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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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2023年10月の記事:ブログページ

11月18日アジア口腔顔面痛学会シンポジュウム

11月18日アジア口腔顔面痛学会で、2020年に米国科学アカデミーから発行されたTMD完全勧告レポート(TMDレポート)を取り上げて、シンポジュウムを企画しました。
企画の意図は壮大で、TMDレポー発行の目的を勝手に解釈し、今後のOFP発展の目的も設定して、それに向かって若手を向かわせようというものです。私には先頭に立って牽引するほどのエネルギーはありませんので、後方支援か後方から叱咤激励をしようと思っています。
シンポジュウムの発表者に以下の様なメールを送り、当日まで議論を重ね、準備していこうと思っています。

今後のOFPの目標の一つは、WHOが発行したICD-11に包含された慢性痛の一つである、chronic Headache and Orofacial painにしっかりと対応できるOrofacial pain専門医を育成していくことだと確信しています。
今回のシンポジュウムがその工程のスタートポイントになることを希望しています。
シンポジュウムの前半の企画意図は、NASEM TMDレポート11の改善勧告の学会の解説と発行の背景説明です。
NASEM TMDレポート発行の目的を推定するに、私は2つのポイントがあると思っています。
一つはselfLimitingではない慢性化するTMDへの対応体制を整えなければならない事です。
それには関連医科領域との連携が必須です。 関連医科領域との対等な連携にはOFP領域のレベルアップも必要です。

もう一つのポイントは、AADR2010statementで多くのTMDはselfLimitingであるので、まずPhase1として可逆的な治療から始めるべきである。
そして、症状改善したらPhase2の不可逆的治療をしないこととされた。
しかし、最近ではでこの原則がないがしろにされる傾向にあり、Phase1で症状が消失したら、次のステップとして全例Phase2治療を実施するという流れが正当化されてしまっている。
最近ではOFPの発展により、TMDの筋痛、関節痛の治療も進歩し、不可逆的治療は必要なくなっています。
シンポジュウムの後半では、各国のTMD研究、治療の現状と改善点を提示してもらい、慢性化TMD、OFPへの対応体系構築に向けての方策を皆さんで議論したいと思っています。
2023年10月29日 11:32

歯科にも慢性痛がある、誰が診るのか

歯科における痛み治療は、歯髄炎、歯周炎、歯冠周囲炎など細菌感染による急性痛の治療がほとんどです。一方、臨床を行っている多くの人は、原因不明の慢性的な痛みが存在することに気づいています。一般医科の状況をみても慢性痛で通院している人が多いことが判ります。例えば、整形外科です、かつては老人クラブと揶揄される状況で、腰痛、頸、肩こりを抱えた人が朝から整形外科に通院しています。この腰痛、頸、肩のこりは治るのでしょうか。かつて、整形外科では積極的に手術をしていた時代がありましたが、最近は骨の異常か脊柱管の神経が圧迫されていなければ手術の適応にはなりません。慢性痛に対して手術をしても効果が無いことが判って来たからです。従来、世界的に一般医科、歯科に関わらず、慢性痛という概念はなく、どんどん侵襲的な治療をすれば治るだろうという考えで治療を進めていました。
慢性痛で苦しんでいる患者さんは多く、慢性痛への対応の必要性が高まり、WHOが作る国際疾病分類(ICD11)に慢性痛が含まれる事になりました。
国際疾病分類第11版(ICD-11)について解説します。
参考引用文献:森脇 克行, 大下 恭子, 堤 保夫 ICD-11時代のペインクリニック―国際疼痛学会(IASP)慢性疼痛分類に学ぶ 日本ペインクリニック学会誌 28 巻 (2021) 6 号
2022年1月1日に国際疾病分類第11版(ICD-11)が発効されました。ICD-11には,はじめて慢性疼痛の分類コードが加えられる.この分類コードは国際疼痛学会(IASP)のタスクフォースによって開発された慢性疼痛の体系的な分類に基づいている.分類の特徴は慢性疼痛を3カ月以上持続または再発する痛みと定義した上で,慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛に分けたことである.
慢性二次性疼痛は診断で明らかにされている基礎疾患や組織障害による二次的な疼痛であるのに対して、慢性一次性疼痛には基礎疾患や組織障害が明らかでない線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群などの慢性疼痛症候群が含まれる.
慢性1次性疼痛
慢性一次性疼痛のカテゴリーに含まれる代表的な慢性疼痛症候群には,線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群(CRPS)1型がある.“非特異的”慢性腰痛や,過敏性腸症候群,膀胱痛症候群などのいわゆる“機能的”内臓性疼痛障害も慢性一次性疼痛に含まれる.これらの疼痛をもつ患者では,組織障害や炎症などによる二次的な侵害受容器の活性化や神経障害が認められないにもかかわらず,痛みに対する過敏性が存在する.従来,これらの慢性疼痛症候群に対して“非特異的疼痛”,“機能性疼痛”,“身体表現性疼痛”などの用語が用いられてきたが,IASPワーキンググループはこれらの曖昧な用語の使用を避け,慢性一次性疼痛という新しい疼痛カテゴリーを導入した.慢性一次性疼痛は,不安,怒り/欲求不満または気分の落ち込みなどの著しい感情的苦痛や,日常生活活動への障害や社会的役割への参加の減少などの機能障害を伴う,1つまたは複数の解剖学的領域の3カ月以上持続または再発する痛みと定義される.慢性一次性疼痛には生物学的,心理学的,社会的要因が複雑に絡み合っていると考えられている.
慢性一次性疼痛の一部はnociplastic painである可能性が示唆されている.Nociplastic painは新しい疼痛概念で,2016年にKosekらによって提案され,IASPの痛み用語として採用されている.その定義は「末梢侵害受容器の活性化を引き起こす実際のまたはその恐れのある組織損傷の明白な証拠,または痛みを引き起こす体性感覚系の疾患または病変の証拠がないにもかかわらず,侵害受容の変化によって生じる痛み」である.

