▲トップへ

タイトルサンプル

口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

HOMEブログページ ≫ 痛覚変調性疼痛関連 ≫

ブログページ

筋・筋膜疼痛で生ずる口腔内、顔面の感覚変化 敏感、鈍麻

筋・筋膜疼痛で生ずる口腔内、顔面の感覚変化 敏感、鈍麻
 
筋・筋膜疼痛の典型的な症状は異所性疼痛としての関連痛です。これについては、何回も書いてきました。痛みの原因が無い歯に痛みを感じる、そして、その歯の周囲の歯肉に感覚異常が生じることがあります。歯肉が敏感になります、場合によっては歯根膜の感覚も敏感になるので打診痛があったり、指や舌で圧すと違和感が出たりすることもあります。このような症状を専門的には、Paresthesia(パレシテジア:自発性または誘発性に生じる「異常感覚、錯感覚、変な感じ 」)、Dysesthesia(ディセステジア:自発性または誘発性に生じる「不快な異常感覚、嫌な感じ」)、そしてallodynia(アロディニア:通常では疼痛をもたらさない痛覚閾値以下の弱い刺激によっても痛みが感じられる感覚異常)と言います。これらの異常感覚は神経障害性疼痛でも生じますから、allodyniaがあると、それは神経障害性疼痛ですと診断されていることもあります。
口腔歯肉、粘膜のallodyniaが神経障害性疼痛によるものか、筋・筋膜疼痛によるかの鑑別診断については別稿で書きます。

筋・筋膜疼痛で関連痛が生じている歯の周りの歯肉、粘膜は敏感になっていると書きましたが、筋肉の上の皮膚は敏感ではなく鈍麻になっています。
触覚が鈍麻になり、腫れぼったい感じと言う患者さんもいます、痛覚も鈍麻になっていて、爪楊枝でチクチクしても皮膚が厚くなって余り感じないと言うことがあります。このように、関連痛のある歯とその周囲の歯肉は敏感になる一方、当該筋肉を被う皮膚は鈍麻になることがあります。感覚検査を行うと、まず触覚試験で正常側は普通に触っている感じ、一方患側は余り感じない、皮膚が厚ぼったくて、触った感じが直接伝わらないと言った感じ、そして、痛覚検査で爪楊枝でチクチク、正常側はチクチク痛く感じますが、患側は余りいたくない、左右同じ位の力で触っていますかと聞かれるほど鈍麻になっています。
関連痛部分の歯、歯根膜や歯肉は筋肉の痛さを錯覚して感じているので敏感になる、一方、皮膚は筋痛に対する中枢性の抑制効果により全般的に感覚鈍麻になるのだろうと思います。これによって筋痛のある筋肉には痛みを感ぜず、関連痛のある部分は痛みを含めて全般的に敏感になっているということだと思います。

ところが、皮膚の鈍麻が敏感になることがあります、筋触診をすると少し圧しただけで痛くて顔をそむける位になることがあります、その場合には皮膚の触覚検査も痛覚検査も鈍麻では無く敏感になります。もはや中枢性の抑制機構は働かず、逆に中枢感作されている状態です。この場合、当該の筋だけでは無く、咀嚼筋、頸部筋の全部が敏感になり、肩、腕の筋肉も敏感に圧痛が感じられる事があります。何が原因で筋圧痛閾値が下がり、鈍麻だった皮膚が敏感になるのか、そのメカニズムは不明ですが、これが慢性的に続いている場合には痛覚変調性疼痛とも言えます。

痛覚変調性疼痛診断基準  確認項目1ab,c,dと4を満たすとグレード診断:痛覚変調性疼痛の可能性があるPossible
確認項目1a. 痛みは、 慢性的(3ヶ月以上)、
確認項目1b. 局所的(不連続的ではなく)多巣性、あるいは 広範囲に分布 
確認項目1c.. 侵害受容性疼痛の否定
確認項目1d.. 神経障害性疼痛の否定
確認項目4. 痛みのある部位に以下のいずれかの誘発性疼痛過敏現象が臨床的に誘発されること。
静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残遺症状が残ること。


