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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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これが痛覚変調性疼痛 本態は脳機能変調

痛覚変調性疼痛診断法
今回提示した参考文献を改めて読み直したら、痛覚以外の症状(睡眠障害、疲労、認知症状、光・音・においに対する過敏性など)が診断基準に含まれていました。
痛覚変調性疼痛の診断基準に完全一致する症例を提示します。

症例40歳男性 主訴:両側側頭部の自発痛と刺激痛(眼鏡がかけられない、マスクを耳にかけられない)
現病歴:10年前、頭が締め付けられるように痛くて、脳外科受診、MRI異常なし、鎮痛薬を処方で終了、その後、内科、ペインクリニックを受診したが異常なし、鎮痛薬のみ。
顎関節症専門を掲げる歯科で高価なスプリント治療を数回、効果無し。
2年前から、顎関節症の診断で二年間で咬合治療をして主訴を改善するという歯科受診中(前金3桁万円払い込み済み)、二年が近づいているが一向に改善しないという事で当クリニック受診。
主訴:両側側頭部締め付けられるように痛い。側頭部、耳に触ると非常に敏感、そして、残感覚が残る。左右の上下顎大臼歯部の歯痛あり
診査:下顎頭牽引圧迫痛誘発テスト顎関節可動性np、痛み無し 
両側咬筋 肥大+ 硬結+ 圧痛+ 関連痛あり(歯痛再現)
両側側頭筋 筋肥大無し、硬結無し、圧痛++、allodyniaあり 残感覚あり、主訴の両側側頭部締め付けられるような痛みが増悪。
最近、考えをまとめることが出来にくくなっている、短期記憶が欠落することあり、睡眠障害(途中覚醒)などの症状あり。
 
得られた所見を末梢から診断していくと、
  1. 側頭筋、咬筋圧痛、関連痛-筋・筋膜疼痛

  2. 10年来の頭が締め付けられる頭痛-頭蓋周囲の圧痛を伴う慢性緊張型頭痛

  3. 筋圧痛関連痛、残感覚-中枢感作   となりますが、


    以上の診断でこの患者さんの全てを説明出来るか?、「考えをまとめることが出来にくくなっている、短期記憶が欠落することあり、睡眠障害(途中覚醒)などの症状」も含めて考えると、この症例こそ痛覚変調性疼痛そのものという診断にいたりました。  痛覚の変化だけでなく、脳機能そのものが変化しているのだろう、「脳機能変調」が最も状況を的確に表した用語、痛覚変調性疼痛はそのひとつのphenotype(表現形)でしかない。と思うに至りました。
 
 再掲 下記の論文の診断基準です
Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system
Eva Koseka,b,*  PAIN 162,11 (2021) 2629–2634
筋骨格系の痛覚変調性疼痛の臨床的基準とグレーディング。
1. 痛みは
1a. 慢性的(3ヶ月以上)、
1b. 局所的(不連続的ではなく)な分布( 筋骨格系の痛みは、皮膚ではなく深部性であり、(個別性ではなく)局所性、多巣性、あるいは 広範囲に分布している。)
1c. 侵害受容性疼痛が(a)存在しない、または(b)存在するとしても、その疼痛に完全に起因している証拠がない。
1d. 神経障害性疼痛(a)が存在しない、または(b)が存在する場合、その疼痛に完全に起因している証拠はない。(異なる慢性疼痛状態(例:肩の筋肉痛と膝の変形性関節症)に起因する多巣性疼痛状態の場合、各 慢性疼痛状態や疼痛部位は別々に評価されなければならない。)
 
2. 痛みのある部位に疼痛過敏の既往がある。
以下のいずれか1つ。触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感
 
3. 併存疾患がある。
以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題.
 
4. 誘発性疼痛過敏現象は、痛みのある部位で臨床的に誘発されることがある。
以下のいずれかである。静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残遺症状が残ること。
 
痛覚変調性疼痛の疑いがある:1および4。
痛覚変調性疼痛の可能性が高い:上記(1、2、3、4)のすべて。
(変形性関節症などの侵害受容性疼痛や末梢神経病変などの神経障害性疼痛の存在 は、痛覚変調性疼痛の併発を排除しないが、疼痛部位は、同定可能な病態で説明可能な範囲より広範でなければならない。)
 
2023年02月04日 13:11

痛覚変調性疼痛の診断基準

痛覚変調性疼痛診断樹
筋骨格系の痛覚変調性疼痛の診断方法について
痛覚変調性疼痛について、具体的にどのような症例が該当するのか常に頭にあります。
軽度の痛みが不安感を高めて、いろいろな病気を考えてしまい解釈モデルが膨らんでいく、病院で診てもらえば解決するだろうと思い受診するが、全く解決につながらない、それを繰り返す事により、一層不安感をつのらせて、痛みの自覚症状も高まっていく、このような症例をしばしば診ていて、これも痛覚変調性疼痛の1つだろうと思っていました。
今回提示した参考文献を改めて読み直したら、痛覚以外の症状(睡眠障害、疲労、認知症状、光・音・においに対する過敏性など)が診断基準に含まれていました。
下記の論文の診断基準です
Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system
Eva Koseka,b,*  PAIN 162,11 (2021) 2629–2634

筋骨格系の痛覚変調性疼痛の臨床的基準とグレーディング。
1. 痛みは
1a. 慢性的(3ヶ月以上)、
1b. 局所的(不連続的ではなく)な分布( 筋骨格系の痛みは、皮膚ではなく深部性であり、(個別性ではなく)局所性、多巣性、あるいは 広範囲に分布している。)
1c. 侵害受容性疼痛が(a)存在しない、または(b)存在するとしても、その疼痛に完全に起因している証拠がない。
1d. 神経障害性疼痛(a)が存在しない、または(b)が存在する場合、その疼痛に完全に起因している証拠はない。(異なる慢性疼痛状態(例:肩の筋肉痛と膝の変形性関節症)に起因する多巣性疼痛状態の場合、各 慢性疼痛状態や疼痛部位は別々に評価されなければならない。)
 
2. 痛みのある部位に疼痛過敏の既往がある。
以下のいずれか1つ。触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感
 
3. 併存疾患がある。
以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題.
 
