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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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口腔顔面痛雑感 




痛み治療では上記の神経系の病態だけではなく、患者さんの心への対応が必要です。患者さんに何故こんな風に痛くなったのかというメカニズムを探して説明する前に、応急処置が必要です。「傾聴、受容して、患者さんの状況について共通認識を持つ」、そして、多くの患者さんが痛みとともに大きな不安感を抱えていることも把握し不安を和らげることが必要です。これが従来からの当クリニックの基本的二本立て対応です。
口腔顔面痛、顎関節症の患者さんを診ていてあらためて思うこと 多くの症状はセルフリミッティングで自然に治ります。ところが、大きなストレス、患者さん自身の間違った解釈による、感情変化、間違った行動などにより、直るべきものが直っていないことがあります。このような患者さんでは解釈モデルを正しい方向にすり合わせて正しい知識を持ってもらい、余計な不安、怒りを静めるなどして、自然治癒能力を高める手助けするのが我々の治療です。ところが、治すべき治療であるはずが余計なこと、例えば咬合治療です、患者自身の自力治癒能力を邪魔するような治療をしていることがあります。感覚に鋭敏な方がストレス等で不安感が高まって、かみ合わせが気になる、自称顎関節症の専門家を受診、咬合調整、咬合再構成、矯正治療等がはじまった、ところが、このような感覚鋭敏の方は変化を受け入れられません、そのため何時まで経っても受け入れられるかみ合わせは無いのです。本当は余計な治療を始めなければ良かったのですが、今の泥沼状況から救い出すには、顎関節症についての正しい説明をして、患者さんの解釈モデルを少しずつすり合わせることにより患者さんとの信頼感を構築し、片手だけのつながりでも、それを頼りに患者自身に這い上がってもらうことです。
まだまだ、口腔顔面痛、顎関節症の標準的治療が行われていないことに苛立ちます。学会活動、マスコミを通じた広報、まだまだですね。

9月の米国タフツ大学の口腔顔面痛Webinarで歯内療法後の不快症状が何で起こるのかという話しがありました。原因として、不確実な歯内療法があるでしょうがそれはちゃんとした治療をすれば治ること。ちゃんとした歯内療法にも関わらず半年経過しても不快症状が続く場合があるという話しは以前からありました。その原因が歯内療法、特に抜髄以前の痛みの持続期間と関係あるという話し、以前から、抜髄前に3ヶ月以上痛み期間が有意な原因と言われていましたが何故かは言及されていませんでした。タフツ大のWebinarでは、抜髄前の歯髄痛により痛み信号が末梢神経、中枢神経と伝わり、三叉神経細胞体等の要所を興奮させてしまい、中枢感作につながるという話しでした。知覚過敏も同様、痛み信号全て脳に伝わって感じられること、状況に寄っては神経系を荒らして興奮させてしまい、長く続くと歯の問題ではなく神経障害性疼痛と同様になるということが再認識されました。

痛覚変調性疼痛の理解が深まり、現状で何をすべきかが少しずつ見えてきました。特効薬はなく、特別の治療法もありません。使い古された言葉ながら、患者さんに寄り添って、支えていくことがもっと効果があるようです。
慢性疼痛は人間の生存の為に警告信号としての痛み信号が高まったままに維持された状況、そして、痛みだけではなく、その他の感覚や自律神経系も変調しているので、言わば、脳機能変調というのが私の理解です。
2024年12月30日 10:32

