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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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超音波併用のトリガーポイントプレッシャーリリース

今年も日本口腔顔面痛学会学術大会において、超音波併用のトリガーポイントプレッシャーリリースのハンズオンセミナーを行います。このブログでは学術大会抄録集の原稿を供覧して、ハンズオンセミナーの内容をいち早く紹介します。

本ハンズオンコースでは、超音波照射とトリガーポイント触診およびトリガーポイントプレッシャーリリースを実習してもらう。
筋・筋膜疼痛の最も有効な治療法は何かと尋ねると、多くの方々からトリガーポイント注射、最近ではボツリヌストキシン注射との答えが返ってくる。確か 
。に有効な治療法であるが、筋全体に緊張がある状況でトリガーポイントに注射しても期待するほどの効果が得られない。米国の口腔顔面痛センターでは筋・筋膜疼痛に対してどのような治療が行われているのか、基本的にセルフケアとして開口ストレッチとかみしめ中止指導、オフイス治療として超音波を併用したトリガーポイントプレッシャーリリースが行われる。
超音波併用トリガーポイントプレッシャーリリースの実際
超音波照射により筋肉の深部温度が3-4度上がり、トリガーポイントを構成するコラーゲンが軟化してリリースしやすくなる。深部温度が上がった状況でトリガーポイントである硬結部を1kg程度の圧でゆっくり起始部から停止部に、停止部から起始部に向かって一方向に筋を延ばすように指先を2-3cm程度滑らして、最初は途中でコリンと硬結部(英語ではbarrier垣根、進行を妨げる障害物)が指の下をくぐり抜けていくのを感じながらリリースする。次に、硬結を指先に感じながらくぐり抜けさせないように次第に圧力を約2-3kgに高め、指先が硬結部に乗り上げた状態で移動を止めて10-60秒間、指圧のように加圧することがポイントである。トリガーポイントの軟化、消失まで、超音波照射と術後に痛みが残らない程度に圧を高めてトリガーポイントプレッシャーリリースを繰り返えす。

ハンズオンセミナーの手順
受講者が2人一組となり、担当インストラクターの元に下記の手順で相互実習を行う。
  1. 咬筋を触診して、タウトバンド、トリガーポイントを触知、関連痛を確認する。
  2. 超音波照射(最初に、2W、90秒照射)を行い、照射部が加温されることを実感する。
  3. 咬筋全体の触診を行い、タウトバンド、硬結、トリガーポイントを再確認し、約1kgの加圧でトリガーポイントプレッシャーリリースを行う。
  4. その後は、超音波照射(2W、30秒)とトリガーポイントプレッシャーリリース(約2-3kg加圧)を繰り返す。
2024年08月22日 20:35

