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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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口腔顔面痛診査法の客観性を高めるために

今年の夏の暑さは異例だったそうです。2023年夏(6月1日~8月24日)の日本の平均気温の基準値からプラス1.78度高かったそうで、夏の気温としては統計を開始した1898年以降の126年間で最も高かったそうです。9月を含めても同様の傾向になるでしょう。暑いのが好きなのとクリニックは涼しいので問題なし、ところが夜の暑さは耐えられませんでした。
このように暑かった今年の夏、患者さんの予約が少なかったこともあり、ゆっくりさせてもらい、診療改善のための年初来の課題解決に取り組みました。 口腔顔面痛診療を名人芸ではなく、客観性の高い診査法にして、誰もが同じ結果が得られるようにすることを目指しています。

1. 自律神経活動測定:指尖容積脈波を計測して、自律神経活動を調べる。痛みの患者さんは自律神経機能が変化している事があり、痛みに影響している可能性がある。慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項    どのタイミングで測定するのが良いか、初診と症状変化時

2. 開口抵抗力測定: オリジナルのアゴのこわばりの具合を測ろうという考えを具現化した開口抵抗力測定器を用いて、患者さんのアゴのこわばり度を測定する、その程度は筋緊張、筋拘縮など筋障害の程度を反映していると考えている。これも慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項 単純に開口抵抗力を計るだけで無く、ストレッチをどれくらいすると筋収縮力が低下するか、患者さんがセルフケアをしてくれた効果を痛みの自覚症状に加えて客観的評価にも使えそう。初診時に測定し、診断結果との関連性を検討する。

3. 疼痛電気閾値測定:神経障害性疼痛患者さんのAllodynia部位の閾値測定、allodyniaは機械的動的刺激による痛みと規定されているが、刺激手法はまちまち、感じ方もいろいろで再現性が低い、そこで、電気刺激に対する反応として調べようという目的。既存の機械、電極からスタート。電極の改良が必要、電気なのでプラスマイナスの二つの端子が必要、でも、口腔内のallodynia部分に二つ置くのは無理、更にallodyniaの部分を刺激するといたくて、電気刺激か機械刺激による痛みか判別不能になる、等のいろいろな障害があり、改良に改良を重ねて、これで使えるかなと言う電極に達しました。 新しい電極で測定開始、スムーズに出来るかどうか。 

4. 患者さんとの医療面接を音声入力文字起こしシステム:痛み診療では患者さんの痛みの自覚症状を如何に文字化して客観的に評価するかが重要です。そのため、毎回の診察では10分程度いろいろな質問しながら経過を伺います。この内容をカルテにまとめるのが大変です。Googleドキュメントに音声入力があるのを見つけてのとりあえず音声入力文字化して、カルテに貼り付けていました。7月に慶應医学部の学生さん達が起業して、音声入力文字化、カルテ記載用に要約までしてくれるシステム開発(medimo)、それを試用させてもらっています。初診時の患者さんには構造化問診していくと、項目に沿ってやりとりを要約してくれる。再診時には自覚症状変化を上手く要約してくれる。医学用語、歯科用語の誤文字化をどうやって少なくするかが課題。
2023年09月06日 18:20

口腔顔面痛 Onsiteハンズオンセミナー開催予定

コロナによりオンラインセミナーが普及し、在宅でセミナーに参加出来るという大きな利便性が得られました。それによって、主催者と受講者を結ぶ一方向性の縦糸は太くなりましたが、双方向性ではありません、ここに大きな問題点があります。また、受講者間の横糸は繋がらず、疑問点解消の機会が失われているように思えます。
 
今年度になりマスク装着緩和、5月にコロナ5類移行によって、学会等が対面で行われることが増えています。学会場で久し振りに会って、いろいろな事をデスカッションしたいと誰もが思っていたようです。
私が主宰してる口腔顔面痛オンラインセミナーは元からオンラインですから、コロナに関係なくオンラインで続けて行きます。そして、オンライン一方向性の弱点を補うべく、これまた元からやっていたオンサイトハンズオンセミナーを復活させます。
つい先日皆さんに案内を出したところです。
【口腔顔面痛 Onsiteハンズオンセミナー】
期日:2023年9月17日(日曜日) 11時-16時
会場:慶應義塾大学北里図書館二階 第一会議室
オンラインセミナーは一方的になりがちですので、ハンズオンで筋肉に触り、口腔粘膜、皮膚の感覚検査をして、できるだけ双方向でデスカッションしたいと思います。
プログラム
1.筋痛関連:筋触診、超音波、トリガーポイントリリース
2.神経障害性疼痛関連:診断法、定性感覚検査、定量感覚検査、薬物療法、トピカル療法
3.痛覚変調性疼痛とは:診断基準、中枢感作、脳機能変調
4.口腔顔面痛オープンセミナー、オンラインセミナーでの疑問点解決
参加希望の方は7月31日までに  i.hiroco0827@gmail.com 池田浩子宛までメールをお願い致します。
 
