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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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ハワイから非歯原性歯痛の患者さん来院

先日、ハワイ在住の日本人の方が10年来の非歯原性歯痛で来院されました。
経過を聞くと歯痛で抜髄が始まりで、かなりの歯科を受診して根管治療を数回受けたそうです。最後に日本人のENDO専門医に紹介され、歯原性では無いとの診断、ハワイには口腔顔面痛専門医はいないので米国本土か日本に行ったらどうかとアドバイスされたそうです。今回帰省する機会があり、ENDO専門医に相談したところ、私を薦められ受診したという次第でした。
これまでも、ハワイ在住の数人の日本人から非歯原性歯痛についてメールでの相談があり、ハワイの歯科事情、口腔顔面痛事情を知っていました。米国も日本も、世界の多くの国々で、簡単に口腔顔面痛の診断治療が受けられない状況にあります。せめて、歯原性か歯原性でないかの判断、そして、非歯原性歯痛だとして、筋触診で筋筋膜疼痛の可能性はないか、ここまで診査ができれば多くの患者さんが救われます。
今回ハワイから来院した患者さんは、側頭筋、咬筋、胸鎖乳突筋、後頸部の筋から歯への関連痛がありましたから筋筋膜疼痛だと思います、10年以上経過しているために、歯痛部の歯肉にはAllodyniaも認められ、感作が生じていると思われます。
筋骨格系の痛覚変調性疼痛診断に照らすと、かなりの部分で該当する項目があり、筋筋膜疼痛に痛覚変調性疼痛が合併していると診断できます。
この患者さんはハワイに一台しかない経頭蓋磁気治療を受けていて、歯痛は治らなかったがうつが軽くなったそうです、また、処方されている薬が米国らしかったです、モルフィン、トピラマート(強い片頭痛発作があった)、プロザック(SSRI、抗不安薬として)、頓服にオキシコドンが処方されていました。
私のアドバイスはまずは筋痛へのセルフケアです、腹式呼吸しながらの頸部、咀嚼筋のストレッチ、開口ストレッチアシストブロックも渡しました。全身の随意的最大緊張からの弛緩 など
薬としては痛覚変調性疼痛への対処としてトリプタノールを勧め、漸増服用法のパンフレットを渡して、ハワイのPainmanagementに相談する様に伝えました。

最後の観てもらった日本人ENDO専門医がなぜ私を推薦したのか不思議でした、日本の大学卒業して米国で専門医資格を取ったならば、私を知っている可能性はあるかと思いながら、フルネームが書かれていたので調べたらUniversity of North Carolina at Chapel Hill 卒業でそこでENDOレジデント研修
ここまで観たときに、私の鹿児島の同級生の高校の同級生が同姓で、学生時代に会った事があり、卒業後米国に渡り、University of North Carolina at Chapel Hillの生化学の教授をしていること、その教授の奥さんが私の大学の先輩で、ENDOの教室にいて、かなり昔にメールで近況を連絡したこと等を思い出しました。鹿児島の同級生に連絡して確認したところ息子さんがハワイで開業しているということで、どうも深い繋がりがあったようです。
その息子さんが私をどうやって知ったのかはまだ不明  連絡して診察結果を送ろうと思っています。

 
2023年03月19日 10:52

末梢神経損傷分類の混乱

sunderland分類
Seddonの分類、Sunder land分類活用の問題点   
最新解説  wajima-ofp.com/blog_articles/1707630604.html
Seddonの分類は1942年に発表され、約10年後の1951年にSunder land分類が細分化して発表されています。
この図がsunderlandの原図だと思います。他の図との違いは左側の神経細胞と神経線維が複数書かれています、他の図は神経細胞1個で一本の神経線維だけと勘違いして、一個の神経細胞しか書かれていません。

末梢神経損傷の分類としてSeddonの分類(1942)、さらにこの分類を修正、細分化したsunder landの分類(1951)が用いられます。この末梢神経損傷分類の活用に当たって、いくつかの問題点があります。
第一は、Seddonの分類、Sunder land分類とも多くの日本語訳がありますが、訳が間違っているものがあります。用いられる用語は軸索、シュワン鞘、ミエリン鞘、神経内膜、神経周膜、神経線維束、神経上膜、神経幹などで、必ずしも適切な訳になっていないために損傷程度がどの程度か誤解する可能性があります。オリジナルに忠実な訳を用いてください、内容が全く違ってしまいます。
 
