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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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感覚は双方向という話し、痛みは感覚か解釈か、と言う話

感覚は双方向という話しと痛みは感覚か解釈か、と言う話
以前、加藤総夫先生の講演で視覚、聴覚は双方向だという話しとデモを見せてもらったことがあります。漠然と見えているモノと意図的に見ようとした時、探そうとしたときの異なって見える、同様に聞こえている音を意図的に聞こうとしたときに聞こえる音が違って聞こえると言う話しだったと思います。味覚も同様だと思います、何気なく食べている料理のなかで、この味は?と意識するといろいろな味がはっきり感じられます。その結果、美味しく感じるかどうかは保証しませんが。
普段、舌が特別の敏感だとは感じられませんが、触覚、痛覚、冷温覚とも非常に敏感な組織です。歯の鋭縁や凹凸、咬頭の凸凹、充填物の段差など、また、口蓋皺襞の凸凹、舌乳頭のザラザラなど、それまで何も気にならなかったモノが、いったん気になり出すと、如何にも探しているように全て異常と感じてしまいます。
感覚が双方向と言っても、感覚を伝える神経線維を伝わる信号は全て末梢から中枢に向かい、信号が逆行して探す訳ではありません。中枢に向かう信号の中から目的とする信号を脳が選別し、拡大して捉えることにより脳から末梢の感覚器に探しに行っているように感じられるのだと思います。要するに、求心性に脳に伝わった感覚を脳が解釈しているとも言えます。
我々は診査で口腔内を診るときに、見慣れた口腔内で間違い探しのように、異常な所見がないかどうかを探します。異常所見には違和感で判別できます。
患者さんが何らかのきっかけで口腔内を見ると、見慣れないモノがいっぱいあります。よくある例が口蓋隆起です、ある日突然、上顎がヒリヒリ、よく観たら大きな出っ張りがある、気になってしまいどうしようも無い。昨日までは何もなく突然に出来た(本当は偶然見つけた)ので、きっとアゴのガンに違いないと訴えます。確かに大きな口蓋隆起で、よく今日まで気にならずに過ごしてきたモノだと思える位の大きさです。ところが、全く気にならずに今日まで過ごしてきたのです。このように大きな凸凹があっても、舌にとっては慣れ親しんだ凹凸だったのですが、いったん気になると、歯が出っ張っている、かみ合わせが悪いからだと異常として捉えてしまいます。
同様にいっぱい毛が生えている、それが一様ではない。これはガンではないか、そう思ったら舌に痛みも感じると受診する人もいます。舌に毛が無かったら、まるで因幡の白ウサギのように、しみて、しみて大変ですよ、舌を守るために毛が生えているのですよと正常な舌の写真(本当は私の舌をべーっと見せたいが)を見せて説明したら、納得できて帰りには痛みも消えていました。
痛みは本来、身体を傷害から守るための警告信号で、生きるために必要な事です。急性の痛みのほとんどは原因を取り除けば痛みが消えます。問題は慢性化した痛みです、慢性化した痛みは痛みの原因とは離れたところで続いています、まるで、ハシゴを外されたよう。その理由の一つが、長い間、痛みが続くと痛み神経系が刺激されて過敏な状態になってしまい、原因が無くなっても過敏な状態は続きます。そして、気になって何時も痛みを探しています。このような状況の慢性痛の患者さんへの説明によく使うフレーズを紹介します。試験勉強の為に毎日復習していると試験で満点、ところが、復習しないと良い点数がとれない、試験のためには復習が効果的だが、気にして痛みを探し続けると記憶を呼び戻すことになり最悪です。それではどうすれば良いか、気にしないようにしても気になってしまいます、止めることは出来ないのです。意識を他に向けることです、痛みの復習では無く、他の楽しいことを考える、痛いところを使った動作をする、これにより意識が他に向いて、痛みが感じなくなります。これがマインドフルネスです。
 
2025年04月24日 14:24

案内:顎関節症/口腔顔面痛診査法実技指導セミナー

案内:顎関節症/口腔顔面痛を正しく診断するための診査法実技指導セミナー
目的:顎関節症/口腔顔面痛の診断に必要な診査法を実技指導する。
本セミナー開催に当たっての和嶋の考えを記事にしてある。 https://wajima-ofp.com/blog_articles/1743771572.html
構成:1)オンラインでの診査実技の解説(Googlemeet)
2)対面での、少人数、診査法実技指導(会場:元赤坂デンタルクリニック)
3)クリニックでの診療見学(東京、元赤坂デンタルクリニック、札幌、風の杜歯科)
診査法実技指導項目:1)顎関節痛の診査、2)筋・筋膜性疼痛の診査、3)口腔内、顔面の感覚検査、4)12脳神経検査
セミナー開始予定日:2025年5月12日on-line
募集人数:五名限定
受講者に求める事:顎関節症/口腔顔面痛の診査技術の指導であるため、ある程度の基本的知識を持っていること、口腔顔面痛の臨床経験は問わない。
受講料:七万円(申し込み者に振込先を連絡)
応募締め切り:4月25日
応募方法:メール申しこみ、記載事項(氏名、所属、年齢、出身大学、メールアドレス)
申し込み先メールアドレス:wajima.ofp@gmail.com
セミナー予定日時(on-lineは原則第2月曜日20時始まり2時間、対面は10時-16時、診療見学10時-17時適宜)、形式:1)5月12日月曜日:on-line、2)6月9日月曜日:on-line、3)7月14日月曜日:on-line、4)8月31日日曜日:対面、5)9月8日月曜日:on-line、6)日程応相談:診療見学
その他の受講希望者への要望:1)現在、月例で行われている3つの口腔顔面痛関連オンラインセミナー(村岡先生主催慶應OFPオープンセミナー、坂本先生主催OFP-webセミナー、和嶋主催口腔顔面痛オンラインセミナー)を受講することを勧める。 2)本セミナー受講後に日本口腔顔面痛学会主催の口腔顔面痛臨床推論実習セミナーの受講を勧める。
セミナー内容等、受講に当たっての質問は wajima.ofp@gmail.com宛てに送ってください。
 
