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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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口腔顔面痛診療の均てん化

口腔顔面痛診療の均てん化
均てん化とは、「全国どこでも、誰でもが等しく質の高いサービスや技術を受けられるようにし、地域や人による格差をなくすこと」です。
ここ数年の自分の活動を振り返ると、自分のために口腔顔面痛の知識、診療のレベルを高めることから、口腔顔面痛診療の均てん化を目指す活動に移行しています。最終目標は各県に少なくとも一人基本的口腔顔面痛診察が出来る人を育成し、その人とD to P with D (Doctor(口腔顔面痛専門医)to P(口腔顔面痛患者) with D(基本的口腔顔面痛診察可能歯科医師))様式のオンライン診療ができる体制を作ることです。その中で、一番の課題は基本的口腔顔面痛診察が出来る人の育成です。
歯学モデルコアカリキュラムに代表される歯学部における口腔顔面痛教育、国家試験出題範囲に取り入れてもらう事などから新卒歯科医師に最低限の口腔顔面痛知識を持ってもらうための枠組みは出来ています。ところが、新卒の歯科医師が臨床の場で口腔顔面痛の診療が出来るかというと、無理です。
歯科医師は学生時代の教育、ポリクリなどで歯の解剖を知り、歯を削り、充填、被せることが出来る様になります、卒業後は学生時代の経験を活かして、その延長線上で一般歯科臨床を展開して行きます。要するに一般歯科臨床は学生時代の教育により、卒後に自学自習が出来るようになっていて、極端に言うならば、1年間の卒後研修を終えたらすぐ開業しても一人で毎日の臨床の中で自学自習しながら一般歯科臨床を高めて行けるという事です。
ところが、口腔顔面痛、顎関節症に関しては学生時代の教育が不十分で、その後に自学自習できるまでの基本教育を受けていません。
解決策は、D to P with D (Doctor(口腔顔面痛専門医)to P(口腔顔面痛患者) with D(基本的口腔顔面痛診察可能歯科医師))様式のオンライン診療のための基本的口腔顔面痛診察の個別トレーニングです。
ここまで書いたところで、8/1にInternational Association for Orofacial Pain (IAOFP)のMid-summer meetingがありました。内容は世界各地区における口腔顔面痛の現状報告でした。口腔顔面痛患者は世界中にいますから歯科の中で誰かが治療している。国が認定の口腔顔面痛専門医制度は米国、ブラジル、韓国(Oral medicine)だけにあり、国によっていろいろな専門科の口腔顔面痛専門家が治療している。いずれにしても専門医の数は少なく、ブラジルでは口腔顔面痛専門医は全歯科医師の0.1%だそうで、診察を受けるのが大変だと言う事です。米国でも専門医のいない州が半分以上でしょう、ちなみにハワイには口腔顔面痛専門医はいません。
共通した問題点は、1)学生教育で共通したカリキュラムがない、2)ちゃんとした卒後教育プログラムが無い、3)保険適応になっていない、4)口腔顔面痛専門外来が少ない、5)多職種連携センターがなく、理学療法・心理学・神経内科と歯科が同じ施設内で診療しているところはない、6)紹介システムが明確でない、7)専門医の診察を受けることが地理的に困難である。
やっぱり解決策はD to P with D (Doctor(口腔顔面痛専門医)to P(口腔顔面痛患者) with D(基本的口腔顔面痛診察可能歯科医師))様式のオンライン診療である。
2026年08月03日 20:38