2023年06月09日 21:34

特発性三叉神経痛の治療の限界

トリガーゾーンへの些細な刺激により誘発される激烈な発作痛を特徴とする三叉神経痛は原因毎に3つに分類されます。
昔は脳腫瘍などの原因が明らかなものが症候性(真性)、原因が不明のものが特発性(化性)と言われていましたが、現在は血管圧迫により神経に変形が生じている(neuro-vascular contact with morphological changes)典型的三叉神経痛(classical Trigeminal neuralgia)、脳腫瘍などのしげきによる二次性三叉神経痛と原因の不明な特発性三叉神経痛に分類されます。
典型的三叉神経痛、特発性三叉神経痛の治療ではカルバマゼピンなどの薬物療法が第一選択で、多くの症例は薬物療法でコントロール出来ます。
しかし、薬物療法で薬疹がでたり、肝機能障害などの副作用により薬物療法が継続出来な場合や代謝酵素の自己誘導により必要服用量の増加による副作用の発現等によって、副作用対策、併用薬の選択などで困窮することも多いです。
典型的三叉神経痛ではこのように薬物療法抵抗性の場合、微小血管減圧術microvascular decompression(MVDが適応となります。神の手を持つ脳外科医としてマスコミで取り上げられる福島孝徳先生の鍵穴手術がよく知られています。現在この手術は日本全国の主要な都市に専門にやっている脳外科医がいて、有効性について多くのエビデンスが示されています。
二次性三叉神経痛の脳腫瘍、髄膜腫等の摘出は脳外科医の得意とするところで手術により解決出来ます。ところが、特発性三叉神経痛では薬物療法で長期コントロール出来れば良いのですが、副作用等で薬物療法が有効でなくなった場合が大変です。特発性三叉神経痛においても典型的三叉神経痛に対する微小血管減圧術の様に根本的治療法の開発が望まれます。このような状況で新規の治療法としてInternal neurolysis (別名NerveCombing(文字通り神経に櫛かけるように、神経根の部分で神経取り巻く外表の膜に割線を入れるという術式)が有効であるという報告があります。しかし、まだ、論文は多くはなく、その術後経過は不明です。
Internal neurolysisを含めた神経遮断術neuroablative proceduresの中で最も侵襲の少ないのが定位放射線手術Gamma knife surgeryです。しかし、痛みの軽減は最大6ヶ月遅れることがあり、感覚脱失が頻繁に生ずると言われています。三叉神経internal neurolysisは長期的には非常に有効であるが、合併症が多い(感覚鈍麻96%、有痛性感覚脱失3.9%)ことが示されています。経皮的神経切除術(高周波熱凝固法、バルーン圧迫法、グリセロール根治療法)では、効果が平均3~4年間しか続かないために繰り返し行うことが一般的であり、合併症の発生率は高く、特に繰り返し行う場合は注意が必要といわれます。
神経遮断術neuroablative proceduresの中で、どれかの治療法が他の治療法より優れているという根拠はない。
 
血管圧迫がない、血管圧迫があっても神経に変形が生じていないこと診断基準である特発性三叉神経痛にも苦し紛れのように微小血管減圧術(MVD)が行われることがあるようで、いくらか有効であり、定位放射線手術Gamma knife surgeryよりも有効である可能性があるという論文があります。
三叉神経痛の治療法の開発が進まないのは、三叉神経痛の動物モデルが出来ないからで、多くの人達が研究したようですが実現していません。人間でしかテストが出来ないので時間が掛かりますね。学生時代から使われていたカルバマゼピン以上に有効性の高い薬はなく、新しい薬の開発が待たれます。
つい最近も、片頭痛の予防薬として使われる新規に開発された抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin gene-related peptide:CGRP)抗体と抗CGRP受容体抗体のなかで抗CGRP受容体抗体のエレヌマブが三叉神経痛に有効であるという報告があり、期待しましたが100人規模のテストで無効が証明されてしまいました。残念
 
