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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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抜髄か経過観察か 早期の判断が求められる

気がつくと10月中旬、来週は札幌出張。この時期は冬に向かう札幌と東京の気温差が大きい時期です。春にはまだ冬の札幌と春半ばの東京とで気温差が大きい時期があります。
先週来、頭の中で興奮状態にあるのは歯内療法後の不快症状についてのびっくりの情報です。
この10月9日のタフツ大学Interdisciplinary Pain and Headache Roundsで歯内療法専門家のJennifer Gibbsの講演を聴きました。痛み研究で有名なテキサス大学Kenneth M. Hargreavesの大学院を卒業した人でENDO専門家で歯髄の痛みのメカニズムを神経生理、免疫学的に研究している人です。
1.知覚過敏は中枢感作によるものだろうと言っていました。象牙細管の動水力学性は歯の表面から象牙細管への刺激の伝導の話しであった、過敏反応は歯髄中の軸索反応連鎖の結果の知覚神経の過敏、反応性亢進が生じているということです。
2.歯内療法後、半年経過して痛み不快症状が残る患者の比率が5%位あって、その中で非歯原性歯痛であるものが3%位というNixdorfの有名な論文(2010)を紹介していました。そして、抜髄後の痛み、不快症状の誘因は術前三ヶ月以上続いた痛み、術中の痛みと言って、中枢感作が起こっているからだと結論していました。
歯内療法後の不快症状、痛みの原因が3ヶ月以上の術前痛という話しは、2005年Polycarpouの論文に書かれていてびっくりした内容と同じです。この論文の結論には、歯内療法成功後の持続的疼痛に関連する重要な危険因子として、1)術前の患歯部位からの疼痛が少なくとも3ヵ月以上持続していたこと、2)過去の慢性疼痛経験または口腔顔面領域の疼痛治療歴があること、および3)女性であることが挙げられていました。Polycarpou N, Ng YL, Canavan D, Moles DR, Gulabivala K. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. Int Endod J. 2005;38(3):169-178. doi:10.1111/j.1365-2591.2004.00923.x
当時、これらの危険因子がどのような意味合いを持つのか全く判りませんでしたが、今現在になって、私の解釈では、術前痛と術中痛は最近のnociplastic painの発生メカニズムと挙げられているBottom UP(術前痛による持続的痛み刺激、結果として中枢感作)、Top Down(術中痛による不安感、恐怖感による扁桃体刺激による中枢感作)に該当すると考えられ痛覚変調性疼痛つまり中枢感作が生じているということになります。
歯髄の反応、しみる、痛いは歯髄の中だけで起こっているのではなく、当然中枢神経系の伝わって感じられることは理解出来ることです。ところが、歯髄の反応としてのしみる、痛いは神経系を通り過ぎているだけではなく、単純に言うならば神経系の要所、要所を荒らしてしまう、その結果、過敏になってしまい、中枢感作につながるのです。
知覚過敏、歯内療法後不快症状の原因が中枢感作と言うことで、3ヶ月以上の当該歯の痛みが危険因子であるとすると、症状があるのに3ヶ月以上経過観察すると言うことはあってはならないことになります。あらゆる診査をして、早期に抜髄するか経過観察するか決断が必要と言うことです。
 
