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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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2025年1月の記事:ブログページ

医療用麻薬により痛みが強くなることも

厚生労働省医薬局監修で毎月発行されている「医薬品安全対策情報」-医療用医薬品注意事項等情報改訂のご案内-、つまり、医薬品の添付文章の改訂情報に興味深いものがありました。
2025年1月の改訂で、フェンタニルその他の副作用の精神神経系の部分に痛覚過敏とアロディニアが追加されました。痛覚過敏には注釈がついていて増量により痛みが増悪する、と書かれています。 
トランプ大統領がメキシコ、カナダからの輸入に30%関税のニュースで話題になっている一つが米国民のオピオイド中毒の合成麻薬であるフェンタニルの生産拠点がメキシコにあり、直接アメリカへ密輸出、あるいはカナダ経由で密輸出にあるそうです。
ここには二つの問題が含まれています。

1) 増量により痛みが増悪するとわざわざ注釈が着いている 用語「痛覚過敏」のことです。
英語のhyperalgesiaの訳だと思います。Hyperalgesiaの日本語用語が痛覚過敏になっているために、わざわざ、痛みの過敏ではなく増悪だと注釈を付けなければならない事です。痛覚過敏は英語ではallodyniaです、つまり、痛み閾値が下がって正常よりも弱い刺激で痛みが生ずるということです。Hyperalgesiaは同じ痛み刺激でも痛み感覚が強くなっていることで、痛覚亢進とすべきだと思います。英語でhyperalgesia、allodyniaと書かれたら、本来はhyperalgesia(痛覚亢進)、allodynia(痛覚過敏)と訳すべきです。Hyperalgesia痛覚過敏の間違いを正すべきと思っています。何処に話せば用語の修正議論をしてくれるのか、日本疼痛学会でしょうか。

2) 2点目はこの副作用情報の本質です。以前から言われていたことで、痛みを和らげるために合成麻薬を投与したら痛みがひどくなる人もいると言うことです。2024年の論文でも以下のように書かれています。Prolonged use of opioids can lead to increased sensitivity to painful stimuli, a condition referred to as opioid-induced hyperalgesia (OIH). However, the mechanisms underlying this contradictory situation remain unclear.     片頭痛治療における薬物乱用性頭痛(Medication overuse headache)もあり、身体が痛みを出している状況にそれを外的介入として止めようとする行為に身体が反応して「オレは痛いんだと介入に逆襲している」とも思えます。
 
2025年01月19日 11:05

温度刺激により増悪する神経障害性疼痛 感覚検査の重要性

私の口腔顔面痛診査は主訴にかかわらず全例に網羅的に診査を行っています。ここでは2.感覚検査が非常に有意義だった神経障害性疼痛症例を紹介するとともに、局所麻酔薬、神経刺激物質を用いた外用薬治療を紹介します。

症例3:33歳女性
主訴:右下76歯間部歯肉が熱いモノ、甘いものがしみて、食事を何回も中断する。VAS50
現病歴:10ヶ月前に下顎右側4根管治療終了後、下顎右側6に痛みが生じた。深い虫歯があるということで抜髄処置、根管処置終了し支台築造したがしみるのが止まらない。甘いモノ、熱いモノがしみて食事を中断してしまう。原因不明と言う事で、下顎右側埋伏智歯が原因の可能性があるとのことで抜歯したが、症状変わらず、下顎右側7の近心にカリエスがあるからそれが原因ではないかとも言われた。下顎右側7は生活歯で冷水痛無しであった
心理テスト:心理テスト:HADs(不安10点、うつ9点)、PCS(反芻18点、無力感15点、拡大視6点)
睡眠障害診査:入眠障害、途中覚醒あり
既往歴:無し、内服薬無し
局所診査:
1.     歯原性、非歯原性の診査:デンタル、パノラマレントゲン下顎右側6根尖透過像無し、打診痛なし、治療経過などから歯原性を否定。