2023年04月01日 14:34

末梢神経損傷分類の混乱

sunderland分類
Seddonの分類、Sunder land分類活用の問題点   
Seddonの分類は1942年に発表され、約10年後の1951年にSunder land分類が細分化して発表されています。
この図がsunderlandの原図だと思います。他の図との違いは左側の神経細胞と神経線維が複数書かれています、他の図は神経細胞1個で一本の神経線維だけと勘違いして、一個の神経細胞しか書かれていません。

末梢神経損傷の分類としてSeddonの分類(1942)、さらにこの分類を修正、細分化したsunder landの分類(1951)が用いられます。この末梢神経損傷分類の活用に当たって、いくつかの問題点があります。
第一は、Seddonの分類、Sunder land分類とも多くの日本語訳がありますが、訳が間違っているものがあります。用いられる用語は軸索、シュワン鞘、ミエリン鞘、神経内膜、神経周膜、神経線維束、神経上膜、神経幹などで、必ずしも適切な訳になっていないために損傷程度がどの程度か誤解する可能性があります。オリジナルに忠実な訳を用いてください、内容が全く違ってしまいます。
 
もう一点は、これらの分類はseddon分類のNeurapraxiaとAxonotomesisまでとsunderland4度までは神経線維1本1本の損傷程度を分類し、Seddon分類neurotmesisとsunderland5度では神経幹を包む神経上膜の損傷状況を示していて、神経線維1本1本の問題から神経幹の損傷に飛んでいます。神経損傷の病理像としては非常に有用で、1本の神経線維で髄鞘の障害、軸索の断裂、そして、神経幹の断裂と理解出来ます。
ところが、臨床での神経損傷は1本1本の神経線維の問題ではなく、例えば下歯槽神経損傷とか神経線維が何万本も集まった神経幹の損傷が問題です。ところが、臨床の場において、まるで下歯槽神経が一本の神経線維であるかのように、Seddonの分類のどれとか、Sunder landの何度だと話していることがあります。例えば、下歯槽神経を傷害した場合、1本1本の神経線維ではsunderlandのⅠ度から4度までの損傷が混在した状態か5度の完全に断裂してしまっているかだと思います。
おそらく、このような混乱を憂う人は私以前にいるのは当たり前で、Mackinnon,Dellonと言う人達が解決策として、Sunder Landの分類にVI度損傷としてI〜V度損傷の神経束が混在した状態であるとして分類を追加しています。臨床で診る神経損傷のほとんどはSunder Landの分類VI度損傷(様々な損傷の混在)ということになります。
例外は智歯抜歯等で下歯槽神経を圧迫し術後にオトガイ部の鈍麻が生じたが、約一ヶ月後に完全改善した例、この例では障害された神経線維全部がseddon分類のNeurapraxia つまり脱髄のみだったと思われます。また、下歯槽神経の完全断裂neurotmesisしてしまった例は、混在無しの状況でしょう。
 
2023年03月16日 21:23

インプラント手術による神経損傷、三叉神経ニューロパチー

インプラント神経損傷原因
インプラント手術による三叉神経ニューロパチーの発生とその予防に関する私見
 
口腔インプラントの普及に伴い神経障害例が増えていて、インプラント関連学会でも対応策が検討されている。
末梢神経障害による症状は外傷後三叉神経ニューロパチーとされ、下唇、オトガイ部の感覚鈍麻を主徴候とする無痛性三叉神経ニューロパチーが生じ、その一部にジリジリ、ピリピリなどの持続性の痛みを主徴候とする有痛性三叉神経ニューロパチーが重複することがある。有痛性三叉神経ニューロパチーは神経障害性疼痛と同義語である。
 