 
2023年06月07日 15:12

中枢性関与が強い筋・筋膜疼痛の治療 トリプタノール

中枢性関与が強くなっている筋・筋膜疼痛の治療
筋・筋膜疼痛の治療において、トリガーポイントインジェクションよりもトリガーポイントプレッシャーリリースが重要である事を書きました。
本稿では、私が行っている標準的な筋・筋膜疼痛法を示し、それに反応しない場合に何を考えるかを解説します。考えられることは、1)セルフケアが不十分、2)トリガーポイントプレッシャーリリースを加えれば改善する、3)末梢性から中枢性の状況になっている、の3つの状況です。
他の原稿と重複しますがまず基本的な事を書きます
初診時セルフケア指導:負荷軽減法:日常生活で肩が持ち上がっていないか、かみしめていないか、防止策として、気がついたら肩を上げ下げ、 舌で口蓋を舐める、 患側で咀嚼しない 
セルフケアとしての積極的治療:左右頚部四カ所(後頸部筋群と胸鎖乳突筋)、 開口ストレッチアシストブロックを用いた開口ストレッチ、各々30秒/回、3回朝昼晩/日、これを毎日実施する。
上記のセルフケア指導だけで2-3週で初期の痛みがかなり改善します。改善した場合には更なるオフイス治療は加えずに、セルフケアの補強のみを続けて行くことが多いです。
セルフケアが不十分の場合にはセルフケアの重要性と有効性を説明して、やってもらうように指導します。また、セルフケアを熱心続けているがなかなか痛みが改善しない場合で、末梢のトリガーポイントの原因が大きいと判断された場合にはまず、超音波を併用したトリガーポイントプレッシャーリリースを行います。これは他稿で詳しく書きました。
一方、患部の筋全体、あるいは筋の範囲を超えて圧痛閾値が下がって、過敏になっている場合には末梢性に中枢性が加わっていると考えて、セルフケアのストレッチの程度を下げて、中枢に対する治療をします。
ここで疑問は「患部の筋全体、あるいは筋の範囲を超えて圧痛閾値が下がって、過敏になっている」、このような状況は痛みの発生メカニズムではどの分類になるのか、1)侵害受容性疼痛、2)神経障害性疼痛、3)痛覚変調性疼痛のどれに該当するのか。限りなく、3)痛覚変調性疼痛に近いと思っていて、痛覚変調性疼痛の診断基準に照らし合わせると三ヶ月以上を満たしていれば、痛覚過敏症状を満たしているのでpossible of nociplastic pain(痛覚変調性疼痛の可能性あり)と診断されます。
この場合の私の治療法はアミトリプチリン(トリプタノール)の投与です。トリプタノールの投与はまず各患者の至適用量を探すことから始めます、最少用量から始めて少量ずつ漸増し、眠気、口渇、便秘などの即時発現する作用を目当てに至適用量を決めます。至適用量が決まったら、その用量で1-2ヶ月投与を継続します。頻脈や心電図でQT短縮などの以上が生ずる事があるので開始前、30mg、50mg、あるいは至適用量投与の段階で心電図を採ることが必須です。
至適用量で2-4週間経過したところで、緩除に効果が発現してきます。痛みを止めるためですが、NSAIDs、アセトアミノフェン、テグレトールのような即時効果は期待出来ません。
 