2.     感覚検査:下顎右側6頬側歯肉触覚Dysesthesia、痛覚hyperalgesia、冷感覚低下、温感覚過敏、残感覚あり。甘み刺激過敏、残感覚あり。オトガイ部の感覚異常なし、舌の感覚左右差無し、味覚異常なし。顔面感覚異常なし

3.     脳神経検査:上記三叉神経右側第3枝温感覚過敏以外異常認められず。

4.     筋触診:左右咬筋、側頭筋に筋肥大、硬結、圧痛なし

5.     顎関節診査:ROM42mm、左右側下顎頭滑走正常 牽引、圧迫誘発テスト痛みなし 

6.     咬合状態:明らかな異常なし

7.     診断的局所麻酔:頬粘膜浸潤麻酔により温熱感覚異常消失。

臨床診断:下顎右側6部歯肉神経障害性疼痛(温熱、甘味刺激にのみ感作)、原因不明、オトガイ部の感覚異常がないことから下歯槽神経の全体のニューロパチーは否定的、舌の感覚(三叉神経、舌咽神経)、味覚(顔面神経、舌咽神経)は正常であるのでラムゼーハントは否定、歯肉の外傷の記憶はなし。 
患者への説明:歯原性の可能性は低いのでこれ以上カリエスの治療等はしないこと、歯肉に熱刺激をしたら、食事中の熱刺激による痛みと同様の痛みが再現されたことから、熱受容体が関連する神経障害性疼痛の可能性が高いことを説明した。いつもの痛み(Familiar pain主訴)が再現されたこと、病名の詳しい事は理解出来ないが、ほぼ納得出来ることから提示した治療が受け入れられた。
診断的治療:頬粘膜への診断的局所麻酔により温熱、甘味刺激による誘発痛を止めることができたので、末梢性と判断して局所療法を行うこととした。就寝時に2%リドカイン軟膏を患部に塗布してステントを装着して覆う。
1ヶ月後、オンライン再診、VAS50 熱いモノでの食事中断は変わらず、甘味の刺激は軽減しているとのことであった。局所療法の継続を指示。
3ヶ月後再診:VAS40 熱い食べ物で食事中断することはなくなった。敢えて熱いモノを下顎右側6部に付けて反応を確認してみると、痛みは弱くなっている。 感覚検査:下顎右側6部触覚Dysesthesia 痛覚hyperalgesia 冷感覚低下 温感覚過敏 残感覚なし。舌の感覚、味覚異常なし、左右差無し。
処置:就寝中ステントを用いた2%リドカイン軟膏塗布は有効と判断し、2%リドカイン軟膏に加えて、TRPV1(熱感受受容体)を積極的に刺激する暴露療法を意図して一味唐辛子を混ぜて塗布することを指導した。