歯科治療では麻酔下でなければ行うことの出来ない痛みを伴う処置、抜歯、抜髄、切開などでは全て、大なり小なり直接的神経損傷を起こしている。術後の神経障害の発生率は、0.38-6%といわれ、他の神経領域(5〜17%)に比べて非常に低いと報告されている。発生率が低いので余り問題にされずに日常臨床が行われている。しかし、一端、生ずると難治であり患者も術者も困窮する事となる。
神経損傷は何処でも生ずる可能性はあるが、発生頻度と生じたときに問題になるのは下歯槽神経である。下顎インプラント手術や抜歯、外科手術で下歯槽神経を、下顎智歯抜歯の際に舌神経を直接損傷したり、下顎歯の根管治療で用いる薬物で下歯槽神経に化学的損傷を与えたりした場合にはほぼ全例で支配領域に感覚鈍麻が生じ、一部には痛みも伴うことがある。
一端、外傷により直接的神経損傷が生ずると、その神経線維はほぼ回復の可能性はない。神経損傷が起こると他の組織と同様に直ぐに修復機転が働き、中枢側断端から神経成長端が遠心側断端を探して伸び始める、しかし、周囲組織からの肉芽組織の増殖が早いために、神経損傷部に入り込んでしまい神経成長端の伸長を遮ってしまう。神経成長端は神経腫を形成し、痛みの元になることある。
少し横道ながら、神経損傷を語る上で気をつけるべき事を説明する。末梢神経損傷の記事では損傷の程度を示すためにセドン(Seddon)の分類、サンダーランド(Sunderland)の分類を用いるが、あれらの分類は神経線維1本ずつの病理的な分類であり、末梢神経損傷の基礎的学習にはなっても、臨床症状に対して神経線維損傷の分類を適応して説明するのは間違っている。臨床的な神経損傷は多数の神経線維からなる神経束で起こっていることで、損傷された神経束には様々に損傷された神経線維が含まれている。単純にいえば、損傷された神経束では無傷な神経線維からセドンの分類の全ての損傷が生じていると言える。
まえおきはここまでにして、インプラントによる外傷後三叉神経ニューロパチーについて私見を述べる。
問題点は、専門医の診療機会が全く得られなかったり、正しく診断され、適切に治療されるまでに無駄に時間が経過しているために改善の機会を逃してしまい、患者が不利益を被ることである。
 
外傷後三叉神経ニューロパチーの発生とその予防法
解剖学的計測、植え込み方向の初歩的ミス等による直接的神経損傷が原因となった三叉神経ニューロパチーは論外である。回復不能であるので、ここでは言及しない。
1)なぜ神経に触っていないのにニューロパチーが起こるのか、予防するには
インプラント窩を形成した時に動脈性の出血があったり、出血が続く場合、出血が止まるまでインプラント体の植え込みを待つ。自然に止まる傾向が無かった場合にはその日のインプラント体挿入を中止する。(出血が続く中でインプラント体をさし込むと流れ出てくることはないが、出血は骨髄中に入り込み骨髄腔を拡げ、その後には下歯槽菅に入り込み下歯槽神経を血圧で圧迫、絞扼して、神経障害を生ずることとなる)
)局所麻酔が切れた頃(術後3時間程度)、電話で感覚鈍麻の有無を確認する 下歯槽神経に直接触れたり損傷していないと確信できるが感覚鈍麻が続いていて神経障害が疑われた場合、必ずすべきことは組織の浮腫治療のためのステロイドの早期投与である、そして、当日にインプラント体を撤去するかどうかを患者とともに検討する。英国のLenton教授によると許容時間は大雑把に24時間と言われている。
(1)当日インプラント体撤去により感覚障害が改善する可能性があるのは、出血、浮腫により下歯槽神経が圧迫されている場合のみである。 
(2)術後の出血、浮腫による感覚鈍麻は局所麻酔が切れた時点では生じていない場合もあり、いったん麻酔が切れたがその後に感覚障害が現れた場合には出血、浮腫によると考えて、早期にインプラントを撤去し、ステロイドの投与を検討するべきと思う。

(3)下歯槽神経に回転しているドリルが当たった場合には、神経線維を巻き込んでいる可能性が高く挫滅創となっている。この場合はインプラント体撤去しても感覚障害の回復の可能性は低く、撤去による更なる損傷を生ずる可能性が高いと考えるべきである。

ステロイド投与参照:顔面神経麻痺の治療のための経口副腎皮質ホルモン投与例
・ 発症後3日以内にが望ましいが,遅くとも10日以内に開始する.
・ 成人ではprednisolone (1mg/kg/日 or 60mg/日)を5~7日間投与し,その後1週間(10mg/日)で漸減中止する.
 
