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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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自己筋触診の勧め 圧痛点を探す

最近の口腔顔面痛患者さんで勉強したこと-2  
 
口腔顔面痛が歯科の日常臨床で診断されない原因は明白です。歯科医師の教育不足です。口腔顔面痛の半分を占める筋・筋膜疼痛の診断のための筋触診法が伝えられていない、3割を占める神経障害性疼痛の診断のための感覚検査法が伝えてられない事に尽きます。平成26年度に非歯原性歯痛が歯科医師国家試験の出題範囲に含まれたので、非歯原性歯痛の原疾患が国家試験対策として教育されました、しかし、診断のための筋触診法、感覚検査法は文字で伝わらず、実際のビデオでも不十分、HandsOn(ハンズオン)でしか伝えられないのです。全国の歯学部で筋触診法、感覚検査法がハンズオンの実習で教育されているのは極少数でしょう。
筋触診法、感覚検査法をハンズオンで実習できるのは日本口腔顔面痛学会の診断実習セミナーだけです、残念ながら診断実習セミナーはコロナによって3年間オンラインだけで行われていましたのでハンズオンの実習は出来ていませんでした、今年は対面の実習セミナーが開催される予定です。
それなら患者さん自身で診査が出来ないかと思い、試行錯誤した結果、自分診査法を提案します。
  1. 筋・筋膜疼痛(トリガーポイント)診査の為の筋触診
  1. 頬にある咬筋をみつけましょう。両肘を胸に当て両手で頬を触ります、かみしめて人差し指から薬指で盛り上がる部分を触りましょう、そこが咬筋です。親指は下顎骨の下縁に下から固定し、他の指も固定してかみしめを弛めましょう。
  2. みつけた咬筋に置かれた人差し指から薬指をまとめてゆっくり小さな円を描くようにして咬筋の全体を触りましょう。凸凹がないかどうか、固い部分がないかどうか、大きさは左右同じかどうか、咬筋の全体像を見失ったら、もう一度かみしめて、咬筋をみつけましょう。そして、凸凹を探しましょう。
  3. かみしめて一番盛り上がった部分に、人差し指か薬指を固定して、かみしめを弛めてもらいましょう。弛めても固い部分はそのまま残っています。その部分が筋硬結部分です。少し力を入れて(最低1kg、2kg程度まで圧すこと)、小さくコリコリと押してみましょう、きっと強い痛みが出ます、場合によっては少し押すと押したところからアゴにジワーーと響くのが判ります。これがトリガーポイントからの関連痛です。トリガーポイントは一個に限りません、同じような手法で咬筋の上部(起始)から下部(停止)、さらに前縁から後縁まで全体で固い部分がないかどうか調べましょう。
  4. このようにして、自分で咬筋を診査した結果、筋に硬結、圧痛があり、そこを5秒程度圧しているとじわーっと拡がり、さらには歯の痛み、アゴの痛みが出て、その痛みが何時もの痛みであれば、あなたの歯痛、アゴの痛みは咬筋の筋・筋膜疼痛による痛みと言うことになります。
これが口腔顔面痛の診査で行っている筋触診です。その方法はやっているよと言う方がいると思います。同じように筋診査をしているのに、なぜ筋・筋膜疼痛が診断出来ないのか、その理由は力不足です。歯科医師でも、どれくらい圧したら良いのか解らないために充分な圧で押していない、一番多いのは腕力が無いために、安定して2kgの圧痛診査が出来ない事です。女性の方は特に腕力が無いことが弱点です、他の記事にも書きましたように筋・筋膜疼痛の正しい診査診断には腕力を鍛えるトレーニングも必要です。
追記:先日、筋触診のハンズオン実習の機会がありました、気になったことは、1)筋圧痛の有無は探せても、トリガーポイントは探せないだろうなと思わせる触診、gently palpated for TP ではない、雑、乱暴、動きが速すぎる、トリガーポイントの上に置いた指先に約1-2kの圧を加えて、指先をずらさずにゆっくり小さな円を描く。2)女性の圧力が弱すぎて、トリガーポイントを探せない。やっぱり、腕力を鍛える必要あり、毎日、腕立て伏せするとか。
 
