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原因不明の歯痛、顔の痛みに慶應義塾大学における永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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allodyniaの勘違い 勘違いシリーズ2

検査結果と病態が一対一で結ばれるモノが極く限られています。前号で打診痛、かみしめ痛が歯原性に特異的な症状ではないことを書きました。
アロディニア: allodynia)とは、通常では疼痛をもたらさない痛覚閾値以下の弱い刺激によっても痛みが感じられる感覚異常のことです。日本語では異痛症と言いますが、通常アロディニアあるいは allodyniaと記されます。
アロディニアが神経障害性疼痛に特異的な症状として誤解されていて、感覚検査の結果、アロディニアが見つかると神経障害性疼痛と診断されていることがあります。 これは早合点、診断エラーの場合があります。
アロディニアは片頭痛、群発頭痛でも認められると言われています、ここまで書けば神経障害性疼痛に特異的な症状で無いことが判ってもらえると思います。
口腔顔面痛の臨床においてアロディニアがよく診られるのは、神経障害性疼痛例、筋・筋膜疼痛例と神経障害性疼痛と筋・筋膜疼痛の重複例です。 筋・筋膜疼痛単独でも関連痛が感じられる部分にallodyniaが生じます。

口腔顔面痛専門医に、神経障害性疼痛と診断され、プレガバリン、アミトリプチリンなどの薬剤を処方されているが改善しないと言う症例を診ます。何故、改善しないのかの疑問に答えます。
典型的な症例では、神経経支配に沿ってallodyniaが認められたことから神経障害性疼痛と診断したのだと推定されるのですが、allodyniaに加えて、咬筋、側頭筋に筋・筋膜疼痛があり、圧痛診査によりallodyniaが認められた部分に関連痛が生じます。診断は神経障害性疼痛疑い プラス 筋・筋膜疼痛となります。
このような例の治療はプレガバリン、アミトリプチリンなどの薬剤の処方はファーストチョイスでないだけでなく、薬物療法を先行すべきではありません。神経障害性疼痛と筋・筋膜疼痛の重複例では、神経障害性疼痛に対してプレガバリン、アミトリプチリンなどの薬物療法が奏功しても、筋・筋膜疼痛にマスクされて痛みの自覚症状の改善はありません。筋・筋膜疼痛が重複している場合の治療順番は必ず1.筋・筋膜疼痛、改善後に2.神経障害性疼痛です。
1.筋・筋膜疼痛の治療による痛みが改善し、allodyniaも消失したら、痛み、allodyniaとも筋・筋膜疼痛による症状と理解出来ます。
2.筋・筋膜疼痛の治療により、痛みは完全消失していないが、筋圧痛による関連痛が消失した。allodyniaも残っている。この状況で残っているallodyniaは神経障害性疼痛によると考えて、薬物療法を開始する。
3.薬物療法の結果、自発痛は消失したがallodyniaは残っている場合がある。自発痛は生じないまで改善したが、刺激による誘発痛としてのallodyniaは残っている。完全消失しない場合もあると考え、自発痛が無ければ自然経過を観察すべき。
 