考察:本症例は主訴として右下76歯間部歯肉が熱いモノ、甘いものがしみて、食事中に何回も食事中断する、と言うことから神経障害性疼痛が疑われた。私の口腔顔面痛診査は主訴にかかわらず全例に網羅的に診査1-7を行っています。ここでは2.感覚検査を紹介します。
この患者さんで有意義だったのは2、感覚検査です。基本的に左右同部位の比較をします。口腔内の感覚検査は触覚はミラーの縁と充填器の丸い部分で歯肉粘膜を擦過します。基本はMechanical Dynamic Hyperalgesia動的機械的刺激です、綿棒では刺激が弱く反応が出ないことがあるので、ミラーの縁と充填器の丸い部分で診査しています。痛覚検査はピンセットの先端です。探針は刺さってしまうので使いません。冷感覚は水を含ませた綿棒に冷却スプレーを掛けて氷を作って診査します。温感覚の検査は長年試行錯誤していましたが、今は温度調整の出来るワックスペンを43度に固定して適用しています。もう一つ、趣味というか研究と言うか、電気刺激閾値も調べています。
口腔内は部位により触覚、痛覚、冷感覚、温感覚の閾値が大きく異なり、舌はどの刺激にも敏感です。ところが、歯肉は触覚、痛覚は敏感ですが、冷感覚、温感覚は非常に鈍感です。神経障害性疼痛例では触覚、痛覚の感覚異常に加えて、鈍感であるはずの冷感覚、温感覚も敏感になっている事があります。必ず検査すべきです。感覚異常が認められた場合には後に残る残感覚の有無も確認します。臨床的印象としては自発痛があると残感覚があることが多く、感覚異常があっても残感覚がない場合には自発痛はないように思っています。また、自発痛が消えても、刺激による感覚異常は残ることが多く、感覚異常がなくなることは珍しいです。
経過中に一番変化するのは触覚異常で、最初にallodyniaだったものが、治療によってDysesthesia、Paresthesiaに変化することがあります。一方、前記のように自発痛は消えてもallodyniaが残ることもあります。再診毎に自発痛のVASを毎回記録していて、その変化と感覚検査の結果を照らし合わせています。
治療に関して:診断的局所麻酔で全ての症状が消えて、末梢性100%と判断された場合には、夜間就寝中にステントを用いて2%リドカイン軟膏を貼付しています。温感覚過敏の場合にはTRPV1刺激としてカプサイシン(一味唐辛子、コチジャン、豆板醤、タバスコ)、冷感覚過敏にはTRPM8刺激としてミント(ハッカ油)を追加しています。TRPV1とTRPM8はどちらを刺激しても相互刺激作用があることが判っていて、さらに最近になりヒノキチオールがTRPV1、TRPM8の両方を刺激することが判ったので、ヒノキチオール含有する歯磨きペーストを混ぜる事もあります。口腔内外用薬の使用は全て処方医の責任の元で行ってください。
米国のGaryHeirが局所外用薬についてまとめた論文(Use of compounded topical medications for treatment of orofacial pain: a narrative review J Oral Maxillofac Anesth 2022;1:27 https://dx.doi.org/10.21037/joma-22-10)に帯状疱疹に認可されている外用薬製剤(Lidocaine ointment (5%)、Lidocaine patch (5%)、Capsaicin (0.025–0.075%)、Capsaicin patch (8%))が紹介されています。1999年、米国で初めて承認されたEndo Pharmaceuticals社医療用パップ剤Lidoderm®(Lidocaine patch (5%)帯状疱疹後神経痛治療貼付剤)は日本の四国にある帝國製薬が開発、製造しています。
論文には、上記の帯状疱疹用外用薬製剤の他に、口腔内神経障害性疼痛の治療用に個人の裁量で配合された薬剤(Ketamine4%、Carbamazepine4%、Lidocaine1%、Ketoprofen4%、Gabapentin4%、Pregabalin10%、その他)が紹介されていて、プレガバリン10%が最も効果が高いと書かれています。以前、国際疼痛学会の際に会場に集まった口腔顔面痛専門医の皆さんに口腔内神経障害性疼痛の治療としてリドカインとカプサイシンのどちらを使っているかを質問したら、結果は半々で有効性に差は無いようです。前記したように私の臨床ではリドカイン、カプサイシン、ミント、ヒノキチオール、プレガバリンを状況により適宜併用しています。
再度の確認です、口腔内外用薬の使用は全て処方医の責任で行ってください。
2025年01月13日 13:06

慢性虚血性心疾患である攣縮性狭心症による歯痛

vsa
狭心症や心筋梗塞の加えて攣縮性狭心症の発症に際して,歯痛が生じることがあります。 発作時、患者の38%に顔面の痛みが,4%に下顎の歯痛が生じると報告されています. 多くの場合,胸の痛みと顔面の痛み,歯痛が同時に生じますが,稀に胸の痛みがなく歯痛のみが症状として現れることがあり口腔顔面痛専門医は知っておくべきです。
ここでは急性虚血性心疾患である狭心症、心筋梗塞に比べて余り知られていない慢性虚血性心疾患である攣縮性狭心症をガイドラインから抜粋紹介します。

