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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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4月新年度前期の予定

東京はサクラが散って、連日25度近い気温です。
クリニックの向かいにある鹿島ではすがすがさが感じられる新入社員が研修のためにまとまって移動していて、4月だなと感じられます。
4月、いくつかの出来事がありました。
今週デンタルダイヤモンドの担当の方と会って、2023-2024年の二年間、皆さんにご協力頂き、月刊ダイヤモンドに連載した「症例に学ぶ診断マスターへの道」を成書にしたいと言うことで、相談し、8月までに編集し直し9月1日発行と言う事になりました。症例の順番を少し入れ替える程度で、それほど手間は掛からないようです。令和4年の医学、歯学モデルコアカリキュラム改訂で、新たに臨床推論が教育項目に取り入れられました。ところが、ちゃんとした教科書はない状況で、各大学の講義担当者は困っている状況です。教育シラバスを作るのに参考になる内容も加えて発刊できれば良いなと思っています。
もう一つは、6月に久し振りにPhilippines、インドネシアに出かけることになり、セミナープログラムを考えて、昔の講演スライドを探したり、新たなスライド作ったりしています。英語のスライド作りながら、コロナ以来ちゃんと英語しゃべっていないし、ちゃんと話せるのかなと不安が浮かんでいました。その不安が拡がったのかどうか、先週から立て続けに英語しかしゃべれない初診患者さんが2人来て、しばらく英語の練習をしてもらうことになりました。笑ってしまいました。

臨床においては、急性痛治療体制から慢性痛治療体制への意識改革です。私のところを受診する患者さんのほとんどは、病歴3ヶ月以上で慢性痛です。その中で、適切な治療を受けていないために慢性化しているものはちゃんと治療すると改善します。ところが、訴える痛みに相応する身体的異常、治療すべき病態がはっきりしない、あるいは無いという状況があります。この場合には、従来の歯科治療のようにどんどん治療を進めれば改善するのかというと全く的外れです。認知行動療法を柱とする心身医学的対応が必要と言われています。ここで壁が見えます、削る、詰める、被せる、入れると言った従来の歯科治療から心身医学的対応に切り替えられるのか。かなり先進的なプログラムを企画してきたAAOP(米国口腔顔面痛学会)の今年のプログラムを見ても痛覚変調性疼痛とか認知行動療法、心身医学的対応などは見つかりません。否定的ではないでしょうが、切り替えは難しいのだと思います。今後どうやって口腔顔面痛の臨床を心身医学的対応に展開して行くべきか、いよいよ切り替えが迫って来ていると思っています。
2024年04月21日 19:47

顎関節症の本態は身体心理社会モデル

ここ10年、顎関節症の原因が咬合ではなく、心身医学的問題である事が強調され、少しずつ受け入れられてきています。しかし、世界中で咬合が一番大事なんだと、顎関節症の治療のために咬合を変える治療をしている方々もいます。日本各地で顎関節症の治療で有名と言われる方は、大体、咬合治療をしている様です。
以前に、「痛みは脳の中」という巻頭言を紹介したように、痛みは末梢の痛みを感じているところに問題があるのではなく、中枢神経系の問題である事が判って来ています。特に慢性疼痛では中枢神経系が痛みを感じ、さらに心理的要因が大きく影響していると言われています。
ここで紹介する論文は、かつては顎関節症の原因は咬合だと強調していた学会(American Equilibration Society)の機関誌の巻頭言を訳したものです。こんなに変わったんだとびっくりしました。少し長いですが読んでみてください。
CRANIO® The Journal of Craniomandibular & Sleep Practice 8 Mar 2024
Editorial The painful mind  Sanjivan Kandasamy


顎関節症の治療は、ほぼ1世紀にわたって、多くの論争、議論、さまざまな意見が交わされてきた。その論争は、診断だけでなく、病因や適切な治療にも及んでいる[引用文献1]。さらに最近では、睡眠呼吸障害(SDB)が、独自の論争を展開する別の話題となっており、歯科、医療、および関連保健の専門家が、これらの状態の多くの側面について異なる意見を持つに至っている[引用2,引用3]。
睡眠と痛みが双方向の関係にあることを認めることには、ほとんど異論はない。しかし、論争の多くは、顎関節症の病因に関するこれまでの逸話的で根拠のない信念が、現在ではSDBでも同じであり、したがってSDBの管理の多くは、これまでの顎関節症と同じであるという仮定に関連している。
 このような根拠のない病因論的主張は、歯列および骨格の不正咬合の存在、遠心関係の不一致、犬歯の保護咬合の欠如、ブラキシズム、上顎および下顎の後退、狭い上顎、口呼吸、口唇、舌および頭蓋頸部の姿勢の異常など、ほんの数例を挙げるだけでも多岐にわたる[引用1-3]。その結果、多くの臨床家は、顎関節症および/またはSDBに対処するためには、主にこれらの原因の1つまたは複数を取り除く方向に治療を向ける必要があると考えている。
 1970年代のプラセボ試験 [引用文献4-7] や、最近では OPPERA (Orofacial Pain: Prospective Evaluation and Risk Assessment) 試験 [引用文献8-11] と呼ばれる大規模な臨床研究など、エビデンスに基づく文献の登場により、顎関節症治療の焦点は、粗雑な歯科的・機械的モデルから、生物心理社会的モデルへと徐々に移行している。偽薬、非閉塞性口腔器具、模擬平衡などのプラセボ顎関節症治療が、生物学的・行動学的に好ましい反応を示したことから、複雑な心と体の相互関係の存在が理解されるようになった。
やがて、専門家の大半は、顎関節症患者を管理するためのより保存的で可逆的な治療法へと進んでいった。さらに、痛みの調節に関するHenry Beecherの初期の観察[引用12]、MelzackとWallの痛みのゲートコントロール理論[引用13]、痛みの神経マトリックス[引用14,引用15]の概念、プラセボの有効性などの結果、医療と歯科の専門家は、痛みのコントロールの中枢調節またはトップダウンの経路が、痛みの経験を管理するための非常に効果的な本質的メカニズムであることを最終的に受け入れ始めました。
私たちは今日、痛みがどのように処理され、知覚されるかについて、より多くのことを知っている。
また、痛みの慢性化や中枢性感作、顎関節症に対する併存疾患の影響、顎関節症になりやすい人の特徴なども、よりよく理解できるようになった。
 