口腔顔面痛を正しく診断 TMD+痛覚変調性疼痛典型例

皆さん一年間おつかれさまでした。私は金曜日に仕事を終えて解放されています。生来の貧乏性の故、のんびりしながらも次に何を勉強しなければと記憶に残った資料を探しています。
今はっきりしていることは、私の口腔顔面痛臨床は二本立てです。
一つは、口腔顔面痛を正しく診断する事です。
最終週にその必要性を強く印象づけられる初診2例と再診1例ありました。順に紹介します。
症例1:35歳男性スイス人(8年前に日本に一年間滞在したことがあり、日本語日常会話可能)
主訴:2ヶ月前から顔面、頭部、頸部全体が痛い、胸部も痛い
約10年前から顎の具合が悪く、開口障害を数度経験し、顎関節脱臼もの経験もある。スイス、フランスで複数の歯科を受診し、咬合治療、スプリント治療の経験あり。数年前から前歯部開口となり、矯正治療、顎矯正治療を勧められたこともある。
三ヶ月前に来日、睡眠障害、不安感が強く、夜中に痛みが強くなることがある。
心理テスト:HADs(不安14点、うつ13点)、PCS(反芻15点、無力感16点、拡大視8点)
睡眠障害診査:入眠困難、熟眠障害、途中覚醒4-5回、起床時疲労感+
光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘(過敏性腸症候群)
局所診査:
  1. 歯原性、非歯原性の診査:口腔内異常なし、歯原性を否定
  2. 感覚検査:口腔内感覚障害無し、顔面全体にallodyniaが認められる。
  3. 脳神経検査:上記顔面全体のallodynia以外、異常認められず。
  4. 筋触診:右側咬筋肥大+ 硬結+ 圧痛+関連痛無し、右側側頭筋肥大+ 硬結+ 圧痛+ 関連痛なし、右側後頸部圧痛++、右側胸鎖乳突筋硬結+ 圧痛+。
  5. 顎関節診査:ROM54mm、右側下顎頭滑走制限 顎関節痛誘発試験:牽引痛++、圧迫痛なし、 左側下顎頭滑走制限なし 顎関節痛誘発試験:牽引痛なし、圧迫痛なし 左右茎状突起腫大++ 圧痛+  左側下顎頭の可動性は大きい、全身Hypermobilityあり
  6. 咬合状態:前歯部開口、上下顎前歯部切端に咬耗あり、タッピング位では左右大臼歯(678)でBiteしている、小臼歯から前方は離解
臨床診断:右側顎関節疼痛障害-体質的な全身関節のHypermobilityがある状況で、Grinding(左右茎状突起腫大、圧痛)が加わり、咀嚼側顎関節に前方滑膜炎が生じている)
既往歴として、これらの原因に寄って、非復位性円板転位によると思われる開口障害を経験、前歯部開口もHypermobility、Grindingによって進行性(特発性)下顎頭吸収(Progressive (Idiopathic)Condylar Resorption:PCR、ICR)が生じた結果と思われる。
患側、咀嚼側の右側咬筋に軽度の肥大、硬結が認められるが圧痛は強くなく、慢性筋痛によく診られる鈍麻は認められない。
頬部、側頭部皮膚にallodyniaが生じていることから中枢感作が生じていることが考えられ、その原因は不安感、うつ状況、破滅的思考があり、睡眠障害が強い事と思われる。また、現症として認められた光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘(過敏性腸症候群)と合わせて考えると痛覚変調性疼痛と診断出来る。
考察:従来の歯科的捉え方では、右側顎関節痛障害という局所的な単純病態ながら、Biopsychosocialモデルとして捉えると、Bio(関節痛、皮膚allodynia、光過敏、音過敏、頻尿、下痢、便秘)、Psycho(不安感、うつ状況、破滅的思考、睡眠障害)、Social(異国、家族と離別)となり、全身的疾患として捉えるべきである事がわかった。

 
2024年12月30日 10:27

神秘の木バオバブ

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先日、93歳を過ぎてなお、かくしゃくとして活躍されている昔からの患者さんが義歯が壊れて、いらっしゃいました。湯川秀樹の直弟子で、素粒子理論物理学者です。湯川の日記等の自筆の文は小沼先生しか読めないそうで、いくつかの湯川の文を解説した本があります。湯川が作った世界平和アピール七人委員会の委員でもあります。昨年、映画「オッペンハイマー」が公開された際も原爆製造について、オッペンハイマーの人となりなどについてマスコミにインタビューを受けていました。9月に学会で出かけた札幌のついでに知床半島に行ってトラスト活動に寄付して買い戻した土地を見に行き、ついでに「知床五湖」ガイドツアーに加わり、野生の熊を観たとか。いろいろな話しの中で、お孫さんが生物学者で世界中を飛び回っているという話しの中で、マダガスカル島に数ヶ月滞在して植物を研究していたという話題が出ました。マダガスカル島というと、金子一方先生です。『星の王子様』のも出てくるバオバブの木を写真に撮るのに数回行ったという話しでした。小沼先生に金子先生がバオバブの木を写しているのが写っている写真を見せたら、非常に喜んで携帯で何枚も写真に撮っていました。奇しくも小沼先生と金子先生は1931年生まれで、私よりも20歳先輩です。お二人のように私も好奇心を持ち続けたいと改めて思いました。
2024年11月27日 13:25

