025–0.075%)、Capsaicin patch (8%))が紹介されています。1999年、米国で初めて承認されたEndo Pharmaceuticals社医療用パップ剤Lidoderm®(Lidocaine patch (5%)帯状疱疹後神経痛治療貼付剤)は日本の四国にある帝國製薬が開発、製造しています。
論文には、上記の帯状疱疹用外用薬製剤の他に、口腔内神経障害性疼痛の治療用に個人の裁量で配合された薬剤(Ketamine4%、Carbamazepine4%、Lidocaine1%、Ketoprofen4%、Gabapentin4%、Pregabalin10%、その他)が紹介されていて、プレガバリン10%が最も効果が高いと書かれています。以前、国際疼痛学会の際に会場に集まった口腔顔面痛専門医の皆さんに口腔内神経障害性疼痛の治療としてリドカインとカプサイシンのどちらを使っているかを質問したら、結果は半々で有効性に差は無いようです。前記したように私の臨床ではリドカイン、カプサイシン、ミント、ヒノキチオール、プレガバリンを状況により適宜併用しています。
再度の確認です、口腔内外用薬の使用は全て処方医の責任で行ってください。
2025年01月13日 13:06

口腔顔面痛雑感 




痛み治療では上記の神経系の病態だけではなく、患者さんの心への対応が必要です。患者さんに何故こんな風に痛くなったのかというメカニズムを探して説明する前に、応急処置が必要です。「傾聴、受容して、患者さんの状況について共通認識を持つ」、そして、多くの患者さんが痛みとともに大きな不安感を抱えていることも把握し不安を和らげることが必要です。これが従来からの当クリニックの基本的二本立て対応です。
口腔顔面痛、顎関節症の患者さんを診ていてあらためて思うこと 多くの症状はセルフリミッティングで自然に治ります。ところが、大きなストレス、患者さん自身の間違った解釈による、感情変化、間違った行動などにより、直るべきものが直っていないことがあります。このような患者さんでは解釈モデルを正しい方向にすり合わせて正しい知識を持ってもらい、余計な不安、怒りを静めるなどして、自然治癒能力を高める手助けするのが我々の治療です。ところが、治すべき治療であるはずが余計なこと、例えば咬合治療です、患者自身の自力治癒能力を邪魔するような治療をしていることがあります。感覚に鋭敏な方がストレス等で不安感が高まって、かみ合わせが気になる、自称顎関節症の専門家を受診、咬合調整、咬合再構成、矯正治療等がはじまった、ところが、このような感覚鋭敏の方は変化を受け入れられません、そのため何時まで経っても受け入れられるかみ合わせは無いのです。本当は余計な治療を始めなければ良かったのですが、今の泥沼状況から救い出すには、顎関節症についての正しい説明をして、患者さんの解釈モデルを少しずつすり合わせることにより患者さんとの信頼感を構築し、片手だけのつながりでも、それを頼りに患者自身に這い上がってもらうことです。
まだまだ、口腔顔面痛、顎関節症の標準的治療が行われていないことに苛立ちます。学会活動、マスコミを通じた広報、まだまだですね。

9月の米国タフツ大学の口腔顔面痛Webinarで歯内療法後の不快症状が何で起こるのかという話しがありました。原因として、不確実な歯内療法があるでしょうがそれはちゃんとした治療をすれば治ること。ちゃんとした歯内療法にも関わらず半年経過しても不快症状が続く場合があるという話しは以前からありました。その原因が歯内療法、特に抜髄以前の痛みの持続期間と関係あるという話し、以前から、抜髄前に3ヶ月以上痛み期間が有意な原因と言われていましたが何故かは言及されていませんでした。タフツ大のWebinarでは、抜髄前の歯髄痛により痛み信号が末梢神経、中枢神経と伝わり、三叉神経細胞体等の要所を興奮させてしまい、中枢感作につながるという話しでした。知覚過敏も同様、痛み信号全て脳に伝わって感じられること、状況に寄っては神経系を荒らして興奮させてしまい、長く続くと歯の問題ではなく神経障害性疼痛と同様になるということが再認識されました。

