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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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あなたの病気ストーリー 私の初診で大事にしていること

あなたの病気ストーリー
私の初診は、最初に構造化問診票、痛みチェックシート、心理テストを書いてもらい、それを元に医療面接をします。頭の中にはいくつかの鑑別診断が浮かんできます、一つだけではなく、必ずピボットアンドクラスターで関連する病態も想起します。そして網羅的に診察、歯原性も必ず確認、口腔内、顔面の三叉神経から始まり12脳神経検査、最後に筋触診、咬筋、側頭筋、後頸部筋と胸鎖乳突筋、ここまでで、筋・筋膜疼痛、神経障害性疼痛、頭痛などの最終診断が決まることが多いです。納得出来る診断が得られない場合には再診するか、疑わしい疾患について他の専門医に依頼して診察してもらう事もあります。
最終診断が得られた場合に治療法提示の前に患者さんに「あなたの病気ストーリー」を話します。病気ストーリーとは、医療面接、診察の結果から判った患者さんの1)最終診断、2)病気の成り立ち、原因、発症から今に至った経過、そこに3)患者さんの解釈モデルも加えて、病気の全容を私なりにまとめたものです。
病気ストーリー作成には解釈モデルが必須です。患者さんは解釈モデルで、私の痛みはこれが原因で、この病気だろう、この検査をすれば判る、このように治療すれば直ると考えていることが多く、特に慢性痛の患者さんはこの痛みの当事者は私で、私が一番よく知っているのに、私の意見を聞かずに治療始めるなんてあり得ないでしょうと思っています。
治療を始める前に、最終診断に加えて、専門医の考えるあなたの痛みの全容についての把握内容を提供することが「あなたの病気ストーリー」の目的です。私が把握できた痛みの全容を呈示して、更に患者さんの考えを聞き出し、解釈モデルのすり合わせのために双方向で話し合いをします。こちらの考える痛みの全容に患者さんの解釈モデルをすりあわせる、患者さんの考え、気持ちを修正することは非常に難しいことですが、医者と患者が同じ方向を向いて治療を進めないと治るはずのものも治りませんから、治療開始前に是非とも行っておくべきことです。
解釈モデルを上手く聞き出すためにどうすれば良いかと思いながら今年の後半で判った事が「傾聴、受容、共感」のトリオの意味でした。共感の意味がしっくりしていませんでした。他のブログにも書きましたが、共感に感情的な意味合いは少なく、認知的共感と書いた方がしっくりすると思います。「傾聴、受容でうんうんと言いながら頭を傾け、理解出来ない部分は聞き直し、そういうことですか、そうだったんですね、とそんな事はあり得ないでしょう等と反論することなく聞く続け、その結果の共感」、つまり、聞いた内容を医療者の持つ知識、経験に照らし合わせて、患者さんが痛み、病気がどういう状況にあるのか、そして患者さんはどのように受け止めているのかを把握する事が共感なのです。同情のような感情的共感はないか、あっても少しだけです。
共感力という言葉があり、共感力を高めるにはどうするべきか。聞き出す能力、傾聴、受容を強化と医学知識の増やす、深める、経験を増やすことにより患者の現状を総合的に把握、理解出来る能力を高めるということになります。ここに至って、共感力を高めることとあなたの病気ストーリーを書くことは同じだなあと思えます。
 
2023年12月28日 15:51

傾聴、受容、共感の共感について 医療者は共感力が必要

1.傾聴、受容、共感の共感について  医療の場では、共感では無く、患者さんの病気の情報共有という言葉が適していると思っています。
医療面接の基本として傾聴、受容、共感が挙げられます。傾聴、受容は判りやすいのですが、共感とはどんなことなのか。どうしても感情的な共有なのかと考えがちですが、同情(Sympathy)と共感(Empathy)、この2つの用語は、しばしば同じ意味で使用されますが、両者には重要な違いがあります。共感という日本語の語感で同情に引っ張られる傾向があります。
一般的には、共感(Empathy)には主に3つのタイプがあります。
1)感情的共感:このタイプの共感では、人が他者の感情を共有できるだけでなく、他者をより深く理解することができます。情動的共感とも呼ばれ、感情的共感を得ることで、他者との真の信頼関係が築けるようになります。
2)認知的共感:このタイプの共感は、他者の考え方や感じ方を理解する能力を指します。認知的共感は感情的共感とは異なり、感情移入を必要とせず、他者がそのように考えたり感じたりする理由に重点を置きます。
3)同情的共感:このタイプの共感では、人が他者の感情的な痛みを共有します。

