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原因不明の歯痛、顔の痛みに慶應義塾大学における永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します。

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矯正治療は顎関節症の治療になるか、予防になるか

米国における矯正とTMDの関連についての1992年以来30年間にどのように変化したか、結論は残念ながら、必ずしも期待された方向には進んでいるとは言えないようです。
望まれている方向性は「TMDケアを過度な咬合および機械的考え方一辺倒から、医学的および生物心理社会的モデルへの移行すること」である、この考え方はTMD全般において共通する考えである。

興味のある方は本文を読んでみてください。
Sanjivan Kandasamy、 Donald J. Rinchuse、Charles S. Greene、 Lysle E. Johnston Jr
Temporomandibular disorders and orthodontics: What have we learned from 1992-2022?
American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics Published:January 07, 2022DOI:https://doi.org/10.1016/j.ajodo.2021.12.011

HighLight
1992年1月にAJODOが顎関節特集号を発行して以来、30年が経ちました。
- 1992年以来、数十年にわたり、エビデンスに基づくデータが大量に蓄積されてきた。
- 抜歯を伴う、あるいは伴わない従来の矯正治療では、顎関節症の治療にならないし、それがTMDの原因ともならない。
- 犬歯誘導咬合を確立し、特定の遠心関係位と最大咬頭嵌合位の一致を達成することは、TMD治療のエビデンスに基づくものではない。
- 顎関節症管理は、咬合と機械的な考え方から、医学的および生物心理社会的なケアモデルへと移行している。

結論
残念ながら、顎関節症や最近では睡眠呼吸障害を治療または予防するという名目で、非抜歯、拡大、代替または非伝統的矯正歯科、顎の成長、特定の咬合スキーム、下顎頭の位置とポジショニングテクニックなどを提唱する多くの哲学や学派がまだ存在しています。
今日でも、歯科矯正医は、存在しない顎関節症を診断・管理したり、顎関節症の治療や発生を予防することを奨励され、それに伴う短期的な経済的利益を享受している。しかし、このような根拠のない顎関節症治療を行うことは、患者の健康を損なうだけでなく、回避可能かつ弁解の余地のない法的請求につながることを認識する必要があります。
自称専門家やその信奉者は、30年にわたる質の高い科学的調査や説得力のあるエビデンスの蓄積の後でも、自分の信念に矛盾するエビデンスを目の前に出されると、そのエビデンスを簡単に否定してしまうことがあるのです。
現在、歯科矯正学と顎関節症の関係は、生物心理社会モデルへと移行していることが一般的に認識され、歯科矯正学の専門家に広く受け入れられていますが、それでも、一般の人々を混乱させ、損害を与える可能性のある個人的な逸話的概念を広め続ける人々がいる。
矯正治療に関連したTMDが将来再び発生するかどうかは、現在わかっていることに基づけば、特に矯正治療が現在の最良のエビデンスに従って行われれば、可能性は小さいと言えます。
臨床家は、TMDケアを過度な咬合および機械的モデル一辺倒から、医学的および生物心理社会的モデルへの明らかな移行を受け入れなければなりません。
この変化はまた、保存療法や可逆的療法の最新の使用法を熟知する必要があることを意味し、患者によりよいサービスを提供するために、適応に応じて他の医療専門家の関与を考慮する必要があります

参考として、1992年1月にAJODOが顎関節特集号に書かれていた結論です。 6の「矯正治療がTMD治療に役立つ可能性あり」は 変わりました。

1. 歯列関係や骨格構造と顎関節症との有意な関連は示せなかった。

2. 顎関節症の発症を予測することはできない。

3.顎関節症の予防法は証明されていない。

4. 顎関節症の有病率は年齢とともに増加し、通常は思春期から始まる。したがって、顎関節症は矯正治療中に発症しても、治療とは無関係である可能性がある。

5. 歯列矯正治療そのものが顎関節症の原因とはならない。

6. 顎関節症患者の治療の一環として、矯正歯科治療が症状の軽減に役立つ可能性がある。

7.一度顎関節症になると、顎関節症が治るということはありえない。


 
2022年03月17日 20:21

痛覚変調性疼痛 ストレスが痛み神経系を変化させ痛み 

論文を紹介します。
心的外傷が痛み神経系を変調させて、末梢とは無関係に痛みを感じる状況になる可能性がある。
特に発達期の心的外傷は影響が大きいと書かれています。
私見ながら、心的外傷による痛み神経系の変化が痛覚変調性疼痛の原因のひとつであると思います。

心的外傷に基づく疼痛回復と疼痛管理の比較
Trauma-Informed Pain Recovery Versus Pain Management
Bennet E. Davis, MD
Pain Rehabilitation Program Director, Sierra Tucson Tucson, Ariz.
 