急性疼痛モデルであれ慢性疼痛モデルであれ、痛みの経験や知覚は認知的・感情的要因に大きく影響される。
この論説は顎関節症そのものに関するものではないが、多くの臨床医が患者の痛み体験の認知的・感情的側面を重視せず、あるいは関与していないことについてのものである。
もし私たちの思考が私たちの感情(そしてやがて私たちの行動)に影響を与えるのであれば、私たちは長い時間をかけて信念体系を構築し、それが最終的に私たちの考え方や日々の対処法に影響を与えることになる。
怒り、不安、恐怖、悲しみなどの否定的な感情とともに、破局視、自分の状況の異常な解釈や意味づけを含む認知の歪みは、人が痛みをどのように受け止め、どのように対処するかに影響を及ぼす重要な役割を担っている [引用16-23]。
多くの臨床医が、スクリーニングのための質問票や/あるいはチェアサイドでのディスカッションという形で、患者の心理的健康について考慮することはあっても、患者が心理的障壁を克服したり、通常の最低限を超えて認知的・感情的にうまく対処できるように手助けしたりするために、実際に患者と一緒に時間を費やしている人はどれほどいるだろうか?
顎関節症の診断や対処法について、エビデンスに基づかない主張を今後もずっと続けていくことになりそうだが、患者の痛みの発生、悪化、持続における心理的要因の役割について、エビデンスに基づいて確立されたことにもっと時間を費やし、日々の臨床に反映させることができるのではないだろうか。 私たちは皆、専門の心理学者や精神科医ではないので、患者の心理的な健康をよりよく管理できるように紹介することは重要だが、これもあまり行われていない。しかし、もし患者が認知的にも感情的にも "トップダウン "で痛み体験をうまく調整できるように手助けをすれば、スプリントを入れたり、錠剤を処方したりする以上に、治療成績がどれほど大きく向上するか想像してみてほしい。さらに良いのは、これらの根本的な影響因子について患者を特定し教育し、認知行動療法(CBT)、リフレーミング、マインドフルネス、リラクゼーション、潜在的にネガティブな行動への気づきなどのスキルを教えれば、患者が自分の痛み体験を管理しやすくなるだけでなく、将来的に苦痛やトラウマを伴う状況に対処しやすくなる可能性がある。 本誌がエビデンスに基づく歯科医療と医学の新たな章に突入する今こそ、エビデンスに基づく心理学的方法を取り入れ、通常の治療を補うことで、治療結果を大幅に改善し、患者が将来痛みと上手に闘う力をつける好機である。私たちは皆、患者さんの辛い心を癒す手助けをすることで、より良い結果を得ることができるのです。
 
 
 
 

 
2024年04月14日 10:23

筋痛も自己治癒能力で改善 自己治癒能力を邪魔しない生活

口腔顔面痛、顎関節症でもっとも多い病態は筋痛です。アゴの筋痛は肩こりの延長のようなもので、肩こりがそうである様に慢性的な症状である反面、自然に収まる症状でもあります。重いものを持ったり、不自然な姿勢を強いたりすると肩こりが強くなるように、アゴの筋の凝りも何かに集中したときにかみしめたり、片方だけで咬んだりしていると筋が鍛えられて大きくなり、そこに何か筋緊張の原因が加わる事により筋が収縮し過ぎて凝りができて筋痛が発症します。
肩こりがひどいからと言って不安になるひとはいません、熟睡出来て、日中も過度に緊張しない、そして肩を動かしたり、ストレッチすることにより自然に収まってきます。アゴの筋痛も、アゴを強ばらせない、固いものを食べないなど、アゴに負担を掛けないようにしていれば自然に収まってきて、病院に行く必要なんてありません。
人間には本来、自己治癒能力があって、健康な身体では一週間もすると傷が治っていくように、身体の不具合の多くが収まっていきます。ところが、かつては「規則正しい生活」と言われていた“健康3原則”(調和のとれた食事、適度な運動、十分な休養・睡眠)から外れた生活をしていると、自己治癒能力が下がってしまい、例えば傷の治りが遅くなるように、肩こりなども治りにくくなってしまいます。アゴの筋痛も同様です。
健康の3原則から外れた生活をすると、いろいろな病気になってしまいます、いわゆる生活習慣病です。6大生活習慣病とは、肝硬変、糖尿病、高血圧性疾患、慢性腎不全、急性心筋梗塞、脳卒中が挙げられています。健康の近年、睡眠と生活習慣病との関係が指摘されていて、睡眠不足が、肥満、高血圧、循環器疾患、メタボリックシンドロームを発症させる危険性を高めると言われています。
痛みの研究でも、最近、慢性疼痛と睡眠障害の関連が注目されています。熟睡出来ない、途中覚醒が多い、早朝に覚醒してしまうなどの状況では、痛みの感じ方が強くなると言われています。痛み治療の一つとして睡眠改善が必要ですが、睡眠が悪い人の多くは単純にストレスが多いだけではなく、その元になる生活全般に色々と問題があることが多く、その改善は簡単ではありません。
私の診療では、毎回、睡眠状況はどうですかと聞くことにしています、アゴの痛み、歯ぎしりしている事やくいしばっていることが睡眠と関連していることを知ってもらうためです。そして、アゴのことから、自分の睡眠状況を改善する糸口を見つけてもらい、健康原則に沿った生活をおくってもらいたいと思っています。
 