歯痛診断の直感力を養う

今週末、2024年12月1日に開催される第29回日本口腔顔面痛学会学術大会 で入門講座3「一般歯科臨床で役に立つ歯痛診断」として講演します。
本入門講座の目的は、日常臨床で歯痛を確実に診断出来る様になるために、直感的に行っているパターン認識法を可視化して 診断精度を上げる手順を学習してもらうことです。
そして、私が伝えたいことをもっと判りやすく言うと、歯痛診断の直感力を養う方法です。臨床で役に立つ鋭い(高精度)直感力を養う方法を提案します。例えば、美味しい魚を養殖するにはエサが良くなければならない、なぜならば、エビを食っている天然の鯛は格別の味だからです。
歯痛診断直感力では、エサは症例パターンです、そのエサ(症例パターン)は自分で自分用に集めなければなりません、他人のエサ(症例パターン)は口には合わないからです、役に立たないのです。それでは、自分のエサ(症例パターン)はどうやって集めるか、その方法は臨床の場で鈍い精度の低い直感力で診断エラーし、仮説演繹法で正しい診断に行き着き、そしてその過程を省察(振り返り)することにより集めるのです。
上手くいった症例からは美味いエサ(症例パターン)は集められず、失敗例からこそ集められます。
直感、パターン認識法による診断エラーから仮説演繹法でリカバーした後に、何故、診断エラーしたのか、パターン認識法の過程を振り返る。これによって、自分だけの美味いエサ(症例パターン)を蓄積することができます。
 
2024年11月25日 21:05

歯学部学生授業 反転授業の試み

学生講義
先週、毎年恒例の北海道大学歯学部五年生の痛みの授業を行いました。
私の授業形式はオンラインを活用した反転授業を続けています。通常思い浮かべる授業といえば、先生が教壇に立って講義を行い、講義内容を定着させるために宿題を出されるのが一般的だと思います。反転授業は、従来の授業形態をまさに「反転」させたもので、前もって「授業」をビデオを用いて予習の形で受講してもらい、授業の日は教室でLIVEオンラインで痛みと鎮痛薬の最近の話題を追加解説し、授業内容およびそれに関連する事項に関する質疑応答をするのです。遠距離という理由と新しもの好きで従来の授業は一方的に知識を伝えることに主眼が置かれがちですが、反転授業では、事前学習で知識の習得が行われているため、各自の持っている知識とどのように関連させ活用するかに焦点が当てられます。一人ひとりの能力や特性に応じた学びが可能になるというメリットがあると言われています。
最初からこのような授業形式でしたから、コロナにより変わったところは、LIVEオンラインの授業の日に学生さんが大学の教室に集まっていたのが各居室で授業を受けることになっただけでした。教室に集まったときは学生さんの顔を見えなかったのですが、コロナの頃は学生さん全員の顔が見えて良かったです。
 