2025年04月06日 14:26

顎関節症/口腔顔面痛診査法実技指導セミナー企画の経緯

顎関節症/口腔顔面痛を正しく診断するための診査法実技指導セミナー企画の経緯
ここ数年、構想を練っていた口腔顔面痛診療に興味を持つ方々への診査法実技指導有料セミナーを開催する事を決断しました。概要は、前もってオンラインでビデオ等での指導を行った後に、クリニックに集まってもらい実技指導を行う。後日、クリニックに来てもらい和嶋の患者診療の実際を見学してもらう。期日、費用等の詳細は後述します。
  1. 個人で診査法実技指導有料セミナーを企画するに至ったきっかけ
顎関節症、口腔顔面痛に関するセミナーが日本顎関節学会、日本口腔顔面痛学会で行われている。ところが、私のクリニックを受診する患者さんの多くはいくつかの専門医療機関で治療を受けているが正しく診断されないために改善せずに来院する。一番の理由は正しい診査法が実施されていない為である。
学会と協働して必要なセミナーを行えば良いとも考えられるが、正しく伝えるには、私が米国のOrofacial painの先達から直接教わった診査法をHandsonで、私が受講者に触って、直接診査をして伝える必要がある。それには少人数でしかできない。
  1. 診査法実技指導有料セミナーではどのようなことをするのか
主目的の診査法実技指導のために、少人数の受講者に私のクリニックに集まってもらい、丸一日かけて実技指導を行う。和嶋による受講者診査とその後の受講者間での相互診査実習を行ってもらう。当日の診査法実技の理解のために、前もって数回On-lineにてビデオ等により説明する。診査法実技指導を受けてもらった後に、クリニックに来ていただき、和嶋の日常の顎関節症/口腔顔面痛患者診察を見学してもらう。また、希望者には札幌、風の杜歯科での和嶋の診療を見学もしてもらう。札幌での診療見学の特徴は一日で多数の多様な病態、症状の患者さんの診療を見学できることである。
診査法実技指導項目:1)顎関節痛の診査、2)筋・筋膜性疼痛の診査、3)口腔内、顔面の感覚検査、4)12脳神経検査
  1. 何故、今まで診査法実技指導有料セミナーの開催をためらっていたか
実技指導は対面でしかできない、和嶋が受講者全員に直接指導するには少人数でしかできない、お互いに真剣に指導する、学ぶ時間を共有したい。このような構想でのセミナーを和嶋がやって良いのかとずーっと長い間、思案していた。前述したように患者さんが正統な診査を受けていないために正しい診断に至らず症状が改善していない状況を診る度にもうやらなければと思っていた。日本口腔顔面痛学会創設メンバーの多くは第一線から離れ、臨床を続けている和嶋がやらないと正統な顎関節症/口腔顔面痛の診査、治療の伝承が出来なくなるとの危惧も感じて決断するに至った。
 
2025年04月04日 21:59

動機づけ面接創始者による腕利き心理療法士のスキル

昨日3月24日月曜日に、動機づけ面接の創始者であるMiller博士の講演会に行ってきました。経歴に70年間の心理療法研究と書かれていますから90歳を超えていると思われます。年齢からか、経験深い心理療法士だからか、穏やかな説得力のある話し方でした。
 
