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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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神秘の木バオバブ

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先日、93歳を過ぎてなお、かくしゃくとして活躍されている昔からの患者さんが義歯が壊れて、いらっしゃいました。湯川秀樹の直弟子で、素粒子理論物理学者です。湯川の日記等の自筆の文は小沼先生しか読めないそうで、いくつかの湯川の文を解説した本があります。湯川が作った世界平和アピール七人委員会の委員でもあります。昨年、映画「オッペンハイマー」が公開された際も原爆製造について、オッペンハイマーの人となりなどについてマスコミにインタビューを受けていました。9月に学会で出かけた札幌のついでに知床半島に行ってトラスト活動に寄付して買い戻した土地を見に行き、ついでに「知床五湖」ガイドツアーに加わり、野生の熊を観たとか。いろいろな話しの中で、お孫さんが生物学者で世界中を飛び回っているという話しの中で、マダガスカル島に数ヶ月滞在して植物を研究していたという話題が出ました。マダガスカル島というと、金子一方先生です。『星の王子様』のも出てくるバオバブの木を写真に撮るのに数回行ったという話しでした。小沼先生に金子先生がバオバブの木を写しているのが写っている写真を見せたら、非常に喜んで携帯で何枚も写真に撮っていました。奇しくも小沼先生と金子先生は1931年生まれで、私よりも20歳先輩です。お二人のように私も好奇心を持ち続けたいと改めて思いました。
2024年11月27日 13:25

歯痛診断の直感力を養う

今週末、2024年12月1日に開催される第29回日本口腔顔面痛学会学術大会 で入門講座3「一般歯科臨床で役に立つ歯痛診断」として講演します。
本入門講座の目的は、日常臨床で歯痛を確実に診断出来る様になるために、直感的に行っているパターン認識法を可視化して 診断精度を上げる手順を学習してもらうことです。
そして、私が伝えたいことをもっと判りやすく言うと、歯痛診断の直感力を養う方法です。臨床で役に立つ鋭い(高精度)直感力を養う方法を提案します。例えば、美味しい魚を養殖するにはエサが良くなければならない、なぜならば、エビを食っている天然の鯛は格別の味だからです。
歯痛診断直感力では、エサは症例パターンです、そのエサ(症例パターン)は自分で自分用に集めなければなりません、他人のエサ(症例パターン)は口には合わないからです、役に立たないのです。それでは、自分のエサ(症例パターン)はどうやって集めるか、その方法は臨床の場で鈍い精度の低い直感力で診断エラーし、仮説演繹法で正しい診断に行き着き、そしてその過程を省察(振り返り)することにより集めるのです。
上手くいった症例からは美味いエサ(症例パターン)は集められず、失敗例からこそ集められます。
直感、パターン認識法による診断エラーから仮説演繹法でリカバーした後に、何故、診断エラーしたのか、パターン認識法の過程を振り返る。これによって、自分だけの美味いエサ(症例パターン)を蓄積することができます。
 
2024年11月25日 21:05

歯学部学生授業 反転授業の試み

学生講義
先週、毎年恒例の北海道大学歯学部五年生の痛みの授業を行いました。
私の授業形式はオンラインを活用した反転授業を続けています。通常思い浮かべる授業といえば、先生が教壇に立って講義を行い、講義内容を定着させるために宿題を出されるのが一般的だと思います。反転授業は、従来の授業形態をまさに「反転」させたもので、前もって「授業」をビデオを用いて予習の形で受講してもらい、授業の日は教室でLIVEオンラインで痛みと鎮痛薬の最近の話題を追加解説し、授業内容およびそれに関連する事項に関する質疑応答をするのです。遠距離という理由と新しもの好きで従来の授業は一方的に知識を伝えることに主眼が置かれがちですが、反転授業では、事前学習で知識の習得が行われているため、各自の持っている知識とどのように関連させ活用するかに焦点が当てられます。一人ひとりの能力や特性に応じた学びが可能になるというメリットがあると言われています。
最初からこのような授業形式でしたから、コロナにより変わったところは、LIVEオンラインの授業の日に学生さんが大学の教室に集まっていたのが各居室で授業を受けることになっただけでした。教室に集まったときは学生さんの顔を見えなかったのですが、コロナの頃は学生さん全員の顔が見えて良かったです。
 
