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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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2024年2月の記事:ブログページ

慢性疼痛に関する話題 痛みを和らげる手法を探す

現在の慢性疼痛の治療の流れは最終的には痛みがゼロにならないから、残った痛みは患者さんに受容してもらい、ADL、QOLの向上を目的に、言わば軟着陸するための手法として認知行動療法が勧められています。慢性疼痛にはまだまだ判らないことがいっぱいあり、ゼロにならないにしても、できる限り痛みを和らげる手法を探そうと思います。
ここでは慢性疼痛に関する最近の話題をいくつか概説します。
1)何故、急性痛が慢性疼痛に移行するのか、2)ストレス等によって何故、慢性疼痛の強さ、感度が変動する、3)睡眠不足だとどうも痛みに敏感になってしまう、何故だろう、等など、いろいろな疑問があります。
  1. 急性痛が慢性疼痛に移行のメカニズム
昔から、炎症反応は防御的、合目的反応であると言われて、それは急性期の炎症反応を抑制するためと考えられてきました。最近になり、この反応は急性期のことだけでは無く、慢性疼痛への移行を防ぐ作用もあると考えられるに至っています。
急性の腰痛でNSAIDsを服用すると慢性疼痛に移行する可能性がある、また、腰痛に対してNSAIDsを長期も服用していると慢性化しやすいという論文があります。そして、OPPERA-TMD研究でも実際の患者さんで同様の傾向があることが示されました。結論として、運動器痛の急性期における炎症反応のアップレギュレーションが、慢性疼痛の発症に対する防御機構として重要であり、炎症反応をNSAIDsで抑制してしまうと好中球におけるある種の遺伝子発現量が少なくなることが、その理由だろうと言われています。一般に鎮痛に使われる薬の中でNSAIDsは抗炎症作用を持つのに対してアセトアミノフェンは抗炎症作用が無く、急性期における炎症反応のアップレギュレーションを抑制しないので、慢性疼痛移行への防御機構も阻害しないようです。NSAIDsは使わない方が良いのではと言う議論になりますが、それよりも、炎症反応のアップレギュレーションの際の好中球におけるある種の遺伝子発現量を高める方法を検討すべきと言うことで研究が進んでいます。
別な研究によると、急性疼痛から慢性疼痛への移行する背景には、Toll-like receptor 4 (TLR4)と呼ばれるゲートウェイ受容体が関連している可能性を報告しています。神経を含めた組織の傷害があると炎症が起こり、自然免疫のシグナル伝達が活性化されます。有害な刺激、ストレス、組織傷害、特にマイクロバイオームや消化管の傷害に反応して、炎症細胞から刺激物質を放出します。 これらの刺激物質の多くが、Toll-likeレセプターを刺激するということです。
TLR4を活性化することによって、強い痛みは引き起こさないが、中枢免疫系を刺激して神経系を感作する可能性があるとされています。つまり、神経系に慢性疼痛への移行を促進するカスケードを形成すると言うことです。
また、2)例えば食生活の乱れや心理的ストレスがあると、神経系にカスケードの反応を高める多くの受容体やチャネルが強発現し、痛みカスケード全体の流れが増強される可能性があると言われています。この結果、痛みを引き起こすというよりも、閾値が下がり反応しやすい状態になると言うことです。
3)睡眠障害と痛みの関連性 睡眠障害と痛みの関連性は隠れたトピックで重要な研究がいくつか出されています。これは続編で書きます。
 