4. 痛みのある部位に誘発性疼痛過敏現象が臨床的に誘発され残感覚が残る。
以下のいずれかがある事。 静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残感覚が残ること。
 
痛覚変調性疼痛の疑いがある:1および4。  診断樹では4誘発性疼痛過敏現象誘発が1の診査の次に位置付けられて、1と4が該当する場合には、痛覚変調性疼痛の疑いがあると評価される。
痛覚変調性疼痛の可能性が高い:上記(1、2、3、4)のすべて。
(変形性関節症などの侵害受容性疼痛や末梢神経病変などの神経障害性疼痛の存在 は、痛覚変調性疼痛の併発を排除しないが、疼痛部位は、同定可能な病態で説明可能な範囲より広範でなければならない。)

この診断システムの目的は、患者が痛覚変調性疼痛であることの確実性のレベルを示すことである。現状では痛覚変調性疼痛の疑いあり、可能性高いまでです。
今後、診断検査が開発され、その有効性が確認されれば、「確定的な痛覚変調性疼痛」という用語の導入も検討されるでしょう。
 
2023年02月04日 11:44

痛覚変調性疼痛について

痛覚変調性疼痛と言う用語が2021年に出現しました。侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛と共に心因性疼痛に代わる第3の痛みと宣伝されています。私はこの痛覚変調性疼痛が臨床的にどの様な痛みをさすのかが興味津々、従来の持続性特発性疼痛は痛覚変調性疼痛だと言う人もいますが、そう言い切るのはまだ早いでしょうと思っています。
痛覚変調性疼痛とはどの様な事をさすのか、まだ誰も良く理解出来ていないような気がします。
1.危惧:国々によって言語、文化、社会が異なる、言語毎に翻訳されると、Nociplastic Painとして世界共通の理解ができるのかが疑問である。実際に日本では、Nociplastic Painそのものではなく、日本語になった痛覚変調性疼痛について時間とともに理解が深まっていくのでしょう。痛覚変調性疼痛という用語自体がしっくりする言葉だけに痛覚が変調した結果の痛みとして、Nociplastic Painの真意から離れていくのではないかと不安、心配なこともあります。それがどの様な病態、病状なのか、これが痛覚変調性疼痛だ、と言うような具体的な病名が出て来たときに世界共通かどうか。もし、世界共通な痛覚変調性疼痛があったとして、それはごく少数だろうと思います。
 
2.和嶋の理解
NociplasticPainとは、「侵害受容器、神経系の異常という質的原因がないにも関わらず、侵害受容性様の痛みが可塑的に続く状態」とも理解出来る。
そして、具体的にどんな状態と聞かれるとかなり苦しい、PTSD的に痛みが記憶に残った状態とすればなんとなく判るが、これには痛覚が変調は見えないが。
 
3.よくわからない点
先日の日本口腔顔面痛学会学術大会で、痛覚変調性疼痛と中枢感作はどちら上流にあると考えれば良いのかの質問に対して、中枢感作は痛覚変調性疼痛の表現形の一つであるとの答えとともに、基礎研究者の考えるNociplastic Painそのものか、あるいはNociplastic Painを生ずる状況は中枢神経系において相当大きな機能変化であり、痛覚変調性疼痛が生ずる状況ではその発現型は痛みに留まらず、自律神経、感情の変化も生ずる状況であるとの返答。
ここで言っている中枢神経系における相当大きな機能変化とはどの様な状況なのか、今までもあったはずなのに把握されていなかったことなのか、不明
痛みとともに自律神経失調状況や感情変化も生じているというが、痛覚変調性疼痛はこのように捉えるべきものなのか、不明
痛覚変調性疼痛は中枢神経系の大きな機能変化の1つの発現系として、メカニズムとして中枢感作が介在して出現するということであり、中枢感作は生体の原始的自己防衛機能としてかなり原始的生物にもあるらしい。そうすると、中枢感作を生ずる要因は原始的なことなのか、不明
長年、心因性疼痛として、不安、怒り、哀しみ、憎しみなどのより生じていた痛みがあります。臨床的によく診る不安がつのった時の痛みは、元からあった痛みは強くなっていないのに、感じ方が変わって強く痛みを感じている状況で、これこそが純粋な痛覚変調性疼痛なのではないかと思っています。
従って、私は固有名詞としてこれが痛覚変調性疼痛と病名が出てくるのではなく、元からある病態に修飾子として痛覚変調性疼痛がくっ付く状態になるのではないかと思っています。
2022年最後の雑感としてまとめてみました、2023年には最新情報とともに理解が変化すると思います。
 
2022年12月30日 19:24

痛覚変調性疼痛について判らないこと

従来、痛みの発生機序は①侵害受容性疼痛 ②神経障害性疼痛 ③心因性疼痛に分けられていました。しかし、心因性疼痛はどの程度心因が関わるのか、もっと別な機序もあるだろうと言うことで、一時的に機能障害性疼痛とか非器質的疼痛とか使われましたが、2016年に国際疼痛学会が3番目の分類として「nociplastic pain」を提唱しました。
それを受けて、2021年、日本痛み関連学会連合用語委員会は,国際疼痛学会(IASP)が「第3の痛みの機構分類」 として提唱した nociplastic painの日本語訳を 痛覚変調性疼痛 と決めました。
(原文解説訳) 侵害受容の変化によって生じる痛みであり,末梢の侵害受容器の活性化をひきおこす組織損傷またはそのおそれがある明白な証拠,あるいは,痛みをひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠,がないにもかかわらず生じる痛み
(注記:患者が,侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時に示すこともありうる).
この定義を読んで、臨床的実感と照らし合わせて、以下の疑問があります。学会等の場で疑問を解決したいと思っています。