2022年03月28日 17:33

歯原性歯痛診査結果の勘違い

痛み診査の結果をどうのように解釈するかは非常に大事なことです。
通常、この診査結果はこのように解釈すると思われている事柄に、勘違いが含まれています。
1.患者さんの「しびれている」の訴えを、診査する側はそれぞれの認識の深さ、こだわり、とらわれなどにより、感覚過敏と捉える場合と感覚鈍麻と捉える場合があります。正反対の理解、捉え方ですから、その後の治療が異なってくる可能性大です。そこで、この 患者さんの「しびれている」の訴えが「感覚過敏か感覚鈍麻」なのかをはっきりさせるべきです。これは他の項目で書きました。
2.歯が痛いという訴えに対して、患歯を同定するために、打診痛、何かを上下の歯にはさんでかみ締めで痛みが出るかどうかを行います。そして、打診痛で他の歯に比べて反応が強い、ある歯でかみ締めたときに痛みが出ると、その歯が原因の可能性ありと判断します。打診痛については後述しますが、かみ締めによる痛みは、歯にかみしめの力が掛かり歯根膜を含めた歯周組織に炎症があって痛みが出たと理解されますが、もう一つ、かみしめの力のもとである咬筋など咀嚼筋の筋痛が関連痛(異所性疼痛)として歯の痛みに感じられる場合があります。 打診痛とかみ締め時痛が重なったら歯原性か、 まあ、確率的には歯原性と言えると思いますが、咀嚼筋の筋・筋膜疼痛があって、歯に関連痛が続いていた場合には歯根膜の感作により打診痛 プラス かみしめ時の咀嚼筋痛が起こる場合もあるので 例外もありうるということになります。
2-1、この結果の勘違いを無くすには、 筋触診をすることです。
筋触診によって筋肥大、硬結、圧痛があり、歯に関連痛が生じた場合には筋・筋膜疼痛による打診痛も出る可能性が高く、要注意です。
可能ならば筋の圧痛部分、トリガーポイントに局所麻酔をして、圧痛による関連痛が消えることを確認した後にかみ締め試験を行い、歯痛が出るかどうかを確認する。筋への局所麻酔前はかみ締め試験で歯痛が出たが、局所麻酔後のかみ締め試験では歯痛が出ない場合にはその歯痛は筋・筋膜疼痛による歯痛だったという事になります。
局所麻酔後のかみ締め試験でも歯痛が出た場合には歯原性の可能性が高いと判断できます。最終確認は歯痛のに局所麻酔をすれば確実に診断できます。

 
2022年03月28日 11:16

コロナ後の学術大会、セミナーは対面かオンラインか

コロナ禍で、2020年3月の緊急事態宣言以来、外出自粛、在宅勤務が推奨されると共に学術集会も制限されてweb開催が一般的となっている。
学会学術大会をはじめとした各種集会、セミナーをweb開催する事が難しい作業を伴うのかと思っていたが、以外に簡単な手続きで開催できていた。私は2018年から口腔顔面痛オンラインセミナーをgooglemeetingで毎月開催していた。当初は参加人数、開催時間の制限があったがコロナで、それらの制限が解除され、さらにzoomという媒体が一般化されて、オンラインでの会議、集会開催が非常に容易になった。セミナーの開催回数が増えて、学習機会が多くなった。
アジアの教え子達から自国の学術活動低下からオンラインでのセミナーの依頼が来る、かつては飛行機、ホテルの手配が必要だったが、今はお互いの都合の調整だけで対面と同様の講義が可能となっている。
最近の学会学術大会はLIVEでのweb配信と、それをビデオ化したものが学会以後もオンデマンドで配信されている。このサービスにより多くの学術大会の参加者数が増えているようである。学会場に時間と交通費、宿泊費をかけて出かけるという従来の学会参加様式に比べて、自分の都合に合わせて自宅、診療室のPCで参加できるという大きな利点がある事を皆さんが享受できたのである。
それでは今後の学会学術大会の開催形式はどうなるのかという疑問がある。それは、学会場にいて時間を過ごすことにより知り合いに会っていろいろな話をするメリット、、期待しなかった、聴取の意図が無かったプログラムを視聴することによる学習の機会があることなど、多くのメリットがあることに改めて気づかされた。人間はやはり人が恋しくなる特性があり、特に2000年以降に成人になったミレニアル世代は対面で会えないことにより孤立になる可能性があるそうだ。
個人的には海外の学会学術大会というアウエイーの経験が非常に良い体験となっている。
会社の勤務形式も同様の様で、米国IT企業がコロナ後の勤務形式を模索しているというニュースがある。方向としては、働き方の柔軟性である。ところが、実際にリモートに適している仕事は米国の労働者の四割しか無く、しかも職場に出勤しなければならない仕事は低所得の業種の傾向があるそうである。リモートワークが普及し効率が上がっても、その恩恵を受けられるのはごく一部で、経済格差はさらに広がることが予測されている。
4月以降の学会学術大会はの開催形式はどうなるのか、何時になったら海外学会に参加できるのかと、コロナ後の学会参加を楽しみにしている。アジアの皆さんの講義の謝礼は現地に行った際にごちそうしてもらう事と約束している。
 