2024年10月14日 18:39

金子一芳先生を偲んで

10月6日は火曜会の金子一芳先生の追悼講演会と偲ぶ会でした。
皆さんのお話を伺うと私の知っていた金子先生のイメージを遥かに超えるスケールの大きな方だったことが語られていました。ああ、その歳になっても金子先生の様には出来ないなーと思わされてしまいました。
 私が金子先生と知り合ったのは1990年代前半でした。当時火曜会に在籍していた岡先生から、山形である講演会に金子先生が招かれ、もう一人米国からTMDを専門とする人も招かれていて、帰りに火曜会で講演することになっているので来てみないかという誘いでした。当時、米国の先生の話を聞く機会がありませんでしたので飛びつきました。全日、熱海に集合し歓迎会があり、そのまま真鶴の金子先生の別荘に行って夜遅くまでいろいろな質問をしました。その先生が当時のAmerican academy of craniomanidibular disorders を取り仕切っていたUniversity of California SanFrancisco(UCSF)のCharles McNeill先生だったのです。翌日は東京駅の近くの会議室でTMD講演会でした。その時に次回米国の学会に参加する際にUCSFのクリニックに見学させてもらう事をお願いしました。翌年から米国の学会に参加する際はサンフランシスコに途中下車して外来を数日見学させてもらいました。外来でのTMD治療は日本の治療とは全く違うもので、特に筋触診が新鮮でした。その後、コロナでいけなくなるまで、毎年見学させてもらいました。
 この見学が元となって、私のTMD治療、そして口腔顔面痛治療が出来上がりました、かつて、顎関節症の症型分類があり、4型.3型.1型.2型の除外単独診断が行われていた時代は多くの統計発表では最も多い症型は4型か3型でした。ところが慶應の発表は除外単独診断を無視して、患者の主訴の病態に該当する症型を調べていたのでⅠ型かⅡ型が最も多い結果でした。
 このような流れが2000年の口腔顔面痛懇談会の発足の元となり、今現在の日本口腔顔面痛学会につながっています。
と言うことで、金子先生との出会いがなければ私の歯科医師人生は全く変わっていたと考えられるし、日本の口腔顔面痛も変わっていたと思われます。
改めて金子一芳先生の導きに感謝するともに、目標に頑張らねばと思いました。
 
2024年10月07日 20:43

関連学会の先生方へ新刊「痛みの臨床推論」の勧め

このたび『“痛み”の臨床推論 診断過程を可視化するための教科書』と題した書籍を刊行させていただきました。
臨床の場でいかなる症状の患者を診る際にも、無意識のうちに、患者から特徴的な症状パターンを捉えて、瞬間的に「ひらめき」に似た形で今はどのような状況にあるか、次に何をすべきかを考えている、このような思考プロセスがパターン認識法と呼ばれる典型的な臨床推論です。経験を積んだ先生は正確、迅速に診断が出来、非常に効率的です。しかし、経験の少ない先生では診断の正確性が下がります。また、この方法は各自の頭の中で行われているために、自分自身でも検証することが出来ない、また、教育する事が出来ないといった弱点があります。
本書ではパターン認識法、仮説演繹法の診断過程を可視化する事を試みました。これにより、自分の診断を検証する、上級医に検証してもらう、また、診断過程を共有することが出来る利点が生まれます。最終的には診断の正確性を高めることに寄与できると思っています。本書の第3章に書かれた痛みの症例診断では、パターン認識法での診断エラー、次に仮説演繹法での正しい診断を得て、パターン認識法での診断エラーを省察して次の診断に活用するという手法を解説してあります。口腔顔面痛の臨床において複雑な症状の中から正しい診断をつきとめるために臨床の場での必要性から生まれたものです。
歯学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に、歯科では初めて「臨床推論」が加えられました。目的として書かれていることは、臨床の場において「問題の同定から治療やマネジメントに至るプロセスを論理的に思考する事」であり、本書はここで述べられている論理的思考プロセスを臨床術式として具現化したものとなっています。
毎日の臨床に可視化された論理的診断法を取り入れていただきたいと思います。
 