もう一点は、これらの分類はseddon分類のNeurapraxiaとAxonotomesisまでとsunderland4度までは神経線維1本1本の損傷程度を分類し、Seddon分類neurotmesisとsunderland5度では神経幹を包む神経上膜の損傷状況を示していて、神経線維1本1本の問題から神経幹の損傷に飛んでいます。神経損傷の病理像としては非常に有用で、1本の神経線維で髄鞘の障害、軸索の断裂、そして、神経幹の断裂と理解出来ます。
ところが、臨床での神経損傷は1本1本の神経線維の問題ではなく、例えば下歯槽神経損傷とか神経線維が何万本も集まった神経幹の損傷が問題です。ところが、臨床の場において、まるで下歯槽神経が一本の神経線維であるかのように、Seddonの分類のどれとか、Sunder landの何度だと話していることがあります。例えば、下歯槽神経を傷害した場合、1本1本の神経線維ではsunderlandのⅠ度から4度までの損傷が混在した状態か5度の完全に断裂してしまっているかだと思います。
おそらく、このような混乱を憂う人は私以前にいるのは当たり前で、Mackinnon,Dellonと言う人達が解決策として、Sunder Landの分類にVI度損傷としてI〜V度損傷の神経束が混在した状態であるとして分類を追加しています。臨床で診る神経損傷のほとんどはSunder Landの分類VI度損傷(様々な損傷の混在)ということになります。  
例外は智歯抜歯等で下歯槽神経を圧迫し術後にオトガイ部の鈍麻が生じたが、約一ヶ月後に完全改善した例、この例では障害された神経線維全部がseddon分類のNeurapraxia つまり脱髄のみだったと思われます。また、下歯槽神経の完全断裂neurotmesisしてしまった例は、混在無しの状況でしょう。
 
2023年03月16日 21:23

今後の活動 2023年3月に思うこと

2023年3月に思うこと
2017年3月に大学を定年退職してから丸6年経過、米国の先生方に言われたEnjoy retirementの実感が少しずつ湧いてきています。貧乏性で完全にENJOY出来ずに今に至っています。まあ、診療は100%の出力になってしまうので疲れますので休みが良いなと思うときが多くなってきました。
大学時代より診療のレベルは上がっていると思います、一番に患者さんとのコミュニケーションです、時間があるのでしっかり診査ができ、正しい診断を引き出せます。

原則火曜日、金曜日はフルタイム、第3土曜日は午前中、口腔顔面痛診療です。
第2火曜日は静岡清水病院でTMD、口腔顔面痛診療、清水病院では井川先生と池田先生が口腔顔面痛を診ていますから、私は主に紹介患者さんを診ています。静岡県は他に本格的にTMD、口腔顔面痛を診ているところはないので患者さんが集まっています。
第4水曜日は札幌風の杜歯科で口腔顔面痛診療です、広い北海道で口腔顔面痛を専門とする診療科はなく、北海道中から患者さんが集まっています。完全に口腔顔面痛の三次医療機関になっているので、ここでの診療は大変です。歯髄炎の診断で歯の治療しているが改善せず来院、どうもおかしいと神経内科に紹介したら脳腫瘍だったという例も一例だけではありません。風の杜歯科の飯沼先生は口腔顔面痛について北海道歯科学術大会で発表したり、各地区の歯科医師会で講演したりして啓発に努めています。
2022年から月刊デンタルダイヤモンドに「症例に学ぶ診断マスターへの道」と題して連載記事を編集しています。毎号口腔顔面痛に興味を持って診療している先生方にパターン認識法で診断エラーしたが仮説演繹法でしっかり正しく診断して治療したという症例を提示してもらい、診断エラーの原因を自身で探し、次の診断に活かすという内容です。今年は診断エラーのみではなく、口腔顔面痛診断に関わる様々な問題点も取り上げて継続しています。

口腔顔面痛に関するオンライン相談もしています、近くに口腔顔面痛の判る先生がいないのでどうすれば良いか、ペインクリニックの先生に薬を出してもらったが、どう飲めば良いのかとか、海外在住の方々からの相談も多いです。大都市に住んでいるがOrofacial painなんて見当たらない、何処に行っても診てもらえば良いのか、等の相談があります。