事前公開の【講演概要】
どのような治療法が提供されても、クライアント(患者)の結果は、それを提供するセラピスト(治療者)によって大きく異なります。セラピスト(治療者)が全員同じ治療マニュアルに従っていても、セラピスト(治療者)毎に治療効果が異なります。それはなぜか、70年間の心理療法研究に基づいて、ミラー教授はクライアントがより良い治療結果が生ずるセラピスト(治療者)の8つの特徴を説明します。これらは性格特性ではなく、専門家育成の専門的なトレーニングに含めるべき、学習可能な臨床スキルです。
講演で述べられたこと
動機づけ面接の創始者の話であったが、動機づけ面接の話しは無かった、効果が高い治療者に備わった8つのスキルについての解説であった。
どの精神療法が他よりもすぐれているといえるか、それは言えない。精神療法の違いにより治療効果に差が出ない、これは、治療者毎に治療効果に差が出るが、平均するとどれも変わらなくなる。しかし、どの治療法も治療者毎に治療効果に差があるのは明らかで、適切なセルフケアの解説本を渡して実施してもらった場合よりも治療効果が低い場合、あるいは治療にも関わらず悪化する場合もある。差が出る理由は各治療者の8つのスキルの善し悪しによる。
講演で述べられていた8つのスキルを効果順に並べる、
1,正確な共感  2,肯定的な関心を向ける 3,真正性/自己一致(患者体験と治療者の体験)  4,受容  5,治療目標を定める、フォーカスする  6,希望を持ち、持たせる  7、解決志向を呼び起こす、 8,情報提供、助言をする
単純には傾聴、受容、共感を如何にレベル高く行うかという事だと思います。基本的な事ながら傾聴、受容、共感がうまく出来なければ、どんな精神療法を行っても治療効果はあがらないということ
8つのスキルの多くは動機づけ面接の基本技法と重複していて、動機づけ面接は行動変容をはじめ、心身医学的対応の基本として利用価値が高いという話しであった。
動機づけ面接学会での招聘講演で来日され記念として下記の本が出帆されます。この本に講演内容が詳記されているそうです。
腕利きの心理療法家 クライエントのアウトカムを改善する効果的な臨床スキル 単行本(ソフトカバー) – 2025/3/27発売予定 ウイリアム・R・ミラー (著), テレサ・B・モイヤーズ (著), 原井 宏明 (翻訳), & 1 その他
本書の宣伝文句
腕利きの心理療法家を、本書では「効果的なセラピスト」と呼ぶ。治療効果をもたらすことのできる心理療法家とはどのような人なのか。どんな特性や技能を備えていて、どのようなカウンセリングや心理療法をしているのか。患者・クライエントとの対話が単なるおしゃべりになってしまったり、行き詰まったりしていたら、そこから脱するために必要不可欠な要素を本書の中から見つけることができるだろう。「援助関係」「治療スキル」「学習、研修、臨床科学」の三部構成で、特にさまざまな治療スキルについて重点的に解説。本書で学んで実践し、効果的なセラピストを目指そう!
 
 
 
2025年03月25日 19:23

神経障害性疼痛に二次的に筋・筋膜疼痛発症

神経障害性疼痛に二次的に筋・筋膜疼痛発症例
初診時に主訴の疼痛部にallodynia、hyperalgesiaなどの感覚障害があり、慢性的に経過している場合は同側の咬筋に筋・筋膜性疼痛が認められる場合が多い。咬筋の圧痛誘発により関連痛として主訴の疼痛が再現される事が多い。このような場合には神経障害性疼痛を念頭におきながら、筋・筋膜性疼痛の治療を優先させる。ストレッチ、随意運動によりかみしめ中断などの行動変容を含むセルフマネージメンを指導する。約一ヶ月で筋症状が改善し、持続性の鈍痛が消失する場合もある。しかし、もう一つのピリピリ、ヒリヒリ、むずがゆい感じなどの症状は改善せず、まだ痛いですという訴えになる。
そこでもう一度、感覚検査を行う。結果は初診時よりもはっきりした感覚異常が認められる。ああ、やっぱり神経障害性疼痛が元にあったのだと認識せられる。神経障害性疼痛が発症した後に、痛みの為に筋緊張が生じて筋・筋膜性疼痛となった。筋・筋膜性疼痛の痛みが前面に出て、如何にも筋・筋膜性疼痛が原発の様に思える。でも、違っていた。
初診時に筋・筋膜性疼痛の筋触診を行わず、筋触診障害から神経障害性疼痛と診断して薬物療法を行っても、一ヶ月たっても全く効果無く、診断に混乱することになるであろう。
口腔顔面痛の診査として、初診時、再診時に筋触診、感覚検査を繰り替えることが重要であると何時も再認識させられる。
 
