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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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2024年9月の記事:ブログページ

痛覚変調性疼痛の発症様式に二つのタイプ。

痛覚変調性疼痛の発症様式として二つのタイプが提案されています。
痛覚変調性疼痛の病態生理として、上行性の疼痛情報の増幅状態と下行性の抑制性疼痛制御の停止とさらには賦活化が含まれています。これらのプロセスは中枢神経の様々な部位、レベルで生じていると考えられています。
痛覚変調性疼痛の発症、継続状況に2つの大まかなサブタイプ、「ボトムアップ型」と「トップダウン型」が存在し、それらは異なる神経生物学的特徴と治療反応性を示すと仮定されています。私はこの「トップダウン型」という「ボトムアップ型」と対をなすように作られた用語に違和感があります。ダウンとすると末梢まで降りてくるのかというと、そうではなくあくまでも中枢神経系での出来事であるため、私は敢えて「トップ型」としようと思います。
ボトムアップ型痛覚変調性疼痛の概念は、末梢からの侵害刺激が長く続いたり、広範囲から生じたりすることにより、その侵害刺激により中枢感作が生じ、生体防御の合目的的に痛覚変調性疼痛が生ずると言うことです。そのため、侵害刺激が除去されると、これらのプロセスは自動的に最終的に正常化する可能性が高いです。これとは対照的に、トップ型の痛覚変調性疼痛は、侵害刺激の入力とは無関係に中枢神経系における疼痛処理の増大が起こり、それが維持されることを示唆しています。それではどのような事でトップ型痛覚変調性疼痛は生ずるのでしょうか。最も多い要因はストレス、恐怖などの心理社会的因子だろうと思っています。
痛覚変調性疼痛という用語が発表された直後は「心因性疼痛」,「心理社会的疼痛」が痛覚変調性疼痛に変わったのかという疑問がありましたが、これは明確に否定されています。ところで、不安、恐怖、情動ストレス等は関係ないのかというと、そうではなく、ストレスなどの『心理社会的因子』によって生じることは十分ありうることだと言われていて、『心理社会的因子が中枢神経系の可塑的変化を引き起こすことによって痛覚変調性疼痛が生じている』というケースが多く診られると思います。
 
2024年09月30日 20:53

痛覚変調性疼痛とはどのようなものか-かなり身近なものです-

痛みの臨床推論」の編集作業が終わったのが8月初旬、35度越えの猛暑日が毎日続いて居た頃から約2ヶ月、頭の中ですっきりしないことは、2017年国際疼痛学会で第3の痛みのメカニズムとして提案されたNociplastic Pain(2021年日本語訳が痛覚変調性疼痛)がどのようなものなのかでした。いくつかの日本、海外からの論文を読んでも、痛覚変調性疼痛はこのようなもので、臨床ではこのように関連しているんだという、私の知りたいことにダイレクトに答えてくれるものはまだありません。それでも頭の中に断片的な知識が溜まりましたので、何とかつなげて自分なりの痛覚変調性疼痛の理解に努めてきました。
今現在の痛覚変調性疼痛の私の理解は、人間の生存を脅かす様々な刺激、侵害刺激に加えて精神的な脅威、危機感等に対して生体防御のために過敏になり、反応性を亢進した結果なのだろと思っています。
つねると痛いという侵害受容性疼痛による痛み、神経が壊れた結果として起こる神経障害性疼痛は「痛みはなんらかの器質的な異常の結果として起こる」という従来の理解はそのまま正しいが、そのような「ここの神経に異常があるから痛いんだ」という「痛み」とは違った痛みの様です。侵害受容性疼痛も神経障害性疼痛もその痛みは身体保護のための合目的的現象であるが、痛覚変調性疼痛は痛み信号に精神的要因が加わって生ずる、他の二つの痛みメカニズムとはレベルの異なる警告信号のようです。当然のように侵害受容性疼痛にも神経障害性疼痛にも痛覚変調性疼痛が重複して、二つの痛みを変調させているようです。
例えば、歯が痛くて歯科に行ったが原因不明だと言われた、何が原因なんだろうと考えると痛みが気になってしょうがいない、時間とともに痛みが強くなったような気がするし、気分的に耐えられなくなってきた、このような状況も不安感により痛覚変調性疼痛がベースに生じて痛みの状況が変化してしまったのだと思います。つまり、苦痛(痛み、苦しみ)の感じ方が変調してしまうのです。生来、心配性のひとは何倍も変調し感覚ボリュウムがマックスまで上がっているでしょう。私のこのような雑な理解ですが、臨床的実感があると感じてくれる方もいるでしょうし、患者さんの中にも私のこの痛みも痛覚変調性疼痛が関連しているかもしれないと思う方がいると思います。
そこまで判ったら、次はどうすれば、治るのか改善するのかが問題です。残念ながらこれに対する臨床的な答えは余りはっきりしません。痛覚変調性疼痛に関する基礎的研究、病態の研究は進んでいますが、治療法に関してはこれだという答えを書いた論文は見当たりません。 私の印象では薬物療法よりも非薬物療法が第一選択で、基本的には患者さんの痛み、苦しみに寄り添い、傾聴、受容、そして、状況を共通認識することが必要なのだと思います。
 