2022年03月21日 21:19

矯正治療による関節痛性顎関節症の発症

世界的エビデンスとして、矯正治療がTMDの治療にならない、矯正によって歯並びをきれいにすることがTMDの予防にもならない。一方、矯正治療がTMDの原因にならない、ということです。
ここからは個人的見解です。矯正治療において、必要、十分条件が揃うとTMDが発症する可能性があるという私見です。
必要条件:1.全身Hypermobility(簡単な検査法:手首を屈曲させて、親指が手首につくまで曲がるかどうか)and 2.歯ぎしり(犬歯、その前後の切端に削れた後がある、専門的には形状突起部に圧痛がある) 1and2で両方を満たすこと。
十分条件:側方ガイドがなくなる(ガイドがなくなることにより、側方運動時に反対側の下顎頭の動きが回転が減って滑走が多くなる、その結果、前方滑膜が圧迫されて機械的炎症を生ずる)。
側方ガイドが無くなる一番の原因は経時的変化として歯ぎしりによる咬耗です。これが関節痛性顎関節症の一番の原因と思われます。
ところが、側方ガイドが無くなる原因が加わりました。マウスピース矯正です。 上下顎にマウスピースを入れることにより、一気に側方ガイドが無くなります。
そのために、必要条件の全身Hypermobility、歯ぎしりを有している人が上下顎にマウスピースを入れることにより、下顎頭の前後方への滑走が大きくなります。特に前方に滑走したときに靱帯、筋肉により上方に牽引されているために、関節反力が強くなって、前方滑膜に炎症が生じます。
対処法はこれまた私見ですが、上顎マウスピースの即充レジンで犬歯部に側方ガイド(犬歯誘導)を付与することです。毎週マウスピースを交換するので、月に一回来院してもらい4-5個まとめて側方ガイドをつけています。
症例(要約):高校生 必要条件:全身Hypermobility and 歯ぎしり満たす。
上下顎にマウスピースを入れて一週間後に左側顎関節痛発症、3ヶ月後に来院、上記メカニズムが想定されたので、上顎マウスピースに側方ガイド付与、二週間後に関節痛改善
全部の上顎マウスピースに側方ガイド付与し、関節痛再発無く経過していたが、次のマウスピースの届かなく、同じマウスピースを一ヶ月以上使っていたら側方ガイド破折、約一週間で反対側の関節痛発症
そのマウスピースに再度、側方ガイドを付与、一週間後に関節痛改善
一ヶ月後、来院、側方ガイドはついていました。関節痛診査したところ、左右下顎頭牽引圧迫誘発テストで痛み無しでした。

 
2022年03月20日 09:17

口腔顔面痛とは、口腔顔面痛専門医のやっていること  

一般社会において口腔顔面痛の認知度が低いことによって、口腔顔面痛の患者さんが早期に、適切な治療が受けられない状況が続いています。
歯科医師における理解度は1996年以来、歯科医師国家試験に非歯原性歯痛に関する問題が毎年出題されているんで徐々に高まって来ています。しかし、1996年以前に歯科医師試験を受けている方は大学で口腔顔面痛、非歯原性歯痛の講義を受けていないことが多いのです。米国ですら、口腔顔面痛専門医のいない州があるくらいで、ハワイには専門医はいません、里帰りにのついでに受診した患者さんがいます。このような状況は世界中で同様で憂うべき状況にあります。
 以下は、米国口腔顔面痛専門医会HP(American Board of Orofacial Pain2022年1月アクセス)、米国口腔顔面痛学会HP( American Academy of Orofacial Pain2022年1月アクセス)より引用した文章です。
口腔顔面痛とは、口腔顔面痛専門医のやっていること     
口腔顔面痛とは、顔面および/または口腔に知覚される痛みのことである。その原因は、局所構造の疾患や障害、神経系の機能不全、あるいは離れた部分からの関連痛によるものである。
口腔顔面痛は、複雑な口腔顔面痛の治療に特化した歯科医学の中でも発展途上にある分野です。その領域は拡大しつつあります。口腔顔面痛の治療は、世界の多くの地域で既に歯科の専門分野となっており、他の地域では新たに専門分野に発展中である。 
口腔顔面痛専門医は、口腔顔面領域の痛みに関して他の歯科医師、医師、その他の医療提供者の相談役となり、様々なレベルの治療を行う主要な医療提供者であることも多い。したがって、口腔顔面痛専門医は、口腔顔面痛疾患の診断、治療、リハビリテーション、および予防において実力を備えている必要がある。 
口腔顔面痛専門医は、これらの疾患の基礎となる病態生理学、病因、予防、および治療に関する証拠に基づく理解を深め、学際的な患者ケアの能力を向上させることに専念しています。 
 
