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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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解釈モデルを聞きましょう 痛み患者は不安がいっぱい

患者さんが自らの病気(illness)(医師のとらえる疾病 disease)を解釈する枠組みを、解釈モデル(説明モデル)といいます。解釈モデルは米国発祥で、英国では患者さんの自分の病気に関する解釈(Ideas)認知、とらわれ、心配(Concerns) 感情、不安、期待(Expectations)治療への期待の頭文字をとってICEと言います。概念は共通で、患者が病気の当事者として1)自分の病気の原因をどうとらえ、2)なぜ発症したのか、3)どの程度重いのか、4)予後はどうなのか、5)どんな治療が必要なのか等、の患者自身の病気の解釈です。一方、医療者側には当然のこととして診察の結果、診断がなされ、治療方針が立てられます。
私は患者さんの解釈モデルをホワイトボードに例えています。医療者は患者さんの解釈モデル、ホワイトボードには自分たちが考える事と余り相違の無いことが書かれていると思われていたのですが、実際にはかなり異なったことが書かれていることが多いのです。異なっていることが書かれているというのは、聞いてみて初めて判ることで、医療者に患者さんのホワイトボードを覗いてみようという気が無いと判りません。患者さんのホワイトボードに何が書かれているかを知るには、時間が許せば、初診患者には少なくとも5分間は自由に遮らないで来院の理由を語ってもらう事です。
患者さんは心配顔で、症状、経過を必死に訴えます、発症以来、何軒も掛かかり、あるところでは、痛みに見合うような異常は無い、原因不明といわれ、原因が無いはずがない、なぜ原因が判らないのだろうと不安になり、自分の痛みを判ってくれないことに怒りがこみ上げることもあるという。あるところでは治療を受けたが、全く改善しない、そして、改善しない理由をいろいろ話されて、さらに心配になる。最終的には抜歯を提案されたり、自分から望んだりして、抜歯したが全く改善しない、抜歯を提案されたことに怒りが湧き、抜歯を望んだことに後悔してしまう。
このような心理状況では冷静な判断は出来ず、痛みの感受性が高まり、不快感が増強されて、患者さんの行動を形成する神経心理学的変化が生じてしまいドクターショッピングを続けざるを得なくなってしまいます。
以前に治療により不安が高まることにより、自覚的な痛みが亢進してしまった例を紹介しています、インプラント上部構造操作時の痛みからうつ状態になってインプラント治療の継続が出来なくなってしまった例、医療ハイフによる筋・筋膜疼痛から歯痛が生じ、原因不明のまま歯科治療を受け不安感が増して痛みが続いている例、根管治療が奏功しないため再植、抜歯、他施設受診により不安が増して痛みが亢進してしまった例です。
その後も、同様に不安で痛み亢進の患者さんが多いです。根管治療を続けているが、詳しい丁寧な説明を聞く毎に悪い経過ばかり考えて不安が増して痛みも強まってしまう例。治療の際に、担当医が隣に座っている患者さんとトラブルになり、相当な言い合いをした後に自分のところに来た、患者さん本人も隣のトラブルを聞いてびっくり、不安感いっぱい、この先生こんなに怒るんだという驚きと共にこの先生怒ったままに自分の治療、その治療が非常に乱暴に感じられ、この治療でちゃんと治るのかという不安が生じて痛みが強くなってしまった。睡眠障害が生じて、1時間半毎に目が覚めてしまう状況が続いていると言う話でした。
痛み患者さんの解釈モデル、ホワイトボードにはいろいろなことが書かれていました。
このような状況ではどのような治療、対応が必要でしょうか、痛み診療は、痛み、機能障害、破局思考、不安、抑うつの改善を目的に、身体的治療枠組みだけではなく、精神、心理的治療枠組みで行われます。不安が高まっている患者さんには英語圏で良くでてくる単語がReassurance (reassureの意味は「安心させる」で、語源はre(もう一度)とassure(安心させる))です。単純には、繰り返し安心させることだと思います。これが不安が高まっている痛み患者さん治療の第一歩です。
 