2024年09月30日 16:14

新刊「痛みの臨床推論」の読みどころ2 第三章の仮説演繹法

本書の読みどころ 2
この本の読みどころは、やはり第三章の仮説演繹法による可視化した臨床診断推論ステップです。
 「臨床推論」とは何にか、臨床医が日常臨床のなかで、診療に関して考える事(思考過程)、全てを意味します。医学モデルコアカリキュラム、歯学モデルコアカリキュラムともに「単純に疾患名を暗記することを期待しているのではなく、臨床推論では可能性のある病態から疾患を導き出すプロセスが重要であり、このプロセスを学修することで、十分に学んでいない疾患についても鑑別診断として想定できるようになることが目標である」と書かれています。臨床の場における診断プロセスを学習しましょうということと理解出来ます。
内科を代表とする医科では、皮膚科を除いて疾患の視覚的情報が少ないために、いくつかの鑑別診断を想起して、その確認の為に検査を行い、その結果と合わせて臨床診断推論を行うことが一般的です。このようなプロセスが簡単ながら仮説演繹法です。
一般歯科臨床において、例えば痛みの患者さんを前にして、歯科医師がどんな事を考えているか、「痛みの原因は何だろう」です、この思考過程も臨床診断推論です。
一般歯科臨床で診る痛みの多くは、歯髄炎、根尖性歯周組織炎、辺縁性歯周組織炎、智歯周囲炎、口内炎など最後に炎のつく、炎症による痛みです。これらの痛みの診断では口腔内検査、デンタルX 線検査による視覚的情報によって簡単に診断が出来てしまいます。観れば判ると言う事で、他の検査所見はそれを確認する程度の情報として取り扱われてしまいます。このような臨床診断推論がパターン認識法で、一般歯科臨床では非常に有用ですす。ところが、このパターン認識法が通用しない場面もあります。
本書の第三章の構成は、患者さんの訴えと視覚的情報によって、これだと、パターン認識法で診断が出来て、治療したが、どうも診断が間違っていたようだ、次はどうしようかと思ったときに使うべき診断プロセスが示してあります。
この診断プロセスが冒頭に示した医学モデルコアカリキュラム、歯学モデルコアカリキュラムに書かれている、「臨床推論では可能性のある病態から疾患を導き出すプロセスが重要であり、このプロセスを学修することで、十分に学んでいない疾患についても鑑別診断として想定できるようになることが目標である」、そのものです。
 
2024年09月18日 17:36

仮説演繹法との取り組み

2,019フィリピン
痛みの臨床推論(デンタルダイヤモンド社)を刊行しました。
臨床診断推論に取り組む経緯を改めて考えてみました。私の頭の中に臨床診断推論の元が生まれたのは非歯原性歯痛を知って以来ですが、その必要性を深く認識したのは米国口腔顔面痛学会認定医試験(American Board of Orofacial Pain)の口頭試問の様子を聞いたときです。私が1999年にABOPを受けた時は口頭試問は無く筆記試験だけでしたので知らなかったのですがその後、筆記試験合格者に翌年に口頭試問が課されました。この口頭試問は面接官から症例の概要を口頭で提示され、受験者が試験管にいろいろな質問しながら最終診断を導き出すという様式でした。面接官からの症例概要を聞いてすぐに浮かんだ鑑別診断をこれが診断だと答えると、複数の仮説想起を促され、それが出来ない様であれば失格だったようです。つまり、パターン認識法求めていたのでは無く、仮説演繹法による臨床診断推論が求められていました。これを知ったときに、私の頭の中で臨床における仮説演繹法が現実のものになりました。試行錯誤して、構造化問診等による包括的情報収集から始まる仮説演繹法の可視化ステップを作成し、研修医の症例検討会に用いてブラッシュアップしました。完成した仮説演繹法可視化ステップを用いて、10年以上前から日本口腔顔面痛学会口腔顔面痛診断実習セミナーを行ってきました。グループ学習として、ファシリテーターの指導の元、不ループ全員で提示された症例に対して仮説演繹法に従い仮説を想起し、それを検証する為の検査法を考えだしステップ表に書きだしてデスカッションし、最終診断を導くという実習が行われてきました。また、この実習は2016年、横浜において国際疼痛学会口腔顔面痛分科会とアジア口腔顔面痛学会が共催された時にアジアの参加者を対象に行われました。アジアにおける開催は、その後、2017年ジャカルタ(インドネシア)、2018年台北(台湾)、2019年マニラ(フィリピン)と続いたがコロナ禍で中断を余儀なくされてしまいました。今年2024年、台湾開催では間に合いませんでしたが、2025年タイ開催では、アジア各国からファシリテーターを募り、口腔顔面痛に興味を持つアジア各国の若手に集まってもらいインターナショナルなワークショップを行いたいと思っています。
 