2024年11月18日 18:59

アジア口腔顔面痛学会 オンライン参加

先週末、台湾でアジア口腔顔面痛学会が開催されました。私は台湾で美味しい中華を食べようと木曜日に出発予定でしたが、台風が台湾直撃で台湾全土がTypoonHolidayということで予定の飛行機が欠航になってしまいました。学会はHybridになり、飛行機の振り替え、ホテルの予約のし直し等を交渉しているうちに面倒になり学会参加だけならオンラインでいいや、台湾行きを止めました。聞きたいプログラムをオンラインで聞きました。
KeynoteSpeakerはシドニー大学からシンガポール大学歯学部長に招聘されたChris Peck教授でした。講演内容は慢性疼痛、BiopsychosocialモデルとしてTMD、口腔顔面痛を捉えるべきであり、どのようにそのマネージメントを構築していくべきかという内容でした。
急性痛としてのTMD、口腔顔面痛をどうするかは依然として日常臨床の重要な仕事ではなるが、学会等の展望としてはもっと先を見なければなりません。そのモデルがChris Peck教授の講演だったと思います。
オンラインで参加して、発表の指導者は顔見知りなので同時進行でコメント欄でやりとりしていました。
そこで、各国の指導者の進めるべき方向性として私が提案したのは、TMD、口腔顔面痛の中で慢性疼痛を今後の対応疾患として、Biopsychosocial modelとして、特にpsychologicalマネージメントを具体化させるべきである。既に各国とも、慢性TMD、口腔顔面痛の心理的評価は研究されていて、神経質、破局的思考(catastrophizing)、うつ傾向にあること等が把握されています。今回もインドネシアから心理的要因による筋痛の身体化障害(ICD-10では身体化障害は器質異常なし、DSM5身体症状症ではなく中枢感作が本態というつもりのようらしいので用語が違うと思います)として発表されていました。
東南アジア各国に共通した背景として、心理士さんが医科領域においても慢性疼痛に関与していないために、基本的トレーニングを受けていいない医師、歯科医師がその面のマナージメントも担わなければならい状況にあるという事です。将来的解決策は心理士さんに慢性疼痛マネージメントを研修してもらい、参画してもらうことでしょう。これについては奈良学園大学の柴田先生が中心になって研修コンテンツが作成中のようで、完成が待たれます。
アジア各国のこの方面に興味のある人達に呼びかけて、具体的マネージメント案を検討しようかと思います。最初は慢性筋痛の対応です。
原因診査、判明した原因への認知行動療法的に宿題としてセルフケアしてもらう。また、筋痛の一般的対症療法を、これまた認知行動療法的に宿題としてセルフケアしてもらう。ここでも問題になるのは神経質、破局的思考(catastrophizing)、うつ傾向ある人達にどう対応するかです。この点に関して、専門家を交えて、早急にデスカッションが必要です。
 
アジア各国へのもう一つの提案は、若手のトレーニングとして臨床診断推論ワークショップの開催です。日本では日本口腔顔面痛学会企画で、ベーシックセミナー、そして、臨床推論実習セミナーが行われています。この企画をアジア各国に提案したいと思っています。
 