筋肉痛治療のポイントは 対症療法に加えて原因療法も

口腔顔面痛でも顎関節症でも、最も多い病態は筋肉痛である。特に慢性化した筋・筋膜性疼痛が一番のやっかいは病態である。かつて、筋肉痛では自発痛は起こらないと言う人もいたが、持続性の筋肉痛で受診する人は少なくない。良い例が肩こり、頸のこりなどによる緊張型頭痛である。元々の肩こり性の人が重いものを持ったり、緊張する場面にあったりすると頭が締め付けられるような感じになり、頭が重苦しく、嫌な感じの頭痛が生じ、数日続くことがある。今現在は緊張型頭痛と呼ばれるが、以前は筋緊張性頭痛と言われていた。筋の緊張だけでは無く、他に精神的緊張によっても起こることがあるということで、現在は筋が外されて緊張型頭痛となっている。精神が緊張するとどうして頭痛が生ずるのか、自律神経の交感神経が亢進し、筋肉組織のなかで筋収縮している部分の血管が緊張して充分な血液が供給されないからと言われている。収縮のためにエネルギーが必要な状況であるのに血管が収縮して血液供給が不足、この状況をEnergy Crisis(エネルギー危機)と言って筋痛の原因とされている。
筋肉痛の治療というと、まずマッサージ、ストレッチ、温罨法、指圧が挙げられる、また、最近では即時効果を求めてHydro Releaseやボトックス注射も多くなっているようです。
全ての病気の治療は原因療法と対症療法からなるのですが、どうも対症療法に目が行きがちで、上記の治療法には原因療法が含まれていません。
筋肉痛の原因療法は何でしょうか、筋への負荷の軽減を目的に筋を収縮させない、そのために、痛い筋を極力使わないことです。第一に咀嚼筋では痛い側で咀嚼しない事、また、フランスパンの様に最後までかみしめなければならない様な食べ物は避ける。次に、日中、何かに集中している時などに肩が持ち上がり、かみしめている状況になりがちです。このような状況を避けるために、気がついたら意識的に肩を上げ下げする、舌で口腔内を舐めるなどの「随意運動によるかみしめ中断運動」をしましょう。人間の身体は無意識に筋緊張していても、意識的にその部位を動かそうとすると無意識の緊張が解除されて、意識通りに動きます。これと全く異なって、こむら返りなどの痙攀では動かそうとしても解除されません。
これらの筋を過度に緊張させない、あるいは筋緊張を中断させる等の筋への働きかけに加えて、精神的緊張による交感神経亢進に対して腹式呼吸が勧められます。この呼吸法で、副交感神経が刺激され、緊張緩和にもつながります。
人間仰向けになると自然に腹式呼吸になります、この特性を活かして腹式呼吸を覚えましょう。仰向けになりへその少し上に手のひらを置きます、次にフーーと息を吐き出してみましょう、手の下のお腹が凹みます。凹みを感じたら、ゆっくり息を吸い込んで、凹んだお腹を膨らまして、お腹で手を持ち上げてみましょう。なるべく高く持ち上げて、一秒間保ちます、そして、解除、フーーとゆっくり吐き出します。数時間は1.2.3秒、4で1秒ホールド、そして解除、5.6.7秒、吐く時をなるべく長く出来る様に練習しましょう。この繰り返しをして、腹式呼吸を覚えましょう、そして、坐位でも立位でも腹式呼吸が出来る様になりましょう。緊張していると思ったらお腹に手を当てて、やってみましょう
子供の頃の深呼吸は思いっきり吸い込んで胸を拡げることから始まっていましたが、あれとはまたく違った呼吸法です。
 
2024年08月17日 10:17

歯痛でも中枢神経系が関与

慢性痛の基準である3ヶ月以上症状が続いている、これは一般歯科では多くないですが、TMD、口腔顔面痛では珍しくないことです。
従来の痛み治療は急性痛を前提としていて、特に歯科ではイケイケで痛いところに原因があるからそれに向かって進むというものでした、ところが慢性痛は違います。例外的に原因、病態が診断されていなかったために症状が続いているという例もあります。これは本来の慢性痛ではありません。
慢性痛例で思い知らされることは、歯が痛い、と言う症例に確実に局所麻酔をして、局所の感覚は消えたにもかかわらず、感じていた痛みの周辺部の痛みは消えたが中心部にジワーとして痛みが残っているという現象、要するに中枢要因が関連しているということです。一本の歯の痛みでもこのような事が観られ、歯の痛みが中枢神経系とつながり、痛みを感じる中枢が何らか変化している、末梢に向けて治療するだけでは直らないんだと改めて思い知らされることがあります。
典型例は、咬筋の筋・筋膜疼痛で下顎大臼歯部に持続痛がでて、歯科で抜髄、根管処置終了後も痛みは治らない、その後に当院受診。 抜髄歯には持続痛と打診痛があり、歯肉にはallodynia、咬筋のトリガーポイントを圧すと痛みが再現、FamiliarPainです。そこで当該歯に診断的局所麻酔、オトガイが鈍麻している程麻酔は効いていて打診痛が消えるが、持続痛は50%減のみで50%は残っている。このような症例では最初からトリプタノール、プレガバリン等で薬物療法を併用することもあります。筋・筋膜疼痛として治療して、持続痛、歯肉のallodyniaは消失したが打診痛は消えない例が一番難治です。上記のトリプタノール、プレガバリンの内服にはステントを使った局所外用薬物療法を併用します。総力戦ですが、難治です。これが一番大変な症例です。
出来れば抜髄等せずに、頑固な歯の痛みで来院してもらっていれば筋・筋膜疼痛の治療ですっきり治り、歯の打診痛で患者さんも私も苦しむ事が無かったのにと、思ってしまいます。
 