医学用語としては2)認知的共感がいちばん近いと思います。
empathyは患者の内的経験や考え,不安を(感じるというより)理解し,その理解を患者と分かち合い意思疎通できる能力です。このため,empathyの向上は医療者の成長,望ましい治療アウトカムにつながると考えられています。このことが,empathyはより良い医療の提供のために不可欠とされる理由です。
極端なはなし、傾聴、受容、共感のなかで、傾聴、受容は共感のための準備行動とも言えるのかと思います。
2.共感力とは
医学部研修医の時点での志望診療科によって共感力が異なるかについて調査した論文や診療科により共感力が強いか弱いかについての調査論文が出されました。米国では以前に医学部学生の共感力について入学後の縦断的調査があり、入学時には共感力が高いが三年生時には下がるという論文が出されています。
口腔顔面痛の臨床にはまさに共感力の向上が医療者の成長,望ましい治療アウトカムにつながると考えられ、調査してみたいと考えていました。
セミナー中に大塚先生にお願いして実施を検討し始めました。皆さんの協力をおねがしいます。
次の課題は医療従事者の共感力をどうやって高めるかです。
 
12月口腔顔面痛オンラインセミナーではいろいろな話題がありました。
3.トリプタノール出荷調整による問題 他の三環系抗うつ薬への切り替え
痛みに対する三環系抗うつ薬とプレガバリンの作用機序は異なるので、神経障害性疼痛では三環系抗うつ薬からプレガバリンに代えられても、慢性筋痛、痛覚変調性疼痛ではプレガバリンの有効性は示されていないので、三環系抗うつ薬からプレガバリンに切り替えるわけにはいかず、トリプタノール以外の三環系抗うつ薬に切り替えざるを得ない。
他の三環系抗うつ薬に切り替えるには具体的にどのような飲み方を指導すれば良いのか、その前に、他の三環系抗うつ薬はトリプタノールと同様に神経障害性疼痛に有用なのか。
イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)とも神経障害性疼痛に有効という論文がありますが、なぜ神経障害性疼痛に関してトリプタノールとノリトレンの論文だけが多く、トフラニール、アナフラニールの論文は少ないのか、有効性低いからなのかという疑問が残ります。他のブログも参照してください。
 
供覧した症例 まさにRedFlag 左側頬部のしびれの主訴からFacial-onset sensory and motor neuropathy 非常に珍しい疾患であるだけで無く、Facial-onset 顔面発症という点、口腔顔面痛として受診する可能性があり、そこで見逃したら早期発見の機会を逃してしまいます。おそらく秋の日本口腔顔面痛学会で発表されるでしょうから、そこで確認してください。
 
2023年12月18日 14:33

トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて

抗うつ薬
トリプタノール出荷制限による三環系抗うつ薬切り替えについて
トリプタノールは世界的に神経障害性疼痛治療法標準薬として長らく使われて来ましたが製造元の不祥事による生産力低下のために出荷量が半減されていて、我々のような小さなクリニックでは入手出来なくなっています、また、処方箋を出しても市中の薬局で薬が受け取れなくなっています。
世界中の神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインの第一選択薬として三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドが挙げられています。この2つの薬は作用機序が全く異なっていて、1)三環系抗うつ薬は下行疼痛抑制系を賦活化して痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています、一方、2)Caチャネルα2δリガンドは1次ニューロンの末端の電位依存性Caチャネルに作用してCa++イオンの流入を抑制することにより、シナップスへの興奮性伝達物質遊離を抑制し痛み信号の上行を抑制して痛みを和らげています。
三環系抗うつ薬とCaチャネルα2δリガンドの鎮痛効果を同一人あるいはグループで比較した研究はないことからどちらがより有効かは明らかではありませんが、作用機序が全く異なることから、患者個人個人によって効果が異なる可能性が高いです。従って、どちらの薬を最初に処方するべきかの明確な指標はありません。
どちらを最初に処方するべきかについては、まず、第一選択薬のなかで使い慣れた薬を選択して処方し、その薬の効果が不十分、あるいは副作用が強い場合は他の第一選択薬に変更するか、副作用の出ない量まで減量して他の第一選択薬と併用する方法が勧められています。
中枢感作に関してはより上位の中枢に作用する三環系抗うつ薬が有効だろうと思っています、また、中枢感作による慢性筋痛に対しても三環系抗うつ薬が適応だろうと思います。
トリプタノールの出荷量半減の話に戻り、トリプタノールあるいはそのゼネリックであるアミトリプチリンが入手出来ない場合、同じ三環系抗うつ薬のなかでトフラニール(イミプラミン、神経障害性疼痛に保険適応外使用が認められている)、アナフラニール(クロミプラミン、保険適応無し)に切り替えることが勧められています。薬理学的には3つの薬に基本的効果(セロトニン再吸収抑制、ノルアドレナリン再吸収抑制)にはほとんど差は無く、同等の効果があると言われています。トリプタノールの副作用と言われる、眠気、口渇、便秘には少し差があるようです。具体的な処方としては、副作用の発現を避けるために、トリプタノールの服用を開始した時と同様に5mgから開始し、漸増する事を勧めています。