2022年11月07日 11:39

10月口腔顔面痛オンラインセミナーで学んだこと

最初に先の日本口腔顔面痛学会学術大会で講演したリフレッシャーコース1 口腔顔面痛診療の実際をもう一度解説しました。私の臨床で気をつけていることは、患者さんの描いている解釈モデルを把握する事、診察結果から患者さんの病気のストーリーを書くこと、そして、その二つを付き合わせてズレの有無を確認し、ズレがある場合には摺り合わせる時間をとることです。(解釈モデルは患者さんの考えていることなので、患者のという前置詞はいらないが、敢えてつけています)
セミナー中のデスカッションで参考になったのが、解釈モデルで患者さんの治療への期待が通常の治療効果を超えるものである場合には、無理に摺り合わせてしまうのでは無く、治療対象にならないという決断も必要となることが指摘されました。この指摘は次の症例提示にも関わるものでした。
次に症例提示があり、皆さんでデスカッションしました。
基本的身体医である我々歯科医師は、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛を診断し、それを治療しようとして、その枠組みに患者さんを当てはめる努力をする。
ところが、患者解釈モデルに痛みの改善を望んでいるが、例えば認知行動療法解析要素で身体症状として痛みの他に、歪んだ認知、感情として破滅的思考、怒り、身体反応として全身の感作、行動反応としてドクターショッピング 等があった場合、前記の身体疾患としての治療の枠組みに当てはまらない部分が多くなります。
このような場合、どのように対応するか。
対応1(身体医としての対応):身体疾患としての治療の枠組みに当てはめる努力をして、あるいは、身体疾患としての治療の枠組みに当てはまる部分のみを治療する。当てはまらない部分は治療できないことをはっきり伝える。
対応2(非身体医的、メンタルヘルス対応):身体的痛みに必要な治療を行いつつ、前記認知行動療法解析要素の身体的要素以外の歪んだ認知、感情として破滅的思考、怒り、身体反応として全身の感作、行動反応としてドクターショッピング 等に対応する。
具体的対応法は積極的傾聴です。このような対応に対して患者が予約して来院するならば、患者の要望に応えていると判断できるという事になります。
ロジャーズの積極的傾聴の3原則
具体的に言えば、1)「共感的理解」に基づく傾聴とは、聴き手が相手の話を聴くときに、相手の立場になって相手の気持ちに共感しながら聴くことです。2)「無条件の肯定的関心」を持った傾聴とは、相手の話の内容が、たとえ反社会的な内容であっても、初めから否定することなく、なぜそのようなことを考えるようになったのか関心を持って聴くことです。3)「自己一致」に基づく傾聴とは、聴く側も自分の気持ちを大切にし、もし相手の話の内容にわからないところがあれば、そのままにせず聴きなおして内容を確かめ、相手に対しても自分に対しても真摯な態度で聴くことです。

まとめると、解釈モデルで患者さんの治療への期待が通常の身体的治療効果を超えるものである場合には、無理に身体疾患としての治療の枠組みに当てはめるのでは無く、対応法を変える判断も必要で有り、 口腔顔面痛専門医は身体医としての対応に加えて、非身体医的、メンタルヘルス対応 が出来ることが求められる、という結論になります 。
2022年10月24日 10:38

共感が大事 共感は豊かな経験と教養から

世の中DX: Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)、特に医療ではAI(人工知能)を如何に活用するか、AI時代に生き残るにはどうすべきかなど話題が沢山です。
DXとは、日本語では「デジタル革新」や「デジタル変換」という意味の言葉です。DXは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ものだということです。今までの作業をデジタル化して効率化するという面とデジタル利用によって新たな局面が生まれるという2面があります。後者の新たな局面作りは大きな課題ですが、私にも何か出来ないかと何時も考えています。