2023年05月29日 19:08

毎晩、ひとり反省会  私と患者さんの合い言葉

毎晩、ひとり反省会 
筋痛はストレス、不安、怒りなどの心理精神的要因が関わっていることが多いと言われています。確かに私の患者さんのほとんどがそのように思えます。ところが、元気はつらつ、ニコニコいい顔、何でも笑い飛ばしている、このような人達が筋痛がひどい、起床時にかみ締めている感じがする、といった事を訴えます。そこで、睡眠障害について、寝付きはどうか、熟睡出来るか、途中覚醒は何回、早朝覚醒はないかなどと聞いていくと、どれも該当することが多いです。こんなに元気そうなのに何でと思うのですが、実はこの人達は日常生活のいろいろな出来事での心のもやもや、ぐるぐると再生される後悔、ふとした瞬間にふくらむ焦りや不安、やり場のないイライラなど、我慢や不満、焦りや不安が複雑に絡み合って「しんどい」ができあがってしまっているそうです。『あなたの「しんどい」をほぐす本』(KADOKAWA)私が日頃思っていたことがこの本にそのまま書かれていたので紹介しました。そして、この人達がしている事が、ひとり反省会です。初診の患者さんでこの人はと思う人に、余計な説明なしに、寝る前にひとり反省会していませんかと聞くと、素直に毎晩しています、と答えてくれます。このような患者さんにはすっと理解出来る言葉のようで、私と患者さんとの言葉かと思っていたら、この本にも出ていました。ひとり反省会で悩むのは、あなたは「こんなに落ち込むほど一生懸命頑張ったのです。そんな自分の良さを認めて、褒めてあげてください。」と書かれています。
先日、ラジオで腰痛が心因性であるという話しがあり、昔買って読んだ本を思い出してwajima図書室を探してもらいました。サーノ博士のヒーリング・バックペイン: 腰痛・肩こりの原因と治療– 1999と『腰痛は<怒り>である』2000を見つけて、もう一度読み直しています。20年以上を経て、心因性疼痛から痛覚変調性疼痛に代わるなど、最近の中枢神経系の関与等が判って来たことで、これらの本に書かれていたことが当たり前のことになっています。患者さん、病気をしっかり診ている人たちは詳しいメカニズムは別にして、なぜこの患者さんにこの症状が現れるのか大方予想が出来るのだと言う事を再確認しました。


追記 HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン/Highly Sensitive Person)と言う言葉もあります。この人達も一人反省会の会員です。
HSPは、米国の心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念で、神経が細やかで感受性が強い性質を生まれ持った人のことです。全人口の15~20%、約5人に1人はHSPと考えられています。

HSPには、特徴的な4つの性質「DOES(ダズ)」があります。

「いろいろなことが気になって落ち着かない」「ちょっとしたことで落ち込みやすい」と感じることはありませんか。それは、あなたが「HSP」だからかもしれません。HSPとは、視覚や聴覚などの感覚が敏感で、刺激を受けやすいという特性を生まれつき持っている人のこと。   他の人が気づかないような音や光、匂いなど、些細な刺激にすぐ気づく

HSPの人は、感覚的な刺激に対して無意識的・反射的に対応する脳の部位、「扁桃体」の機能が過剰に働きがちで、HSPではない人と比べて刺激に強く反応し、不安や恐怖を感じやすいことが分かっています。相手の気持ちを察知して行動したり、物事を深く探究できる半面、ささいなことで動揺したり、ストレスをためてしまうこともあります。


参照 https://kenko.sawai.co.jp/mental-care/202103.html#:~:text=HSP%EF%BC%88%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%B3,%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82
 
