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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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一般向け非歯原性歯痛情報

一般向け健康雑誌PHPからだスマイル に非歯原性歯痛に関して、医療ジャーナリストの木原さんに取材を受けて、記事になっています。
PHPからだスマイル2023 3月号 非歯原性歯痛 健康ニュース2023 3 虫歯・歯周病は無いのに”歯が痛い”  121-123   https://www.php.co.jp/magazine/karadasmile/  
非歯原性歯痛はH26年度から歯科医師国家試験に毎年出題され、多くの歯科医師は知っている歯科の疾患の一つですが、いざ臨床となると、知っているのと診断出来るのとは違うために、見逃されていることが多いのが現状です。歯科医師への啓発と共に患者さん、一般社会への広報が必要と思っています。
患者さん向けには、歯の神経の治療をしているが、うまく治らない場合には、私の痛みは非歯原性歯痛ではないかと主治医に言ってみることを提案します。
 
2023年02月13日 10:11

慢性痛治療はコミュニケーション

歯髄炎は大人子供、その人が他の病気を持っていたとしても、神経を抜くと治ります。処置前後の痛みに強い、弱いの差はあるでしょうが、痛みは収まります。これは歯に対する治療でことが住むからです。ところが慢性痛は、例えば咬筋の筋・筋膜疼痛による非歯原性歯痛の場合には歯に治療しても直らないのは当たり前、筋肉に治療すれば直るか。筋が痛みの元であるから治りそうですが、慢性化していると治療者と筋肉の問題に宿主の患者さんが絡んできます。慢性痛の治療では痛みの原因である筋肉よりも筋肉の持ち主である患者さんに対する治療が重要になります。
患者さんとコミュニケーションしなければならない、話さなければならない、患者さんに理解してもらうように話さなければならない、患者さんに自分の筋肉の病気について、なぜ起こったのか、どうすれば治るか等を説明して、原因が患者さん自身の生活にある事、改善するには患者さんによるセルフケアが必要である事を理解してもらう、そして、やる気になってもらわなければなりません。
今まで歯の病気だと思っていた人に、痛みの元はあなたの生活にありますよ、治すのはあなたですよと言ってセルフケアをやってもらうわけです。非歯原性歯痛のパンフレットを渡して、あなたの病気はこれです、ここに書かれている事をやってくださいでは治らないのは目に見えています。
患者さんの解釈モデルでは歯が痛い、歯の病気、歯科医院に行ったら歯の治療をしてくれて、すぐ治るはずでしたが、悪いのはあなたです、治すのもあなたですと言われても解釈モデルは変わりません。
振り出しに戻って、慢性痛の治療は痛みの元が治療対象ではなく患者さんです、そして治療法はコミュニケーションを通じて伝えることになります。
一般歯科治療はクルマの修理のように、大きく口を開けてもらい口の中にある歯を削り詰めたり被せたりして治療します、このような治療から180度反対側にある、口で話してもらい、こちらの話しを耳で聞いてもらって治療していくのです。
 
2023年02月13日 09:42

痛覚変調性疼痛に関する私の誤解がひとつ解けました

痛みの発生メカニズムとして、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛と心因性疼痛が挙げられていたが、心因性疼痛は発生メカニズムとしては適切でないという事で、第3の発生メカニズムとして痛覚変調性疼痛が提案され、定着してきました。
ここからが誤解だったのですが、発生メカニズムでは心因性疼痛が痛覚変調性疼痛に代わりましたが精神心理的因子は痛みの発生因子にならないのかというと、心因性は大きな発生要因のひとつであることに変わりはありません。
つまり、痛みの発生メカニズムでは心因性から痛覚変調性疼痛に代わりましたが、痛みの発生要因としては心因性が重要な因子であることに変わりはありません。
不安、怒り、あせりなどの心因が中枢に、例えば扁桃体に作用して脳機能の変調が生じ、痛み関連神経系を感作して痛覚変調性疼痛が生ずると言うのが、ひとつの痛覚変調性疼痛の発生経路かと思います。
 
