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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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痛覚変調性疼痛と心因性疼痛は何が違うか、本態は患者さんの不安だと思う

痛覚変調性疼痛が話題になってから、私の関心は従来の心因性疼痛と痛覚変調性疼痛の関連性と心因性という用語はなぜ用いられたのか、どのような事を意味していたのか、実際の臨床の中で該当する患者さんを探して、何が心因性なのか、痛覚変調性は何を意味するのか確かめてみることです。天の邪鬼な性格故に皆さんの痛覚変調性疼痛理解とは別な方向に進んでいます。
解釈モデルを知り、解釈モデルをホワイトボードに例えて、今現在、患者さんがどんな事を考えているのかを、ホワイトボードに何と書かれているかを確認するよう務めています。その結果、私の診査診断の結果の治療方針とズレの有無が明らかになる。ズレがある場合、なぜそのように考えるようになったのか、うつ病に代表される歪んだ認知、考え方があるのか等が、カルテに文字化されて書かれ、明らかに認識出来る様になりました。
その中で気になるのは、慢性痛の患者さんは大きな不安感を抱えていることです。
始まりは痛み、多くの痛みは痛みを感じる部分に痛みの原因があり、医者に診てもらえば診断が決まり、治療するとすぐに治ると思っています、そのように解釈モデルには書かれていました。
歪んだ認知、考え方によるズレという前に、ズレを生む大きな問題が目の前にありました。口腔顔面痛の代表的な疾患である非歯原性歯痛では痛みの感じる部分と痛みの原因部分が異なる異所性疼痛なのです。我々口腔顔面痛専門医は当たり前になってしまっていますが、自分で改めて考えても変ですし、患者さんが混乱するのは当然の事と思います。
このような混乱を生む状況をしっかり把握し、どうすれば混乱を防げるかの対策を考えています。
患者さんが痛みを訴える部分には原因になるような異常が認められない、ここで一般診療では原因不明ということで診断が進まなくなります。これによって、「ここに原因があるのだから、ここを治療すればすぐにでも治るのに」という患者さんの解釈モデルと一致しない部分が出てきます。その結果として患者さんの認知は変わり、「自分の言っている事が信じてもらえない、だから解決に向かわない、どうすれば良いのか、別な病院探さなければならないのか」、そして気分、感情は「めちゃくちゃ不安」となります。非歯原性歯痛だけで無く、様々な痛みの治療を受ける過程で解釈モデルと診断、治療方針にズレが生じていると患者さんが不安を感じることが多いようです。
この不安感によって身体反応、身体感覚として痛みが強く感じられることとなります。私はこの部分が心因性疼痛であり、痛覚変調性疼痛の局面だろうと思います。
この状況での効果的な治療は、痛み治療よりも不安を和らげることです。痛み診査、治療の経過の中で生じた解釈モデルの混乱、ズレについて、患者さんにとって腑に落ちる説明が得られると不安が解消されます。安心だけでは不安が解消されずに睡眠障害を伴う場合には睡眠導入剤、抗不安薬が有効なこともあります。
最近診た典型的な3例を概説します。