第五章 市民・患者への情報提供 P51
Q1冠攣縮性狭心症とは,どのような病気ですか?
「狭心症」は,心臓に栄養を供給する動脈(冠動脈)の血流が低下して心臓の筋肉(心筋)に十分な酸素が供給されなくなり(心筋虚血),胸が苦しくなる病気です.「労作性狭心症」は,冠動脈に動脈硬化によって著しく狭くなった部位(狭窄:きょうさく)があると,急いで歩いたり階段を昇ったりなどの運動(労作)時に,心筋に十分な酸素が供給されなくなるために心筋虚血を生じ,胸が苦しくなる病気です.「冠攣縮性狭心症」は,冠動脈が一時的に過度に収縮(攣縮:れんしゅく[スパスム])をきたすために著しく血流が低下し,心筋虚血を生じる病気です.冠攣縮性狭心症は労作性狭心症とは異なり,運動中ではなく安静時に生じやすく,おもに夜間就眠中から早朝の安静時に胸が苦しくなります.
Q2冠攣縮性狭心症では,どのような症状が生じますか?
冠攣縮性狭心症の症状は,胸が圧迫される感じ,詰まる感じ,締め付けられる感じなどが多く,激しい胸の痛みで冷汗を伴うこともあれば,漠然とした胸の違和感くらいに弱い症状のこともあります.痛みは前胸部を中心に生じますが,下顎奥歯や下顎,左肩から左腕に及ぶこともあります.痛みは数分ほど持続することが多く,ニトログリセリンの舌下(舌の下に入れて溶かします)で速やかに消失します.胸痛を自覚した後に一時的に意識を失うこともあります(失神).冠攣縮が長く持続すると心筋梗塞を発症することもあり,またきわめてまれに突然死に至ることがあります.これらの症状は冠動脈が攣縮を起こしやすい夜間就眠中から早朝起床後の安静時に生じることが多いものの,日中の安静時にも生じることがあります.労作性狭心症は体を動かしたときに生じますが,冠攣縮性狭心症は安静時に生じるのが特徴です.また冠攣縮性狭心症では早朝のみにごく軽い労作により,例えば起床後にトイレに行った時や,朝外に出て冷たい空気を吸った時などに生じることもあります.
Q3 冠攣縮性狭心症の診断は,どのように行いますか?
冠攣縮性狭心症の診断には症状の問診が一番の決め手になりますので,自覚症状を医師に詳しく伝えていただくことがもっとも重要になります.夜間から早朝にかけての安静時に胸痛を生じたときに12誘導心電図をとり,心筋虚血に特徴的な心電図所見が認められれば診断は確定します.しかし夜間から早朝の症状出現時に12誘導心電図をとることができるのは入院中に限られるため,症状出現時に心電図を記録するのは容易ではありません.24時間心電図を記録するホルター心電図検査を行った場合には,毎日のように症状が出現する患者さんでは症状出現時の心電図を記録できる可能性が高くなりますが,1ヵ月から数ヵ月に1回など症状の頻度が低い患者さんでは,症状出現時の心電図を記録できる可能性は低くなります.以後省略
引用元:冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療 日本循環器学会/日本心血管インターベンション治療学会/日本心臓病学会合同ガイドライン2023年JCS/CVIT/JCCガイドラインフォーカスアップデート版2023年3月10日発行

 
2025年01月13日 12:05

口腔顔面痛を正しく診断 筋筋膜性疼痛を抜髄で神経障害性疼痛

私の臨床で最も気になる病態、イライラする治療経過の症例を紹介します。筋・筋膜性疼痛絡みの打診痛、自発痛、歯肉の感覚障害という例です。多くは複数回の根管治療を経て来院します。気になるのは、筋・筋膜性疼痛の痛みで神経系が前刺激されたところに抜髄等の侵害刺激が加わって侵害受容性疼痛が神経障害性疼痛が加わってしまったのだろうと思われること。
気になるのは、筋・筋膜性疼痛を見つけていれば発症を防げたのではないか、歯原性にこだわって歯内療法を繰り返す前に気づけなかったのか、紹介する前に根充せずに根尖孔からの薬物療法のルートを残してほしかった、というイライラも加わります。
筋・筋膜性疼痛の侵害受容性疼痛に抜髄刺激により神経障害性疼痛を重複させてしまう事を予防する為にも、正しい診断が必要です。

