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口腔顔面痛(原因不明の歯痛、顔の痛み、顎関節症)に慶應義塾大学での永年の経験と米国口腔顔面痛専門医資格を持つ和嶋浩一が対応します

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中枢性関与が強い筋・筋膜疼痛の治療 トリプタノール

中枢性関与が強くなっている筋・筋膜疼痛の治療
筋・筋膜疼痛の治療において、トリガーポイントインジェクションよりもトリガーポイントプレッシャーリリースが重要である事を書きました。
本稿では、私が行っている標準的な筋・筋膜疼痛法を示し、それに反応しない場合に何を考えるかを解説します。考えられることは、1)セルフケアが不十分、2)トリガーポイントプレッシャーリリースを加えれば改善する、3)末梢性から中枢性の状況になっている、の3つの状況です。
他の原稿と重複しますがまず基本的な事を書きます
初診時セルフケア指導:負荷軽減法:日常生活で肩が持ち上がっていないか、かみしめていないか、防止策として、気がついたら肩を上げ下げ、 舌で口蓋を舐める、 患側で咀嚼しない 
セルフケアとしての積極的治療:左右頚部四カ所(後頸部筋群と胸鎖乳突筋)、 開口ストレッチアシストブロックを用いた開口ストレッチ、各々30秒/回、3回朝昼晩/日、これを毎日実施する。
上記のセルフケア指導だけで2-3週で初期の痛みがかなり改善します。改善した場合には更なるオフイス治療は加えずに、セルフケアの補強のみを続けて行くことが多いです。
セルフケアが不十分の場合にはセルフケアの重要性と有効性を説明して、やってもらうように指導します。また、セルフケアを熱心続けているがなかなか痛みが改善しない場合で、末梢のトリガーポイントの原因が大きいと判断された場合にはまず、超音波を併用したトリガーポイントプレッシャーリリースを行います。これは他稿で詳しく書きました。
一方、患部の筋全体、あるいは筋の範囲を超えて圧痛閾値が下がって、過敏になっている場合には末梢性に中枢性が加わっていると考えて、セルフケアのストレッチの程度を下げて、中枢に対する治療をします。
ここで疑問は「患部の筋全体、あるいは筋の範囲を超えて圧痛閾値が下がって、過敏になっている」、このような状況は痛みの発生メカニズムではどの分類になるのか、1)侵害受容性疼痛、2)神経障害性疼痛、3)痛覚変調性疼痛のどれに該当するのか。限りなく、3)痛覚変調性疼痛に近いと思っていて、痛覚変調性疼痛の診断基準に照らし合わせると三ヶ月以上を満たしていれば、痛覚過敏症状を満たしているのでpossible of nociplastic pain(痛覚変調性疼痛の可能性あり)と診断されます。
この場合の私の治療法はアミトリプチリン(トリプタノール)の投与です。トリプタノールの投与はまず各患者の至適用量を探すことから始めます、最少用量から始めて少量ずつ漸増し、眠気、口渇、便秘などの即時発現する作用を目当てに至適用量を決めます。至適用量が決まったら、その用量で1-2ヶ月投与を継続します。頻脈や心電図でQT短縮などの以上が生ずる事があるので開始前、30mg、50mg、あるいは至適用量投与の段階で心電図を採ることが必須です。
至適用量で2-4週間経過したところで、緩除に効果が発現してきます。痛みを止めるためですが、NSAIDs、アセトアミノフェン、テグレトールのような即時効果は期待出来ません。
 
