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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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解釈モデルを聞きましょう 痛み患者は不安がいっぱい

患者さんが自らの病気(illness)(医師のとらえる疾病 disease)を解釈する枠組みを、解釈モデル(説明モデル)といいます。解釈モデルは米国発祥で、英国では患者さんの自分の病気に関する解釈(Ideas)認知、とらわれ、心配(Concerns) 感情、不安、期待(Expectations)治療への期待の頭文字をとってICEと言います。概念は共通で、患者が病気の当事者として1)自分の病気の原因をどうとらえ、2)なぜ発症したのか、3)どの程度重いのか、4)予後はどうなのか、5)どんな治療が必要なのか等、の患者自身の病気の解釈です。一方、医療者側には当然のこととして診察の結果、診断がなされ、治療方針が立てられます。
私は患者さんの解釈モデルをホワイトボードに例えています。医療者は患者さんの解釈モデル、ホワイトボードには自分たちが考える事と余り相違の無いことが書かれていると思われていたのですが、実際にはかなり異なったことが書かれていることが多いのです。異なっていることが書かれているというのは、聞いてみて初めて判ることで、医療者に患者さんのホワイトボードを覗いてみようという気が無いと判りません。患者さんのホワイトボードに何が書かれているかを知るには、時間が許せば、初診患者には少なくとも5分間は自由に遮らないで来院の理由を語ってもらう事です。
患者さんは心配顔で、症状、経過を必死に訴えます、発症以来、何軒も掛かかり、あるところでは、痛みに見合うような異常は無い、原因不明といわれ、原因が無いはずがない、なぜ原因が判らないのだろうと不安になり、自分の痛みを判ってくれないことに怒りがこみ上げることもあるという。あるところでは治療を受けたが、全く改善しない、そして、改善しない理由をいろいろ話されて、さらに心配になる。最終的には抜歯を提案されたり、自分から望んだりして、抜歯したが全く改善しない、抜歯を提案されたことに怒りが湧き、抜歯を望んだことに後悔してしまう。
このような心理状況では冷静な判断は出来ず、痛みの感受性が高まり、不快感が増強されて、患者さんの行動を形成する神経心理学的変化が生じてしまいドクターショッピングを続けざるを得なくなってしまいます。
以前に治療により不安が高まることにより、自覚的な痛みが亢進してしまった例を紹介しています、インプラント上部構造操作時の痛みからうつ状態になってインプラント治療の継続が出来なくなってしまった例、医療ハイフによる筋・筋膜疼痛から歯痛が生じ、原因不明のまま歯科治療を受け不安感が増して痛みが続いている例、根管治療が奏功しないため再植、抜歯、他施設受診により不安が増して痛みが亢進してしまった例です。
その後も、同様に不安で痛み亢進の患者さんが多いです。根管治療を続けているが、詳しい丁寧な説明を聞く毎に悪い経過ばかり考えて不安が増して痛みも強まってしまう例。治療の際に、担当医が隣に座っている患者さんとトラブルになり、相当な言い合いをした後に自分のところに来た、患者さん本人も隣のトラブルを聞いてびっくり、不安感いっぱい、この先生こんなに怒るんだという驚きと共にこの先生怒ったままに自分の治療、その治療が非常に乱暴に感じられ、この治療でちゃんと治るのかという不安が生じて痛みが強くなってしまった。睡眠障害が生じて、1時間半毎に目が覚めてしまう状況が続いていると言う話でした。
痛み患者さんの解釈モデル、ホワイトボードにはいろいろなことが書かれていました。
このような状況ではどのような治療、対応が必要でしょうか、痛み診療は、痛み、機能障害、破局思考、不安、抑うつの改善を目的に、身体的治療枠組みだけではなく、精神、心理的治療枠組みで行われます。不安が高まっている患者さんには英語圏で良くでてくる単語がReassurance (reassureの意味は「安心させる」で、語源はre(もう一度)とassure(安心させる))です。単純には、繰り返し安心させることだと思います。これが不安が高まっている痛み患者さん治療の第一歩です。
 
2022年11月07日 11:39