口腔顔面痛におけるAI活用による効率化で思い浮かぶのは臨床診断推論です。その一部を医師のアバターが行い、「こんにちは、どうしましたか」から始まる医療面接をしてくれます。既往歴、治療経過など患者さんの思い出しながらの話しをAIが自動的に整理してカルテに記載。医師には言えないことでも、アバターには言えることもあるでしょう。医師はそれを見ながら、診察を進め、不足の部分を補う。その結果を入力するとAIが臨床診断推論を進めて鑑別診断や必要な確認事項、検査の候補を出してくれる。それらの結果を入力すると最終診断候補を明示してくれるでしょう。
このような進歩した時代でも求められるのは、医師の患者への共感です。
最近のAIと共感に関する研究を紹介します。
臨床的共感が患者の治療成績を向上させる3つの要素があります。
①正しい診断のための良好な病歴聴取において医師が共感を示した場合、患者は多くの情報を開示する、
②治療結果は治療に対する患者のアドヒアランス(治療を続けてくれる)にかかっており、患者が治療を継続するかどうかに影響する最大の要因は医師への信頼感である、
③共感的な文脈であれば、悪い知らせであっても患者はうまく対処できる、と言われています。
これらを踏まえると、臨床的な対話の場にAIを使用することは、苦痛を感じている患者にとって真の人間的な共感は得られ無い可能性が高く、非倫理的であるとも言えます。
他人同士は 「わかり合える」ことは無いが故に共感が必要であるが、それはAIには出来ないだけではなく、医療面接にマイナスに作用する可能性がある様です。
医療面接の際の医療者の傾聴、受容、共感が如何に重要かと言う事と、医療者が生き残って行くには幅広い豊かな教養、態度を身につけてAIを活用していく必要があるという事になります。
おそらく口腔顔面痛診療は今以上に必要性が高まってくるでしょう。AIなどの利活用が進んでも、「知と癒しの匠」が私の目標です。
  
 
共感について (既出)
参照:わかり合えないが共感できる、でもonlineでは出来ない  https://wajima-ofp.com/blog_articles/1653881240.html

  医療面接の際の医療者の態度の原則は傾聴、受容、共感です。この3つをまとめて「積極的傾聴」と言うようです。
•傾聴は、アメリカの心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズによって提唱された。
•傾聴を「積極的傾聴」と呼び、自らが行ったカウンセリングの事例を分析して、話を聴く側には3つの要素が必要であると説いている。
1.自己一致(Congruence):話を聴いて分からないことをそのままにせず聴き直す等、常に真摯な態度で真意を把握する (傾聴)
2.無条件の肯定的配慮(Unconditional positive regard):善悪や好き嫌いと  いった評価をせず、肯定的な関心を持ちながら話を聴く(受容)
3.共感的理解(Empathic understanding):相手の立場になって話を聴く(共感)
 
この共感について、
•人間関係 「わかり合える」 は誤解で、他人同士は 「わかり合える」 ことは無いそうです。
•わかり合えないことを前提とした上で、どのように患者と折り合いをつけるか。
•他者のことを完全に理解するのは不可能でも、人間の脳には元来、相手に共感しようとする機能が備わっている。
•ミラーニューロンとはその名(ミラー鏡)の通り、他者の行動を見て、自分が行動したかのように脳内で反応する神経細胞のことを言う。
•他人の心を推測する神経モジュールとしての機能がある 相手の行動を脳内で模倣することで、そのときに抱く感情を自分事として理解し、「相手がどう感じているか」を推測しようとする。簡単に言えば、過去の経験に基づき、自分の外の世界の仕組みを脳内でシミュレーションする神経機構のこと。
つまり、人との触れ合いとそれに伴う経験値、あるいは身につけた教養が豊かなほど、内部モデルのデータベースも豊富に蓄積されていく。それに伴い「心の理論」も成熟され、共感の幅が広がり、他者の感情を汲み取ることができる脳が育成されると言う事です。
これによって、患者さんと話していて、患者さんの体験、感情に共感(自分が行動したかのように脳内で反応する)するのだそうです。
 