 
 
2023年07月17日 14:01

最近の口腔顔面痛患者さんで勉強したこと-1 来院までの経過

最近の口腔顔面痛患者さんで勉強したこと、 イヤ、勉強させてもらった事でしょうか、これからの患者さん診療に活かさせてもらいます。
 
私のクリニックにいらっしゃる患者さんの訴えは原因不明の歯痛、口、頬、アゴ、頸、頭の痛みです。これらの痛みを総称して口腔顔面痛という病名が使われます。
様々な痛みを訴えていらっしゃる患者さんの多くは既にいろいろな治療を受けています、歯科治療として、抜髄、根管治療、抜歯を受けている患者さんもいます、また、内科、脳神経内科、脳神経外科、耳鼻科などいろいろな科を受診している患者さんもいます。さらに、近所あるいは評判の鍼灸院、整体、マッサージなどを受けている患者さんもいます。
口腔顔面痛の代表的な原疾患は咀嚼筋の筋・筋膜疼痛と三叉神経の神経障害性疼痛です。
このような原因により歯の痛みを感じている非歯原性歯痛患者さんの当クリニック受診までの典型的な経過を示します。
  1. 歯が痛いので歯科に行った、一軒目では歯は何処も悪くない、経過観察しましょうと言われた。痛みは続くので二軒目に行った、一軒目と同じように虫歯も歯周疾患も無い、原因不明と言われた。患者さんは私の歯の痛みは原因不明の痛みなんだと解釈した。3軒目を受診した時には、原因不明の歯痛と言われているので、この歯の神経を取ってみてくださいと言った、最初、歯科医師は何も異常のない歯の神経を抜くことを断ったが患者さんが何回もの懇願に根負けして神経を抜いた、数日痛みが消えたかに思えたが、痛みは再発して、元に戻ってしまった。患者さんは歯科医師に何とかしてこの痛みをとってほしいと訴えた、神経を抜く処置をした歯科医師はもはや引き下がれなくなり、抜髄(神経抜く処置)してもダメなら、歯を抜いてしまえば痛みは止まるだろうということで、抜歯を提案した、患者さんはそれで痛みが止まるならと、藁にもすがる思いで抜歯を受けた、結果は抜髄と同じ、数日痛みは感じ無かったが痛みは元に戻ってしまった。今度は隣の歯が痛いような気がする、患者さんは不安、怒りと諦めが入り交じった気持ちになり、一時も歯の痛みを忘れることが出来なくなってしまった。このような気持ちが続くことにより睡眠は浅く、途中で何回も目が覚めてしまう日が続いている。このような状況の中で隣の歯の痛みは以前に増して強くなったような気がする。もはや患者さんは、「私の歯の痛みを治してくれる歯医者は世の中にいないのか」と言った絶望感さえ感じるようになっている。  相当、苦しんでいたのでしょう。 苦痛、心が苦しく、そしあて、痛みが続く、口腔顔面痛の患者さんの状況を的確に示しています。
2023年07月17日 11:13

口腔顔面痛 Onsiteハンズオンセミナー開催予定

コロナによりオンラインセミナーが普及し、在宅でセミナーに参加出来るという大きな利便性が得られました。それによって、主催者と受講者を結ぶ一方向性の縦糸は太くなりましたが、双方向性ではありません、ここに大きな問題点があります。また、受講者間の横糸は繋がらず、疑問点解消の機会が失われているように思えます。
 