2025年02月21日 18:35

TMD治療のための10の重要なポイント

IADR(国際歯科研究学会)のINfORM(The International Network for Orofacial pain and Related disorders Methodology) (INfORM)グループは、優れたTMD治療のための10の重要なポイントを提案します。これは、TMD管理と患者のニーズに関する現在の標準的なケアの要約を表しています:    赤文字は和嶋の追加です
2010年AADR(米国歯科研究学会)から出された、「顎関節症の声明」では自然経過が良いことから顎関節症はセルフリミッティングと言われていました、今回の論文ではセルフリミッティングという言葉が消えて、逆に慢性化という用語が加えられました。
また、複雑な症例は口腔顔面痛専門医に紹介すべきと明記されました。 ちなみに、米国では顎関節症は口腔顔面痛の一部であり、顎関節症専門医制度はなく口腔顔面痛専門医が顎関節症専門医も兼ねています。
  1. TMD を管理するには、患者中心の意思決定と患者の関与および視点が重要であり、病歴聴取から検査、診断、そして治療へと続くプロセスです。症状を制御および管理し、個人の日常生活への影響を軽減する方法を学ぶことに重点を置く必要があります。
  2. TMD は、口腔顔面痛や筋骨格系に起因する機能障害などの兆候や症状を引き起こす一連の疾患群です。
  3. TMD の病因は生物心理社会的であり、かつ多因子性です。  昔は咬合異常、かみ合わせが原因と言われていたが、かみ合わせの異常は否定され、それを修正するという咬合治療も否定されています。生物心理社会的:精神心理因子、社会的因子が重要視されています。
  4. TMD の診断は、研修を受けた診査者が患者の視点に基づいて、標準化され検証された病歴聴取と臨床評価に基づいて行われる。 診査法はちゃんとしたトレーニングを受けること、触診法などはハンズオンセミナーで研修を受けるべきです。
  5. 画像診断は特定の症例で有用であることが証明されているが、標準化された病歴聴取、臨床診査に代わるものではない。軟部組織の場合はMRI、骨の場合はCBCTが現在の標準検査法です。画像診断は、診断または治療に明らかな影響を与える可能性がある場合にのみ実施する必要があります。画像診断のタイミングは重要であり、コスト、利点、リスクのバランスも重要です。
  6. 通常の標準治療を超えた治療や器具を使用する前に、根拠となるエビデンスを慎重に検討する必要がある。この分野の新規開発に関する知識は最新の状態にしておく必要がある。現在、チェアーサイドで筋電図活動測定、顎運動計測や体の揺れを評価したりする技術機器の有効性は支持されていない。 特殊な器具でTMDのより優れた診断が出来るという学術的根拠はないと言われている。
  7. TMD 治療は、痛みの影響を軽減し、機能制限を減らすことを目標とすべきある。治療結果は、悪化の軽減、悪化の管理方法に関する教育の必要性の減少、生活のQOL向上との関連で評価する必要がある。
  8. TMD 治療は、主に、サポートされた自己管理の奨励と、原因となる習癖、姿勢等の行動変容や理学療法などの保存的アプローチに基づく必要がある。 自己管理をサポートする第 2 選択の治療には、暫間的、間歇的、および期間限定の口腔装置の使用が含まれる。外科的介入が必要とされるのは、ごくまれで、非常に限られたケースのみである。治療法の第一のサポートされた自己管理の奨励とは(ここが生物心理社会的のなかで特に、精神心理因子、社会的因子に対して共通認識を持つこと)のこと、原因となる習癖、姿勢等の行動変容は(原文では認知行動療法と書かれていますが、精神療法の認知行動療法とは異なりますので、行動変容と改変しています)の事です。
  9. 不可逆的な咬合治療や咬合または下顎頭の位置の調整は、TMD のほとんどの治療には適応されない。例外となるのは、高い充填物や冠を装着した直後に TMD 症状が現れる場合や下顎頭の疾患により咬合位がゆっくりと進行する場合である。かみ合わせを変える咬合治療は否定されています。
  10. 予後が不確実な複雑な臨床像、例えば、広範な疼痛や併存疾患、中枢性感作の要素、長期間持続する疼痛、過去に治療に失敗した既往歴がある場合などは、顎関節症や非顎関節痛の慢性化を疑うべきである。従って、適切な専門医(口腔顔面痛専門医)への紹介が推奨される。すべての国に口腔顔面痛専門医がいるわけではないため、地域に適切な紹介先を探すべきである。 顎関節症の中には(例えば、広範な疼痛や併存疾患、中枢性感作の要素、長期間持続する疼痛、過去に治療に失敗した既往歴がある場合)などの症状、経過を伴っている場合があり、それは普通の顎関節症ではなく、慢性化する症例があるために、早期に口腔顔面痛専門医に紹介すべきと書かれています。
2025年02月05日 16:54

医療用麻薬により痛みが強くなることも

厚生労働省医薬局監修で毎月発行されている「医薬品安全対策情報」-医療用医薬品注意事項等情報改訂のご案内-、つまり、医薬品の添付文章の改訂情報に興味深いものがありました。
2025年1月の改訂で、フェンタニルその他の副作用の精神神経系の部分に痛覚過敏とアロディニアが追加されました。痛覚過敏には注釈がついていて増量により痛みが増悪する、と書かれています。 
トランプ大統領がメキシコ、カナダからの輸入に30%関税のニュースで話題になっている一つが米国民のオピオイド中毒の合成麻薬であるフェンタニルの生産拠点がメキシコにあり、直接アメリカへ密輸出、あるいはカナダ経由で密輸出にあるそうです。
ここには二つの問題が含まれています。

1) 増量により痛みが増悪するとわざわざ注釈が着いている 用語「痛覚過敏」のことです。
英語のhyperalgesiaの訳だと思います。Hyperalgesiaの日本語用語が痛覚過敏になっているために、わざわざ、痛みの過敏ではなく増悪だと注釈を付けなければならない事です。痛覚過敏は英語ではallodyniaです、つまり、痛み閾値が下がって正常よりも弱い刺激で痛みが生ずるということです。Hyperalgesiaは同じ痛み刺激でも痛み感覚が強くなっていることで、痛覚亢進とすべきだと思います。英語でhyperalgesia、allodyniaと書かれたら、本来はhyperalgesia(痛覚亢進)、allodynia(痛覚過敏)と訳すべきです。Hyperalgesia痛覚過敏の間違いを正すべきと思っています。何処に話せば用語の修正議論をしてくれるのか、日本疼痛学会でしょうか。