2022年10月15日 09:11

筋痛治療の基本

筋痛治療
筋痛治療の基本
筋痛治療は原因療法と対症療法からなります。
咀嚼筋痛発生の原因は夜間、日中のくいしばり、かみ締めが大きな要因で、左右の症状側を決めるのは偏咀嚼です、時々、バランシングコンタクトという咬合異常があることが症状側を決めることがあります。そして、発症のきっかけはストレスが加わる事による睡眠障害、くいしばり、日中考え事してのかみしめ、の流れだと思っています。
原因療法は夜間、日中のくいしばり、かみ締め、偏咀嚼による過剰負荷の予防、そして、ストレスの軽減です。発症後は増悪因子の除去になります。
具体的には睡眠障害への対応、これは難しい。日中の対応として、無意識にかみしめをしているものとして、そのかみしめを自覚的な、肩の上げ下げ、舌で口腔内舐めてみることの随意運動により中断させる作戦です。無意識にやっている行動をしないようにと言っても、止めることはできません。肩を持ち上げている、かみ締めているという無意識の過剰活動に対して意識した行動をすることにより、その不随意的活動を邪魔しようという事です。負荷の軽減のためには症状の無い側で軟らかいモノを咀嚼してもらいます。
ここまでが過剰活動の中止、過負荷の防止策です。
多くの過剰活動が発症前から日常的に行われていることが多く、発症の準備因子と理解出来ます。
準備因子による負荷の総和が筋肉の耐久閾値を超えると筋痛が発症すると考えられ、発症閾値を超える活動が発症因子と呼ばれます。この発症因子の多くが情動ストレスだと思っています。多くの人にとっては過ぎたことで、思い出したくないことが多いので、聞いてもはっきりしないことが多いです。発症因子は過ぎたことなので治療対象にはなりませんが、なぜ発症したかのストーリーの主役ではあります、なぜ発症したかが判ることにより、患者の治療への動機づけになります。
次は対症療法です。基本は治療対象は筋全体ではなく、過剰活動により収縮して固まったまま残された病気のシンデレラをどうやって助けるかです。収縮して固まってしまった運動単位、トリガーポイントの回復にはストレッチです。脚のこむら返りと同じです、むら返りして異常収縮している筋を伸ばすのです。それではストレッチは、どれくらいの強さで、どれくらいの持続期間、一日何回、毎日か隔日かの質問が出ます。
強さは痛みが出るほど強くストレッチすると揉み返しのような遅発筋痛が生じますから、余り強くなく、筋が引っ張られているが物足りなく感じる程度にしましょう。持続時間は30秒、回数は1日3回朝昼晩としましょう、忘れないために毎日やりましょう。
咀嚼筋の筋・筋膜疼痛でも、頸部の筋ストレッチを準備運動のように行いましょう。左右の前頸部の胸鎖乳突筋、後頸部の僧帽筋、頚・頭板状筋と半棘筋のストレッチを行った後に開口ストレッチです。自力最大開口量を頸部のストレッチを行うと後で比較すると、頸部筋ストレッチの後が2-5mm増加します。つまり、頸部筋ストレッチにより咀嚼筋の緊張改善が得られると言う事です。
開口ストレッチをどのように行うかのエビデンスはありません。30秒開口したままは結構辛いです。UCLA Merill教授には舌尖を切歯乳頭につけたまま最大開口して6秒維持を6回繰り返す方法を教わりました。6*6で36秒だから30秒に近似しています。以前は3横指開口ということで指三本入れて、指で顎を30秒間、支えるように指導していました。ところが30秒の間に前歯が指に食い込んで、痛くないように顎に力が入ってしまい、場合によっては開口筋に閉口筋も収縮して顎を保持しようとする共収縮が起こってしまうことが判りました。この共収縮の高まりが筋緊張の隠れた犯人でした。せっかくストレッチと思っても、逆に顎を緊張させてしまうのでは本末転倒、そこで考えたのが発泡スチロールで作った開口ストレッチアシストブロックです。和嶋オリジナルです。
https://wajima-ofp.com/blog_articles/1634341834.html
ここまでが筋痛治療の治療です。全ての筋痛患者さんに初診時に指導します。3-4週間後にはかなり筋痛が改善している事多いです。おそらく、慢性化していない場合には改善するのでしょう。
過労に倒れたシンデレラも入院するほどではなく、少し休養をとって、お風呂でゆっくりカラダを延ばすと回復してきます。ところが重症な場合にはこれだけでは治りません。王子様の登場が必要です。筋痛治療のプラスアルファは次項で書きます。
 