顎関節症、口腔顔面痛診察法実習セミナー

昨年に続いて顎関節症TMD、口腔顔面痛診察法セミナーの最重要部分である対面での診察法実習を7月19日.20日に2回行いました。実技指導という目的とクリニックの収容キャパシティーから指導医、アシスタントと受講者5人で行いました。
全体のプログラムは5月に開始し、4回のOn-lineセミナーで基本的知識を学んでもらった後に対面での診察法実習という流れです。8月の最後のOn-lineセミナーでは診察法実習で覚えた手法を自分の臨床に活用した結果生じた疑問点などについて答える時間にする予定です。
対面診察法実習プログラムは、
  • 顎関節症の関節痛障害検査、患者の下顎を診察医が徒手的に動かして、可動範囲、雑音の発生を調べる、関節痛を再現させることが目的です。顎関節症にも口腔顔面痛にも共通する筋痛障害検査、触診部位、加圧力の確認、そしてトリガーポイントの触知法を重点的に行いました。筋触診には一定の加圧力を保って
  • トリガーポイントを触知できた後に、超音波照射を併用したトリガーポイントプレッシャーリリースの実習を行いました。一定の加圧力を保って筋触診することによりトリガーポイントを触知できること、さらに、トリガーポイントプレッシャーリリースにもかなりの加圧力が必要な事を体験してもらいました。
  • 12脳神経検査:12脳神経の簡易な検査法を実習しました。三叉神経領域に何からの異常所見がみられた時には頭蓋内の異常を疑い、その場で脳神経診査を行うべきです。そして、必要に応じて脳神経内科への依頼をするという流れを確認しまいた。
  • 三叉神経領域、顔面、口腔内の感覚検査:触覚:痛覚、冷覚、温覚の検査実習を行いました。顔面の触覚は綿棒、痛覚は爪楊枝、口腔内の触覚はミラー、痛覚はピンセットを用います。冷感覚は湿らした綿棒をクーラントスプレーで冷やして使う、温感覚はワックスペンを一定温度にして使う事などを体験してもらいました。特別な道具は使う必要は無いこと、それぞれを使っての手法を学んでもらいました。
プログラム毎に私が受講者全員の診察を行い、それを真似て相互実習を行うという形式です。実習の後は、実際にやってみて不明な点等を質問してもらい答えるという時間を設けて皆さんの質問に答えました。受講者全員でデスカッションになることもありました。
8月には昨年受講した方々の2回目の対面診察法実習を行います。一年間、各自の臨床に応用して、しっかり出来ているかどうかの確認とアドバンスとしてトリガーポイントインジェクションを観てもらう予定です。
顎関節症、口腔顔面痛とも、大学や病院の専門診療科に所属してトレーニングを受けた方以外の方々はどうやって診察法を学ぶのか、自己流、見よう見まねで診察をしているのだと思います。これでは正しく診断し治療することは出来ません。このような状況で私に出来ることとして、On-lineセミナーと対面での診察法実習HYブリッドセミナーを企画した次第です。来年も続ける予定です。
 
2026年07月25日 12:09

慢性化TMDにはTeamApprochが必要

2026年顎関節学会で海外招聘講演をしたEric SchiffmanはDC/TMDのⅡ軸評価が大事であると強調していました。

Ⅱ軸に問題が無い単純例は本来Selflimitedですから、症状期にはセルフケア、スプリント、薬物療法で対処すれば、ほぼ改善する、しかし、Ⅱ軸に問題がある場合には複雑で慢性化しやすく、全ての医療関係を含んだTeamApprochが必要な事があると述べていました。
Ⅱ軸の評価項目の多くはOPPERA研究で初発TMDのリスク因子に挙げられているものと共通です。OPPERA研究のリスク因子解析では、全身の併存疾患(重要度スコア100-ランク1)、口腔顔面領域の様々な症状の数(92.9-2)、身体の痛み(80.6-4)、歯ぎしり、くいしばりなどを含んだ口腔機能異常合計スコア(OBC)(66.0-5)(元論文にランク3の項目がありません)と言われています。重要度スコアーの比較法が判りませんが上位3つは100-80であり、歯ぎしり、くいしばりなどを含んだ口腔機能異常合計スコアは66.0とかなり離れた数値になっています。歯ぎしり、くいしばりなどを含んだ口腔機能異常は歯科的に予防対応が出来るという点では重要ですが、それ以上に、TMD臨床において全身の併存疾患、口腔顔面領域の様々な症状、身体の痛みの確認しなければならないことを再確認すべきです。
 Slade: Painful Temporomandibular Disorder Decade of Discovery from OPPERA Studies  J Dent Res. 2016 Jun 23;95(10):1084–1092. doi: 10.1177/0022034516653743
 Bair Multivariable Modeling of Phenotypic Risk Factors for First-Onset TMD: The OPPERA Prospective Cohort Study The Journal of Pain 2013, v14-2     
 https://doi.org/10.1016/j.jpain.2013.09.003