2022年03月20日 08:58

矯正治療は顎関節症の治療になるか、予防になるか

米国における矯正とTMDの関連についての1992年以来30年間にどのように変化したか、結論は残念ながら、必ずしも期待された方向には進んでいるとは言えないようです。
望まれている方向性は「TMDケアを過度な咬合および機械的考え方一辺倒から、医学的および生物心理社会的モデルへの移行すること」である、この考え方はTMD全般において共通する考えである。

興味のある方は本文を読んでみてください。
Sanjivan Kandasamy、 Donald J. Rinchuse、Charles S. Greene、 Lysle E. Johnston Jr
Temporomandibular disorders and orthodontics: What have we learned from 1992-2022?
American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics Published:January 07, 2022DOI:https://doi.org/10.1016/j.ajodo.2021.12.011

HighLight
1992年1月にAJODOが顎関節特集号を発行して以来、30年が経ちました。
- 1992年以来、数十年にわたり、エビデンスに基づくデータが大量に蓄積されてきた。
- 抜歯を伴う、あるいは伴わない従来の矯正治療では、顎関節症の治療にならないし、それがTMDの原因ともならない。
- 犬歯誘導咬合を確立し、特定の遠心関係位と最大咬頭嵌合位の一致を達成することは、TMD治療のエビデンスに基づくものではない。
- 顎関節症管理は、咬合と機械的な考え方から、医学的および生物心理社会的なケアモデルへと移行している。

結論
残念ながら、顎関節症や最近では睡眠呼吸障害を治療または予防するという名目で、非抜歯、拡大、代替または非伝統的矯正歯科、顎の成長、特定の咬合スキーム、下顎頭の位置とポジショニングテクニックなどを提唱する多くの哲学や学派がまだ存在しています。
今日でも、歯科矯正医は、存在しない顎関節症を診断・管理したり、顎関節症の治療や発生を予防することを奨励され、それに伴う短期的な経済的利益を享受している。しかし、このような根拠のない顎関節症治療を行うことは、患者の健康を損なうだけでなく、回避可能かつ弁解の余地のない法的請求につながることを認識する必要があります。
自称専門家やその信奉者は、30年にわたる質の高い科学的調査や説得力のあるエビデンスの蓄積の後でも、自分の信念に矛盾するエビデンスを目の前に出されると、そのエビデンスを簡単に否定してしまうことがあるのです。
現在、歯科矯正学と顎関節症の関係は、生物心理社会モデルへと移行していることが一般的に認識され、歯科矯正学の専門家に広く受け入れられていますが、それでも、一般の人々を混乱させ、損害を与える可能性のある個人的な逸話的概念を広め続ける人々がいる。
矯正治療に関連したTMDが将来再び発生するかどうかは、現在わかっていることに基づけば、特に矯正治療が現在の最良のエビデンスに従って行われれば、可能性は小さいと言えます。
臨床家は、TMDケアを過度な咬合および機械的モデル一辺倒から、医学的および生物心理社会的モデルへの明らかな移行を受け入れなければなりません。
この変化はまた、保存療法や可逆的療法の最新の使用法を熟知する必要があることを意味し、患者によりよいサービスを提供するために、適応に応じて他の医療専門家の関与を考慮する必要があります