2024年02月27日 09:11

末梢神経障害の分類の変遷 臨床との関連を求めて

神経損傷分類まとめ
末梢神経障害の分類の変遷 Seddon分類、Sunderland分類からBirch and Bonney 分類まで
これまで数回末梢神経傷害の分類について書いてきました。いずれも臨床的有用性が低いこと、臨床的関連性は説明出来ませんという論調です。世界は広く、長い歴史の中でそのような考えは多くの方が持っていたようで、今回納得の話しを書きました。    
 wajima-ofp.com/blog_articles/1678969421.html   
 wajima-ofp.com/blog_articles/1673068431.html
歯科では、智歯抜歯やインプラントの偶発症として生ずる下歯槽神経、舌神経の神経障害が身近な問題であり、最近は下顎骨の狭小化により智歯抜歯による舌神経損傷、インプラントの普及による下歯槽神経損傷が世界的に増加傾向にある。末梢神経損傷の組織、病理分類として、必ずSeddonの分類、Sunderlandの分類が用いられるが、臨床的に有意なものかどうかと言う点では疑問がある。要は臨床の場における神経損傷は複雑な病態、様々な損傷程度が入り交じっていて、多くの症例は本稿の最後に挙げるMackinnonにより追加されたSunderland分類Ⅵに相当すると考えられる。Seddon、Sunderlandの細かな分類は神経障害の組織、病理的研究の基準であって、臨床における神経障害の程度や回復経過の説明のために作られたものではないと思っている。そのため、後年の研究者達は臨床を念頭に様々な改変、追加を行っている。最たるはBirch and Bonneyによる、非変性神経損傷と変性神経損傷の区別である。
神経損傷の分類に関する現在の理解の基礎は、英国Oxford大学Nuffield校整形外科学教授だったSeddonが神経損傷例を基に発表したSeddonの分類(1942)にある。
Seddonは当初英語での分類を考えたが、同僚の神経内科教授Henry Cohenの曖昧さを避けるためにギリシャ語使用の提案を受け入れて、ギリシャ語での分類となった。Neurapraxia (Transient block:一過性ブロック)、Axonotmesis (Lesion in continuity:軸索連続性の病変)、Neurotmesis (Division of a nerve:神経線維の断裂)
それから約10年後、オーストラリアMelbourne University解剖学教授で後に学部長になったSir Sydney Sunderlandによって、Sunderlandの分類(1951)が出された。彼は、現代の医師はギリシャ語を理解できないだろうとの予測と、末梢神経損傷例の長期研究の後に、神経鞘の段階的障害に基づいて番号による分類を提案した。Sunderlandタイプ I がSeddon分類のNeurapraxiaと同等であることに言及しているが、SeddonのAxonotmesis 、Neurotmesisとの比較は明確にしていない。神経鞘の破壊が大きくなると再生中の軸索の「交差配線」が生じる可能性があるということで、後年の比較表ではSunderland classⅡがAxonotmesisと同等でありであり、神経内膜損傷以上の損傷であるClassⅢ-ⅤがNeurotmesisに相当すると考える説がある。 和嶋の誕生年でした。
1988年、末梢神経外科の専門家であるLundborgは一見無害に見える神経への損傷による臨床症状の違いを理解するのに役立つ生理学的伝導ブロックの概念を提案し、Neurapraxiaと Sunderlandタイプ Iの部分を短時間回復のtype Aと数日から数週以内回復するtype Bに分類した。
1989年、カナダの末梢神経外科医であるMackinnon女史がSunderland分類の最後にClassⅥとしてSunderland分類の複数のタイプを組み合わせた混合タイプを追加した。この分類スキームは、神経損傷の臨床的診査所見や回復過程と合致するものである。
1991年、神経損傷の理解に多大な貢献を果たした英国のBirch and Bonneyが、臨床的観点から非変性神経損傷と変性神経損傷に区別することを提案しました。要は、障害軸索がワラー変性を起こすかどうかという臨床に密接に関連する相違に基づいての分類である。
ということで、最後の分類は非常に臨床的で神経障害が治るか、治らないかの分類でした、そして、治るのは最も軽度のSeddon分類のNeurapraxia  Sunderland分類のClassⅠのみです。
2024年02月11日 14:50