痛覚変調性疼痛の理解が深まり、現状で何をすべきかが少しずつ見えてきました。特効薬はなく、特別の治療法もありません。使い古された言葉ながら、患者さんに寄り添って、支えていくことがもっと効果があるようです。
慢性疼痛は人間の生存の為に警告信号としての痛み信号が高まったままに維持された状況、そして、痛みだけではなく、その他の感覚や自律神経系も変調しているので、言わば、脳機能変調というのが私の理解です。
2024年12月30日 10:32

末梢神経障害の分類の変遷 臨床との関連を求めて

神経損傷分類まとめ
末梢神経障害の分類の変遷 Seddon分類、Sunderland分類からBirch and Bonney 分類まで
これまで数回末梢神経傷害の分類について書いてきました。いずれも臨床的有用性が低いこと、臨床的関連性は説明出来ませんという論調です。世界は広く、長い歴史の中でそのような考えは多くの方が持っていたようで、今回納得の話しを書きました。    
 wajima-ofp.com/blog_articles/1678969421.html   
 wajima-ofp.com/blog_articles/1673068431.html
歯科では、智歯抜歯やインプラントの偶発症として生ずる下歯槽神経、舌神経の神経障害が身近な問題であり、最近は下顎骨の狭小化により智歯抜歯による舌神経損傷、インプラントの普及による下歯槽神経損傷が世界的に増加傾向にある。末梢神経損傷の組織、病理分類として、必ずSeddonの分類、Sunderlandの分類が用いられるが、臨床的に有意なものかどうかと言う点では疑問がある。要は臨床の場における神経損傷は複雑な病態、様々な損傷程度が入り交じっていて、多くの症例は本稿の最後に挙げるMackinnonにより追加されたSunderland分類Ⅵに相当すると考えられる。Seddon、Sunderlandの細かな分類は神経障害の組織、病理的研究の基準であって、臨床における神経障害の程度や回復経過の説明のために作られたものではないと思っている。そのため、後年の研究者達は臨床を念頭に様々な改変、追加を行っている。最たるはBirch and Bonneyによる、非変性神経損傷と変性神経損傷の区別である。
神経損傷の分類に関する現在の理解の基礎は、英国Oxford大学Nuffield校整形外科学教授だったSeddonが神経損傷例を基に発表したSeddonの分類(1942)にある。
Seddonは当初英語での分類を考えたが、同僚の神経内科教授Henry Cohenの曖昧さを避けるためにギリシャ語使用の提案を受け入れて、ギリシャ語での分類となった。Neurapraxia (Transient block:一過性ブロック)、Axonotmesis (Lesion in continuity:軸索連続性の病変)、Neurotmesis (Division of a nerve:神経線維の断裂)
それから約10年後、オーストラリアMelbourne University解剖学教授で後に学部長になったSir Sydney Sunderlandによって、Sunderlandの分類(1951)が出された。彼は、現代の医師はギリシャ語を理解できないだろうとの予測と、末梢神経損傷例の長期研究の後に、神経鞘の段階的障害に基づいて番号による分類を提案した。Sunderlandタイプ I がSeddon分類のNeurapraxiaと同等であることに言及しているが、SeddonのAxonotmesis 、Neurotmesisとの比較は明確にしていない。神経鞘の破壊が大きくなると再生中の軸索の「交差配線」が生じる可能性があるということで、後年の比較表ではSunderland classⅡがAxonotmesisと同等でありであり、神経内膜損傷以上の損傷であるClassⅢ-ⅤがNeurotmesisに相当すると考える説がある。 和嶋の誕生年でした。
1988年、末梢神経外科の専門家であるLundborgは一見無害に見える神経への損傷による臨床症状の違いを理解するのに役立つ生理学的伝導ブロックの概念を提案し、Neurapraxiaと Sunderlandタイプ Iの部分を短時間回復のtype Aと数日から数週以内回復するtype Bに分類した。
1989年、カナダの末梢神経外科医であるMackinnon女史がSunderland分類の最後にClassⅥとしてSunderland分類の複数のタイプを組み合わせた混合タイプを追加した。この分類スキームは、神経損傷の臨床的診査所見や回復過程と合致するものである。
1991年、神経損傷の理解に多大な貢献を果たした英国のBirch and Bonneyが、臨床的観点から非変性神経損傷と変性神経損傷に区別することを提案しました。要は、障害軸索がワラー変性を起こすかどうかという臨床に密接に関連する相違に基づいての分類である。
ということで、最後の分類は非常に臨床的で神経障害が治るか、治らないかの分類でした、そして、治るのは最も軽度のSeddon分類のNeurapraxia  Sunderland分類のClassⅠのみです。
2024年02月11日 14:50