2024年11月04日 22:45

抜髄か経過観察か 早期の判断が求められる

気がつくと10月中旬、来週は札幌出張。この時期は冬に向かう札幌と東京の気温差が大きい時期です。春にはまだ冬の札幌と春半ばの東京とで気温差が大きい時期があります。
先週来、頭の中で興奮状態にあるのは歯内療法後の不快症状についてのびっくりの情報です。
この10月9日のタフツ大学Interdisciplinary Pain and Headache Roundsで歯内療法専門家のJennifer Gibbsの講演を聴きました。痛み研究で有名なテキサス大学Kenneth M. Hargreavesの大学院を卒業した人でENDO専門家で歯髄の痛みのメカニズムを神経生理、免疫学的に研究している人です。
1.知覚過敏は中枢感作によるものだろうと言っていました。象牙細管の動水力学性は歯の表面から象牙細管への刺激の伝導の話しであった、過敏反応は歯髄中の軸索反応連鎖の結果の知覚神経の過敏、反応性亢進が生じているということです。
2.歯内療法後、半年経過して痛み不快症状が残る患者の比率が5%位あって、その中で非歯原性歯痛であるものが3%位というNixdorfの有名な論文(2010)を紹介していました。そして、抜髄後の痛み、不快症状の誘因は術前三ヶ月以上続いた痛み、術中の痛みと言って、中枢感作が起こっているからだと結論していました。
歯内療法後の不快症状、痛みの原因が3ヶ月以上の術前痛という話しは、2005年Polycarpouの論文に書かれていてびっくりした内容と同じです。この論文の結論には、歯内療法成功後の持続的疼痛に関連する重要な危険因子として、1)術前の患歯部位からの疼痛が少なくとも3ヵ月以上持続していたこと、2)過去の慢性疼痛経験または口腔顔面領域の疼痛治療歴があること、および3)女性であることが挙げられていました。Polycarpou N, Ng YL, Canavan D, Moles DR, Gulabivala K. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. Int Endod J. 2005;38(3):169-178. doi:10.1111/j.1365-2591.2004.00923.x
当時、これらの危険因子がどのような意味合いを持つのか全く判りませんでしたが、今現在になって、私の解釈では、術前痛と術中痛は最近のnociplastic painの発生メカニズムと挙げられているBottom UP(術前痛による持続的痛み刺激、結果として中枢感作)、Top Down(術中痛による不安感、恐怖感による扁桃体刺激による中枢感作)に該当すると考えられ痛覚変調性疼痛つまり中枢感作が生じているということになります。
歯髄の反応、しみる、痛いは歯髄の中だけで起こっているのではなく、当然中枢神経系の伝わって感じられることは理解出来ることです。ところが、歯髄の反応としてのしみる、痛いは神経系を通り過ぎているだけではなく、単純に言うならば神経系の要所、要所を荒らしてしまう、その結果、過敏になってしまい、中枢感作につながるのです。
知覚過敏、歯内療法後不快症状の原因が中枢感作と言うことで、3ヶ月以上の当該歯の痛みが危険因子であるとすると、症状があるのに3ヶ月以上経過観察すると言うことはあってはならないことになります。あらゆる診査をして、早期に抜髄するか経過観察するか決断が必要と言うことです。
 
2024年10月14日 18:39

金子一芳先生を偲んで

10月6日は火曜会の金子一芳先生の追悼講演会と偲ぶ会でした。
皆さんのお話を伺うと私の知っていた金子先生のイメージを遥かに超えるスケールの大きな方だったことが語られていました。ああ、その歳になっても金子先生の様には出来ないなーと思わされてしまいました。
 私が金子先生と知り合ったのは1990年代前半でした。当時火曜会に在籍していた岡先生から、山形である講演会に金子先生が招かれ、もう一人米国からTMDを専門とする人も招かれていて、帰りに火曜会で講演することになっているので来てみないかという誘いでした。当時、米国の先生の話を聞く機会がありませんでしたので飛びつきました。全日、熱海に集合し歓迎会があり、そのまま真鶴の金子先生の別荘に行って夜遅くまでいろいろな質問をしました。その先生が当時のAmerican academy of craniomanidibular disorders を取り仕切っていたUniversity of California SanFrancisco(UCSF)のCharles McNeill先生だったのです。翌日は東京駅の近くの会議室でTMD講演会でした。その時に次回米国の学会に参加する際にUCSFのクリニックに見学させてもらう事をお願いしました。翌年から米国の学会に参加する際はサンフランシスコに途中下車して外来を数日見学させてもらいました。外来でのTMD治療は日本の治療とは全く違うもので、特に筋触診が新鮮でした。その後、コロナでいけなくなるまで、毎年見学させてもらいました。
 この見学が元となって、私のTMD治療、そして口腔顔面痛治療が出来上がりました、かつて、顎関節症の症型分類があり、4型.3型.1型.2型の除外単独診断が行われていた時代は多くの統計発表では最も多い症型は4型か3型でした。ところが慶應の発表は除外単独診断を無視して、患者の主訴の病態に該当する症型を調べていたのでⅠ型かⅡ型が最も多い結果でした。
 このような流れが2000年の口腔顔面痛懇談会の発足の元となり、今現在の日本口腔顔面痛学会につながっています。
と言うことで、金子先生との出会いがなければ私の歯科医師人生は全く変わっていたと考えられるし、日本の口腔顔面痛も変わっていたと思われます。
改めて金子一芳先生の導きに感謝するともに、目標に頑張らねばと思いました。
 