質問1 文頭の「侵害受容の変化によって生じる痛みであり,」これは侵害受容性疼痛のことか
2.注記:侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時にしめすこともありうる、とされているが神経障害性疼痛との同時はないのか
3.痛覚変調性疼痛はできあがった疼痛病態を指すのか、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に作用して痛み感覚を調整する修飾因子として役割は無いのか。
4.従来の心因性疼痛は痛覚変調性疼痛の誘因の一つとして含まれるのか
5.痛覚変調性疼痛のメカニズムは大雑把に言って、かつて言われていた、中枢感作なのか、情動ストレスによる扁桃体の感作、痛み信号による痛覚受容野の感作などのか
2022年09月02日 14:55

痛覚変調性疼痛と心因性疼痛は何が違うか、本態は患者さんの不安だと思う

痛覚変調性疼痛が話題になってから、私の関心は従来の心因性疼痛と痛覚変調性疼痛の関連性と心因性という用語はなぜ用いられたのか、どのような事を意味していたのか、実際の臨床の中で該当する患者さんを探して、何が心因性なのか、痛覚変調性は何を意味するのか確かめてみることです。天の邪鬼な性格故に皆さんの痛覚変調性疼痛理解とは別な方向に進んでいます。
解釈モデルを知り、解釈モデルをホワイトボードに例えて、今現在、患者さんがどんな事を考えているのかを、ホワイトボードに何と書かれているかを確認するよう務めています。その結果、私の診査診断の結果の治療方針とズレの有無が明らかになる。ズレがある場合、なぜそのように考えるようになったのか、うつ病に代表される歪んだ認知、考え方があるのか等が、カルテに文字化されて書かれ、明らかに認識出来る様になりました。
その中で気になるのは、慢性痛の患者さんは大きな不安感を抱えていることです。
始まりは痛み、多くの痛みは痛みを感じる部分に痛みの原因があり、医者に診てもらえば診断が決まり、治療するとすぐに治ると思っています、そのように解釈モデルには書かれていました。
歪んだ認知、考え方によるズレという前に、ズレを生む大きな問題が目の前にありました。口腔顔面痛の代表的な疾患である非歯原性歯痛では痛みの感じる部分と痛みの原因部分が異なる異所性疼痛なのです。我々口腔顔面痛専門医は当たり前になってしまっていますが、自分で改めて考えても変ですし、患者さんが混乱するのは当然の事と思います。
このような混乱を生む状況をしっかり把握し、どうすれば混乱を防げるかの対策を考えています。
患者さんが痛みを訴える部分には原因になるような異常が認められない、ここで一般診療では原因不明ということで診断が進まなくなります。これによって、「ここに原因があるのだから、ここを治療すればすぐにでも治るのに」という患者さんの解釈モデルと一致しない部分が出てきます。その結果として患者さんの認知は変わり、「自分の言っている事が信じてもらえない、だから解決に向かわない、どうすれば良いのか、別な病院探さなければならないのか」、そして気分、感情は「めちゃくちゃ不安」となります。非歯原性歯痛だけで無く、様々な痛みの治療を受ける過程で解釈モデルと診断、治療方針にズレが生じていると患者さんが不安を感じることが多いようです。
この不安感によって身体反応、身体感覚として痛みが強く感じられることとなります。私はこの部分が心因性疼痛であり、痛覚変調性疼痛の局面だろうと思います。
この状況での効果的な治療は、痛み治療よりも不安を和らげることです。痛み診査、治療の経過の中で生じた解釈モデルの混乱、ズレについて、患者さんにとって腑に落ちる説明が得られると不安が解消されます。安心だけでは不安が解消されずに睡眠障害を伴う場合には睡眠導入剤、抗不安薬が有効なこともあります。
最近診た典型的な3例を概説します。

症例1 35歳女性 HIFU(ハイフ)という美容施術を受けた後の咬筋筋・筋膜疼痛となり、歯痛が生じて歯科受診 プラスアルファ
HIFU(ハイフ)とは、High Intensity Focused Ultrasound(高密度焦点式超音波療法)(美容外科からの引用:お肌への負担を限りなく抑えながら高密度の熱エネルギーをお肌の奥まで届かせます。肌内部では受けた損傷を治そうと、コラーゲンが増生されます。この作用によりお肌が内側から引き締められ、お顔を引き上げていきます。)
ハイフを受けた後、頬部に痛み、歯痛も生じて、歯科受診。患者さんにとってハイフで頬部が痛いのは想定内、しかし、歯痛も関連するとは全く思わず。歯痛がハイフにより生じた咬筋筋・筋膜疼痛の関連痛とは考えなかった。異所性疼痛ですから当然と言えば当然、 ところが歯科医も診断できず。知覚過敏の診断で、繰り返し知覚過敏処置と負担過重軽減のために咬合調整。咬むと咬合面がしみると言う事で咬合面にもコーティング、当然、早期接触が生じ、かみ合わせがおかしいという異和感、そこを削る、また、しみるの繰り返し。患者が説明を求めると、毎回違った説明と新たな治療法提案、患者は不安感が高じて、自ら心療内科受診、そこで抗不安薬が処方され服薬、痛みは日ごとに改善してきた。
しかし、頬部の鈍痛、当初はハイファの術後痛と理解していたが、こんなにも続くものかと不安が強くなってきた。また、歯痛があり、冷水はしみなくなったが噛み方によりギックと激痛が生ずることも不安で受診した。
和嶋の理解と患者説明:歯の持続痛は筋・筋膜疼痛によるものであること、これは最初に遡って、筋緊張の準備因子があったところにハイフの筋膜舳の刺激により筋・筋膜疼痛が生じて頬部痛と関連痛として歯痛が生じた、現在の頬部痛、歯痛もそれが続いていることを説明した。
毎回違った診断と新たな治療法の提示に納得出来なかったことと不安感の高まったことにより痛みが強く感じられた事、患者自らの判断で心療内科受診して、今も抗不安薬を服用しているのは適切だったと思われることを説明した。かみ具合によりギクッとした痛みは咬合調整の結果、象牙質が露出して生じているであろう事を説明し、筋・筋膜疼痛、象牙質露出への治療法を提示した。
 