私たち医療関係者の間では、有害なストレスが神経系の感覚処理機能を変化させ、組織病理とは無関係の痛みをもたらすという事実に対する理解と評価が高まっている。
発育期や成人期に心的外傷を抱えた人は、圧痛閾値が著しく低く、痛みの感じ方が異なることが研究で明らかになっています1-3。
関連記事
周術期の痛みを個別化・複合化する7つのステップ 慢性前立腺炎/慢性骨盤症候群の症状が鍼灸治療で改善される。若者の心理社会的アフターケアは臨床的に大きな利益をもたらす。 心的外傷が慢性疼痛につながるのであれば、心的外傷に対する治療は痛みを和らげるはずということになります。実際、心的外傷の回復が痛みの回復につながるという考えを支持する6つのランダム化比較試験がある4。
しかし、いまだに私たちは、患者の苦痛の原因が侵害受容性疼痛であるかのように、つまり、身体的損傷から来るものであるかのように、心的外傷的体験による神経障害性疼痛(訳注:痛覚変調性疼痛)を管理する傾向がある。例えば、抗生物質やオピオイドを処方し、心的外傷の精神的な後遺症に対処しない傾向がある。
個々の患者や社会全体の健康のために、プライマリーケア提供者、痛みの専門家、その他の医師、行動医学の専門家は、私たちの考え方や治療方法を変えるべき時が来ているのです。
 
事例:心的外傷の人質にされた患者さん シエラトゥーソンの疼痛回復プログラムに来る患者さんの多くは、自分の状態を「罰当たり」「残酷」といった感情的な言葉で表現されます。しかし、その大半は、自分のひどい痛みと心的外傷の間に関係があることに気づいていないのです。  
数年前、私が診察したある患者は、体中のあらゆる場所に痛みを感じていると報告してきました。彼女は、どこからともなくやってくるような衰弱した痛みのために、すでに3年間も身体障害者手帳を取得していたのです。この3年間、彼女は多くの医療専門家に診てもらったが、痛みの原因となる組織は見つからず、線維筋痛症、全身性エリテマトーデス、慢性ライム病、多発性硬化症と別々に診断されていた。彼女は抗生物質、オキシコドン、ベンゾジアゼピン系薬剤に何万ドルも費やしましたが、ほとんど効果はありませんでした。
初診のとき、夫が突然、あることを思いついた。「ちょっと待てよ、ハニー」と彼は言った。「痛みが始まる1ヶ月ほど前に、クイックマートで人質になり、男があなたの喉にナイフを突きつけてきて、保安官が後ろから撃ち殺さなければならなかったのを覚えていないかい?先生、身体的には無傷でも、それが彼女の痛みと関係あるのでしょうか?" 
間違いありません。この患者の疼痛症候群は、人質事件から約1ヵ月後に始まった。これは、身体の神経系が痛みを異なる方法で処理するように再配線されるのにかかる時間である5。
ソマティック・エクスペリエンスと呼ばれる心的外傷回復治療と、グループ認知行動療法、弁証法的行動療法が結果を出した。6ヵ月後、彼女は仕事に復帰し、鎮痛剤もやめ、とても元気にしています。 確かに、人質事件に耐えることは稀なことです。
しかし、この国には、もっと一般的で、私が診療で見てきた慢性的な痛みの原因でもある、発達期心的外傷という有害なストレスの原因がもうひとつあるのです。世界中の研究により、幼少期の心的外傷と大人になってからの慢性疼痛の発症には、比例関係があることが示されています6。
Substance Abuse and Mental Health Services Administrationによると、3分の2以上の子どもが、16歳になるまでに少なくとも1つの心的外傷となる出来事を報告しています。
私たちの社会は、文字通り、そして比喩的に傷ついているのです。私たちは、単なる痛みの管理を超えて、全人的な痛みの回復を目指す必要があるのです。実際、カリフォルニア州初の外科医長であるNadine Burke Harris医学博士は、州の公立学校のすべての生徒が発達期心的外傷のスクリーニングを受けるよう呼びかけ、すでにこの運動を始めています。
彼女は、有害な幼少期の体験や有害なストレスに関する公衆衛生規模の介入が、私たちの時代の公衆衛生の最大の進歩になると考えています。
しかし、私たちはいまだに、心的外傷に起因する神経障害性疼痛(訳注:痛覚変調性疼痛)を、患者の苦痛の原因が侵害受容性疼痛であるかのように、つまり身体の傷害から来るものであるかのように管理する傾向があるのです。
例えば、抗生物質やオピオイドを処方し、心的外傷の精神的後遺症に対処しない傾向がある。
患者さん個人と社会全体の健康のために、プライマリーケア提供者、痛みの専門家、その他の医師、行動医学の専門家が、考え方や治療方法を変える時期に来ているのです。
 