三叉神経ニューロパチーの診査、診断(詳細はガイドライン等を参照のこと)
定性感覚検査を行う、感覚鈍麻がある場合には定量感覚検査を行う。
顔面、口腔内の三叉神経の三枝毎に左右差を比較検討する。顔面では触覚検査には綿棒、痛覚検査には爪楊枝を用いる。口腔内では触覚検査にミラーの縁あるいは形成充填器の丸端、痛覚検査にはピンセットを用いている。
原則的に左右で比較して鈍麻か過敏か、左右差がないかを確認し、触覚、痛覚に感覚異常がないかどうかを確認する。神経支配領域に限局した何らかの感覚異常が認められる場合には三叉神経ニューロパチーの可能性が高い。
 
外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーの治療(詳細はガイドライン等を参照のこと)
無痛性三叉神経ニューロパチーに関しては積極的治療法がない、ビタミンB12の投与が行われているが、そのエビデンスは低い、また、損傷した神経の回復のためには諸外国では通常用いられない。
神経障害性疼痛に準じて薬物療法を行う。世界の主なる神経障害性疼痛治療ガイドラインでは共通して、プレガバリン、アミトリプチリン、サインバルタ、ガバペンチンが第一選択とされ、効果がないか、不十分の場合には他の第一選択薬に変更するか、併用することが勧められている。
 
2023年01月07日 14:13

11月OFPオンラインセミナーNerve combing

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11月の口腔顔面痛オンラインセミナーのトピックスは特発性三叉神経痛の根本的治療としての三叉神経の線維に沿って割を入れる神経内剥離(internal neurolysisまたはnerve combing)という方法が池田先生から自験例を含めて紹介されました。
三叉神経痛は、1)血管圧迫による神経変形を呈する典型的三叉神経痛、2)腫瘍等による圧迫による二次性三叉神経痛と3)明かな原因の認められない特発性三叉神経痛に大別されます。それぞれの根本的治療法として、1)には、血管を神経から離す、つまり減圧(頭蓋内微小血管減圧術K160-2)がおこなわれます、2)には腫瘍等原因になるものの摘出術がおこなわれますが、3)に対しては根本的治療法がないため、薬物療法、ブロック療法での長期管理がおこなわれます。薬物療法は長期になることにより副作用や無効化が生ずることがあります。また、ブロックでは感覚鈍麻が生ずることや再発があり、患者への負担が大きいです。
この状態の特発性三叉神経痛に対して、三叉神経の線維に沿って割を入れる神経内剥離(internal neurolysisまたはnerve combing)という方法を行うオペ法の報告が散見されるようになりました。手術直後85%の患者さんで痛みが消失し、5年後に約半数の患者さんに有効(*1)。この方法を行うと、顔面に違和感、しびれが出ることがありますが、ほとんどの場合日常生活に支障を来さない程度ですだそうです。
日本からも治療報告(*2)が出されています。
抄録:微小脳血管減圧術を施行したが再発, あるいは未治癒の突発性三叉神経痛でカルバマゼピン非耐性の5症例に対して, 再手術の際に三叉神経知覚枝のnerve combingを施行した. 全例術直後からカルバマゼピン内服なく疼痛発作が完全消失したが, 5例中4例 (80%) に三叉神経第3枝領域を中心とした顔面知覚障害が残存した. 術後1~5年の時点で再発を認めずQOLも良好である. 再発三叉神経痛で責任血管が明らかでなく, かつカルバマゼピン非耐性例に対してはnerve combing法は有効な治療法と思われる. なお, nerve combing法を予定する場合は術前に顔面知覚障害をきたす可能性が高いことを説明すべきである.
*1 Burchielら(米国) J Neurosurg. 2015 May;122(5):1048-57.
*2 森 健太郎、難治性三叉神経痛に対する “nerve combing” による治療経験 脳神経外科ジャーナル  2022 年 31 巻 7 号 p. 464-469  https://doi.org/10.7887/jcns.31.464
2022年11月27日 18:06