2024年04月29日 15:39

典型的な顎関節症の症例を解説します

口腔顔面痛、顎関節症の痛み診療の第一歩は患者さんの訴えている痛みの部位、原因を探ることです。口腔顔面痛で最初に勉強すべき非歯原性歯痛は歯が痛いが、原因は別なところにあるという異所性疼痛の典型です。当然のことですが、歯とは別な部位にある原疾患を正しく見つけ出すことが第一歩です。顎関節症の痛みは関節か咀嚼筋かのどちらかで、ほとんどの例で「ここが痛いですね、これがあなたの訴えるいつもの痛みですか、そうです、そこの痛みです」と確認する事が出来ます。これが顎関節症の診査、診断の第一歩です。
最近診た典型的な症例を紹介します。
症例:60歳女性、内科医師 右側顎関節の痛み、開口障害と開口時下顎の右側偏位
現病歴:半年前に、突然の開口障害と顎運動時の右側顎関節部の痛みが生じ、知り合いに顎関節治療で有名な歯科があるとのことで、少し遠いところであったが通院を続けていた。治療は夜間は重合レジンの全歯接触型のスプリント装着、上顎左側に入っていたセラミックを外してレジン製の暫間クラウンを装着し、2週毎に咬合を高くしたり、低くしたりの調整。初診時に比べると痛みの種類が変わり、顎運動時の痛みはいくらか弱くなったが、持続痛があるとのこと。この数ヶ月は治療にも関わらず、症状に変化が無くなったところで、これで終了と打ち切られたと言うことであった。
当クリニック初診時診査結果:右側下顎頭滑走制限、牽引圧迫誘発テスト痛みなし、右側咬筋、側頭筋の肥大+ 硬結+ 圧痛+、患者の訴える持続痛は咬筋の痛みであった。 
歯ぎしり+(左右茎状突起圧痛+)、くいしばり+(自覚あり、頬粘膜歯の圧痕+)、Hypermobilityあり、睡眠障害あり、起床時くいしばりの自覚あり、書類記載時のかみしめの自覚あり。
既往歴:20歳代から左右顎関節のクリックが気になっていた。以前に開口障害が生じたことあり、40歳代に矯正治療を受けてから開口障害は起こっていなかった。
診断:半年前の突然の開口障害と顎運動時の右側顎関節部の痛みは右側顎関節の非復位性円板転位による開口障害と関節滑膜炎による運動時痛であった。半年の経過中に滑膜炎は改善したが、非復位性円板転位による下顎頭の滑走障害がつづき、開口障害と開口時右側偏位が続いている。
原因推定:体質的なHypermobilityに歯ぎしりが加わったことによって生じた両側関節円板転位、これは20歳代に発症し、今も転位のまま。途中で復位性円板転位から非復位性になりクローズドロックによる開口障害生じていた。記憶による矯正前は左側の関節痛であった。
顔貌、口角のズレ等から推定すると、元々は左側偏咀嚼であるが、現在の患側は右側である。歯ぎしり、くいしばり等は左右均等に負荷が掛かり、プラスアルファーの負荷である偏咀嚼が症状側を決めるので、現在の咀嚼側は右側のはず。40歳代の矯正以来、嚙み癖が左側から右側に変わったようである。何故かというと下顎側方運動時の犬歯の側方ガイドが急角度過ぎて、左側咀嚼の顎位をとってもらうと犬歯のみが接触して臼歯部がすぐに完全に離解しています。これでは左側で咀嚼出来ません。一方、右側咀嚼の顎位では犬歯のガイドに適度な遊びがあり、その間、臼歯部の接触が保たれ、その後に離解する。つまり、右側では咀嚼出来るが左側では咀嚼出来ない状況になっていた。矯正によって出来てしまった側方運動時の臼歯の離解の差によって、右側偏咀嚼が続いていると思われた。
治療方針、患者への指導:上記の診断、推定原因を患者に説明し、右側咬筋への負担を軽減し、咬筋痛改善のために、左側咀嚼を心がけてもらう、開口ストレッチアシストブロックを用いて右側偏位しない30mm程度の開口ストレッチを30-60秒、1日3回(朝、昼、夕)を実施してもらう。右側下顎頭の滑走障害改善のために、開口練習ではなく単純に左側側方運動をしてもらう(右側下顎頭に触って、動くことを確認しながら、滑走量が増えるように左側側方運動をしてもらう)ことを指導した。
ここで、発症要因について、発症前後に生活状況で普段と変わったことがなかったかを質問した。上記の病態の診査診断、および原因の推定に納得したようで自身のプライベートな事も話し始め、父親が無くなり、遺産相続のトラブルがあったこと、留学中の息子さんが戻ってきたことなど、また、自身の仕事に関するストレス等を話してくれた。どうも、これらのストレスが睡眠障害を来し、歯ぎしり、くいしばりを増悪して発症したものと考えられた。
今後、治療経過を報告する予定です。
 