2023年05月29日 19:08

超音波併用のトリガーポイントプレッシャーリリース

超音波併用のトリガーポイントプレッシャーリリース
筋・筋膜疼痛の治療というと皆さんトリガーポイント注射が最も強力な治療法と思っているようですが、全体的に緊張のとれていない筋のトリガーポイントに注射しても期待するほどの効果が得られません。
私が行っている標準的な筋・筋膜疼痛法を示します。
初診時セルフケア指導:負荷軽減法:日常生活で肩が持ち上がっていないか、かみしめていないか、防止策として、気がついたら肩を上げ下げ、 舌で口蓋を舐める、 患側で咀嚼しない 
セルフケアとしての積極的治療:左右頚部四カ所(後頸部筋群と胸鎖乳突筋)、 開口ストレッチアシストブロックを用いた開口ストレッチ、各々30秒/回、3回朝昼晩/日、これを毎日実施する。
上記のセルフケア指導だけで2-3週で初期の痛みがかなり改善します。改善した場合には更なるオフイス治療は加えずに、セルフケアの補強のみを続けて行くことがあります。
一方、セルフケアを熱心続けているがなかなか痛みが改善しない場合もあります。このような場合でまだ末梢のトリガーポイントの原因が大きいと判断された場合にはまず、超音波を併用したトリガーポイントプレッシャーリリースを行います。
  1. 超音波照射により筋肉の深部温度が3-4度上がります。これによりトリガーポイントを構成しているコラーゲンが軟化します、と言ってもまだまだ固まり硬結、索状硬結の状態です。
  2. 深部温度が上がった状況で硬結部を1kg程度の圧でゆっくり起始部から停止部に向かい、停止部から起始部に向かって一方向に筋を延ばすように指を2-3cm程度、滑らしてリリースします(マッサージの様にコリコリではありません)。ゆっくり滑らすことがポイントです、硬結(英語ではbarrier垣根、進行を妨げる障害物)を指先に感じながらゆっくり移動させる、途中でコリンと指の下をくぐり抜けて行くと言った感じです。これだけで硬結全体に柔らかくなりがなくなることもあります。
  3. 前記のリリースを行ってもまだ硬結が残っている場合、もっとトリガーポイントに圧力をかけます。これがトリガーポイントプレッシャーリリースです。指先を移動させて硬結を感じたら、指の下をくぐり抜け行かないように次第に圧力を高め、指先の移動を止めて10-60秒間、2-3kg加圧します。この操作を数回繰り返します、深部温度が下がってきたら最後超音波照射を行った後にトリガーポイントプレッシャーリリースを繰り返します。
 
筋触診、トリガーポイントプレッシャーリリースにはある程度の指、腕の力が必要です。筋触診は1kg程度で行う様に規定されていますが、余裕を持って加圧するには1kg以上に加圧できる必要があります。また、トリガーポイントを加圧して関連痛を誘発するには1kg以上が必要です。今回述べているトリガーポイントプレッシャーリリースには1kg以上の加圧力が必要です。要は筋触診、筋膜リリースにはある程度の腕力が必要だということです。
 
2023年05月29日 14:33

口腔顔面痛の診断には筋触診が大事です-2

咬筋トリガーポイント
口腔顔面痛の診断には筋触診が大事です-2
 
先日来院した患者さんを紹介します。
ある日突然、食事中に下顎右側大臼歯部にビキッと瞬間的に激痛が生ずる様になった。主治医A医院を受診し、検査を受けたがう蝕、歯の破折、歯周病など痛みの原因になるものは見つからなかった。かみ合わせがきついからだろうということで咬合調整がされたが改善しなかった。その後、右側で硬いものをかみ締めた時に痛みが出ることが判り、B医院に転院しCTを撮り、いろいろ調べたが異常は見つからず、歯ぎしりが強いということでマウスピースを使う事になった。C医院を受診したところ咬筋へのボトックス注射が行われ、咬む力が弱くなった感じがあったが痛みに変化はなかった。D大学病院を受診し、この歯が原因だろうということで下顎右側6の抜髄・根充が行われ、現在暫間的にレジンで埋めてある。食事の際に、軟らかいアサリを強く咬んだ時に砂が混じっていて、激痛が生じた。痛みは三日間続き、その間、冷過敏も感じられた。
最初に痛みが出てから3年経過、いろいろな治療を受けたが症状は全く変わっていない。

解釈モデル(患者さんが自分の痛みをどう思っているか)と認知行動療法的評価
  1. 歯ぎしり、くいしばりが原因なのか(認知)
  2. 無駄に神経抜かれて悲しい(感情)
  3. こんなに痛いのに、なぜ誰も治せないのか(感情)
  4. 何カ所も行ったのにそれぞれ言うことが違う(行動、感情)
  5. 来年には米国転勤が予定されている、その前に治したい(感情)
 