リスク因子と言う言葉が流行の様に使われていますが、本来の使い方は素因を意味するものと思います。もちろん、素因が発症後は継続化因子になっているものもありますが、発症前、発症後を区別せず、初発因子、継続化因子をリスク因子というのは明らかな間違いと思います。特に継続化因子をリスク因子と称して治療対象にしているのは違和感が大きいです。
2026年07月14日 18:20

2026日本顎関節学会学術大会参加して感じたこと

日本顎関節学会学術大会参加して感じたこと
2年ぶりの参加でした。一番気になったことは、円板転位、30年前の自分でやった研究結果かと錯覚するような発表が多かった。大会長のランチョンセミナーは20年前の自身の研究結果だとはっきり言っていました。

2日間の発表を聞いて強く感じたことは、口腔外科医、補綴科医、矯正科医がそれぞれの教育、研究、臨床の基盤を元とした顎関節症の捉えかたがかなり異なる事でした。少なくとも10数年前の顎関節症病態分類(2013)が出た頃は共通性があったように思っていましたが、今回の学会で、同じ顎関節症病態でも捉え方、治療法がこんなに違うんだと感じました。顎関節症教育を考えると、各大学により顎関節症を教育する担当科が異なる事から、教科書は同じでも学生のイメージはことなるだろう、また、卒業後勤務した医院、病院の指導医の専門家により得意技が違って行くのだろうと思いました。顎関節症の捉え方、治療法に関して中立的な教育への統合は必要だろうと強く思いました。奇しくも韓国からの招聘講演者が同様の事を言っていました、韓国は顎関節症に直接関わる学会と間接的に関わる学会がいくつかあって、内容が異なるようであるようで(統合)が必要であると。

商品展示のコーナーに顎運動の3次元計測機器があり、この機械の計測結果を使ってスプリントを作ると良いモノが出来ますよと宣伝していました。計測原理は30年以上前と同じ、当時は1分の計測をしたら演算の間に食事に出て、戻ってきたら軌跡が表示されていました、進歩はコンピューターの演算能力、計測すると即時に3次元表示ができることです。AADOCRのTMDPositionPaperには、「現在、診療室で使用される電子診断機器は、TMDの有無(症例群と対照群)を区別したり、TMDのサブグループ(疼痛性または関節内診断)を区別したりするために必要な臨床的妥当性(感度と特異度)を欠いています。」と書かれています。良いスプリントが出来るかどうかは書いてありませんが、30年以上前にデジタルで顎運動計測を研究した経験からは、顎運動計測という根本的概念がそれ程に役に立つモノとは思えません。

今回の学会での最大の収穫は海外招聘講演のEric Schiffmanの講演でした。2014年に出されたDC/TMD顎関節症の病態診断について、今更何か新しいことがあるのかと思っていました。予想通り、前半は診断法、そしてそれによる診断精度の話しでした。ところが後半はⅡ軸診断の解説でした。Ⅰ軸はDC/TMDを準用した日本顎関節学会の「顎関節症の病態分類(2013)、 顎関節症診断基準、診断決定樹(2019)その後の診療ガイドラインでも活用されて、日本でも定着していますが第二軸は言及されていませんでした。私も第二軸は評価法が日本では馴染みのないもののため活用していませんでした。第Ⅱ軸は、痛みの裏にある「心理的ストレス」(不安、うつの評価)、「日常生活への支障度」、「全身の症状」(Chronic Overlapping Pain Conditionsの評価)、「日常習癖」を評価するもので、顎関節症を単なる「顎の怪我」ではなく「慢性疼痛」として捉えるための重要な指標です。顎関節症をBiopshychosocialモデルとして捉えるPshychoSocialの部分に当たります。DC/TMD以前にもⅠ軸(身体障害)とⅡ軸(心身医学的評価)の二次元で評価すべきと言う考えがありましたがこの頃は消えていました。
DC/TMDでは、以下のような診断が推奨されています。「第軸:顎関節痛 + 第軸:障害度グレード(支障なし、心身医学的評価:低)」軽度のため、顎のストレッチや生活習慣の改善(マウスピースなど)で経過観察。「第軸:筋膜痛 + 第軸:障害度グレード(全身に症状があり著しい支障、高度の抑うつ・不安傾向)」であり、うつ、不安の心身医学的問題がある顎の治療だけでなく、また、単純なストレスマネジメントだけではなく、症例によっては内科、心療内科・ペインクリニック等と連携したチームアプローチが必要と判断されます。奇しくも、の講演の締めくくりは、「複雑、慢性例に対してはチームアプローチすべき」でした。