2024年03月31日 21:21

痛い歯を抜いたら、その前の歯に痛み

今週の患者さんを診て、改めて驚きと苛立ち
今週の初診患者さんを診て、その解釈モデルに驚くとともに、修正することなく、さらに増悪させた歯科治療にいらだちを感じました。
70歳の女性患者さん、上下顎とも残存歯は前歯部のみ、臼歯部は痛みのために抜いたのだと言う事でした。抜いたらそこにあった痛みは消えたが、残っている下顎左右犬歯部に痛みが生じた。これも抜けば痛みが治るだろうから、抜きたいと主治医に頼んだが抜いてくれない。そのようなやりとりをしている間に娘さんが非歯原性歯痛という話しを見つけて、当クリニックに来院。
数年前に仕事を辞めて、転居した頃に発症して以来の歯痛だそうです。その頃、どれ位歯が残っていたのか不明ですが、相当数の抜歯をしたようです。歯痛発症以来の主治医は、抜歯をするほどに歯には病気はない、抜歯には反対だと言っていたそうです、しかし、患者から懇願されて抜髄した、しかし痛みは止まらない。いったん不可逆的な治療を始めてしまうと、歯止めが外れて、隣の歯も、その隣りも抜髄、そして、終着は抜歯です。その主治医は何とかして抜歯は避けたいと思い、大学病院を紹介したそうです、大学病院なら、知識と技術、そして権威により抜歯が必要でないことを話して、解釈モデルをすり合わせてくれるだろうと期待したのだと思います。ところが、大学病院ではあっさりと患者が訴える歯を抜歯してくれたそうです。初診の日に抜歯の予約が決まり、次の受診で抜歯だったそうです。抜歯により痛かった歯がなくなり、そこに感じていた痛みは消えたそうですが、残っている歯が同様に痛くなりはじめてしまった。解釈モデルでは抜いたからそこの歯の痛みは消えたとなっていて、抜いたことは全く悔やんでいませんでした。そればかりか、新たに痛くなった歯も抜けば、痛みが消えるかもしれないと思っています。
診査の結果、咬筋と顎二腹筋の筋・筋膜疼痛による関連痛としての歯痛でした。しかし、歯が悪いから歯が痛いんだという解釈モデルこの診断にすり合わせるのが大変でした。次回は解釈モデルが何処まで変化しているか、やっぱり歯を治療してくれと言われる可能性があることは想定済みです。解釈モデルを筋肉の緊張による痛みであることにすり合わせて納得してもらい、筋緊張防止と筋ストレッチレットのセルフケアを指導して実践してもらい、トリガーポイントプレッシャーリリースなどの専門的な治療も行って行く予定です。患者さんが痛い歯が原因ではなく、自分のくいしばり、かみしめたことにより筋肉の問題である事を納得してもらうことがスタートポイントです。
 
2024年03月28日 15:07

アンガーマネジメントとWISERモデル「5つのステップ」

日本口腔顔面痛学会主催の外傷性三叉神経ニューロパチーのシンポジュウムが行われ、大阪歯科大学の佐久間先生がコンフリクトマネージメントの話をされました。 コンフリクトマネージメントに関連して、まずは、その中核をなすアンガーマネージメントを具体的に解説している、ハーバード大学から提案されているWISERモデル「5つのステップ」を紹介します。
アンガーマネージメントという言葉は皆さんご存じの事と思います。
「アンガーマネジメントの6秒ルール」、腹立たしい気持ちが強くなったときに、6秒間だけ、その気持ちを表に出さないように我慢することです。 腹が立って、きつい言い方をしたくなったら、こころの中でゆっくりと1から6まで数を数えてみましょう。 怒りの気持ちは、海岸に打ち寄せる波のようなもので、一時的に高い波が来ても、次の波は平波になるように、怒りも納まっているという事です。これは医療の場だけでは無く、家庭内、職場など何処でも共通して使えることです。
6秒ルールの中味をもう少し理論的に説明しているのが、ハーバード大学から提案されているWISERモデル「5つのステップ」(Watch観察、Interpret解釈、Select選択、Engage実行、Reflect振り返り)です。
引用元:Robert Waldinger、Marc Schulz、児島修(訳)『 THE GOOD LIFE 幸せになるのに、遅すぎることはない』(辰巳出版、2023)
怒りなどの感情は、特定のストレス要因(他人の言動などの出来事)が感覚を刺激し、それに対する反応として引き起こされます。怒りの感情が湧き上がった際に、まず「ギアを1つまたは2つ下げて」反応スピードを遅らせることから始めます。患者さんのキツい言葉に、売り言葉に買い言葉的に瞬時に反応して言い返すのではなく、ジッと言いたいことをのみ込んで、対応を考えるのです。その一言による後々の騒動を考えて、今、口から出そうになっている言葉をかみ殺しながら色々考えてみましょう。
WISERモデル「5つのステップ」
Step 1. Watch(観察──心の一時停止ボタンを押す)
 私たちは強力な感情に遭遇すると、すぐに反応したいという衝動に駆られます。しかし、この衝動はパターン認識や一般的な印象に基づいていることがほとんどで、十分な情報を持ち合わせないままの性急な反応は、往々にして望ましくない結果をもたらします。ある感情にうまく対応したければ、まず一呼吸置き(深呼吸がお勧め)、何が怒りの感情を引き起こしたのかを理解する必要があります。「心の一時停止ボタン」を押し、状況全体(環境、相手、自分自身)を見つめます。好奇心を発揮させるのがコツ、と著者らは述べています。このように、アンガーマネジメント・3つのコントロールの第1段階「衝動のコントロール」が、WISERモデルでも重要視されているのは非常に興味深いところです。