帯状疱疹ワクチン テレビコマーシャル

この頃、テレビで50歳以上の人への帯状疱疹ワクチンのコマーシャルをよく観ます、それにはしっかりした理由があります。
それは、子供への水痘ワクチン接種が普及して、子供の水痘がほとんど無くなったことに起因しています。従来は、家庭で子供、孫の水痘発症が帯状疱疹抗体価が下がってきた両親、祖父母で抗体増加のブースター効果を発揮して、両親、祖父母の帯状疱疹発症を予防していました。ところが、近年の水痘ワクチン接種によって子供の水痘発症が無くなったことにより、両親40歳代、祖父母50歳以上での帯状疱疹抗体増加のブースター効果が発揮されなくなり、抗体が上がること無く、帯状疱疹が発症してしまう事が増えています。
高齢で帯状疱疹を発症すると、60歳以上では約半数で帯状疱疹後神経痛に移行すると言われていて、現在は都合の悪い状況になっています。帯状疱疹自体が非常に痛そうですが期限があります。ところが帯状疱疹後神経痛は神経障害性疼痛であり、終わりが見えない慢性の痛みです。三叉神経領域でも顔面、口腔内に発疹する帯状疱疹が多く、中には顔面神経にも罹患し三叉神経の帯状疱疹後神経痛と顔面神経麻痺の後遺症が出る人がいます。非常に大変です。
現在、50歳以上の人には帯状疱疹の予防接種が出来る様になっています。
ワクチンには二種類あって、従来から用いられていたのは子供向けの水痘予防生ワクチン(一回7-8千円)、もう一つは、組み換え帯状疱疹ワクチン(一回2万円を2回)です。費用は地域によって公的補助金が出るところがあります。
この二つのワクチンの有効性に関する論文があります。単純には 組み換え帯状疱疹ワクチンの有効性が圧倒的に高いです。
生ワクチン
帯状疱疹の発症予防の有効性は、時間とともに減弱していた。接種後30日以上1年未満には67.2%(95%信頼区間65.4-68.8%)だったが、1年以上2年未満には49.6%(47.4-51.7%)に、10年以上12年未満には14.9%(5.1-23.7%)まで低下していた。
 帯状疱疹後神経痛予防については、接種後30日以上1年未満が83.0%(78.0-86.8%)で、10年以上12年未満には41.4%(16.8-58.7%)だった。
 
組み換え帯状疱疹ワクチン
接種後の期間別にみた帯状疱疹予防有効率は以下のとおりであった(1回接種の有効率vs.2回接種の有効率)。
【30日後~1年未満】70% vs.79%
【1年後~2年未満】45% vs.75%
【2年後~3年未満】48% vs.73%
【3年後以降】52% vs.73%
 