2024年11月18日 18:59

アジア口腔顔面痛学会 オンライン参加

先週末、台湾でアジア口腔顔面痛学会が開催されました。私は台湾で美味しい中華を食べようと木曜日に出発予定でしたが、台風が台湾直撃で台湾全土がTypoonHolidayということで予定の飛行機が欠航になってしまいました。学会はHybridになり、飛行機の振り替え、ホテルの予約のし直し等を交渉しているうちに面倒になり学会参加だけならオンラインでいいや、台湾行きを止めました。聞きたいプログラムをオンラインで聞きました。
KeynoteSpeakerはシドニー大学からシンガポール大学歯学部長に招聘されたChris Peck教授でした。講演内容は慢性疼痛、BiopsychosocialモデルとしてTMD、口腔顔面痛を捉えるべきであり、どのようにそのマネージメントを構築していくべきかという内容でした。
急性痛としてのTMD、口腔顔面痛をどうするかは依然として日常臨床の重要な仕事ではなるが、学会等の展望としてはもっと先を見なければなりません。そのモデルがChris Peck教授の講演だったと思います。
オンラインで参加して、発表の指導者は顔見知りなので同時進行でコメント欄でやりとりしていました。
そこで、各国の指導者の進めるべき方向性として私が提案したのは、TMD、口腔顔面痛の中で慢性疼痛を今後の対応疾患として、Biopsychosocial modelとして、特にpsychologicalマネージメントを具体化させるべきである。既に各国とも、慢性TMD、口腔顔面痛の心理的評価は研究されていて、神経質、破局的思考(catastrophizing)、うつ傾向にあること等が把握されています。今回もインドネシアから心理的要因による筋痛の身体化障害(ICD-10では身体化障害は器質異常なし、DSM5身体症状症ではなく中枢感作が本態というつもりのようらしいので用語が違うと思います)として発表されていました。
東南アジア各国に共通した背景として、心理士さんが医科領域においても慢性疼痛に関与していないために、基本的トレーニングを受けていいない医師、歯科医師がその面のマナージメントも担わなければならい状況にあるという事です。将来的解決策は心理士さんに慢性疼痛マネージメントを研修してもらい、参画してもらうことでしょう。これについては奈良学園大学の柴田先生が中心になって研修コンテンツが作成中のようで、完成が待たれます。
アジア各国のこの方面に興味のある人達に呼びかけて、具体的マネージメント案を検討しようかと思います。最初は慢性筋痛の対応です。
原因診査、判明した原因への認知行動療法的に宿題としてセルフケアしてもらう。また、筋痛の一般的対症療法を、これまた認知行動療法的に宿題としてセルフケアしてもらう。ここでも問題になるのは神経質、破局的思考(catastrophizing)、うつ傾向ある人達にどう対応するかです。この点に関して、専門家を交えて、早急にデスカッションが必要です。
 
アジア各国へのもう一つの提案は、若手のトレーニングとして臨床診断推論ワークショップの開催です。日本では日本口腔顔面痛学会企画で、ベーシックセミナー、そして、臨床推論実習セミナーが行われています。この企画をアジア各国に提案したいと思っています。
 