2023年03月25日 12:31

ハワイから非歯原性歯痛の患者さん来院

先日、ハワイ在住の日本人の方が10年来の非歯原性歯痛で来院されました。
経過を聞くと歯痛で抜髄が始まりで、かなりの歯科を受診して根管治療を数回受けたそうです。最後に日本人のENDO専門医に紹介され、歯原性では無いとの診断、ハワイには口腔顔面痛専門医はいないので米国本土か日本に行ったらどうかとアドバイスされたそうです。今回帰省する機会があり、ENDO専門医に相談したところ、私を薦められ受診したという次第でした。
これまでも、ハワイ在住の数人の日本人から非歯原性歯痛についてメールでの相談があり、ハワイの歯科事情、口腔顔面痛事情を知っていました。米国も日本も、世界の多くの国々で、簡単に口腔顔面痛の診断治療が受けられない状況にあります。せめて、歯原性か歯原性でないかの判断、そして、非歯原性歯痛だとして、筋触診で筋筋膜疼痛の可能性はないか、ここまで診査ができれば多くの患者さんが救われます。
今回ハワイから来院した患者さんは、側頭筋、咬筋、胸鎖乳突筋、後頸部の筋から歯への関連痛がありましたから筋筋膜疼痛だと思います、10年以上経過しているために、歯痛部の歯肉にはAllodyniaも認められ、感作が生じていると思われます。
筋骨格系の痛覚変調性疼痛診断に照らすと、かなりの部分で該当する項目があり、筋筋膜疼痛に痛覚変調性疼痛が合併していると診断できます。
この患者さんはハワイに一台しかない経頭蓋磁気治療を受けていて、歯痛は治らなかったがうつが軽くなったそうです、また、処方されている薬が米国らしかったです、モルフィン、トピラマート(強い片頭痛発作があった)、プロザック(SSRI、抗不安薬として)、頓服にオキシコドンが処方されていました。
私のアドバイスはまずは筋痛へのセルフケアです、腹式呼吸しながらの頸部、咀嚼筋のストレッチ、開口ストレッチアシストブロックも渡しました。全身の随意的最大緊張からの弛緩 など
薬としては痛覚変調性疼痛への対処としてトリプタノールを勧め、漸増服用法のパンフレットを渡して、ハワイのPainmanagementに相談する様に伝えました。

最後の観てもらった日本人ENDO専門医がなぜ私を推薦したのか不思議でした、日本の大学卒業して米国で専門医資格を取ったならば、私を知っている可能性はあるかと思いながら、フルネームが書かれていたので調べたらUniversity of North Carolina at Chapel Hill 卒業でそこでENDOレジデント研修
ここまで観たときに、私の鹿児島の同級生の高校の同級生が同姓で、学生時代に会った事があり、卒業後米国に渡り、University of North Carolina at Chapel Hillの生化学の教授をしていること、その教授の奥さんが私の大学の先輩で、ENDOの教室にいて、かなり昔にメールで近況を連絡したこと等を思い出しました。鹿児島の同級生に連絡して確認したところ息子さんがハワイで開業しているということで、どうも深い繋がりがあったようです。
その息子さんが私をどうやって知ったのかはまだ不明  連絡して診察結果を送ろうと思っています。

 
2023年03月19日 10:52

痛覚変調性疼痛の診断基準を元にして中枢感作との関連を考える

痛覚変調性疼痛診断法
中枢感作とは
国際疼痛学会の現在の中枢感作の定義に従えば、中枢感作とは「正常または閾値以下の求心性入力に対して、中枢神経系の侵害受容ニューロンが増加した反応性」という意味になるはずです。つまり、中枢感作とは侵害受容性疼痛に関連する現象の変化のメカニズムとして用いるべきと言われています。
 
痛覚変調性疼痛のなかの中枢感作の位置付け
痛覚変調性疼痛発症への中枢感作の関与する部分を具体的にあげるならば、痛覚変調性疼痛の診断基準の「2. 痛みのある部位に疼痛過敏の既往がある。以下のいずれか1つ。触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感」である。ここであげられている「触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感」は侵害受容性の変化で、過敏になったのは中枢感作によると考えられます。
また、「4. 誘発性疼痛過敏現象は、痛みのある部位で臨床的に誘発されることがある。
以下のいずれかである。静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残遺症状が残ること」、誘発性疼痛過敏症状はまさに侵害受容性疼痛の変化であり、中枢感作が関与すると考えられます。
他方、「3. 併存疾患がある。以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題」、は侵害受容性神経系に関連して生ずる現象ではないので中枢感作の結果とは言えないということになります。
痛覚変調性疼痛の発症メカニズムを分析する
上記したように痛覚変調性疼痛は診断基準の2、4で侵害受容神経系が中枢感作により生ずる変化であるが、「3. 併存疾患がある」に含まれる症状は中枢感作以外のメカニズムにより生ずるものであり、痛覚変調性疼痛の発症には侵害受容性神経系への中枢感作だけではなく、もっと広く神経系が変化した結果であると考えねばなりません。
 