今年度になりマスク装着緩和、5月にコロナ5類移行によって、学会等が対面で行われることが増えています。学会場で久し振りに会って、いろいろな事をデスカッションしたいと誰もが思っていたようです。
私が主宰してる口腔顔面痛オンラインセミナーは元からオンラインですから、コロナに関係なくオンラインで続けて行きます。そして、オンライン一方向性の弱点を補うべく、これまた元からやっていたオンサイトハンズオンセミナーを復活させます。
つい先日皆さんに案内を出したところです。
【口腔顔面痛 Onsiteハンズオンセミナー】
期日:2023年9月17日(日曜日) 11時-16時
会場:慶應義塾大学北里図書館二階 第一会議室
オンラインセミナーは一方的になりがちですので、ハンズオンで筋肉に触り、口腔粘膜、皮膚の感覚検査をして、できるだけ双方向でデスカッションしたいと思います。
プログラム
1.筋痛関連:筋触診、超音波、トリガーポイントリリース
2.神経障害性疼痛関連:診断法、定性感覚検査、定量感覚検査、薬物療法、トピカル療法
3.痛覚変調性疼痛とは:診断基準、中枢感作、脳機能変調
4.口腔顔面痛オープンセミナー、オンラインセミナーでの疑問点解決
参加希望の方は7月31日までに  i.hiroco0827@gmail.com 池田浩子宛までメールをお願い致します。
 
2023年06月09日 21:34

コロナで何を邪魔され、何を得たか

コロナで我々は何を邪魔され、何を得たか
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、2019年12月初旬に, 中国の武漢市で第1例目の感染者が報告されてから, わずか数カ月の間にパンデミックと言われる世界的な流行となり、わが国でも, 2020年1月15日に最初の感染者が確認された後,アッという間に全国に広まりました。それから3年余り、ようやく収束の兆しが見えて、感染症法上の位置づけが5月8日、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行しました。今後、法律に基づいた外出自粛の要請などはなくなり、マスク、アルコール消毒など感染対策は個人の判断に委ねら、ほぼコロナ前に戻りました。
口腔顔面痛を専門とするものがコロナによってどの様な影響を受けたのか、
まん延防止宣言で外出自粛と言われた際も、通常通り診療していました。電車に乗るのが嫌とか、人混みが嫌とかでキャンセル延期した患者さんもいましたが、閑古鳥と言うほどではありませんでした。その頃に始めた診療の際のイソジンによるうがいは今も続けてもらっています。
日本口腔顔面痛学会を始め多くの学会はハイブリッド(会場で対面とLIVEプラスオンデマンド)開催というコロナ前には考えられなかった状況が出現し、自宅で学会聴講できるという便利な時代になりました。コロナ収束により多くの学会が現地開催、対面形式に戻ろうとしています、これからは主たる学会は現地に出向きますが、他の学会は今後も自宅でオンライン参加しようと思います。海外の学会はどうしようか悩み中です。オンラインでの参加を何回か試しましたが、気分的に英語の学会に集中しきれません、やっぱり、現地でどっぷり英語につからないとダメかなと思っています。
コロナによる悪影響はいっぱいですが、窮余の策で生まれた一つはオンラインセミナーの普及でしょう。2017年、大学止めて、それまでやっていた毎月の対面によるOFPオープンセミナーの運営は村岡先生に任せて、私はGoogleMeetをつかってOFPオンラインセミナーを始めました。コロナ前の当時は、Zoomには参加人数制限、時間制限(30分)があり、最も条件が緩かったのがGoogleMeet(同時参加人数24名)だったので、それで始めて、途中Zoomに乗り換えも考えましたが、今もGoogleMeet使い続けています。OFPオープンセミナーは対面からzoomによるオンラインとなり、当初の目的の慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室の研修医教育と慶應以外の方々にも口腔顔面痛研修の場を提供することを続けています。
コロナによりオンラインセミナーが普及し、在宅でセミナーに参加出来るという大きな利便性が得られました。それによって、主催者と受講者を結ぶ一方向性の縦糸は太くなりましたが、双方向性ではありません、ここに大きな問題点があります。また、受講者間の横糸は繋がらず、疑問点解消の機会が失われているように思えます。
 