2023年02月12日 17:48

これが痛覚変調性疼痛 本態は脳機能変調

痛覚変調性疼痛診断法
今回提示した参考文献を改めて読み直したら、痛覚以外の症状(睡眠障害、疲労、認知症状、光・音・においに対する過敏性など)が診断基準に含まれていました。
痛覚変調性疼痛の診断基準に完全一致する症例を提示します。

症例40歳男性 主訴:両側側頭部の自発痛と刺激痛(眼鏡がかけられない、マスクを耳にかけられない)
現病歴:10年前、頭が締め付けられるように痛くて、脳外科受診、MRI異常なし、鎮痛薬を処方で終了、その後、内科、ペインクリニックを受診したが異常なし、鎮痛薬のみ。
顎関節症専門を掲げる歯科で高価なスプリント治療を数回、効果無し。
2年前から、顎関節症の診断で二年間で咬合治療をして主訴を改善するという歯科受診中(前金3桁万円払い込み済み)、二年が近づいているが一向に改善しないという事で当クリニック受診。
主訴:両側側頭部締め付けられるように痛い。側頭部、耳に触ると非常に敏感、そして、残感覚が残る。左右の上下顎大臼歯部の歯痛あり
診査:下顎頭牽引圧迫痛誘発テスト顎関節可動性np、痛み無し 
両側咬筋 肥大+ 硬結+ 圧痛+ 関連痛あり(歯痛再現)
両側側頭筋 筋肥大無し、硬結無し、圧痛++、allodyniaあり 残感覚あり、主訴の両側側頭部締め付けられるような痛みが増悪。
最近、考えをまとめることが出来にくくなっている、短期記憶が欠落することあり、睡眠障害(途中覚醒)などの症状あり。
 
得られた所見を末梢から診断していくと、
  1. 側頭筋、咬筋圧痛、関連痛-筋・筋膜疼痛

  2. 10年来の頭が締め付けられる頭痛-頭蓋周囲の圧痛を伴う慢性緊張型頭痛

  3. 筋圧痛関連痛、残感覚-中枢感作   となりますが、


    以上の診断でこの患者さんの全てを説明出来るか?、「考えをまとめることが出来にくくなっている、短期記憶が欠落することあり、睡眠障害(途中覚醒)などの症状」も含めて考えると、この症例こそ痛覚変調性疼痛そのものという診断にいたりました。  痛覚の変化だけでなく、脳機能そのものが変化しているのだろう、「脳機能変調」が最も状況を的確に表した用語、痛覚変調性疼痛はそのひとつのphenotype(表現形)でしかない。と思うに至りました。
 
 再掲 下記の論文の診断基準です
Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system
Eva Koseka,b,*  PAIN 162,11 (2021) 2629–2634
筋骨格系の痛覚変調性疼痛の臨床的基準とグレーディング。
1. 痛みは
1a. 慢性的(3ヶ月以上)、
1b. 局所的(不連続的ではなく)な分布( 筋骨格系の痛みは、皮膚ではなく深部性であり、(個別性ではなく)局所性、多巣性、あるいは 広範囲に分布している。)
1c. 侵害受容性疼痛が(a)存在しない、または(b)存在するとしても、その疼痛に完全に起因している証拠がない。
1d. 神経障害性疼痛(a)が存在しない、または(b)が存在する場合、その疼痛に完全に起因している証拠はない。(異なる慢性疼痛状態(例:肩の筋肉痛と膝の変形性関節症)に起因する多巣性疼痛状態の場合、各 慢性疼痛状態や疼痛部位は別々に評価されなければならない。)
 
2. 痛みのある部位に疼痛過敏の既往がある。
以下のいずれか1つ。触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感
 
3. 併存疾患がある。
以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題.
 