診査結果
  1. 右側上下顎、打診痛なし
  2. 下顎右側大臼歯は無髄歯
  3. 歯周疾患なし   この段階で歯原性は否定的
  4. 感覚検査 下顎右側歯肉にParesthesia 他領域は異常なし
  5. トリガーゾーンなし、三叉神経痛否定的
  6. 顎関節診査: 左右の顎関節に無痛性クリック、下顎頭牽引圧迫誘発テスト:痛みなし 顎関節痛は否定的
  7. 筋触診:左右咬筋肥大、右側咬筋の中央部は萎縮傾向であるが下部(停止部)に索状硬結多数あって、強い圧痛、かみしめ時にその部分が盛り上がる。歯への関連痛はなし。
 
診断:右側咬筋局所筋痛
治療:セルフケア指導、前歯型スプリント、右側咬筋索状硬結部に超音波照射、トリガーポイントプレッシャーリリースによって、かみしめ時の痛み消失。
本症例はかみしめ時の激痛という歯冠破折やう蝕などの歯原性が疑われるが、A、B、C医院では歯原性を否定して不可逆的処置はしていなかった。それに反して、D大学では不可逆的な抜髄処置をしている、当然のこととして効果は無かった。かみしめたら歯に激痛が出るならば破折かう蝕だろうという代表的バイアスによる診断エラーということである。
C医院では患側咬筋のボトックスの注射をしているが効果は得られなかった、なぜか。ボトックス注射の一義的な目的は筋収縮を阻害して筋萎縮させて筋肥大を改善することである。そのため標準的な咬筋への注射部位は硬結部を狙うのではなく、筋の中央部である。筋萎縮の結果、二次的に筋痛が改善する可能性はあるが、ボトックス注射により必ずしも筋痛が改善する訳ではない。筋・筋膜疼痛へのトリガーポイントインジェクションでは注射液の種類にかかわらず、生食水でも確実にトリガーポイントを狙って注射をすることにより効果が得られる。ボトックス注射により咬筋は全体的に萎縮しているが、下部(起始部)にはしっかり硬結が残って、収縮時に強い痛みが続いているという訳です。
本症例での一番の問題点は、これまで診察した全ての歯科医師が筋触診をしっかりやっていなかったことです。
筋触診がしっかり出来ないと口腔顔面痛診断に大きな穴が開いて仕舞います。
 
2023年05月13日 18:00

ハワイからなぜ口腔顔面痛の患者さんが私のところに来たのか

筋痛治療
ハワイからなぜ口腔顔面痛の患者さんが私のところに来たのか
 
先日ハワイから口腔顔面痛患者さんが受診したことを書きました。私にとっての疑問はなぜこの患者さんが私を指名して受診したのかでした。
患者さんは几帳面な方で、予診票にここ数年の間に受診した医療機関の名前を正確記載してありました。そして、最近に一般歯科から紹介されて受診したENDO専門医のところで、歯原性では無いからENDO治療は適応で無いこと、非歯原性歯痛、口腔顔面痛の診療には米国本土か日本に行くことを勧められた。また、非歯原性歯痛に関するパンフレットを渡されて、それに元赤坂デンタルクリニックが書かれていたと言うことであった。
ENDO専門医の名前はNozomu Yamauchi先生でした、インターネントで検索したところ、University of North Carolina at Chapel Hill 2007卒業、2010年ENDOレジデント終了であることが判りました。University of North Carolina at Chapel HillはTMD、口腔顔面痛の世界では知らない人のいない故William Maixnerが在籍した大学です。さらに私にとってはもう一つのことで非常になじみ深い大学でした。神奈川歯科大学の同級生で沖縄宮古島出身の友利優一君の幼ななじみで大学時代にアパートで会った事のある医科歯科大学出身の山内三男先生が教授として在籍している大学です。そして、大学時代にクラブの先輩であった故木下静子さんが山内先生と結婚されて、同大学のENDO教室に在籍されていました。Orofacial PainクリニックがENDO教室に属していたので、メールをやりとりして様子をうかがったこともありました。
Nozomu Yamauchi先生がUniversity of North Carolina at Chapel Hill 出身だということが判って、絶対、山内三男先生と木下さんの子供さんだろうと思いました。次に、なぜ私のことを知ったのかの疑問は残りました。
この話をまず、鹿児島にいる友利君に話したところ、山内先生の子供さんがハワイで開業している事を知っていました。さらに、この話を口腔顔面痛オンラインセミナーで紹介したところ、参加していた宮本諭先生(現:慶應義塾大学医学部 共同利用研究室・細胞組織学研究室在籍)が骨代謝の研究でUniversity of North Carolina at Chapel Hillに留学していて、家族ぐるみの付き合いがあり、次男のNozomu君がハワイで開業していることを知っていました。
そこで、患者さんの診察結果報告を兼ねてNozomu Yamauchi先生にメールを送りました。 A small world for sure.という返事があり、私がご両親と交流があった事を知ってびっくりしていました。数年前にハワイから来た患者さんがいて、筋筋膜性歯痛だったので非歯原性歯痛、筋筋膜性歯痛の解説パンフレットを渡しました。偶然にもその患者さんもNozomu Yamauchi先生を受診していたようで、それ以来、日本人の非歯原性歯痛の患者さんが受診した際にはそのパンフレットを活用して説明しているとのことでした。
私の作った非歯原性歯痛のパンフレットがハワイで活用されていることを知って、非常にうれしかったです、さらに、その先生が知り合いの息子さんだったという偶然にもびっくりでした。
 