帯状疱疹ワクチン テレビコマーシャル

この頃、テレビで50歳以上の人への帯状疱疹ワクチンのコマーシャルをよく観ます、それにはしっかりした理由があります。
それは、子供への水痘ワクチン接種が普及して、子供の水痘がほとんど無くなったことに起因しています。従来は、家庭で子供、孫の水痘発症が帯状疱疹抗体価が下がってきた両親、祖父母で抗体増加のブースター効果を発揮して、両親、祖父母の帯状疱疹発症を予防していました。ところが、近年の水痘ワクチン接種によって子供の水痘発症が無くなったことにより、両親40歳代、祖父母50歳以上での帯状疱疹抗体増加のブースター効果が発揮されなくなり、抗体が上がること無く、帯状疱疹が発症してしまう事が増えています。
高齢で帯状疱疹を発症すると、60歳以上では約半数で帯状疱疹後神経痛に移行すると言われていて、現在は都合の悪い状況になっています。帯状疱疹自体が非常に痛そうですが期限があります。ところが帯状疱疹後神経痛は神経障害性疼痛であり、終わりが見えない慢性の痛みです。三叉神経領域でも顔面、口腔内に発疹する帯状疱疹が多く、中には顔面神経にも罹患し三叉神経の帯状疱疹後神経痛と顔面神経麻痺の後遺症が出る人がいます。非常に大変です。
現在、50歳以上の人には帯状疱疹の予防接種が出来る様になっています。
ワクチンには二種類あって、従来から用いられていたのは子供向けの水痘予防生ワクチン(一回7-8千円)、もう一つは、組み換え帯状疱疹ワクチン(一回2万円を2回)です。費用は地域によって公的補助金が出るところがあります。
この二つのワクチンの有効性に関する論文があります。単純には 組み換え帯状疱疹ワクチンの有効性が圧倒的に高いです。
生ワクチン
帯状疱疹の発症予防の有効性は、時間とともに減弱していた。接種後30日以上1年未満には67.2%(95%信頼区間65.4-68.8%)だったが、1年以上2年未満には49.6%(47.4-51.7%)に、10年以上12年未満には14.9%(5.1-23.7%)まで低下していた。
 帯状疱疹後神経痛予防については、接種後30日以上1年未満が83.0%(78.0-86.8%)で、10年以上12年未満には41.4%(16.8-58.7%)だった。
 
組み換え帯状疱疹ワクチン
接種後の期間別にみた帯状疱疹予防有効率は以下のとおりであった(1回接種の有効率vs.2回接種の有効率)。
【30日後~1年未満】70% vs.79%
【1年後~2年未満】45% vs.75%
【2年後~3年未満】48% vs.73%
【3年後以降】52% vs.73%
 
費用対効果、何回注射を受けるかを考えると、組み換え帯状疱疹ワクチンが良さそうですね。
2024年02月05日 21:00

口腔顔面痛診査法の客観性を高めるために

今年の夏の暑さは異例だったそうです。2023年夏(6月1日~8月24日)の日本の平均気温の基準値からプラス1.78度高かったそうで、夏の気温としては統計を開始した1898年以降の126年間で最も高かったそうです。9月を含めても同様の傾向になるでしょう。暑いのが好きなのとクリニックは涼しいので問題なし、ところが夜の暑さは耐えられませんでした。
このように暑かった今年の夏、患者さんの予約が少なかったこともあり、ゆっくりさせてもらい、診療改善のための年初来の課題解決に取り組みました。 口腔顔面痛診療を名人芸ではなく、客観性の高い診査法にして、誰もが同じ結果が得られるようにすることを目指しています。