2024年11月04日 22:45

抜髄か経過観察か 早期の判断が求められる

気がつくと10月中旬、来週は札幌出張。この時期は冬に向かう札幌と東京の気温差が大きい時期です。春にはまだ冬の札幌と春半ばの東京とで気温差が大きい時期があります。
先週来、頭の中で興奮状態にあるのは歯内療法後の不快症状についてのびっくりの情報です。
この10月9日のタフツ大学Interdisciplinary Pain and Headache Roundsで歯内療法専門家のJennifer Gibbsの講演を聴きました。痛み研究で有名なテキサス大学Kenneth M. Hargreavesの大学院を卒業した人でENDO専門家で歯髄の痛みのメカニズムを神経生理、免疫学的に研究している人です。
1.知覚過敏は中枢感作によるものだろうと言っていました。象牙細管の動水力学性は歯の表面から象牙細管への刺激の伝導の話しであった、過敏反応は歯髄中の軸索反応連鎖の結果の知覚神経の過敏、反応性亢進が生じているということです。
2.歯内療法後、半年経過して痛み不快症状が残る患者の比率が5%位あって、その中で非歯原性歯痛であるものが3%位というNixdorfの有名な論文(2010)を紹介していました。そして、抜髄後の痛み、不快症状の誘因は術前三ヶ月以上続いた痛み、術中の痛みと言って、中枢感作が起こっているからだと結論していました。
歯内療法後の不快症状、痛みの原因が3ヶ月以上の術前痛という話しは、2005年Polycarpouの論文に書かれていてびっくりした内容と同じです。この論文の結論には、歯内療法成功後の持続的疼痛に関連する重要な危険因子として、1)術前の患歯部位からの疼痛が少なくとも3ヵ月以上持続していたこと、2)過去の慢性疼痛経験または口腔顔面領域の疼痛治療歴があること、および3)女性であることが挙げられていました。Polycarpou N, Ng YL, Canavan D, Moles DR, Gulabivala K. Prevalence of persistent pain after endodontic treatment and factors affecting its occurrence in cases with complete radiographic healing. Int Endod J. 2005;38(3):169-178. doi:10.1111/j.1365-2591.2004.00923.x
当時、これらの危険因子がどのような意味合いを持つのか全く判りませんでしたが、今現在になって、私の解釈では、術前痛と術中痛は最近のnociplastic painの発生メカニズムと挙げられているBottom UP(術前痛による持続的痛み刺激、結果として中枢感作)、Top Down(術中痛による不安感、恐怖感による扁桃体刺激による中枢感作)に該当すると考えられ痛覚変調性疼痛つまり中枢感作が生じているということになります。
歯髄の反応、しみる、痛いは歯髄の中だけで起こっているのではなく、当然中枢神経系の伝わって感じられることは理解出来ることです。ところが、歯髄の反応としてのしみる、痛いは神経系を通り過ぎているだけではなく、単純に言うならば神経系の要所、要所を荒らしてしまう、その結果、過敏になってしまい、中枢感作につながるのです。
知覚過敏、歯内療法後不快症状の原因が中枢感作と言うことで、3ヶ月以上の当該歯の痛みが危険因子であるとすると、症状があるのに3ヶ月以上経過観察すると言うことはあってはならないことになります。あらゆる診査をして、早期に抜髄するか経過観察するか決断が必要と言うことです。
 
2024年10月14日 18:39

金子一芳先生を偲んで

10月6日は火曜会の金子一芳先生の追悼講演会と偲ぶ会でした。
皆さんのお話を伺うと私の知っていた金子先生のイメージを遥かに超えるスケールの大きな方だったことが語られていました。ああ、その歳になっても金子先生の様には出来ないなーと思わされてしまいました。
 私が金子先生と知り合ったのは1990年代前半でした。当時火曜会に在籍していた岡先生から、山形である講演会に金子先生が招かれ、もう一人米国からTMDを専門とする人も招かれていて、帰りに火曜会で講演することになっているので来てみないかという誘いでした。当時、米国の先生の話を聞く機会がありませんでしたので飛びつきました。全日、熱海に集合し歓迎会があり、そのまま真鶴の金子先生の別荘に行って夜遅くまでいろいろな質問をしました。その先生が当時のAmerican academy of craniomanidibular disorders を取り仕切っていたUniversity of California SanFrancisco(UCSF)のCharles McNeill先生だったのです。翌日は東京駅の近くの会議室でTMD講演会でした。その時に次回米国の学会に参加する際にUCSFのクリニックに見学させてもらう事をお願いしました。翌年から米国の学会に参加する際はサンフランシスコに途中下車して外来を数日見学させてもらいました。外来でのTMD治療は日本の治療とは全く違うもので、特に筋触診が新鮮でした。その後、コロナでいけなくなるまで、毎年見学させてもらいました。
 この見学が元となって、私のTMD治療、そして口腔顔面痛治療が出来上がりました、かつて、顎関節症の症型分類があり、4型.3型.1型.2型の除外単独診断が行われていた時代は多くの統計発表では最も多い症型は4型か3型でした。ところが慶應の発表は除外単独診断を無視して、患者の主訴の病態に該当する症型を調べていたのでⅠ型かⅡ型が最も多い結果でした。
 このような流れが2000年の口腔顔面痛懇談会の発足の元となり、今現在の日本口腔顔面痛学会につながっています。
と言うことで、金子先生との出会いがなければ私の歯科医師人生は全く変わっていたと考えられるし、日本の口腔顔面痛も変わっていたと思われます。
改めて金子一芳先生の導きに感謝するともに、目標に頑張らねばと思いました。
 