2023年05月05日 15:12

口腔顔面痛の診断には筋触診が大事です

口腔顔面痛の診断には筋触診が大事です

口腔顔面痛の最も多い原因は咀嚼筋と頸部の筋痛です。咀嚼筋は本来の咀嚼時に加えて、日中のかみしめに睡眠中のくいしばりなどで筋に硬結が生じて、咀嚼時痛が生じたり、自発痛が生じたりする事もあります。

頸部の筋は日中の身体活動中、頭を支えるためにほぼ常に緊張しています。さらに、長時間、前屈みになったり、横を向いた姿勢をとったりするとそれぞれの機能筋に余計な緊張が強いることになります。さらに、咀嚼筋と協働運動して咀嚼、かみしめ、くいしばり時に緊張するので過剰な負荷となり、咀嚼筋の痛みとともに、肩こり、クビのコリが一緒に生ずることが多いです。

ただの筋痛(局所筋痛)が筋・筋膜疼痛になると関連痛としてその筋が痛いのではなく歯痛や顔面痛が生ずることがあります。また、頸部の筋の筋・筋膜疼痛は緊張型頭痛や顔面痛の原因になります。慢性化すればするほど、筋そのものの病態から中枢性の要因に移行してしまい、治療も難しくなります。

筋触診について

筋痛診査のカギは筋触診です。筋触診で筋の肥大、硬結、圧痛の有無を診査します、ここで見逃されると筋痛が鑑別診断から抜け落ちてしまい、原因不明の痛みになってしまいます。当院に来院される患者さんのなかにはいくつかの施設で治療を受けているが一向に改善しないと言う方が多いです、そして、その方々の多くは筋触診が適切で無いために筋痛が見逃されています。単純には筋触診の圧力が弱い、硬結が探せていない等の理由です。長年、筋触診の指導をしてきましたが、手に手を添えて患者さんの筋を触診する、まさにHANDsOnが一番です。ビデオ等で供覧しても圧力は伝わらないために、正確には伝わりません。

多くの方々は肩こり、クビの筋痛を持っていて、筋・筋膜疼痛になっている人も少なくありません。自分で頸部の筋を入念に1kg程度の圧力で触診するとウッとする様な痛い部分が触れます。もう一度、その部分を1-2本の指先で弱い力で触ってみましょう、ポイント状に痛い部分があります、その部分に指先を置いて、ゆっくり小さい円を描くように力を強めてみましょう。痛みがボワーンと拡がり、離れた部分に鈍い痛みが感じられます。これが関連痛です。是非自己触診をしてみてください。これで何時もの痛みが誘発再現されたら、その痛みは圧している部分(トリガーポイント)の筋・筋膜疼痛によるものということになります。