追記:アナフラニールに処方してしばらく経過し、患者さんの反応を少し聞くことが出来ました。アナフラニールの眠気はトリプタノールに比べて弱いようです。便秘、口渇は同等か少ないようです。
現在、痛みの世界ではPain(痛み)+Insomnia(不眠)を会わせてPainsomniaという用語が使われています。慢性疼痛では、痛みと不眠の悪循環が形成され、自力改善が困難になっています。
睡眠不足や不眠によって、日中に眠くなります。これは覚醒度がさがるためです。この覚醒度が低下すると痛みを強く感じやすくなり、そしてその疼痛反応の亢進は眠気をとることで回復できることが動物実験で判っています。
睡眠不足による眠気そのものではなく、覚醒度が下がる事により痛みが強く感じるということで、慢性痛の患者さんの多くが夕方に痛みが強くなるのは、この覚醒度の影響ではないかと思います。 
ここに来て、心配なことが一つ、最近、筑波大学の柳沢先生が発見した覚醒度の関わるオレキシンの拮抗薬として、睡眠導入剤としてディエビゴ、ベルソラムが使われていますが、覚醒度をさげることにより、痛みが強くならないかという心配です。これは何かの機会に確認したいと思います。
2023年12月17日 21:35

特発性(Idiopathic)-2 患者個々の様々な症状を言い表した言葉

特発性(Idiopathic)-2 患者個々の様々な症状を言い表した言葉
 
さて、前号に引き続き特発性(idiopathic)の話です。
idiopathicの訳が特発性となり、それが原因不明と理解されているが、私はどうも納得出来ないでいた。そこに痛覚変調性疼痛という概念ができあがり、その繋がりが思い浮かんでいる。
痛覚変調性疼痛は侵害受容系の中枢感作により末梢には明確な原因が無いままに痛みが生じている状況である。痛覚変調性疼痛の診断基準では、1a)慢性である、1b)局所性、多巣性、1c)侵害受容性疼痛ではない、1d)神経障害性疼痛ではないを満たし、4) 誘発性疼痛過敏現象として痛みのある部位で臨床的に下記の症状が誘発されること、以下のいずれかが誘発される。静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 そして、上記のいずれかの評価後に残遺症状が残る(残感覚)こと。この診断基準4)はまさに侵害受容系の中枢感作の結果としての症状である
痛覚変調性疼痛の可能性を高める診断基準として2)(省略)、3)併存疾患として以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題、が含まれている。
脳機能変調の元で侵害受容系が中枢感作されて変調したものが痛覚変調性疼痛であり、同様に脳機能変調によって様々な脳の働き、神経系が変化する可能性があり、人に寄って変調する神経系が違えば、人それぞれに様々な症状を呈することとなる。上記の診断基準3)に従い、音覚変調、光感覚変調、におい感覚変調等が単独、併発して現れる可能性があり、その他に、途中覚醒の睡眠障害、 疲労感の高まり、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題が単独、併発して現れる可能性がある。また、症状によってはこれまで自律神経障害と言われていた症状も自室神経系の脳機能変調が生じた結果とも言えるのではないかと考えている。
一般的に病気は共通症状がはっきりしていて、その症状によって診断する事になるが、脳機能変調による病気の症状は個々によりまちまちとなってしまうために、診断が困難となる。「症状は個々によりまちまち」という部分を捉えた言葉が特発性(Idiopathic)なのではないかと思っている。患者さんによって症状がまちまちで捉えどころが無い、共通症状が原因のはっきりしないと言う特発性(Idiopathic)な集団があり、痛みの場合にはその多くが痛覚変調性疼痛であり、その他にも病名のはっきりしない、自律神経失調などの多くの病気が含まれるのだろうと思う。
特発性は原因不明ではなく、各自に特有の原因、発症メカニズムがあって発症と言う意味、痛覚変調性疼痛はその一つのメカニズムだろうと思う。
2023年11月05日 10:54