2024年04月03日 19:46

筋痛も自己治癒能力で改善 自己治癒能力を邪魔しない生活

口腔顔面痛、顎関節症でもっとも多い病態は筋痛です。アゴの筋痛は肩こりの延長のようなもので、肩こりがそうである様に慢性的な症状である反面、自然に収まる症状でもあります。重いものを持ったり、不自然な姿勢を強いたりすると肩こりが強くなるように、アゴの筋の凝りも何かに集中したときにかみしめたり、片方だけで咬んだりしていると筋が鍛えられて大きくなり、そこに何か筋緊張の原因が加わる事により筋が収縮し過ぎて凝りができて筋痛が発症します。
肩こりがひどいからと言って不安になるひとはいません、熟睡出来て、日中も過度に緊張しない、そして肩を動かしたり、ストレッチすることにより自然に収まってきます。アゴの筋痛も、アゴを強ばらせない、固いものを食べないなど、アゴに負担を掛けないようにしていれば自然に収まってきて、病院に行く必要なんてありません。
人間には本来、自己治癒能力があって、健康な身体では一週間もすると傷が治っていくように、身体の不具合の多くが収まっていきます。ところが、かつては「規則正しい生活」と言われていた“健康3原則”(調和のとれた食事、適度な運動、十分な休養・睡眠)から外れた生活をしていると、自己治癒能力が下がってしまい、例えば傷の治りが遅くなるように、肩こりなども治りにくくなってしまいます。アゴの筋痛も同様です。
健康の3原則から外れた生活をすると、いろいろな病気になってしまいます、いわゆる生活習慣病です。6大生活習慣病とは、肝硬変、糖尿病、高血圧性疾患、慢性腎不全、急性心筋梗塞、脳卒中が挙げられています。健康の近年、睡眠と生活習慣病との関係が指摘されていて、睡眠不足が、肥満、高血圧、循環器疾患、メタボリックシンドロームを発症させる危険性を高めると言われています。
痛みの研究でも、最近、慢性疼痛と睡眠障害の関連が注目されています。熟睡出来ない、途中覚醒が多い、早朝に覚醒してしまうなどの状況では、痛みの感じ方が強くなると言われています。痛み治療の一つとして睡眠改善が必要ですが、睡眠が悪い人の多くは単純にストレスが多いだけではなく、その元になる生活全般に色々と問題があることが多く、その改善は簡単ではありません。
私の診療では、毎回、睡眠状況はどうですかと聞くことにしています、アゴの痛み、歯ぎしりしている事やくいしばっていることが睡眠と関連していることを知ってもらうためです。そして、アゴのことから、自分の睡眠状況を改善する糸口を見つけてもらい、健康原則に沿った生活をおくってもらいたいと思っています。
 