2.2.4  慢性二次性頭痛および口腔顔面痛 
急性,慢性の頭痛と口腔顔面の疼痛は世界人口の4分の1以上の人々の生活の質を著しく低下させているが,その診療は医科と歯科の複数の領域が担っている.ICD-11分類のために,IASPの専門グループ,国際頭痛学会(HIS),歯科領域学会などの関連学会とWHOが協力して慢性頭痛および口腔顔面痛の分類が行われた.この部位の慢性疼痛の時間的な診断基準は「3カ月間に少なくとも50%の日に発生し1日2時間以上持続する頭痛または口腔顔面痛」である.この領域の慢性疼痛も一次性と二次性の疼痛に分けられる.一次性の痛みには,上述(2.1.2.3項)したように慢性片頭痛,慢性緊張型頭痛や痛みを伴う顎関節症,非定型顔面痛などが含まれる.これに対して,慢性二次性頭痛または口腔顔面痛は,痛みを生じる局所性または全身性疾患,外傷,感染症などの科学的に因果関係が明白な原因が存在する場合の痛みで痛みの原因によって11に細分類される.
口腔顔面痛領域の慢性痛は誰が対応するべきか
慢性一次性、二次性頭痛または口腔顔面痛の中で口腔顔面痛への対応は口腔顔面痛専門医が担う事になるであろう。従来から、歯や歯周組織の急性痛は一般歯科あるいは歯内療法科、歯周病科、あるいは口腔外科で対応してきたが、慢性痛、特に慢性一次性疼痛への対応は急性痛への対応と全く異なるものである。局所の感染状況、炎症症状に注目して、その除去、改善を目的に治療してきた急性痛治療に対して、慢性痛治療は大きく異なって、局所症状に対応するだけではなく、Biopshychosocialといった考え方で、患者に全人的対応をすることが求められる。このような対応が出来るのは口腔顔面痛専門医のみであるし、口腔顔面痛専門医知識、治療法の更なる向上が望まれる。


 

2023年10月09日 16:09

TMDの改善勧告レポート2

NASEM Study Reportと言われるTMDの改善勧告レポートには11個の改善勧告が挙げられている。

1-4)最初の4つの勧告は、国家研究コンソーシアムの設立、基礎研究とトランスレーショナル研究、公衆衛生研究、疾病負担の優先順位の設定、臨床研究の強化に焦点を当てている。4つの優先事項すべてが、患者中心のケアを改善するための基礎となる。これを受けて, NIHと国立歯科・頭蓋顔面研究所 (NIDCR) は, NASEM報告書と勧告をレビューし,この分野の研究努力をより良く支援するNIHの戦略を開発するために,顎関節症疾患多重協議ワーキンググループを設立した。 このグループの作業は進行中です。
MDEpiNet 患者主導円卓会議は、NASEM報告書と一致する研究計画を策定した。患者主導のイニシアティブで, TMJ協会(TMJA)のメンバーは顎関節 (TMJ) 研究のための追加資金を求めている。
 