症例1 35歳女性 HIFU(ハイフ)という美容施術を受けた後の咬筋筋・筋膜疼痛となり、歯痛が生じて歯科受診 プラスアルファ
HIFU(ハイフ)とは、High Intensity Focused Ultrasound(高密度焦点式超音波療法)(美容外科からの引用:お肌への負担を限りなく抑えながら高密度の熱エネルギーをお肌の奥まで届かせます。肌内部では受けた損傷を治そうと、コラーゲンが増生されます。この作用によりお肌が内側から引き締められ、お顔を引き上げていきます。)
ハイフを受けた後、頬部に痛み、歯痛も生じて、歯科受診。患者さんにとってハイフで頬部が痛いのは想定内、しかし、歯痛も関連するとは全く思わず。歯痛がハイフにより生じた咬筋筋・筋膜疼痛の関連痛とは考えなかった。異所性疼痛ですから当然と言えば当然、 ところが歯科医も診断できず。知覚過敏の診断で、繰り返し知覚過敏処置と負担過重軽減のために咬合調整。咬むと咬合面がしみると言う事で咬合面にもコーティング、当然、早期接触が生じ、かみ合わせがおかしいという異和感、そこを削る、また、しみるの繰り返し。患者が説明を求めると、毎回違った説明と新たな治療法提案、患者は不安感が高じて、自ら心療内科受診、そこで抗不安薬が処方され服薬、痛みは日ごとに改善してきた。
しかし、頬部の鈍痛、当初はハイファの術後痛と理解していたが、こんなにも続くものかと不安が強くなってきた。また、歯痛があり、冷水はしみなくなったが噛み方によりギックと激痛が生ずることも不安で受診した。
和嶋の理解と患者説明:歯の持続痛は筋・筋膜疼痛によるものであること、これは最初に遡って、筋緊張の準備因子があったところにハイフの筋膜舳の刺激により筋・筋膜疼痛が生じて頬部痛と関連痛として歯痛が生じた、現在の頬部痛、歯痛もそれが続いていることを説明した。
毎回違った診断と新たな治療法の提示に納得出来なかったことと不安感の高まったことにより痛みが強く感じられた事、患者自らの判断で心療内科受診して、今も抗不安薬を服用しているのは適切だったと思われることを説明した。かみ具合によりギクッとした痛みは咬合調整の結果、象牙質が露出して生じているであろう事を説明し、筋・筋膜疼痛、象牙質露出への治療法を提示した。
 
症例2.上顎前歯部にインプラント、頭出しして、さあ上部構造と言うときに痛みで中断を余儀なくされた。何本かの中の1本のインプラントがネジを締めたり、暫間冠を装着しようと力をかけると激痛が生ずるということで数回挑戦したが痛みが出る事に恐怖感が出てしまい、さらに持続痛も生じて上部構造の作成を一時中断。時期を同じくして、全身状態が悪化、内科の主治医を受診したが内科的には異常なし、大学病院脳神経外科受診、MRI等で検査するが異常なし、口腔外科を受診、筋・筋膜疼痛の診断で筋マッサージの指導を受けた。一向に改善せず、最近は病院に行くために車に乗ることすら出来ず、治療は何も受けていない。家ではほとんど横になっている状態で日常生活が出来ないとのこと。ご主人からの電話相談を受けて、以上の経過を聞いた。インプラント治療中に生ずる痛みがどうしても耐えられないことへの不安感、恐怖から痛みが出て、全身状態にも影響していることを推定して、精神科受診を勧めた。後日電話があり、以下の経過を受けた。精神科受診して、睡眠導入剤と抗うつ薬を処方された、抗うつ薬は副作用のための一日しか服用できなかったが睡眠導入剤が効果的で、睡眠が改善された。約1ヶ月経過して、持続痛は改善し、日常生活が出来るほどになり、元通り自分で車を運転して買い物に出かけられるまでに回復したとの事であった。
和嶋の理解:睡眠導入剤により睡眠が改善され、不安の改善に役立った。持続性疼痛がないこと、治療が中断され、インプラント部に触れなければ痛み刺激はないことにより次第に改善に向かったと推定される。
 