2023年04月29日 17:05

特発性三叉神経痛の治療の限界

トリガーゾーンへの些細な刺激により誘発される激烈な発作痛を特徴とする三叉神経痛は原因毎に3つに分類されます。
昔は脳腫瘍などの原因が明らかなものが症候性(真性)、原因が不明のものが特発性(化性)と言われていましたが、現在は血管圧迫により神経に変形が生じている(neuro-vascular contact with morphological changes)典型的三叉神経痛(classical Trigeminal neuralgia)、脳腫瘍などのしげきによる二次性三叉神経痛と原因の不明な特発性三叉神経痛に分類されます。
典型的三叉神経痛、特発性三叉神経痛の治療ではカルバマゼピンなどの薬物療法が第一選択で、多くの症例は薬物療法でコントロール出来ます。
しかし、薬物療法で薬疹がでたり、肝機能障害などの副作用により薬物療法が継続出来な場合や代謝酵素の自己誘導により必要服用量の増加による副作用の発現等によって、副作用対策、併用薬の選択などで困窮することも多いです。
典型的三叉神経痛ではこのように薬物療法抵抗性の場合、微小血管減圧術microvascular decompression(MVDが適応となります。神の手を持つ脳外科医としてマスコミで取り上げられる福島孝徳先生の鍵穴手術がよく知られています。現在この手術は日本全国の主要な都市に専門にやっている脳外科医がいて、有効性について多くのエビデンスが示されています。
二次性三叉神経痛の脳腫瘍、髄膜腫等の摘出は脳外科医の得意とするところで手術により解決出来ます。ところが、特発性三叉神経痛では薬物療法で長期コントロール出来れば良いのですが、副作用等で薬物療法が有効でなくなった場合が大変です。特発性三叉神経痛においても典型的三叉神経痛に対する微小血管減圧術の様に根本的治療法の開発が望まれます。このような状況で新規の治療法としてInternal neurolysis (別名NerveCombing(文字通り神経に櫛かけるように、神経根の部分で神経取り巻く外表の膜に割線を入れるという術式)が有効であるという報告があります。しかし、まだ、論文は多くはなく、その術後経過は不明です。
Internal neurolysisを含めた神経遮断術neuroablative proceduresの中で最も侵襲の少ないのが定位放射線手術Gamma knife surgeryです。しかし、痛みの軽減は最大6ヶ月遅れることがあり、感覚脱失が頻繁に生ずると言われています。三叉神経internal neurolysisは長期的には非常に有効であるが、合併症が多い(感覚鈍麻96%、有痛性感覚脱失3.9%)ことが示されています。経皮的神経切除術(高周波熱凝固法、バルーン圧迫法、グリセロール根治療法)では、効果が平均3~4年間しか続かないために繰り返し行うことが一般的であり、合併症の発生率は高く、特に繰り返し行う場合は注意が必要といわれます。
神経遮断術neuroablative proceduresの中で、どれかの治療法が他の治療法より優れているという根拠はない。
 
血管圧迫がない、血管圧迫があっても神経に変形が生じていないこと診断基準である特発性三叉神経痛にも苦し紛れのように微小血管減圧術(MVD)が行われることがあるようで、いくらか有効であり、定位放射線手術Gamma knife surgeryよりも有効である可能性があるという論文があります。
三叉神経痛の治療法の開発が進まないのは、三叉神経痛の動物モデルが出来ないからで、多くの人達が研究したようですが実現していません。人間でしかテストが出来ないので時間が掛かりますね。学生時代から使われていたカルバマゼピン以上に有効性の高い薬はなく、新しい薬の開発が待たれます。
つい最近も、片頭痛の予防薬として使われる新規に開発された抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin gene-related peptide:CGRP)抗体と抗CGRP受容体抗体のなかで抗CGRP受容体抗体のエレヌマブが三叉神経痛に有効であるという報告があり、期待しましたが100人規模のテストで無効が証明されてしまいました。残念
 