もう一つの収穫は韓国の先生の講演の中でMuscle tonicityという用語を使っていました。これは私の研究の一つであった開口抵抗力測定方法開発の目的でした。Muscle tonicityとは、顎関節周辺の筋肉の静止時の緊張と持続的な活性化によって生ずるものです。Muscle tonicityが高いと、咬筋、側頭筋などが過労または過活動になると持続的な痛み、顎の動きの制限、頭痛につながる可能性があると思っています。講演が終わってから質問して情報交換することになりました。
終わってみると、二日間の長野での学会参加、期待するほど涼しく無かったですが、いくつか収穫があり出かけた甲斐がありました。
 
2026年07月13日 17:02

痛覚変調性疼痛と言えるTMD患者像を探して

7月第2週末、7/11.12日に長野市で日本顎関節学会が開催されます。プログラムは私が30年前1995年顎関節腔造影で転位円板の形態変化の研究で学位をもらう前に興味があった項目です。強い皮肉ですが、関係者は目にすることがないでしょうし、もし読んでくれたら今後の顎関節学会の方向が多少変わるでしょう。
私はその後、口腔顔面痛に転進し、1999年、American Board of Orofacial Pain(米国口腔顔面痛専門医認定機構)試験に合格して、今に到っています。

大学止めて以来、時間があるので、自分の毎日の診療で感じられる患者さんの病態、治療への反応性などをまとめて、自分の感覚と同じような事を考えている人はいないかと思い文献を調べています。
今回紹介する内容は、昔、米国の学会で討論会にも参加した事があり、以前から何回か紹介したことのあるOPPERA(Orofacial Pain: Prospective Evaluation and Risk Assessment)研究の臨床面での総括です。口腔顔面痛専門医としてのTMD治療に大きな指針を示してくれる内容です。
この研究の主宰者である故Maixner先生とはどこかの学会で講演の休憩時間に隣同士で用を足しながら(連れション)話した事が思い出です。痛覚変調性疼痛の議論で出てくるChronic Overlapping Pain Conditionsの発案者の一人でもあり、TMDだけではなく慢性疼痛に大きな影響を与える仕事をされた方です。奥様はタイの人で、学者の奥さんとは思えない好対照の人です。
今年2026年4月にAADOCR (American Association for Dental, Oral, and Craniofacial Research、旧名AADR:American Association for Dental Research)から出された「TMDに関する立場表明」には現在のTMDが総括されています。この立場表明は2010年にAADRから出されたTMD statementの改訂版に位置付けられます。2010TMD statementで強調されていたことは、TMDの原因は咬合異常では無いこと、もう一つの特徴は、多くはself-limitedで自然消退する病気であるから咬合治療など不可逆的な治療はしてはいけないという事でした。2026AADOCR TMDではやく70%が自然寛解すると書かれています。
これらの数字の根拠となるOPPERA研究は2006-2013年(baseline)と2014-2016年(Follow-Up)の二つからなります。TMDの発症因子をはじめとした様々な成果が得られ、30以上の論文が発表されています。その内容は現在の世界のTMD、口腔顔面痛、慢性疼痛の進歩に大きく寄与しています。
ここで紹介する内容は最近の痛みの世界で最も話題になっている痛覚変調性疼痛について、痛覚変調性疼痛としてのTMDの患者像はどんなものだろうかと探した結果出てきたものです。
OPPERA(Orofacial Pain: Prospective Evaluation and Risk Assessment)研究の結果、顎関節症(TMD)は病態が同じではなく、臨床的特徴から大きく3つのサブグループ(1,適応型、2,疼痛感受性型、3. 全身症候群型)に分類できることが示されました。
この考え方に基づき、現在のTMD治療では患者ごとの病態に応じた個別化治療(Precision Medicine)が推奨されています。
 