参考として、1992年1月にAJODOが顎関節特集号に書かれていた結論です。 6の「矯正治療がTMD治療に役立つ可能性あり」は 変わりました。

1. 歯列関係や骨格構造と顎関節症との有意な関連は示せなかった。

2. 顎関節症の発症を予測することはできない。

3.顎関節症の予防法は証明されていない。

4. 顎関節症の有病率は年齢とともに増加し、通常は思春期から始まる。したがって、顎関節症は矯正治療中に発症しても、治療とは無関係である可能性がある。

5. 歯列矯正治療そのものが顎関節症の原因とはならない。

6. 顎関節症患者の治療の一環として、矯正歯科治療が症状の軽減に役立つ可能性がある。

7.一度顎関節症になると、顎関節症が治るということはありえない。


 
2022年03月17日 20:21

痛覚変調性疼痛 ストレスが痛み神経系を変化させ痛み 

論文を紹介します。
心的外傷が痛み神経系を変調させて、末梢とは無関係に痛みを感じる状況になる可能性がある。
特に発達期の心的外傷は影響が大きいと書かれています。
私見ながら、心的外傷による痛み神経系の変化が痛覚変調性疼痛の原因のひとつであると思います。

心的外傷に基づく疼痛回復と疼痛管理の比較
Trauma-Informed Pain Recovery Versus Pain Management
Bennet E. Davis, MD
Pain Rehabilitation Program Director, Sierra Tucson Tucson, Ariz.
 
私たち医療関係者の間では、有害なストレスが神経系の感覚処理機能を変化させ、組織病理とは無関係の痛みをもたらすという事実に対する理解と評価が高まっている。
発育期や成人期に心的外傷を抱えた人は、圧痛閾値が著しく低く、痛みの感じ方が異なることが研究で明らかになっています1-3。
関連記事
周術期の痛みを個別化・複合化する7つのステップ 慢性前立腺炎/慢性骨盤症候群の症状が鍼灸治療で改善される。若者の心理社会的アフターケアは臨床的に大きな利益をもたらす。 心的外傷が慢性疼痛につながるのであれば、心的外傷に対する治療は痛みを和らげるはずということになります。実際、心的外傷の回復が痛みの回復につながるという考えを支持する6つのランダム化比較試験がある4。
しかし、いまだに私たちは、患者の苦痛の原因が侵害受容性疼痛であるかのように、つまり、身体的損傷から来るものであるかのように、心的外傷的体験による神経障害性疼痛(訳注:痛覚変調性疼痛)を管理する傾向がある。例えば、抗生物質やオピオイドを処方し、心的外傷の精神的な後遺症に対処しない傾向がある。
個々の患者や社会全体の健康のために、プライマリーケア提供者、痛みの専門家、その他の医師、行動医学の専門家は、私たちの考え方や治療方法を変えるべき時が来ているのです。
 