 
2024年10月05日 09:31

慈恵医大加藤先生痛覚変調性疼痛講演会参加記事 

今週赤坂麻布歯科医師会の学術講演会で慈恵医大の加藤先生が講演されました。一般歯科開業医対象ということで多少話しを判りやすく話されたようですが、しっかり最新脳科学を解説してくれました。私は歯科医師会会員ではありませんが、外部参加も受け付けると言う事で参加させてもらいました。
これまで加藤先生の話を何回か聞いたことと、今回の話は痛覚変調性疼痛だけで無く、周辺の知識も総合して話してくれるので、痛覚変調性疼痛の事が判りやすかったです。
最後に侵害受容主義から脳中心主義とまとめていました。加藤先生は脳機能の変化により様々な内部出力が生ずるとまとめていました。私の理解は脳機能全体に変調が生じ、痛みに関しては痛覚変調性疼痛という表現形で、感覚系では音過敏、光過敏、匂い過敏など、その他にも様々な表現形として症状が現れている、例えば自律神経失調、精神科からみると以前の身体表現性障害、疼痛障害、今の身体症状症もそうだろうと思います。
表現形が痛覚変調性疼痛と出るか、身体症状症と出るかの違いや、その誘因が何である、末梢からの慢性的な痛み刺激とか、精神的ストレスとかによって、薬物療法が効いたり、共感や認知療法など心身医学的対応が有効であったりするのかと思っています。いずれにしても、何らかの痛みがある状況で、痛みのボリュウムが上がって、通常よりも強く感じられているのが痛覚変調性疼痛だろうと思っています。
 
痛みの伝導路に関して、脊髄後角/三叉神経脊髄路核から視床への投射と教科書に書かれてきたが、三叉神経では95%が腕傍核へ直接投射され、視床への5%のみだそうです。腕傍核からは扁桃体に投射される、ということでこの扁桃体の機能が非常に重要視されている。精神的ストレス、情動変化はこの扁桃体に影響するといわれていて、三叉神経からの侵害刺激もこの扁桃体に投影されると言う事でその重要性が注目される。扁桃体を動物実験で刺激することにより足まで広範囲に痛覚過敏が生ずることが示されている。
数年前に、三叉神経の侵害刺激が腕傍核に投影されることが判り、脊髄神経からの中枢への投影経路が異なるの痛みの性質が異なるのではないかという論文がありました。三叉神経での95%対5%と脊髄神経での比率は異なるのかどうか、そしてその結果として痛みの性質が異なるのかどうか、扁桃体への投影が多いことにより、情動変化を起こしやすいのかどうかは解説していませんでした。どなたか詳しい方はお知らせください。
 
現在の神経障害性疼痛の薬物療法のターゲットは、脊髄後角/三叉神経脊髄路核での下行抑制系の作用、一次Nシナプス前膜からの興奮性伝達物質の放出調整であるが、プレガバリンは扁桃体でCGRP抑制を示して中枢感作を止めるということで、痛覚変調性疼痛にも神経障害性疼痛にも作用している可能性があると思いました。
 
ここからは和嶋の私見です。
筋・筋膜性疼痛の関連痛も脊髄後角/三叉神経脊髄路核の中枢感作で論じられていますが、もっと上位の可能性があるなと思いました。
片頭痛は中枢神経系にGeneratorがあると言われるが、痛みの本態は脳硬膜下での三叉神経血管説で言われるメカニズム、筋・筋膜性疼痛も末梢の筋肉中のトリガーポイントからの痛み、ところが片頭痛は全身にallodyniaを生じ、筋・筋膜性疼痛は関連痛が生ずる時点で少なくとも三叉神経脊髄路核で変化が起こっていて、両者とも中枢感作が生じていると考えられる。筋・筋膜性疼痛はトリガーポイント治療、片頭痛はトリプタンやCGRP製剤で末梢入力を減らすことをしている、それが奏功して痛みが収まることがあるが、痛みが完全には収まらないこともある。片頭痛でCGRPが無効な場合は中枢感作が生じているというBursteinの昔の研究があるが、片頭痛の時点で中枢感作が起こっているので、中枢感作がある、なしの問題では無く、末梢からの刺激減少によって収まる中枢感作なのか収まらない中枢感作なのかという事だと思います。そして、収まらない場合が痛覚変調性疼痛が起こっていると言うのかと思っています。
 
今後、どのような状況を痛覚変調性疼痛と診断するのか、具体的な症例呈示してデスカッションが出来れば、これが痛覚変調性疼痛ということが具体的に理解出来るようになるだろうとおもいます。
 