疼痛管理から疼痛回復へ 
患者の慢性的な痛みを完全に理解するには、痛みの専門医と理学療法士、行動医学の専門家が協力し、集学的なアプローチを行う必要があります。
痛みの教育、運動療法、体験療法、薬物療法、個人療法や集団療法による感情処理、認知行動療法、バイオフィードバックや経頭蓋磁気刺激などの統合的な治療が必要なのです。
痛みが強すぎて外傷治療や理学療法ができないという患者さんもいらっしゃるでしょう。このような患者は、神経系について話すことも、ましてや心的外傷について話すこともできませんし、理学療法士に触られることにも耐えられないでしょう。
医療専門家として、私たちは、患者が心的外傷という重い負担を抱えていることが分かっていても、まず彼らが感じている「身体的な」痛みに対処し、優しい心的外傷療法を行うことによって、彼らの現状に対応しなければなりません。 しかし、そこで終わらないのが私たちの務めです。
そして、心的外傷に適応した神経系がどのように痛みを脳に伝えているのか、患者を教育する必要があります。そして、患者さんがその関係を理解し、受け入れ始めたら、心的外傷の治療を開始し、私たちの職業は、単なる痛みの管理を超えて、完全な痛みの回復へと向かうことができるのです。
References
  1. Tesarz J. Distinct quantitative sensory testing profiles in nonspecific chronic low back pain subjects with and without psychological trauma. Pain. 2015;156(4):577-586.
  2. Gomez-Perez L. Association of trauma, post-traumatic stress disorder, and experimental pain response in health young women. Clin J Pain. 2013;29(5):425-434.
  3. Creech S. Written emotional disclosure of trauma and trauma history alter pain sensitivity. J Pain. 2011;12(7):801-810.
  4. Tesarz J, Wicking M, Bernardy K, et al. EMDR therapy’s efficacy in the treatment of pain. J EMDR Pract Res. 2019;13(4):337-344.
  5. McCarberg B, Peppin J. Pain pathways and nervous system lasticity: earning and memory in pain. Pain Med. 2019;20(12):2421-2437.
  6. Jackson WC. Connecting the dots: how adverse childhood experiences predispose to chronic pain. Practical Pain Management. 2021;20(3):24-28.
2022年03月03日 09:06

スプリントは適応症を見定めて、筋痛治療は難しい

スプリントの有効性英国-コピー_4 (2)
顎関節症の痛みの主体は顎関節の痛みと思っている方が多いと思いますが、それは誤解で、顎関節症の痛みの主体は咀嚼筋痛です。
関節痛は炎症による痛みなので、ロキソニンなどのNSAIDSが有効ですが、筋痛の治療は少し難しいです。
私の筋・筋膜疼痛を含めた筋痛の治療法は、第一に負荷の軽減を目的としたセルフケアの指導、 かみしめ、こわばりの自覚を促し、頸部、咀嚼筋の開口ストレッチ、次に超音波照射して深部温を高め、徒手的に筋膜リリースを行います。慢性化している場合にはトリプタノールを併用します。
ちなみに、スプリントは歯ぎしりによる関節痛に対して、必ず側方ガイドを付与したものを用います。