Step 2. Interpret(解釈──大切なものを見極める)
 その出来事がなぜ起きているのか、自分にとって何を意味するのかを考えます。私たちは状況全体を既に理解していると思い込みがちですが、実際には、その瞬間に脳が意識的に捉えることができた、非常に少ない情報を基に動いています。この段階では、「(この状況下での)私の思い込みは何だろう」と自分に尋ねることが効果的です。著者らは、「この解釈のステップ2で重要なのは(出来事に対する)自動的に生じる第一印象を超えて、理解を広げ、深めること」と示しています。 そして、怒りの感情の源となった(自分にとって)重要な要素の把握に努めます。そもそも怒りの感情が湧いてくるのは、自分にとって重要な何かが起こっているサインだからです。

Step 3. Select(選択──さまざまな可能性を探る)
 状況をしっかり観察し、解釈して視野を広げた後、その状況において自分が目指すべきより望ましい結果(目標)と、その達成に向けて利用できる選択肢を明確にします。重要なのは対応策を反射的に選択するのではなく、「意図的に選択すること」とされています。

Step 4. Engage(実行──トライするなら慎重に)
 その状況の改善に最善と考えて選択した対応策を、適切なタイミングで、できる限り上手に実行します。どんな状況でも、熟考された行動は感情に流された性急な行動より有益なはず、と著者らは述べています。

Step 5. Reflect(省察、振り返り──反省は役に立つ)
 選択した行動の結果、「何が成功し、何がうまくいかなかったか」「自分の対処法について何を学んだか」「この戦略はうまくいったか」「今後実践できることを学んだか」などを事後に振り返り、将来の行動に役立てます。
 著者らは、健全な人間関係を築くためにWISERモデルで重要なのは、「出来事への反応をできるだけ遅らせ、これまで完全に自動的だった感情的な反応から、自分が何を達成しようとしているかに合わせて、より考慮された目的のある反応に移行すること」としています。
 
この文を読んで、怒り心頭の時にそんなに冷静に考えられるかと思われる方は、とりあえず「6秒ルール」で、じーっと我慢しましょう。そのような場面が何回もあったらたまりませんが、2回目は少し落ち着いて、第三者的に怒っている自分を俯瞰的にみてみましょう。WISERモデル「5つのステップ」(Watch観察、Interpret解釈、Select選択、Engage実行、Reflect振り返り)が思い浮かんでくるかも知れません。
 
2024年03月13日 08:38

慢性疼痛に関する話題 痛みを和らげる手法を探す

現在の慢性疼痛の治療の流れは最終的には痛みがゼロにならないから、残った痛みは患者さんに受容してもらい、ADL、QOLの向上を目的に、言わば軟着陸するための手法として認知行動療法が勧められています。慢性疼痛にはまだまだ判らないことがいっぱいあり、ゼロにならないにしても、できる限り痛みを和らげる手法を探そうと思います。
ここでは慢性疼痛に関する最近の話題をいくつか概説します。
1)何故、急性痛が慢性疼痛に移行するのか、2)ストレス等によって何故、慢性疼痛の強さ、感度が変動する、3)睡眠不足だとどうも痛みに敏感になってしまう、何故だろう、等など、いろいろな疑問があります。
  1. 急性痛が慢性疼痛に移行のメカニズム
昔から、炎症反応は防御的、合目的反応であると言われて、それは急性期の炎症反応を抑制するためと考えられてきました。最近になり、この反応は急性期のことだけでは無く、慢性疼痛への移行を防ぐ作用もあると考えられるに至っています。
急性の腰痛でNSAIDsを服用すると慢性疼痛に移行する可能性がある、また、腰痛に対してNSAIDsを長期も服用していると慢性化しやすいという論文があります。そして、OPPERA-TMD研究でも実際の患者さんで同様の傾向があることが示されました。結論として、運動器痛の急性期における炎症反応のアップレギュレーションが、慢性疼痛の発症に対する防御機構として重要であり、炎症反応をNSAIDsで抑制してしまうと好中球におけるある種の遺伝子発現量が少なくなることが、その理由だろうと言われています。一般に鎮痛に使われる薬の中でNSAIDsは抗炎症作用を持つのに対してアセトアミノフェンは抗炎症作用が無く、急性期における炎症反応のアップレギュレーションを抑制しないので、慢性疼痛移行への防御機構も阻害しないようです。NSAIDsは使わない方が良いのではと言う議論になりますが、それよりも、炎症反応のアップレギュレーションの際の好中球におけるある種の遺伝子発現量を高める方法を検討すべきと言うことで研究が進んでいます。
別な研究によると、急性疼痛から慢性疼痛への移行する背景には、Toll-like receptor 4 (TLR4)と呼ばれるゲートウェイ受容体が関連している可能性を報告しています。神経を含めた組織の傷害があると炎症が起こり、自然免疫のシグナル伝達が活性化されます。有害な刺激、ストレス、組織傷害、特にマイクロバイオームや消化管の傷害に反応して、炎症細胞から刺激物質を放出します。 これらの刺激物質の多くが、Toll-likeレセプターを刺激するということです。
TLR4を活性化することによって、強い痛みは引き起こさないが、中枢免疫系を刺激して神経系を感作する可能性があるとされています。つまり、神経系に慢性疼痛への移行を促進するカスケードを形成すると言うことです。
また、2)例えば食生活の乱れや心理的ストレスがあると、神経系にカスケードの反応を高める多くの受容体やチャネルが強発現し、痛みカスケード全体の流れが増強される可能性があると言われています。この結果、痛みを引き起こすというよりも、閾値が下がり反応しやすい状態になると言うことです。
3)睡眠障害と痛みの関連性 睡眠障害と痛みの関連性は隠れたトピックで重要な研究がいくつか出されています。これは続編で書きます。
 