2023年06月09日 21:31

筋・筋膜疼痛で生ずる口腔内、顔面の感覚変化 敏感、鈍麻

筋・筋膜疼痛で生ずる口腔内、顔面の感覚変化 敏感、鈍麻
 
筋・筋膜疼痛の典型的な症状は異所性疼痛としての関連痛です。これについては、何回も書いてきました。痛みの原因が無い歯に痛みを感じる、そして、その歯の周囲の歯肉に感覚異常が生じることがあります。歯肉が敏感になります、場合によっては歯根膜の感覚も敏感になるので打診痛があったり、指や舌で圧すと違和感が出たりすることもあります。このような症状を専門的には、Paresthesia(パレシテジア:自発性または誘発性に生じる「異常感覚、錯感覚、変な感じ 」)、Dysesthesia(ディセステジア:自発性または誘発性に生じる「不快な異常感覚、嫌な感じ」)、そしてallodynia(アロディニア:通常では疼痛をもたらさない痛覚閾値以下の弱い刺激によっても痛みが感じられる感覚異常)と言います。これらの異常感覚は神経障害性疼痛でも生じますから、allodyniaがあると、それは神経障害性疼痛ですと診断されていることもあります。
口腔歯肉、粘膜のallodyniaが神経障害性疼痛によるものか、筋・筋膜疼痛によるかの鑑別診断については別稿で書きます。

筋・筋膜疼痛で関連痛が生じている歯の周りの歯肉、粘膜は敏感になっていると書きましたが、筋肉の上の皮膚は敏感ではなく鈍麻になっています。
触覚が鈍麻になり、腫れぼったい感じと言う患者さんもいます、痛覚も鈍麻になっていて、爪楊枝でチクチクしても皮膚が厚くなって余り感じないと言うことがあります。このように、関連痛のある歯とその周囲の歯肉は敏感になる一方、当該筋肉を被う皮膚は鈍麻になることがあります。感覚検査を行うと、まず触覚試験で正常側は普通に触っている感じ、一方患側は余り感じない、皮膚が厚ぼったくて、触った感じが直接伝わらないと言った感じ、そして、痛覚検査で爪楊枝でチクチク、正常側はチクチク痛く感じますが、患側は余りいたくない、左右同じ位の力で触っていますかと聞かれるほど鈍麻になっています。
関連痛部分の歯、歯根膜や歯肉は筋肉の痛さを錯覚して感じているので敏感になる、一方、皮膚は筋痛に対する中枢性の抑制効果により全般的に感覚鈍麻になるのだろうと思います。これによって筋痛のある筋肉には痛みを感ぜず、関連痛のある部分は痛みを含めて全般的に敏感になっているということだと思います。

ところが、皮膚の鈍麻が敏感になることがあります、筋触診をすると少し圧しただけで痛くて顔をそむける位になることがあります、その場合には皮膚の触覚検査も痛覚検査も鈍麻では無く敏感になります。もはや中枢性の抑制機構は働かず、逆に中枢感作されている状態です。この場合、当該の筋だけでは無く、咀嚼筋、頸部筋の全部が敏感になり、肩、腕の筋肉も敏感に圧痛が感じられる事があります。何が原因で筋圧痛閾値が下がり、鈍麻だった皮膚が敏感になるのか、そのメカニズムは不明ですが、これが慢性的に続いている場合には痛覚変調性疼痛とも言えます。

痛覚変調性疼痛診断基準  確認項目1ab,c,dと4を満たすとグレード診断:痛覚変調性疼痛の可能性があるPossible
確認項目1a. 痛みは、 慢性的(3ヶ月以上)、
確認項目1b. 局所的(不連続的ではなく)多巣性、あるいは 広範囲に分布 
確認項目1c.. 侵害受容性疼痛の否定
確認項目1d.. 神経障害性疼痛の否定
確認項目4. 痛みのある部位に以下のいずれかの誘発性疼痛過敏現象が臨床的に誘発されること。
静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残遺症状が残ること。