2024年09月07日 21:33

海外からの患者さん 感覚検査、筋触診されていない

最近海外からの患者さんがポツポツ、全員当院のホームpageを観てきてくれます。最近のPCシステムの進歩により、pageが簡単に翻訳出来る様になったり、書類にスマホをかざすと翻訳できたりと非常に便利になっているのですね。
その中で気になる患者さんを紹介します。根管治療で後の痛みが生じ、抜歯したが痛みが収まらず、アミトリプチリン、プレガバリンが処方され、上限まで増量した効果が出ないという訴えでした。通常通り、OFPの網羅的診査を行います、歯原性-異常なし、感覚検査-触覚診査、痛覚検査 異常なし、12脳神経検査-異常なし、筋触診-咬筋、後頸部の筋に強い圧痛、関連痛あり。
歯原性、神経障害性疼痛、は否定され、咬筋に筋・筋膜性疼痛による歯痛が当てはまる。極々一般的なOFP症例です。そこで、口腔内、痛い部位の感覚検査を受けた事があるかと聞くといろいろ検査は受けたがこのような簡単な検査は受けた事が無いとの返事、次に咬筋を触診して、タウトバンドがゴリゴリしながら、この痛いところを触られた事があるかと質問、自分では時々痛いところに触っているが診査では触られた事がないとのことでした。
6月にフィリピン、インドネシアに行った時には感じた事ように、OFPの網羅的診査をパッケージにして、通常の診査で診断が出来ない患者さんに必ず実施するように、日本は元より、海外にも勧めていきたいと思います。
日本でも下顎智歯抜歯やインプラントによる下歯槽神経損傷による外傷後神経障害性疼痛が問題になっています、東南アジアのインプラント熱も高まっています。その中で、歯科医師が起こしてしまった口腔内の問題は歯科医師しか診断出来ず網羅的診査は必須と思います。
また、根管治療の際に開口保持するために筋緊張が高まり、筋障害の素因がある場合には筋・筋膜性疼痛となり、歯の痛みなのか、開口保持による筋・筋膜性疼痛なのか判らなくなり、改善しないために抜歯となったが、痛みだけ残っているという症例も診られます。根管治療後、アゴが疲れませんか、治療の後に痛みがひどくなりませんかと質問し、あるとの答えがあったら、筋触診してみましょう。
口腔内の感覚検査、咀嚼筋の筋触診、難しいことではありません、一度、日本口腔顔面痛学会のハンズオンセミナー等を受講してみてください。
 