2023年04月01日 14:34

ChatGPTは知識を高める しかし、生き残るには足りない

先日のニュースで今年の医師国家試験をChatGPTに解かせたら正解率50%だっとでていて、まだまだかなと思っていたら、米国の医師国家試験ではほぼ100%の正解率だっということです。まだ、日本語の医学データ量が少ないからで、時間とともに賢くなり、100%正解も遠くないでしょう。いつも、このような革新的な発展の際に、歯科関連の情報もちゃんと記録され、取り残されないかどうかの問題は残ります。
ChatGPTが世に出たときに、大学の先生方は学生が課題レポートや小論文をこのチャットGPTを使って書くというか、書いてもらうのではないかという心配が生まれました。これまでもCopy&Pasteを見分けるソフトがあったり、レポートはprintではなく、自筆を強要したりして不正行為の防止策を講じてきましたが、それを遥か超える事態になっているのです。しかし、このテクノロジーの進化を利用しない選択はありません。
ニューズウィーク日本版2023年03月25日(土)18時25分に、ChatGPTは大学教育のレベルを間違いなく高める――「米国最高の教授」がそう言い切るこれだけの理由、というコラムがあります。
テクノロジーの進化に伴い、人間らしい倫理観を持つリーダーのニーズが高まっている。機械と人間が競争する労働市場で、私たちは人間ならではの必要不可欠なスキルを伸ばしていく必要がある。そして偽情報が氾濫する今、偽物と本物を見分ける知性を身に付ける必要もある。大学は所属教員に対し、不安定で複雑で曖昧な世界での競争に必要な特性を学生に身に付けさせるための授業設計を促すようになるはずだ。チャットGPTは、質の低い質問をすると質の低い答えしか返ってこないことが明らかになりつつある。
私は学生たちに、将来圧倒的なパフォーマンスを上げるためには「質問学」の博士号が必要だと繰り返し強調している。学生はAIに質の高い質問を投げかけ、今の自分の知識以上のことを学ぼうとする意欲が必要だ。
より高度な質問をすれば、それだけ大きな成果が手に入る。もしチャットGPTが知的作業に不可欠なツールになるのであれば、教育者は優れた「質問者」の育成に力を入れざるを得ない。それこそ将来の世界で必要とされるスキルだ。
英語の「競争する(compete)」の語源は、「高める」という意味のラテン語だ。チャットGPTは登場の瞬間から、AIと人間の競争は避けて通れないことを明らかにした。だが同時に、大学教育のレベルを間違いなく高めるだろう。教員たちよ、パニックにならず、賢くなろう、と書かれています。

今や日本においても、あらゆる産業でDXが叫ばれています。さらにDXが広まったあとに生き残れる職種と廃れる職種は何だ等という記事もよく見かけます。医療においては、画像診断、病理診断は完全にAIに取って代わられるだろう、これらの教室に残ろうとする人は激減でしょう。私の専門の臨床診断推論も患者さんがタブレットで問診票に答え、ルーチンの臨床検査を受けると、追加検査が指示され、その結果、あなたの痛みはこれだろうと示される時が遠くないと思います。私の世代は何とか今のままで名人芸的に逃げ切れると思いますが、次の世代はそうは行きません。それではどのような仕事が必要とされていくのか、ちゃんとコミュニケーションのとれる医者、双方向で話の出来る医者でしょうと同僚と雑談したら、目も合わせず、相手を気遣う意識も無い医者に言われるよりも、ロボットに淡々と言われた方がいいかもと反論されました。言い換えます、人間らしい倫理観を持ち、スピリッチャルに基づいた患者とのコミュニケーションの出来る医療者しか生き残れなくなるでしょう。
医療におけるマニュアルはデータを採るために、皆さんが決まったことをする様に作られているそうで、その最たるモノが米国精神医学会が作るDSMはDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの略で診断と統計のためのマニュアルなんです。マニュアルに従って行った医療の結果、有効性の認められたものを適宜いいとこ取りして、患者に応じて活用するのが臨床だという話があります。臨床診断推論、治療法選択推論はAIに任せて、コミュニケーション能力を高める研修をするのが今後必須になるでしょう。
2023年03月27日 14:13

毎晩、ひとり反省会  私と患者さんの合い言葉

毎晩、ひとり反省会 
筋痛はストレス、不安、怒りなどの心理精神的要因が関わっていることが多いと言われています。確かに私の患者さんのほとんどがそのように思えます。ところが、元気はつらつ、ニコニコいい顔、何でも笑い飛ばしている、このような人達が筋痛がひどい、起床時にかみ締めている感じがする、といった事を訴えます。そこで、睡眠障害について、寝付きはどうか、熟睡出来るか、途中覚醒は何回、早朝覚醒はないかなどと聞いていくと、どれも該当することが多いです。こんなに元気そうなのに何でと思うのですが、実はこの人達は日常生活のいろいろな出来事での心のもやもや、ぐるぐると再生される後悔、ふとした瞬間にふくらむ焦りや不安、やり場のないイライラなど、我慢や不満、焦りや不安が複雑に絡み合って「しんどい」ができあがってしまっているそうです。『あなたの「しんどい」をほぐす本』(KADOKAWA)私が日頃思っていたことがこの本にそのまま書かれていたので紹介しました。そして、この人達がしている事が、ひとり反省会です。初診の患者さんでこの人はと思う人に、余計な説明なしに、寝る前にひとり反省会していませんかと聞くと、素直に毎晩しています、と答えてくれます。このような患者さんにはすっと理解出来る言葉のようで、私と患者さんとの言葉かと思っていたら、この本にも出ていました。ひとり反省会で悩むのは、あなたは「こんなに落ち込むほど一生懸命頑張ったのです。そんな自分の良さを認めて、褒めてあげてください。」と書かれています。
先日、ラジオで腰痛が心因性であるという話しがあり、昔買って読んだ本を思い出してwajima図書室を探してもらいました。サーノ博士のヒーリング・バックペイン: 腰痛・肩こりの原因と治療– 1999と『腰痛は<怒り>である』2000を見つけて、もう一度読み直しています。20年以上を経て、心因性疼痛から痛覚変調性疼痛に代わるなど、最近の中枢神経系の関与等が判って来たことで、これらの本に書かれていたことが当たり前のことになっています。患者さん、病気をしっかり診ている人たちは詳しいメカニズムは別にして、なぜこの患者さんにこの症状が現れるのか大方予想が出来るのだと言う事を再確認しました。