2024年03月31日 21:21

顔面非対称 口角のズレ

このブログは口腔顔面痛を主体としたものですが、その中に筋・筋膜疼痛の関連で、2021年10月13日に書いた「顔面の非対称は噛み癖で起こる」という記事があり、なぜか、この頃よく読まれています。痛みの専門医がなぜ顔面の非対称なのかと思われる方がいると思いますが、顔面の筋障害つながりです。
口腔顔面痛のなかで最も多い咀嚼筋の筋・筋膜疼痛は慢性痛であって、数日の負担過重で起こるのでは無く、何ヶ月、何年も負荷が掛かって生じます。どんな負荷が掛かるのか、ご飯の食べ過ぎや固いものを咬みすぎで咀嚼筋が大きくなったのかと思われがちですが、そうではなく、咀嚼筋への一番の負荷は日中、就寝中のかみしめ、くいしばりです。これによって両側の咬筋が均等に強化されます。ここに偏側咀嚼という片側だけに負荷をかける要素が加わります。科学的にエビデンスは弱いのですが、人間はどうも赤ちゃんの時から片側、それも左側で咀嚼するようになっているようです。この偏側咀嚼がかみしめ、くいしばりに加わり、偏咀嚼側の咀嚼筋への負荷が一層増し、症状発症の限界に近づきます。この状況に歯科治療で長時間開口していたとか、固いものを食べたとかの発症因子が加わり、症状発症限界を越えて痛みが生じます。いったん生ずると限界が下がってしまうので、少々の安静、負荷の軽減では症状は改善せずに慢性化してしまいます。これが筋・筋膜疼痛発症の簡単な解説です。
顔面非対称に直接関連するのは咀嚼筋では無く表情筋なので、咀嚼筋が大きく変化しても、顔面非対称とは関係ないはずなのですが、そうではないのです。
咀嚼筋は三叉神経支配で表情筋は顔面神経支配と神経支配が違って、咀嚼筋はその名の通り咀嚼、咬むために働いている筋肉であるのに対して、表情筋は口唇、口角、眼瞼を動かして顔の表情をつくる筋肉です。ところが、咀嚼の際は機能的共同運動として表情筋も活動します。左側でガムを咬んでみてください、意識しないのに左側の表情筋が緊張して左側の口角が引かれます。咀嚼の際に一番大事な機能的共同運動は、表面から見えないが、頬粘膜の緊張に関連する頬筋の活動です。頬筋は安静時には弛緩しているが、咀嚼時に緊張して、頬側、外側に壁を作って食塊を歯に載せる作用をしています。ところが、この頬筋はかみしめているときにも緊張しています、従って、日中、就寝中にかみしめ、くいしばりしている時に咀嚼筋と共に緊張しています。かみしめているときに頬粘膜を緊張させて歯面に押し当てているので頬粘膜に白い線が出来る理由です。
ネットを観ると表情筋を鍛えようというコマーシャルがいっぱいありますが、かみしめている人は鍛えるのでは無く、如何に弛めるかが課題だと思います。
このようにかみしめて表頬筋を普段から緊張させている人が習慣的に偏側咀嚼すると咀嚼側の表情筋が緊張して口角が咀嚼側に引かれてしまいます。筋肉は両端(起始、停止)が骨に付着して、筋緊張により骨を動かすのですが、表情筋は顔面後部で骨に付着し前方で口輪筋に停止して口唇を動かすように出来ています。そのため、偏側咀嚼の人の口角は咀嚼側に引かれています。また、咬筋の緊張と眼輪筋の機能的共同運動によって咀嚼側の目が垂れ気味になります。本人は毎日観ている自分の顔なので非対称も自然に見えるので、気にしていないことが多いです。テレビに出演されているアナウンサーや女優さん、男優さんにも口角が引かれて、片側の目が小さい、垂れている人が多く観られます。「片側だけで咬んでいるともっとひどくなりますよ、早く、何時も片側だけで咬んでいることに気づいて、反対側で咬むようにしましょう」と言いたくなります。