1. 適応型(Adaptive TMD)
特徴
  • 局所的な顎関節・咀嚼筋の障害が主体
  • 疼痛は比較的軽度で限局している
  • 心理社会的ストレスや中枢性感作は少ない
  • 全身性疼痛や他の慢性疼痛疾患を合併しないことが多い
  • 生体の適応能力が保たれている
病態
  • 局所の筋・関節への負荷や外傷が主因
  • 末梢組織の炎症や機械的障害が中心
治療
  • 患者教育・セルフケア
  • 咀嚼筋の安静
  • 理学療法
  • スプリント療法(適応を選んで)
  • NSAIDsなどの短期薬物療法
  • 予後は良好で保存療法に反応しやすい

2. 疼痛感受性型(Pain-sensitive TMD)
特徴
  • 顎だけでなく広範囲に痛みを感じやすい
  • 圧痛閾値(Pressure Pain Threshold)が低下
  • 中枢性感作(Central Sensitization)の存在
  • Chronic Overlapping pain conditions(線維筋痛症、頭痛、過敏性腸症候群など)を合併しやすい
  • 睡眠障害や疲労を伴うことが多い
病態
  • 中枢神経系の疼痛増幅
  • 下行性疼痛抑制系の機能低下
  • 神経可塑性の変化
治療
  • 中枢性感作を考慮した包括的治療
  • 認知行動療法(CBT)
  • 運動療法
  • 睡眠改善
  • 三環系抗うつ薬やSNRIなど中枢作用性薬剤(症例に応じて)
  • 咬合治療や侵襲的治療は避ける

3. 全身症候群型(Global Symptoms / Complex TMD)
特徴
  • 顎顔面痛に加えて全身症状が著明
  • 疼痛の部位が多数存在 Chronic Overlapping pain conditions
  • 身体症状(Somatic symptoms)が多い
  • 不安・抑うつ・破局的思考(Catastrophizing)が強い
  • QOL低下が著しい
  • 最も重症なグループ
病態
  • 中枢性感作に加えて
    • 心理社会的要因
    • 自律神経異常
    • 遺伝的要因
    • 神経免疫学的異常
      などが複合的に関与
治療
  • 生物・心理・社会(Biopsychosocial)モデルによる集学的治療
  • 歯科だけでなく
    • 疼痛専門医
    • 心理士
    • 理学療法士
    • 精神科・心療内科
      との連携
  • CBT
  • 疼痛教育(Pain Neuroscience Education)
  • 運動療法
  • 睡眠障害・精神症状への介入
  • 薬物療法(抗うつ薬、神経障害性疼痛治療薬など)
  • スプリントは適応でない
 