2024年02月27日 09:11

末梢神経障害の分類の変遷 臨床との関連を求めて

神経損傷分類まとめ
末梢神経障害の分類の変遷 Seddon分類、Sunderland分類からBirch and Bonney 分類まで
これまで数回末梢神経傷害の分類について書いてきました。いずれも臨床的有用性が低いこと、臨床的関連性は説明出来ませんという論調です。世界は広く、長い歴史の中でそのような考えは多くの方が持っていたようで、今回納得の話しを書きました。    
 wajima-ofp.com/blog_articles/1678969421.html   
 wajima-ofp.com/blog_articles/1673068431.html
歯科では、智歯抜歯やインプラントの偶発症として生ずる下歯槽神経、舌神経の神経障害が身近な問題であり、最近は下顎骨の狭小化により智歯抜歯による舌神経損傷、インプラントの普及による下歯槽神経損傷が世界的に増加傾向にある。末梢神経損傷の組織、病理分類として、必ずSeddonの分類、Sunderlandの分類が用いられるが、臨床的に有意なものかどうかと言う点では疑問がある。要は臨床の場における神経損傷は複雑な病態、様々な損傷程度が入り交じっていて、多くの症例は本稿の最後に挙げるMackinnonにより追加されたSunderland分類Ⅵに相当すると考えられる。Seddon、Sunderlandの細かな分類は神経障害の組織、病理的研究の基準であって、臨床における神経障害の程度や回復経過の説明のために作られたものではないと思っている。そのため、後年の研究者達は臨床を念頭に様々な改変、追加を行っている。最たるはBirch and Bonneyによる、非変性神経損傷と変性神経損傷の区別である。
神経損傷の分類に関する現在の理解の基礎は、英国Oxford大学Nuffield校整形外科学教授だったSeddonが神経損傷例を基に発表したSeddonの分類(1942)にある。
Seddonは当初英語での分類を考えたが、同僚の神経内科教授Henry Cohenの曖昧さを避けるためにギリシャ語使用の提案を受け入れて、ギリシャ語での分類となった。Neurapraxia (Transient block:一過性ブロック)、Axonotmesis (Lesion in continuity:軸索連続性の病変)、Neurotmesis (Division of a nerve:神経線維の断裂)
それから約10年後、オーストラリアMelbourne University解剖学教授で後に学部長になったSir Sydney Sunderlandによって、Sunderlandの分類(1951)が出された。彼は、現代の医師はギリシャ語を理解できないだろうとの予測と、末梢神経損傷例の長期研究の後に、神経鞘の段階的障害に基づいて番号による分類を提案した。Sunderlandタイプ I がSeddon分類のNeurapraxiaと同等であることに言及しているが、SeddonのAxonotmesis 、Neurotmesisとの比較は明確にしていない。神経鞘の破壊が大きくなると再生中の軸索の「交差配線」が生じる可能性があるということで、後年の比較表ではSunderland classⅡがAxonotmesisと同等でありであり、神経内膜損傷以上の損傷であるClassⅢ-ⅤがNeurotmesisに相当すると考える説がある。 和嶋の誕生年でした。
1988年、末梢神経外科の専門家であるLundborgは一見無害に見える神経への損傷による臨床症状の違いを理解するのに役立つ生理学的伝導ブロックの概念を提案し、Neurapraxiaと Sunderlandタイプ Iの部分を短時間回復のtype Aと数日から数週以内回復するtype Bに分類した。
1989年、カナダの末梢神経外科医であるMackinnon女史がSunderland分類の最後にClassⅥとしてSunderland分類の複数のタイプを組み合わせた混合タイプを追加した。この分類スキームは、神経損傷の臨床的診査所見や回復過程と合致するものである。
1991年、神経損傷の理解に多大な貢献を果たした英国のBirch and Bonneyが、臨床的観点から非変性神経損傷と変性神経損傷に区別することを提案しました。要は、障害軸索がワラー変性を起こすかどうかという臨床に密接に関連する相違に基づいての分類である。
ということで、最後の分類は非常に臨床的で神経障害が治るか、治らないかの分類でした、そして、治るのは最も軽度のSeddon分類のNeurapraxia  Sunderland分類のClassⅠのみです。
2024年02月11日 14:50