2) 2点目はこの副作用情報の本質です。以前から言われていたことで、痛みを和らげるために合成麻薬を投与したら痛みがひどくなる人もいると言うことです。2024年の論文でも以下のように書かれています。Prolonged use of opioids can lead to increased sensitivity to painful stimuli, a condition referred to as opioid-induced hyperalgesia (OIH). However, the mechanisms underlying this contradictory situation remain unclear.     片頭痛治療における薬物乱用性頭痛(Medication overuse headache)もあり、身体が痛みを出している状況にそれを外的介入として止めようとする行為に身体が反応して「オレは痛いんだと介入に逆襲している」とも思えます。
 
2025年01月19日 11:05

温度刺激により増悪する神経障害性疼痛 感覚検査の重要性

私の口腔顔面痛診査は主訴にかかわらず全例に網羅的に診査を行っています。ここでは2.感覚検査が非常に有意義だった神経障害性疼痛症例を紹介するとともに、局所麻酔薬、神経刺激物質を用いた外用薬治療を紹介します。

症例3:33歳女性
主訴:右下76歯間部歯肉が熱いモノ、甘いものがしみて、食事を何回も中断する。VAS50
現病歴:10ヶ月前に下顎右側4根管治療終了後、下顎右側6に痛みが生じた。深い虫歯があるということで抜髄処置、根管処置終了し支台築造したがしみるのが止まらない。甘いモノ、熱いモノがしみて食事を中断してしまう。原因不明と言う事で、下顎右側埋伏智歯が原因の可能性があるとのことで抜歯したが、症状変わらず、下顎右側7の近心にカリエスがあるからそれが原因ではないかとも言われた。下顎右側7は生活歯で冷水痛無しであった
心理テスト:心理テスト:HADs(不安10点、うつ9点)、PCS(反芻18点、無力感15点、拡大視6点)
睡眠障害診査:入眠障害、途中覚醒あり
既往歴:無し、内服薬無し
局所診査:
1.     歯原性、非歯原性の診査:デンタル、パノラマレントゲン下顎右側6根尖透過像無し、打診痛なし、治療経過などから歯原性を否定。

2.     感覚検査:下顎右側6頬側歯肉触覚Dysesthesia、痛覚hyperalgesia、冷感覚低下、温感覚過敏、残感覚あり。甘み刺激過敏、残感覚あり。オトガイ部の感覚異常なし、舌の感覚左右差無し、味覚異常なし。顔面感覚異常なし

3.     脳神経検査:上記三叉神経右側第3枝温感覚過敏以外異常認められず。

4.     筋触診:左右咬筋、側頭筋に筋肥大、硬結、圧痛なし

5.     顎関節診査:ROM42mm、左右側下顎頭滑走正常 牽引、圧迫誘発テスト痛みなし 

6.     咬合状態:明らかな異常なし

7.     診断的局所麻酔:頬粘膜浸潤麻酔により温熱感覚異常消失。

臨床診断:下顎右側6部歯肉神経障害性疼痛(温熱、甘味刺激にのみ感作)、原因不明、オトガイ部の感覚異常がないことから下歯槽神経の全体のニューロパチーは否定的、舌の感覚(三叉神経、舌咽神経)、味覚(顔面神経、舌咽神経)は正常であるのでラムゼーハントは否定、歯肉の外傷の記憶はなし。 
患者への説明:歯原性の可能性は低いのでこれ以上カリエスの治療等はしないこと、歯肉に熱刺激をしたら、食事中の熱刺激による痛みと同様の痛みが再現されたことから、熱受容体が関連する神経障害性疼痛の可能性が高いことを説明した。いつもの痛み(Familiar pain主訴)が再現されたこと、病名の詳しい事は理解出来ないが、ほぼ納得出来ることから提示した治療が受け入れられた。
診断的治療:頬粘膜への診断的局所麻酔により温熱、甘味刺激による誘発痛を止めることができたので、末梢性と判断して局所療法を行うこととした。就寝時に2%リドカイン軟膏を患部に塗布してステントを装着して覆う。
1ヶ月後、オンライン再診、VAS50 熱いモノでの食事中断は変わらず、甘味の刺激は軽減しているとのことであった。局所療法の継続を指示。
3ヶ月後再診:VAS40 熱い食べ物で食事中断することはなくなった。敢えて熱いモノを下顎右側6部に付けて反応を確認してみると、痛みは弱くなっている。 感覚検査:下顎右側6部触覚Dysesthesia 痛覚hyperalgesia 冷感覚低下 温感覚過敏 残感覚なし。舌の感覚、味覚異常なし、左右差無し。
処置:就寝中ステントを用いた2%リドカイン軟膏塗布は有効と判断し、2%リドカイン軟膏に加えて、TRPV1(熱感受受容体)を積極的に刺激する暴露療法を意図して一味唐辛子を混ぜて塗布することを指導した。