事例:心的外傷の人質にされた患者さん シエラトゥーソンの疼痛回復プログラムに来る患者さんの多くは、自分の状態を「罰当たり」「残酷」といった感情的な言葉で表現されます。しかし、その大半は、自分のひどい痛みと心的外傷の間に関係があることに気づいていないのです。  
数年前、私が診察したある患者は、体中のあらゆる場所に痛みを感じていると報告してきました。彼女は、どこからともなくやってくるような衰弱した痛みのために、すでに3年間も身体障害者手帳を取得していたのです。この3年間、彼女は多くの医療専門家に診てもらったが、痛みの原因となる組織は見つからず、線維筋痛症、全身性エリテマトーデス、慢性ライム病、多発性硬化症と別々に診断されていた。彼女は抗生物質、オキシコドン、ベンゾジアゼピン系薬剤に何万ドルも費やしましたが、ほとんど効果はありませんでした。
初診のとき、夫が突然、あることを思いついた。「ちょっと待てよ、ハニー」と彼は言った。「痛みが始まる1ヶ月ほど前に、クイックマートで人質になり、男があなたの喉にナイフを突きつけてきて、保安官が後ろから撃ち殺さなければならなかったのを覚えていないかい?先生、身体的には無傷でも、それが彼女の痛みと関係あるのでしょうか?" 
間違いありません。この患者の疼痛症候群は、人質事件から約1ヵ月後に始まった。これは、身体の神経系が痛みを異なる方法で処理するように再配線されるのにかかる時間である5。
ソマティック・エクスペリエンスと呼ばれる心的外傷回復治療と、グループ認知行動療法、弁証法的行動療法が結果を出した。6ヵ月後、彼女は仕事に復帰し、鎮痛剤もやめ、とても元気にしています。 確かに、人質事件に耐えることは稀なことです。
しかし、この国には、もっと一般的で、私が診療で見てきた慢性的な痛みの原因でもある、発達期心的外傷という有害なストレスの原因がもうひとつあるのです。世界中の研究により、幼少期の心的外傷と大人になってからの慢性疼痛の発症には、比例関係があることが示されています6。
Substance Abuse and Mental Health Services Administrationによると、3分の2以上の子どもが、16歳になるまでに少なくとも1つの心的外傷となる出来事を報告しています。
私たちの社会は、文字通り、そして比喩的に傷ついているのです。私たちは、単なる痛みの管理を超えて、全人的な痛みの回復を目指す必要があるのです。実際、カリフォルニア州初の外科医長であるNadine Burke Harris医学博士は、州の公立学校のすべての生徒が発達期心的外傷のスクリーニングを受けるよう呼びかけ、すでにこの運動を始めています。
彼女は、有害な幼少期の体験や有害なストレスに関する公衆衛生規模の介入が、私たちの時代の公衆衛生の最大の進歩になると考えています。
しかし、私たちはいまだに、心的外傷に起因する神経障害性疼痛(訳注:痛覚変調性疼痛)を、患者の苦痛の原因が侵害受容性疼痛であるかのように、つまり身体の傷害から来るものであるかのように管理する傾向があるのです。
例えば、抗生物質やオピオイドを処方し、心的外傷の精神的後遺症に対処しない傾向がある。
患者さん個人と社会全体の健康のために、プライマリーケア提供者、痛みの専門家、その他の医師、行動医学の専門家が、考え方や治療方法を変える時期に来ているのです。
 
疼痛管理から疼痛回復へ 
患者の慢性的な痛みを完全に理解するには、痛みの専門医と理学療法士、行動医学の専門家が協力し、集学的なアプローチを行う必要があります。
痛みの教育、運動療法、体験療法、薬物療法、個人療法や集団療法による感情処理、認知行動療法、バイオフィードバックや経頭蓋磁気刺激などの統合的な治療が必要なのです。
痛みが強すぎて外傷治療や理学療法ができないという患者さんもいらっしゃるでしょう。このような患者は、神経系について話すことも、ましてや心的外傷について話すこともできませんし、理学療法士に触られることにも耐えられないでしょう。
医療専門家として、私たちは、患者が心的外傷という重い負担を抱えていることが分かっていても、まず彼らが感じている「身体的な」痛みに対処し、優しい心的外傷療法を行うことによって、彼らの現状に対応しなければなりません。 しかし、そこで終わらないのが私たちの務めです。
そして、心的外傷に適応した神経系がどのように痛みを脳に伝えているのか、患者を教育する必要があります。そして、患者さんがその関係を理解し、受け入れ始めたら、心的外傷の治療を開始し、私たちの職業は、単なる痛みの管理を超えて、完全な痛みの回復へと向かうことができるのです。
References
  1. Tesarz J. Distinct quantitative sensory testing profiles in nonspecific chronic low back pain subjects with and without psychological trauma. Pain. 2015;156(4):577-586.
  2. Gomez-Perez L. Association of trauma, post-traumatic stress disorder, and experimental pain response in health young women. Clin J Pain. 2013;29(5):425-434.
  3. Creech S. Written emotional disclosure of trauma and trauma history alter pain sensitivity. J Pain. 2011;12(7):801-810.
  4. Tesarz J, Wicking M, Bernardy K, et al. EMDR therapy’s efficacy in the treatment of pain. J EMDR Pract Res. 2019;13(4):337-344.
  5. McCarberg B, Peppin J. Pain pathways and nervous system lasticity: earning and memory in pain. Pain Med. 2019;20(12):2421-2437.
  6. Jackson WC. Connecting the dots: how adverse childhood experiences predispose to chronic pain. Practical Pain Management. 2021;20(3):24-28.
2022年03月03日 09:06