症例2:58歳男性
主訴:4年前に下顎右側7の抜髄以来、持続性の痛みがある。抜髄以来、計三回の根管治療受けたが改善しない。3回目の根管治療を行った歯内療法専門医から非歯原性歯痛の診査依頼
抜髄時の経緯は、充填治療を行った後、冷水痛、咀嚼時痛が強く抜髄したことから歯原性であった事が明らか。しかし、抜髄後も持続痛は改善しなかった。その後、同医に再根管治療を受けたが改善せず、1年前に歯内療法専門医に3回目の根管治療を受けた。
心理テスト:HADs(不安3点、うつ6点)、PCS(反芻16点、無力感8点、拡大視5点)
睡眠障害診査:問題無し
既往歴と内服薬:4年前最初のENDO治療とほぼ同時期に、会社内のトラブルで不安障害が生じて、精神科受診。それ以来、抗不安薬メイラックス(ロフラゼプ酸エチル1mg)、睡眠薬(トリプタノール10mg2T、トラゾドン5mg )服用中、起床時に眠気が残り、減量検討中。現在、会社内のトラブルは解消し、不安の自覚症状も改善している。
 
局所診査:
  1. 歯原性、非歯原性の診査:デンタル、パノラマレントゲン下顎右側7根尖透過像無し、打診痛+、以上から歯原性を完全否定しきれず。他に痛みの原因と思われる異常認められず。
  2. 感覚検査:下顎右側7頬側歯肉に触覚Allodynia残感覚あり、痛覚感覚異常なし、冷感覚、温感覚-感覚異常なし
  3. 脳神経検査:上記三叉神経右側第3枝感覚異常以外異常認められず。
  4. 筋触診:右側咬筋肥大+、硬結++、圧痛++関連痛あり、主訴、何時もの痛み再現、歯痛再現、右側咬筋肥大+、硬結+、圧痛+関連痛なし、右側側頭筋肥大+ 硬結+ 圧痛+ 関連痛なし、右側後頸部圧痛+、右側胸鎖乳突筋硬結+ 圧痛+。
  5. 顎関節診査:ROM51mm、左右側下顎頭滑走正常 牽引、圧迫誘発テスト痛みなし 左右茎状突起腫大+ 圧痛+ 全身Hypermobilityあり
  6. 咬合状態:明らかな異常なし
  7. 診断的局所麻酔:歯根膜注射により打診痛完全消失、頬側歯肉感覚異常消えず。頬粘膜浸潤麻酔によりallodynia消失。歯根膜注射、頬粘膜注射によっても持続痛は約50%残った。
臨床診断:下顎右側7非歯原性歯痛(右側咬筋筋・筋膜性疼痛の関連痛としての歯痛)の可能性が高い。打診痛がある事から歯原性を完全否定できないが、細菌感染が原因というのではなく、3回の根管治療による末梢刺激の結果として末梢および中枢感作が疑われる。もう一点、抜髄以前に自発痛はなかったが右側咬筋に筋・筋膜性疼痛があった可能性も考えられる。
考察:現在につながる持続痛の発症当時の記憶は明らかで、術前痛みはなかったがカリエス充填処置後に冷水痛が強く、咀嚼時痛もあったために抜髄となり、冷水痛は消えたが持続痛が続いたことに始まったとのことであった。その持続痛が多少の変動はあったようであるが、ほぼ現在の痛みにつながっているとのことであった。
抜髄にもかかわらず、何故直後に持続痛が残り、続いているのかが現在の持続痛の原因解明につながると思う。
打診痛は歯原性の可能性はゼロでは無いが、最終歯内療法後1年経過してレントゲン的に異常が認められないことから、非歯原性歯痛として考察する。診断的局所麻酔の結果から、3回の根管治療による末梢刺激の結果として末梢および中枢感作が生じていることが考えられる。
また、現在右側咬筋に明らかな筋・筋膜性疼痛がある事から、抜髄以前に自発痛はなかったが右側咬筋に不顕性筋・筋膜性疼痛が生じ、痛み刺激により末梢、中枢感作が生じていた可能性がある。歯痛は生じていなくても、現在認められる様に歯肉に感覚異常を生じていた可能性もある。
このような神経系の状況下に抜髄処置が加わったことにより中枢神経系が刺激されて持続痛になってしまったと推定される。抜髄処置は局所麻酔下で行われるので処置中の侵害刺激は中枢には伝わらないはずであるが、歯髄に至る神経は切断されたことにより、如何にも外傷性神経障害性疼痛の状況に至ったことが考えられる。
完全なる推論:筋・筋膜性疼痛で神経系が刺激された状況に抜髄処置が加わった事による神経障害性疼痛の発生
現症として持続痛、打診痛、歯肉の感覚障害が認められる、診断的局所麻酔により打診痛、歯肉感覚障害は消失するが持続痛は半分残ることなどからの完全なる推定です
歯内療法術後痛が問題になり、その原因がいろいろ考えられています。1)当該歯の抜髄処置前の3ヶ月以上の持続した痛み、2)歯以外の部位に長期の持続痛があった、3)慢性痛の既往がある、等が挙げられます。個々に含まれない原因として、4)後に関連痛を生ずる筋・筋膜性疼痛が抜髄以前からあった可能性です。筋・筋膜性疼痛の作用としては、本症例の様に不顕性で関連痛は生じていないが当該神経系を刺激していたところに抜髄処置が加わり神経障害性疼痛になった、もう一つは、筋・筋膜性疼痛の関連痛である事が正しく診断されずに、歯原性歯痛として抜髄されてしまい筋・筋膜性疼痛が神経障害性疼痛なってしまったことが推定されます。
 