2022年09月19日 16:50

筋・筋膜疼痛(トリガーポイント)とは まず筋触診

口腔顔面痛のなかで最も多い病態は咀嚼筋、頸部筋の筋・筋膜疼痛と言われています。
筋・筋膜疼痛の診断が難しい理由は、第一に異所性疼痛であることです。原因の筋に痛みを呈さず離れた部位、例えば歯に痛みが感じられ非歯原性歯痛となります。これについては「非歯原性歯痛は異所性疼痛 痛みが正しく診断されない理由
https://wajima-ofp.com/blog_articles/1658749560.html
に記載してあります。
第2には痛みの元であるトリガーポイントを見つけ出すことが難しいことです。筋触診の熟練が必要です。
かつては、赤色で示される筋肉に索状硬結、トリガーポイントが出来る事により痛みが生ずると言われていましたが、近年はその赤い筋肉を包む筋膜(Myofascia)あるいはFascia と呼ばれる部分の痛みだと言われています。

この病気は全身のあらゆる筋膜の異常で起きる可能性があります。しかし、線維筋痛症と違って、全身に同時に痛み、しびれ等が生ずる事はなく、基本的には局所性で肩、首、顔面など特定の部位、若しくはその複数の部位に生じます。腰痛などでも第一の原因で、珍しいものではありません。

筋・筋膜疼痛の原因は多数ありますが、基本的には重いものを持ったり、長時間の同じ姿勢、筋肉に負担のかかる姿勢を続けたりなどによる筋膜のへの過負荷が大きな原因です。
索状硬結、トリガーポイントの様に筋膜の一部に痛みの原因が生ずる原因として、シンデレラ仮説があります。筋肉が収縮活動するときに全体が一緒に活動するのではなく、運動単位ごとに活動することが判っています。まず、最初に活動する運動単位があり、力を入れようとするにしたいが同心円状に活動単位が増えていきます。そして、力を弛めるときには最後に活動に加わった運動単位から活動を停止していき、最後には最初に活動した運動単位だけが残り、その運動単位の活動停止による筋活動の終了になります。最初に運動開始した運動単位は最初から最後まで活動してた、働いていたと言う事で物語のシンデレラ(姉妹の中で一人だけ朝から晩まで働きどうし)にたとえられて、このような筋活動の活動順位にシンデレラ仮説と名付けられています。和嶋仮説では、このシンデレラが過負荷により病気になったのがトリガーポイントではないかと言うことです。
咀嚼筋では夜間、日中のくいしばり、かみ締めが大きな要因で、左右の症状側を決めるのは偏咀嚼です、時々、バランシングコンタクトという咬合異常があることが症状側を決めることがあります。そして、発症のきっかけはストレスが加わる事による睡眠障害、くいしばり、日中考え事してのかみしめ、の流れだと思っています。

筋・筋膜疼痛の診断は熟練が必要です、決め手は筋触診です。触診法を習得するには、まさにHands-onでなければ伝わりません。なぜならば、トリガーポイントはレントゲン、MRI、血液検査など一般的に行われる検査では目で見える結果として現れないためです、また、エコーでも診断できません。筋・筋膜疼痛の診断はあくまで問診・筋触診による評価を十分に組み合わせて診断していきます。
治療法については次項に書きます。
 
2022年09月19日 12:21

解釈モデルと医療者が考えた病気のストーリーを摺り合わせる

今日のテーマは解釈モデルと医療者が考えた病気のストーリー
解釈モデルとは患者さんが自分の病気について考えていることです、患者さん自身の病気とはいえ、その理解は正しいとは限りません。しかし、我々治療する側としては患者さんが自分自身の病気についてどう考えているかについての情報を得ることは非常に大事です。
この解釈モデルにうまくかみ合う概念として、医療者側の解釈モデルとでも言うか、解釈モデルとうまく噛み合うこととして、私自身が考えているのは、医療者の考える患者さんの病気のストーリーを作るべきと考えています。
医療面接を終え、一通り診察をし、いろいろ検査をして患者さんの病気の診断がつきます、医療面接の時点で患者さんの解釈モデルはある程度推定されています。直接質問しなくても、患者さんが自分自身の病気についてどう思っているのかは言葉の端々に出てきますので、そこから患者さんはどう考えているのかをある程度把握をしながら、もしも患者さんの解釈モデルに間違いがあったとしても、そこでいきなり否定することはしません。
そしていろんな資料が整った段階で、それまでに把握した患者さんの解釈モデルから、あなたは、自分の病気についてこういう風に考えていると思います、これまでの診察から、あなたの病気について、その成り立ちから、どういう経過をたどったのか、どのような治療を受けたかなども含めてこういう様なことが起こり、今現在はこういう状態になっているというような医療者側の考える患者さんの病気のストーリーを作って、患者さんに話すことにしています。
私の作った患者さんの病気のストーリーを聞いて患者さん自身どう思いますか、という問いかけをします。
そこで患者さんは患者さん自身の解釈モデルを吐露してくれます。そこで、もしも我々医療者側の考える病気のストーリーと患者さんの解釈モデルに違いがあったり、ズレがあったら、そこでお互いに話し合って何がずれているのか、同じ病気について病気の持ち主である患者さんとその病気を治療しようとしている我々医療者とで、どこがどのようにずれているのかを明らかにして、治療に入る前に修正する必要があります。これが私の考えている間で解釈モデル、つまり患者さんが自分の病気について患者さん自身が考えていることそれに対して我々治療する側が作った患者さんの病気についてどう考えているかという病気のストーリーがうまく合致するかどうかズレが生じてないかどうか、これを治療に入る前に確認する事が必要なことだと思っています。
 