2024年08月17日 10:54

筋肉痛治療のポイントは 対症療法に加えて原因療法も

口腔顔面痛でも顎関節症でも、最も多い病態は筋肉痛である。特に慢性化した筋・筋膜性疼痛が一番のやっかいは病態である。かつて、筋肉痛では自発痛は起こらないと言う人もいたが、持続性の筋肉痛で受診する人は少なくない。良い例が肩こり、頸のこりなどによる緊張型頭痛である。元々の肩こり性の人が重いものを持ったり、緊張する場面にあったりすると頭が締め付けられるような感じになり、頭が重苦しく、嫌な感じの頭痛が生じ、数日続くことがある。今現在は緊張型頭痛と呼ばれるが、以前は筋緊張性頭痛と言われていた。筋の緊張だけでは無く、他に精神的緊張によっても起こることがあるということで、現在は筋が外されて緊張型頭痛となっている。精神が緊張するとどうして頭痛が生ずるのか、自律神経の交感神経が亢進し、筋肉組織のなかで筋収縮している部分の血管が緊張して充分な血液が供給されないからと言われている。収縮のためにエネルギーが必要な状況であるのに血管が収縮して血液供給が不足、この状況をEnergy Crisis(エネルギー危機)と言って筋痛の原因とされている。
筋肉痛の治療というと、まずマッサージ、ストレッチ、温罨法、指圧が挙げられる、また、最近では即時効果を求めてHydro Releaseやボトックス注射も多くなっているようです。
全ての病気の治療は原因療法と対症療法からなるのですが、どうも対症療法に目が行きがちで、上記の治療法には原因療法が含まれていません。
筋肉痛の原因療法は何でしょうか、筋への負荷の軽減を目的に筋を収縮させない、そのために、痛い筋を極力使わないことです。第一に咀嚼筋では痛い側で咀嚼しない事、また、フランスパンの様に最後までかみしめなければならない様な食べ物は避ける。次に、日中、何かに集中している時などに肩が持ち上がり、かみしめている状況になりがちです。このような状況を避けるために、気がついたら意識的に肩を上げ下げする、舌で口腔内を舐めるなどの「随意運動によるかみしめ中断運動」をしましょう。人間の身体は無意識に筋緊張していても、意識的にその部位を動かそうとすると無意識の緊張が解除されて、意識通りに動きます。これと全く異なって、こむら返りなどの痙攀では動かそうとしても解除されません。
これらの筋を過度に緊張させない、あるいは筋緊張を中断させる等の筋への働きかけに加えて、精神的緊張による交感神経亢進に対して腹式呼吸が勧められます。この呼吸法で、副交感神経が刺激され、緊張緩和にもつながります。
人間仰向けになると自然に腹式呼吸になります、この特性を活かして腹式呼吸を覚えましょう。仰向けになりへその少し上に手のひらを置きます、次にフーーと息を吐き出してみましょう、手の下のお腹が凹みます。凹みを感じたら、ゆっくり息を吸い込んで、凹んだお腹を膨らまして、お腹で手を持ち上げてみましょう。なるべく高く持ち上げて、一秒間保ちます、そして、解除、フーーとゆっくり吐き出します。数時間は1.2.3秒、4で1秒ホールド、そして解除、5.6.7秒、吐く時をなるべく長く出来る様に練習しましょう。この繰り返しをして、腹式呼吸を覚えましょう、そして、坐位でも立位でも腹式呼吸が出来る様になりましょう。緊張していると思ったらお腹に手を当てて、やってみましょう
子供の頃の深呼吸は思いっきり吸い込んで胸を拡げることから始まっていましたが、あれとはまたく違った呼吸法です。
 
2024年08月17日 10:17

夏の暑さ ブログ再開

今日は8月10日 世の中は夏休み、そして、来週は月遅れのお盆です。またその後には、大学から50年来の親友が逝ってから一周忌がきます。
今年は6月の東南アジアセミナーの準備で5月以来3ヶ月間、周りを見る余裕なく過ぎてしまいました。6月下旬から梅雨前の猛暑があり、しっかり梅雨があり、嫌な雨で朝から傘さして出勤しました。例年、梅雨時でも月一回の札幌出張では6月、7月はカラリとして良い気候だったのですが、今年は本州の梅雨が移動したかのようなドンヨリした日々、蝦夷梅雨というそうです。大通公園のビヤガーデン、残念ながら私が行った日は雨でした、ここ数日は晴れているようで、ビヤガーデンは昼から大入り満員でしょう。青天の大通公園の日陰で冷たいビール、美味しいだろうな、来年こそはです。
さて、私は北国、青森生まれですが寒さが嫌いで、暑さは何とかなります。周りの皆さんは暑い暑いと言っていますが私は暑さは感じるが苦にならないんです。これは何故だろうとつい分析癖が出てしまいました。痛みには感受閾値(感じるか感じないかの境目)と耐性閾値(どれくらいまで我慢できるか)があります。
痛みに関して、患者さんが痛みを訴えるのは、痛みの侵害刺激が、痛み刺激を認知する視床での疼痛感受閾値を超える、つまり、痛みを感じたからではなく、痛み刺激の内容が評価、判断され、それに対する反応として患者さんの大脳皮質での耐性閾値が限界に達したときである、と言われています。疼痛感受閾値はたいていの人たちで比較的一致しているが、疼痛耐性閾値には個人差があり、たとえば年齢、性、文化的背景などに影響されると言われています。また、ここには中枢感作が影響するとも言われます。
私の暑さへの反応は暑いのが気にならないのでは無く、暑いのが苦にならない、暑さ耐性閾値が高いのだろうと自己分析されます。
先日、大きな仕事が終わって負債解消で楽になり、昼に居間のクーラーが気になって自分の部屋で窓開けっぱなしで横になり、暑さは気にならず、少しうとうと、でも、このまま寝ていたら熱中症になってしまうなと思い直して、真夏の午睡は中断しました。
熱中症になる人は暑さの耐性閾値が高すぎて、我慢するのでは無く、知らずに身体の限界を超えてしまうことにより掛かるのだろうと結論。皆さん気をつけてください。
 