 
2026年07月02日 14:05

世界の顎関節症治療の常識 最新情報から

世界の顎関節症治療の常識 最新情報から 参考文献
未だに日本の顎関節症治療は混乱しています。かみ合わせを直して顎関節症を治療することを専門としている歯科医院のホームpageを見ます。
本当にかみ合わせを直すと顎関節症は治るのか、顎関節症の原因はかみ合わせの不具合なのか。そのように考えられていたのは30年以上前の話です。しかし、現在も、歯科医師も含めて医療関係者、マスコミも顎関節症はかみ合わせの不具合からという昔話から抜け出せません、従って、患者さんがそのように思うのは仕方ないですね。
いろいろな忖度があってか、かみ合わせが原因でないとは言えないらしいが、比重はかなり低く、歯を削ったりしてかみ合わせを変える治療はなるべくしないようにと言われています。
世界で初めて、上記の考えが公開されたのは、2010年、米国歯科研究学会AADRが当時の臨床試験、実験研究、疫学研究の証拠に基づくTMD治療に関する声明でした。(AADR顎関節症(TMD)声明 1996、2010.2015改訂、再確認 参考資料1))
特筆されたことは、TMDの自然経過がSelf-limitedで時間の経過とともに改善または消失する傾向である事、従って、歯を削ったり、手術したりせずに保存的、可逆的、かつエビデンスに基づいた治療法を行うことを強く推奨した事でした。
その後、約15年経過し、多くの臨床的データ、疫学研究により2010年のTMD声明に書かれていたことがより確かなものであることが支持されています。しかし、冒頭に書いたように、未だにTMDはかみ合わせの異常であるとか、咬合治療を最優先させる古い考えが残っています。
この度、このような状況を更に改善する事を目的に、米国歯科研究学会AADR単独では無く、国際歯科研究学会(IADR)INfORMグループが踏み込んで、現在の標準的TMD治療の10の重要なポイントを提案した次第です(参考資料2)。この10個のポイントが臨床的に非常に有用です。
2026年4月に米国歯科口腔頭蓋顔面研究学会(The American Association for Dental, Oral, and Craniofacial Research: AADOCR、旧米国歯科研究学会、The American Association for Dental Research AADR)が2010年に公開した「AADR顎関節症(TMD)声明」の改訂版として顎関節症(TMD)に関する立場表明(公開日:2026年4月7日)を公開しました。
強調されていることは、「TMDは慢性口腔顔面痛の最も一般的な原因です。さらに、TMDは全身疾患と関連している可能性があり、他の重複または併存する痛みの状態(併存疾患)と関連している可能性が高いです。慢性TMDは、より痛みが強く障害と関連しており、生活の質に大きな影響を与えます。」と慢性痛に言及している事です。
2024年IADRのINfORMネットワーク発行の参考資料2の内容もふまえて、「TMD管理に関する標準治療推奨事項(現在の標準的TMD治療の10の重要なポイント)」が再確認されています。2010年声明同様に、「TMD 患者の治療は主にセルフケアとして、保存的、可逆的、エビデンスに基づいた治療法を行うことを推奨しています。TMD 治療は痛みを下げ、機能障害を減らし、その影響を最小限にすることを目標とするべきです。」と強調しています。さらに、「TMD の自然経過に関する研究は、TMD症状は時間の経過とともに改善または解消する傾向があることを示唆しています。具体的には、軟組織および関節内の硬組織の状態の約 70 パーセントは時間の経過とともに安定してきます。」と述べています。つまり、70%はSelf-limitedであり、不可逆的な治療をしてはならず,残りの30%は慢性化する可能性が高いために特別な注意が必要であることが強調されている。そして、AADOCR は、この慢性的TMD の多因子的な性質に対処する、歯科だけではなく学際的な教育と研究の取り組みを促進することに尽力していると書かれている。
 
2026年06月06日 21:37

痛みの多様性 口腔顔面痛診査の重要性

痛みの多様性 口腔顔面痛診査の重要性
口腔顔面痛の外来には患者さんが様々な痛みを訴えて来院します。
口腔顔面痛外来の最初の役割は歯痛の窓口として、痛みの鑑別診断を行うことです。口腔顔面痛の診断が難しい理由は、第一に痛みの原因とは異なる部分に痛みを感じるという異所性疼痛であること、次が痛みの表現が患者さんによって非常に多様で、同じ疾患でも表現が異なる事です。
例えば、血管炎を病態とする片頭痛ならドックンドックン、ズッキンズッキン、脈打つ感じ、筋緊張を主態とする緊張型頭痛はギュー、グー、にぶい、締め付けられる、重苦しい等の表現からおおよその診断が思いつきます。ところが、緊張型頭痛と同じ筋緊張を主病態としながら咀嚼筋による痛みの場合には患者さん毎に訴えが異なります。
その典型的な訴えが咬筋、側頭筋の筋・筋膜疼痛による歯痛の訴えです。その歯痛の訴えも持続性のジワー、ジーン、ズキズキから咀嚼時のズキンまであります。従って患者さんの痛みの性質からは原疾患の鑑別は難しいです。
歯痛を関連痛として生ずる筋・筋膜疼痛は咬筋、側頭筋と顎二複筋です、これらに加えて胸鎖乳突筋からも歯痛と見誤る頬部痛が生ずることがあります。
口腔顔面痛の診察においては、しっかりとした筋触診が必須です。
先日、主症状側とは反対側の上まぶたが重いと訴える患者さんがいました。主症状は側頭筋の筋・筋膜疼痛でした、側頭筋の腫大、硬結、圧痛、関連痛誘発に加えて、茎状突起の腫大、圧痛、側頭筋筋突起付着部圧痛が強い事から原因は単純にかみしめとではなく、歯ぎしりが主因のようでした。反対側の咬筋、側頭筋には圧痛が無く筋・筋膜疼痛はないと思われましたが、胸鎖乳突筋を触診したら、停止部に近い上の部分に硬結があり、しばらく圧迫すると上眼瞼と前額部に関連痛が生じ、主訴の上まぶたが重いが再現されました。胸鎖乳突筋の筋・筋膜疼痛の原因は歯ぎしりとも考えられず、左右の異なる筋肉に、異なった原因によって別々な症状が出ていたという事です。
改めて、筋触診は有用な診察手段です。
 