2022年09月16日 09:43

考えすぎは「思考ウイルス」の感染

口腔顔面痛の外来で、毎晩眠る前に、一人でその日の反省会をしているという患者さんがいます。神経質そうな患者さんには、「寝る前に反省会していますか」と聞くと、想像していた以上に、毎晩しています、という返事が多いことにビックリして、ほぼ全員に聞くことにしています。この反省会をしている人は思考ウイルスに感染して考えすぎ (overthinking)の人達なのだろうと思います。以前に HSP(Highly Sensitive Person)についても紹介したように、同類と思います。 和嶋浩一

2022年9月1日(木)08時57分 ニューズウィーク日本版ウェブ編集部 https://www.newsweekjapan.jp/stories/lifestyle/2022/09/post-99512.php
<「考えすぎ(overthinking)」は「思考ウイルス」による、認知システムのバグ。自尊心を傷つける思考パターンを手放すには、言葉の使い方を変えるだけ>
思考は人間が動物と区別される能力の1つである。しかし、近年、「考えすぎ(overthinking)」の有害性に関する研究が相次いで発表されている。
「思考ウイルス」による 考えすぎ(overthinking)の一覧
白黒思考/過度の一般化/ネガティブフィルター/マイナス化思考/結論の飛躍/拡大解釈/過小視/感情的推論/認知的推論/身体的推論/自己関連づけ/「もう耐えられない!」/レッテル貼り/べき思考
これの認知(思考)の片寄りは、自動思考、認知の歪み(不合理な思考パターン)と言う言葉で以前から用いられていました。認知療法の創始者であるアーロンベックの弟子バーンズは1989年に続編として出版されたfeeling good handbook の中に代表的な自動思考、認知の歪み(不合理な思考パターン)として10の歪みが記載されています。 

もう一つ興味深い記事があります。上の記事の元です
心配しても92%は意味がない。欧米で注目「考えすぎ」問題への対処法とは
2022年8月19日(金)19時55分 ニューズウィーク日本版ウェブ編集部 https://www.newsweekjapan.jp/stories/carrier/2022/08/92-4_2.php
「心配」や「考えすぎ」をやめられない根本原因  養育歴の影響が書かれています。
なぜ私たちは「ネガティブな考えすぎ」から抜け出せず、心配せずにはいられないのか。実はそれには、子ども時代の経験が大きく影響している。
そもそも子どもが先天的に心配性である確率は25~40%だと著者は言う。そして、子どもは、周りの大人が大丈夫なときにだけ、自分も安全であると生存本能的に考える。すると、親や周囲の大人が眉間にしわを寄せたり、ため息をついたりしているのを見たときには、大人がそうしているならそれは重要なことで、大人の社会で生きていくために必要なことなのだと認識するのだ。
過剰に心配をする親は、得てしてわが子に対して過保護になりがちだ。そうして親が子どもを心配することで「この世界は、つらいことで満ちあふれた危険な場所だ。安全でいるためには、つねに警戒していなければならない」といったメッセージをいつの間にか子どもが受け取ることになる。これが、私たちが「心配」や「考えすぎ」をやめられない根本的な原因である。 慢性疼痛ではこのように養育歴の影響が大きいと言われています。