 
2023年06月07日 15:12

筋・筋膜性歯痛を疑う

非歯原性だろう、そして筋・筋膜性歯痛を疑う
 
口腔顔面痛の代表的な病態である筋・筋膜疼痛は筋圧痛だけでは無く様々な症状を呈します。一番は痛みを感じる部位が筋肉そのものではなく、異所性疼痛、関連痛として離れた部位に感じることでしょう。
口腔顔面痛臨床においては筋・筋膜性歯痛が一番多い反面、異所性疼痛であるために正しく診断されない病態です。患者さんが「この歯が痛い」と訴える、しかし、「その歯には齲窩はなく、充填物も無い、打診無し、エアーにも反応しない、レントゲンも異常なし、どうもこの歯が痛みの原因になるとは思えない」、これが非歯原性歯痛の典型的な局所症状です。異所性疼痛、関連痛という概念を知っていると、患者さんがこの歯が痛いと言っているがこの歯は悪くなく、真の原因は他にあるのだろう、と言う事になり、さらに、非歯原性歯痛を知っていると、患者さんはこの歯が痛いと言ってるが原因は筋肉かもしれない、あるいは神経の異常かもしれないという事になります。一般臨床医ではこの程度の口腔顔面痛知識があれば充分と思います。患者さんが痛いと言っても、その歯の咬合調整したり、抜髄をしたりすることはなく、口腔顔面痛の判るところに紹介するでしょう。
非歯原性歯痛をよくみている先生方は、歯原性歯痛と非歯原性歯痛がそんなにクリアーカットに判別できないと言うでしょう。患者さんが痛いと訴える歯にう蝕があったら、打診があったら、非歯原性歯痛と簡単に判別できないじゃないかと、迷ったらNSAIDs(ロキソンニン等の消炎鎮痛薬)を服用して1週間様子を観ましょう、多くの歯原性歯痛は良くなるか、悪くなるか、何らかの変化が出ます。ところが非歯原性歯痛は全くと言って良いほど症状変化がありません。これでも診断が出来ます。自信が無かったら、その日の処置は止めて、少し経過観察しましょう。
 
2023年06月07日 10:23

一般臨床にも筋触診は大事です 是非出来る様になってください

口腔顔面痛、非歯原性歯痛の原疾患でもっとも多いのは筋・筋膜疼痛であることは世界共通の事実です。ところで、日常臨床で筋・筋膜疼痛が気になる事があるでしょうか、筋触診することがあるでしょうか。歯原性の痛みの場合には敢えて筋触診する必要は無いと思いますが、歯原性の診査をしたが原因不明、非歯原性歯痛が疑われる場合には筋触診は絶対に必要です。ここで大きな問題があります、歯痛の鑑別診断に筋触診が必要だと思っている一般臨床医が圧倒的に少ないこと、また、必要性を感じても筋触診のトレーニングを受けている人がさらに少ない、筋触診したことはあるが正確に出来るかどうか自信がない、と言ったことです。つまり、この歯痛はこの筋の筋・筋膜疼痛による関連痛としての生じていると診断できる一般臨床医は少ないということです。

当院を受診する患者さんの6割が筋・筋膜疼痛を元とする口腔顔面痛、非歯原性歯痛の患者さんです。残りの3割が神経障害性疼痛、1割がその他、痛覚変調性疼痛などの患者さんです。
筋・筋膜疼痛による非歯原性歯痛の患者さんの半分は歯内療法を専門とする先生方からの紹介です。一般歯科で歯内療法を受けたが改善せず、歯内療法専門医に紹介されたが歯原性では無い、非歯原性歯痛の可能性が高いということで当クリニックに紹介されます。このように2カ所の歯科を経て来院される方は恵まれている方々で、対局は3-4カ所を受診し、数歯の根管治療を受け、痛みが改善しないので抜歯、それでも治らないのでインターネントで検索してたどり着いたという患者さん達です。