顔面非対称、口角の引かれ、の自己診断法
1.鏡に正面に向かって、アゴを引いて下を向く、上にのぞき込むように鏡で左右の口角の位置を確認する。口角の位置、頬の盛り上がり、ほうれい線の凹み具合、これだけで左右非対称が判る人もいます。
2.そのままの体制で、イーッと言ってみましょう、口角がさらに引かれます、非対称な人は口角の位置の左右差が一層大きくなります。以上の方法で口角のズレ、顔面非対称が確認できます。
表情筋の詳しい知識等は2021年10月13日の「顔面の非対称は噛み癖で起こる」を参照してください。
 
2024年02月05日 12:22

トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて

抗うつ薬
トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて
トリプタノールは世界的に神経障害性疼痛治療法標準薬として長らく使われて来ましたが製造元の不祥事による生産力低下のために出荷量が半減されていて、我々のような小さなクリニックでは入手出来なくなっています、また、処方箋を出しても市中の薬局で薬が受け取れなくなっています。
世界中の神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインの第一選択薬として三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドが挙げられています。この2つの薬は作用機序が全く異なっていて、1)三環系抗うつ薬は下行疼痛抑制系を賦活化して痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています、一方、2)Caチャネルα2δリガンドは1次ニューロンの末端の電位依存性Caチャネルに作用してCa++イオンの流入を抑制することにより、シナップスへの興奮性伝達物質遊離を抑制し痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています。
三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドの鎮痛効果を同一人あるいはグループで比較した研究はないことからどちらがより有効かは明らかではありませんが、作用機序が全く異なることから、患者個人個人によって効果が異なる可能性が高いです。従って、どちらの薬を最初に処方するべきかの明確な指標はありません。
どちらを最初に処方するべきかについては、まず、第一選択薬のなかで使い慣れた薬を選択して処方し、その薬の効果が不十分、あるいは副作用が強い場合は他の第一選択薬に変更するか、副作用の出ない量まで減量して他の第一選択薬と併用する方法が勧められています。
中枢感作に関してはより上位の中枢に作用する三環系抗うつ薬が有効だろうと思っています、また、中枢感作による慢性筋痛に対しても三環系抗うつ薬が適応だろうと思います。
トリプタノールの出荷量半減の話に戻り、トリプタノールあるいはそのゼネリックであるアミトリプチリンが入手出来ない場合、同じ三環系抗うつ薬のなかでトフラニール(イミプラミン、神経障害性疼痛に保険適応外使用が認められている)、アナフラニール(クロミプラミン、保険適応無し)に切り替えることが勧められています。薬理学的には3つの薬に基本的効果(セロトニン再吸収抑制、ノルアドレナリン再吸収抑制)にはほとんど差は無く、同等の効果があると言われています。トリプタノールの副作用と言われる、眠気、口渇、便秘には少し差があるようです。具体的な処方としては、副作用の発現を避けるために、トリプタノールの服用を開始した時と同様に5mgから開始し、漸増する事を勧めています。

追記:アナフラニールに処方してしばらく経過し、患者さんの反応を少し聞くことが出来ました。アナフラニールの眠気はトリプタノールに比べて弱いようです。便秘、口渇は同等か少ないようです。
現在、痛みの世界ではPain(痛み)+Insomnia(不眠)を会わせてPainsomniaという用語が使われています。慢性疼痛では、痛みと不眠の悪循環が形成され、自力改善が困難になっています。
睡眠不足や不眠によって、日中に眠くなります。これは覚醒度がさがるためです。この覚醒度が低下すると痛みを強く感じやすくなり、そしてその疼痛反応の亢進は眠気をとることで回復できることが動物実験で判っています。
睡眠不足による眠気そのものではなく、覚醒度が下がる事により痛みが強く感じるということで、慢性痛の患者さんの多くが夕方に痛みが強くなるのは、この覚醒度の影響ではないかと思います。 
ここに来て、心配なことが一つ、最近、筑波大学の柳沢先生が発見した覚醒度の関わるオレキシンの拮抗薬として、睡眠導入剤としてディエビゴ、ベルソラムが使われていますが、覚醒度をさげることにより、痛みが強くならないかという心配です。これは何かの機会に確認したいと思います。
2023年12月17日 21:35