「考えすぎ(overthinking)」は「思考ウイルス」感染の患者さんは結構多くいます、昨日の診療した人もそうでした。この人達、起こりうることをいっぱい想定して、それでも、もしこうなったらどうしようと、そこまで想定しなくても、そんな事起こらないでしょうと言いたくなるくらいに考えすぎています。
昨日朝、出勤前に駅ナカの本屋さんで「考えすぎてしまうあなたへ」思考ウイルスの本を買って、早速患者さんと一緒にパラパラと開きました。患者さんは私のために書かれた本のようだと言っていました。
この本はオーストラリアで出された本で、世界中何処にも思考ウイルスがいて、考えすぎてしまう人がいるようです。
「考えすぎ(overthinking)」は「思考ウイルス」による、認知システムのバグ このバグの修正方法は原則、認知行動療法です。
認知行動療法の要素分析では ある状況があって、それに対して 思考(認知)感情 身体反応 行動が生じます。
この本に書かれていることは認知行動療法の中の思考(認知)を捉えて、思考ウイルスによって歪んだ思考になっていないかを確認するために、自分の思考を書き出して、歪んだ思考を見つけて修正しようとする方法です。
本格的な認知行動療法は専門の方に任せるとして、クリニックで実施する認知行動療法としては導入しやすいと思います。
2022年09月06日 11:18

痛覚変調性疼痛について判らないこと

従来、痛みの発生機序は①侵害受容性疼痛 ②神経障害性疼痛 ③心因性疼痛に分けられていました。しかし、心因性疼痛はどの程度心因が関わるのか、もっと別な機序もあるだろうと言うことで、一時的に機能障害性疼痛とか非器質的疼痛とか使われましたが、2016年に国際疼痛学会が3番目の分類として「nociplastic pain」を提唱しました。
それを受けて、2021年、日本痛み関連学会連合用語委員会は,国際疼痛学会(IASP)が「第3の痛みの機構分類」 として提唱した nociplastic painの日本語訳を 痛覚変調性疼痛 と決めました。
(原文解説訳) 侵害受容の変化によって生じる痛みであり,末梢の侵害受容器の活性化をひきおこす組織損傷またはそのおそれがある明白な証拠,あるいは,痛みをひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠,がないにもかかわらず生じる痛み
(注記:患者が,侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時に示すこともありうる).
この定義を読んで、臨床的実感と照らし合わせて、以下の疑問があります。学会等の場で疑問を解決したいと思っています。

質問1 文頭の「侵害受容の変化によって生じる痛みであり,」これは侵害受容性疼痛のことか
2.注記:侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時にしめすこともありうる、とされているが神経障害性疼痛との同時はないのか
3.痛覚変調性疼痛はできあがった疼痛病態を指すのか、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に作用して痛み感覚を調整する修飾因子として役割は無いのか。
4.従来の心因性疼痛は痛覚変調性疼痛の誘因の一つとして含まれるのか
5.痛覚変調性疼痛のメカニズムは大雑把に言って、かつて言われていた、中枢感作なのか、情動ストレスによる扁桃体の感作、痛み信号による痛覚受容野の感作などのか
2022年09月02日 14:55

帯状疱疹ワクチン接種の勧め

帯状疱疹ワクチン比較
口腔顔面痛の臨床では急性期の帯状疱疹による痛み、その後に続く帯状疱疹後神経痛、さらに顔面神経麻痺でしっかり治療を受けて、顔面神経麻痺はほぼ回復したが顔面、口腔内の痛みが残っているというラムゼーハント症候群と三叉神経帯状疱疹の後遺症として帯状疱疹後神経痛が残っている患者さんを診ます。60歳以上の人が帯状疱疹になると、約半数は帯状疱疹後神経痛に移行します。
現在、乳幼児の水疱瘡予防としてワクチン接種が普及したことによって、親世代、祖父母世代に帯状疱疹が増えています。例えば、3世代ですんでいる家庭で、子供が水疱瘡になると、子供の水疱瘡の免疫刺激が親や祖父母に対してブースター効果となり帯状疱疹抗体が上がります。これにより、両親、祖父母の帯状疱疹予防が出来ていました。乳幼児の水疱瘡予防としてワクチン接種によりブースター作用の機会が無くなったのです。
それならば、帯状疱疹罹患率の高まり、帯状疱疹後神経痛への移行率が高くなる前の50歳以上の人達に帯状疱疹ワクチン接種が認められています。予防接種なので残念ながら保険診療ではありません、地域によっては費用が助成されています。
帯状疱疹ワクチンには2種類有ります。効果、費用が対照的です。
50歳以上の方々には接種をお勧めします。
2022年08月31日 10:46