2024年10月07日 20:43

関連学会の先生方へ新刊「痛みの臨床推論」の勧め

このたび『“痛み”の臨床推論 診断過程を可視化するための教科書』と題した書籍を刊行させていただきました。
臨床の場でいかなる症状の患者を診る際にも、無意識のうちに、患者から特徴的な症状パターンを捉えて、瞬間的に「ひらめき」に似た形で今はどのような状況にあるか、次に何をすべきかを考えている、このような思考プロセスがパターン認識法と呼ばれる典型的な臨床推論です。経験を積んだ先生は正確、迅速に診断が出来、非常に効率的です。しかし、経験の少ない先生では診断の正確性が下がります。また、この方法は各自の頭の中で行われているために、自分自身でも検証することが出来ない、また、教育する事が出来ないといった弱点があります。
本書ではパターン認識法、仮説演繹法の診断過程を可視化する事を試みました。これにより、自分の診断を検証する、上級医に検証してもらう、また、診断過程を共有することが出来る利点が生まれます。最終的には診断の正確性を高めることに寄与できると思っています。本書の第3章に書かれた痛みの症例診断では、パターン認識法での診断エラー、次に仮説演繹法での正しい診断を得て、パターン認識法での診断エラーを省察して次の診断に活用するという手法を解説してあります。口腔顔面痛の臨床において複雑な症状の中から正しい診断をつきとめるために臨床の場での必要性から生まれたものです。
歯学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)に、歯科では初めて「臨床推論」が加えられました。目的として書かれていることは、臨床の場において「問題の同定から治療やマネジメントに至るプロセスを論理的に思考する事」であり、本書はここで述べられている論理的思考プロセスを臨床術式として具現化したものとなっています。
毎日の臨床に可視化された論理的診断法を取り入れていただきたいと思います。
 
 
2024年10月05日 09:31

痛覚変調性疼痛の発症様式に二つのタイプ。

痛覚変調性疼痛の発症様式として二つのタイプが提案されています。
痛覚変調性疼痛の病態生理として、上行性の疼痛情報の増幅状態と下行性の抑制性疼痛制御の停止とさらには賦活化が含まれています。これらのプロセスは中枢神経の様々な部位、レベルで生じていると考えられています。
痛覚変調性疼痛の発症、継続状況に2つの大まかなサブタイプ、「ボトムアップ型」と「トップダウン型」が存在し、それらは異なる神経生物学的特徴と治療反応性を示すと仮定されています。私はこの「トップダウン型」という「ボトムアップ型」と対をなすように作られた用語に違和感があります。ダウンとすると末梢まで降りてくるのかというと、そうではなくあくまでも中枢神経系での出来事であるため、私は敢えて「トップ型」としようと思います。
ボトムアップ型痛覚変調性疼痛の概念は、末梢からの侵害刺激が長く続いたり、広範囲から生じたりすることにより、その侵害刺激により中枢感作が生じ、生体防御の合目的的に痛覚変調性疼痛が生ずると言うことです。そのため、侵害刺激が除去されると、これらのプロセスは自動的に最終的に正常化する可能性が高いです。これとは対照的に、トップ型の痛覚変調性疼痛は、侵害刺激の入力とは無関係に中枢神経系における疼痛処理の増大が起こり、それが維持されることを示唆しています。それではどのような事でトップ型痛覚変調性疼痛は生ずるのでしょうか。最も多い要因はストレス、恐怖などの心理社会的因子だろうと思っています。
痛覚変調性疼痛という用語が発表された直後は「心因性疼痛」,「心理社会的疼痛」が痛覚変調性疼痛に変わったのかという疑問がありましたが、これは明確に否定されています。ところで、不安、恐怖、情動ストレス等は関係ないのかというと、そうではなく、ストレスなどの『心理社会的因子』によって生じることは十分ありうることだと言われていて、『心理社会的因子が中枢神経系の可塑的変化を引き起こすことによって痛覚変調性疼痛が生じている』というケースが多く診られると思います。
 