口腔顔面痛診査法の客観性を高めるために

今年の夏の暑さは異例だったそうです。2023年夏(6月1日~8月24日)の日本の平均気温の基準値からプラス1.78度高かったそうで、夏の気温としては統計を開始した1898年以降の126年間で最も高かったそうです。9月を含めても同様の傾向になるでしょう。暑いのが好きなのとクリニックは涼しいので問題なし、ところが夜の暑さは耐えられませんでした。
このように暑かった今年の夏、患者さんの予約が少なかったこともあり、ゆっくりさせてもらい、診療改善のための年初来の課題解決に取り組みました。 口腔顔面痛診療を名人芸ではなく、客観性の高い診査法にして、誰もが同じ結果が得られるようにすることを目指しています。

1. 自律神経活動測定:指尖容積脈波を計測して、自律神経活動を調べる。痛みの患者さんは自律神経機能が変化している事があり、痛みに影響している可能性がある。慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項    どのタイミングで測定するのが良いか、初診と症状変化時

2. 開口抵抗力測定: オリジナルのアゴのこわばりの具合を測ろうという考えを具現化した開口抵抗力測定器を用いて、患者さんのアゴのこわばり度を測定する、その程度は筋緊張、筋拘縮など筋障害の程度を反映していると考えている。これも慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項 単純に開口抵抗力を計るだけで無く、ストレッチをどれくらいすると筋収縮力が低下するか、患者さんがセルフケアをしてくれた効果を痛みの自覚症状に加えて客観的評価にも使えそう。初診時に測定し、診断結果との関連性を検討する。

3. 疼痛電気閾値測定:神経障害性疼痛患者さんのAllodynia部位の閾値測定、allodyniaは機械的動的刺激による痛みと規定されているが、刺激手法はまちまち、感じ方もいろいろで再現性が低い、そこで、電気刺激に対する反応として調べようという目的。既存の機械、電極からスタート。電極の改良が必要、電気なのでプラスマイナスの二つの端子が必要、でも、口腔内のallodynia部分に二つ置くのは無理、更にallodyniaの部分を刺激するといたくて、電気刺激か機械刺激による痛みか判別不能になる、等のいろいろな障害があり、改良に改良を重ねて、これで使えるかなと言う電極に達しました。 新しい電極で測定開始、スムーズに出来るかどうか。 

4. 患者さんとの医療面接を音声入力文字起こしシステム:痛み診療では患者さんの痛みの自覚症状を如何に文字化して客観的に評価するかが重要です。そのため、毎回の診察では10分程度いろいろな質問しながら経過を伺います。この内容をカルテにまとめるのが大変です。Googleドキュメントに音声入力があるのを見つけてのとりあえず音声入力文字化して、カルテに貼り付けていました。7月に慶應医学部の学生さん達が起業して、音声入力文字化、カルテ記載用に要約までしてくれるシステム開発(medimo)、それを試用させてもらっています。初診時の患者さんには構造化問診していくと、項目に沿ってやりとりを要約してくれる。再診時には自覚症状変化を上手く要約してくれる。医学用語、歯科用語の誤文字化をどうやって少なくするかが課題。
2023年09月06日 18:20