スプリントは適応症を見定めて、筋痛治療は難しい

スプリントの有効性英国-コピー_4 (2)
顎関節症の痛みの主体は顎関節の痛みと思っている方が多いと思いますが、それは誤解で、顎関節症の痛みの主体は咀嚼筋痛です。
関節痛は炎症による痛みなので、ロキソニンなどのNSAIDSが有効ですが、筋痛の治療は少し難しいです。
私の筋・筋膜疼痛を含めた筋痛の治療法は、第一に負荷の軽減を目的としたセルフケアの指導、 かみしめ、こわばりの自覚を促し、頸部、咀嚼筋の開口ストレッチ、次に超音波照射して深部温を高め、徒手的に筋膜リリースを行います。慢性化している場合にはトリプタノールを併用します。
ちなみに、スプリントは歯ぎしりによる関節痛に対して、必ず側方ガイドを付与したものを用います。

最近、米国では疫学研究の手法としてネットワークを活用したものが主流になりつつあります。
痛みのある顎関節症に関するネットワークによる研究があります。
Ana Miriam Velly, Gary C Anderson, John O Look, Joseph L Riley, D Bradley Rindal, Kimberly Johnson, Qi Wang, James Fricton, Kevin Huff,
Richard Ohrbach, Gregg H Gilbert, Eric Schiffman,
 National Dental Practice-Based Research Network Collaborative Group Management of painful temporomandibular disorders: Methods and
overview of The National Dental Practice-Based Research Network prospective cohort study
J Am Dent Assoc . 2022 Feb;153(2):144-157. doi:
対象は1,901名の有痛性顎関節症患者です。
起床時の顎の痛みやこわばりが82%が認められ,40.3%は弱い痛みであった.診断名は,筋肉痛(72.4%),顎関節症に起因する頭痛(51.0%)が上位を占めた.
推奨される治療法は,セルフケア指導(89.4%),スプリント(75.4%),薬物療法(57.6%)であった.
症状として起床時の顎の痛みやこわばり、筋痛に対して、実施されている治療法はセルフケア指導とスプリント、薬物療法であった。
ここで、顎関節症の筋痛に対してスプリントが有効なのかという疑問が生ずる。
なぜならば、スプリントによる顎関節症の痛み治療の有効性を検討した論文で、「非常に低い確実性のエビデンスながら、顎関節症患者の疼痛に対してスプリントは大きな利益は得られない」と結論しているからである。
Romina Brignardello-Petersen
Very low certainty evidence suggests no important benefits from using oral splints for pain in patients with specific temporomandibular
disorders J Am Dent Assoc . 2020 Sep;151(9):e77.
 
2022年02月28日 21:28

痛覚変調性疼痛の一面

痛覚変調性疼痛について

ある方が、不確実さと不安、確実さと安心について下記のインドの昔話を紹介しています。
ある男が超能力を獲得しました。その能力とは、人を念じながら観察すると、その人が1年後に生きているか、死んでいるかがわかるのです。その男のもとには、いろいろな病に悩む人々が次々と訪れるようになりました。1年後に生きていると言われれば小躍りして帰っていきます。1年後に死んでいると言われれば納得して帰ります。その男は名医と呼ばれ、患者が絶えることがなかったと言います。
皆さまは、この昔話をいかが思いますか。違和感を覚える人も、なるほど名医だと納得する人もいることでしょう。
この男は本当に名医でしょうか。この男は、一切の医療行為をしていません。ただただ、1年後の生死を正確に伝えているだけです。しかし、予言をさずかった者は、その男を名医と崇めます。なぜでしょうか。不安がなくなるからではないでしょうか。不確実さは不安をまねきます。1年後の確実な情報が安堵を与えます。患者の立場からは、安心を与えてくれる人は名医なのです。