診療以外はPCに向かう時間が増えたことから、様々な情報が目についてしまい、臨床に活用できる話や世界中で話題になっている論文などを見つけて、自身のHPブログに挙げたり、口腔顔面痛MLに投稿して皆さんとデスカッションしたりしています。
閑でぼーっとする時間はなく、何時も何かしています、これも貧乏性だなーと思っています。コロナが鎮まったら、米国の学会も行きたいし、東南アジアの若手の教育も再開したいと思っています。
 
2023年03月01日 14:18

チャットGPTに聞いてみました 解釈モデルのズレの直し方

2023年2月23日の朝日新聞天声人語にチャットGPTの話題が載っていました。
今世界中で話題のAiを使った小説執筆です。大学生が小説の校正作業のアルバイトに採用された。執筆者は生身の作家ではなく人工知能Ai、やりとりするうちに、相手の「意識」を感じ始めると言う話、これは昨年の第9回「星新一賞」でAiを利用した初入選した作品の事でした。ミーハーな私は世の中で流行っているもので自分の仕事が少しでも楽になるものは取り入れてきたので、このチャットGPTも早速活用にむけて試し中でしたので非常に興味をもちました。
最近の私の頭のなかで未解決で残っているものに、解釈モデルを能率良く把握するにはどうすれば良いか、把握した後にこちらの診断と齟齬があった場合に患者さんの考えを効果的に変えるには、こちらにすり合わせるにはどうすればいいのか、という課題があります。
 そこに、養老孟司が新刊本で、「あの人は私をわかっていない」「私を誤解している」などと思うのは、誤解ではない「正解」があるという前提に立っているから、
誤解されたままなんて嫌だと思うかもしれないが、「それは誤解です」と言っても相手は相手で自分が正解だと思っているから、たいてい無駄に終わる。誤解の多くは、放っておくと自然に解けて消えていきます。どうでもよくなるんです。長い時間がかかるかもしれません、その時間を「損」と思うと、短時間で、合理的に「誤解を正そう」という話になる。そこで無理矢理「これが正解なんだよ」と説明しても無駄なことです。

この相手の誤解を患者さんの解釈モデルに置き換えると、医療の場面での患者と医者のやり時になります。解釈モデルとこちらの診断をすり合わせるのは難しいことなんだとあらためて気づかされました。
患者さんの解釈モデルがどうしてもこれからの治療方針と合わずに、私はこの歯の痛みを治してほしいのに、頬の筋肉が強ばっているの、歯肉の神経が敏感だのと言われても、納得出来ない、歯の痛みを治して欲しいんだ、 歯医者はあなただけじゃない、歯のややこしい痛みの治療が上手いという評判を聞いてやってきたが、どうも見当外れだったようだ、と言われたらどうしましょう。
養老先生は「放っておくと自然に解けて消えていきます」と言っているが、治療するには、何とか解釈モデルを早めにすり合わせたい、どうすれば良いのか
このよう場面に備えて、早速、この課題をチャットGPTに答えてもらいました。
相手の誤解を解くためには、
以下のステップを踏むことが重要です。
 
1.相手の誤解を正確に理解する
まず、相手がどのような誤解を抱いているのか正確に理解する必要があります。相手が何を誤解しているのかを明確に把握することで、解決策を見出すことができます。
 
2.相手の視点に立って考える
相手がどのような状況や背景で誤解を抱いているのかを考え、相手の視点に立って考えることが重要です。自分の立場だけでなく、相手の立場を理解し、尊重することが重要です。
 
3.正確な情報を提供する
相手に正確な情報を提供することが大切です。誤解を解くためには、適切な情報を提供することで、相手が正確な情報に基づいて考えることができるようになります。
 
4.コミュニケーションを改善する
相手とのコミュニケーションを改善することが重要です。誤解を解くためには、相手とのコミュニケーションがスムーズであることが必要です。相手の意見を尊重し、適切なタイミングで適切な言葉を使うことが大切です。
 
5.誤解が解けたことを確認する
最後に、誤解が解けたことを確認することが重要です。相手が正確な情報に基づいて誤解を解いたことを確認することで、今後同じような誤解が生じないようにすることができます。
 