丸3年以上続いたコロナ禍、学会、セミナーはオンラインでの同時あるいは後日配信というDXの恩恵が発揮されて、従来の現地に出向いて受講という形式から在宅で受講できるという変革がありました。ところが良いことばかりではなく、コロナにより障害された面もあります。一番が筋触診診査のHandsOn講習が出来なかったことです。現在の最先端のDXでも、筋触診の様子をビデオで供覧することは出来ても触診の指先に感じる感覚までは伝える事が出来ません。まさに、手に手を添えて指導する必要があります。

口腔顔面痛の臨床に立ち戻ると、コロナ禍により筋・筋膜疼痛がちゃんと診断されずに痛みで苦しむ人が増えたという事になります。
コロナ感染の可能性はまだまだ続きますが、そろそろ筋触診のHandsOn講習の再開を検討しようと思います。
 
2023年05月31日 11:30

中枢性関与が強い筋・筋膜疼痛の治療 トリプタノール

中枢性関与が強くなっている筋・筋膜疼痛の治療
筋・筋膜疼痛の治療において、トリガーポイントインジェクションよりもトリガーポイントプレッシャーリリースが重要である事を書きました。
本稿では、私が行っている標準的な筋・筋膜疼痛法を示し、それに反応しない場合に何を考えるかを解説します。考えられることは、1)セルフケアが不十分、2)トリガーポイントプレッシャーリリースを加えれば改善する、3)末梢性から中枢性の状況になっている、の3つの状況です。
他の原稿と重複しますがまず基本的な事を書きます
初診時セルフケア指導:負荷軽減法:日常生活で肩が持ち上がっていないか、かみしめていないか、防止策として、気がついたら肩を上げ下げ、 舌で口蓋を舐める、 患側で咀嚼しない 
セルフケアとしての積極的治療:左右頚部四カ所(後頸部筋群と胸鎖乳突筋)、 開口ストレッチアシストブロックを用いた開口ストレッチ、各々30秒/回、3回朝昼晩/日、これを毎日実施する。
上記のセルフケア指導だけで2-3週で初期の痛みがかなり改善します。改善した場合には更なるオフイス治療は加えずに、セルフケアの補強のみを続けて行くことが多いです。
セルフケアが不十分の場合にはセルフケアの重要性と有効性を説明して、やってもらうように指導します。また、セルフケアを熱心続けているがなかなか痛みが改善しない場合で、末梢のトリガーポイントの原因が大きいと判断された場合にはまず、超音波を併用したトリガーポイントプレッシャーリリースを行います。これは他稿で詳しく書きました。
一方、患部の筋全体、あるいは筋の範囲を超えて圧痛閾値が下がって、過敏になっている場合には末梢性に中枢性が加わっていると考えて、セルフケアのストレッチの程度を下げて、中枢に対する治療をします。
ここで疑問は「患部の筋全体、あるいは筋の範囲を超えて圧痛閾値が下がって、過敏になっている」、このような状況は痛みの発生メカニズムではどの分類になるのか、1)侵害受容性疼痛、2)神経障害性疼痛、3)痛覚変調性疼痛のどれに該当するのか。限りなく、3)痛覚変調性疼痛に近いと思っていて、痛覚変調性疼痛の診断基準に照らし合わせると三ヶ月以上を満たしていれば、痛覚過敏症状を満たしているのでpossible of nociplastic pain(痛覚変調性疼痛の可能性あり)と診断されます。
この場合の私の治療法はアミトリプチリン(トリプタノール)の投与です。トリプタノールの投与はまず各患者の至適用量を探すことから始めます、最少用量から始めて少量ずつ漸増し、眠気、口渇、便秘などの即時発現する作用を目当てに至適用量を決めます。至適用量が決まったら、その用量で1-2ヶ月投与を継続します。頻脈や心電図でQT短縮などの以上が生ずる事があるので開始前、30mg、50mg、あるいは至適用量投与の段階で心電図を採ることが必須です。
至適用量で2-4週間経過したところで、緩除に効果が発現してきます。痛みを止めるためですが、NSAIDs、アセトアミノフェン、テグレトールのような即時効果は期待出来ません。
 