筋・筋膜性歯痛治療の落とし穴

解釈モデルでは処方された薬を飲みさえすれば治るはず
筋・筋膜疼痛の治療法はセルフケアの重要性は周知されているが標準治療が確立されていないために、顎関節症専門医、口腔顔面痛専門医といえども様々です。そのなかで、薬に対する過剰な信頼度を感じた話がありました。
患者さんがアゴの痛みを訴えてある大学病院口腔顔面痛外来を受診し、筋・筋膜疼痛と診断されて、病態、セルフケアを含めた治療法などを説明され、最後に筋弛緩剤を処方されたそうです。
この患者さんから電話相談を受けました。平日の休診日はクリニックにいて原稿書きをしていますから、電話があれば極力出る事にしています。
患者さんが言うには、処方された薬を飲んで、もう2週間経過しているが症状が全然改善しないとのことでした。私の現在の筋・筋膜疼痛治療の中に筋弛緩剤処方は入っていません。20年以上前、顎関節症の痛みが一緒くたに治療されていた頃、筋痛と関節痛に分けて治療すべきという意見を言っていた頃に、関節痛にはNSAIDs、筋痛には筋弛緩剤かアセトアミノフェンと使い分けていたことがありました。しかし、筋弛緩剤の有効性に疑問を感じて、ストレッチなどのセルフケアを中心とした治療に変わり、ほぼ同時期に関節痛に対する治療も歯ぎしりなどの原因に対して側方ガイド付きスプリント療法を行い、筋痛、関節痛とも改善しない場合には中枢感作が生じていると考えてトリプタノールを処方すると言う現在の治療法に変わっていました。そのため、この患者さんから筋弛緩剤2週間服用したが痛みが変わらないと言う話を聞いて、いろいろな事を考えました。
まずは、患者さんの解釈モデルがどうなっているか、どう理解したか。
患者さんは薬を処方されると、薬は効くもの、薬が一番の治療法という一般的な患者の解釈モデルから、この薬を飲めば治るはず、他の治療法なんてやらなくてもいい、という解釈モデルが出来上がってしまいます。
このような解釈で治ってしまうのがプラセーボ効果です。
これはくすりを飲んだという安心感が、体の持つ自然治癒力を引き出しているとも言われています。プラセボ効果は人によって差が大きいので、思い込みだけでは治らない人もいるし、今回の患者さんは本物の薬を服用していて、更にいくらかのプラセーボ効果も加わったと思われるが、改善しなかったことから、やっぱり、筋・筋膜疼痛に筋弛緩剤は効果が無いだろうとなと再確認出来ました。
次に判った事は、この患者さん薬が有効だろうと思ったことから、薬に頼りっきりになり、他に指導されたセルフケアをすっかり忘れてしまたことです。セルフケアを少しでもやっていたら、何らかの反応は期待されるのですが、薬さえ飲んでいれば、治るのだから、他の治療は必要ないんじゃないか、ストレッチなどのセルフケは効く気もしないし、という解釈モデルになっていたようです。 
自力本願よりも、他力本願で直せるなら、その方が楽だということが解釈モデルに見えました。
 
2023年09月05日 15:24

口腔顔面痛 Onsiteハンズオンセミナー開催予定

コロナによりオンラインセミナーが普及し、在宅でセミナーに参加出来るという大きな利便性が得られました。それによって、主催者と受講者を結ぶ一方向性の縦糸は太くなりましたが、双方向性ではありません、ここに大きな問題点があります。また、受講者間の横糸は繋がらず、疑問点解消の機会が失われているように思えます。
 
今年度になりマスク装着緩和、5月にコロナ5類移行によって、学会等が対面で行われることが増えています。学会場で久し振りに会って、いろいろな事をデスカッションしたいと誰もが思っていたようです。
私が主宰してる口腔顔面痛オンラインセミナーは元からオンラインですから、コロナに関係なくオンラインで続けて行きます。そして、オンライン一方向性の弱点を補うべく、これまた元からやっていたオンサイトハンズオンセミナーを復活させます。
つい先日皆さんに案内を出したところです。
【口腔顔面痛 Onsiteハンズオンセミナー】
期日:2023年9月17日(日曜日) 11時-16時
会場:慶應義塾大学北里図書館二階 第一会議室
オンラインセミナーは一方的になりがちですので、ハンズオンで筋肉に触り、口腔粘膜、皮膚の感覚検査をして、できるだけ双方向でデスカッションしたいと思います。
プログラム
1.筋痛関連:筋触診、超音波、トリガーポイントリリース
2.神経障害性疼痛関連:診断法、定性感覚検査、定量感覚検査、薬物療法、トピカル療法
3.痛覚変調性疼痛とは:診断基準、中枢感作、脳機能変調
4.口腔顔面痛オープンセミナー、オンラインセミナーでの疑問点解決
参加希望の方は7月31日までに  i.hiroco0827@gmail.com 池田浩子宛までメールをお願い致します。
 
2023年06月09日 21:34