症例3:35歳男性 2ヶ月前に上顎左側6の歯肉痛
 1年前から上顎左側大臼歯部に異和感、上顎左側6は2年前に痛み治療の為に意図的再植、1年間痛み無かったが1年前から痛み再発、次第に増悪。4ヶ月前にかかりつけ医で歯周炎と言う診断でFlap手術を受けた。術後痛みが強く、再診、再植した歯が急性炎症を起こしていると言うことで、再度意図的再植術、術後、痛みは増悪、1週間後に抜歯、さらに痛みは強くなり、持続痛に経過中に発作痛が加わった。口腔顔面痛専門医を数軒受診、神経障害性疼痛、筋・筋膜疼痛、の診断、神経障害性疼痛の治療として処方されたトリプタノール10mgは翌日眠くて継続出来ず。大学口腔外科では抗菌薬処方。筋・筋膜疼痛専門整形外科受診、咬筋にトリガーポイントインジェクション、神経内科受診神経学的異常なし、リボトロリール処方されたが杭痙攀薬と書かれていたので服用せず、次にタリージェ処方され、服用したらふらつきで中止。漢方専門医受診、何種類かの漢方薬服用したが効果無し、脳神経外科受診、画像検査異常なし、三叉神経痛の診断でカルバマゼピン処方されるも、ふらつきで中止。次の内科でヂュロキセチン処方、吐き気で中止。大学ペインクリニックで眼窩下孔にブロック注射、効果は不明、その日から突発性難聴で耳鼻科受診、ステロイド治療を受ける、同日に母親が服用しているバランス(抗不安薬)10mgを服用し始める。バランスは以前にものストレスが強い時に服用したことがあった。徐々に痛みが改善。10日後に当クリニック受診、現在は発作痛なし、持続性の2/10鈍痛がある。上顎左側歯肉にallodynia、Hyperalgesiaあり、顔面左側v2に触覚鈍麻、痛覚過敏あり、咀嚼筋圧痛無し。現在、バランス(抗不安薬)のみ継続服用中。  
気になった事、最初はChairに座って、握りこぶしををつくり、身体を強ばらせていた、これまでの治療経過を聞いて、想定される原因と症状のストーリーを話していると、実は、実は、といくつもの新しい情報 そして、診療が終わったときには握りこぶしがほぐれていた。
和嶋の理解と患者説明:1)何らかの器質的痛みがあった可能性、2)そこに切開の外科的侵襲が加わった。腫れたとは言っていないので、感染、化膿は無かった様である。3)痛みへの不安により痛覚変調性して、痛み増悪、4)そこに意図的再植、抜歯外科処置の侵害刺激が加えられ、痛みは増悪し不安が増す。5)痛みが強いので、口腔顔面痛専門医を始め、複数の痛み関連診療科を受診するも改善せず、さらに不安が増し、痛みは増悪。6)ストレス性と思われる特発性難聴発症、改善因子として7)大学ペインクリニックで眼窩下孔にブロック注射と8)自分判断でバランス服用、を説明した。
現在残る症状として、感覚障害がある、三叉神経痛とは思えない、筋・筋膜疼痛でもないこと、眼窩下孔にブロック注射と抗不安薬のバランス服用が奏功した可能性がある事を説明した。今回の経過中大きな不安が生じたことは何らかの精神的素因が考えられるので、バランス服用の管理も兼ねて精神科受診を勧めた。