2023年05月29日 19:08

超音波併用のトリガーポイントプレッシャーリリース

超音波併用のトリガーポイントプレッシャーリリース
筋・筋膜疼痛の治療というと皆さんトリガーポイント注射が最も強力な治療法と思っているようですが、全体的に緊張のとれていない筋のトリガーポイントに注射しても期待するほどの効果が得られません。
私が行っている標準的な筋・筋膜疼痛法を示します。
初診時セルフケア指導:負荷軽減法:日常生活で肩が持ち上がっていないか、かみしめていないか、防止策として、気がついたら肩を上げ下げ、 舌で口蓋を舐める、 患側で咀嚼しない 
セルフケアとしての積極的治療:左右頚部四カ所(後頸部筋群と胸鎖乳突筋)、 開口ストレッチアシストブロックを用いた開口ストレッチ、各々30秒/回、3回朝昼晩/日、これを毎日実施する。
上記のセルフケア指導だけで2-3週で初期の痛みがかなり改善します。改善した場合には更なるオフイス治療は加えずに、セルフケアの補強のみを続けて行くことがあります。
一方、セルフケアを熱心続けているがなかなか痛みが改善しない場合もあります。このような場合でまだ末梢のトリガーポイントの原因が大きいと判断された場合にはまず、超音波を併用したトリガーポイントプレッシャーリリースを行います。
  1. 超音波照射により筋肉の深部温度が3-4度上がります。これによりトリガーポイントを構成しているコラーゲンが軟化します、と言ってもまだまだ固まり硬結、索状硬結の状態です。
  2. 深部温度が上がった状況で硬結部を1kg程度の圧でゆっくり起始部から停止部に向かい、停止部から起始部に向かって一方向に筋を延ばすように指を2-3cm程度、滑らしてリリースします(マッサージの様にコリコリではありません)。ゆっくり滑らすことがポイントです、硬結(英語ではbarrier垣根、進行を妨げる障害物)を指先に感じながらゆっくり移動させる、途中でコリンと指の下をくぐり抜けて行くと言った感じです。これだけで硬結全体に柔らかくなりがなくなることもあります。
  3. 前記のリリースを行ってもまだ硬結が残っている場合、もっとトリガーポイントに圧力をかけます。これがトリガーポイントプレッシャーリリースです。指先を移動させて硬結を感じたら、指の下をくぐり抜け行かないように次第に圧力を高め、指先の移動を止めて10-60秒間、2-3kg加圧します。この操作を数回繰り返します、深部温度が下がってきたら最後超音波照射を行った後にトリガーポイントプレッシャーリリースを繰り返します。
 
筋触診、トリガーポイントプレッシャーリリースにはある程度の指、腕の力が必要です。筋触診は1kg程度で行う様に規定されていますが、余裕を持って加圧するには1kg以上に加圧できる必要があります。また、トリガーポイントを加圧して関連痛を誘発するには1kg以上が必要です。今回述べているトリガーポイントプレッシャーリリースには1kg以上の加圧力が必要です。要は筋触診、筋膜リリースにはある程度の腕力が必要だということです。
 