2026年06月01日 11:21

関節反力 大開口時に最大、関節痛の原因

今週月曜日2026年5月18日、昔からの友達であるイスラエルのNizan先生の講演がありました。
ご主人は経済学者で、ご夫婦共々日本が好きで、今回が8度目の来日だったそうです。4月末に来日して2週間あまり北海道の各地を回ったそうです。宗教的理由、ユダヤ教の食事規定「カシュルート」で肉魚は食べられないそうで、北海道で何がごちそうだったのか疑問です。私との食事はイタリアンの店で和風パスタ、サラダ、ブルスケッタでした。当日はご主人も一緒の予定でしたが同じ時間で東大で講演されていたそうです。
彼女がArthrocentesis関節腔洗浄術の有効性を語っていたのは1985-1990年頃でした。滑液の粘稠により円板が動き難くなって下顎頭がスタッグした結果、開口障害生ずる、Arthrocentesisで滑液の粘稠度を下げると円板は前方転位したままなのに下顎頭が正常に滑走して開口出来るようになることを盛んに解説していました。日本においてもこの分野で大学の同級生村上賢一郎、久保田英朗、瀬上夏樹先生達が世界で活躍していました。
確かに私も関節造影をしていた頃に最後に関節腔を洗浄したり、膨らましたりした後にクローズドロックが解けて開口出来るようになる症例を経験していました。そのような症例では前方転移していた円板が正常な位置に戻ったから開口出来るようになったのだろうと、再度関節造影をしたら円板は前方転位したままで、開口時には前方転移した円板は抵抗なく下顎頭によって前方に押し出されていました。このような経験からクローズをロックでは前方転移した円板を戻す必要は無く、上手く動く方法をとれば良いのだと考える様になりました。私は関節腔の中の問題よりも関節に負荷をかける筋緊張に注目した訳です。Nizanは関節腔の中はパスカルの法則が作用して、下顎頭の動き、位置にかかわらず何処でも同じ圧力だと主張し、私は関節の関節窩と相対する下顎頭との間に働く関節反力は位置によって異なると主張して議論したことがありました。関節窩に下顎頭が収まっているときには、かみしめたとしても関節反力はほぼゼロ、一方、最大開口で下顎頭が最前方に位置したときは関節反力が最大になります。これが、開口時に関節痛が出る理由でもあります。
下顎頭が最前方に出るのは開口した時ですが、通常は最大開口を永く続けることはありません。ところが歯科治療はこの良くない長時間の最大開口を強いています、もう一つは睡眠中のギリギリの元の歯ぎしりです。側方運動したときに下顎頭を前方に押しつけます。これらによって前方滑膜に機械的刺激を与えて、炎症を生じさせる、というのが私の顎関節痛の発症メカニズムです。治療は、関節痛があるときは歯科治療を延期すること、歯ぎしりに対しては急角度の犬歯ガイドを付けたスプリントを使ってもらうことです。この治療は大変有効な治療法で今も行っています。私の臨床ではスプリントを使うのはこのような歯ぎしりがあって関節痛がある人に限っています。筋肉痛には効果が無いので使いません。
 
2026年05月21日 15:24

慢性疼痛患者の46%がPTSD症状

慢性疼痛患者の46%がPTSD症状を持ち、機能障害が顕著に

2025年6月2日

慢性疼痛と心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder: PTSD)を併発している患者は、PTSDを伴わない慢性疼痛患者と比較して、より重度の機能障害を示すことが明らかになった。この研究では、外傷体験の有無よりも、PTSD症状の存在が機能障害と関連していることが示された。北アイルランドの慢性疼痛患者を対象とした大規模横断研究の成果は、European Journal of Pain誌2025年7月号に発表された。