 
2022年08月03日 18:12

非歯原性歯痛 解釈モデルのズレから痛覚変調性疼痛へ

前記の「非歯原性歯痛患者への「原因不明、異常なし」と見捨てられ感」では歯が痛いと幾ら訴えても満足行く治療が受けられない、あるいは痛い訴えた歯の治療が始まったが一向に改善しない、その結果として痛みが強くなってしまう、という非歯原性歯痛診断、治療の現状を危惧して紹介しました。
また、医療の現場において、患者さんの自動思考に始まる解釈モデル、つまり「患者の自身の病気の理解、認知、把握」と「医者の診断、治療方針」にズレがあることが多いことも紹介しました。この解釈モデルのズレに起因する「痛覚過敏=痛覚変調性疼痛」に至る下記の過程を提案しました。
1)「解釈モデルは患者さんの自動思考により作られる」、「歪んだ、不合理な思考により片寄った解釈モデルが作られる」
2)「患者さんの片寄った解釈モデルと医者の診断にズレがあると、不安が生ずる」
3)「不安亢進、痛みを強める気分による痛覚過敏=痛覚変調性疼痛」に至る過程が想定されます。
この仮説は「患者の自身の病気の理解、認知、把握」が「医者の診断、治療方針」とズレがあることが始まりですが、非歯原性歯痛ではこのズレに大きな差異があることに気づきました。非歯原性歯痛が一般社会で認知されていない現状で、「患者さんに自身の病気の正しい理解、認知、把握」を求めることが元々無理である点です。非歯原性歯痛は「痛みを感じる部分と痛みの原因部分が異なるという異所性疼痛」であるからです。
従って、上記の解釈モデルのズレに起因する「痛覚過敏=痛覚変調性疼痛」に至る仮説は修正が必要です。非歯原性歯痛の解釈モデルの始まりに修正が必要で、修正案は下記の様になります。
1)「非歯原性歯痛の解釈モデルは患者さんの感覚、痛み経験により歯痛として作られる」
2)「患者さんが感じたままの歯痛の解釈モデルと非歯原性歯痛を知らない歯科医師の診断にズレがあるので不安が生ずる」 患者さんが痛みを感じる部分の異常を訴えても、元からその部位には異常が無いので、非歯原性歯痛を知らない歯科医師は異常が無い、あるいは原因不明と診断する。患者は痛みが続くのにも関わらず、痛みを理解してもらえない、診断してもらえないことから不安感が増して来る。
3)「不安亢進、さらに、痛みを強める気分が加わる事により痛覚過敏=痛覚変調性疼痛」に至る過程が想定されます。
1)歯の痛みは歯に感じられ、歯に原因があるという、感覚、痛み経験により湧き上がる非歯原性歯痛の解釈モデル、2)、歯の痛みは続く、しかし、歯痛の専門医であるはずの歯科医師は違うという、非歯原性歯痛を知らない歯科医師の診断とのズレにより不安が増悪してしまう、3)a)持続する痛みによる中枢神経系の感作および痛み、b)不安によって、破滅的思考(マイナス思考)が高まることによる中枢神経系の感作のa,b二つの作用により中枢感作が起こり痛覚が過敏となってしまう、このような過程、結果が痛覚変調性疼痛そのものではないかと思います。
さて、解決策は、3)「痛覚過敏=痛覚変調性疼痛」に至る前の1.2)の過程で適切な介入が出来れば、それ以上の悪化を防ぐことが出来ます。
1)歯の痛みは歯に感じられ、歯に原因があるという、感覚、痛み経験により湧き上がる非歯原性歯痛の解釈モデル:患者さんを含めた一般社会の非歯原性歯痛の認知度を高める
2)、歯の痛みは続く、しかし、歯痛の専門医であるはずの歯科医師は違うという:全ての歯科医師が、患者さんが痛みを訴える歯に異常が認められなかった時に非歯原性歯痛ではと想起できる程度の歯科医師の基礎教育を行う、また、患者さんが痛いと感じる歯に異常がありませんと診断された時に私の歯は非歯原性歯痛ではないでしょうかと言える位に非歯原性歯痛を一般社会に認知してもらう。
結論は歯科医師は当然として、一般社会においても非歯原性歯痛の認知度を上げる努力が必要だということになります。
2022年07月25日 20:46

わかり合えないが共感できる、でもonlineでは出来ない

医療面接の際の医療者の態度の原則は傾聴、受容、共感です。オリジナルを調べるとこの3つをまとめて「積極的傾聴」と言うようです。
•傾聴は、アメリカの心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズによって提唱された。
•傾聴を「積極的傾聴」と呼び、自らが行ったカウンセリングの事例を分析して、話を聴く側には3つの要素が必要であると説いている。
1.自己一致(Congruence):話を聴いて分からないことをそのままにせず聴き直す等、常に真摯な態度で真意を把握する (傾聴)
2.無条件の肯定的配慮(Unconditional positive regard):善悪や好き嫌いと  いった評価をせず、肯定的な関心を持ちながら話を聴く(受容)
3.共感的理解(Empathic understanding):相手の立場になって話を聴く(共感)

この共感について
•人間関係 「わかり合える」 は誤解で、他人同士は 「わかり合える」 ことは無いそうです。
•わかり合えないことを前提とした上で、どのように患者と折り合いをつけるか。
•他者のことを完全に理解するのは不可能でも、人間の脳には元来、相手に共感しようとする機能が備わっている。
•ミラーニューロンとはその名(ミラー鏡)の通り、他者の行動を見て、自分が行動したかのように脳内で反応する神経細胞のことを言う。
•他人の心を推測する神経モジュールとしての機能がある 相手の行動を脳内で模倣することで、そのときに抱く感情を自分事として理解し、「相手がどう感じているか」を推測しようとする。簡単に言えば、過去の経験に基づき、自分の外の世界の仕組みを脳内でシミュレーションする神経機構のこと。
つまり、人との触れ合いとそれに伴う経験値、あるいは身につけた教養が豊かなほど、内部モデルのデータベースも豊富に蓄積されていく。それに伴い「心の理論」も成熟され、共感の幅が広がり、他者の感情を汲み取ることができる脳が育成されると言う事です。これによって、患者さんと話していて、患者さんの体験、感情に共感(自分が行動したかのように脳内で反応する)するのだそうです。