特発性-1原因不明の意味に使われるが本当は

特発性は原因不明の意味に使われるが本当は各自に特有の原因と言う意味
 
病気は原因が、その時代で原因が判明しているものと、判明していないものに分類される。この原因不明を表す用語が非常に混乱を招いてきた。特発性を原因不明とすることに非常に不満を感じ、今に至っている。
WHOの最新の病気分類であるICD-11では原因不明を一次性、原因が判っているものを二次性と統一した。
国際頭痛分類(ICHD3)もICD-11の一次性、二次性に従って分類されているが、三叉神経痛の分類はこの原則が適用されていない。かつて、三叉神経痛は真性(原因不明)、仮性(症候性)と分類されていた時期があり、真性、仮性がどの様な状況を意味するのか非常に混乱していた。現在の三叉神経痛の分類は1)典型的三叉神経痛(血管の圧迫による、かつての真性に該当)、2)二次性(血管以外の組織等による圧迫、かつての症候性に該当)、3)特発性(原因不明、かつての真性に該当)となっている。1)典型的三叉神経痛は血管の圧迫により神経に形態的変形が生じている場合であるので、単純に分類すると二次性であるが、血管による圧迫は三叉神経痛の典型的原因と言うことで、二次性とは別な分類になっている。他にこのような例外的な分類があるかどうか知らない。
さて、本論のidiopathicの訳が特発性となり、それが原因不明と理解されているが、私はどうも納得出来ないでいた。そこに痛覚変調性疼痛という概念ができあがり、その繋がりが思い浮かんでいる。
Idiopathicの語源は、ギリシャ語で「自分の」「私的な」を意味し、idioイディオと、病気の影響を暗示する -pathic の結合形である。その他のIdioの結合形のidiographicとは、「具体的、個別的、または独特なものに関する、またはそれを扱う」を意味し、idiolectとは「人生の特定の時期におけるある個人の言語または会話パターン」を意味する、idiotypeは「抗原特異性を与える抗体の分子構造とコンフォメーション」を意味するなどの用語がある。より一般的な慣用語はidiosyncrasy(特異性)であり、最も一般的なのは、人の行動や考え方が普通でないこと、あるいは何かの普通でない部分や特徴を指す。
このようにIdiopathicという用語から特発性は出てくるが、原因不明という意味は出てこなく、意訳過ぎると思われる。
少なくとも、特発性=原因不明ではないと思う。

 
2023年11月04日 15:49

11月18日アジア口腔顔面痛学会シンポジュウム

11月18日アジア口腔顔面痛学会で、2020年に米国科学アカデミーから発行されたTMD完全勧告レポート(TMDレポート)を取り上げて、シンポジュウムを企画しました。
企画の意図は壮大で、TMDレポー発行の目的を勝手に解釈し、今後のOFP発展の目的も設定して、それに向かって若手を向かわせようというものです。私には先頭に立って牽引するほどのエネルギーはありませんので、後方支援か後方から叱咤激励をしようと思っています。
シンポジュウムの発表者に以下の様なメールを送り、当日まで議論を重ね、準備していこうと思っています。

今後のOFPの目標の一つは、WHOが発行したICD-11に包含された慢性痛の一つである、chronic Headache and Orofacial painにしっかりと対応できるOrofacial pain専門医を育成していくことだと確信しています。
今回のシンポジュウムがその工程のスタートポイントになることを希望しています。
シンポジュウムの前半の企画意図は、NASEM TMDレポート11の改善勧告の学会の解説と発行の背景説明です。
NASEM TMDレポート発行の目的を推定するに、私は2つのポイントがあると思っています。
一つはselfLimitingではない慢性化するTMDへの対応体制を整えなければならない事です。
それには関連医科領域との連携が必須です。 関連医科領域との対等な連携にはOFP領域のレベルアップも必要です。

もう一つのポイントは、AADR2010statementで多くのTMDはselfLimitingであるので、まずPhase1として可逆的な治療から始めるべきである。
そして、症状改善したらPhase2の不可逆的治療をしないこととされた。
しかし、最近ではでこの原則がないがしろにされる傾向にあり、Phase1で症状が消失したら、次のステップとして全例Phase2治療を実施するという流れが正当化されてしまっている。
最近ではOFPの発展により、TMDの筋痛、関節痛の治療も進歩し、不可逆的治療は必要なくなっています。
シンポジュウムの後半では、各国のTMD研究、治療の現状と改善点を提示してもらい、慢性化TMD、OFPへの対応体系構築に向けての方策を皆さんで議論したいと思っています。
2023年10月29日 11:32