1. 自律神経活動測定:指尖容積脈波を計測して、自律神経活動を調べる。痛みの患者さんは自律神経機能が変化している事があり、痛みに影響している可能性がある。慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項    どのタイミングで測定するのが良いか、初診と症状変化時

2. 開口抵抗力測定: オリジナルのアゴのこわばりの具合を測ろうという考えを具現化した開口抵抗力測定器を用いて、患者さんのアゴのこわばり度を測定する、その程度は筋緊張、筋拘縮など筋障害の程度を反映していると考えている。これも慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項 単純に開口抵抗力を計るだけで無く、ストレッチをどれくらいすると筋収縮力が低下するか、患者さんがセルフケアをしてくれた効果を痛みの自覚症状に加えて客観的評価にも使えそう。初診時に測定し、診断結果との関連性を検討する。

3. 疼痛電気閾値測定:神経障害性疼痛患者さんのAllodynia部位の閾値測定、allodyniaは機械的動的刺激による痛みと規定されているが、刺激手法はまちまち、感じ方もいろいろで再現性が低い、そこで、電気刺激に対する反応として調べようという目的。既存の機械、電極からスタート。電極の改良が必要、電気なのでプラスマイナスの二つの端子が必要、でも、口腔内のallodynia部分に二つ置くのは無理、更にallodyniaの部分を刺激するといたくて、電気刺激か機械刺激による痛みか判別不能になる、等のいろいろな障害があり、改良に改良を重ねて、これで使えるかなと言う電極に達しました。 新しい電極で測定開始、スムーズに出来るかどうか。 

4. 患者さんとの医療面接を音声入力文字起こしシステム:痛み診療では患者さんの痛みの自覚症状を如何に文字化して客観的に評価するかが重要です。そのため、毎回の診察では10分程度いろいろな質問しながら経過を伺います。この内容をカルテにまとめるのが大変です。Googleドキュメントに音声入力があるのを見つけてのとりあえず音声入力文字化して、カルテに貼り付けていました。7月に慶應医学部の学生さん達が起業して、音声入力文字化、カルテ記載用に要約までしてくれるシステム開発(medimo)、それを試用させてもらっています。初診時の患者さんには構造化問診していくと、項目に沿ってやりとりを要約してくれる。再診時には自覚症状変化を上手く要約してくれる。医学用語、歯科用語の誤文字化をどうやって少なくするかが課題。
2023年09月06日 18:20

口腔顔面痛 Onsiteハンズオンセミナー開催予定

コロナによりオンラインセミナーが普及し、在宅でセミナーに参加出来るという大きな利便性が得られました。それによって、主催者と受講者を結ぶ一方向性の縦糸は太くなりましたが、双方向性ではありません、ここに大きな問題点があります。また、受講者間の横糸は繋がらず、疑問点解消の機会が失われているように思えます。
 
今年度になりマスク装着緩和、5月にコロナ5類移行によって、学会等が対面で行われることが増えています。学会場で久し振りに会って、いろいろな事をデスカッションしたいと誰もが思っていたようです。
私が主宰してる口腔顔面痛オンラインセミナーは元からオンラインですから、コロナに関係なくオンラインで続けて行きます。そして、オンライン一方向性の弱点を補うべく、これまた元からやっていたオンサイトハンズオンセミナーを復活させます。
つい先日皆さんに案内を出したところです。
【口腔顔面痛 Onsiteハンズオンセミナー】
期日:2023年9月17日(日曜日) 11時-16時
会場:慶應義塾大学北里図書館二階 第一会議室
オンラインセミナーは一方的になりがちですので、ハンズオンで筋肉に触り、口腔粘膜、皮膚の感覚検査をして、できるだけ双方向でデスカッションしたいと思います。
プログラム
1.筋痛関連:筋触診、超音波、トリガーポイントリリース
2.神経障害性疼痛関連:診断法、定性感覚検査、定量感覚検査、薬物療法、トピカル療法
3.痛覚変調性疼痛とは:診断基準、中枢感作、脳機能変調
4.口腔顔面痛オープンセミナー、オンラインセミナーでの疑問点解決
参加希望の方は7月31日までに  i.hiroco0827@gmail.com 池田浩子宛までメールをお願い致します。
 