中枢感作プラスアルファのメカニズム
この詳しいメカニズムは不明で、とりあえず、脳機能変調とでも名付けておきます。
この先のメカニズムを考えるに当たって、中枢感作症候群とでも呼ばれる症状群を調べてみました。
中枢感作症候群(central sensitivity syndrome)とは
中枢感作症候群とは、中枢感作の症状を持つと「推定される」非器質性疾患(例:線維筋痛症や/慢性疲労)の包括的な用語として提案されたものです。
しかし、冒頭に書いた国際疼痛学会の中枢感作の定義から明らかに逸脱していますから中枢感作の症状とは言えません。
 
中枢感作症候群調査票(Central Sensitivity Syndrome Inventory)CSI
「中枢感作症候群(central sensitivity syndrome (CSS)に関連することが多い主要な身体的・感情的な訴えを評価するために」開発された質問票で、世界中で広く使われています。
この中枢感作症候群調査票で評価される「推定の」中枢感作の症状には、睡眠障害、集中力低下、光やにおいへの過敏性、ストレスなどが含まれます。 これらの症状は侵害受容性ではないので明らかに中枢感作ではありません。   
 
中枢感作症候群調査票を利用した論文を読むと、論理の飛躍があり、中枢感作症候群を調査したはずなのに、論文の結論等で中枢感作を評価したことになっています。
1)中枢感作が、非侵害受容系における反応の亢進を説明するために用いられている(例:音、光、におい)。
2)中枢感作があると中枢感作症候群調査票で高得点となり、中枢感作症候群調査票で高得点であれば中枢感作であると解釈されるという論理の飛躍があります。
 
このような中枢感作症候群調査票を用いた研究には科学的論理の逸脱があるのですが、中枢感作症候群を中枢感作とは別物、中枢感作プラスアルファのメカニズムにより生じた症状と考えれば、ここから何か手がかりが得られそうかなという気がしています。
今のところ、泥沼なのか、金の山かは皆目見当がつきません。
 
 
2023年02月28日 16:52

痛覚変調性疼痛に関する私の誤解がひとつ解けました

痛みの発生メカニズムとして、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛と心因性疼痛が挙げられていたが、心因性疼痛は発生メカニズムとしては適切でないという事で、第3の発生メカニズムとして痛覚変調性疼痛が提案され、定着してきました。
ここからが誤解だったのですが、発生メカニズムでは心因性疼痛が痛覚変調性疼痛に代わりましたが精神心理的因子は痛みの発生因子にならないのかというと、心因性は大きな発生要因のひとつであることに変わりはありません。
つまり、痛みの発生メカニズムでは心因性から痛覚変調性疼痛に代わりましたが、痛みの発生要因としては心因性が重要な因子であることに変わりはありません。
不安、怒り、あせりなどの心因が中枢に、例えば扁桃体に作用して脳機能の変調が生じ、痛み関連神経系を感作して痛覚変調性疼痛が生ずると言うのが、ひとつの痛覚変調性疼痛の発生経路かと思います。
 
2023年02月12日 17:48

これが痛覚変調性疼痛 本態は脳機能変調

痛覚変調性疼痛診断法
今回提示した参考文献を改めて読み直したら、痛覚以外の症状(睡眠障害、疲労、認知症状、光・音・においに対する過敏性など)が診断基準に含まれていました。
痛覚変調性疼痛の診断基準に完全一致する症例を提示します。

症例40歳男性 主訴:両側側頭部の自発痛と刺激痛(眼鏡がかけられない、マスクを耳にかけられない)
現病歴:10年前、頭が締め付けられるように痛くて、脳外科受診、MRI異常なし、鎮痛薬を処方で終了、その後、内科、ペインクリニックを受診したが異常なし、鎮痛薬のみ。
顎関節症専門を掲げる歯科で高価なスプリント治療を数回、効果無し。
2年前から、顎関節症の診断で二年間で咬合治療をして主訴を改善するという歯科受診中(前金3桁万円払い込み済み)、二年が近づいているが一向に改善しないという事で当クリニック受診。
主訴:両側側頭部締め付けられるように痛い。側頭部、耳に触ると非常に敏感、そして、残感覚が残る。左右の上下顎大臼歯部の歯痛あり
診査:下顎頭牽引圧迫痛誘発テスト顎関節可動性np、痛み無し 
両側咬筋 肥大+ 硬結+ 圧痛+ 関連痛あり(歯痛再現)
両側側頭筋 筋肥大無し、硬結無し、圧痛++、allodyniaあり 残感覚あり、主訴の両側側頭部締め付けられるような痛みが増悪。
最近、考えをまとめることが出来にくくなっている、短期記憶が欠落することあり、睡眠障害(途中覚醒)などの症状あり。
 