歯科にも慢性痛がある、誰が診るのか

歯科における痛み治療は、歯髄炎、歯周炎、歯冠周囲炎など細菌感染による急性痛の治療がほとんどです。一方、臨床を行っている多くの人は、原因不明の慢性的な痛みが存在することに気づいています。一般医科の状況をみても慢性痛で通院している人が多いことが判ります。例えば、整形外科です、かつては老人クラブと揶揄される状況で、腰痛、頸、肩こりを抱えた人が朝から整形外科に通院しています。この腰痛、頸、肩のこりは治るのでしょうか。かつて、整形外科では積極的に手術をしていた時代がありましたが、最近は骨の異常か脊柱管の神経が圧迫されていなければ手術の適応にはなりません。慢性痛に対して手術をしても効果が無いことが判って来たからです。従来、世界的に一般医科、歯科に関わらず、慢性痛という概念はなく、どんどん侵襲的な治療をすれば治るだろうという考えで治療を進めていました。
慢性痛で苦しんでいる患者さんは多く、慢性痛への対応の必要性が高まり、WHOが作る国際疾病分類(ICD11)に慢性痛が含まれる事になりました。
国際疾病分類第11版(ICD-11)について解説します。
参考引用文献:森脇 克行, 大下 恭子, 堤 保夫 ICD-11時代のペインクリニック―国際疼痛学会(IASP)慢性疼痛分類に学ぶ 日本ペインクリニック学会誌 28 巻 (2021) 6 号
2022年1月1日に国際疾病分類第11版(ICD-11)が発効されました。ICD-11には,はじめて慢性疼痛の分類コードが加えられる.この分類コードは国際疼痛学会(IASP)のタスクフォースによって開発された慢性疼痛の体系的な分類に基づいている.分類の特徴は慢性疼痛を3カ月以上持続または再発する痛みと定義した上で,慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛に分けたことである.
慢性二次性疼痛は診断で明らかにされている基礎疾患や組織障害による二次的な疼痛であるのに対して、慢性一次性疼痛には基礎疾患や組織障害が明らかでない線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群などの慢性疼痛症候群が含まれる.
慢性1次性疼痛
慢性一次性疼痛のカテゴリーに含まれる代表的な慢性疼痛症候群には,線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群(CRPS)1型がある.“非特異的”慢性腰痛や,過敏性腸症候群,膀胱痛症候群などのいわゆる“機能的”内臓性疼痛障害も慢性一次性疼痛に含まれる.これらの疼痛をもつ患者では,組織障害や炎症などによる二次的な侵害受容器の活性化や神経障害が認められないにもかかわらず,痛みに対する過敏性が存在する.従来,これらの慢性疼痛症候群に対して“非特異的疼痛”,“機能性疼痛”,“身体表現性疼痛”などの用語が用いられてきたが,IASPワーキンググループはこれらの曖昧な用語の使用を避け,慢性一次性疼痛という新しい疼痛カテゴリーを導入した.慢性一次性疼痛は,不安,怒り/欲求不満または気分の落ち込みなどの著しい感情的苦痛や,日常生活活動への障害や社会的役割への参加の減少などの機能障害を伴う,1つまたは複数の解剖学的領域の3カ月以上持続または再発する痛みと定義される.慢性一次性疼痛には生物学的,心理学的,社会的要因が複雑に絡み合っていると考えられている.
慢性一次性疼痛の一部はnociplastic painである可能性が示唆されている.Nociplastic painは新しい疼痛概念で,2016年にKosekらによって提案され,IASPの痛み用語として採用されている.その定義は「末梢侵害受容器の活性化を引き起こす実際のまたはその恐れのある組織損傷の明白な証拠,または痛みを引き起こす体性感覚系の疾患または病変の証拠がないにもかかわらず,侵害受容の変化によって生じる痛み」である.