考察:本症例は主訴として右下76歯間部歯肉が熱いモノ、甘いものがしみて、食事中に何回も食事中断する、と言うことから神経障害性疼痛が疑われた。私の口腔顔面痛診査は主訴にかかわらず全例に網羅的に診査1-7を行っています。ここでは2.感覚検査を紹介します。
この患者さんで有意義だったのは2、感覚検査です。基本的に左右同部位の比較をします。口腔内の感覚検査は触覚はミラーの縁と充填器の丸い部分で歯肉粘膜を擦過します。基本はMechanical Dynamic Hyperalgesia動的機械的刺激です、綿棒では刺激が弱く反応が出ないことがあるので、ミラーの縁と充填器の丸い部分で診査しています。痛覚検査はピンセットの先端です。探針は刺さってしまうので使いません。冷感覚は水を含ませた綿棒に冷却スプレーを掛けて氷を作って診査します。温感覚の検査は長年試行錯誤していましたが、今は温度調整の出来るワックスペンを43度に固定して適用しています。もう一つ、趣味というか研究と言うか、電気刺激閾値も調べています。
口腔内は部位により触覚、痛覚、冷感覚、温感覚の閾値が大きく異なり、舌はどの刺激にも敏感です。ところが、歯肉は触覚、痛覚は敏感ですが、冷感覚、温感覚は非常に鈍感です。神経障害性疼痛例では触覚、痛覚の感覚異常に加えて、鈍感であるはずの冷感覚、温感覚も敏感になっている事があります。必ず検査すべきです。感覚異常が認められた場合には後に残る残感覚の有無も確認します。臨床的印象としては自発痛があると残感覚があることが多く、感覚異常があっても残感覚がない場合には自発痛はないように思っています。また、自発痛が消えても、刺激による感覚異常は残ることが多く、感覚異常がなくなることは珍しいです。
経過中に一番変化するのは触覚異常で、最初にallodyniaだったものが、治療によってDysesthesia、Paresthesiaに変化することがあります。一方、前記のように自発痛は消えてもallodyniaが残ることもあります。再診毎に自発痛のVASを毎回記録していて、その変化と感覚検査の結果を照らし合わせています。
治療に関して:診断的局所麻酔で全ての症状が消えて、末梢性100%と判断された場合には、夜間就寝中にステントを用いて2%リドカイン軟膏を貼付しています。温感覚過敏の場合にはTRPV1刺激としてカプサイシン(一味唐辛子、コチジャン、豆板醤、タバスコ)、冷感覚過敏にはTRPM8刺激としてミント(ハッカ油)を追加しています。TRPV1とTRPM8はどちらを刺激しても相互刺激作用があることが判っていて、さらに最近になりヒノキチオールがTRPV1、TRPM8の両方を刺激することが判ったので、ヒノキチオール含有する歯磨きペーストを混ぜる事もあります。口腔内外用薬の使用は全て処方医の責任の元で行ってください。
米国のGaryHeirが局所外用薬についてまとめた論文(Use of compounded topical medications for treatment of orofacial pain: a narrative review J Oral Maxillofac Anesth 2022;1:27 https://dx.doi.org/10.21037/joma-22-10)に帯状疱疹に認可されている外用薬製剤(Lidocaine ointment (5%)、Lidocaine patch (5%)、Capsaicin (0.025–0.075%)、Capsaicin patch (8%))が紹介されています。1999年、米国で初めて承認されたEndo Pharmaceuticals社医療用パップ剤Lidoderm®(Lidocaine patch (5%)帯状疱疹後神経痛治療貼付剤)は日本の四国にある帝國製薬が開発、製造しています。
論文には、上記の帯状疱疹用外用薬製剤の他に、口腔内神経障害性疼痛の治療用に個人の裁量で配合された薬剤(Ketamine4%、Carbamazepine4%、Lidocaine1%、Ketoprofen4%、Gabapentin4%、Pregabalin10%、その他)が紹介されていて、プレガバリン10%が最も効果が高いと書かれています。以前、国際疼痛学会の際に会場に集まった口腔顔面痛専門医の皆さんに口腔内神経障害性疼痛の治療としてリドカインとカプサイシンのどちらを使っているかを質問したら、結果は半々で有効性に差は無いようです。前記したように私の臨床ではリドカイン、カプサイシン、ミント、ヒノキチオール、プレガバリンを状況により適宜併用しています。
再度の確認です、口腔内外用薬の使用は全て処方医の責任で行ってください。
2025年01月13日 13:06

慢性虚血性心疾患である攣縮性狭心症による歯痛

vsa
狭心症や心筋梗塞の加えて攣縮性狭心症の発症に際して,歯痛が生じることがあります。 発作時、患者の38%に顔面の痛みが,4%に下顎の歯痛が生じると報告されています. 多くの場合,胸の痛みと顔面の痛み,歯痛が同時に生じますが,稀に胸の痛みがなく歯痛のみが症状として現れることがあり口腔顔面痛専門医は知っておくべきです。
ここでは急性虚血性心疾患である狭心症、心筋梗塞に比べて余り知られていない慢性虚血性心疾患である攣縮性狭心症をガイドラインから抜粋紹介します。