4. 誘発性疼痛過敏現象は、痛みのある部位で臨床的に誘発されることがある。
以下のいずれかである。静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残遺症状が残ること。
 
痛覚変調性疼痛の疑いがある:1および4。
痛覚変調性疼痛の可能性が高い:上記(1、2、3、4)のすべて。
(変形性関節症などの侵害受容性疼痛や末梢神経病変などの神経障害性疼痛の存在 は、痛覚変調性疼痛の併発を排除しないが、疼痛部位は、同定可能な病態で説明可能な範囲より広範でなければならない。)
 
2023年02月04日 13:11

痛覚変調性疼痛の診断基準

痛覚変調性疼痛診断樹
筋骨格系の痛覚変調性疼痛の診断方法について
痛覚変調性疼痛について、具体的にどのような症例が該当するのか常に頭にあります。
軽度の痛みが不安感を高めて、いろいろな病気を考えてしまい解釈モデルが膨らんでいく、病院で診てもらえば解決するだろうと思い受診するが、全く解決につながらない、それを繰り返す事により、一層不安感をつのらせて、痛みの自覚症状も高まっていく、このような症例をしばしば診ていて、これも痛覚変調性疼痛の1つだろうと思っていました。
今回提示した参考文献を改めて読み直したら、痛覚以外の症状(睡眠障害、疲労、認知症状、光・音・においに対する過敏性など)が診断基準に含まれていました。
下記の論文の診断基準です
Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system
Eva Koseka,b,*  PAIN 162,11 (2021) 2629–2634

筋骨格系の痛覚変調性疼痛の臨床的基準とグレーディング。
1. 痛みは
1a. 慢性的(3ヶ月以上)、
1b. 局所的(不連続的ではなく)な分布( 筋骨格系の痛みは、皮膚ではなく深部性であり、(個別性ではなく)局所性、多巣性、あるいは 広範囲に分布している。)
1c. 侵害受容性疼痛が(a)存在しない、または(b)存在するとしても、その疼痛に完全に起因している証拠がない。
1d. 神経障害性疼痛(a)が存在しない、または(b)が存在する場合、その疼痛に完全に起因している証拠はない。(異なる慢性疼痛状態(例:肩の筋肉痛と膝の変形性関節症)に起因する多巣性疼痛状態の場合、各 慢性疼痛状態や疼痛部位は別々に評価されなければならない。)
 
2. 痛みのある部位に疼痛過敏の既往がある。
以下のいずれか1つ。触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感
 
3. 併存疾患がある。
以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題.
 
4. 痛みのある部位に誘発性疼痛過敏現象が臨床的に誘発され残感覚が残る。
以下のいずれかがある事。 静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残感覚が残ること。
 
痛覚変調性疼痛の疑いがある:1および4。  診断樹では4誘発性疼痛過敏現象誘発が1の診査の次に位置付けられて、1と4が該当する場合には、痛覚変調性疼痛の疑いがあると評価される。
痛覚変調性疼痛の可能性が高い:上記(1、2、3、4)のすべて。
(変形性関節症などの侵害受容性疼痛や末梢神経病変などの神経障害性疼痛の存在 は、痛覚変調性疼痛の併発を排除しないが、疼痛部位は、同定可能な病態で説明可能な範囲より広範でなければならない。)

この診断システムの目的は、患者が痛覚変調性疼痛であることの確実性のレベルを示すことである。現状では痛覚変調性疼痛の疑いあり、可能性高いまでです。
今後、診断検査が開発され、その有効性が確認されれば、「確定的な痛覚変調性疼痛」という用語の導入も検討されるでしょう。
 