2.2.4  慢性二次性頭痛および口腔顔面痛 
急性,慢性の頭痛と口腔顔面の疼痛は世界人口の4分の1以上の人々の生活の質を著しく低下させているが,その診療は医科と歯科の複数の領域が担っている.ICD-11分類のために,IASPの専門グループ,国際頭痛学会(HIS),歯科領域学会などの関連学会とWHOが協力して慢性頭痛および口腔顔面痛の分類が行われた.この部位の慢性疼痛の時間的な診断基準は「3カ月間に少なくとも50%の日に発生し1日2時間以上持続する頭痛または口腔顔面痛」である.この領域の慢性疼痛も一次性と二次性の疼痛に分けられる.一次性の痛みには,上述(2.1.2.3項)したように慢性片頭痛,慢性緊張型頭痛や痛みを伴う顎関節症,非定型顔面痛などが含まれる.これに対して,慢性二次性頭痛または口腔顔面痛は,痛みを生じる局所性または全身性疾患,外傷,感染症などの科学的に因果関係が明白な原因が存在する場合の痛みで痛みの原因によって11に細分類される.
口腔顔面痛領域の慢性痛は誰が対応するべきか
慢性一次性、二次性頭痛または口腔顔面痛の中で口腔顔面痛への対応は口腔顔面痛専門医が担う事になるであろう。従来から、歯や歯周組織の急性痛は一般歯科あるいは歯内療法科、歯周病科、あるいは口腔外科で対応してきたが、慢性痛、特に慢性一次性疼痛への対応は急性痛への対応と全く異なるものである。局所の感染状況、炎症症状に注目して、その除去、改善を目的に治療してきた急性痛治療に対して、慢性痛治療は大きく異なって、局所症状に対応するだけではなく、Biopshychosocialといった考え方で、患者に全人的対応をすることが求められる。このような対応が出来るのは口腔顔面痛専門医のみであるし、口腔顔面痛専門医知識、治療法の更なる向上が望まれる。


 

2023年10月09日 16:09

TMDの改善勧告レポート2

NASEM Study Reportと言われるTMDの改善勧告レポートには11個の改善勧告が挙げられている。

1-4)最初の4つの勧告は、国家研究コンソーシアムの設立、基礎研究とトランスレーショナル研究、公衆衛生研究、疾病負担の優先順位の設定、臨床研究の強化に焦点を当てている。4つの優先事項すべてが、患者中心のケアを改善するための基礎となる。これを受けて, NIHと国立歯科・頭蓋顔面研究所 (NIDCR) は, NASEM報告書と勧告をレビューし,この分野の研究努力をより良く支援するNIHの戦略を開発するために,顎関節症疾患多重協議ワーキンググループを設立した。 このグループの作業は進行中です。
MDEpiNet 患者主導円卓会議は、NASEM報告書と一致する研究計画を策定した。患者主導のイニシアティブで, TMJ協会(TMJA)のメンバーは顎関節 (TMJ) 研究のための追加資金を求めている。
 
5.6)勧告事項5および6は、疾患リスク評価および層別化の改善、診断、ならびに臨床診療ガイドラインおよびケアの測定基準の普及を通じて、TMD患者に対するケアの質を改善することを目的としている。
FDAおよびMDEpiNet Initiativeの現在の焦点は、Coordinated Registry Network (CRN) です。このネットワークは、連携した複数の登録データから患者の健康状態とケアに関する現実世界のエビデンスデータを収集し、医療に関する意思決定や承認された機器やその他の治療法の市販後モニタリングに使用します。TMJインプラントを受けた患者のニーズを促進するものとして、TMJAはTMJ患者主導円卓会議 (RT) を設立しました。
これは、連邦政府、科学者、臨床医、歯科医、アドボケート (支援者) 、製造業者などによる、患者を中心とした官民初の共同研究です。Coordinated Registry Network (CRN)の一部となるTMDの患者主導登録は、様々なTMD治療のリスク評価を決定するために使用される大規模なデータセットを提供し、TMD障害に苦しむ患者のケアのための臨床ガイドラインを確立することによって、勧告事項5および6に関わっている。
 
7)勧告7では、TMDの予防的治療と評価、治療、管理へのアクセスの改善に焦点が当てられている。これらの勧告は、他の勧告の結果が出るまで、より長期的な方法で対処される。
 
8-10)勧告8-10では、TMD患者の治療の改善が中心となっており、 「TMDおよび口腔顔面疼痛治療の中核拠点施設」 (勧告8) 、専門的学校教育の改善 (勧告9) 、医療提供者に対する専門的生涯教育の拡大 (勧告10) を提案している。歯科教育を改善するために, TMJAと米国口腔顔面疼痛学会 (AAOP) は, TMJが歯科大学教育カリキュラムに含まれなければならないと歯科認定委員会 (CODA) に勧告した。この勧告は承認され、2022年に実施される予定であり、その結果、TMJAとAAOPはTMDの博士課程前期課程のカリキュラム概要を作成している。
これとは別に, TMJAはTMDケアの専門家間モデルに関するワーキンググループを設立した。このグループは、医学、歯学、看護、理学療法、心理カウンセリング、およびその他の関連する医療分野にわたる専門家を含むTMDケアの新しい集学的モデルを開発する方法を模索しています。
 