費用対効果、何回注射を受けるかを考えると、組み換え帯状疱疹ワクチンが良さそうですね。
2024年02月05日 21:00

顔面非対称 口角のズレ

このブログは口腔顔面痛を主体としたものですが、その中に筋・筋膜疼痛の関連で、2021年10月13日に書いた「顔面の非対称は噛み癖で起こる」という記事があり、なぜか、この頃よく読まれています。痛みの専門医がなぜ顔面の非対称なのかと思われる方がいると思いますが、顔面の筋障害つながりです。
口腔顔面痛のなかで最も多い咀嚼筋の筋・筋膜疼痛は慢性痛であって、数日の負担過重で起こるのでは無く、何ヶ月、何年も負荷が掛かって生じます。どんな負荷が掛かるのか、ご飯の食べ過ぎや固いものを咬みすぎで咀嚼筋が大きくなったのかと思われがちですが、そうではなく、咀嚼筋への一番の負荷は日中、就寝中のかみしめ、くいしばりです。これによって両側の咬筋が均等に強化されます。ここに偏側咀嚼という片側だけに負荷をかける要素が加わります。科学的にエビデンスは弱いのですが、人間はどうも赤ちゃんの時から片側、それも左側で咀嚼するようになっているようです。この偏側咀嚼がかみしめ、くいしばりに加わり、偏咀嚼側の咀嚼筋への負荷が一層増し、症状発症の限界に近づきます。この状況に歯科治療で長時間開口していたとか、固いものを食べたとかの発症因子が加わり、症状発症限界を越えて痛みが生じます。いったん生ずると限界が下がってしまうので、少々の安静、負荷の軽減では症状は改善せずに慢性化してしまいます。これが筋・筋膜疼痛発症の簡単な解説です。
顔面非対称に直接関連するのは咀嚼筋では無く表情筋なので、咀嚼筋が大きく変化しても、顔面非対称とは関係ないはずなのですが、そうではないのです。
咀嚼筋は三叉神経支配で表情筋は顔面神経支配と神経支配が違って、咀嚼筋はその名の通り咀嚼、咬むために働いている筋肉であるのに対して、表情筋は口唇、口角、眼瞼を動かして顔の表情をつくる筋肉です。ところが、咀嚼の際は機能的共同運動として表情筋も活動します。左側でガムを咬んでみてください、意識しないのに左側の表情筋が緊張して左側の口角が引かれます。咀嚼の際に一番大事な機能的共同運動は、表面から見えないが、頬粘膜の緊張に関連する頬筋の活動です。頬筋は安静時には弛緩しているが、咀嚼時に緊張して、頬側、外側に壁を作って食塊を歯に載せる作用をしています。ところが、この頬筋はかみしめているときにも緊張しています、従って、日中、就寝中にかみしめ、くいしばりしている時に咀嚼筋と共に緊張しています。かみしめているときに頬粘膜を緊張させて歯面に押し当てているので頬粘膜に白い線が出来る理由です。
ネットを観ると表情筋を鍛えようというコマーシャルがいっぱいありますが、かみしめている人は鍛えるのでは無く、如何に弛めるかが課題だと思います。
このようにかみしめて表頬筋を普段から緊張させている人が習慣的に偏側咀嚼すると咀嚼側の表情筋が緊張して口角が咀嚼側に引かれてしまいます。筋肉は両端(起始、停止)が骨に付着して、筋緊張により骨を動かすのですが、表情筋は顔面後部で骨に付着し前方で口輪筋に停止して口唇を動かすように出来ています。そのため、偏側咀嚼の人の口角は咀嚼側に引かれています。また、咬筋の緊張と眼輪筋の機能的共同運動によって咀嚼側の目が垂れ気味になります。本人は毎日観ている自分の顔なので非対称も自然に見えるので、気にしていないことが多いです。テレビに出演されているアナウンサーや女優さん、男優さんにも口角が引かれて、片側の目が小さい、垂れている人が多く観られます。「片側だけで咬んでいるともっとひどくなりますよ、早く、何時も片側だけで咬んでいることに気づいて、反対側で咬むようにしましょう」と言いたくなります。

顔面非対称、口角の引かれ、の自己診断法
1.鏡に正面に向かって、アゴを引いて下を向く、上にのぞき込むように鏡で左右の口角の位置を確認する。口角の位置、頬の盛り上がり、ほうれい線の凹み具合、これだけで左右非対称が判る人もいます。
2.そのままの体制で、イーッと言ってみましょう、口角がさらに引かれます、非対称な人は口角の位置の左右差が一層大きくなります。以上の方法で口角のズレ、顔面非対称が確認できます。
表情筋の詳しい知識等は2021年10月13日の「顔面の非対称は噛み癖で起こる」を参照してください。
 
2024年02月05日 12:22

慢性口腔顔面痛:「痛みは脳の中にある」

慢性口腔顔面痛:「痛みは脳の中にある」 Chronic Orofacial Pain: Could It be that “The Pain is in the Brain”?

Guest Editorial
International Journal of Experimental Dental Science 2018 | July-December | Volume 7 | Issue 2 
Dean A Kolbinson Professor, College of Dentistry, University of Saskatchewan Saskatoon, SK, Canada   

AAOP等の口腔顔面痛関連学会でも会ったことのないカナダの知らない人ですが、偶然、面白い巻頭言を見つけました。2018年に書かれたものですが、この時点で今後、口腔顔面痛は慢性痛を念頭において研究、臨床を進めて行かなければならないことを示唆しています。面白かったので、少し長くなりましたが全訳を掲載しています。文献番号を入れたままです、興味のある方はOriginalをダウンロードして、参考文献も読んでみてください。