なるほど、もっともな話ですね。白衣の威厳よりもこのような論理だった話を如何にかみ砕いて伝えるか、精進します。
 
 
2023年02月24日 13:51

一般向け非歯原性歯痛情報

一般向け健康雑誌PHPからだスマイル に非歯原性歯痛に関して、医療ジャーナリストの木原さんに取材を受けて、記事になっています。
PHPからだスマイル2023 3月号 非歯原性歯痛 健康ニュース2023 3 虫歯・歯周病は無いのに”歯が痛い”  121-123   https://www.php.co.jp/magazine/karadasmile/  
非歯原性歯痛はH26年度から歯科医師国家試験に毎年出題され、多くの歯科医師は知っている歯科の疾患の一つですが、いざ臨床となると、知っているのと診断出来るのとは違うために、見逃されていることが多いのが現状です。歯科医師への啓発と共に患者さん、一般社会への広報が必要と思っています。
患者さん向けには、歯の神経の治療をしているが、うまく治らない場合には、私の痛みは非歯原性歯痛ではないかと主治医に言ってみることを提案します。
 
2023年02月13日 10:11

慢性痛治療はコミュニケーション

歯髄炎は大人子供、その人が他の病気を持っていたとしても、神経を抜くと治ります。処置前後の痛みに強い、弱いの差はあるでしょうが、痛みは収まります。これは歯に対する治療でことが住むからです。ところが慢性痛は、例えば咬筋の筋・筋膜疼痛による非歯原性歯痛の場合には歯に治療しても直らないのは当たり前、筋肉に治療すれば直るか。筋が痛みの元であるから治りそうですが、慢性化していると治療者と筋肉の問題に宿主の患者さんが絡んできます。慢性痛の治療では痛みの原因である筋肉よりも筋肉の持ち主である患者さんに対する治療が重要になります。
患者さんとコミュニケーションしなければならない、話さなければならない、患者さんに理解してもらうように話さなければならない、患者さんに自分の筋肉の病気について、なぜ起こったのか、どうすれば治るか等を説明して、原因が患者さん自身の生活にある事、改善するには患者さんによるセルフケアが必要である事を理解してもらう、そして、やる気になってもらわなければなりません。
今まで歯の病気だと思っていた人に、痛みの元はあなたの生活にありますよ、治すのはあなたですよと言ってセルフケアをやってもらうわけです。非歯原性歯痛のパンフレットを渡して、あなたの病気はこれです、ここに書かれている事をやってくださいでは治らないのは目に見えています。
患者さんの解釈モデルでは歯が痛い、歯の病気、歯科医院に行ったら歯の治療をしてくれて、すぐ治るはずでしたが、悪いのはあなたです、治すのもあなたですと言われても解釈モデルは変わりません。
振り出しに戻って、慢性痛の治療は痛みの元が治療対象ではなく患者さんです、そして治療法はコミュニケーションを通じて伝えることになります。
一般歯科治療はクルマの修理のように、大きく口を開けてもらい口の中にある歯を削り詰めたり被せたりして治療します、このような治療から180度反対側にある、口で話してもらい、こちらの話しを耳で聞いてもらって治療していくのです。
 
2023年02月13日 09:42

顔のピクピク二はいろいろな病気がある

最近の口腔顔面痛MLで、三叉神経痛の微小血管減圧術(MVD)の話しから、顔面けいれんのMVDに展開、顔面けいれんのボトックス注射に話しが進みました。顔面けいれんが顔面神経の運動枝が血管により圧迫された場合に、三叉神経の感覚枝が血管圧迫で異所性発火して痛みが出るのと同じ機序で不随意な筋収縮としてけいれんが生ずるのだと思います。神経血管圧迫症候群の一つということで、MVDが有効なのだと思います。正式には片側顔面けいれんです。
延髄から神経が出てくる位置をイラスト等で見ると独立している三叉神経のかなり下で、顔面神経本枝、中間神経、聴神経と並んでいますから、MVDオペの際に聴神経に圧がかかったりするのかと思われます。
顔面けいれんのMVDの次の選択肢としてボトックス注射があります。こちらはけいれんする筋を収縮しなくするという対症療法です。

片側顔面けいれんの原因は三叉神経痛と同様に血管圧迫ですが、精神的緊張で誘発されるという、三叉神経痛ではみられない誘因が出てきます。 ある先生から、顔面けいれんの患者さんに精神的問題という話しがありましたように、少し紛らわしいことがある様です。