帯状疱疹ワクチン テレビコマーシャル

この頃、テレビで50歳以上の人への帯状疱疹ワクチンのコマーシャルをよく観ます、それにはしっかりした理由があります。
それは、子供への水痘ワクチン接種が普及して、子供の水痘がほとんど無くなったことに起因しています。従来は、家庭で子供、孫の水痘発症が帯状疱疹抗体価が下がってきた両親、祖父母で抗体増加のブースター効果を発揮して、両親、祖父母の帯状疱疹発症を予防していました。ところが、近年の水痘ワクチン接種によって子供の水痘発症が無くなったことにより、両親40歳代、祖父母50歳以上での帯状疱疹抗体増加のブースター効果が発揮されなくなり、抗体が上がること無く、帯状疱疹が発症してしまう事が増えています。
高齢で帯状疱疹を発症すると、60歳以上では約半数で帯状疱疹後神経痛に移行すると言われていて、現在は都合の悪い状況になっています。帯状疱疹自体が非常に痛そうですが期限があります。ところが帯状疱疹後神経痛は神経障害性疼痛であり、終わりが見えない慢性の痛みです。三叉神経領域でも顔面、口腔内に発疹する帯状疱疹が多く、中には顔面神経にも罹患し三叉神経の帯状疱疹後神経痛と顔面神経麻痺の後遺症が出る人がいます。非常に大変です。
現在、50歳以上の人には帯状疱疹の予防接種が出来る様になっています。
ワクチンには二種類あって、従来から用いられていたのは子供向けの水痘予防生ワクチン(一回7-8千円)、もう一つは、組み換え帯状疱疹ワクチン(一回2万円を2回)です。費用は地域によって公的補助金が出るところがあります。
この二つのワクチンの有効性に関する論文があります。単純には 組み換え帯状疱疹ワクチンの有効性が圧倒的に高いです。
生ワクチン
帯状疱疹の発症予防の有効性は、時間とともに減弱していた。接種後30日以上1年未満には67.2%(95%信頼区間65.4-68.8%)だったが、1年以上2年未満には49.6%(47.4-51.7%)に、10年以上12年未満には14.9%(5.1-23.7%)まで低下していた。
 帯状疱疹後神経痛予防については、接種後30日以上1年未満が83.0%(78.0-86.8%)で、10年以上12年未満には41.4%(16.8-58.7%)だった。
 
組み換え帯状疱疹ワクチン
接種後の期間別にみた帯状疱疹予防有効率は以下のとおりであった(1回接種の有効率vs.2回接種の有効率)。
【30日後~1年未満】70% vs.79%
【1年後~2年未満】45% vs.75%
【2年後~3年未満】48% vs.73%
【3年後以降】52% vs.73%
 
費用対効果、何回注射を受けるかを考えると、組み換え帯状疱疹ワクチンが良さそうですね。
2024年02月05日 21:00

慢性口腔顔面痛:「痛みは脳の中にある」

慢性口腔顔面痛:「痛みは脳の中にある」 Chronic Orofacial Pain: Could It be that “The Pain is in the Brain”?

Guest Editorial
International Journal of Experimental Dental Science 2018 | July-December | Volume 7 | Issue 2 
Dean A Kolbinson Professor, College of Dentistry, University of Saskatchewan Saskatoon, SK, Canada   

AAOP等の口腔顔面痛関連学会でも会ったことのないカナダの知らない人ですが、偶然、面白い巻頭言を見つけました。2018年に書かれたものですが、この時点で今後、口腔顔面痛は慢性痛を念頭において研究、臨床を進めて行かなければならないことを示唆しています。面白かったので、少し長くなりましたが全訳を掲載しています。文献番号を入れたままです、興味のある方はOriginalをダウンロードして、参考文献も読んでみてください。