2023年02月04日 11:44

顔のピクピク二はいろいろな病気がある

最近の口腔顔面痛MLで、三叉神経痛の微小血管減圧術(MVD)の話しから、顔面けいれんのMVDに展開、顔面けいれんのボトックス注射に話しが進みました。顔面けいれんが顔面神経の運動枝が血管により圧迫された場合に、三叉神経の感覚枝が血管圧迫で異所性発火して痛みが出るのと同じ機序で不随意な筋収縮としてけいれんが生ずるのだと思います。神経血管圧迫症候群の一つということで、MVDが有効なのだと思います。正式には片側顔面けいれんです。
延髄から神経が出てくる位置をイラスト等で見ると独立している三叉神経のかなり下で、顔面神経本枝、中間神経、聴神経と並んでいますから、MVDオペの際に聴神経に圧がかかったりするのかと思われます。
顔面けいれんのMVDの次の選択肢としてボトックス注射があります。こちらはけいれんする筋を収縮しなくするという対症療法です。

片側顔面けいれんの原因は三叉神経痛と同様に血管圧迫ですが、精神的緊張で誘発されるという、三叉神経痛ではみられない誘因が出てきます。 ある先生から、顔面けいれんの患者さんに精神的問題という話しがありましたように、少し紛らわしいことがある様です。

「顔のぴくぴく」には、片側顔面けいれんの他にいくつか病気があり、眼瞼けいれん、眼瞼ミオキミア、チックなどがあります。
「ときどき片方のまぶたがぴくぴくする」は眼瞼けいれんではなく眼瞼ミオキミアです。眼瞼ミオキミアは眼輪筋という筋肉の攣縮が不随意に起こる状態で、通常片眼性であり、肉体的精神的ストレスが原因になると言われています。有効な治療法はなく、上記ストレスを緩和する(ゆっくり休む)ことで改善する場合が多いです。

眼瞼けいれんとは、両眼性の疾患で、一番の特徴はまぶたが開けにくくなること(開瞼失行)です。まぶたが開けにくいため、見づらさ、まぶしさや眼の違和感などが生じたりします。また、周りから「目つきが悪い」「いつも眉間にしわをよせている」などといわれることもあります。原因は正確にはわかっていませんが、中枢神経の神経伝達異常と考えられていて、ある種のジストニアであるという記述もあります。
私がこれまで診たことのある、口顎ジストニアの患者さんは全員は心因性でした。お嫁さんが嫌いでお嫁さんの作ったご飯を食べようとすると口が閉じてしまう、咬合治療に満足できず、散々苦情を言ったが聞いてもらえず、そのうちに斜頚と閉口してしまうようになった、ご主人と2人暮らし、食事になると歯がくっついてしまい、ご飯が食べられない、でもDaycareでは完食、と言った具合です。

チックとはチック症(チック障害)のことで、運動性チック症、音声チック症があり、本人の意思とは関係なく体の一部の速い動き(まばたき・顔をしかめる・首を急激に振る)や発声(咳払い、鼻を鳴らす、舌を鳴らす、「シュー、ンー」といった音を出す)を繰り返すといった状態が一定期間続きます。子供の10~20%に何らかのチック症がみられるとされており、一時的に出現して2~3カ月で消えていく場合と、軽くなったり重くなったりして何年か続く場合があります。
 