5.6)勧告事項5および6は、疾患リスク評価および層別化の改善、診断、ならびに臨床診療ガイドラインおよびケアの測定基準の普及を通じて、TMD患者に対するケアの質を改善することを目的としている。
FDAおよびMDEpiNet Initiativeの現在の焦点は、Coordinated Registry Network (CRN) です。このネットワークは、連携した複数の登録データから患者の健康状態とケアに関する現実世界のエビデンスデータを収集し、医療に関する意思決定や承認された機器やその他の治療法の市販後モニタリングに使用します。TMJインプラントを受けた患者のニーズを促進するものとして、TMJAはTMJ患者主導円卓会議 (RT) を設立しました。
これは、連邦政府、科学者、臨床医、歯科医、アドボケート (支援者) 、製造業者などによる、患者を中心とした官民初の共同研究です。Coordinated Registry Network (CRN)の一部となるTMDの患者主導登録は、様々なTMD治療のリスク評価を決定するために使用される大規模なデータセットを提供し、TMD障害に苦しむ患者のケアのための臨床ガイドラインを確立することによって、勧告事項5および6に関わっている。
 
7)勧告7では、TMDの予防的治療と評価、治療、管理へのアクセスの改善に焦点が当てられている。これらの勧告は、他の勧告の結果が出るまで、より長期的な方法で対処される。
 
8-10)勧告8-10では、TMD患者の治療の改善が中心となっており、 「TMDおよび口腔顔面疼痛治療の中核拠点施設」 (勧告8) 、専門的学校教育の改善 (勧告9) 、医療提供者に対する専門的生涯教育の拡大 (勧告10) を提案している。歯科教育を改善するために, TMJAと米国口腔顔面疼痛学会 (AAOP) は, TMJが歯科大学教育カリキュラムに含まれなければならないと歯科認定委員会 (CODA) に勧告した。この勧告は承認され、2022年に実施される予定であり、その結果、TMJAとAAOPはTMDの博士課程前期課程のカリキュラム概要を作成している。
これとは別に, TMJAはTMDケアの専門家間モデルに関するワーキンググループを設立した。このグループは、医学、歯学、看護、理学療法、心理カウンセリング、およびその他の関連する医療分野にわたる専門家を含むTMDケアの新しい集学的モデルを開発する方法を模索しています。
 
11)勧告11は、TMDについての患者教育と認知、および疾患の悪評を減らすことに取り組んでいる。NASEMは、TMJAおよびTMJ患者主導円卓会議のメンバーが、米国医師会 (AMA) 教育グループ、米国歯科教育協会 (ADEA) 、およびNIDCRコミュニケーション健康教育室と協力して、NASEM報告書に要約されているように、この障害に関する現在の理解に基づいてTMDの教材を開発することを提言している。
これらの資料には、質の高い治療の受診方法、不評を減らすためにTMDの管理とケアの多くの側面を取り上げるパンフレット、ビデオ、バーチャル教育ワークショップが含まれます。
 
上述の行動は、TMDの研究、治療、教育に向けて切望されていたパラダイムシフトを実施するための主要な取り組みの第一歩にすぎない。
NASEM報告書とその勧告は, TMDの21世紀の科学に基づく研究と治療を前進させるための生物医学研究と医療コミュニティへの直接の呼びかけである。
 
この新たな研究結果は、TMDに関して、現在の歯、咬合に焦点を当てた治療は、より広範な医学界の専門家を巻き込んだ集学的で専門家間のチームアプローチに向けて調整されなければならないことを強く示唆している。治療は患者中心かつエビデンスに基づくものでなければならない、また、必要に応じて、インプラント装置の使用に際しては、市販前の厳正な評価と市販後調査を実施すること。
疾患治療の新しいモデルおよび新しい研究仮説は,これらの状態に対する科学的および臨床的アプローチに革命を起こすために絶対に必要である。TMDポートフォリオに現在含まれていない研究の専門知識は、専門家間ケア、臨床ガイドライン、疾患および治療のリスク評価の基礎となる新たな情報を明らかにするために不可欠である。これらの新しい概念を備えた医療提供者の集学的チームは, TMD患者の健康と生活を改善できる専門的で,患者中心で,思いやりのある方法で, TMDを診断し,治療し,管理することができる。
 