2023年06月09日 21:34

特発性三叉神経痛の治療の限界

トリガーゾーンへの些細な刺激により誘発される激烈な発作痛を特徴とする三叉神経痛は原因毎に3つに分類されます。
昔は脳腫瘍などの原因が明らかなものが症候性(真性)、原因が不明のものが特発性(化性)と言われていましたが、現在は血管圧迫により神経に変形が生じている(neuro-vascular contact with morphological changes)典型的三叉神経痛(classical Trigeminal neuralgia)、脳腫瘍などのしげきによる二次性三叉神経痛と原因の不明な特発性三叉神経痛に分類されます。
典型的三叉神経痛、特発性三叉神経痛の治療ではカルバマゼピンなどの薬物療法が第一選択で、多くの症例は薬物療法でコントロール出来ます。
しかし、薬物療法で薬疹がでたり、肝機能障害などの副作用により薬物療法が継続出来な場合や代謝酵素の自己誘導により必要服用量の増加による副作用の発現等によって、副作用対策、併用薬の選択などで困窮することも多いです。
典型的三叉神経痛ではこのように薬物療法抵抗性の場合、微小血管減圧術microvascular decompression(MVDが適応となります。神の手を持つ脳外科医としてマスコミで取り上げられる福島孝徳先生の鍵穴手術がよく知られています。現在この手術は日本全国の主要な都市に専門にやっている脳外科医がいて、有効性について多くのエビデンスが示されています。
二次性三叉神経痛の脳腫瘍、髄膜腫等の摘出は脳外科医の得意とするところで手術により解決出来ます。ところが、特発性三叉神経痛では薬物療法で長期コントロール出来れば良いのですが、副作用等で薬物療法が有効でなくなった場合が大変です。特発性三叉神経痛においても典型的三叉神経痛に対する微小血管減圧術の様に根本的治療法の開発が望まれます。このような状況で新規の治療法としてInternal neurolysis (別名NerveCombing(文字通り神経に櫛かけるように、神経根の部分で神経取り巻く外表の膜に割線を入れるという術式)が有効であるという報告があります。しかし、まだ、論文は多くはなく、その術後経過は不明です。
Internal neurolysisを含めた神経遮断術neuroablative proceduresの中で最も侵襲の少ないのが定位放射線手術Gamma knife surgeryです。しかし、痛みの軽減は最大6ヶ月遅れることがあり、感覚脱失が頻繁に生ずると言われています。三叉神経internal neurolysisは長期的には非常に有効であるが、合併症が多い(感覚鈍麻96%、有痛性感覚脱失3.9%)ことが示されています。経皮的神経切除術(高周波熱凝固法、バルーン圧迫法、グリセロール根治療法)では、効果が平均3~4年間しか続かないために繰り返し行うことが一般的であり、合併症の発生率は高く、特に繰り返し行う場合は注意が必要といわれます。
神経遮断術neuroablative proceduresの中で、どれかの治療法が他の治療法より優れているという根拠はない。
 
血管圧迫がない、血管圧迫があっても神経に変形が生じていないこと診断基準である特発性三叉神経痛にも苦し紛れのように微小血管減圧術(MVD)が行われることがあるようで、いくらか有効であり、定位放射線手術Gamma knife surgeryよりも有効である可能性があるという論文があります。
三叉神経痛の治療法の開発が進まないのは、三叉神経痛の動物モデルが出来ないからで、多くの人達が研究したようですが実現していません。人間でしかテストが出来ないので時間が掛かりますね。学生時代から使われていたカルバマゼピン以上に有効性の高い薬はなく、新しい薬の開発が待たれます。
つい最近も、片頭痛の予防薬として使われる新規に開発された抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin gene-related peptide:CGRP)抗体と抗CGRP受容体抗体のなかで抗CGRP受容体抗体のエレヌマブが三叉神経痛に有効であるという報告があり、期待しましたが100人規模のテストで無効が証明されてしまいました。残念
 
2023年04月01日 14:34

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