最近、米国では疫学研究の手法としてネットワークを活用したものが主流になりつつあります。
痛みのある顎関節症に関するネットワークによる研究があります。
Ana Miriam Velly, Gary C Anderson, John O Look, Joseph L Riley, D Bradley Rindal, Kimberly Johnson, Qi Wang, James Fricton, Kevin Huff,
Richard Ohrbach, Gregg H Gilbert, Eric Schiffman,
 National Dental Practice-Based Research Network Collaborative Group Management of painful temporomandibular disorders: Methods and
overview of The National Dental Practice-Based Research Network prospective cohort study
J Am Dent Assoc . 2022 Feb;153(2):144-157. doi:
対象は1,901名の有痛性顎関節症患者です。
起床時の顎の痛みやこわばりが82%が認められ,40.3%は弱い痛みであった.診断名は,筋肉痛(72.4%),顎関節症に起因する頭痛(51.0%)が上位を占めた.
推奨される治療法は,セルフケア指導(89.4%),スプリント(75.4%),薬物療法(57.6%)であった.
症状として起床時の顎の痛みやこわばり、筋痛に対して、実施されている治療法はセルフケア指導とスプリント、薬物療法であった。
ここで、顎関節症の筋痛に対してスプリントが有効なのかという疑問が生ずる。
なぜならば、スプリントによる顎関節症の痛み治療の有効性を検討した論文で、「非常に低い確実性のエビデンスながら、顎関節症患者の疼痛に対してスプリントは大きな利益は得られない」と結論しているからである。
Romina Brignardello-Petersen
Very low certainty evidence suggests no important benefits from using oral splints for pain in patients with specific temporomandibular
disorders J Am Dent Assoc . 2020 Sep;151(9):e77.
 
2022年02月28日 21:28

痛覚変調性疼痛の一面

痛覚変調性疼痛について

ある方が、不確実さと不安、確実さと安心について下記のインドの昔話を紹介しています。
ある男が超能力を獲得しました。その能力とは、人を念じながら観察すると、その人が1年後に生きているか、死んでいるかがわかるのです。その男のもとには、いろいろな病に悩む人々が次々と訪れるようになりました。1年後に生きていると言われれば小躍りして帰っていきます。1年後に死んでいると言われれば納得して帰ります。その男は名医と呼ばれ、患者が絶えることがなかったと言います。
皆さまは、この昔話をいかが思いますか。違和感を覚える人も、なるほど名医だと納得する人もいることでしょう。
この男は本当に名医でしょうか。この男は、一切の医療行為をしていません。ただただ、1年後の生死を正確に伝えているだけです。しかし、予言をさずかった者は、その男を名医と崇めます。なぜでしょうか。不安がなくなるからではないでしょうか。不確実さは不安をまねきます。1年後の確実な情報が安堵を与えます。患者の立場からは、安心を与えてくれる人は名医なのです。

ここで、「不確実さと不安、確実さと安心」と痛覚変調性疼痛を繋げてみましょう。
BioPshychoSocialと捉えた場合、Bioは同じでも、不確実な状況、環境(Social)にあると不安がつのります(Psycho)。末梢からの痛み刺激(Bio)がある中で、高まった不安感が扁桃体を刺激して痛覚を変調性し、疼痛が敏感に近くされる状況が痛覚変調性疼痛といえます。
このように敏感に感じられた痛みが不安感を高めて、痛覚変調性疼痛の悪循環が形成されます。
では、解決法は「大丈夫ですよ、あなたの病気は顎の筋肉の痛みです、ちゃんと治療法があって、このようにストレッチすると治りますよ」と伝える事です。
ここでOkeson先生の強調する適応能力が高ければ、あっさりと症状が改善するでしょう。ところが適応能力の低い人は悪循環が止まらずに慢性化が続きます。
2022年02月23日 10:26