痛みは、歯科医師にとっても患者にとっても複雑で議論の的となる問題である。
まず、痛みに関連する定義と分類について考えてみましょう。
痛みは「実際のまたは潜在的な組織損傷に関連する、あるいはそのような組織損傷に喩えられる不快な感覚的および感情的な経験である1。また、 慢性疼痛とは,3 ヶ月以上持続または再発する疼痛である、と定義されている2。
慢性の一次性疼痛とは、「1つ以上の解剖学的部位の疼痛で、(1)3ヶ月以上持続または再発し、(2)重大な精神的苦痛(例:不安、怒り、欲求不満、苛立ちなど)を伴うもの」と定義されている、 不安、怒り、欲求不満、抑うつ気分など)および/または重大な機能障害(日常生活活動や社会的役割への参加への支障)を伴い、(3)その症状が他の診断では説明しきれないものである」3。
慢性痛のもう一つの診断は「慢性二次性疼痛」と呼ばれ、疼痛は少なくとも最初は基礎となる疾患の二次的症状として考えられる。
慢性顎関節症痛や慢性口灼熱痛などの病態は、慢性一次性疼痛の分類の一つである。3 二次性疼痛の分類のひとつに、慢性二次性頭痛または口腔顔面痛(一次性(特発性)もある)があり、慢性二次性顎関節症痛、慢性歯痛、慢性神経障害性口腔顔面痛などの病態が含まれる4。
痛みは、侵害受容性(非神経組織の実際の損傷またはそのおそれから生じ、侵害受容器の活性化に起因する痛み)と神経障害性(体性感覚神経系の病変または疾患に起因する痛み)のカテゴリーに分類されている5。国際頭痛学会は、神経障害性疼痛を末梢または中枢の体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる痛みと定義している6 。
侵害受容器の明らかな活性化も神経障害もないが、臨床所見や心理身体的所見から侵害受容系の変化が示唆される人(線維筋痛症や「非特異的」慢性腰痛症など)を考慮し、慢性疼痛状態に対して第3の痛みとして痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)が提唱された5。
患者が急性の痛みで歯科医を受診し、診断(不可逆性歯髄炎、歯根端炎など)が比較的簡単で、歯内療法、原因歯の抜歯などの治療で簡単に短期間で解決します。しかし、痛みが完全に解決しない場合や、痛みが再発する場合もあります。このような場合、歯科医師は最初の治療を見直します、見逃された根管が無いか、ひび割れはないかを確認し、あるいは別の歯が原因でないかなど考えます。例えば、歯内療法の再治療が試みられることもあり、臨床医は今度こそ良い結果が得られることを期待する(そしておそらく、最初の治療が正しい治療であったかどうか、本当に適応症であったかどうか疑問に思う)。この 2 回目の治療により、最終的に問題が解決される場合があります。 しかし、再根管治療や抜歯を受けても、基本的に同じ痛みを訴え続ける患者もいます。あるいは、痛みがさらに悪化する患者もいます。
その時点で何が起こっているのでしょうか? 複数回、歯科治療を受けても効果がなかった、そして今も「歯痛」を訴える患者の問題点をさらに考えてみましょう。
非歯原性疼痛(歯科的病態がなく、歯内療法治療後 6 か月以上続いている歯槽部痛)の頻度は、システマティックレビューとメタアナリシスで 3.4%と推定されています。7
また、持続的な歯の痛みの原因として歯原性と非歯原性の両方の原因を検討した論文では、少なくとも半数が非歯原性の原因であると考えられていました。 このような場合、さらなる歯内療法は最良の治療選択肢ではありません。7
非歯原性歯痛の原疾患は、関連筋筋膜痛、一次性頭痛(片頭痛、群発頭痛など)、歯槽骨隣接領域以外の痛みに関連する病態(副鼻腔疾患、狭心症、脳腫瘍など)、心因性の問題など、持続性特発性疼痛、および神経障害性疼痛などさまざまです。7、8
これらの非歯原性歯痛の原疾患が見逃されたり、不適切な歯科治療がさらに行われたりしないように、包括的な病歴聴取(痛みの訴え、経過を含む)と精密な検査(頭頸部、口腔軟組織、歯/歯周構造を含む)を実施する必要があります。
神経障害性疼痛による口腔顔面痛は、それ自体が複雑な問題です(例、末梢感作や中枢感作などのメカニズムが関与している可能性があります)9。三叉神経痛、帯状疱疹、有痛性外傷後三叉神経ニューロパチーなど、いくつかの異なる病態がこのカテゴリーに分類されます8。神経障害性口腔顔面痛の議論では、非定型歯痛症 (AO) などの他にいくつかの症状も言及されます。非定型歯痛はいくつかの同義語があり長年議論されてきました。最近では持続性特発性顔面痛と持続性歯槽部痛が挙げられます10(AOが神経障害性疼痛であるかどうかについては議論があります)。