2024年09月30日 20:53

痛覚変調性疼痛とはどのようなものか-かなり身近なものです-

痛みの臨床推論」の編集作業が終わったのが8月初旬、35度越えの猛暑日が毎日続いて居た頃から約2ヶ月、頭の中ですっきりしないことは、2017年国際疼痛学会で第3の痛みのメカニズムとして提案されたNociplastic Pain(2021年日本語訳が痛覚変調性疼痛)がどのようなものなのかでした。いくつかの日本、海外からの論文を読んでも、痛覚変調性疼痛はこのようなもので、臨床ではこのように関連しているんだという、私の知りたいことにダイレクトに答えてくれるものはまだありません。それでも頭の中に断片的な知識が溜まりましたので、何とかつなげて自分なりの痛覚変調性疼痛の理解に努めてきました。
今現在の痛覚変調性疼痛の私の理解は、人間の生存を脅かす様々な刺激、侵害刺激に加えて精神的な脅威、危機感等に対して生体防御のために過敏になり、反応性を亢進した結果なのだろと思っています。
つねると痛いという侵害受容性疼痛による痛み、神経が壊れた結果として起こる神経障害性疼痛は「痛みはなんらかの器質的な異常の結果として起こる」という従来の理解はそのまま正しいが、そのような「ここの神経に異常があるから痛いんだ」という「痛み」とは違った痛みの様です。侵害受容性疼痛も神経障害性疼痛もその痛みは身体保護のための合目的的現象であるが、痛覚変調性疼痛は痛み信号に精神的要因が加わって生ずる、他の二つの痛みメカニズムとはレベルの異なる警告信号のようです。当然のように侵害受容性疼痛にも神経障害性疼痛にも痛覚変調性疼痛が重複して、二つの痛みを変調させているようです。
例えば、歯が痛くて歯科に行ったが原因不明だと言われた、何が原因なんだろうと考えると痛みが気になってしょうがいない、時間とともに痛みが強くなったような気がするし、気分的に耐えられなくなってきた、このような状況も不安感により痛覚変調性疼痛がベースに生じて痛みの状況が変化してしまったのだと思います。つまり、苦痛(痛み、苦しみ)の感じ方が変調してしまうのです。生来、心配性のひとは何倍も変調し感覚ボリュウムがマックスまで上がっているでしょう。私のこのような雑な理解ですが、臨床的実感があると感じてくれる方もいるでしょうし、患者さんの中にも私のこの痛みも痛覚変調性疼痛が関連しているかもしれないと思う方がいると思います。
そこまで判ったら、次はどうすれば、治るのか改善するのかが問題です。残念ながらこれに対する臨床的な答えは余りはっきりしません。痛覚変調性疼痛に関する基礎的研究、病態の研究は進んでいますが、治療法に関してはこれだという答えを書いた論文は見当たりません。 私の印象では薬物療法よりも非薬物療法が第一選択で、基本的には患者さんの痛み、苦しみに寄り添い、傾聴、受容、そして、状況を共通認識することが必要なのだと思います。
 
2024年09月30日 16:14

新刊「痛みの臨床推論」の読みどころ2 第三章の仮説演繹法

本書の読みどころ 2
この本の読みどころは、やはり第三章の仮説演繹法による可視化した臨床診断推論ステップです。
 「臨床推論」とは何にか、臨床医が日常臨床のなかで、診療に関して考える事(思考過程)、全てを意味します。医学モデルコアカリキュラム、歯学モデルコアカリキュラムともに「単純に疾患名を暗記することを期待しているのではなく、臨床推論では可能性のある病態から疾患を導き出すプロセスが重要であり、このプロセスを学修することで、十分に学んでいない疾患についても鑑別診断として想定できるようになることが目標である」と書かれています。臨床の場における診断プロセスを学習しましょうということと理解出来ます。
内科を代表とする医科では、皮膚科を除いて疾患の視覚的情報が少ないために、いくつかの鑑別診断を想起して、その確認の為に検査を行い、その結果と合わせて臨床診断推論を行うことが一般的です。このようなプロセスが簡単ながら仮説演繹法です。
一般歯科臨床において、例えば痛みの患者さんを前にして、歯科医師がどんな事を考えているか、「痛みの原因は何だろう」です、この思考過程も臨床診断推論です。
一般歯科臨床で診る痛みの多くは、歯髄炎、根尖性歯周組織炎、辺縁性歯周組織炎、智歯周囲炎、口内炎など最後に炎のつく、炎症による痛みです。これらの痛みの診断では口腔内検査、デンタルX 線検査による視覚的情報によって簡単に診断が出来てしまいます。観れば判ると言う事で、他の検査所見はそれを確認する程度の情報として取り扱われてしまいます。このような臨床診断推論がパターン認識法で、一般歯科臨床では非常に有用ですす。ところが、このパターン認識法が通用しない場面もあります。
本書の第三章の構成は、患者さんの訴えと視覚的情報によって、これだと、パターン認識法で診断が出来て、治療したが、どうも診断が間違っていたようだ、次はどうしようかと思ったときに使うべき診断プロセスが示してあります。
この診断プロセスが冒頭に示した医学モデルコアカリキュラム、歯学モデルコアカリキュラムに書かれている、「臨床推論では可能性のある病態から疾患を導き出すプロセスが重要であり、このプロセスを学修することで、十分に学んでいない疾患についても鑑別診断として想定できるようになることが目標である」、そのものです。
 
2024年09月18日 17:36