8月オンラインセミナーの話題

毎月、口腔顔面痛オンラインセミナーを続けています。今ではオンラインセミナーは珍しくありませんが、本オンラインセミナーはコロナ前から、和嶋が慶應大学を定年退職した年から始めていますから丸5年以上になります。口腔顔面痛に関するいろいろな事が話題になります。 8月20.21日、札幌、風の杜歯科の飯沼先生が北海道歯科学術大会で、自院の口腔顔面痛診療の変遷をまとめて発表されました。北海道における口腔顔面痛の広報活動として非常に有意義だったと思います。本セミナーに全国から参加の方々には、是非、機会を見つけて地元の歯科医師会等で口腔顔面痛の発表をしていただきたいと思っています。多くの歯科医師への啓発活動になり、口腔顔面痛に苦しんでいる患者さんの早期の治療に繋がります。その際は飯沼先生の発表スライドが参考になると思います。
このブログで何回か取り上げている患者さんの解釈モデル、患者さんの気持ちが素直に書かれます、また、診断側の認知バイアスも加わります。先日このような例がありました。ふぐ食べた、翌朝、舌がおかしい、ふぐ中毒ではないかと言う心配、診察する側のふぐを食べて口に異和感がでたと言うことで、認知バイアスが加わり、舌がしびれている、口唇がしびれている、という認識に早合点、これがヒューリスティックスで、パターン認識法の誤りの典型例です。ややこしい場合には、分析的臨床診断推論である仮説演繹法で診断を進めましょう。
歯学教育モデル・コア・カリキュラム 令和4年改訂版(案)に臨床推論が取り入れられたことは、非常に喜ぶべき事です。口腔顔面痛の診断では臨床診断推論として5年以上から推奨し、日本口腔顔面痛学会では診断実習セミナーでは臨床診断推論による症例診断実習を行ってきました。 歯科臨床では視覚的情報が多く、優先されてパターン認識法に直結しがちです。今後は一般歯科臨床の場で、仮説演繹法に代表される分析的臨床推論が用いられる機会が増えるでしょう。具体的方法としてデンタルダイヤモンドに連載している「症例に学ぶ診断マスターへの道」が役立ってくれれば良いと思います。
新たな話題として、処置後遷延感覚障害調査の提案をしました。抜歯、抜髄、インプラント、Apect、Flapなどの麻酔しなければ出来ない処置は全て神経を損傷します。術後に神経障害が生じても不思議はありません。処置後遷延性感覚障害の現実とその治療法を提案していきたいと思っています。興味を持たれた方は診査票を活用して、処置後遷延感覚障害の発生状況を調べてください、そして、セミナーで教えてください。
特に、前歯部の打撲後の歯根膜の過敏化は非常にやっかいです。何とか言い治療法はないかと、いろいろtryしています。現状では、確実な治療法がなく、抜けば治ると言う原始的な話になってしまいます。

最後に、痛覚変調性疼痛です、現状では痛覚変調性疼痛とはどのような痛みなのかよく判りません、先月から紹介しているように、処置により予期しない反応が生じ、それに対する医者の説明がしっかりしていない、患者は腑に落ちないために、不安が生じ、次の処置に期待するが、それもダメ、不安感とともに痛覚が亢進してしまう、このようにしてできあがった強い痛み感覚が痛覚変調性疼痛であり、津痛覚変調性疼痛は痛みの修飾因子とも言えるのだと思います。痛覚変調性疼痛にはこのような面もあるのだと思っています。 議論が進む事を期待します。
毎月、その月の話題を掲載していこうと思っています。
 
2022年08月28日 20:41

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