ここで、「不確実さと不安、確実さと安心」と痛覚変調性疼痛を繋げてみましょう。
BioPshychoSocialと捉えた場合、Bioは同じでも、不確実な状況、環境(Social)にあると不安がつのります(Psycho)。末梢からの痛み刺激(Bio)がある中で、高まった不安感が扁桃体を刺激して痛覚を変調性し、疼痛が敏感に近くされる状況が痛覚変調性疼痛といえます。
このように敏感に感じられた痛みが不安感を高めて、痛覚変調性疼痛の悪循環が形成されます。
では、解決法は「大丈夫ですよ、あなたの病気は顎の筋肉の痛みです、ちゃんと治療法があって、このようにストレッチすると治りますよ」と伝える事です。
ここでOkeson先生の強調する適応能力が高ければ、あっさりと症状が改善するでしょう。ところが適応能力の低い人は悪循環が止まらずに慢性化が続きます。
2022年02月23日 10:26

スプリントが有効な場合と無効な場合

顎関節症の治療として、スプリントがオールマイティーであるかのように使われます。
しかし、現在スプリントがかつて考えられていたほどには有効で無いと言われるようになっています。
有効と思われていたのは、Okeson先生が述べていたように、多くの患者さんは適応能力が高く、診療を受け、「このスプリントで良くなります」というひと言で改善していたのだと思います。
私の診療において、スプリントをはっきりと使い分けています。
一番有用なのは、歯ぎしりが強く、関節痛がある場合です。犬歯部にかなり急な側方ガイドをつけます。これによって反対側の下顎頭の前方滑走を制限する目的で使用してもらいます。
最近、見えない装置による矯正が普及しています。上下顎に床装置を入れて、床の弾力性によって歯を動かす治療です。このような装置を入れることにより顎関節痛が生ずる患者さんがいます。例えば、全身の関節の可動性が大きく手首を曲げると親指が手首につくほどの人で歯ぎしりがある人は顎関節痛予備軍です。このような患者さんに上下顎に床装置を入れると犬歯のガイドが無くなって、睡眠中に下顎は大きく左右側方に動き、下顎頭は前方の滑膜を圧迫してしまいます。その結果、前方の滑膜に機械的に炎症を起こしてしまいます。
対応としては矯正用のスプリントに歯ぎしり対策として側方ガイドを盛り足します。多くは1-2週で改善します。

Hypermobilityと言われる全身の関節の可動性が大きい体質の人が歯ぎしりをして、関節痛がある人には歯ぎしり対策を施したスプリントを入れると非常に有効だが、歯ぎしり対策をしていない、平らなスプリントを入れると関節痛がもっと悪くなる可能性があります。
では、筋肉痛ではどうでしょうか。 これは次の原稿に書きます。
二年前、英国歯科医師会雑誌に下記の様な結論の論文が出ました。世界中のTMD専門医は予想していた事ながら、ビックリしました。  
Very  low  certainty  evidence  suggests  no important  benefits  from  using  oral splints  for  pain  in  patients  with  specific temporomandibular  disorders
非常に確実性の低いエビデンスながら,顎関節症患者の疼痛治療としてスプリントを使用することによって役に立つことは無いことが示唆される

Riley P, Glenny AM, Worthington HV, et al. Oral splints for temporomandibular disorder or bruxism: a systematic review. Br Dent J. 2020;228(3):191-197. https://doi.org/10.1038/s41415-020-1250-2.
2022年02月22日 14:19

【電話番号】
03-3478-5248

【住所】
〒107-0051
東京都港区元赤坂1-1-7
赤坂モートサイド505

【診療時間】
10:00~13:30
14:30-18:00

【診療日】
火曜日、金曜日、土曜日(午前)
※第2火曜は休診し、水曜に診療
※第1、3土曜日診療

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