2024年08月10日 13:18

歯痛でも中枢神経系が関与

慢性痛の基準である3ヶ月以上症状が続いている、これは一般歯科では多くないですが、TMD、口腔顔面痛では珍しくないことです。
従来の痛み治療は急性痛を前提としていて、特に歯科ではイケイケで痛いところに原因があるからそれに向かって進むというものでした、ところが慢性痛は違います。例外的に原因、病態が診断されていなかったために症状が続いているという例もあります。これは本来の慢性痛ではありません。
慢性痛例で思い知らされることは、歯が痛い、と言う症例に確実に局所麻酔をして、局所の感覚は消えたにもかかわらず、感じていた痛みの周辺部の痛みは消えたが中心部にジワーとして痛みが残っているという現象、要するに中枢要因が関連しているということです。一本の歯の痛みでもこのような事が観られ、歯の痛みが中枢神経系とつながり、痛みを感じる中枢が何らか変化している、末梢に向けて治療するだけでは直らないんだと改めて思い知らされることがあります。
典型例は、咬筋の筋・筋膜疼痛で下顎大臼歯部に持続痛がでて、歯科で抜髄、根管処置終了後も痛みは治らない、その後に当院受診。 抜髄歯には持続痛と打診痛があり、歯肉にはallodynia、咬筋のトリガーポイントを圧すと痛みが再現、FamiliarPainです。そこで当該歯に診断的局所麻酔、オトガイが鈍麻している程麻酔は効いていて打診痛が消えるが、持続痛は50%減のみで50%は残っている。このような症例では最初からトリプタノール、プレガバリン等で薬物療法を併用することもあります。筋・筋膜疼痛として治療して、持続痛、歯肉のallodyniaは消失したが打診痛は消えない例が一番難治です。上記のトリプタノール、プレガバリンの内服にはステントを使った局所外用薬物療法を併用します。総力戦ですが、難治です。これが一番大変な症例です。
出来れば抜髄等せずに、頑固な歯の痛みで来院してもらっていれば筋・筋膜疼痛の治療ですっきり治り、歯の打診痛で患者さんも私も苦しむ事が無かったのにと、思ってしまいます。
 
2024年04月29日 15:39

4月新年度前期の予定

東京はサクラが散って、連日25度近い気温です。
クリニックの向かいにある鹿島ではすがすがさが感じられる新入社員が研修のためにまとまって移動していて、4月だなと感じられます。
4月、いくつかの出来事がありました。
今週デンタルダイヤモンドの担当の方と会って、2023-2024年の二年間、皆さんにご協力頂き、月刊ダイヤモンドに連載した「症例に学ぶ診断マスターへの道」を成書にしたいと言うことで、相談し、8月までに編集し直し9月1日発行と言う事になりました。症例の順番を少し入れ替える程度で、それほど手間は掛からないようです。令和4年の医学、歯学モデルコアカリキュラム改訂で、新たに臨床推論が教育項目に取り入れられました。ところが、ちゃんとした教科書はない状況で、各大学の講義担当者は困っている状況です。教育シラバスを作るのに参考になる内容も加えて発刊できれば良いなと思っています。
もう一つは、6月に久し振りにPhilippines、インドネシアに出かけることになり、セミナープログラムを考えて、昔の講演スライドを探したり、新たなスライド作ったりしています。英語のスライド作りながら、コロナ以来ちゃんと英語しゃべっていないし、ちゃんと話せるのかなと不安が浮かんでいました。その不安が拡がったのかどうか、先週から立て続けに英語しかしゃべれない初診患者さんが2人来て、しばらく英語の練習をしてもらうことになりました。笑ってしまいました。