症例2.上顎前歯部にインプラント、頭出しして、さあ上部構造と言うときに痛みで中断を余儀なくされた。何本かの中の1本のインプラントがネジを締めたり、暫間冠を装着しようと力をかけると激痛が生ずるということで数回挑戦したが痛みが出る事に恐怖感が出てしまい、さらに持続痛も生じて上部構造の作成を一時中断。時期を同じくして、全身状態が悪化、内科の主治医を受診したが内科的には異常なし、大学病院脳神経外科受診、MRI等で検査するが異常なし、口腔外科を受診、筋・筋膜疼痛の診断で筋マッサージの指導を受けた。一向に改善せず、最近は病院に行くために車に乗ることすら出来ず、治療は何も受けていない。家ではほとんど横になっている状態で日常生活が出来ないとのこと。ご主人からの電話相談を受けて、以上の経過を聞いた。インプラント治療中に生ずる痛みがどうしても耐えられないことへの不安感、恐怖から痛みが出て、全身状態にも影響していることを推定して、精神科受診を勧めた。後日電話があり、以下の経過を受けた。精神科受診して、睡眠導入剤と抗うつ薬を処方された、抗うつ薬は副作用のための一日しか服用できなかったが睡眠導入剤が効果的で、睡眠が改善された。約1ヶ月経過して、持続痛は改善し、日常生活が出来るほどになり、元通り自分で車を運転して買い物に出かけられるまでに回復したとの事であった。
和嶋の理解:睡眠導入剤により睡眠が改善され、不安の改善に役立った。持続性疼痛がないこと、治療が中断され、インプラント部に触れなければ痛み刺激はないことにより次第に改善に向かったと推定される。
 
症例3:35歳男性 2ヶ月前に上顎左側6の歯肉痛
 1年前から上顎左側大臼歯部に異和感、上顎左側6は2年前に痛み治療の為に意図的再植、1年間痛み無かったが1年前から痛み再発、次第に増悪。4ヶ月前にかかりつけ医で歯周炎と言う診断でFlap手術を受けた。術後痛みが強く、再診、再植した歯が急性炎症を起こしていると言うことで、再度意図的再植術、術後、痛みは増悪、1週間後に抜歯、さらに痛みは強くなり、持続痛に経過中に発作痛が加わった。口腔顔面痛専門医を数軒受診、神経障害性疼痛、筋・筋膜疼痛、の診断、神経障害性疼痛の治療として処方されたトリプタノール10mgは翌日眠くて継続出来ず。大学口腔外科では抗菌薬処方。筋・筋膜疼痛専門整形外科受診、咬筋にトリガーポイントインジェクション、神経内科受診神経学的異常なし、リボトロリール処方されたが杭痙攀薬と書かれていたので服用せず、次にタリージェ処方され、服用したらふらつきで中止。漢方専門医受診、何種類かの漢方薬服用したが効果無し、脳神経外科受診、画像検査異常なし、三叉神経痛の診断でカルバマゼピン処方されるも、ふらつきで中止。次の内科でヂュロキセチン処方、吐き気で中止。大学ペインクリニックで眼窩下孔にブロック注射、効果は不明、その日から突発性難聴で耳鼻科受診、ステロイド治療を受ける、同日に母親が服用しているバランス(抗不安薬)10mgを服用し始める。バランスは以前にものストレスが強い時に服用したことがあった。徐々に痛みが改善。10日後に当クリニック受診、現在は発作痛なし、持続性の2/10鈍痛がある。上顎左側歯肉にallodynia、Hyperalgesiaあり、顔面左側v2に触覚鈍麻、痛覚過敏あり、咀嚼筋圧痛無し。現在、バランス(抗不安薬)のみ継続服用中。  
気になった事、最初はChairに座って、握りこぶしををつくり、身体を強ばらせていた、これまでの治療経過を聞いて、想定される原因と症状のストーリーを話していると、実は、実は、といくつもの新しい情報 そして、診療が終わったときには握りこぶしがほぐれていた。
和嶋の理解と患者説明:1)何らかの器質的痛みがあった可能性、2)そこに切開の外科的侵襲が加わった。腫れたとは言っていないので、感染、化膿は無かった様である。3)痛みへの不安により痛覚変調性して、痛み増悪、4)そこに意図的再植、抜歯外科処置の侵害刺激が加えられ、痛みは増悪し不安が増す。5)痛みが強いので、口腔顔面痛専門医を始め、複数の痛み関連診療科を受診するも改善せず、さらに不安が増し、痛みは増悪。6)ストレス性と思われる特発性難聴発症、改善因子として7)大学ペインクリニックで眼窩下孔にブロック注射と8)自分判断でバランス服用、を説明した。
現在残る症状として、感覚障害がある、三叉神経痛とは思えない、筋・筋膜疼痛でもないこと、眼窩下孔にブロック注射と抗不安薬のバランス服用が奏功した可能性がある事を説明した。今回の経過中大きな不安が生じたことは何らかの精神的素因が考えられるので、バランス服用の管理も兼ねて精神科受診を勧めた。


 
2022年08月03日 18:12

痛覚変調性疼痛 ストレスが痛み神経系を変化させ痛み 

論文を紹介します。
心的外傷が痛み神経系を変調させて、末梢とは無関係に痛みを感じる状況になる可能性がある。
特に発達期の心的外傷は影響が大きいと書かれています。
私見ながら、心的外傷による痛み神経系の変化が痛覚変調性疼痛の原因のひとつであると思います。

心的外傷に基づく疼痛回復と疼痛管理の比較
Trauma-Informed Pain Recovery Versus Pain Management
Bennet E. Davis, MD
Pain Rehabilitation Program Director, Sierra Tucson Tucson, Ariz.
 