11)勧告11は、TMDについての患者教育と認知、および疾患の悪評を減らすことに取り組んでいる。NASEMは、TMJAおよびTMJ患者主導円卓会議のメンバーが、米国医師会 (AMA) 教育グループ、米国歯科教育協会 (ADEA) 、およびNIDCRコミュニケーション健康教育室と協力して、NASEM報告書に要約されているように、この障害に関する現在の理解に基づいてTMDの教材を開発することを提言している。
これらの資料には、質の高い治療の受診方法、不評を減らすためにTMDの管理とケアの多くの側面を取り上げるパンフレット、ビデオ、バーチャル教育ワークショップが含まれます。
 
上述の行動は、TMDの研究、治療、教育に向けて切望されていたパラダイムシフトを実施するための主要な取り組みの第一歩にすぎない。
NASEM報告書とその勧告は, TMDの21世紀の科学に基づく研究と治療を前進させるための生物医学研究と医療コミュニティへの直接の呼びかけである。
 
この新たな研究結果は、TMDに関して、現在の歯、咬合に焦点を当てた治療は、より広範な医学界の専門家を巻き込んだ集学的で専門家間のチームアプローチに向けて調整されなければならないことを強く示唆している。治療は患者中心かつエビデンスに基づくものでなければならない、また、必要に応じて、インプラント装置の使用に際しては、市販前の厳正な評価と市販後調査を実施すること。
疾患治療の新しいモデルおよび新しい研究仮説は,これらの状態に対する科学的および臨床的アプローチに革命を起こすために絶対に必要である。TMDポートフォリオに現在含まれていない研究の専門知識は、専門家間ケア、臨床ガイドライン、疾患および治療のリスク評価の基礎となる新たな情報を明らかにするために不可欠である。これらの新しい概念を備えた医療提供者の集学的チームは, TMD患者の健康と生活を改善できる専門的で,患者中心で,思いやりのある方法で, TMDを診断し,治療し,管理することができる。
 
 
2023年10月09日 16:01

TMDの改善勧告レポート 1

来る11月開催される日本口腔顔面痛学会と共にAAOT(Asian academy of Orofacial Pain and TMDが開催される。
小生はその中でNASEM Study Reportと言われるTMDの改善勧告レポートに関するシンポジュウムの企画運営を依頼された。
企画者のねらいを含めて、TMDの改善勧告レポートの概要を紹介する。

Consensus Study Report on TMD by the National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM) -Recommendations for TMD research and treatment-
 TMDのトピックスとして、2020年3月、米国学術機関の統合団体である「全米アカデミーズ」を構成する全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM))から顎関節症(TMD)の研究、治療等全ての面における改善勧告レポートが刊行されたことが挙げられる。本レポートは米国のみならず世界中の今後のTMDの教育、研究、臨床に大きく影響しパラダイムシフトを引き起こす可能性のある。
*NASEM Study Report とは
2020年3月、「全米アカデミーズ」を構成する全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM))が現状の顎関節症(TMD)に関する生物医学研究、専門教育/訓練、および患者ケアのあらゆる分野において完全に改善しなければならないとする勧告レポート(NASEM Study Report)を発刊した。
本レポートは、TMDの治療の改善と新たな研究方針に取り組むために「顎関節疾患:研究とケアのための優先事項 (2020)」委員会によって作成されものである。最近の研究によるとTMDは複雑な多系統障害であり、TMD研究と治療は患者中心の、関連専門領域の集学的アプローチの必要性を指摘している。そして、従来の歯科中心で行われていた研究と治療は、新たな研究により得られた科学的知見と整合するように近代化されなければならないと勧告している。
本レポートは、TMDの研究、治療、訓練、教育に関する11個の改善点を含んでいて、各分野における現状の問題点と改善機会に対処するための短期的、中長期的な提言をしている。全般として、現在の歯、咬合に焦点を当てた機械論的、技術論的なTMD治療からBiopshychosocialに基づいた、より広範な医学関連専門領域の集学的チームアプローチに向けて調整されなければならないことを強く示唆している。これらの改善は、TMDの研究、治療、教育に向けて切望されていたパラダイムシフトを実施するための主要な取り組みの第一歩であり、本リポートは、TMDの21世紀の科学に基づく研究と治療を前進させるための生物医学研究と医療社会への直接の呼びかけである。
*本レポート発行の背景
歴史的に、米国において、これまでにTMDの研究臨床の改善のために声明(statement)が数回出されていて、現在のTMDに大きな影響を与えている。
1996年4月にNIH主催によりTMDの治療に関する世界初のテクノロジーアセスメントが開催され、声明が出された。
2010 年3月に米国歯科研究学会(American Academyof Dental Research: AADR)がTMD の正しい理解の普及を図るため,TMD基本声明を発表した。この声明で強調されていたのは以下の3項目であった。1)診断は診断機器でなく、問診による病歴聴取と身体的な検査によって行う、画像検査は必要に応じて行う。 2)治療については、「正当化できる特定の証拠がないかぎりは,顎関節症患者の治療の第一選択は,保存的で可逆的かつ証拠に基づく治療法とすることが強く薦められる」 3)診断と治療は、Biopshychosocialを基に行う。 
これらのステートメントはその後10年あまり経て、理論的にはTMD治療の基本として理解されているが、他方、一般臨床の場では形骸化されてしまい、相変わらず、技術論的、機械論的TMD治療が根強く行われているようである。例えば、免罪符的に最初にPhase1治療を行えすれば、続くPhase2治療は不可逆的治療であっても許容されると考えている臨床家が多い様である。
このような好ましくない状況が依然として続いているために、更なる改善を目的に本レポートが発行された。
 
