痛覚変調性疼痛とはどのようなものか-かなり身近なものです-
痛みの臨床推論」の編集作業が終わったのが8月初旬、35度越えの猛暑日が毎日続いて居た頃から約2ヶ月、頭の中ですっきりしないことは、2017年国際疼痛学会で第3の痛みのメカニズムとして提案されたNociplastic Pain(2021年日本語訳が痛覚変調性疼痛)がどのようなものなのかでした。いくつかの日本、海外からの論文を読んでも、痛覚変調性疼痛はこのようなもので、臨床ではこのように関連しているんだという、私の知りたいことにダイレクトに答えてくれるものはまだありません。それでも頭の中に断片的な知識が溜まりましたので、何とかつなげて自分なりの痛覚変調性疼痛の理解に努めてきました。今現在の痛覚変調性疼痛の私の理解は、人間の生存を脅かす様々な刺激、侵害刺激に加えて精神的な脅威、危機感等に対して生体防御のために過敏になり、反応性を亢進した結果なのだろと思っています。
つねると痛いという侵害受容性疼痛による痛み、神経が壊れた結果として起こる神経障害性疼痛は「痛みはなんらかの器質的な異常の結果として起こる」という従来の理解はそのまま正しいが、そのような「ここの神経に異常があるから痛いんだ」という「痛み」とは違った痛みの様です。侵害受容性疼痛も神経障害性疼痛もその痛みは身体保護のための合目的的現象であるが、痛覚変調性疼痛は痛み信号に精神的要因が加わって生ずる、他の二つの痛みメカニズムとはレベルの異なる警告信号のようです。当然のように侵害受容性疼痛にも神経障害性疼痛にも痛覚変調性疼痛が重複して、二つの痛みを変調させているようです。
例えば、歯が痛くて歯科に行ったが原因不明だと言われた、何が原因なんだろうと考えると痛みが気になってしょうがいない、時間とともに痛みが強くなったような気がするし、気分的に耐えられなくなってきた、このような状況も不安感により痛覚変調性疼痛がベースに生じて痛みの状況が変化してしまったのだと思います。つまり、苦痛(痛み、苦しみ)の感じ方が変調してしまうのです。生来、心配性のひとは何倍も変調し感覚ボリュウムがマックスまで上がっているでしょう。私のこのような雑な理解ですが、臨床的実感があると感じてくれる方もいるでしょうし、患者さんの中にも私のこの痛みも痛覚変調性疼痛が関連しているかもしれないと思う方がいると思います。
そこまで判ったら、次はどうすれば、治るのか改善するのかが問題です。残念ながらこれに対する臨床的な答えは余りはっきりしません。痛覚変調性疼痛に関する基礎的研究、病態の研究は進んでいますが、治療法に関してはこれだという答えを書いた論文は見当たりません。 私の印象では薬物療法よりも非薬物療法が第一選択で、基本的には患者さんの痛み、苦しみに寄り添い、傾聴、受容、そして、状況を共通認識することが必要なのだと思います。
2024年09月30日 16:14