2025年01月07日 15:27

痛覚変調性疼痛治療-患者さんを支えること

2024年はNociplasticPain(2017)、痛覚変調性疼痛(2021)とはどんなものなのかと痛み関連の人達の関心を集めました。
今年はもっと具体的な話しが出てくるでしょう。期待します。
昨年は関心が高まった結果、まるで新しい痛みが見つかったように、しかしながら、心因性疼痛(国際疼痛学会では正式用語ではないらしい)が消えて、それに代わるわけではないと言われるが、途中経過として様々な用語(心因性疼痛から始まり、非器質的疼痛、中枢神経機能障害性疼痛など、精神科領域では身体表現性障害(疼痛障害))で呼ばれてきた痛みに中枢感作を主たるメカニズムとする正式名称が与えられたと言うことだと思っている。中枢感作は痛み神経系に使われる用語なので、痛覚変調性疼痛診断の際に検討される併発疾患である光過敏、音過敏、睡眠障害、匂い過敏、夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題などは中枢感作とは言えないが、痛み系の中枢感作の他に脳機能全体が変調した状態と捉えるべき。問題は何故侵害受容系が変化してしまい、他の脳機能全般を巻き込むまでになるのかのメカニズム解明と現実的にはどのように治療するかである。
Kosecの最新論文(The concept of nociplastic pain—where to from here? PAIN 165 (2024) S50–S57)によると、薬物療法は神経障害性疼痛の薬物療法と類似している、ということで目新しいものは無く、トリプタノール、プレガバリンの投与とともに、TopDown発生因子の精神心理的ストレスが疑われるときはBiopsychosocialモデルとして心身医学的対応をすることに尽きる。認知的共感を目的とした傾聴で支えてあげることに尽きる
Biopsychosocialモデルとして心身医学的対応には各自の心身医学的対応トレーニングの程度により支えのレベルが異なるが、まずはこのような考え方を持つことが大事と思っている。患者さんを支えることにより自然治癒能力が発揮されて、良い方向に向かってくれる。下手な治療で邪魔してはいけない。


 
2025年01月07日 10:17

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