2024年09月18日 14:19

慈恵医大加藤先生痛覚変調性疼痛講演会参加記事 

今週赤坂麻布歯科医師会の学術講演会で慈恵医大の加藤先生が講演されました。一般歯科開業医対象ということで多少話しを判りやすく話されたようですが、しっかり最新脳科学を解説してくれました。私は歯科医師会会員ではありませんが、外部参加も受け付けると言う事で参加させてもらいました。
これまで加藤先生の話を何回か聞いたことと、今回の話は痛覚変調性疼痛だけで無く、周辺の知識も総合して話してくれるので、痛覚変調性疼痛の事が判りやすかったです。
最後に侵害受容主義から脳中心主義とまとめていました。加藤先生は脳機能の変化により様々な内部出力が生ずるとまとめていました。私の理解は脳機能全体に変調が生じ、痛みに関しては痛覚変調性疼痛という表現形で、感覚系では音過敏、光過敏、匂い過敏など、その他にも様々な表現形として症状が現れている、例えば自律神経失調、精神科からみると以前の身体表現性障害、疼痛障害、今の身体症状症もそうだろうと思います。
表現形が痛覚変調性疼痛と出るか、身体症状症と出るかの違いや、その誘因が何である、末梢からの慢性的な痛み刺激とか、精神的ストレスとかによって、薬物療法が効いたり、共感や認知療法など心身医学的対応が有効であったりするのかと思っています。いずれにしても、何らかの痛みがある状況で、痛みのボリュウムが上がって、通常よりも強く感じられているのが痛覚変調性疼痛だろうと思っています。
 
痛みの伝導路に関して、脊髄後角/三叉神経脊髄路核から視床への投射と教科書に書かれてきたが、三叉神経では95%が腕傍核へ直接投射され、視床への5%のみだそうです。腕傍核からは扁桃体に投射される、ということでこの扁桃体の機能が非常に重要視されている。精神的ストレス、情動変化はこの扁桃体に影響するといわれていて、三叉神経からの侵害刺激もこの扁桃体に投影されると言う事でその重要性が注目される。扁桃体を動物実験で刺激することにより足まで広範囲に痛覚過敏が生ずることが示されている。
数年前に、三叉神経の侵害刺激が腕傍核に投影されることが判り、脊髄神経からの中枢への投影経路が異なるの痛みの性質が異なるのではないかという論文がありました。三叉神経での95%対5%と脊髄神経での比率は異なるのかどうか、そしてその結果として痛みの性質が異なるのかどうか、扁桃体への投影が多いことにより、情動変化を起こしやすいのかどうかは解説していませんでした。どなたか詳しい方はお知らせください。
 
現在の神経障害性疼痛の薬物療法のターゲットは、脊髄後角/三叉神経脊髄路核での下行抑制系の作用、一次Nシナプス前膜からの興奮性伝達物質の放出調整であるが、プレガバリンは扁桃体でCGRP抑制を示して中枢感作を止めるということで、痛覚変調性疼痛にも神経障害性疼痛にも作用している可能性があると思いました。
 
ここからは和嶋の私見です。
筋・筋膜性疼痛の関連痛も脊髄後角/三叉神経脊髄路核の中枢感作で論じられていますが、もっと上位の可能性があるなと思いました。
片頭痛は中枢神経系にGeneratorがあると言われるが、痛みの本態は脳硬膜下での三叉神経血管説で言われるメカニズム、筋・筋膜性疼痛も末梢の筋肉中のトリガーポイントからの痛み、ところが片頭痛は全身にallodyniaを生じ、筋・筋膜性疼痛は関連痛が生ずる時点で少なくとも三叉神経脊髄路核で変化が起こっていて、両者とも中枢感作が生じていると考えられる。筋・筋膜性疼痛はトリガーポイント治療、片頭痛はトリプタンやCGRP製剤で末梢入力を減らすことをしている、それが奏功して痛みが収まることがあるが、痛みが完全には収まらないこともある。片頭痛でCGRPが無効な場合は中枢感作が生じているというBursteinの昔の研究があるが、片頭痛の時点で中枢感作が起こっているので、中枢感作がある、なしの問題では無く、末梢からの刺激減少によって収まる中枢感作なのか収まらない中枢感作なのかという事だと思います。そして、収まらない場合が痛覚変調性疼痛が起こっていると言うのかと思っています。
 
今後、どのような状況を痛覚変調性疼痛と診断するのか、具体的な症例呈示してデスカッションが出来れば、これが痛覚変調性疼痛ということが具体的に理解出来るようになるだろうとおもいます。
 
2024年09月07日 21:33