帯状疱疹ワクチン接種の勧め

帯状疱疹ワクチン比較
口腔顔面痛の臨床では急性期の帯状疱疹による痛み、その後に続く帯状疱疹後神経痛、さらに顔面神経麻痺でしっかり治療を受けて、顔面神経麻痺はほぼ回復したが顔面、口腔内の痛みが残っているというラムゼーハント症候群と三叉神経帯状疱疹の後遺症として帯状疱疹後神経痛が残っている患者さんを診ます。60歳以上の人が帯状疱疹になると、約半数は帯状疱疹後神経痛に移行します。
現在、乳幼児の水疱瘡予防としてワクチン接種が普及したことによって、親世代、祖父母世代に帯状疱疹が増えています。例えば、3世代ですんでいる家庭で、子供が水疱瘡になると、子供の水疱瘡の免疫刺激が親や祖父母に対してブースター効果となり帯状疱疹抗体が上がります。これにより、両親、祖父母の帯状疱疹予防が出来ていました。乳幼児の水疱瘡予防としてワクチン接種によりブースター作用の機会が無くなったのです。
それならば、帯状疱疹罹患率の高まり、帯状疱疹後神経痛への移行率が高くなる前の50歳以上の人達に帯状疱疹ワクチン接種が認められています。予防接種なので残念ながら保険診療ではありません、地域によっては費用が助成されています。
帯状疱疹ワクチンには2種類有ります。効果、費用が対照的です。
50歳以上の方々には接種をお勧めします。
2022年08月31日 10:46

三叉神経痛と有痛性三叉神経ニューロパチーは別物

サマリー
世界で最も用いられている国際頭痛分類第3版の分類である三叉神経痛と有痛性三叉神経ニューロパチーにはいろいろな混乱があります。
この二つは一般的に神経障害性疼痛として一括りされています。和嶋の私見では三叉神経痛と有痛性三叉神経ニューロパチーが別物である事をはっきりさせるために神経障害性疼痛という用語で括らないことを提唱します。
日本口腔顔面痛学会非歯原性歯痛診療ガイドラインでは、三叉神経痛は発作性神経障害性疼痛、有痛性三叉神経ニューロパチーは持続性神経障害性疼痛に分類されています。
Neuropathyニューロパチ(末梢神経障害)は神経の機能的あるいは病理的変化による障害で、特に、一過性の負荷による神経障害ではないと書かれています。単純に言うなら、非可逆性な神経障害と言うことです。一方、三叉神経痛は脳外科での微小血管減圧術を行うとあっさりと痛みが消えてしまいます。可逆性の神経障害だと思います。もちろん、神経障害が移行的で可逆的、不可逆的が混じっている場合もあります。
治療法も全く異なっていて、三叉神経痛は血管圧迫によりむき出しになった神経線維のNaチャネルをブロックするカルバマゼピンが特効薬的に有効です。同様にNaチャネルをブロックする局所麻酔薬の静注でも有効と言う報告があります。一方、有痛性三叉神経ニューロパチーではカルバマゼピンはほぼ無効で、下行抑制系賦活化作用のトリプタノールやシナプス前膜のCaチャネルα-2デルタに作用して伝達物質の放出を抑制プラス下行抑制系賦活化作用のプレガバリン、ミロガバリンが有効です。
推定するに、両者の病態が異なるのでしょう、三叉神経痛は末梢神経の障害、一方、有痛性三叉神経ニューロパチーは例えば外傷後であっても病態は中枢神経系に生じていると言う事です。
神経の問題による痛みであると一括りにする神経障害性疼痛に代わる、良い用語が欲しいと思います。あるいは、神経障害性疼痛という用語を使わないか
2022年05月18日 11:27