第五章 市民・患者への情報提供 P51
Q1冠攣縮性狭心症とは,どのような病気ですか?
「狭心症」は,心臓に栄養を供給する動脈(冠動脈)の血流が低下して心臓の筋肉(心筋)に十分な酸素が供給されなくなり(心筋虚血),胸が苦しくなる病気です.「労作性狭心症」は,冠動脈に動脈硬化によって著しく狭くなった部位(狭窄:きょうさく)があると,急いで歩いたり階段を昇ったりなどの運動(労作)時に,心筋に十分な酸素が供給されなくなるために心筋虚血を生じ,胸が苦しくなる病気です.「冠攣縮性狭心症」は,冠動脈が一時的に過度に収縮(攣縮:れんしゅく[スパスム])をきたすために著しく血流が低下し,心筋虚血を生じる病気です.冠攣縮性狭心症は労作性狭心症とは異なり,運動中ではなく安静時に生じやすく,おもに夜間就眠中から早朝の安静時に胸が苦しくなります.
Q2冠攣縮性狭心症では,どのような症状が生じますか?
冠攣縮性狭心症の症状は,胸が圧迫される感じ,詰まる感じ,締め付けられる感じなどが多く,激しい胸の痛みで冷汗を伴うこともあれば,漠然とした胸の違和感くらいに弱い症状のこともあります.痛みは前胸部を中心に生じますが,下顎奥歯や下顎,左肩から左腕に及ぶこともあります.痛みは数分ほど持続することが多く,ニトログリセリンの舌下(舌の下に入れて溶かします)で速やかに消失します.胸痛を自覚した後に一時的に意識を失うこともあります(失神).冠攣縮が長く持続すると心筋梗塞を発症することもあり,またきわめてまれに突然死に至ることがあります.これらの症状は冠動脈が攣縮を起こしやすい夜間就眠中から早朝起床後の安静時に生じることが多いものの,日中の安静時にも生じることがあります.労作性狭心症は体を動かしたときに生じますが,冠攣縮性狭心症は安静時に生じるのが特徴です.また冠攣縮性狭心症では早朝のみにごく軽い労作により,例えば起床後にトイレに行った時や,朝外に出て冷たい空気を吸った時などに生じることもあります.
Q3 冠攣縮性狭心症の診断は,どのように行いますか?
冠攣縮性狭心症の診断には症状の問診が一番の決め手になりますので,自覚症状を医師に詳しく伝えていただくことがもっとも重要になります.夜間から早朝にかけての安静時に胸痛を生じたときに12誘導心電図をとり,心筋虚血に特徴的な心電図所見が認められれば診断は確定します.しかし夜間から早朝の症状出現時に12誘導心電図をとることができるのは入院中に限られるため,症状出現時に心電図を記録するのは容易ではありません.24時間心電図を記録するホルター心電図検査を行った場合には,毎日のように症状が出現する患者さんでは症状出現時の心電図を記録できる可能性が高くなりますが,1ヵ月から数ヵ月に1回など症状の頻度が低い患者さんでは,症状出現時の心電図を記録できる可能性は低くなります.以後省略
引用元:冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療 日本循環器学会/日本心血管インターベンション治療学会/日本心臓病学会合同ガイドライン2023年JCS/CVIT/JCCガイドラインフォーカスアップデート版2023年3月10日発行

 
2025年01月13日 12:05

口腔顔面痛を正しく診断 筋筋膜性疼痛を抜髄で神経障害性疼痛

私の臨床で最も気になる病態、イライラする治療経過の症例を紹介します。筋・筋膜性疼痛絡みの打診痛、自発痛、歯肉の感覚障害という例です。多くは複数回の根管治療を経て来院します。気になるのは、筋・筋膜性疼痛の痛みで神経系が前刺激されたところに抜髄等の侵害刺激が加わって侵害受容性疼痛が神経障害性疼痛が加わってしまったのだろうと思われること。
気になるのは、筋・筋膜性疼痛を見つけていれば発症を防げたのではないか、歯原性にこだわって歯内療法を繰り返す前に気づけなかったのか、紹介する前に根充せずに根尖孔からの薬物療法のルートを残してほしかった、というイライラも加わります。
筋・筋膜性疼痛の侵害受容性疼痛に抜髄刺激により神経障害性疼痛を重複させてしまう事を予防する為にも、正しい診断が必要です。

症例2:58歳男性
主訴:4年前に下顎右側7の抜髄以来、持続性の痛みがある。抜髄以来、計三回の根管治療受けたが改善しない。3回目の根管治療を行った歯内療法専門医から非歯原性歯痛の診査依頼
抜髄時の経緯は、充填治療を行った後、冷水痛、咀嚼時痛が強く抜髄したことから歯原性であった事が明らか。しかし、抜髄後も持続痛は改善しなかった。その後、同医に再根管治療を受けたが改善せず、1年前に歯内療法専門医に3回目の根管治療を受けた。
心理テスト:HADs(不安3点、うつ6点)、PCS(反芻16点、無力感8点、拡大視5点)
睡眠障害診査:問題無し
既往歴と内服薬:4年前最初のENDO治療とほぼ同時期に、会社内のトラブルで不安障害が生じて、精神科受診。それ以来、抗不安薬メイラックス(ロフラゼプ酸エチル1mg)、睡眠薬(トリプタノール10mg2T、トラゾドン5mg )服用中、起床時に眠気が残り、減量検討中。現在、会社内のトラブルは解消し、不安の自覚症状も改善している。
 
