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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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TMDの改善勧告レポート 1

来る11月開催される日本口腔顔面痛学会と共にAAOT(Asian academy of Orofacial Pain and TMDが開催される。
小生はその中でNASEM Study Reportと言われるTMDの改善勧告レポートに関するシンポジュウムの企画運営を依頼された。
企画者のねらいを含めて、TMDの改善勧告レポートの概要を紹介する。

Consensus Study Report on TMD by the National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM) -Recommendations for TMD research and treatment-
 TMDのトピックスとして、2020年3月、米国学術機関の統合団体である「全米アカデミーズ」を構成する全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM))から顎関節症(TMD)の研究、治療等全ての面における改善勧告レポートが刊行されたことが挙げられる。本レポートは米国のみならず世界中の今後のTMDの教育、研究、臨床に大きく影響しパラダイムシフトを引き起こす可能性のある。
*NASEM Study Report とは
2020年3月、「全米アカデミーズ」を構成する全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM))が現状の顎関節症(TMD)に関する生物医学研究、専門教育/訓練、および患者ケアのあらゆる分野において完全に改善しなければならないとする勧告レポート(NASEM Study Report)を発刊した。
本レポートは、TMDの治療の改善と新たな研究方針に取り組むために「顎関節疾患:研究とケアのための優先事項 (2020)」委員会によって作成されものである。最近の研究によるとTMDは複雑な多系統障害であり、TMD研究と治療は患者中心の、関連専門領域の集学的アプローチの必要性を指摘している。そして、従来の歯科中心で行われていた研究と治療は、新たな研究により得られた科学的知見と整合するように近代化されなければならないと勧告している。
本レポートは、TMDの研究、治療、訓練、教育に関する11個の改善点を含んでいて、各分野における現状の問題点と改善機会に対処するための短期的、中長期的な提言をしている。全般として、現在の歯、咬合に焦点を当てた機械論的、技術論的なTMD治療からBiopshychosocialに基づいた、より広範な医学関連専門領域の集学的チームアプローチに向けて調整されなければならないことを強く示唆している。これらの改善は、TMDの研究、治療、教育に向けて切望されていたパラダイムシフトを実施するための主要な取り組みの第一歩であり、本リポートは、TMDの21世紀の科学に基づく研究と治療を前進させるための生物医学研究と医療社会への直接の呼びかけである。
*本レポート発行の背景
歴史的に、米国において、これまでにTMDの研究臨床の改善のために声明(statement)が数回出されていて、現在のTMDに大きな影響を与えている。
1996年4月にNIH主催によりTMDの治療に関する世界初のテクノロジーアセスメントが開催され、声明が出された。
2010 年3月に米国歯科研究学会(American Academyof Dental Research: AADR)がTMD の正しい理解の普及を図るため,TMD基本声明を発表した。この声明で強調されていたのは以下の3項目であった。1)診断は診断機器でなく、問診による病歴聴取と身体的な検査によって行う、画像検査は必要に応じて行う。 2)治療については、「正当化できる特定の証拠がないかぎりは,顎関節症患者の治療の第一選択は,保存的で可逆的かつ証拠に基づく治療法とすることが強く薦められる」 3)診断と治療は、Biopshychosocialを基に行う。 
これらのステートメントはその後10年あまり経て、理論的にはTMD治療の基本として理解されているが、他方、一般臨床の場では形骸化されてしまい、相変わらず、技術論的、機械論的TMD治療が根強く行われているようである。例えば、免罪符的に最初にPhase1治療を行えすれば、続くPhase2治療は不可逆的治療であっても許容されると考えている臨床家が多い様である。
このような好ましくない状況が依然として続いているために、更なる改善を目的に本レポートが発行された。
 
2023年10月09日 15:48