私たち医療関係者の間では、有害なストレスが神経系の感覚処理機能を変化させ、組織病理とは無関係の痛みをもたらすという事実に対する理解と評価が高まっている。
発育期や成人期に心的外傷を抱えた人は、圧痛閾値が著しく低く、痛みの感じ方が異なることが研究で明らかになっています1-3。
関連記事
周術期の痛みを個別化・複合化する7つのステップ 慢性前立腺炎/慢性骨盤症候群の症状が鍼灸治療で改善される。若者の心理社会的アフターケアは臨床的に大きな利益をもたらす。 心的外傷が慢性疼痛につながるのであれば、心的外傷に対する治療は痛みを和らげるはずということになります。実際、心的外傷の回復が痛みの回復につながるという考えを支持する6つのランダム化比較試験がある4。
しかし、いまだに私たちは、患者の苦痛の原因が侵害受容性疼痛であるかのように、つまり、身体的損傷から来るものであるかのように、心的外傷的体験による神経障害性疼痛(訳注:痛覚変調性疼痛)を管理する傾向がある。例えば、抗生物質やオピオイドを処方し、心的外傷の精神的な後遺症に対処しない傾向がある。
個々の患者や社会全体の健康のために、プライマリーケア提供者、痛みの専門家、その他の医師、行動医学の専門家は、私たちの考え方や治療方法を変えるべき時が来ているのです。
 
事例:心的外傷の人質にされた患者さん シエラトゥーソンの疼痛回復プログラムに来る患者さんの多くは、自分の状態を「罰当たり」「残酷」といった感情的な言葉で表現されます。しかし、その大半は、自分のひどい痛みと心的外傷の間に関係があることに気づいていないのです。  
数年前、私が診察したある患者は、体中のあらゆる場所に痛みを感じていると報告してきました。彼女は、どこからともなくやってくるような衰弱した痛みのために、すでに3年間も身体障害者手帳を取得していたのです。この3年間、彼女は多くの医療専門家に診てもらったが、痛みの原因となる組織は見つからず、線維筋痛症、全身性エリテマトーデス、慢性ライム病、多発性硬化症と別々に診断されていた。彼女は抗生物質、オキシコドン、ベンゾジアゼピン系薬剤に何万ドルも費やしましたが、ほとんど効果はありませんでした。
初診のとき、夫が突然、あることを思いついた。「ちょっと待てよ、ハニー」と彼は言った。「痛みが始まる1ヶ月ほど前に、クイックマートで人質になり、男があなたの喉にナイフを突きつけてきて、保安官が後ろから撃ち殺さなければならなかったのを覚えていないかい?先生、身体的には無傷でも、それが彼女の痛みと関係あるのでしょうか?" 
間違いありません。この患者の疼痛症候群は、人質事件から約1ヵ月後に始まった。これは、身体の神経系が痛みを異なる方法で処理するように再配線されるのにかかる時間である5。
ソマティック・エクスペリエンスと呼ばれる心的外傷回復治療と、グループ認知行動療法、弁証法的行動療法が結果を出した。6ヵ月後、彼女は仕事に復帰し、鎮痛剤もやめ、とても元気にしています。 確かに、人質事件に耐えることは稀なことです。
しかし、この国には、もっと一般的で、私が診療で見てきた慢性的な痛みの原因でもある、発達期心的外傷という有害なストレスの原因がもうひとつあるのです。世界中の研究により、幼少期の心的外傷と大人になってからの慢性疼痛の発症には、比例関係があることが示されています6。
Substance Abuse and Mental Health Services Administrationによると、3分の2以上の子どもが、16歳になるまでに少なくとも1つの心的外傷となる出来事を報告しています。
私たちの社会は、文字通り、そして比喩的に傷ついているのです。私たちは、単なる痛みの管理を超えて、全人的な痛みの回復を目指す必要があるのです。実際、カリフォルニア州初の外科医長であるNadine Burke Harris医学博士は、州の公立学校のすべての生徒が発達期心的外傷のスクリーニングを受けるよう呼びかけ、すでにこの運動を始めています。
彼女は、有害な幼少期の体験や有害なストレスに関する公衆衛生規模の介入が、私たちの時代の公衆衛生の最大の進歩になると考えています。
しかし、私たちはいまだに、心的外傷に起因する神経障害性疼痛(訳注:痛覚変調性疼痛)を、患者の苦痛の原因が侵害受容性疼痛であるかのように、つまり身体の傷害から来るものであるかのように管理する傾向があるのです。
例えば、抗生物質やオピオイドを処方し、心的外傷の精神的後遺症に対処しない傾向がある。
患者さん個人と社会全体の健康のために、プライマリーケア提供者、痛みの専門家、その他の医師、行動医学の専門家が、考え方や治療方法を変える時期に来ているのです。
 
疼痛管理から疼痛回復へ 
患者の慢性的な痛みを完全に理解するには、痛みの専門医と理学療法士、行動医学の専門家が協力し、集学的なアプローチを行う必要があります。
痛みの教育、運動療法、体験療法、薬物療法、個人療法や集団療法による感情処理、認知行動療法、バイオフィードバックや経頭蓋磁気刺激などの統合的な治療が必要なのです。
痛みが強すぎて外傷治療や理学療法ができないという患者さんもいらっしゃるでしょう。このような患者は、神経系について話すことも、ましてや心的外傷について話すこともできませんし、理学療法士に触られることにも耐えられないでしょう。
医療専門家として、私たちは、患者が心的外傷という重い負担を抱えていることが分かっていても、まず彼らが感じている「身体的な」痛みに対処し、優しい心的外傷療法を行うことによって、彼らの現状に対応しなければなりません。 しかし、そこで終わらないのが私たちの務めです。
そして、心的外傷に適応した神経系がどのように痛みを脳に伝えているのか、患者を教育する必要があります。そして、患者さんがその関係を理解し、受け入れ始めたら、心的外傷の治療を開始し、私たちの職業は、単なる痛みの管理を超えて、完全な痛みの回復へと向かうことができるのです。
References
  1. Tesarz J. Distinct quantitative sensory testing profiles in nonspecific chronic low back pain subjects with and without psychological trauma. Pain. 2015;156(4):577-586.
  2. Gomez-Perez L. Association of trauma, post-traumatic stress disorder, and experimental pain response in health young women. Clin J Pain. 2013;29(5):425-434.
  3. Creech S. Written emotional disclosure of trauma and trauma history alter pain sensitivity. J Pain. 2011;12(7):801-810.
  4. Tesarz J, Wicking M, Bernardy K, et al. EMDR therapy’s efficacy in the treatment of pain. J EMDR Pract Res. 2019;13(4):337-344.
  5. McCarberg B, Peppin J. Pain pathways and nervous system lasticity: earning and memory in pain. Pain Med. 2019;20(12):2421-2437.
  6. Jackson WC. Connecting the dots: how adverse childhood experiences predispose to chronic pain. Practical Pain Management. 2021;20(3):24-28.
2022年03月03日 09:06