2024年10月07日 20:43

関連学会の先生方へ新刊「痛みの臨床推論」の勧め

このたび『“痛み”の臨床推論 診断過程を可視化するための教科書』と題した書籍を刊行させていただきました。
臨床の場でいかなる症状の患者を診る際にも、無意識のうちに、患者から特徴的な症状パターンを捉えて、瞬間的に「ひらめき」に似た形で今はどのような状況にあるか、次に何をすべきかを考えている、このような思考プロセスがパターン認識法と呼ばれる典型的な臨床推論です。経験を積んだ先生は正確、迅速に診断が出来、非常に効率的です。しかし、経験の少ない先生では診断の正確性が下がります。また、この方法は各自の頭の中で行われているために、自分自身でも検証することが出来ない、また、教育する事が出来ないといった弱点があります。
本書ではパターン認識法、仮説演繹法の診断過程を可視化する事を試みました。これにより、自分の診断を検証する、上級医に検証してもらう、また、診断過程を共有することが出来る利点が生まれます。最終的には診断の正確性を高めることに寄与できると思っています。本書の第3章に書かれた痛みの症例診断では、パターン認識法での診断エラー、次に仮説演繹法での正しい診断を得て、パターン認識法での診断エラーを省察して次の診断に活用するという手法を解説してあります。口腔顔面痛の臨床において複雑な症状の中から正しい診断をつきとめるために臨床の場での必要性から生まれたものです。
歯学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に、歯科では初めて「臨床推論」が加えられました。目的として書かれていることは、臨床の場において「問題の同定から治療やマネジメントに至るプロセスを論理的に思考する事」であり、本書はここで述べられている論理的思考プロセスを臨床術式として具現化したものとなっています。
毎日の臨床に可視化された論理的診断法を取り入れていただきたいと思います。
 
 
2024年10月05日 09:31

痛覚変調性疼痛の発症様式に二つのタイプ。

痛覚変調性疼痛の発症様式として二つのタイプが提案されています。
痛覚変調性疼痛の病態生理として、上行性の疼痛情報の増幅状態と下行性の抑制性疼痛制御の停止とさらには賦活化が含まれています。これらのプロセスは中枢神経の様々な部位、レベルで生じていると考えられています。
痛覚変調性疼痛の発症、継続状況に2つの大まかなサブタイプ、「ボトムアップ型」と「トップダウン型」が存在し、それらは異なる神経生物学的特徴と治療反応性を示すと仮定されています。私はこの「トップダウン型」という「ボトムアップ型」と対をなすように作られた用語に違和感があります。ダウンとすると末梢まで降りてくるのかというと、そうではなくあくまでも中枢神経系での出来事であるため、私は敢えて「トップ型」としようと思います。
ボトムアップ型痛覚変調性疼痛の概念は、末梢からの侵害刺激が長く続いたり、広範囲から生じたりすることにより、その侵害刺激により中枢感作が生じ、生体防御の合目的的に痛覚変調性疼痛が生ずると言うことです。そのため、侵害刺激が除去されると、これらのプロセスは自動的に最終的に正常化する可能性が高いです。これとは対照的に、トップ型の痛覚変調性疼痛は、侵害刺激の入力とは無関係に中枢神経系における疼痛処理の増大が起こり、それが維持されることを示唆しています。それではどのような事でトップ型痛覚変調性疼痛は生ずるのでしょうか。最も多い要因はストレス、恐怖などの心理社会的因子だろうと思っています。
痛覚変調性疼痛という用語が発表された直後は「心因性疼痛」,「心理社会的疼痛」が痛覚変調性疼痛に変わったのかという疑問がありましたが、これは明確に否定されています。ところで、不安、恐怖、情動ストレス等は関係ないのかというと、そうではなく、ストレスなどの『心理社会的因子』によって生じることは十分ありうることだと言われていて、『心理社会的因子が中枢神経系の可塑的変化を引き起こすことによって痛覚変調性疼痛が生じている』というケースが多く診られると思います。
 
2024年09月30日 20:53