オンラインの弱点が見つかりました。対面で会話するとお互いに「共感」するのに対し、オンラインでの会話ではそれが起こらなかったという実験結果が報告されています。「週刊新潮」2022年4月28日号 掲載
コミュニケーションにおいて、大事な役割を果たすのは「視線」です。お互いに視線が合っているか否か、それはお互いに注意を向け、関心を持っていることを示す最も大きなサインです。これは「人間らしいコミュニケーション」ともいえます。動物だと、視線を合わせることは相手を「襲おうとしている」サインになりますが、人間だけは「自分に興味を持ってくれている」と善意に解釈する。
この人間らしいコミュニケーションの大事な要素である視線が、オンラインだとどうしてもずれてしまいます。画面上に映る相手の目を見ようとすれば、自分を撮っているカメラから視線を外すことになる。逆にカメラを見ると、相手の目は見られない。つまり視線は合わない。ゆえに脳は同期しないと言うことです。

和嶋対策 このことは以前から気になっていたのでカメラ目線で、なおかつ相手の顔を見られるようにカメラの位置をいろいろ変えてみています。結論は、相手が映っている画面と自分の目を結ぶ線上にカメラを位置付ける。カメラをどうやって固定するか、試行錯誤しています。
 
2022年05月30日 12:27

解釈モデル 腑に落ちない説明により不安が増して痛み過敏

慢性痛の患者さんが、なぜ、治療に満足できないのか、なぜ、多くの患者さんが中断、転院してしまうのか、なぜ治療でもめたりするのか。
理由の一つは、解釈モデル、つまり患者の自身の病気の理解、認知、把握と医者の診断、治療方針にズレがあるままに治療が行われるからだと思います。
1)「解釈モデルは患者さんの自動思考により作られる」、「歪んだ、不合理な思考により片寄った解釈モデルが作られる」
2)「患者さんの片寄った解釈モデルと医者の診断にズレがあると、不安が生ずる」
3)「不安亢進、痛みを強める気分による痛覚過敏=痛覚変調性疼痛」に至る過程が想定されます。
この過程でズレの修正ポイントを探して介入する、そして、患者と医者で病気の理解にズレのない状況で治療を行うことが望まれます。
既製の概念ではshared decision makingに類似した仮説です。
今後は臨床において、簡便に出来る方法を検討する必要があります。
keyword:解釈モデル、自動思考、歪んだ認知、不安、痛みを強める気分、痛覚変調性疼痛
2022年05月07日 15:13

解釈モデルの聞き方

解釈モデルの聞き方 
英国発診療モデルICE( Idea:自分の病気の解釈、Concerns病気への不安、Expectations 医者、治療への期待)のすすめ
 
慢性的な痛みを抱えている患者さんは、痛みについて自分なりにいろいろなことを考えています。この症状の原因はこの病気ではないかと不安に思っているうえに、診察、検査や治療について、このようなことをしてほしいと期待していることがあります。患者さんが考えていること、心配していること、期待している事が判らなければ、私は患者さんが抱えている痛みに近づくことさえできません。たとえ、「正しい診断をくだした」と私が自己満足を覚えたとしても、患者さんが不安感をぬぐえず、不満を抱えたまま自宅に戻ることになります。慢性の痛みの治療において最も有効な治療法は、患者さんに安心してもらうことだというのに、出来ていないと言う事です。
患者さんが自分の病気についてあれこれ考えていることを一般的に解釈モデルといいます。
慢性経過している場合、なかなか診断がつかない場合には特に患者さんが自身の病気について、自分のもつ病気に関する知識のなかであれこれ考えてしまいます。最近ではインターネントで沢山の情報を集めて、悪い病気を当てはめてしまう傾向があります。
患者さんが病気の当事者として1)自分の病気の原因をどうとらえ、2)なぜ発症したのか、3)どの程度重いのか、4)予後はどうなのか、5)どんな治療が必要なのか等、自身の病気について想定していることがあります。このように患者さんが自分の病気について思っていることを、自分の言葉で述べてもらい顕かにしてもらいます。
解釈モデルを上手く把握するためには、出来るだけ患者さんに自発的に多く語ってもらうようにします。そのためには、時間が許せば、初診患者には少なくとも5分間は自由に遮らないで来院の理由を語ってもらいます。