痛覚変調性疼痛の一面

痛覚変調性疼痛について

ある方が、不確実さと不安、確実さと安心について下記のインドの昔話を紹介しています。
ある男が超能力を獲得しました。その能力とは、人を念じながら観察すると、その人が1年後に生きているか、死んでいるかがわかるのです。その男のもとには、いろいろな病に悩む人々が次々と訪れるようになりました。1年後に生きていると言われれば小躍りして帰っていきます。1年後に死んでいると言われれば納得して帰ります。その男は名医と呼ばれ、患者が絶えることがなかったと言います。
皆さまは、この昔話をいかが思いますか。違和感を覚える人も、なるほど名医だと納得する人もいることでしょう。
この男は本当に名医でしょうか。この男は、一切の医療行為をしていません。ただただ、1年後の生死を正確に伝えているだけです。しかし、予言をさずかった者は、その男を名医と崇めます。なぜでしょうか。不安がなくなるからではないでしょうか。不確実さは不安をまねきます。1年後の確実な情報が安堵を与えます。患者の立場からは、安心を与えてくれる人は名医なのです。

ここで、「不確実さと不安、確実さと安心」と痛覚変調性疼痛を繋げてみましょう。
BioPshychoSocialと捉えた場合、Bioは同じでも、不確実な状況、環境(Social)にあると不安がつのります(Psycho)。末梢からの痛み刺激(Bio)がある中で、高まった不安感が扁桃体を刺激して痛覚を変調性し、疼痛が敏感に近くされる状況が痛覚変調性疼痛といえます。
このように敏感に感じられた痛みが不安感を高めて、痛覚変調性疼痛の悪循環が形成されます。
では、解決法は「大丈夫ですよ、あなたの病気は顎の筋肉の痛みです、ちゃんと治療法があって、このようにストレッチすると治りますよ」と伝える事です。
ここでOkeson先生の強調する適応能力が高ければ、あっさりと症状が改善するでしょう。ところが適応能力の低い人は悪循環が止まらずに慢性化が続きます。
2022年02月23日 10:26

痛覚変調性疼痛とはどのような痛みか

痛覚変調性疼痛とは具体的にどのような痛みを指すのか、という質問を受けます。
単純に例えて言うと、 通常状態:日中に街を歩いていて、後から声をかけられた、あるいは肩をぽんと叩かれた。「誰だろう], 「何だろう]と 後を振り向く。
ところが、:夜道を家に帰るときに、ご主人、奥様など家族に、不意に後からぽんと肩を叩かれた。反応は きっと、「ドキンとして」、飛び上がるでしょう。
何故、このように反応が変わるのか、夜道を歩いているときは、歩き慣れた道でも、いくらかの不安感があります、その中で不意に声をかけられる、肩を叩かれると、強い反応が生じてしまいます。 不安感が中枢の情動を感じる扁桃体に伝わって、神経系が過敏になっているからです。情動による中枢感作状態です。まとめて、不安状態とも言えるでしょう。
このように、不安感、怒り、恐れ、悲しみをはじめとした負の情動変化があると、情動の中枢である扁桃体を敏感にしてしまいます。
末梢からの痛み刺激は中枢の痛みを感じる部分に伝えられます。痛みを感じる部分に届く前に、扁桃体の部分で強さの調整が行われます。負の情動により扁桃体が過敏になっていると、痛みを強く感じるように調整してしまいます。音の調整ダイヤルをプラス側に回したようなもので、末梢では1の痛み信号が、扁桃体の部分で100にボリュウムアップされ、痛みを感じる体性感覚野には100の痛みとして伝えられると言うことです。 
このように、末梢では1の痛み信号が、扁桃体の痛覚調整によって、体性感覚野では100の痛みとして感じられる、このように痛みの感じ方が変化してしまうことを痛覚変調性疼痛といいます。 かつては、このような、末梢の痛み原因に見合わない痛みを心因性疼痛と呼んでいました。確かに心が関係していたのですが、心の持ちようで痛みがでるのかと言うとそうではなく、何らかの痛み刺激を調整して大きくしていると言う事です。
痛みの調整は負の情動による扁桃体での調整だけでは無く、痛み信号が持続的に末梢から中枢に伝えられることにより、扁桃体とは別な部分が刺激され過敏になって、末梢からの痛み刺激をボリュウムアップ、強い痛みと感じさせることもあります。
誤解が出るかも知れませんが、判りやすいように、かなり簡略化して書いています。
 
2022年02月09日 16:55

痛覚変調性疼痛の理解を深めるために 

痛覚変調性疼痛の理解を深めるために 中枢感作との関係を説明した論文を紹介します。
1)痛覚変調性疼痛のIASP基準ができる前の概要(「過去」)、(2)新しい痛覚変調性疼痛のIASP基準を、2014年の中枢感作優位性疼痛の臨床基準と比較して説明(「現在」)、(3)この分野での今後の実施や研究活動のための重要な領域(「未来」)を明らかにすることを目的としている。  論文は公開されてPDFをダウンロード出来ます、詳しく知りたい方は本文をよんでください。