追記 HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン/Highly Sensitive Person)と言う言葉もあります。この人達も一人反省会の会員です。
HSPは、米国の心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念で、神経が細やかで感受性が強い性質を生まれ持った人のことです。全人口の15~20%、約5人に1人はHSPと考えられています。

HSPには、特徴的な4つの性質「DOES(ダズ)」があります。

「いろいろなことが気になって落ち着かない」「ちょっとしたことで落ち込みやすい」と感じることはありませんか。それは、あなたが「HSP」だからかもしれません。HSPとは、視覚や聴覚などの感覚が敏感で、刺激を受けやすいという特性を生まれつき持っている人のこと。   他の人が気づかないような音や光、匂いなど、些細な刺激にすぐ気づく

HSPの人は、感覚的な刺激に対して無意識的・反射的に対応する脳の部位、「扁桃体」の機能が過剰に働きがちで、HSPではない人と比べて刺激に強く反応し、不安や恐怖を感じやすいことが分かっています。相手の気持ちを察知して行動したり、物事を深く探究できる半面、ささいなことで動揺したり、ストレスをためてしまうこともあります。


参照 https://kenko.sawai.co.jp/mental-care/202103.html#:~:text=HSP%EF%BC%88%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%B3,%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82
 
2023年03月25日 12:31

ハワイから非歯原性歯痛の患者さん来院

先日、ハワイ在住の日本人の方が10年来の非歯原性歯痛で来院されました。
経過を聞くと歯痛で抜髄が始まりで、かなりの歯科を受診して根管治療を数回受けたそうです。最後に日本人のENDO専門医に紹介され、歯原性では無いとの診断、ハワイには口腔顔面痛専門医はいないので米国本土か日本に行ったらどうかとアドバイスされたそうです。今回帰省する機会があり、ENDO専門医に相談したところ、私を薦められ受診したという次第でした。
これまでも、ハワイ在住の数人の日本人から非歯原性歯痛についてメールでの相談があり、ハワイの歯科事情、口腔顔面痛事情を知っていました。米国も日本も、世界の多くの国々で、簡単に口腔顔面痛の診断治療が受けられない状況にあります。せめて、歯原性か歯原性でないかの判断、そして、非歯原性歯痛だとして、筋触診で筋筋膜疼痛の可能性はないか、ここまで診査ができれば多くの患者さんが救われます。
今回ハワイから来院した患者さんは、側頭筋、咬筋、胸鎖乳突筋、後頸部の筋から歯への関連痛がありましたから筋筋膜疼痛だと思います、10年以上経過しているために、歯痛部の歯肉にはAllodyniaも認められ、感作が生じていると思われます。
筋骨格系の痛覚変調性疼痛診断に照らすと、かなりの部分で該当する項目があり、筋筋膜疼痛に痛覚変調性疼痛が合併していると診断できます。
この患者さんはハワイに一台しかない経頭蓋磁気治療を受けていて、歯痛は治らなかったがうつが軽くなったそうです、また、処方されている薬が米国らしかったです、モルフィン、トピラマート(強い片頭痛発作があった)、プロザック(SSRI、抗不安薬として)、頓服にオキシコドンが処方されていました。
私のアドバイスはまずは筋痛へのセルフケアです、腹式呼吸しながらの頸部、咀嚼筋のストレッチ、開口ストレッチアシストブロックも渡しました。全身の随意的最大緊張からの弛緩 など
薬としては痛覚変調性疼痛への対処としてトリプタノールを勧め、漸増服用法のパンフレットを渡して、ハワイのPainmanagementに相談する様に伝えました。