スプリントが有効な場合と無効な場合

顎関節症の治療として、スプリントがオールマイティーであるかのように使われます。
しかし、現在スプリントがかつて考えられていたほどには有効で無いと言われるようになっています。
有効と思われていたのは、Okeson先生が述べていたように、多くの患者さんは適応能力が高く、診療を受け、「このスプリントで良くなります」というひと言で改善していたのだと思います。
私の診療において、スプリントをはっきりと使い分けています。
一番有用なのは、歯ぎしりが強く、関節痛がある場合です。犬歯部にかなり急な側方ガイドをつけます。これによって反対側の下顎頭の前方滑走を制限する目的で使用してもらいます。
最近、見えない装置による矯正が普及しています。上下顎に床装置を入れて、床の弾力性によって歯を動かす治療です。このような装置を入れることにより顎関節痛が生ずる患者さんがいます。例えば、全身の関節の可動性が大きく手首を曲げると親指が手首につくほどの人で歯ぎしりがある人は顎関節痛予備軍です。このような患者さんに上下顎に床装置を入れると犬歯のガイドが無くなって、睡眠中に下顎は大きく左右側方に動き、下顎頭は前方の滑膜を圧迫してしまいます。その結果、前方の滑膜に機械的に炎症を起こしてしまいます。
対応としては矯正用のスプリントに歯ぎしり対策として側方ガイドを盛り足します。多くは1-2週で改善します。

Hypermobilityと言われる全身の関節の可動性が大きい体質の人が歯ぎしりをして、関節痛がある人には歯ぎしり対策を施したスプリントを入れると非常に有効だが、歯ぎしり対策をしていない、平らなスプリントを入れると関節痛がもっと悪くなる可能性があります。
では、筋肉痛ではどうでしょうか。 これは次の原稿に書きます。
二年前、英国歯科医師会雑誌に下記の様な結論の論文が出ました。世界中のTMD専門医は予想していた事ながら、ビックリしました。  
Very  low  certainty  evidence  suggests  no important  benefits  from  using  oral splints  for  pain  in  patients  with  specific temporomandibular  disorders
非常に確実性の低いエビデンスながら,顎関節症患者の疼痛治療としてスプリントを使用することによって役に立つことは無いことが示唆される

Riley P, Glenny AM, Worthington HV, et al. Oral splints for temporomandibular disorder or bruxism: a systematic review. Br Dent J. 2020;228(3):191-197. https://doi.org/10.1038/s41415-020-1250-2.
2022年02月22日 14:19

しびれという表現は曖昧 真意の確認が必要

口腔顔面痛の患者さんが、「しびれ」を訴えることがあります。
あなたは、「しびれ」と言う表現をするときに、どういう状況を言いあらわしたいのでしょうか?
「しびれ」という訴えは非常に曖昧です。私は患者さんが「しびれ」を訴えたときは必ず、麻酔注射の後の感じないしびれですか、正座した後の脚のビリビリですか、あるいは変な感じですかと確認します。
「しびれ」という訴えで思い付く病態は、(1)感覚が低下している(感覚低下)、(2)感覚が過敏になっている(感覚過敏)、(3)異常な感覚を訴えている(異常感覚)とあります。
(1)感覚が低下している(感覚低下)と(2)感覚が過敏になっている(感覚過敏)では病態が正反対です、しかし、「しびれ」と訴えます。感覚低下は神経機能が低下している、一方、感覚過敏では神経機能が亢進しています。治療法が全く異なります。
「しびれ」は方言のようなもので、主治医のしびれと患者さんの「しびれ」の理解にズレが生ずる場合があります。ズレたまま治療が進むと、改善しないばかりか、医者患者関係のズレも大きくなります。
患者さんが「しびれ」を訴えた場合、まず最初に患者さんの「しびれ」の真意を確認します。
あなたの「しびれ」は、、麻酔注射の後の感じないしびれですか、正座した後の脚のビリビリですか、あるいは変な感じですか、と確認します。(1)感覚が低下している(感覚低下)、(2)感覚が過敏になっている(感覚過敏)、(3)異常な感覚を訴えている(異常感覚)を確認しています。
そして次に、触覚、痛覚、場合により温冷覚を調べます。三叉神経の3本の枝毎に左右左を確認します。このような診査が神経障害性疼痛診査の入口です。
「しびれ」は神経障害の共通した訴えです。痛いと同様に口腔顔面痛では有用な自覚症状です。