2023年02月03日 21:37

解釈モデルの主訴を病態と信じ込み、治療まで決めてしまう

痛みが慢性経過している場合、なかなか診断がつかない場合などには病気について、患者さんは自分の持っている知識のなかであれこれ考えてしまいます。
患者さんが自分の病気についてあれこれ考えていることを解釈モデルといいます。患者さんが病気の当事者として1)自分の病気の原因をどうとらえ、2)なぜ発症したのか、3)どの程度重いのか、4)予後はどうなのか、5)どんな治療が必要なのか等、自身の病気について決めつけていることがあります。
最近いらした患者さんは10年前に海外で、歯が痛くなって抜髄処置を受けました、しかし、痛みは改善せず、その後に腫脹感も現れて現地でいくつかの医療機関で診てもらいましたが、原因不明ということでした。
この時点で患者さんは海外の下手な歯科医師による抜髄の失敗だろうと考えました。つまり、解釈モデルとして、自分のこの痛み、腫脹感の原因は抜髄の失敗である、日本でちゃんとした根の治療を受ければ治るはず、と言う考えが出来たようです。
その後、症状は痛みよりも腫脹感が気になるように変わったのですが、解釈モデルは変わらず、帰国後、すぐに近所の歯科で根管治療を受けました。10年間に4-5回根管治療を受けたそうですが、症状は全く変わりません。従って、解釈モデルも変わらないままです。
最近、ENDO専門医に紹介され精査を受けたところ、根充状態が完全ではないということで再度根管治療を受けました。三ヶ月後に経過観察を受け、その歯には全く異常が無い、しかし、歯の周囲の腫脹感が変わらないと言うことで当クリニックに紹介されて受診しました。
これまでの治療は、患者さんの10年前のこの歯の治療が悪かったのでこの歯の周りがブヨブヨ腫れぼったいんだ、ちゃんと根の治療をすれば治るという解釈モデルが歯科医師に「海外での下手な根管治療による根尖病巣、根管治療すれば直る」という指示となる根管治療が行われていたようです。
紹介してくれたENDO専門医の治療は完璧で、自発痛はもちろん打診痛もありません、歯原性で無いことがすぐ判りました。そこで、ENDO専門医の先生の私に紹介してくれた意図などを説明して、歯にこだわらずもっと広く口腔顔面痛として診査しましょうと提案、受け入れてもらいました。
結果はその歯のある三叉神経の領域に触覚鈍麻、痛覚亢進が認められ、明らかに三叉神経ニューロパチーでした。10年前には痛みが強かったようですが今は痛みよりも鈍麻感が気になると言う事で、触覚鈍麻がその原因ではないか、時々、痛くなるのは痛覚亢進によるものだろう。そして、現在の感覚障害から10年前に戻ってみると、痛かったのは歯髄炎等の歯原性では無くでは、帯状疱疹だったのではないか、そのため、抜髄後も痛みが続いていた、10年の間に痛みは収まってきて、今は三叉神経ニューロパチーによる鈍麻感だけ残っているのではないかと推定できることを話しました。すぐに納得とは行きませんでしたが、患者さんの10年間の続いていた解釈モデル、「歯の治療が悪かったのでこの歯の周りがブヨブヨ腫れぼったいんだ、ちゃんと根の治療をすれば治る」という、ホワイトボードに根管治療する毎に油性マジックで重ね書きしてきたところに、正しい理解を書き込むことが出来たかなと思っています。
 
2023年01月23日 15:03

マスクをどうするか N-95 マスクの有用性

政府が、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の類型を来年4月1日に危険度が2番目に高い「2類」相当から、季節性インフルエンザ並みの「5類」に緩和するようです。そして、マスクを外そうという動きです。
ここで我々医療従事者のマスクの種類によるコロナ感染率についてのいくつかの論文結果と、議論を紹介します。

その前に知っておくべき事があります。
第一に、日本では今現在マスクは3つに分類されています。1)一般用、2)医療用(サージカルマスク)、3)N-95マスクです。
医療機関で通常用いられているのは2)医療用(サージカルマスク)です。ところが、2)医療用(サージカルマスク)、3)N-95マスクは使用する目的において大きく異なります。N-95マスクは病原菌、コロナウイルスなどを含む外気から、装着者(例えば医療従事者)を守るために使用されます。一方、サージカルマスクは、マスクを装着したヒト(風邪、インフルエンザ、コロナ感染者)から排出される病原菌を含む微粒子が大気中に拡がるのを防ぐ目的で使用されます。もっと単純に言うと、サージカルマスクは外科手術で医療従事者の唾が飛ばないよう使用するもので、自身の感染予防の目的ではありません。
N-95マスクの役割に似たものに、医療用ではありませんが防塵マスクがあります。防塵マスクとはその名前の通り、“塵(ほこりなどのチリ)”を“防”ぐための“マスク”です。作業を行う場所で粒子状の物質(粉塵やオイルミストなど)の吸引を防ぐために装着するもので目的はN-95マスクと同じです。規格もほぼ同じです。つまり、N95マスクは外から内への経路を、一般用マスク、サージカルマスクは内から外への経路を遮断する目的で使います。
 