北アイルランドの慢性疼痛患者1,367例を対象とした横断研究


この研究は、北アイルランドの学際的疼痛リハビリテーションサービスを受診した慢性疼痛患者1,367例を対象とした横断研究である。研究の主な目的は、慢性疼痛患者における機能障害が外傷体験そのものによるものか、それともPTSD特有の症状に関連しているのかを評価することであった。また、北アイルランド地域におけるPTSDと慢性疼痛の併存率の高さを考慮し、その併存状況を調査することも副次的な目的とされた。参加者はPTSDスクリーニング尺度に加え、疼痛による生活障害、社会的機能、疼痛に対する不安、疼痛自己効力感、疼痛強度、うつ症状を評価する尺度に回答した。研究デザインとして、共変量を特定した後、多変量共分散分析(MANCOVA)を用いてPTSDカテゴリー別の従属変数の差異を検討した。

PTSD症状の有無が機能障害の重症度を左右


スクリーニングの結果、参加者の46.4%は外傷体験がなく、22.5%は外傷体験があるもののPTSDスクリーニングは陰性、31.1%はPTSDスクリーニング陽性であった。多変量共分散分析の結果、PTSDスクリーニング陽性群は、他の2群(外傷体験なし群、外傷体験ありPTSDスクリーニング陰性群)と比較して、すべての評価尺度において機能が悪く、生活障害がより大きいことが示された。一方、外傷体験なし群と外傷体験ありPTSDスクリーニング陰性群の間には、いずれの評価尺度においても有意差は認められなかった。これらの分析結果から、機能障害の悪化は外傷体験の有無だけでなく、PTSD症状の存在と関連していることが明らかになった。また、北アイルランドにおける慢性疼痛とPTSDの併存率は、過去の研究と比較して高い範囲にあり、地域の年間有病率推定値を上回っていた。

慢性疼痛とPTSDの統合的治療アプローチの必要性


研究者らは、慢性疼痛患者におけるPTSD評価では、外傷体験そのものに焦点を当てるよりも、これらの体験が日常機能に与える影響を評価することが重要であると指摘している。また、慢性疼痛とPTSDを統合的に治療するアプローチの開発が必要であるとしている。本研究の結果は、慢性疼痛患者の約3分の1がPTSDスクリーニング陽性であり、これらの患者は特に機能障害が大きいことを示している。このことから、慢性疼痛治療において心理的トラウマとPTSD症状の評価を組み込むことの重要性が強調される。慢性疼痛とPTSDの併存は患者の生活の質を著しく低下させる可能性があるため、両方の状態を同時に治療する統合的アプローチの開発が今後の課題として挙げられている。

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原著論文はこちら
Eur J Pain. 2025 Jul;29(6):e70044.
© 2025 The Author(s). European Journal of Pain published by John Wiley & Sons Ltd on behalf of European Pain Federation ‐ EFIC ®.
2026年05月15日 18:24

慢性痛は痛みのPTSDとも言える 2

私の慢性痛のメカニズム仮説として、「痛み(苦emotional、痛sensory )」の二つの側面が変化顕性化することによって生ずると考えています、これにより慢性痛が判りやすくなります。
慢性痛は下記の二つの側面が合わさって生じているのだろうと思っています。
  • 感覚体験(sensory)の元である痛み信号が感覚神経系を刺激して機能変化が生じた状態である中枢感作が生じている。
  • 情動体験(Emotional )が脳によって認識・解釈されてマイナスの「感情(Feeling)、持続的な主観的体験」として脳に記憶された状態、痛みのPTSD(心的外傷後ストレス障害)とでもいうべき状態。 
    情動(Emotion)と感情(Feeling)は心理学で明確に区別されます。情動は、外部刺激に対し自動的に生じる「急激で短期的な身体反応(恐怖、怒りなど)」です。一方、感情は、その身体変化を脳が認識・解釈した「持続的な主観的体験」です
    従って、情動的体験を脳がそれぞれの人生経験などを元にして認識、解釈して結果が感情という持続的な主観的体験となります。特にマイナスの感情は記憶に残りやすいと言われ、その典型的病態がPTSD(心的外傷後ストレス障害)であります。

慢性痛とPTSDの関連についてはこの記事を参照してください。 和嶋 ブログ参照

北アイルランドの慢性疼痛患者を対象とした大規模横断研究の成果
慢性疼痛患者の46%がPTSD症状を持ち、機能障害が強い
 
2026年05月10日 13:44

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