得られた所見を末梢から診断していくと、
  1. 側頭筋、咬筋圧痛、関連痛-筋・筋膜疼痛

  2. 10年来の頭が締め付けられる頭痛-頭蓋周囲の圧痛を伴う慢性緊張型頭痛

  3. 筋圧痛関連痛、残感覚-中枢感作   となりますが、


    以上の診断でこの患者さんの全てを説明出来るか?、「考えをまとめることが出来にくくなっている、短期記憶が欠落することあり、睡眠障害(途中覚醒)などの症状」も含めて考えると、この症例こそ痛覚変調性疼痛そのものという診断にいたりました。  痛覚の変化だけでなく、脳機能そのものが変化しているのだろう、「脳機能変調」が最も状況を的確に表した用語、痛覚変調性疼痛はそのひとつのphenotype(表現形)でしかない。と思うに至りました。
 
 再掲 下記の論文の診断基準です
Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system
Eva Koseka,b,*  PAIN 162,11 (2021) 2629–2634
筋骨格系の痛覚変調性疼痛の臨床的基準とグレーディング。
1. 痛みは
1a. 慢性的(3ヶ月以上)、
1b. 局所的(不連続的ではなく)な分布( 筋骨格系の痛みは、皮膚ではなく深部性であり、(個別性ではなく)局所性、多巣性、あるいは 広範囲に分布している。)
1c. 侵害受容性疼痛が(a)存在しない、または(b)存在するとしても、その疼痛に完全に起因している証拠がない。
1d. 神経障害性疼痛(a)が存在しない、または(b)が存在する場合、その疼痛に完全に起因している証拠はない。(異なる慢性疼痛状態(例:肩の筋肉痛と膝の変形性関節症)に起因する多巣性疼痛状態の場合、各 慢性疼痛状態や疼痛部位は別々に評価されなければならない。)
 
2. 痛みのある部位に疼痛過敏の既往がある。
以下のいずれか1つ。触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感
 
3. 併存疾患がある。
以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題.
 
4. 誘発性疼痛過敏現象は、痛みのある部位で臨床的に誘発されることがある。
以下のいずれかである。静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残遺症状が残ること。
 
痛覚変調性疼痛の疑いがある:1および4。
痛覚変調性疼痛の可能性が高い:上記(1、2、3、4)のすべて。
(変形性関節症などの侵害受容性疼痛や末梢神経病変などの神経障害性疼痛の存在 は、痛覚変調性疼痛の併発を排除しないが、疼痛部位は、同定可能な病態で説明可能な範囲より広範でなければならない。)
 
2023年02月04日 13:11

痛覚変調性疼痛の診断基準

痛覚変調性疼痛診断樹
筋骨格系の痛覚変調性疼痛の診断方法について
痛覚変調性疼痛について、具体的にどのような症例が該当するのか常に頭にあります。
軽度の痛みが不安感を高めて、いろいろな病気を考えてしまい解釈モデルが膨らんでいく、病院で診てもらえば解決するだろうと思い受診するが、全く解決につながらない、それを繰り返す事により、一層不安感をつのらせて、痛みの自覚症状も高まっていく、このような症例をしばしば診ていて、これも痛覚変調性疼痛の1つだろうと思っていました。
今回提示した参考文献を改めて読み直したら、痛覚以外の症状(睡眠障害、疲労、認知症状、光・音・においに対する過敏性など)が診断基準に含まれていました。
下記の論文の診断基準です
Chronic nociplastic pain affecting the musculoskeletal system: clinical criteria and grading system
Eva Koseka,b,*  PAIN 162,11 (2021) 2629–2634