最後の観てもらった日本人ENDO専門医がなぜ私を推薦したのか不思議でした、日本の大学卒業して米国で専門医資格を取ったならば、私を知っている可能性はあるかと思いながら、フルネームが書かれていたので調べたらUniversity of North Carolina at Chapel Hill 卒業でそこでENDOレジデント研修
ここまで観たときに、私の鹿児島の同級生の高校の同級生が同姓で、学生時代に会った事があり、卒業後米国に渡り、University of North Carolina at Chapel Hillの生化学の教授をしていること、その教授の奥さんが私の大学の先輩で、ENDOの教室にいて、かなり昔にメールで近況を連絡したこと等を思い出しました。鹿児島の同級生に連絡して確認したところ息子さんがハワイで開業しているということで、どうも深い繋がりがあったようです。
その息子さんが私をどうやって知ったのかはまだ不明  連絡して診察結果を送ろうと思っています。

 
2023年03月19日 10:52

末梢神経損傷分類の混乱

sunderland分類
Seddonの分類、Sunder land分類活用の問題点   
最新解説  wajima-ofp.com/blog_articles/1707630604.html
Seddonの分類は1942年に発表され、約10年後の1951年にSunder land分類が細分化して発表されています。
この図がsunderlandの原図だと思います。他の図との違いは左側の神経細胞と神経線維が複数書かれています、他の図は神経細胞1個で一本の神経線維だけと勘違いして、一個の神経細胞しか書かれていません。

末梢神経損傷の分類としてSeddonの分類(1942)、さらにこの分類を修正、細分化したsunder landの分類(1951)が用いられます。この末梢神経損傷分類の活用に当たって、いくつかの問題点があります。
第一は、Seddonの分類、Sunder land分類とも多くの日本語訳がありますが、訳が間違っているものがあります。用いられる用語は軸索、シュワン鞘、ミエリン鞘、神経内膜、神経周膜、神経線維束、神経上膜、神経幹などで、必ずしも適切な訳になっていないために損傷程度がどの程度か誤解する可能性があります。オリジナルに忠実な訳を用いてください、内容が全く違ってしまいます。
 
もう一点は、これらの分類はseddon分類のNeurapraxiaとAxonotomesisまでとsunderland4度までは神経線維1本1本の損傷程度を分類し、Seddon分類neurotmesisとsunderland5度では神経幹を包む神経上膜の損傷状況を示していて、神経線維1本1本の問題から神経幹の損傷に飛んでいます。神経損傷の病理像としては非常に有用で、1本の神経線維で髄鞘の障害、軸索の断裂、そして、神経幹の断裂と理解出来ます。
ところが、臨床での神経損傷は1本1本の神経線維の問題ではなく、例えば下歯槽神経損傷とか神経線維が何万本も集まった神経幹の損傷が問題です。ところが、臨床の場において、まるで下歯槽神経が一本の神経線維であるかのように、Seddonの分類のどれとか、Sunder landの何度だと話していることがあります。例えば、下歯槽神経を傷害した場合、1本1本の神経線維ではsunderlandのⅠ度から4度までの損傷が混在した状態か5度の完全に断裂してしまっているかだと思います。
おそらく、このような混乱を憂う人は私以前にいるのは当たり前で、Mackinnon,Dellonと言う人達が解決策として、Sunder Landの分類にVI度損傷としてI〜V度損傷の神経束が混在した状態であるとして分類を追加しています。臨床で診る神経損傷のほとんどはSunder Landの分類VI度損傷(様々な損傷の混在)ということになります。  
例外は智歯抜歯等で下歯槽神経を圧迫し術後にオトガイ部の鈍麻が生じたが、約一ヶ月後に完全改善した例、この例では障害された神経線維全部がseddon分類のNeurapraxia つまり脱髄のみだったと思われます。また、下歯槽神経の完全断裂neurotmesisしてしまった例は、混在無しの状況でしょう。
 
2023年03月16日 21:23