 
2022年02月18日 13:02

痛覚変調性疼痛とはどのような痛みか

痛覚変調性疼痛とは具体的にどのような痛みを指すのか、という質問を受けます。
単純に例えて言うと、 通常状態:日中に街を歩いていて、後から声をかけられた、あるいは肩をぽんと叩かれた。「誰だろう], 「何だろう]と 後を振り向く。
ところが、:夜道を家に帰るときに、ご主人、奥様など家族に、不意に後からぽんと肩を叩かれた。反応は きっと、「ドキンとして」、飛び上がるでしょう。
何故、このように反応が変わるのか、夜道を歩いているときは、歩き慣れた道でも、いくらかの不安感があります、その中で不意に声をかけられる、肩を叩かれると、強い反応が生じてしまいます。 不安感が中枢の情動を感じる扁桃体に伝わって、神経系が過敏になっているからです。情動による中枢感作状態です。まとめて、不安状態とも言えるでしょう。
このように、不安感、怒り、恐れ、悲しみをはじめとした負の情動変化があると、情動の中枢である扁桃体を敏感にしてしまいます。
末梢からの痛み刺激は中枢の痛みを感じる部分に伝えられます。痛みを感じる部分に届く前に、扁桃体の部分で強さの調整が行われます。負の情動により扁桃体が過敏になっていると、痛みを強く感じるように調整してしまいます。音の調整ダイヤルをプラス側に回したようなもので、末梢では1の痛み信号が、扁桃体の部分で100にボリュウムアップされ、痛みを感じる体性感覚野には100の痛みとして伝えられると言うことです。 
このように、末梢では1の痛み信号が、扁桃体の痛覚調整によって、体性感覚野では100の痛みとして感じられる、このように痛みの感じ方が変化してしまうことを痛覚変調性疼痛といいます。 かつては、このような、末梢の痛み原因に見合わない痛みを心因性疼痛と呼んでいました。確かに心が関係していたのですが、心の持ちようで痛みがでるのかと言うとそうではなく、何らかの痛み刺激を調整して大きくしていると言う事です。
痛みの調整は負の情動による扁桃体での調整だけでは無く、痛み信号が持続的に末梢から中枢に伝えられることにより、扁桃体とは別な部分が刺激され過敏になって、末梢からの痛み刺激をボリュウムアップ、強い痛みと感じさせることもあります。
誤解が出るかも知れませんが、判りやすいように、かなり簡略化して書いています。
 
2022年02月09日 16:55

私の今後の活動

全く個人的な話です。昨年11月で70歳になりました。特に大きな持病はありませんが、70歳、年相応の体力、知力とおもいます
大学を65歳で定年退職後、非常勤講師として慶應義塾大学医学部で月に一回の専門的な診療と学生講義、昭和大学歯学部で兼担講師として学生講義を受け持ってきました。いずれの大学とも非常勤講師、兼担講師は70歳以上は更新しないと言う事で今年度で終わりになりました。北海道大学歯学部の学生講義は来年度も継続の予定です。
関連学会は日本口腔顔面痛学会、日本顎関節学会とも65歳で役員定年で名誉会員になっています。最後に残っていた日本頭痛学会理事は70歳が役員定年でしたので、昨年11月の学会で任期終了し、こちらも名誉会員にしていただきました。
自分の歳を忘れて仕事しているときもありますが、10年前とは違って、無理なことをすると身体に応えるようになりました。定年、停年とは上手く表現したもので、これまでの活動は停めて、年相応の活動にしなさいと言うことだと思います。
現在の診療は元赤坂デンタルクリニックで火曜日、金曜日と土曜日午前、プラス、月に一回の札幌、静岡での診療です。 これくらいがちょうど良いのかなと思います。
その他の曜日は何をしているのか、家にいると邪魔にされるので、平日は毎日朝に元赤坂デンタルクリニックに出勤し、原稿書きと文献読みをしています。ということで、暇な時間はほぼありません。
本によると「人生100年時代。現在の70代の日本人はかつての70代とは違います。若々しく、健康になった70代の10年間は、人生における「最後の活動期」とも言えます。70代の過ごし方が、その人がどう老いていくかを決めるとも言えます。要介護状態を遠ざけ、自立した80代以降の老いを迎えるためには、どう過ごせばいいしょうか。」 答えは、「気持ちが若く、いろいろなことを続けている人は、長い間若くいられる。」
75歳までは今の活動を続けて行こうと思っています。
2022年02月06日 20:21