「顔のぴくぴく」には、片側顔面けいれんの他にいくつか病気があり、眼瞼けいれん、眼瞼ミオキミア、チックなどがあります。
「ときどき片方のまぶたがぴくぴくする」は眼瞼けいれんではなく眼瞼ミオキミアです。眼瞼ミオキミアは眼輪筋という筋肉の攣縮が不随意に起こる状態で、通常片眼性であり、肉体的精神的ストレスが原因になると言われています。有効な治療法はなく、上記ストレスを緩和する(ゆっくり休む)ことで改善する場合が多いです。

眼瞼けいれんとは、両眼性の疾患で、一番の特徴はまぶたが開けにくくなること(開瞼失行)です。まぶたが開けにくいため、見づらさ、まぶしさや眼の違和感などが生じたりします。また、周りから「目つきが悪い」「いつも眉間にしわをよせている」などといわれることもあります。原因は正確にはわかっていませんが、中枢神経の神経伝達異常と考えられていて、ある種のジストニアであるという記述もあります。
私がこれまで診たことのある、口顎ジストニアの患者さんは全員は心因性でした。お嫁さんが嫌いでお嫁さんの作ったご飯を食べようとすると口が閉じてしまう、咬合治療に満足できず、散々苦情を言ったが聞いてもらえず、そのうちに斜頚と閉口してしまうようになった、ご主人と2人暮らし、食事になると歯がくっついてしまい、ご飯が食べられない、でもDaycareでは完食、と言った具合です。

チックとはチック症(チック障害)のことで、運動性チック症、音声チック症があり、本人の意思とは関係なく体の一部の速い動き(まばたき・顔をしかめる・首を急激に振る)や発声(咳払い、鼻を鳴らす、舌を鳴らす、「シュー、ンー」といった音を出す)を繰り返すといった状態が一定期間続きます。子供の10~20%に何らかのチック症がみられるとされており、一時的に出現して2~3カ月で消えていく場合と、軽くなったり重くなったりして何年か続く場合があります。
 
2023年02月03日 21:37

口腔顔面痛専門医による顔面神経麻痺診断

頬筋について
頬筋は表情筋の一つで、口腔粘膜の裏打ちをしている筋肉です。他の表情筋と同様に口輪筋に停止し、その機能は口角を外側に引くという表情筋本来の機能の他に、咀嚼時に下顎の動きに呼応して頬粘膜を緊張させて食物を歯列に載せる咀嚼筋と思われる機能も有している興味深い筋肉です。
ここまで読んでも頬筋について思い出さないと思いますが、歯科教育の中で総義歯の人工歯をニュートラルゾーンに配列する様に指導されていて、このニュートラルゾーンは口蓋側からの舌圧と頬側からの頬筋の圧力の均衡する帯域であるということで、頬筋の存在、機能については皆さんが知っているはずです。
本稿では頬筋の解剖、神経支配について詳しく解説し、その機能の特殊性から口腔顔面痛的な顔面神経麻痺の有用な所見が得られる事を述べます。
 
【起始停止】
起始:上顎骨の大臼歯部における歯槽突起頬側面と、下顎骨の大臼歯部頬側面の頬筋稜
停止:口輪筋に合流。
 
【神経支配】
頬筋は顔面神経の頬筋枝により支配されています。
三叉神経第3枝の枝に頬神経があり、咀嚼筋である外側翼突筋の運動神経支配をしています。咀嚼筋は全て、三叉神経の枝である下顎神経の支配で、表情筋は全て顔面神経の支配で、顔面神経の枝の頬筋枝と三叉神経の枝の頬神経は別物です。ただし、頬筋の知覚は頬神経が支配しています。
 
【頬筋の臨床的側面】
頬筋は表情筋としてだけでなく、咀嚼時に頬粘膜を緊張させて食物を歯列に載せる働きで咀嚼運動と連動した機能も有していることから、顔面神経麻痺で頬筋が緊張できなくなると咀嚼時の頬粘膜が緊張することが出来なり、食塊が口腔前提に貯留したり、緩んでいる頬粘膜が誤咬されることになります。
通常、顔面神経麻痺は表情筋の麻痺により顔貌変化が生じて気づかれやすいが、顔面の表情筋には全く症状がなく頬筋のみの麻痺が生ずることがあり、顔面神経麻痺と診断されないことがある。補綴治療で頬側豊隆が変化等のきっかけがないのに、急に頬粘膜の誤咬を訴えて来院した場合や、歯科治療中の患者で食塊の口腔前庭貯留が認められた場合には顔面神経麻痺を疑うべきで、これが口腔顔面痛を知っている人しか出来ない顔面神経麻痺の診断とも言えます。
 