WHO、CDC及び厚生労働省がSARSの患者、その疑いのある患者あるいは可能性のある患者と接触する場合、医療従事者はN95規格以上の呼吸器防護具を着用するよう推奨しています。
コロナ感染予防に関して、サージカルマスクはN-95マスクに劣るか?について検討した論文がいくつかあります。論文の結論は、「サージカルマスクとN-95は、エアロゾルを発生させないケア中の医療従事者において、コロナウイルスを含むウイルス性呼吸器感染症に対して同様の防護を提供することを、確実性の低い証拠が示している。」ということで、サージカルマスクはN-95マスクに劣らないということです。
しかし、いくつもの興味深い議論があります。その中の一つを紹介します。
もし研究が十分に大規模で、N95マスクが正しく着用され、正しくフィットテストされ、軽食や昼食時の休憩室での院内COVID-19感染が除外され、さらに大きな課題としてレストランや結婚式やコンサートやジムでの病院外での感染が除外され、医療現場での感染機会に限定できれば、サージカルマスクは明らかにN95マスクほど有効では無いという結論になるだろうという見解があります。
COVID-19は今やどこにでもあり、患者から医療従事者へのウイルス感染は世界的に起こっている曝露のごく一部に過ぎないのである。逆に、医療の場以外での感染が多いと言うことです。
 
この非劣勢試験の細かな数字を診ると、N95マスクの有効性が見つかります。この研究では、サージカルマスクとN95マスクのハザード比の95%信頼区間の上限が2未満であれば、非劣性であると規定しています。(どこかの国の選挙の人口当たりの定数に似ています)実際の数字はハザード比は1.14、95%信頼区間は0.77から1.69(ただし非劣性マージンは2倍未満)であった。つまり、サージカルマスクの方が1.69倍も悪いと言うことになりますが、2倍を超えないので非劣勢であるという結論です。個々のデータでは、サージカルマスクの方がN95よりも2倍以上感染したという結果もあります。
 
ここからはエアロゾルに曝される歯科医師のコロナ感染予防に関して、どのようなマスクを使用すべきかについて、興味深いたとえがあります。
COVID-19が確認された、あるいは疑われる患者をケアする際にN95を着用すべきですか?はい。土砂降りの雨の中、車から玄関に駆け込むとき、私はしっかりした傘を使います。
私の診療は歯を削らないのでエアロゾルに暴露される機会は少ないのですが、高齢者ゆえ診療中はN-95マスクをしています。 電車の中ではもう少しゆるめのN-95モドキをし、道を歩くときはマスク無しです。
 
2023年01月22日 14:39

口腔顔面痛専門医による顔面神経麻痺診断

頬筋について
頬筋は表情筋の一つで、口腔粘膜の裏打ちをしている筋肉です。他の表情筋と同様に口輪筋に停止し、その機能は口角を外側に引くという表情筋本来の機能の他に、咀嚼時に下顎の動きに呼応して頬粘膜を緊張させて食物を歯列に載せる咀嚼筋と思われる機能も有している興味深い筋肉です。
ここまで読んでも頬筋について思い出さないと思いますが、歯科教育の中で総義歯の人工歯をニュートラルゾーンに配列する様に指導されていて、このニュートラルゾーンは口蓋側からの舌圧と頬側からの頬筋の圧力の均衡する帯域であるということで、頬筋の存在、機能については皆さんが知っているはずです。
本稿では頬筋の解剖、神経支配について詳しく解説し、その機能の特殊性から口腔顔面痛的な顔面神経麻痺の有用な所見が得られる事を述べます。
 