世界のTMDの原因、治療に関する見解

新年早々、非常に堅い、教訓的な話です。
顎関節症とかみ合わせの問題は常に議論になります。かみ合わせが原因である事が否定されてもまた復活してきます。なぜならば、米国でも、もちろん日本でも、世界中でそれ以上の確定的なことが教育されていないからです。
米国のOrofacial Pain、TMDの英知と尊敬するJeffry OkesonとCharles Greeneの2人がTMDの原因論、治療に関して現在の理解を投稿しています。
多少哲学的ながら、治療に当たる全ての人が理解しておくべき事と思います。
なお、 Charles Greeneは本年7月の顎関節学会で米国におけるTMD改善勧告に関して講演してくれる予定になっています。 

Jeffry Okeson
TMDと咬合に関する議論は、なぜTMDの分野でこれほどまでに意見の相違や論争があるのか、ということにつながると思います。
従来のTMDに関する議論は咬合と顎位の力学に集中してきましたが、それは私たちのTMDに関する研修の主題であったからです。
これらの問題は、健全で機能的な咀嚼システムを確立する上で重要です。しかし、私たちがここで議論しているのは、なぜ適応できる人とできない人がいるのかということです。
私はよく、私たち歯科医師が治療に成功したように見えるのは患者の適応性のおかげだと言ってきました。患者さんは、歯科医師に対して歯科治療について感謝することが多いと思いますが、実際には、我々が患者さんの適応能力に対して感謝すべきなのです。
大多数の人達はこのような変化に十分に対応できるが、中には対応できない方もいます。その人たちが「患者さん」になります。
これらの適応能力に問題のある「患者さん」、常に積極的に歯科治療を行おうとする、なぜなら、それしか知らないからであるが、しかし、これらの「患者さん」は、これ以上の無意味な歯科治療を必要としていないでしょう。
残念ながら、適応能力を調査することは非常に難しく、また、私たち歯科医師が理解していない、あるいはうまく管理できていない多くの側面が関係しています。私の意見では、過度の警戒心やストレス対処能力の低さは、大きな懸念事項です。自律神経系の過緊張は、適応出来ない「歯科患者」に非常によく見られます。    
咬合異常感覚は、末梢入力が変化したことによる一次求心性ニューロンの変化によって引き起こされる局所的な要因なのか、それとも高次中枢において感覚の変化として認識されたことによる中枢の変化(感作)の結果なのか?あるいはその両方か?    
人間とは、驚くべき、そして複雑な生物である。私たちは、経験した治療の成功に感謝すべきですが、自分が成功したと手柄を主張しないように気をつけなければなりません。
我々は適応能力に感謝すべきです。  

Greene, Charles
私たち歯科医師の本質について、驚くほど正直で洞察に満ちた要約をしてくれたジェフ(Okeson)に、特別な賛辞を送りたいと思います。
 私たちは疼痛学という主観的な分野で仕事をしている中で、3つの本質的な真実を語っているのです。
1.私たちの診断はすべて推定であり、医学的検査で確認することはできない。
2.それぞれの患者の問題の病因は、せいぜい部分的にしか解明されておらず、複雑な外因的・内因的な要因が多数含まれている。
3.私たちの治療法は経験的に開発されたもので、それぞれの患者さんの問題によって、どの治療法をどのような順序で使用するか、独自の組み合わせが必要である。また、治療結果を確実に予測することはできない。
しかし、こうした限界にもかかわらず、人間の適応能力と、悪性疾患以外の問題からの回復の可能性は、私たちに味方してくれる。
したがって、ジェフが言うように、"私たちは経験したTMD治療の成功に感謝すべきだが、治療に成功したことを自分の手柄と主張しないように気をつけなければならない "のです。 というわけで、2022年の始まりに、この重要な謙虚なメッセージを私たち全員に伝えてくれたジェフに感謝します。
 