2023年05月29日 14:33

口腔顔面痛の診断には筋触診が大事です-2

咬筋トリガーポイント
口腔顔面痛の診断には筋触診が大事です-2
 
先日来院した患者さんを紹介します。
ある日突然、食事中に下顎右側大臼歯部にビキッと瞬間的に激痛が生ずる様になった。主治医A医院を受診し、検査を受けたがう蝕、歯の破折、歯周病など痛みの原因になるものは見つからなかった。かみ合わせがきついからだろうということで咬合調整がされたが改善しなかった。その後、右側で硬いものをかみ締めた時に痛みが出ることが判り、B医院に転院しCTを撮り、いろいろ調べたが異常は見つからず、歯ぎしりが強いということでマウスピースを使う事になった。C医院を受診したところ咬筋へのボトックス注射が行われ、咬む力が弱くなった感じがあったが痛みに変化はなかった。D大学病院を受診し、この歯が原因だろうということで下顎右側6の抜髄・根充が行われ、現在暫間的にレジンで埋めてある。食事の際に、軟らかいアサリを強く咬んだ時に砂が混じっていて、激痛が生じた。痛みは三日間続き、その間、冷過敏も感じられた。
最初に痛みが出てから3年経過、いろいろな治療を受けたが症状は全く変わっていない。

解釈モデル(患者さんが自分の痛みをどう思っているか)と認知行動療法的評価
  1. 歯ぎしり、くいしばりが原因なのか(認知)
  2. 無駄に神経抜かれて悲しい(感情)
  3. こんなに痛いのに、なぜ誰も治せないのか(感情)
  4. 何カ所も行ったのにそれぞれ言うことが違う(行動、感情)
  5. 来年には米国転勤が予定されている、その前に治したい(感情)
 
診査結果
  1. 右側上下顎、打診痛なし
  2. 下顎右側大臼歯は無髄歯
  3. 歯周疾患なし   この段階で歯原性は否定的
  4. 感覚検査 下顎右側歯肉にParesthesia 他領域は異常なし
  5. トリガーゾーンなし、三叉神経痛否定的
  6. 顎関節診査: 左右の顎関節に無痛性クリック、下顎頭牽引圧迫誘発テスト:痛みなし 顎関節痛は否定的
  7. 筋触診:左右咬筋肥大、右側咬筋の中央部は萎縮傾向であるが下部(停止部)に索状硬結多数あって、強い圧痛、かみしめ時にその部分が盛り上がる。歯への関連痛はなし。
 
診断:右側咬筋局所筋痛
治療:セルフケア指導、前歯型スプリント、右側咬筋索状硬結部に超音波照射、トリガーポイントプレッシャーリリースによって、かみしめ時の痛み消失。
本症例はかみしめ時の激痛という歯冠破折やう蝕などの歯原性が疑われるが、A、B、C医院では歯原性を否定して不可逆的処置はしていなかった。それに反して、D大学では不可逆的な抜髄処置をしている、当然のこととして効果は無かった。かみしめたら歯に激痛が出るならば破折かう蝕だろうという代表的バイアスによる診断エラーということである。
C医院では患側咬筋のボトックスの注射をしているが効果は得られなかった、なぜか。ボトックス注射の一義的な目的は筋収縮を阻害して筋萎縮させて筋肥大を改善することである。そのため標準的な咬筋への注射部位は硬結部を狙うのではなく、筋の中央部である。筋萎縮の結果、二次的に筋痛が改善する可能性はあるが、ボトックス注射により必ずしも筋痛が改善する訳ではない。筋・筋膜疼痛へのトリガーポイントインジェクションでは注射液の種類にかかわらず、生食水でも確実にトリガーポイントを狙って注射をすることにより効果が得られる。ボトックス注射により咬筋は全体的に萎縮しているが、下部(起始部)にはしっかり硬結が残って、収縮時に強い痛みが続いているという訳です。
本症例での一番の問題点は、これまで診察した全ての歯科医師が筋触診をしっかりやっていなかったことです。
筋触診がしっかり出来ないと口腔顔面痛診断に大きな穴が開いて仕舞います。
 
2023年05月13日 18:00

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