J. Clin. Med. 2021, 10, 3203. https://doi.org/10.3390/jcm10153203 https://www.mdpi.com/journal/jcm
Review
Nociplastic Pain Criteria or Recognition of Central Sensitization? Pain Phenotyping in the Past, Present and Future
Jo Nijs 1,2,3,* , Astrid Lahousse 1,4 , Eleni Kapreli 5, Paraskevi Bilika 5 , ˙Ismail Saraço˘glu 6 ,
Anneleen Malfliet 1,2,4 , Iris Coppieters 1,2 , Liesbet De Baets 1, Laurence Leysen 1, Eva Roose 1,
Jacqui Clark 1,7, Lennard Voogt 1,8 and Eva Huysmans 1,2,4

1. はじめに
慢性疼痛は、世界中で最も多く見られる疾患であり、大きな障害と莫大な社会経済的負担をもたらしている[1]。
慢性疼痛は、長期にわたる疾患の中でも、障害を抱えたまま生活する年数が最も多く[2,3]、労働関連障害の原因としては最も費用がかかるものである[4,5]。
このように、慢性疼痛は公衆衛生に大きな影響を与える非伝染性疾患であると考えられます。
慢性的な痛みは非特異的であることが多く、病理異常や組織の損傷がないこと、あるいは限られた量の病理異常や組織の損傷があっても、痛みの経験を説明するのに十分なほど深刻ではないことを意味しています。
この非特異的な性質は、非がん性の痛みやがん後の痛み(すなわち、がんサバイバーの痛み)も説明するものである [6]。
慢性の非特異的な痛みを持つ多くの人は、中枢神経系の感作(簡単に言うと中枢感作またはCS、用語の概要については付録Aを参照)によって、侵害受容入力の明確な起源がない場合や、痛みの強さや障害度などの症状を説明するのに十分な組織損傷がない場合に、痛みの理由を説明することができる[7,8]。
臨床的には、中枢感作は、痛みの過敏性を引き起こす中枢神経系内の神経シグナルの増幅と定義されている[7]。
この定義に基づけば,ヒトで中枢感作を研究することは可能である。しかし,International Association for the Study of Pain(IASP)が定めた定義では,そうはならない。中枢神経系における侵害受容ニューロンの反応をin vivoで測定することは不可能であるため、invitoro研究による「正常または閾値以下の求心性入力に対する中枢神経系の侵害受容ニューロンの反応性の増加」[9]としている。
中枢感作は、脳内の感覚処理の変化[10]、デフォルトモードネットワークとサリエンスネットワークにおける安静時の機能的結合の障害[11]、急性痛覚に関与することが知られている領域(島皮質、前帯状皮質、前頭前野)や他の領域(様々な脳幹核、背外側前頭皮質、頭頂関連皮質)における脳活動の増加など、中枢神経系内の様々な関連機能障害を包括している[12]。
中枢感作はまた、脳内で調整された侵害受容促進経路の活動の変化も含んでいる[10,13]。CSはまた、内因性鎮痛(付録A)の機能低下を意味する。内因性鎮痛とは、脊髄の侵害受容処理を抑制するために神経伝達物質を放出する脳幹由来の経路を指す[14,15]。
これらの中枢神経系の機能障害は、触覚刺激などの様々な感覚入力に対する反応性を高めるだけでなく、化学物質、光、音、熱、寒さ、ストレス、電気など、筋骨格系以外の刺激に対しても過敏になる可能性がある[16]。
中枢感作に関する知識は、臨床医が慢性疼痛の理解と管理において筋肉や関節を超えて、中枢神経系における痛みの調節の役割を説明できるようにパラダイムシフトしている事を明らかにしました[17]。
様々な筋骨格系の慢性痛において、中枢感作は重要なサブグループに存在することがわかっている([17]にレビューあり)。
これらの症状には、慢性外傷性頸部痛(すなわち、むち打ち症) [18]、線維筋痛症 [19]、変形性関節症 [20]、片頭痛 [21]、過敏性腸症候群 [22]、慢性疲労症候群 [23]、小児痛 [24]、腰痛 [25]、非外傷性頸部痛 [26]、関節リウマチ [27]、がん後の疼痛 [6]などがある。
中枢感作は、テニス肘[28]、腱鞘炎[29]、肩こり[30]の患者にはあまり見られないようである。このことは、慢性疼痛を持つ個々の患者の中枢感作を臨床的に認識する必要があることを示している。
実際、腱鞘炎のように中枢感作が少数の患者にしか診られない疾患では、中枢感作を特徴とする集団は、中枢感作を持たない人に比べて、より多くの障害を抱え、より激しい痛みに苦しんでいることを研究によって示されていて、中枢感作の臨床的重要性が示されている[28,31]。
さらに、中枢感作の存在(中枢感作症状)は、様々な慢性疼痛疾患の患者において、少なくとも侵害受容の原因と推定されるものを治療の対象とした場合には、治療成績の低下を予測される[32-36]。
これは、保存的治療[35,36]だけでなく、外科的治療[37-40]にも当てはまる。このことからも、慢性疼痛患者の中枢感作を早期に認識し、それに合わせた治療を行う必要があることがわかる[41]。
慢性疼痛患者における中枢感作の早期認識の必要性は、2017年に侵害受容性疼痛と神経因性疼痛に加えて、第3の機序的疼痛記述子として「痛覚変調性疼痛」という用語を導入したIASPによって取り上げられた(付録A)[42,43]。
慢性疼痛患者におけるCSの早期認識の必要性は、IASPによって取り上げられ、2017年に侵害受容性疼痛と神経因性疼痛に加えて第3の機序的疼痛記述子として「痛覚変調性疼痛」という用語が導入された(付録A)[42,43]。
痛覚変調性疼痛は、IASPでは「解説訳(案):侵害受容の変化によって生じる痛みであり,末梢の侵害受容器の活性化をひきおこす組織損傷またはそのおそれの明白な証拠,あるいは,痛みをひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠がないにもかかわらず生じる(注記:患者が,侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時に示すこともありうる)」と定義されています(付録A)[43]。
中枢感作は、痛覚変調性疼痛の定義には含まれていないが、痛覚変調性疼痛では一般的に感作の兆候が見られる[42]。
さらに、感作は痛覚変調性疼痛の主要な基礎メカニズムである[44]。したがって,臨床的に中枢感作が認められる患者は,痛覚変調性疼痛であると分類される。
最近、IASPは、筋骨格系に影響を及ぼす痛覚変調性疼痛の臨床基準と評価システムを発表した[44]。
これらの基準は、2014年に発表された中枢感作優位の疼痛の臨床基準[45]に代わるものであり、痛みの表現型に応じて慢性疼痛を有する患者を(早期に)特定し、正しく分類するという臨床家のニーズに答えるものとして、国際社会に受け入れられている。
しかし、臨床家や研究者は、多くの用語(中枢感作、中枢感作優勢疼痛、痛覚変調性疼痛、中枢性感作症候群など)や様々な臨床基準があることで混乱してしまうことがある。
そこで、本稿では、(1)痛覚変調性疼痛のIASP基準ができる前の概要(「過去」)、(2)新しい痛覚変調性疼痛のIASP基準を、2014年の中枢感作優位性疼痛の臨床基準と比較して説明(「現在」)、(3)この分野での今後の実施や研究活動のための重要な領域(「未来」)を明らかにすることを目的としている。