 
2023年01月12日 20:56

トリガーポイントに重点を置いた筋痛治療

筋膜にあるトリガーポイントに重点を置いた筋痛の治療
 
本稿では、筋痛治療の対象は赤い筋線維ではなく、白い筋膜である事、筋膜は筋の周り、筋の内部にある筋膜、そして、靱帯、腱は筋膜に連続するものであり筋膜に類似した特徴をもっていて痛みを発しているという理解を元に筋膜治療の基本的な話しを書きます。
筋・筋膜疼痛の治療解説で口腔顔面痛学習者の皆さんが最も関心を示してくれるのがトリガーポイントインジェクション(TrPI)です。米国口腔顔面痛学会では、トラベルとシモンズのトリガーポイントマニュアルが教科書として推奨していたことからトリガーポイントインジェクションが最も有効な治療法のように思われているがこれは少し誤解がある。トリガーポイントマニュアルには、トリガーポイントインジェクションと共にTrP pressure release(TrPPr)についても詳記されている。TrP pressure release とはbarrier release concept (Lewit, 1999)の考え方にもとづいて、トリガーポイント(Barrier)を圧迫して押しつぶす様な手技である。この点において、後述する筋膜リリース、筋膜マニュプレーションと共通点が見えてくる。
 
筋膜とは
筋膜の役割は、筋組織と筋組織の間にあって、筋組織の滑走する際の緩衝剤の役割を果たし、その緩衝作用の元はヒアルロン酸である。筋膜の詳しい解剖等は省略するが、筋内部の筋膜、筋周囲の筋膜から筋組織へ入り込んでいて、筋収縮が筋膜へと伝達される。さらに、筋外膜の延長が腱、靱帯とつながって関節を動かす事になる。
 
何故、筋膜に痛みが生ずるか
筋膜は様々な要因により変性する、外傷、反復運動、持続的筋収縮等の過剰負荷、長時間の不良姿勢、などで筋膜内部のコラーゲン繊維の配列が変化して密度が高くなる。これにより線維束内部で脱水が生じて、基質がゲル化し、内部のヒアルロン酸の凝集が生じて滑りも悪くなる。この過程で筋膜に分布する自由神経終末が刺激されて痛みが生ずる様であるが、筋膜の緊張と痛みの関連性は明確でない。

筋膜の機能異常を改善する方法
このような筋膜の機能異常を改善する方法として、局所温度を上げて、ゲル化された基質を流動化させて正常なゾル状態に戻し、コラーゲン繊維間の癒着を除去する事である。そのための直接的治療法として筋膜リリース、筋膜マニュプレーション、TrP pressure release等が行われる。

筋膜リリース、筋膜マニュプレーション、TrP pressure releaseの整理
筋膜リリースはJohn Barnesを中心に発展してきた手技で、全身の筋膜組織を対象に筋膜のねじれを解きほぐすことを目的に、穏やかで持続的な伸張手技である。筋膜がコラーゲン繊維が固まった部分に軽く圧(5-20g)を加え、そのまま穏やかに伸ばし、固まりに当たったところで1-2分間そのまま伸ばし続ける。これによりコラーゲン繊維の固まりがリリースされ軟らかくなり、血管拡張が生じて血流量が増える、リンパドレナージが改善され、筋の固有感覚機構がリセットされる。筋膜制限が解除され、極端に言うならば組織が伸びる事になる。
一方、筋膜マニュプレーションは、イタリアの理学療法士Luigi Steccoが発展させた方法で、筋膜の固まった部分、局所へ適応される点で筋膜リリースと異なる。触診により筋膜の高密度化して固まった部分を探しだし、その部分に圧を加え、局所温度が上がるように充分な時間、摩擦する。この加温は基質がゲルからゾルへと変化しての筋膜基質の粘稠性を修正し、治癒に向かうのに必要な炎症過程が始まる。この過程で筋膜に分布している自由神経終末への刺激がなくなり痛みが和らぐ。
TrP pressure releaseは筋膜マニュプレーションと類似した目的と手技である。
 