【起始停止】
起始:上顎骨の大臼歯部における歯槽突起頬側面と、下顎骨の大臼歯部頬側面の頬筋稜
停止:口輪筋に合流。
 
【神経支配】
頬筋は顔面神経の頬筋枝により支配されています。
三叉神経第3枝の枝に頬神経があり、咀嚼筋である外側翼突筋の運動神経支配をしています。咀嚼筋は全て、三叉神経の枝である下顎神経の支配で、表情筋は全て顔面神経の支配で、顔面神経の枝の頬筋枝と三叉神経の枝の頬神経は別物です。ただし、頬筋の知覚は頬神経が支配しています。
 
【頬筋の臨床的側面】
頬筋は表情筋としてだけでなく、咀嚼時に頬粘膜を緊張させて食物を歯列に載せる働きで咀嚼運動と連動した機能も有していることから、顔面神経麻痺で頬筋が緊張できなくなると咀嚼時の頬粘膜が緊張することが出来なり、食塊が口腔前提に貯留したり、緩んでいる頬粘膜が誤咬されることになります。
通常、顔面神経麻痺は表情筋の麻痺により顔貌変化が生じて気づかれやすいが、顔面の表情筋には全く症状がなく頬筋のみの麻痺が生ずることがあり、顔面神経麻痺と診断されないことがある。補綴治療で頬側豊隆が変化等のきっかけがないのに、急に頬粘膜の誤咬を訴えて来院した場合や、歯科治療中の患者で食塊の口腔前庭貯留が認められた場合には顔面神経麻痺を疑うべきで、これが口腔顔面痛を知っている人しか出来ない顔面神経麻痺の診断とも言えます。
 
 
2023年01月12日 20:56

トリガーポイントに重点を置いた筋痛治療

筋膜にあるトリガーポイントに重点を置いた筋痛の治療
 
本稿では、筋痛治療の対象は赤い筋線維ではなく、白い筋膜である事、筋膜は筋の周り、筋の内部にある筋膜、そして、靱帯、腱は筋膜に連続するものであり筋膜に類似した特徴をもっていて痛みを発しているという理解を元に筋膜治療の基本的な話しを書きます。
筋・筋膜疼痛の治療解説で口腔顔面痛学習者の皆さんが最も関心を示してくれるのがトリガーポイントインジェクション(TrPI)です。米国口腔顔面痛学会では、トラベルとシモンズのトリガーポイントマニュアルが教科書として推奨していたことからトリガーポイントインジェクションが最も有効な治療法のように思われているがこれは少し誤解がある。トリガーポイントマニュアルには、トリガーポイントインジェクションと共にTrP pressure release(TrPPr)についても詳記されている。TrP pressure release とはbarrier release concept (Lewit, 1999)の考え方にもとづいて、トリガーポイント(Barrier)を圧迫して押しつぶす様な手技である。この点において、後述する筋膜リリース、筋膜マニュプレーションと共通点が見えてくる。
 
筋膜とは
筋膜の役割は、筋組織と筋組織の間にあって、筋組織の滑走する際の緩衝剤の役割を果たし、その緩衝作用の元はヒアルロン酸である。筋膜の詳しい解剖等は省略するが、筋内部の筋膜、筋周囲の筋膜から筋組織へ入り込んでいて、筋収縮が筋膜へと伝達される。さらに、筋外膜の延長が腱、靱帯とつながって関節を動かす事になる。
 
何故、筋膜に痛みが生ずるか
筋膜は様々な要因により変性する、外傷、反復運動、持続的筋収縮等の過剰負荷、長時間の不良姿勢、などで筋膜内部のコラーゲン繊維の配列が変化して密度が高くなる。これにより線維束内部で脱水が生じて、基質がゲル化し、内部のヒアルロン酸の凝集が生じて滑りも悪くなる。この過程で筋膜に分布する自由神経終末が刺激されて痛みが生ずる様であるが、筋膜の緊張と痛みの関連性は明確でない。