筋骨格系の痛覚変調性疼痛の臨床的基準とグレーディング。
1. 痛みは
1a. 慢性的(3ヶ月以上)、
1b. 局所的(不連続的ではなく)な分布( 筋骨格系の痛みは、皮膚ではなく深部性であり、(個別性ではなく)局所性、多巣性、あるいは 広範囲に分布している。)
1c. 侵害受容性疼痛が(a)存在しない、または(b)存在するとしても、その疼痛に完全に起因している証拠がない。
1d. 神経障害性疼痛(a)が存在しない、または(b)が存在する場合、その疼痛に完全に起因している証拠はない。(異なる慢性疼痛状態(例:肩の筋肉痛と膝の変形性関節症)に起因する多巣性疼痛状態の場合、各 慢性疼痛状態や疼痛部位は別々に評価されなければならない。)
 
2. 痛みのある部位に疼痛過敏の既往がある。
以下のいずれか1つ。触覚敏感、 圧覚敏感、 運動敏感、 熱、冷敏感
 
3. 併存疾患がある。
以下のいずれか1つ。音、光、においに対する感受性の亢進、 夜間頻回の覚醒を伴う睡眠障害、 疲労、 集中力の欠如、記憶障害などの認知的問題.
 
4. 痛みのある部位に誘発性疼痛過敏現象が臨床的に誘発され残感覚が残る。
以下のいずれかがある事。 静的機械的アロディニア、 動的機械的アロディニア、 熱または冷感アロディニア、 上記のいずれかの評価後に残感覚が残ること。
 
痛覚変調性疼痛の疑いがある:1および4。  診断樹では4誘発性疼痛過敏現象誘発が1の診査の次に位置付けられて、1と4が該当する場合には、痛覚変調性疼痛の疑いがあると評価される。
痛覚変調性疼痛の可能性が高い:上記(1、2、3、4)のすべて。
(変形性関節症などの侵害受容性疼痛や末梢神経病変などの神経障害性疼痛の存在 は、痛覚変調性疼痛の併発を排除しないが、疼痛部位は、同定可能な病態で説明可能な範囲より広範でなければならない。)

この診断システムの目的は、患者が痛覚変調性疼痛であることの確実性のレベルを示すことである。現状では痛覚変調性疼痛の疑いあり、可能性高いまでです。
今後、診断検査が開発され、その有効性が確認されれば、「確定的な痛覚変調性疼痛」という用語の導入も検討されるでしょう。
 
2023年02月04日 11:44

痛覚変調性疼痛について

痛覚変調性疼痛と言う用語が2021年に出現しました。侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛と共に心因性疼痛に代わる第3の痛みと宣伝されています。私はこの痛覚変調性疼痛が臨床的にどの様な痛みをさすのかが興味津々、従来の持続性特発性疼痛は痛覚変調性疼痛だと言う人もいますが、そう言い切るのはまだ早いでしょうと思っています。
痛覚変調性疼痛とはどの様な事をさすのか、まだ誰も良く理解出来ていないような気がします。
1.危惧:国々によって言語、文化、社会が異なる、言語毎に翻訳されると、Nociplastic Painとして世界共通の理解ができるのかが疑問である。実際に日本では、Nociplastic Painそのものではなく、日本語になった痛覚変調性疼痛について時間とともに理解が深まっていくのでしょう。痛覚変調性疼痛という用語自体がしっくりする言葉だけに痛覚が変調した結果の痛みとして、Nociplastic Painの真意から離れていくのではないかと不安、心配なこともあります。それがどの様な病態、病状なのか、これが痛覚変調性疼痛だ、と言うような具体的な病名が出て来たときに世界共通かどうか。もし、世界共通な痛覚変調性疼痛があったとして、それはごく少数だろうと思います。
 