2022年01月03日 18:14

何故、歯の痛みに苦しんでいる患者さんがいるのか 2

歯が痛い患者さんに「歯が痛いのに歯科で治らないなら、私は何処へ行けば良いのか」とまで言わせる歯の痛みの本態は非歯原性歯痛であり、歯科の一つの分野である口腔顔面痛専門医が得意とするところです。
非歯原性歯痛を漢文風に読むと、「歯が原因に非ざる歯痛」と言う事で、歯痛は歯が原因で起こるのが常識ですが、歯が原因で無い歯の痛みもあるのですその治療を専門とする口腔顔面痛とはどんな分野なのか。歯、歯肉、舌を含む口腔内、顔面に感じられる痛みを総称として口腔顔面痛と呼びます。従来、歯科で扱う痛みは主に、歯や歯肉が原因(主には炎症)の痛み(歯原性)でしたが、歯や歯肉の炎症によらない痛み(非歯原性)もあり、この非歯原性の痛みが口腔顔面痛の主体です。
前号で紹介した患者さんの話に出てくる、一軒目に受診したかかりつけ医で何故問題が解決出来なかったのか、答えは単純明快、一般歯科医師に非歯原性歯痛が知られていないからです。小生が非歯原性歯痛について学会報告したのが21年前、2000年の第一回口腔顔面痛懇談会(日本口腔顔面痛学会の前身)でした。その後、平成26年版歯科医師国家試験出題基準に非歯原性歯痛が含まれ、2014年以来毎年、非歯原性歯痛に関する問題が出題されています。また、歯科医師養成の基本となる「歯学教育モデル・コア・カリキュラム平成28年度改訂版」に 「口腔顔面痛を説明できる」の一文が加えられ、現在、歯学部において口腔顔面痛が教育されています。従って、2014年以降に歯科医師国家試験に合格した歯科医師は非歯原性歯痛を知っているはずで、「歯が痛いのに歯科で治らないなら、私は何処へ行けば良いのか」という患者さんの声に対して、それなら非歯原性歯痛を専門とする口腔顔面痛専門医の治療を受けてはどうですかというアドバイスがあるはずです。実際に歯科医師臨床研修の一環として半日の口腔顔面痛外来見学をした研修医が、その後、自分で診た歯痛患者さんを非歯原性歯痛の疑いということで治療依頼を受けたことがあります。
日本歯科医師会雑誌や、その他の歯科雑誌にも多数回に渡り口腔顔面痛、非歯原性歯痛の記事を執筆し、歯科医師に啓発を続けてきましたが未だ不十分の様です。
さらに、もっと大きな問題が冒頭に書いたように、患者さんをはじめ一般社会に口腔顔面痛、非歯原性歯痛が知られていないことです。これまで健康雑誌やWeb雑誌などに記事を執筆し、テレビでも取り上げてもらったこともありました。直近のテレビ放送は2020年12月8日放送の日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース「歯が原因ではない歯の痛みの謎」でした。https://www.ntv.co.jp/gyoten/articles/324mqqov2qwxpvxjjld.html
さすがゴールデンタイムの全国放送とあって、全国から問い合わせがありました。「テレビと同じような症状、経過なのだが、近くに専門とする先生が見つからない、どうすれば良いか」という内容でした。日本口腔顔面痛学会HPには全国の口腔顔面痛専門医の名簿が所在地付きで掲載されていますと答えるのですが、そんな事は初めて知ったということで、口腔顔面痛が知られていないのですから、日本口腔顔面痛学会が知られているはずがありません。さらに、専門医名簿を見てわかることは、所在地が全国均一ではないと言うことで、均霑化されていません。専門医が一人もいないという県も少なくありません。これでは近くに専門とする先生が見つからなくて当然です。
専門医全国均霑化の打開策としてDX(デジタルトランスフォーメーション)として、オンライン口腔顔面痛相談、あるいは一般歯科医師と協同してオンライン口腔顔面痛診療指導を行っています。今年はもっと広めようと思っています。
 
2022年01月02日 20:28

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