 
2023年10月09日 16:01

TMDの改善勧告レポート 1

来る11月開催される日本口腔顔面痛学会と共にAAOT(Asian academy of Orofacial Pain and TMDが開催される。
小生はその中でNASEM Study Reportと言われるTMDの改善勧告レポートに関するシンポジュウムの企画運営を依頼された。
企画者のねらいを含めて、TMDの改善勧告レポートの概要を紹介する。

Consensus Study Report on TMD by the National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM) -Recommendations for TMD research and treatment-
 TMDのトピックスとして、2020年3月、米国学術機関の統合団体である「全米アカデミーズ」を構成する全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM))から顎関節症(TMD)の研究、治療等全ての面における改善勧告レポートが刊行されたことが挙げられる。本レポートは米国のみならず世界中の今後のTMDの教育、研究、臨床に大きく影響しパラダイムシフトを引き起こす可能性のある。
*NASEM Study Report とは
2020年3月、「全米アカデミーズ」を構成する全米科学アカデミー、全米技術アカデミー、米国医学研究所(The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (NASEM))が現状の顎関節症(TMD)に関する生物医学研究、専門教育/訓練、および患者ケアのあらゆる分野において完全に改善しなければならないとする勧告レポート(NASEM Study Report)を発刊した。
本レポートは、TMDの治療の改善と新たな研究方針に取り組むために「顎関節疾患:研究とケアのための優先事項 (2020)」委員会によって作成されものである。最近の研究によるとTMDは複雑な多系統障害であり、TMD研究と治療は患者中心の、関連専門領域の集学的アプローチの必要性を指摘している。そして、従来の歯科中心で行われていた研究と治療は、新たな研究により得られた科学的知見と整合するように近代化されなければならないと勧告している。
本レポートは、TMDの研究、治療、訓練、教育に関する11個の改善点を含んでいて、各分野における現状の問題点と改善機会に対処するための短期的、中長期的な提言をしている。全般として、現在の歯、咬合に焦点を当てた機械論的、技術論的なTMD治療からBiopshychosocialに基づいた、より広範な医学関連専門領域の集学的チームアプローチに向けて調整されなければならないことを強く示唆している。これらの改善は、TMDの研究、治療、教育に向けて切望されていたパラダイムシフトを実施するための主要な取り組みの第一歩であり、本リポートは、TMDの21世紀の科学に基づく研究と治療を前進させるための生物医学研究と医療社会への直接の呼びかけである。
*本レポート発行の背景
歴史的に、米国において、これまでにTMDの研究臨床の改善のために声明(statement)が数回出されていて、現在のTMDに大きな影響を与えている。
1996年4月にNIH主催によりTMDの治療に関する世界初のテクノロジーアセスメントが開催され、声明が出された。
2010 年3月に米国歯科研究学会(American Academyof Dental Research: AADR)がTMD の正しい理解の普及を図るため,TMD基本声明を発表した。この声明で強調されていたのは以下の3項目であった。1)診断は診断機器でなく、問診による病歴聴取と身体的な検査によって行う、画像検査は必要に応じて行う。 2)治療については、「正当化できる特定の証拠がないかぎりは,顎関節症患者の治療の第一選択は,保存的で可逆的かつ証拠に基づく治療法とすることが強く薦められる」 3)診断と治療は、Biopshychosocialを基に行う。 
これらのステートメントはその後10年あまり経て、理論的にはTMD治療の基本として理解されているが、他方、一般臨床の場では形骸化されてしまい、相変わらず、技術論的、機械論的TMD治療が根強く行われているようである。例えば、免罪符的に最初にPhase1治療を行えすれば、続くPhase2治療は不可逆的治療であっても許容されると考えている臨床家が多い様である。
このような好ましくない状況が依然として続いているために、更なる改善を目的に本レポートが発行された。
 
2023年10月09日 15:48