2.和嶋の理解
NociplasticPainとは、「侵害受容器、神経系の異常という質的原因がないにも関わらず、侵害受容性様の痛みが可塑的に続く状態」とも理解出来る。
そして、具体的にどんな状態と聞かれるとかなり苦しい、PTSD的に痛みが記憶に残った状態とすればなんとなく判るが、これには痛覚が変調は見えないが。
 
3.よくわからない点
先日の日本口腔顔面痛学会学術大会で、痛覚変調性疼痛と中枢感作はどちら上流にあると考えれば良いのかの質問に対して、中枢感作は痛覚変調性疼痛の表現形の一つであるとの答えとともに、基礎研究者の考えるNociplastic Painそのものか、あるいはNociplastic Painを生ずる状況は中枢神経系において相当大きな機能変化であり、痛覚変調性疼痛が生ずる状況ではその発現型は痛みに留まらず、自律神経、感情の変化も生ずる状況であるとの返答。
ここで言っている中枢神経系における相当大きな機能変化とはどの様な状況なのか、今までもあったはずなのに把握されていなかったことなのか、不明
痛みとともに自律神経失調状況や感情変化も生じているというが、痛覚変調性疼痛はこのように捉えるべきものなのか、不明
痛覚変調性疼痛は中枢神経系の大きな機能変化の1つの発現系として、メカニズムとして中枢感作が介在して出現するということであり、中枢感作は生体の原始的自己防衛機能としてかなり原始的生物にもあるらしい。そうすると、中枢感作を生ずる要因は原始的なことなのか、不明
長年、心因性疼痛として、不安、怒り、哀しみ、憎しみなどのより生じていた痛みがあります。臨床的によく診る不安がつのった時の痛みは、元からあった痛みは強くなっていないのに、感じ方が変わって強く痛みを感じている状況で、これこそが純粋な痛覚変調性疼痛なのではないかと思っています。
従って、私は固有名詞としてこれが痛覚変調性疼痛と病名が出てくるのではなく、元からある病態に修飾子として痛覚変調性疼痛がくっ付く状態になるのではないかと思っています。
2022年最後の雑感としてまとめてみました、2023年には最新情報とともに理解が変化すると思います。
 
2022年12月30日 19:24

痛覚変調性疼痛について判らないこと

従来、痛みの発生機序は①侵害受容性疼痛 ②神経障害性疼痛 ③心因性疼痛に分けられていました。しかし、心因性疼痛はどの程度心因が関わるのか、もっと別な機序もあるだろうと言うことで、一時的に機能障害性疼痛とか非器質的疼痛とか使われましたが、2016年に国際疼痛学会が3番目の分類として「nociplastic pain」を提唱しました。
それを受けて、2021年、日本痛み関連学会連合用語委員会は,国際疼痛学会(IASP)が「第3の痛みの機構分類」 として提唱した nociplastic painの日本語訳を 痛覚変調性疼痛 と決めました。
(原文解説訳) 侵害受容の変化によって生じる痛みであり,末梢の侵害受容器の活性化をひきおこす組織損傷またはそのおそれがある明白な証拠,あるいは,痛みをひきおこす体性感覚系の疾患や傷害の証拠,がないにもかかわらず生じる痛み
(注記:患者が,侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時に示すこともありうる).
この定義を読んで、臨床的実感と照らし合わせて、以下の疑問があります。学会等の場で疑問を解決したいと思っています。

質問1 文頭の「侵害受容の変化によって生じる痛みであり,」これは侵害受容性疼痛のことか
2.注記:侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時にしめすこともありうる、とされているが神経障害性疼痛との同時はないのか
3.痛覚変調性疼痛はできあがった疼痛病態を指すのか、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に作用して痛み感覚を調整する修飾因子として役割は無いのか。
4.従来の心因性疼痛は痛覚変調性疼痛の誘因の一つとして含まれるのか
5.痛覚変調性疼痛のメカニズムは大雑把に言って、かつて言われていた、中枢感作なのか、情動ストレスによる扁桃体の感作、痛み信号による痛覚受容野の感作などのか
2022年09月02日 14:55