神経障害性口腔顔面痛は、間歇痛(例、発作性の可能性のある短い電気的または鋭い痛み)や持続的な灼熱痛など、さまざまな症状を呈する可能性があります。11
慢性神経障害性口腔顔面痛の可能性がある患者の診査では、注意深い病歴聴取と検査に加えて、数種類の特別な検査を行います。
触覚刺激(例えば、綿棒による)やピンで刺すような痛覚刺激(例えば、 つまようじ – あるいは歯周プローブやピンセットなど)を用いて、口腔内疼痛軟組織(例えば、抜歯後も歯痛様の痛みを感じる無歯顎歯肉部)を評価することも含まれます。12
痛みが続く部位に、感覚過敏やアロディニアなどの陽性感覚異常、あるいは感覚低下や感覚脱失などの陰性感覚異常がある事が判ります。
また、どのようにして痛みが慢性化し、治療に抵抗する人とそうでない人がいるという問題も検討する必要があります。
この質問に対する満足のいく答えは依然として得られていませんが、痛みの研究の進歩により、私たちは答えに近づくことができると思います。
たとえば、「pain stickiness」という概念は、慢性的な痛みや痛みの行動、治療に対する頑固な抵抗に対する多くの影響を捉えるための別名として提案されています。13,14
また、刺激を受けた際にその刺激を痛みとして感じるかどうかを決定する際に脳が果たす役割についても熟考する必要がありますが、これもまた満足のいく答えが得られない質問です。
最近では、それを説明しようとする興味深い理論がいくつか存在します。 一例として、脳は感覚に対してBayesian approach(ベイズ的アプローチ:認知過程を確率モデルとして表現する試み)に従うことが提案されています。
この議論の一環として、私たちは末梢からの信号を直接的に「感じる」事によって痛みを感じるわけではなく、感覚入力の統合、以前の経験と状況上の手がかりに基づいて、痛みがあると予測することから痛みを感じるのだと述べられています。15
これは、痛みが慢性化すると、痛みの主体が末梢では無く、「中枢性」(神経系や脳機能に問題があり、心因性のものではない)になるため、慢性疼痛患者の治療法の変更につながる事に関連します。15
このように慢性化が中枢神経に関与する状況では、多くの慢性疼痛患者を適切に管理することは非常に困難です。これらの患者は、末梢での各種の治療(根管治療や抜歯など)は有効ではありません、
このような患者では、通常、症状が報告された部位に見られる徴候とは不釣り合いな痛みがある場合に、臨床像の一部となることが多い、抑うつ、不安、破局感を助長するような生物心理社会的治療が出来る医療従事者が含まれる集学的アプローチが必要であろう。16,17。16,17
痛みを抱えた患者、特に頻回の治療にもかかわらず持続する痛みのある患者を治療する場合には、私たちは「検索満足」18に抵抗しなければならず、私たちは いくつかの徴候や症状、そして治療可能な状態を見つけたいという願望に合うと思われた最初の診断に立ち止まってはならない。我々は、診断を確定する前に、他に診断は考えられないか?と自問する必要があります。そうすることにより、診断はより合理的になるでしょう。
私たちはこれらの患者の声に耳を傾け、彼らがすべての話を私たちに話す時間を確保する必要があります。
私たちは、まず、それらの訴えが、そのすべて、または少なくとも大部分が「歯科」診断だけで合理的に説明できるかどうかを確認する必要があります。そうでない場合は、他の科に依頼、相談したり、別のより適切な観点から評価して治療できる科に紹介したりすることを検討する必要があります。
急性の痛みが慢性化するのを可能な限り防ぐ必要があります。 したがって、慢性口腔顔面痛が「痛みは脳にある」可能性がある場合は、普段以上に自分たちの診断能力を発揮する必要がある。
Dean A Kolbinson, DMD, MSD Professor, College of Dentistry, University of Saskatchewan Saskatoon, SK, Canada
 
2024年02月04日 18:40

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