臨床においては、急性痛治療体制から慢性痛治療体制への意識改革です。私のところを受診する患者さんのほとんどは、病歴3ヶ月以上で慢性痛です。その中で、適切な治療を受けていないために慢性化しているものはちゃんと治療すると改善します。ところが、訴える痛みに相応する身体的異常、治療すべき病態がはっきりしない、あるいは無いという状況があります。この場合には、従来の歯科治療のようにどんどん治療を進めれば改善するのかというと全く的外れです。認知行動療法を柱とする心身医学的対応が必要と言われています。ここで壁が見えます、削る、詰める、被せる、入れると言った従来の歯科治療から心身医学的対応に切り替えられるのか。かなり先進的なプログラムを企画してきたAAOP(米国口腔顔面痛学会)の今年のプログラムを見ても痛覚変調性疼痛とか認知行動療法、心身医学的対応などは見つかりません。否定的ではないでしょうが、切り替えは難しいのだと思います。今後どうやって口腔顔面痛の臨床を心身医学的対応に展開して行くべきか、いよいよ切り替えが迫って来ていると思っています。
2024年04月21日 19:47

顎関節症の本態は身体心理社会モデル

ここ10年、顎関節症の原因が咬合ではなく、心身医学的問題である事が強調され、少しずつ受け入れられてきています。しかし、世界中で咬合が一番大事なんだと、顎関節症の治療のために咬合を変える治療をしている方々もいます。日本各地で顎関節症の治療で有名と言われる方は、大体、咬合治療をしている様です。
以前に、「痛みは脳の中」という巻頭言を紹介したように、痛みは末梢の痛みを感じているところに問題があるのではなく、中枢神経系の問題である事が判って来ています。特に慢性疼痛では中枢神経系が痛みを感じ、さらに心理的要因が大きく影響していると言われています。
ここで紹介する論文は、かつては顎関節症の原因は咬合だと強調していた学会(American Equilibration Society)の機関誌の巻頭言を訳したものです。こんなに変わったんだとびっくりしました。少し長いですが読んでみてください。
CRANIO® The Journal of Craniomandibular & Sleep Practice 8 Mar 2024
Editorial The painful mind  Sanjivan Kandasamy


顎関節症の治療は、ほぼ1世紀にわたって、多くの論争、議論、さまざまな意見が交わされてきた。その論争は、診断だけでなく、病因や適切な治療にも及んでいる[引用文献1]。さらに最近では、睡眠呼吸障害(SDB)が、独自の論争を展開する別の話題となっており、歯科、医療、および関連保健の専門家が、これらの状態の多くの側面について異なる意見を持つに至っている[引用2,引用3]。
睡眠と痛みが双方向の関係にあることを認めることには、ほとんど異論はない。しかし、論争の多くは、顎関節症の病因に関するこれまでの逸話的で根拠のない信念が、現在ではSDBでも同じであり、したがってSDBの管理の多くは、これまでの顎関節症と同じであるという仮定に関連している。
 このような根拠のない病因論的主張は、歯列および骨格の不正咬合の存在、遠心関係の不一致、犬歯の保護咬合の欠如、ブラキシズム、上顎および下顎の後退、狭い上顎、口呼吸、口唇、舌および頭蓋頸部の姿勢の異常など、ほんの数例を挙げるだけでも多岐にわたる[引用1-3]。その結果、多くの臨床家は、顎関節症および/またはSDBに対処するためには、主にこれらの原因の1つまたは複数を取り除く方向に治療を向ける必要があると考えている。
 1970年代のプラセボ試験 [引用文献4-7] や、最近では OPPERA (Orofacial Pain: Prospective Evaluation and Risk Assessment) 試験 [引用文献8-11] と呼ばれる大規模な臨床研究など、エビデンスに基づく文献の登場により、顎関節症治療の焦点は、粗雑な歯科的・機械的モデルから、生物心理社会的モデルへと徐々に移行している。偽薬、非閉塞性口腔器具、模擬平衡などのプラセボ顎関節症治療が、生物学的・行動学的に好ましい反応を示したことから、複雑な心と体の相互関係の存在が理解されるようになった。
やがて、専門家の大半は、顎関節症患者を管理するためのより保存的で可逆的な治療法へと進んでいった。さらに、痛みの調節に関するHenry Beecherの初期の観察[引用12]、MelzackとWallの痛みのゲートコントロール理論[引用13]、痛みの神経マトリックス[引用14,引用15]の概念、プラセボの有効性などの結果、医療と歯科の専門家は、痛みのコントロールの中枢調節またはトップダウンの経路が、痛みの経験を管理するための非常に効果的な本質的メカニズムであることを最終的に受け入れ始めました。
私たちは今日、痛みがどのように処理され、知覚されるかについて、より多くのことを知っている。
また、痛みの慢性化や中枢性感作、顎関節症に対する併存疾患の影響、顎関節症になりやすい人の特徴なども、よりよく理解できるようになった。
 