和嶋の筋・筋膜疼痛に対する理学療法
和嶋が日常臨床で行っている手法の特徴は超音波照射を行う点である。
咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋、後頸部筋の筋触診を行い、索状硬結、トリガーポイントを探す。
  • 開口ストレッチアシストブロックを用いて開口状態を維持して、起始から停止まで全体に超音波照射を行う。
  • 筋の深部温度が高まったことを確認後、硬結、トリガーポイントを中心に筋膜リリースを行う。これにより筋組織が全体的に軟らかくなり、肥厚部がなくなる。これはリンパドレナージによるものと思われる。この時点で硬結部の圧痛が消えることが多い。
  • 筋膜リリースによっても硬結、トリガーポイントが解れていないで圧痛が残っている場合には、再度、超音波照射した後に筋膜マニュプレーションを行う。硬結部を中心に1-2分程度、持続的に圧迫する。これにより、硬結の完全消失は無い場合もあるが、多くの例で圧痛が消失する。
  • 圧痛が消失しない場合には、超音波照射と筋膜マニュプレーションを1-2回繰り返す。
    和嶋の筋・筋膜疼痛治療におけるキーは超音波を用いたTrP pressure releaseである。
 
トリガーポイントインジェクションは有効か、超音波を利用したハイドロリリースは
現在、私の臨床では超音波照射と筋膜リリース、筋膜マニュプレーションを組み合わせた方法により筋・筋膜疼痛がコントロール出来るようになっている、そのため、トリガーポイントインジェクションを行う回数が激減している。また、超音波にて筋膜の癒着部を確認して、その間に生食水、局所麻酔液を注入して癒着を剥離するという手法、ハイドロリリースが流行っているが、筋膜リリース、筋膜マニュプレーション、TrP pressure releaseの考えとは共通点は少なく、トリガーポイントインジェクションの経験からはハイドロリリースによって筋膜リリース、筋膜マニュプレーション、TrP pressure releaseと同等の効果が得られるとは思えない。
 
2023年01月08日 12:20

インプラント手術による神経損傷、三叉神経ニューロパチー

インプラント神経損傷原因
インプラント手術による三叉神経ニューロパチーの発生とその予防に関する私見
 
口腔インプラントの普及に伴い神経障害例が増えていて、インプラント関連学会でも対応策が検討されている。
末梢神経障害による症状は外傷後三叉神経ニューロパチーとされ、下唇、オトガイ部の感覚鈍麻を主徴候とする無痛性三叉神経ニューロパチーが生じ、その一部にジリジリ、ピリピリなどの持続性の痛みを主徴候とする有痛性三叉神経ニューロパチーが重複することがある。有痛性三叉神経ニューロパチーは神経障害性疼痛と同義語である。
 
歯科治療では麻酔下でなければ行うことの出来ない痛みを伴う処置、抜歯、抜髄、切開などでは全て、大なり小なり直接的神経損傷を起こしている。術後の神経障害の発生率は、0.38-6%といわれ、他の神経領域(5〜17%)に比べて非常に低いと報告されている。発生率が低いので余り問題にされずに日常臨床が行われている。しかし、一端、生ずると難治であり患者も術者も困窮する事となる。
神経損傷は何処でも生ずる可能性はあるが、発生頻度と生じたときに問題になるのは下歯槽神経である。下顎インプラント手術や抜歯、外科手術で下歯槽神経を、下顎智歯抜歯の際に舌神経を直接損傷したり、下顎歯の根管治療で用いる薬物で下歯槽神経に化学的損傷を与えたりした場合にはほぼ全例で支配領域に感覚鈍麻が生じ、一部には痛みも伴うことがある。
一端、外傷により直接的神経損傷が生ずると、その神経線維はほぼ回復の可能性はない。神経損傷が起こると他の組織と同様に直ぐに修復機転が働き、中枢側断端から神経成長端が遠心側断端を探して伸び始める、しかし、周囲組織からの肉芽組織の増殖が早いために、神経損傷部に入り込んでしまい神経成長端の伸長を遮ってしまう。神経成長端は神経腫を形成し、痛みの元になることある。
少し横道ながら、神経損傷を語る上で気をつけるべき事を説明する。末梢神経損傷の記事では損傷の程度を示すためにセドン(Seddon)の分類、サンダーランド(Sunderland)の分類を用いるが、あれらの分類は神経線維1本ずつの病理的な分類であり、末梢神経損傷の基礎的学習にはなっても、臨床症状に対して神経線維損傷の分類を適応して説明するのは間違っている。臨床的な神経損傷は多数の神経線維からなる神経束で起こっていることで、損傷された神経束には様々に損傷された神経線維が含まれている。単純にいえば、損傷された神経束では無傷な神経線維からセドンの分類の全ての損傷が生じていると言える。
まえおきはここまでにして、インプラントによる外傷後三叉神経ニューロパチーについて私見を述べる。
問題点は、専門医の診療機会が全く得られなかったり、正しく診断され、適切に治療されるまでに無駄に時間が経過しているために改善の機会を逃してしまい、患者が不利益を被ることである。
 