インドネシアの歯科医師に有痛性三叉神経ニューロパチの話し

三叉神経痛サマリー
昨日、2022/05/13日 インドネシアの歯科医師向けに、三叉神経痛と有痛性三叉神経ニューロパチーの話しをオンラインでしました。
久し振りの英語でどうなることかと心配でした。スムーズには話せませんで、三輪車程度でしたが、後半はさび付いた自転車くらいになりました。
昨日の参加者はインドネシアで補綴の専門医を目指す歯科医師の方々でした、その方々にサブスペシャリティーとして口腔顔面痛の話しの一つとして解説しました。2020年には非歯原性歯痛の総論から始まって筋・筋膜疼痛性歯痛の話しなど3回オンラインセミナーをしていて、今回はその続編でした。
東南アジアの多くの国では三叉神経痛の治療は脳神経内科でやることに決まっていて、歯科で診断したら脳神経内科に紹介します。まあ、これも合理的かと思います。というのは、三叉神経痛の原因は一番多いのが頭蓋内で脳幹部から出てきた神経の弱い部分が血管で圧迫されて変形すること、次に10%程度は類上皮囊胞や脳腫瘍による圧迫、そして、原因不明です。症状は三叉神経の分布領域に感じられますが、原因は頭蓋内、そして、治療はその原因に対して行われますから。日本では口腔顔面痛専門医がこれらの状況を熟知して、脳神経内科医、脳神経外科医と協働して、診断治療に当たっています。東南アジアでも口腔顔面痛が拡がれば、日本の様になると思います。
もう一方の、有痛性三叉神経ニューロパチーはもっと歯科に密接です。下分類の中に外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーがあり、外傷後とは下顎インプラント、下顎智歯抜歯、根管治療などによる神経障害をさすからです。これは、三叉神経痛とは異なり、歯科治療と密接に関連していて、歯科において診断治療が出来なければならない疾患です。
東南アジアにおいても、インプラントが盛んに行われるようになった結果、必ず数パーセントでは偶発症が起こり、その一番多いのが有痛性三叉神経ニューロパチーです。今後、有痛性三叉神経ニューロパチーについて繰り返しセミナーを続けて行くことになりました。3月で慶應を完全に退職し、自由の身になった現在、すぐにでも現地に行って直接指導したいところですが、コロナが収まるまで、今しばらく充電します。

三叉神経痛診断のサマリースライドを供覧します。
2022年05月14日 10:15

allodyniaの勘違い 勘違いシリーズ2

検査結果と病態が一対一で結ばれるモノが極く限られています。前号で打診痛、かみしめ痛が歯原性に特異的な症状ではないことを書きました。
アロディニア: allodynia)とは、通常では疼痛をもたらさない痛覚閾値以下の弱い刺激によっても痛みが感じられる感覚異常のことです。日本語では異痛症と言いますが、通常アロディニアあるいは allodyniaと記されます。
アロディニアが神経障害性疼痛に特異的な症状として誤解されていて、感覚検査の結果、アロディニアが見つかると神経障害性疼痛と診断されていることがあります。 これは早合点、診断エラーの場合があります。
アロディニアは片頭痛、群発頭痛でも認められると言われています、ここまで書けば神経障害性疼痛に特異的な症状で無いことが判ってもらえると思います。
口腔顔面痛の臨床においてアロディニアがよく診られるのは、神経障害性疼痛例、筋・筋膜疼痛例と神経障害性疼痛と筋・筋膜疼痛の重複例です。 筋・筋膜疼痛単独でも関連痛が感じられる部分にallodyniaが生じます。

口腔顔面痛専門医に、神経障害性疼痛と診断され、プレガバリン、アミトリプチリンなどの薬剤を処方されているが改善しないと言う症例を診ます。何故、改善しないのかの疑問に答えます。
典型的な症例では、神経経支配に沿ってallodyniaが認められたことから神経障害性疼痛と診断したのだと推定されるのですが、allodyniaに加えて、咬筋、側頭筋に筋・筋膜疼痛があり、圧痛診査によりallodyniaが認められた部分に関連痛が生じます。診断は神経障害性疼痛疑い プラス 筋・筋膜疼痛となります。
このような例の治療はプレガバリン、アミトリプチリンなどの薬剤の処方はファーストチョイスでないだけでなく、薬物療法を先行すべきではありません。神経障害性疼痛と筋・筋膜疼痛の重複例では、神経障害性疼痛に対してプレガバリン、アミトリプチリンなどの薬物療法が奏功しても、筋・筋膜疼痛にマスクされて痛みの自覚症状の改善はありません。筋・筋膜疼痛が重複している場合の治療順番は必ず1.筋・筋膜疼痛、改善後に2.神経障害性疼痛です。
1.筋・筋膜疼痛の治療による痛みが改善し、allodyniaも消失したら、痛み、allodyniaとも筋・筋膜疼痛による症状と理解出来ます。
2.筋・筋膜疼痛の治療により、痛みは完全消失していないが、筋圧痛による関連痛が消失した。allodyniaも残っている。この状況で残っているallodyniaは神経障害性疼痛によると考えて、薬物療法を開始する。
3.薬物療法の結果、自発痛は消失したがallodyniaは残っている場合がある。自発痛は生じないまで改善したが、刺激による誘発痛としてのallodyniaは残っている。完全消失しない場合もあると考え、自発痛が無ければ自然経過を観察すべき。
 
2022年03月28日 17:33