筋膜の機能異常を改善する方法
このような筋膜の機能異常を改善する方法として、局所温度を上げて、ゲル化された基質を流動化させて正常なゾル状態に戻し、コラーゲン繊維間の癒着を除去する事である。そのための直接的治療法として筋膜リリース、筋膜マニュプレーション、TrP pressure release等が行われる。

筋膜リリース、筋膜マニュプレーション、TrP pressure releaseの整理
筋膜リリースはJohn Barnesを中心に発展してきた手技で、全身の筋膜組織を対象に筋膜のねじれを解きほぐすことを目的に、穏やかで持続的な伸張手技である。筋膜がコラーゲン繊維が固まった部分に軽く圧(5-20g)を加え、そのまま穏やかに伸ばし、固まりに当たったところで1-2分間そのまま伸ばし続ける。これによりコラーゲン繊維の固まりがリリースされ軟らかくなり、血管拡張が生じて血流量が増える、リンパドレナージが改善され、筋の固有感覚機構がリセットされる。筋膜制限が解除され、極端に言うならば組織が伸びる事になる。
一方、筋膜マニュプレーションは、イタリアの理学療法士Luigi Steccoが発展させた方法で、筋膜の固まった部分、局所へ適応される点で筋膜リリースと異なる。触診により筋膜の高密度化して固まった部分を探しだし、その部分に圧を加え、局所温度が上がるように充分な時間、摩擦する。この加温は基質がゲルからゾルへと変化しての筋膜基質の粘稠性を修正し、治癒に向かうのに必要な炎症過程が始まる。この過程で筋膜に分布している自由神経終末への刺激がなくなり痛みが和らぐ。
TrP pressure releaseは筋膜マニュプレーションと類似した目的と手技である。
 
和嶋の筋・筋膜疼痛に対する理学療法
和嶋が日常臨床で行っている手法の特徴は超音波照射を行う点である。
咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋、後頸部筋の筋触診を行い、索状硬結、トリガーポイントを探す。
  • 開口ストレッチアシストブロックを用いて開口状態を維持して、起始から停止まで全体に超音波照射を行う。
  • 筋の深部温度が高まったことを確認後、硬結、トリガーポイントを中心に筋膜リリースを行う。これにより筋組織が全体的に軟らかくなり、肥厚部がなくなる。これはリンパドレナージによるものと思われる。この時点で硬結部の圧痛が消えることが多い。
  • 筋膜リリースによっても硬結、トリガーポイントが解れていないで圧痛が残っている場合には、再度、超音波照射した後に筋膜マニュプレーションを行う。硬結部を中心に1-2分程度、持続的に圧迫する。これにより、硬結の完全消失は無い場合もあるが、多くの例で圧痛が消失する。
  • 圧痛が消失しない場合には、超音波照射と筋膜マニュプレーションを1-2回繰り返す。
    和嶋の筋・筋膜疼痛治療におけるキーは超音波を用いたTrP pressure releaseである。
 
トリガーポイントインジェクションは有効か、超音波を利用したハイドロリリースは
現在、私の臨床では超音波照射と筋膜リリース、筋膜マニュプレーションを組み合わせた方法により筋・筋膜疼痛がコントロール出来るようになっている、そのため、トリガーポイントインジェクションを行う回数が激減している。また、超音波にて筋膜の癒着部を確認して、その間に生食水、局所麻酔液を注入して癒着を剥離するという手法、ハイドロリリースが流行っているが、筋膜リリース、筋膜マニュプレーション、TrP pressure releaseの考えとは共通点は少なく、トリガーポイントインジェクションの経験からはハイドロリリースによって筋膜リリース、筋膜マニュプレーション、TrP pressure releaseと同等の効果が得られるとは思えない。
 
2023年01月08日 12:20