2023年10月09日 15:48

口腔顔面痛診査法の客観性を高めるために

今年の夏の暑さは異例だったそうです。2023年夏(6月1日~8月24日)の日本の平均気温の基準値からプラス1.78度高かったそうで、夏の気温としては統計を開始した1898年以降の126年間で最も高かったそうです。9月を含めても同様の傾向になるでしょう。暑いのが好きなのとクリニックは涼しいので問題なし、ところが夜の暑さは耐えられませんでした。
このように暑かった今年の夏、患者さんの予約が少なかったこともあり、ゆっくりさせてもらい、診療改善のための年初来の課題解決に取り組みました。 口腔顔面痛診療を名人芸ではなく、客観性の高い診査法にして、誰もが同じ結果が得られるようにすることを目指しています。

1. 自律神経活動測定:指尖容積脈波を計測して、自律神経活動を調べる。痛みの患者さんは自律神経機能が変化している事があり、痛みに影響している可能性がある。慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項    どのタイミングで測定するのが良いか、初診と症状変化時

2. 開口抵抗力測定: オリジナルのアゴのこわばりの具合を測ろうという考えを具現化した開口抵抗力測定器を用いて、患者さんのアゴのこわばり度を測定する、その程度は筋緊張、筋拘縮など筋障害の程度を反映していると考えている。これも慶應在籍時の科学研究費を受けて研究開始以来の継続事項 単純に開口抵抗力を計るだけで無く、ストレッチをどれくらいすると筋収縮力が低下するか、患者さんがセルフケアをしてくれた効果を痛みの自覚症状に加えて客観的評価にも使えそう。初診時に測定し、診断結果との関連性を検討する。

3. 疼痛電気閾値測定:神経障害性疼痛患者さんのAllodynia部位の閾値測定、allodyniaは機械的動的刺激による痛みと規定されているが、刺激手法はまちまち、感じ方もいろいろで再現性が低い、そこで、電気刺激に対する反応として調べようという目的。既存の機械、電極からスタート。電極の改良が必要、電気なのでプラスマイナスの二つの端子が必要、でも、口腔内のallodynia部分に二つ置くのは無理、更にallodyniaの部分を刺激するといたくて、電気刺激か機械刺激による痛みか判別不能になる、等のいろいろな障害があり、改良に改良を重ねて、これで使えるかなと言う電極に達しました。 新しい電極で測定開始、スムーズに出来るかどうか。 

4. 患者さんとの医療面接を音声入力文字起こしシステム:痛み診療では患者さんの痛みの自覚症状を如何に文字化して客観的に評価するかが重要です。そのため、毎回の診察では10分程度いろいろな質問しながら経過を伺います。この内容をカルテにまとめるのが大変です。Googleドキュメントに音声入力があるのを見つけてのとりあえず音声入力文字化して、カルテに貼り付けていました。7月に慶應医学部の学生さん達が起業して、音声入力文字化、カルテ記載用に要約までしてくれるシステム開発(medimo)、それを試用させてもらっています。初診時の患者さんには構造化問診していくと、項目に沿ってやりとりを要約してくれる。再診時には自覚症状変化を上手く要約してくれる。医学用語、歯科用語の誤文字化をどうやって少なくするかが課題。
2023年09月06日 18:20

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