外傷後三叉神経ニューロパチーの発生とその予防法
解剖学的計測、植え込み方向の初歩的ミス等による直接的神経損傷が原因となった三叉神経ニューロパチーは論外である。回復不能であるので、ここでは言及しない。
1)なぜ神経に触っていないのにニューロパチーが起こるのか、予防するには
インプラント窩を形成した時に動脈性の出血があったり、出血が続く場合、出血が止まるまでインプラント体の植え込みを待つ。自然に止まる傾向が無かった場合にはその日のインプラント体挿入を中止する。(出血が続く中でインプラント体をさし込むと流れ出てくることはないが、出血は骨髄中に入り込み骨髄腔を拡げ、その後には下歯槽菅に入り込み下歯槽神経を血圧で圧迫、絞扼して、神経障害を生ずることとなる)
)局所麻酔が切れた頃(術後3時間程度)、電話で感覚鈍麻の有無を確認する 下歯槽神経に直接触れたり損傷していないと確信できるが感覚鈍麻が続いていて神経障害が疑われた場合、必ずすべきことは組織の浮腫治療のためのステロイドの早期投与である、そして、当日にインプラント体を撤去するかどうかを患者とともに検討する。英国のLenton教授によると許容時間は大雑把に24時間と言われている。
(1)当日インプラント体撤去により感覚障害が改善する可能性があるのは、出血、浮腫により下歯槽神経が圧迫されている場合のみである。 
(2)術後の出血、浮腫による感覚鈍麻は局所麻酔が切れた時点では生じていない場合もあり、いったん麻酔が切れたがその後に感覚障害が現れた場合には出血、浮腫によると考えて、早期にインプラントを撤去し、ステロイドの投与を検討するべきと思う。

(3)下歯槽神経に回転しているドリルが当たった場合には、神経線維を巻き込んでいる可能性が高く挫滅創となっている。この場合はインプラント体撤去しても感覚障害の回復の可能性は低く、撤去による更なる損傷を生ずる可能性が高いと考えるべきである。

ステロイド投与参照:顔面神経麻痺の治療のための経口副腎皮質ホルモン投与例
・ 発症後3日以内にが望ましいが,遅くとも10日以内に開始する.
・ 成人ではprednisolone (1mg/kg/日 or 60mg/日)を5~7日間投与し,その後1週間(10mg/日)で漸減中止する.
 
三叉神経ニューロパチーの診査、診断(詳細はガイドライン等を参照のこと)
定性感覚検査を行う、感覚鈍麻がある場合には定量感覚検査を行う。
顔面、口腔内の三叉神経の三枝毎に左右差を比較検討する。顔面では触覚検査には綿棒、痛覚検査には爪楊枝を用いる。口腔内では触覚検査にミラーの縁あるいは形成充填器の丸端、痛覚検査にはピンセットを用いている。
原則的に左右で比較して鈍麻か過敏か、左右差がないかを確認し、触覚、痛覚に感覚異常がないかどうかを確認する。神経支配領域に限局した何らかの感覚異常が認められる場合には三叉神経ニューロパチーの可能性が高い。
 
外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーの治療(詳細はガイドライン等を参照のこと)
無痛性三叉神経ニューロパチーに関しては積極的治療法がない、ビタミンB12の投与が行われているが、そのエビデンスは低い、また、損傷した神経の回復のためには諸外国では通常用いられない。
神経障害性疼痛に準じて薬物療法を行う。世界の主なる神経障害性疼痛治療ガイドラインでは共通して、プレガバリン、アミトリプチリン、サインバルタ、ガバペンチンが第一選択とされ、効果がないか、不十分の場合には他の第一選択薬に変更するか、併用することが勧められている。
 
2023年01月07日 14:13