 
2021年12月02日 16:54

痛覚変調性疼痛 従来の心因性疼痛に代わる疼痛分類

2021年にNociplastic Painの日本語訳が「痛覚変調性疼痛」となりました。今後、痛み関連学会を中心に、様々な議論が行われると思われます。
E. Kosek et al. Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system Pain,November 2021·Volume 162·Number 11· 2629–2634 のIntroductionの簡約を挙げます。
この論文には筋骨格系慢性疼痛の 「侵害受容性疼痛」、「神経障害性疼痛」と「痛覚変調性疼痛」の鑑別診断方法について記されていて、今後、臨床において非常に参考になると思う。

2017年に国際疼痛学会(IASP)によって、 「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」に加えて、第3の痛みのメカニズムとして、「痛覚変調性疼痛」という用語が導入された。 
痛覚変調性疼痛は、”侵害受容の変化によって生じる痛みであり,末梢の侵害受容器の活性化をひきおこす組織損傷またはそのおそれの明白な証拠,あるいは,痛みをひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠がないにもかかわらず生じる(注記:患者が,侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時に示すこともありうる)”と定義されている.
この用語は、臨床的にも研究的にも、一見すると正常な組織であり、神経障害の兆候がないにも関わらず、特定の部位に痛みと過敏性がある人を特定するために用いられる。
中枢性感作は、痛覚変調性疼痛の主なメカニズムである可能性が高いが、痛覚変調性疼痛という用語は、神経生理学的用語である「中枢性感作」と同義であると考えるべきではない。
痛覚変調性疼痛という概念は、ある種の慢性疼痛は、他の基礎的な病理に寄ったり、他のや疾患の症状ではなく、それ自体が病態や疾患として理解されるべきであるという現在の見解と一致するものである。
後者は、ICD-11における慢性疼痛の疾患分類としての一次疼痛と二次疼痛の分類に反映されており、すべてではないにしても、一次疼痛のサブグループのほとんどが痛覚変調性疼痛を伴う疾患で構成されている。
しかし、「痛覚変調性」はメカニズム上の用語であるのに対し、「一次性疼痛」は診断上の概念であるため、この用語は異なる次元を反映していることを認識する必要がある。
線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群1型、過敏性腸症候群などの慢性疼痛疾患は、典型的な痛覚変調性疼痛の疾患例である。
これらの疾患では、神経系における侵害受容処理の変化が記録されているため、「原因不明の疼痛」(特発性疼痛)として分類することはできない。「原因不明の疼痛」という分類は、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、あるいは現在では痛覚変調性疼痛として確定できない疼痛を持つ患者のために用いられるべきであり、3つの疼痛メカニズム分類が除外された場合にのみ下されるべきラベルである。多くの人が、複数のメカニズムによる痛みの状態を持っていることは、ますます理解されてきている。
例えば、腰椎椎間板ヘルニアの患者さんは、腰の侵害受容性疼痛と脚の神経障害性疼痛(radiculopathy)に悩まされることはよくあることである。痛覚変調性疼痛は、神経障害性疼痛、特に侵害受容性疼痛のメカニズムと併発することがある。後者については、痛覚変調性疼痛の定義に「患者は侵害受容性疼痛と侵害受容性疼痛の組み合わせを持つことがある」と書かれていることが強調されている。

実際、過敏は侵害受容性疼痛の持続時間と関連しており、変形性関節症、関節リウマチ、その他の侵害受容性疼痛疾患の患者では、線維筋痛症のように痛覚変調性疼痛の割合が高いことから、侵害受容性疼痛の持続は痛覚変調性疼痛を発症する危険因子であると思われる。
侵害受容性疼痛にも知覚過敏がしばしば認められることから、臨床家は、侵害受容性疼痛を持つ患者をいつ痛覚変調性疼痛にも分類すべきかという未解決の問題に直面している。
痛覚変調性疼痛の研究では、関与する機能障害を特定するために高度な技術が用いられている。
定量的な感覚検査は、時間的総和や条件付疼痛調節の評価に有用であり、一方、オフセット鎮痛や機能的神経画像は、大脳の疼痛処理の変化を特定することができる。しかし、これらの技術は、臨床現場ではもちろん、すべての研究現場で使用できるとは限らない。したがって,IASPでは,痛覚変調性疼痛の臨床基準の必要性が認識され,痛覚変調性疼痛の臨床的に有用な基準を作成するために,IASP用語タスクフォース(TTF)が結成された。
筋骨格系や内臓に現れる痛覚変調性疼痛には,それぞれ異なる臨床基準が必要となる可能性が高いことが認識された。 したがって,この論文で提示されている基準は,筋骨格系に現れた痛覚変調性疼痛を対象としている。
内臓で感知される痛覚変調性疼痛の基準は,内臓痛の専門家からなるIASPの別のタスクフォースで定義され,将来の論文で発表されることを意図している。

 
2021年12月01日 11:25

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