痛覚変調性疼痛と言えるTMD患者像を探して
7月第2週末、7/11.12日に長野市で日本顎関節学会が開催されます。プログラムは私が30年前1995年顎関節腔造影で転位円板の形態変化の研究で学位をもらう前に興味があった項目です。強い皮肉ですが、関係者は目にすることがないでしょうし、もし読んでくれたら今後の顎関節学会の方向が多少変わるでしょう。私はその後、口腔顔面痛に転進し、1999年、American Board of Orofacial Pain(米国口腔顔面痛専門医認定機構)試験に合格して、今に到っています。
大学止めて以来、時間があるので、自分の毎日の診療で感じられる患者さんの病態、治療への反応性などをまとめて、自分の感覚と同じような事を考えている人はいないかと思い文献を調べています。
今回紹介する内容は、以前から何回か読み、米国の学会で討論会にも参加して頃のあるOPPERA(Orofacial Pain: Prospective Evaluation and Risk Assessment)研究の臨床面での総括です。口腔顔面痛専門医としてのTMD治療に大きな指針を示してくれる内容です。
この研究の主宰者である故Maixner先生とはどこかの学会で講演の休憩時間に隣同士で用を足しながら(連れション)話した事が思い出です。痛覚変調性疼痛の議論で出てくるChronic Overlapping Pain Conditionsの発案者の一人でもあり、TMDだけではなく慢性疼痛に大きな影響を与える仕事をされた方です
今年2026年4月にAADOCR (American Association for Dental, Oral, and Craniofacial Research、旧名AADR:American Association for Dental Research)から出された「TMDに関する立場表明」には現在のTMDが総括されています。この立場表明は2010年にAADRから出されたTMD statementの改訂版に位置付けられます。2010TMD statementで強調されていたことは、TMDの原因は咬合異常では無いこと、もう一つの特徴は、多くはself-limitedで自然消退する病気であるから咬合治療など不可逆的な治療はしてはいけないという事でした。2026AADOCR TMDではやく70%が自然寛解すると書かれています。
これらの数字の根拠となるOPPERA研究は2006-2013年(baseline)と2014-2016年(Follow-Up)の二つからなります。TMDの発症因子をはじめとした様々な成果が得られ、30以上の論文が発表されています。その内容は現在の世界のTMD、口腔顔面痛、慢性疼痛の進歩に大きく寄与しています。
ここで紹介する内容は最近の痛みの世界で最も話題になっている痛覚変調性疼痛について、痛覚変調性疼痛としてのTMDの患者像はどんなものだろうかと探した結果出てきたものです。
OPPERA(Orofacial Pain: Prospective Evaluation and Risk Assessment)研究の結果、顎関節症(TMD)は病態が同じではなく、臨床的特徴から大きく3つのサブグループ(1,適応型、2,疼痛感受性型、3. 全身症候群型)に分類できることが示されました。
この考え方に基づき、現在のTMD治療では患者ごとの病態に応じた個別化治療(Precision Medicine)が推奨されています。
1. 適応型(Adaptive TMD)
特徴
- 局所的な顎関節・咀嚼筋の障害が主体
- 疼痛は比較的軽度で限局している
- 心理社会的ストレスや中枢性感作は少ない
- 全身性疼痛や他の慢性疼痛疾患を合併しないことが多い
- 生体の適応能力が保たれている
- 局所の筋・関節への負荷や外傷が主因
- 末梢組織の炎症や機械的障害が中心
- 患者教育・セルフケア
- 咀嚼筋の安静
- 理学療法
- スプリント療法(適応を選んで)
- NSAIDsなどの短期薬物療法
- 予後は良好で保存療法に反応しやすい
特徴
- 顎だけでなく広範囲に痛みを感じやすい
- 圧痛閾値(Pressure Pain Threshold)が低下
- 中枢性感作(Central Sensitization)の存在
- Chronic Overlapping pain conditions(線維筋痛症、頭痛、過敏性腸症候群など)を合併しやすい
- 睡眠障害や疲労を伴うことが多い
- 中枢神経系の疼痛増幅
- 下行性疼痛抑制系の機能低下
- 神経可塑性の変化
- 中枢性感作を考慮した包括的治療
- 認知行動療法(CBT)
- 運動療法
- 睡眠改善
- 三環系抗うつ薬やSNRIなど中枢作用性薬剤(症例に応じて)
- 咬合治療や侵襲的治療は避ける
特徴
- 顎顔面痛に加えて全身症状が著明
- 疼痛の部位が多数存在 Chronic Overlapping pain conditions
- 身体症状(Somatic symptoms)が多い
- 不安・抑うつ・破局的思考(Catastrophizing)が強い
- QOL低下が著しい
- 最も重症なグループ
- 中枢性感作に加えて
- 心理社会的要因
- 自律神経異常
- 遺伝的要因
- 神経免疫学的異常
などが複合的に関与
- 生物・心理・社会(Biopsychosocial)モデルによる集学的治療
- 歯科だけでなく
- 疼痛専門医
- 心理士
- 理学療法士
- 精神科・心療内科
との連携
- CBT
- 疼痛教育(Pain Neuroscience Education)
- 運動療法
- 睡眠障害・精神症状への介入
- 薬物療法(抗うつ薬、神経障害性疼痛治療薬など)
- スプリントは適応でない
2026年07月02日 14:05