例えば、最近私のところを受診したAさんの話。歯が痛かったのでかかりつけ医を受診した、明らかな原因はないので経過を診るように言われた。数週間しても治らないのでもう一度受診したが特に痛みの原因になるような歯は無いとのことであった。その後の痛みは治らないので不安になって、別な歯科を受診した。1ヶ月以上も痛みが続いていると訴えたら、かみ合わせに小さな虫歯があるので削って詰めましょうと言われ、治療を受けた。一週間経っても痛みが治らないので、再度受診して、もう一度調べ直してもらった。「虫歯を削って詰めても痛みが治らないなら、神経を抜くしかないです」と言われて、痛みに耐えかねて、神経を抜いてもらった。しかし、その後も痛みは全く変わらず続いている。治療が上手く行かなかったのではないか、治療のミスがあったのではないか、隣の歯が原因だったのではないか、炎症が骨に拡がっているのではないか、腫瘍があるのではないかなど、いろいろ考えてしまう。インターネットで調べると原因不明の歯痛は非定型歯痛であると書かれていた、私の歯痛も非定型歯痛ではないかと心配になり、治療してくれるところを探して、ここに受診しました、という話しであった。

解釈モデルの捉え方にいろいろな方法がありますが、英国のGeneral Practitionerが通常用いるICE( Idea:自分の病気の解釈、Concerns:病気への不安、Expectations:医者、治療への期待)が患者さんの状況を把握するのが便利です。
患者さんは自分の歯痛が非定型歯痛ではないかと思っている、その他に痛みが治らない原因をいろいろ考えている、インターネットでは非定型歯痛は治り難い、薬を飲まなければならないと書かれていた、私もそうなのか不安である、ここは原因不明の歯痛の専門クリニックだと聞いて、ここにかかれば治るかも知れないと期待して受診した、ということでした。
患者さんの考えている事が大枠判りましたので痛みの性質についてもっと詳しく尋ねる為に構造化問診に進みましょう。
注:ICEは1984年オックスフォード大学社会心理学者デヴィッド・ペンドルトンと同僚のGPが最初に提案した診療モデルの基本です。
 
2022年04月06日 11:47

解釈モデルとは 聞きましょう、患者さんの考えていること

•患者さんが自らの病気(illness、医師のとらえる疾病 disease)を解釈する枠組みを、解釈モデル(説明モデル)と言います。  
Harvard 大学医学部の医療人類学と精神医学の教授であるKleinmann、Aが提唱した概念です。
•患者さんが病気の当事者として1)自分の病気の原因をどうとらえ、2)なぜ発症したのか、3)どの程度重いのか、4)予後はどうなのか、5)どんな治療が必要なのか等、自身の病気について想定していることがあります。
慢性経過している場合、なかなか診断がつかない場合には特に患者さんが自身の病気について、自分のもつ病気に関する知識のなかであれこれ考えてしまいます。そのように患者さんの自分の病気について思っていることを、自分の言葉で述べてもらい顕かにしてもらいます。これにより、患者と医者の病気認識のズレを少なくし、 患者さんが納得、満足のいく診療が進められます。
・2008年頃に歯科でもOSCEという、患者さんでの実習に必要な臨床実地能力があるかどうかの試験が始まり、このための教育も行われるようになりました。この教育の中に解釈モデルも含まれていますので、卒後15年以内の歯科医師は知っています。私はつい最近まで知りませんでした。北里大學の宮岡教授に教えてもらい、臨床に活用しています。
患者さんと私が、病気の理解が違うと話しがかみ合わなくなります。話していて異和感がある場合には患者さんの解釈モデルが私の考えが違っている訳です。最近は医療面接の段階で必ず確認しています。

臨床の場で、病気について患者さんとの食い違いを無くすために、このようなことをしています。こちらも覧てください。
解釈モデルと医療者が考えた病気のストーリーを摺り合わせる
https://wajima-ofp.com/blog_articles/1663289038.html
 
2021年10月31日 11:04