局所診査:
  1. 歯原性、非歯原性の診査:デンタル、パノラマレントゲン下顎右側7根尖透過像無し、打診痛+、以上から歯原性を完全否定しきれず。他に痛みの原因と思われる異常認められず。
  2. 感覚検査:下顎右側7頬側歯肉に触覚Allodynia残感覚あり、痛覚感覚異常なし、冷感覚、温感覚-感覚異常なし
  3. 脳神経検査:上記三叉神経右側第3枝感覚異常以外異常認められず。
  4. 筋触診:右側咬筋肥大+、硬結++、圧痛++関連痛あり、主訴、何時もの痛み再現、歯痛再現、右側咬筋肥大+、硬結+、圧痛+関連痛なし、右側側頭筋肥大+ 硬結+ 圧痛+ 関連痛なし、右側後頸部圧痛+、右側胸鎖乳突筋硬結+ 圧痛+。
  5. 顎関節診査:ROM51mm、左右側下顎頭滑走正常 牽引、圧迫誘発テスト痛みなし 左右茎状突起腫大+ 圧痛+ 全身Hypermobilityあり
  6. 咬合状態:明らかな異常なし
  7. 診断的局所麻酔:歯根膜注射により打診痛完全消失、頬側歯肉感覚異常消えず。頬粘膜浸潤麻酔によりallodynia消失。歯根膜注射、頬粘膜注射によっても持続痛は約50%残った。
臨床診断:下顎右側7非歯原性歯痛(右側咬筋筋・筋膜性疼痛の関連痛としての歯痛)の可能性が高い。打診痛がある事から歯原性を完全否定できないが、細菌感染が原因というのではなく、3回の根管治療による末梢刺激の結果として末梢および中枢感作が疑われる。もう一点、抜髄以前に自発痛はなかったが右側咬筋に筋・筋膜性疼痛があった可能性も考えられる。
考察:現在につながる持続痛の発症当時の記憶は明らかで、術前痛みはなかったがカリエス充填処置後に冷水痛が強く、咀嚼時痛もあったために抜髄となり、冷水痛は消えたが持続痛が続いたことに始まったとのことであった。その持続痛が多少の変動はあったようであるが、ほぼ現在の痛みにつながっているとのことであった。
抜髄にもかかわらず、何故直後に持続痛が残り、続いているのかが現在の持続痛の原因解明につながると思う。
打診痛は歯原性の可能性はゼロでは無いが、最終歯内療法後1年経過してレントゲン的に異常が認められないことから、非歯原性歯痛として考察する。診断的局所麻酔の結果から、3回の根管治療による末梢刺激の結果として末梢および中枢感作が生じていることが考えられる。
また、現在右側咬筋に明らかな筋・筋膜性疼痛がある事から、抜髄以前に自発痛はなかったが右側咬筋に不顕性筋・筋膜性疼痛が生じ、痛み刺激により末梢、中枢感作が生じていた可能性がある。歯痛は生じていなくても、現在認められる様に歯肉に感覚異常を生じていた可能性もある。
このような神経系の状況下に抜髄処置が加わったことにより中枢神経系が刺激されて持続痛になってしまったと推定される。抜髄処置は局所麻酔下で行われるので処置中の侵害刺激は中枢には伝わらないはずであるが、歯髄に至る神経は切断されたことにより、如何にも外傷性神経障害性疼痛の状況に至ったことが考えられる。
完全なる推論:筋・筋膜性疼痛で神経系が刺激された状況に抜髄処置が加わった事による神経障害性疼痛の発生
現症として持続痛、打診痛、歯肉の感覚障害が認められる、診断的局所麻酔により打診痛、歯肉感覚障害は消失するが持続痛は半分残ることなどからの完全なる推定です
歯内療法術後痛が問題になり、その原因がいろいろ考えられています。1)当該歯の抜髄処置前の3ヶ月以上の持続した痛み、2)歯以外の部位に長期の持続痛があった、3)慢性痛の既往がある、等が挙げられます。個々に含まれない原因として、4)後に関連痛を生ずる筋・筋膜性疼痛が抜髄以前からあった可能性です。筋・筋膜性疼痛の作用としては、本症例の様に不顕性で関連痛は生じていないが当該神経系を刺激していたところに抜髄処置が加わり神経障害性疼痛になった、もう一つは、筋・筋膜性疼痛の関連痛である事が正しく診断されずに、歯原性歯痛として抜髄されてしまい筋・筋膜性疼痛が神経障害性疼痛なってしまったことが推定されます。
 
2025年01月07日 15:27

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