痛みは、歯科医師にとっても患者にとっても複雑で議論の的となる問題である。
まず、痛みに関連する定義と分類について考えてみましょう。
痛みは「実際のまたは潜在的な組織損傷に関連する、あるいはそのような組織損傷に喩えられる不快な感覚的および感情的な経験である1。また、 慢性疼痛とは,3 ヶ月以上持続または再発する疼痛である、と定義されている2。
慢性の一次性疼痛とは、「1つ以上の解剖学的部位の疼痛で、(1)3ヶ月以上持続または再発し、(2)重大な精神的苦痛(例:不安、怒り、欲求不満、苛立ちなど)を伴うもの」と定義されている、 不安、怒り、欲求不満、抑うつ気分など)および/または重大な機能障害(日常生活活動や社会的役割への参加への支障)を伴い、(3)その症状が他の診断では説明しきれないものである」3。
慢性痛のもう一つの診断は「慢性二次性疼痛」と呼ばれ、疼痛は少なくとも最初は基礎となる疾患の二次的症状として考えられる。
慢性顎関節症痛や慢性口灼熱痛などの病態は、慢性一次性疼痛の分類の一つである。3 二次性疼痛の分類のひとつに、慢性二次性頭痛または口腔顔面痛(一次性(特発性)もある)があり、慢性二次性顎関節症痛、慢性歯痛、慢性神経障害性口腔顔面痛などの病態が含まれる4。
痛みは、侵害受容性(非神経組織の実際の損傷またはそのおそれから生じ、侵害受容器の活性化に起因する痛み)と神経障害性(体性感覚神経系の病変または疾患に起因する痛み)のカテゴリーに分類されている5。国際頭痛学会は、神経障害性疼痛を末梢または中枢の体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる痛みと定義している6 。
侵害受容器の明らかな活性化も神経障害もないが、臨床所見や心理身体的所見から侵害受容系の変化が示唆される人(線維筋痛症や「非特異的」慢性腰痛症など)を考慮し、慢性疼痛状態に対して第3の痛みとして痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)が提唱された5。
患者が急性の痛みで歯科医を受診し、診断(不可逆性歯髄炎、歯根端炎など)が比較的簡単で、歯内療法、原因歯の抜歯などの治療で簡単に短期間で解決します。しかし、痛みが完全に解決しない場合や、痛みが再発する場合もあります。このような場合、歯科医師は最初の治療を見直します、見逃された根管が無いか、ひび割れはないかを確認し、あるいは別の歯が原因でないかなど考えます。例えば、歯内療法の再治療が試みられることもあり、臨床医は今度こそ良い結果が得られることを期待する(そしておそらく、最初の治療が正しい治療であったかどうか、本当に適応症であったかどうか疑問に思う)。この 2 回目の治療により、最終的に問題が解決される場合があります。 しかし、再根管治療や抜歯を受けても、基本的に同じ痛みを訴え続ける患者もいます。あるいは、痛みがさらに悪化する患者もいます。
その時点で何が起こっているのでしょうか? 複数回、歯科治療を受けても効果がなかった、そして今も「歯痛」を訴える患者の問題点をさらに考えてみましょう。
非歯原性疼痛(歯科的病態がなく、歯内療法治療後 6 か月以上続いている歯槽部痛)の頻度は、システマティックレビューとメタアナリシスで 3.4%と推定されています。7
また、持続的な歯の痛みの原因として歯原性と非歯原性の両方の原因を検討した論文では、少なくとも半数が非歯原性の原因であると考えられていました。 このような場合、さらなる歯内療法は最良の治療選択肢ではありません。7
非歯原性歯痛の原疾患は、関連筋筋膜痛、一次性頭痛(片頭痛、群発頭痛など)、歯槽骨隣接領域以外の痛みに関連する病態(副鼻腔疾患、狭心症、脳腫瘍など)、心因性の問題など、持続性特発性疼痛、および神経障害性疼痛などさまざまです。7、8
これらの非歯原性歯痛の原疾患が見逃されたり、不適切な歯科治療がさらに行われたりしないように、包括的な病歴聴取(痛みの訴え、経過を含む)と精密な検査(頭頸部、口腔軟組織、歯/歯周構造を含む)を実施する必要があります。
神経障害性疼痛による口腔顔面痛は、それ自体が複雑な問題です(例、末梢感作や中枢感作などのメカニズムが関与している可能性があります)9。三叉神経痛、帯状疱疹、有痛性外傷後三叉神経ニューロパチーなど、いくつかの異なる病態がこのカテゴリーに分類されます8。神経障害性口腔顔面痛の議論では、非定型歯痛症 (AO) などの他にいくつかの症状も言及されます。非定型歯痛はいくつかの同義語があり長年議論されてきました。最近では持続性特発性顔面痛と持続性歯槽部痛が挙げられます10(AOが神経障害性疼痛であるかどうかについては議論があります)。
神経障害性口腔顔面痛は、間歇痛(例、発作性の可能性のある短い電気的または鋭い痛み)や持続的な灼熱痛など、さまざまな症状を呈する可能性があります。11
慢性神経障害性口腔顔面痛の可能性がある患者の診査では、注意深い病歴聴取と検査に加えて、数種類の特別な検査を行います。
触覚刺激(例えば、綿棒による)やピンで刺すような痛覚刺激(例えば、 つまようじ – あるいは歯周プローブやピンセットなど)を用いて、口腔内疼痛軟組織(例えば、抜歯後も歯痛様の痛みを感じる無歯顎歯肉部)を評価することも含まれます。12
痛みが続く部位に、感覚過敏やアロディニアなどの陽性感覚異常、あるいは感覚低下や感覚脱失などの陰性感覚異常がある事が判ります。
また、どのようにして痛みが慢性化し、治療に抵抗する人とそうでない人がいるという問題も検討する必要があります。
この質問に対する満足のいく答えは依然として得られていませんが、痛みの研究の進歩により、私たちは答えに近づくことができると思います。
たとえば、「pain stickiness」という概念は、慢性的な痛みや痛みの行動、治療に対する頑固な抵抗に対する多くの影響を捉えるための別名として提案されています。13,14
また、刺激を受けた際にその刺激を痛みとして感じるかどうかを決定する際に脳が果たす役割についても熟考する必要がありますが、これもまた満足のいく答えが得られない質問です。
最近では、それを説明しようとする興味深い理論がいくつか存在します。 一例として、脳は感覚に対してBayesian approach(ベイズ的アプローチ:認知過程を確率モデルとして表現する試み)に従うことが提案されています。
この議論の一環として、私たちは末梢からの信号を直接的に「感じる」事によって痛みを感じるわけではなく、感覚入力の統合、以前の経験と状況上の手がかりに基づいて、痛みがあると予測することから痛みを感じるのだと述べられています。15
これは、痛みが慢性化すると、痛みの主体が末梢では無く、「中枢性」(神経系や脳機能に問題があり、心因性のものではない)になるため、慢性疼痛患者の治療法の変更につながる事に関連します。15
このように慢性化が中枢神経に関与する状況では、多くの慢性疼痛患者を適切に管理することは非常に困難です。これらの患者は、末梢での各種の治療(根管治療や抜歯など)は有効ではありません、
このような患者では、通常、症状が報告された部位に見られる徴候とは不釣り合いな痛みがある場合に、臨床像の一部となることが多い、抑うつ、不安、破局感を助長するような生物心理社会的治療が出来る医療従事者が含まれる集学的アプローチが必要であろう。16,17。16,17
痛みを抱えた患者、特に頻回の治療にもかかわらず持続する痛みのある患者を治療する場合には、私たちは「検索満足」18に抵抗しなければならず、私たちは いくつかの徴候や症状、そして治療可能な状態を見つけたいという願望に合うと思われた最初の診断に立ち止まってはならない。我々は、診断を確定する前に、他に診断は考えられないか?と自問する必要があります。そうすることにより、診断はより合理的になるでしょう。
私たちはこれらの患者の声に耳を傾け、彼らがすべての話を私たちに話す時間を確保する必要があります。
私たちは、まず、それらの訴えが、そのすべて、または少なくとも大部分が「歯科」診断だけで合理的に説明できるかどうかを確認する必要があります。そうでない場合は、他の科に依頼、相談したり、別のより適切な観点から評価して治療できる科に紹介したりすることを検討する必要があります。
急性の痛みが慢性化するのを可能な限り防ぐ必要があります。 したがって、慢性口腔顔面痛が「痛みは脳にある」可能性がある場合は、普段以上に自分たちの診断能力を発揮する必要がある。
Dean A Kolbinson, DMD, MSD Professor, College of Dentistry, University of Saskatchewan Saskatoon, SK, Canada
 