急性疼痛モデルであれ慢性疼痛モデルであれ、痛みの経験や知覚は認知的・感情的要因に大きく影響される。
この論説は顎関節症そのものに関するものではないが、多くの臨床医が患者の痛み体験の認知的・感情的側面を重視せず、あるいは関与していないことについてのものである。
もし私たちの思考が私たちの感情(そしてやがて私たちの行動)に影響を与えるのであれば、私たちは長い時間をかけて信念体系を構築し、それが最終的に私たちの考え方や日々の対処法に影響を与えることになる。
怒り、不安、恐怖、悲しみなどの否定的な感情とともに、破局視、自分の状況の異常な解釈や意味づけを含む認知の歪みは、人が痛みをどのように受け止め、どのように対処するかに影響を及ぼす重要な役割を担っている [引用16-23]。
多くの臨床医が、スクリーニングのための質問票や/あるいはチェアサイドでのディスカッションという形で、患者の心理的健康について考慮することはあっても、患者が心理的障壁を克服したり、通常の最低限を超えて認知的・感情的にうまく対処できるように手助けしたりするために、実際に患者と一緒に時間を費やしている人はどれほどいるだろうか?
顎関節症の診断や対処法について、エビデンスに基づかない主張を今後もずっと続けていくことになりそうだが、患者の痛みの発生、悪化、持続における心理的要因の役割について、エビデンスに基づいて確立されたことにもっと時間を費やし、日々の臨床に反映させることができるのではないだろうか。 私たちは皆、専門の心理学者や精神科医ではないので、患者の心理的な健康をよりよく管理できるように紹介することは重要だが、これもあまり行われていない。しかし、もし患者が認知的にも感情的にも "トップダウン "で痛み体験をうまく調整できるように手助けをすれば、スプリントを入れたり、錠剤を処方したりする以上に、治療成績がどれほど大きく向上するか想像してみてほしい。さらに良いのは、これらの根本的な影響因子について患者を特定し教育し、認知行動療法(CBT)、リフレーミング、マインドフルネス、リラクゼーション、潜在的にネガティブな行動への気づきなどのスキルを教えれば、患者が自分の痛み体験を管理しやすくなるだけでなく、将来的に苦痛やトラウマを伴う状況に対処しやすくなる可能性がある。 本誌がエビデンスに基づく歯科医療と医学の新たな章に突入する今こそ、エビデンスに基づく心理学的方法を取り入れ、通常の治療を補うことで、治療結果を大幅に改善し、患者が将来痛みと上手に闘う力をつける好機である。私たちは皆、患者さんの辛い心を癒す手助けをすることで、より良い結果を得ることができるのです。
 
 
 
 

 
2024年04月14日 10:23