2024年02月04日 18:40

あなたの病気ストーリー 私の初診で大事にしていること

あなたの病気ストーリー
私の初診は、最初に構造化問診票、痛みチェックシート、心理テストを書いてもらい、それを元に医療面接をします。頭の中にはいくつかの鑑別診断が浮かんできます、一つだけではなく、必ずピボットアンドクラスターで関連する病態も想起します。そして網羅的に診察、歯原性も必ず確認、口腔内、顔面の三叉神経から始まり12脳神経検査、最後に筋触診、咬筋、側頭筋、後頸部筋と胸鎖乳突筋、ここまでで、筋・筋膜疼痛、神経障害性疼痛、頭痛などの最終診断が決まることが多いです。納得出来る診断が得られない場合には再診するか、疑わしい疾患について他の専門医に依頼して診察してもらう事もあります。
最終診断が得られた場合に治療法提示の前に患者さんに「あなたの病気ストーリー」を話します。病気ストーリーとは、医療面接、診察の結果から判った患者さんの1)最終診断、2)病気の成り立ち、原因、発症から今に至った経過、そこに3)患者さんの解釈モデルも加えて、病気の全容を私なりにまとめたものです。
病気ストーリー作成には解釈モデルが必須です。患者さんは解釈モデルで、私の痛みはこれが原因で、この病気だろう、この検査をすれば判る、このように治療すれば直ると考えていることが多く、特に慢性痛の患者さんはこの痛みの当事者は私で、私が一番よく知っているのに、私の意見を聞かずに治療始めるなんてあり得ないでしょうと思っています。
治療を始める前に、最終診断に加えて、専門医の考えるあなたの痛みの全容についての把握内容を提供することが「あなたの病気ストーリー」の目的です。私が把握できた痛みの全容を呈示して、更に患者さんの考えを聞き出し、解釈モデルのすり合わせのために双方向で話し合いをします。こちらの考える痛みの全容に患者さんの解釈モデルをすりあわせる、患者さんの考え、気持ちを修正することは非常に難しいことですが、医者と患者が同じ方向を向いて治療を進めないと治るはずのものも治りませんから、治療開始前に是非とも行っておくべきことです。
解釈モデルを上手く聞き出すためにどうすれば良いかと思いながら今年の後半で判った事が「傾聴、受容、共感」のトリオの意味でした。共感の意味がしっくりしていませんでした。他のブログにも書きましたが、共感に感情的な意味合いは少なく、認知的共感と書いた方がしっくりすると思います。「傾聴、受容でうんうんと言いながら頭を傾け、理解出来ない部分は聞き直し、そういうことですか、そうだったんですね、とそんな事はあり得ないでしょう等と反論することなく聞く続け、その結果の共感」、つまり、聞いた内容を医療者の持つ知識、経験に照らし合わせて、患者さんが痛み、病気がどういう状況にあるのか、そして患者さんはどのように受け止めているのかを把握する事が共感なのです。同情のような感情的共感はないか、あっても少しだけです。
共感力という言葉があり、共感力を高めるにはどうするべきか。聞き出す能力、傾聴、受容を強化と医学知識の増やす、深める、経験を増やすことにより患者の現状を総合的に把握、理解出来る能力を高めるということになります。ここに至って、共感力を高めることとあなたの病気ストーリーを書くことは同じだなあと思えます。
 
2023年12月28日 15:51

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